「楓さん、来週文化祭ってありますけど、何か準備とかあるんですか? 実行委員会的な……」
先週辺りからポスターが貼られていて、なんじゃこりゃとなっていた。だが、誰も何も言わない。それで、ちょうど目の前にいるときに聞いたのだ。
「いつものメンツが準備しておるじゃろ?」
事もなげに返事されてしまう。
「いや、なんか、クラスで出し物するとか……」
「そんなもん、したい奴だけがすればいいことじゃろ? 歌いたい奴は歌うし、踊りたい奴は踊る。呑みたい奴は呑む。それだけのことじゃな」
「呑むって……」
この学校が狂っているのは今に始まった話ではないが、歌って踊って呑むってのは、バッカス的だなと思った。
「喜べ、文化祭は校内で呑めるぞ!」
「喜べって……」
「学校で呑めて嬉しくないのか?」
「いや、嬉しいには嬉しいですけど、絶対碌な事にならないでしょ」
様々な惨事が思いつく。
「流石に自制心はある連中じゃぞ?」
「まぁ、いいんですけど、誰が酒とかつまみとか用意するんですか? みっちゃんに全部任せるとかないですよね?」
何だかんだと言われて、私も巻き込まれたりしないかと言う疑念もある。
「大丈夫じゃ、代々世話になってるテキ屋さんとか、ココから独立して仕事してる奴とかに外注しておる」
なるほどなと思ったけど、なんか気まずそうだ。
「それって、文化祭なんですか?」
「それは、人間的な活動ならばなんでも文化的じゃろ?」
いくらなんでもガバガバだが、あまり突っ込むのはやめておいた。
それで振り向けば、綾夏さんがいた。
「今の件だけど、出店に興味あったりしない?」
選りに選ってこの人なのか……
「いや、一週間で準備とか無理ですよ」
「食堂のキッチン使って良いから! あと、誰か付けるから!」
「私もお酒呑みたいんです」
別にそんな気はなかったが、なんとかして断りたかった。
この期に及んで勧誘してくるとかどうせ碌な事を考えていない。
「ラスト一日だけでいいからね?」
「どーせ、例の居酒屋云々の話に繋げるつもりでしょ?
そんなに働けませんよ、私」
綾夏さんは、ぐぬぬという顔で「鉄壁だねぇ」と言うと、じゃあねと去って行った。
で、今度はひじりさんの登場である。嫌な予感しかしなかったので、「綾夏さんの差し金ですか?」と言ってしまう。
その返事が、「嫌だなぁ……」だったので謝ろうとしたら「そうだけどね」と笑われた。
ひじりさんは、「えー、絶対に楽しいよ」と誘ってくる。
それでも難色を示していると、「喫茶店の方は、ちゃんと話をつけるから。店長にも悪いようにはしないよ」とまで言ってくる。
二人から押されて流石に難しいか。
渋々受ける事にしたのだ。
私は綾夏さんに……と言うか、購買にそこそこ無理を言って食材を集めて貰った。なるべく、当日お店を出してくれる所と品目が被らないようにだ。
尤も、それを目標にしてしまうと、料理の品目が本当にバラバラになるのだが、それも致し方なしか。
勿論、やるからには、採算を考えるようにしてやる。
様々な人に手伝って貰ったけれど、それでも準備に必死になった。実行が決まってから10日のプロジェクトである。
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