「真琴さん、何か分かったことありますか?」
飛鳥さんは研究者はではないけれど、しばしば研究棟を訪れては、異世界や転生に関して研究に進捗があるか聞いて回る。
彼女は収入の殆どを、その研究のために投資していて、もし出来るのであれば、元の世界に戻りたいと思っているようだ。
「もう……元の世界に戻るのは諦めなさいな」
飛鳥さんの気持ちは分かるけれど、現状何も分からない以上に分かる事はない。
それ故、この問題に手を付けた研究者にとって、彼女はちょっと厄介な人間ではあるのだ。
私を含めて、転生した研究者達も疑問に思わない訳ではない。何故転生したのか、どうやってそれが実現したのかを。ただ、それを考察するには、余りにも証拠が少ない。
今まで何度も転生者が現われ、その状況を記録してきた。その時々で、調べ得る最高の技術を使っても、何の異常も認められない。裸の少女一人分の質量が、この地球上に増えただけだ。多分。
私達の身体にしても、検診を受ければ、通常の中学生と同じだ。
再生能力の高さについても謎だ。採取した血液がその直後に、遺伝子的にもタンパク質的にも、意味喪失するのが確認されている。
そういう問題は、まだ我々研究者の研究意欲を励起させてくれるけれど、異世界の話となると、途端に難しい。
異世界の話なんて、そもそも人間のシステムの外側の話である。それは人間の理解の範囲を超える。
だから、偶に思いつきで何かを検証するのだけど、その結果が実ることは今のところないのである。
「なんでそんなに戻りたいんです? 同じ転生者同士ですし、いい加減話してくださいません?」
転生者は、落ち着いたときなりなんなりに、その場のノリで転生前のことを告白させられる。むしろ、そういうのがないと、なかなか前の話はしづらいものだからだ。
転生前の話については、人によって温度差が違う。何にしても死ぬ前の記憶だからだ。
「それは言えない。でも、いろいろやり残してきた事があるから」
態度は頑なだ。
「向こうの世界で死んだからこっちに飛ばされてきたんでしょ? もう、それなら考える事ないでしょうに」
そこまで言っても、「何もないならもういい」と帰って行く。
「もう少し、ここでの人生楽しんだら?」
追い打ちをかけるように言ってみるが、届かないだろう。
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