0070 宙がよく訪れる動物病院の先生の話

ページ名:0070 宙がよく訪れる動物病院の先生の話

 親子二代で動物病院をやっているのだけど、一人非常に気になるお客さんがいる。
 それは山の学校の生徒だだ。
 勿論、彼女自身がそうだと名乗っているわけではない。だが、父がここを開業した時から、そのままの姿で猫を診せに来る。それがあの学校の生徒でなかったらなんであろうか?

 その子は物静かな子で、トラブルとは無縁であった。
 故に個人的な話は殆どしない。もう、三十年来の付き合いなのにつれないものだ。
 お願いしますと、ありがとうございますしか聞いていない気がする。

 持病を持つ子を積極的に抱える性分なのだろう。通院は欠かせない。いいお客さんだと言われればその通りだが、本当に手間の掛かる子ばかりだ。
 骨に異常のある子、腎臓が弱い子、心筋症の子がいる。消化器の腫瘍も一匹や二匹の経験ではない。膀胱炎や結膜炎、誤嚥、気をつけていても罹る病気もある。老猫もいるし、子猫もいる。様々な病気があって、それはあらゆる管理をもってしても"運"で発生する。
 その一々をきちんと治療していく。
 親父が言うには、近頃はカンが良くなったのか、早期発見して連れてくる。

 見た目は可愛い子であるが、何を考えているかイマイチつかめない子である。
 しかし、こんな子でも金払いはよい。どこから金が出てくるのか、あまり知りたくはない。
 悪い噂では、国が生活費を出してやってるとか色々聞く。それでも、実際の所は分からない。知っている奴は何も語らない、知らない奴だけがいい加減なことを言う。
 そういうのに惑わされず、目の前の仕事にだけ集中すれば、悪い事は起こらない。
 この町は、そうやって上手く回っている。

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