0064 鐘園先生の小屋作り①

ページ名:0064 鐘園先生の小屋作り①

 地元では、山の学校には関わるなと言われるけれど、案外いい奴がいるようだ。
 離婚が決まってから、小屋が完成する間は、校内の宿舎を使っていいと言う事になった。
 父の私物は、着衣とキャンプ用品、釣り用具、小屋建設の資材と工具類、スマホとそれを詰め込んだ軽バンだ。

 父はSNSと動画共有サイトを使い、その様子を逐次ネットで伝えている。
 流石に校内とは呼ばず、"知り合いの敷地を好意で借りている"としているけれど。

 前準備として、法律的な話だ。二種電気工事士の免許を取って、ソーラパネルとインバーター、そして諸々の電気工事を可能にしておく。
 建築確認申請は必要そうなので、校内の詳しい人に教えて貰いながら申請した。

 日当たりのいい通路と、南向きの斜面の間。その僅かな平地が彼に許された土地だ。
 測量は済んでいて、杭が打ってある。
 この斜面も通路が整備されたときに作られた法面なので、土砂崩れなどの心配はないだろう。

 小屋の外周になるところを、小さなユンボで地面をぐるりと掘る。
 高さと水平を揃えながら手で均していき、そこに割り栗石を敷き詰める。プレートコンパクターで地面を均す。大型の機材は、個人でもレンタルできるのが強い。
 枠板を設置し、鉄筋を切断、組み立てをして、アンカーボルトも固定する。
 その辺りが整えば、コンクリートを流し込み固める。
 同様にして立ち上がりを作り、モルタルで水平出しをする。

 床下になる地面には等間隔に穴を掘り、ここにもコンクリートを流し込む。生乾きの所で束石を置き水平出しをする。そして、束石の上に床束として鋼製束を設置した。

 最初は全て無言で作業していたが、少しずつ声が出るようになった。
 尤も、それは独り言であり、重たいだの腰が痛いだののぼやきであった。
 ただ、黙々と作業しているよりも愛嬌のようなものを感じ、そして、それは他の人にも伝わったのだろう。再生数も次第に増えていった。
 身内である事を別にしても、純粋に応援したくなる気持ちが沸いてくる動画だ。

 疲れた時には、山で拾った芝と、買って来た薪を使って火をおこす。コーヒーを飲み、バーボンの入ったスキットル片手に、ソーセージを焼いて食べている。
「こんな人が父親だったら」
 そんなコメントも少なくない。誇らしくなる。

 まだ基礎しか出来ていないと言うのに、父の変容が嬉しい。
 生徒らしい人からのコメントも見える。
「鐘園先生、最近明るいと思ったら」
 離婚という決断は、あまりポジティブには思われないし、実際、ネガティブな理由でなった結果だけれど、それが父を立ち直らせてくれるとは、多くのことを考えさせられる。

 小屋の完成が楽しみだ。

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