三惠子ちゃんが悩んでいる事を、学年主任の平先生に相談する。
「そうねぇ、難しいねぇ」
と、やや人ごとである。
「そもそも、どういう基準で教員って決まってるんですか?」
細かく聞くと、中央官庁から派遣されているのは、現状校長と理事だけであり、その他は、一部中央からの横やりがあるのを除けば、求人を出して採用しているのが殆どらしい。
勿論、近親者に極端な思想の人がいない事や、本人の素行調査、そもそもの成績の良さなどが基準になるようだ。
若い人材が必要なので、新卒に関しては定期的に採用している。しかし、先に目星を付ける事は、よっぽどないらしい。
新卒の採用となると、当然、同じような悩みを持つ教員はちょこちょこ出てくるという。
「それなら、先生が相談に乗ってあげてくださいよ」
「でも、その相談、転生者である貴方にした訳でしょ?
採用担当者は、能力が十分にあると思って採用したのは間違いないけど、私から言えるのは、多分、そういうことぐらいじゃないかな?
福部先生、それ以外の答えを聞きたくて相談したんだと思うよ」
どうやら正面から対決しなければならないようだ。
と言っても、これと言って何か上手い説得の言葉が思いつく訳でもなく、勝手に一人で悶々とすることになってしまった。
焦ってしまうと、何も思いつかないもので、六時限目の授業が終わり、ホームルームに突入してしまう。
それも短時間で終わってしまい、帰りの挨拶をすると、三惠子ちゃんと一瞬目が合う。すぐに視線を外されたが、しかし、あの眼差しは、かなり熱が入っていた。
声を掛けない訳にはいくまい……
「み、三惠子ちゃん!」
彼女の後ろ髪を追いかける。
「ちさとちゃん……」
「先生がまだ悩んでいるなら、もう少し話させてください!」
全くのノープランだけど、言ってしまったものは仕方がない。
適当な空き部屋を使って相談する。
そういえば、春日さんが、いい相談とはよく聞くことだと言ってたな……
「あれから気持ちは落ち着きましたか?」
私が尋ねると、何やら言いにくそうな顔をしている。
「あんな相談を生徒にするなんて、教員失格だなって……」
うつむいたまま吐き出し始めた。
「なんでそう思うんですか?」
「だって、曲がりなりにも私、教員ですし、ちさとちゃんは生徒だし」
ひと思いに言うと黙ってしまう。
「その前にお互い人間じゃないですか。悩みがあったら相談しやすい人に相談するのが一番ですよ」
「そう思う?」
恐る恐る私の顔を覗くものだから、満面の笑みで答える。
「私もあっちこっちに相談してなんとかやってますよ」
そう言うと、何か考えるかのように黙り込んでしまう。
そうやって暫く悩んでいるのを静かに待つと、やおら話し始めた。
「私って、頼りないんでしょうか?」
「そんなことないよ、先生としてよくやってると思いますよ?」
そこまで言って、「ああ、誰も質問とかしないからだな」と察した。しかし、それをどう言いくるめるべきだろうか?
「どうやったら頼られる存在になるのかなって……」
「それで凛ちゃんが?」
言った瞬間、迂闊だったなと悔やむ。
「そういうの卑怯だなって自分でも分かってるんですよ。でも、何か、心にすっと入ってくるものを感じて……」
「うーん。そういう感覚は自然だと思いますよ。でも、押しつけちゃうと駄目なのかなって」
「ごめんなさい。そうだよね……みんな私より年配だし」
あー謝らせてばかりだな。人の話を一方的に聞くっていうのがこんなに難しいとは思わなかった。
「年配とか関係ないですよ。まだ、先生、四年目だし、これから色々あると思いますよ」
「そうでしょうか……」
「そうですよ! じゃぁ、私から相談いいですか!?」
「はい!」
元気な返事だ。
「喫茶店の店長さんの息子さんのことで……」
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