駅で眠りそうになりながらスマホを眺める。
「明日、公安警察の担当者に会ってみて」
羊子からの連絡だった。
跨線橋を渡って東京へ向かう。ダイヤ的には深夜に到着できそうだ。
電車で仮眠を取りながら移動。
ボックス席では、唯ちゃんがすり寄ってくる。私は眠たいので、それでもいいかと身を寄せて眠った。
新宿に出ると、カラオケルームに入る。
「折角だから歌う?」
私が尋ねると、「小学校の頃、歌で酷い目にあったから歌わない」と言う。
朝まで暇なので、一人で歌い続けることになる。
それを唯は、「水主ちゃん可愛いね」と熱視線を送っていた。
翌朝、指定された公園へ出かける。
唯ちゃんは、目で見えるけど声は聞こえない辺りで待ってて貰う。
「本当に子供が来たんだな」
「それが仕事しない理由になる?」
「冗談さ。本題に入ろう」
顔は真剣だったので、ナメてはいないようだ。
「彼女が扶桑会議から足抜けしようとしているのは本当だ。知りうる限りでは」
「それを言うだけなら、伝言でもいいでしょ?」
「そうだ。只見唯が単に扶桑会議の工作員だけと言うなら、我々は好きにさせるさ」
あっさりした言い分である。
「本命は違うと言いたい訳ね」
「そこで交渉だ」
「素性を探って伝えろと?」
「法務省より先に掴んでおきたい」
男は手を組み直した。
「国内の事情ですか……」
「内務あっての外務だ」
今の日本の体たらくを象徴づけるような言葉だった。けれど、それはスルーして約束は取り付けた。
新幹線のチケットを貰う――学校まで警察がガードしてくれるらしい。
正直な話、彼女の正体が何者だろうともういい気はしている。
今回の経緯と事情を知る羊子や榛名に聞くと、「そこまで分かるなら、逆にいいんじゃないの?」と言う返事が来る。
異質な人間がやってくるなら、それも喰らうのがこの学校の流儀だ。
「唯ちゃん。これから学校へ帰ろう」
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