0079 ちさとが店長の子をからかう④

ページ名:0079 ちさとが店長の子をからかう④

 喫茶店での"例の小遣い稼ぎ"はまぁ、面倒ではあるが良い収入源だ。とはいえ、自分の性格がどんどん悪くなっていくように思えるのも事実ではあった。
 お金を貰っているからと言う理由で、反論していていいものかと思いっている。それに、息子さんが特に改心しない所をみると、やはり、店長の提案はなにも良くなかったのではないかとは思う。

 それで、今日も喧嘩腰である。
「そんな量産型のメイド服なんて着て、馬鹿みたいじゃない?」
 この頃はストレートに悪口だ。
「量産型が嫌いってあなた……それこそ量産型の考えじゃない?
 人と同じモノを選ばないと言うだけのことで、自分が特別な存在になれると思ってるなんて、本当にありがちで安直な考え方じゃない」
 もう、苛立ちというか、作業になりつつある。
「大体、そういう格好が嫌いなんだよ。お前の学校の生徒にもそういうのいるよな」
 涼子さんの事であろう。これにはむかついた。
「別に貴方に好かれる為に服を選んでる訳じゃないからね? 別に男に見せるつもりなんてなくて、普通に可愛い服着たら楽しいってだけだからね?
 女性を自分や他の男が消費する為に着飾っているとか思っているのは、普通に気持ち悪いからやめた方がいいよ。
 偶に女の人でも着飾ってる子を馬鹿にする人いるけど、自分が好きな格好を好きにするのの何が悪いの? 自分の好みを強制する事しか楽しみがない人生よりよっぽどいいでしょ?」
 いけないいけない、かなり苛立っている。
「いや、シンプルに好きな事で喜んでるのがイタイんだよ」
 こんなガキにイタイ子扱いされたくない。
「一つだけ忠告するけど、人の好きを否定していると、自分自身は何も好きを持たない事が最強に思えてきて、本当につまらない人間になるよ。
 結局、そうやって、自分自身の中身が空っぽなのを肯定するのに必死になるの。
 少しは趣味を見つけなさい。貴方のお父さんだって、収入あるのに喫茶店やったり、旅行行って色んなモノ買ってくるじゃない。そっちの方が魅力あるなぁ」
 そこまで言うと、腹を立てて逃げ帰ってしまった。

「毎度済まないよ」
 店長が申し訳なさそうな顔をしている。
「お金の為ですから」
 少しつっけんどんに返してみると、「お金にならないけど愚痴を聞いてくれるかね?」と寂しそうに言うのだった。
 断るのも気まずいので「聞ける範囲でしたら」と答える。

 店長曰く、彼も小学生の頃はもっと活発で、電車の写真を撮りに行ったり、好きなアニメの映画を見に行ったりと、お小遣いがいいことに気を良くして遊んでいたという。
 それが鼻持ちならなかったのか、少々いじめられる事があったらしい。いじめ自体は学校が上手く介入したお陰で、無事解決したらしい。だが、子供には子供の世界があるから、その後どうなったのかは知らない。
 それで、中学に上がる頃に、そういった趣味の品々を一斉に処分して、今、部屋の中は随分とさっぱりしているという。
 本人はそれを断捨離と言っているらしい。
 彼が講釈を垂れるようになったのも、その時期からだ。
「このままでは良くないのだが」
 店長のため息は、本気度の高いものだった。
 とはいえ、そんな彼を立ち直らせる手立てがあるかと言うと、何が思いつく訳でもなく、相変わらず、その鼻っ柱をへし折る事しかできないのだろう。
「お役に立てず、申し訳ありません」

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