これもある飲み会の後。真生ちゃんが例によって上機嫌になるほど飲んで、いろいろあって、私とルイちゃんで抱えて帰る事になった夜である。
「貴方! 子供なのに、なんでこんな時間に出歩いているの!? 親御さんは!?」
目を付けたのは、田中律と岡田巴と言う女性警官である。
「あー、りっちゃん! ともちゃん! 今日も、巡回ご苦労様です!」
真生ちゃんが、敬礼しながら絡んでくる。
「うわ、酒クサ……貴方達、お酒飲んでないでしょうね!」
この警官たち、どうも転生者の理解が中途半端らしいので、扱いが面倒だ。
「そんなことあるわけないでしょ! この子、体調が悪いだけです!」
と、必死に誤魔化すも、真生ちゃんが、
「人間って奴はね、私がどんなに手を尽くしても、相手を制圧する事しか考えないし、合理的な結論をだせないの!
クソ! 自分の損害も顧みず殴りかかってくる。
婦警さん、どう思いますか!?」
なんて変な絡みをしてくる。どうにもどうにも手に負えない。
女性警官の答えは、「そ、そうねぇ。話し合いでなんとかならないかしら」と選りに選って最悪な答えだった。
「あのね、話し合いってのはね、合理的な落とし所を弁えている同士しか成立しないの。コイツは、もっと攻め込めばなんとかなるなと思えば話は成立しないし、相手がこの程度の相手なら話し合いする価値がないなと思われても成立しないの。こっちが十分に相手を制圧できる力を持っている時にだけ成立するの。
重要なのはね、相手の理性を推し量る事なの。
相手が人間である限りは外交が全てだけど、相手が猿ならもう、ハンティングしかないのよ。分かる?」
私と二人して、「あー」と言うしかなかった。
この女性警官も真面目なモノだから、「それは努力の放棄でしょ」とか言っちゃう。
「ばーか! 努力ってのは、自分の埒内の達成点であって、自分がどうしたからと言って変わらない事に関しては努力じゃないの。相手が何を決定するかは相手の問題なんだから、こっちが何を思って働きかけたかなんて、こっちの自己満足でしかない。
相手の決定権を奪うのは、こちら側の力を相手に理解させる事で、相手がその理解を拒否した瞬間に、和睦なんてものはなくなるの!
私が、どんなに人間のことを思っていても、人間の代表は大勢の民衆のささやかな幸せなんて全然気にしていなくて、自分の権力を大衆に知らしめる事しか考えなかった。
だから、もう、戦うほかはなかった。
私としては、私の育てた子達を虐殺された時点で、人間なんて滅びろって思ってたけどね! 勝てる戦いだったし、実際勝っていたわよ。でも、あんなチートが急に現われたらもうどうしようもないじゃない。
だから、私、死ぬとき思ったの。もうこの世の中がどうなったっていいってね!」
色々言っちゃいけないような事を言った気がするが、一気に捲し立てた。
田中さんは、理解が追いつかなかったようで、「おぉう」みたいな反応をしている。いや、それ、ダメだろ……
勿論、警官が酔っ払いの言い分を理解する必要はない。ただ、この混乱状態を収めて静かにさせればいい。なんなら、部屋まで送ってやればいいだけである。
が、彼女らは、まだ、補導すると言う意識が強いようでパトカーに乗せようとする。
必死にそれを止めようとするが、相手は学校の権力も理解していないので、これはどうしようもなかった。
あっさりと補導された。
女性警官二人は、本部に連絡を入れると「おいやめろ」みたいな反応があったのか、今ひとつ状況を掴めていない返事をしていた。
何はともあれ連行である。
パトカーの後部座席を三人で占領しているが、これは警備上大丈夫か? とは思った。
恐らく、彼女らの正解は応援の警察官を呼んで、分かっている人たちによって、いい感じに解決するのであった。
田中巡査長と岡田巡査はいい気なモノで、意気揚々と私達をしょっ引いた。
慌てたのは署の方で、即時縄を解き、手錠を外し、そして即時別の署員がパトカーで私達を連れ出した。
その時いた最高位らしい警部補が何度も頭を下げている。
私達がパトカーで送り届けられたのは明け方近くで、翌日は陰鬱な登校となった。
三人で不機嫌な顔をしているし、どこからともなくバレていたので、大いに笑いものにされてしまった。
その日の夜に、「ちさと初補導記念!」と題された飲み会をする事になるが、その帰りにまた例の二人組に絡まれるとは思わなかった。
「署長に怒られたけど、私達は認めませんからね!」
やや食ってかかるような言い方である。
「は、はぁ。怒られたならもういいじゃないですか。私恨ですか?」
「そうじゃありません!」
きっぱりしているが苛立ちは隠せない。
「じゃぁいいじゃないですか」
低血圧で答える。
「よくありません」
「弱い者いじめですよ」
「中学生がお酒飲んでいてそれはないでしょう」
確かにそれはそうなのだけど。
「いや、だから、普通の中学生じゃないですから」
「知りません!」
行きつ戻りつする議論に、酔いの残る頭はうんざりさせられた。
「もう、警察呼びますよ」
「私達が警察です」
と、コントみたいな会話をしたけれど、私は構わず電話をして、そしてたちまちのうちに二人に無線が入る。
「もう、いい加減にしてくださいね」
パトカーを後に家路を急いだ。
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