綾夏が電話に向かってがなっている。(毎度のことだが、ボイスチェンジャーを使っているのだけど)
「もっとライフサイクルコストを考えなさいよ。飛行機の排出するCO2が多いからって、CO2出しまくりのCFRPで作った豪華なクルーザーで旅行したら、そっちの方がCO2を沢山出すでしょ。
現状、火力と原子力に頼らないと電気作れないのに、何でもEVだって言ってても仕方なくないですか? 確かに、排ガス問題の解決としての価値は認めますけど……はぁ? 太陽光なんて、いま、あっちこっちの里山伐採して作ってるじゃないですか、アレの何処がCO2削減に繋がるって思ってるんですか? 補助金狙いでろくにメンテナンスしてないところだってあるんですよ? 風力は低周波の問題もあるし、大型猛禽類を殺すし、設置場所に難があるでしょ。
例えば割り箸もポリ袋の件も同じでしょ。間伐材からの収入を断たれたら林業は荒廃して、林業が荒廃したら、木材として固定化されていた炭素が、ただ腐って宙に放たれるだけになるでしょう。ポリ袋も焼却炉の熱量が足りなければ、油なりガスなり燃やして温度上げないと、ダイオキシンが出ますしね。
そういう先々の所まで考えてこそのエコロジーでしょう。
環境問題は、我々が善人ぶる為にやっているんじゃなくて、実際善人になる為にやるべき事なんじゃないですか!?」
散々捲し立てて、そして、相手が黙ってしまって、何も言い返せなくなると、「そこで一線級の仕事がしたいなら、もっと勉強をして、もっと正しい仕事をしなさい」と言って電話を切った。
綾夏は少し満足そうだったが、傍で見ていたナオは不満げだ。
「貴方が普段世話になってる科学者の所為なんでしょうけど、正しい事が正義って思っているから、一流の商社じゃないんです。
もっと世間のトレンドを意識してください。
世の中、勝ち馬に乗った奴が勝ちなんです。
それに、勉強すれば自分の思っている正しさに到達するだろうって言うのは、希望的観測ですし、それ以上に傲慢ですよ」
綾夏は、少しカっとなったが、水を飲んで少し落ち着いてから言う。
「私が、答えにならない事を勉強しろって言ったならそうかも知れないけれど、これは、実際数字としてどれぐらい減るかの話じゃない?
それに、私はお金になるからと言う理由で、愚かな方法と分かっている方法は選びたくないんだよ」
「何もしないよりはマシですよ」
さらりと返される。
「マシな選択をした結果は、正しさより利益を重要視する姿勢になるし、それは何もしないよりも酷い結果になりやしないかな?」
ナオは引き下がらない。
「考えてください。それで負けたら、その正しさも行使できないでしょ」
「勝つことがそんなに大切?」
「大切ですよ。前の世界では、それで生き抜いてたんでしょ? 私、そういう性分の人の方が好きですよ。
無駄にお金を持つと、別なものを欲しがるのが人間ですよね。
お金配って貧乏人の味方だって言ってみたり、はたまた貧乏人相手に無理難題言って困っている所を罵倒したり、自己実現に必死な人が多いです。
まぁ、お金配りはまだいいとして、自分の信じる正しさで社会を引っかき回して喜んでる金持ちには、私、興味ありませんね。
正しさは大切ですけど、先ず勝ってください」
今日の綾夏は、ナオに完敗だった。
綾夏は頑固者とはいえ、この忠告には従わないと不味いなと言う意識だけは残ったようだ。
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