0113 蛍が男の子を保護する話

ページ名:0113 蛍が男の子を保護する話

「常識的に考えて、なんでこんなに身持ちの堅い奴にそんな仕事させるかなぁ」
 仕事だから受けるけど、その仕事が本当に必要だったのかが疑問だ。
「蛍、日本全国どこも人材不足なんだよ。特に、これぐらいの歳の連中はね」
 真琴が言いたい事は分かる。日本はある時期、事実上の棄民をしたからだ。無策で無能な連中を生かすために。
「ぼやいたって仕方ないでしょ。お仕事頑張ってね」
 学校からの連絡を切り、問題の中学校へ向かう。
 今回の警護対象者は、大山田晄平、中学二年生だ。親は剣菱商事から米国法人に出向中だ。その親の仕事が組織内部の膿潰しと来たら、彼も狙われるだろうと言うわけである。

 強引な接触を試みたら、まんざらでもない顔をしている。男子中学生はちょろい。
 家事を手伝うと、おろおろしだす。「君、ちったぁ一人暮らしやってたんだよね?」とは言いたいけれど、ぐっと我慢して奉仕に徹する。

 案の定、私の事をいじめたい子が出てくるので、キッチリ証拠を押さえて、「言う事聞かないと、お父さんのお仕事なくなるよ?」と脅す。
 そうやって手駒を稼いでおいて、めぼしいアジトの周辺をうろつかせる。
 工作員が、餌に引っかかった所を警察に通報して処理して貰う。
 カバーストーリーとしては、薬物中毒者ということになっている。
 まぁ、彼女らも、少しは他人に優しく出来る子になるでしょう。

 厄介なのは、あの子が友達と一緒に遊びに行こうと言った時だ。情報が複雑になると警護面倒になるんだよなぁ……と思いつつ、
 一応、彼が大人しくしてくれる分には、彼の日常を奪わない努力をする。
 個人的には、とっ捕まえて、どっかのホテルに缶詰めにした方がいいに決まってるんだが、そうもいかない方針だ。

 しょーがないので、ゲーセン行ったり、買い物行ったり、マックで駄弁ったりと、それらしい感じを満喫して家に戻った。
 私はその合間に、怪しい人間を報告し、黒服に色々と警戒させていたので、正直楽しい思い出は一ミリもなかった。いい気なものだ。

 フルサイズSUVの盗難が確認されたので、これはあるだろうなと警戒していたら、本当に門扉をぶち破って突っ込んで来た奴がいた。
 犯人は迅速に彼を捕らえて、普通のバンに押し込んで去って行った。
 学校でドンパチしてもよかったが、流れ弾に当たった子が出たとあれば、あとが面倒だ。静かに見守る。
 そこからは黒服にマーカーを打ち込んで貰い、UAVを飛ばして行方を見守るだけ。
 終着点は八王子の倉庫だったと言うわけである。

 もたもたしていても仕方ないので、さっさと斬り込みに行く。
 刺し、切り、刎ねる。それだけの仕事。
 鍛錬に比べれば止まっているも同然だ。

 そして、エンディング。
 彼はなかなか未練たらしかったと思う。ただ、それを口にしない程度には分別があったのかも知れない。それとも、それを口にする勇気もなかったのか。
 男の子は分かりやすくて、分かりにくい。

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