0062 ひじりが街角でポテサラを作る

ページ名:0062 ひじりが街角でポテサラを作る

 春日、阿由武、ひじりのいつもの三人だ。
 街に出て遊んでいる昼下がり、繁華街の広場にキッチンセットを備えた特設スタジオが用意されていた。
 何か嫌な雰囲気を醸し出していたが、そういうのに首を突っ込みたがるのも、彼女たちの悪いところだ。
 それで、不用意に近づいたところに、スタッフが声を掛けてきた。
 酷いことに、簡単な口頭確認だけで、テレビの収録をすると言う話になってしまった。

 番組の趣旨は、"若い者に料理をさせて失敗を馬鹿にしよう"と言うモノらしい。(勿論、そんな説明はされなかったが)
 確かに、向こうできゃーきゃー言いながら何かを丸焦げにしていたのは分かっていた。
「ひじり、大丈夫?」
「最近、ちさとちゃんと一緒にみっちゃんの所行ってるから大丈夫」
 一番チャラい格好をしているひじりが、一番料理のスキルが高いというのは、彼らの想定を裏切っているだろう。
 お題はポテトサラダだ。
「楽勝、楽勝」

 ひじりの登場になると、スタッフも見ていた周りの人間も、「大丈夫か?」と言う顔をしている。一番偉そうな人間はにんまりとしているから、そういう事なのだろう。

 食材は、関係あるものないものが積み上がっていた。
 「なるほどね」と、男爵を手に取り洗う。コンロが二つあるので、芋を丸茹でにして、ついで卵も茹でる。
 玉葱と人参を刻みレンチン。
 胡瓜、ハムを刻んでおく。

 茹でている間、時間が空いてしまうので軽く自己紹介。
 堂々としているし、言葉に淀みがない。口調は兎も角、言葉がいくらか大人びているこの子が、中学生と言って、周りはどよめきの声を隠せないでいる。
 待っている二人にもカメラが向けられ、そして、軽く頭を下げる。
「なんか、変な空気になっちゃったよー」
 とひじりが笑うが、スタッフはあまり笑っていなかった。少なくとも、現時点で全て順調だったからだ。

 芋が炊けたので、竹串で確認し湯を切る。
 熱いうちにキッチンペーパーで包みながら皮を剥く。
 ボウルに入れ、ポテトマッシャーで潰して粗熱を取る為に放置。
 卵は固ゆで。殻を剥いて細かく刻む。

 ポテトと卵を冷ましている間にまた時間が空いてしまう。
「これ、失敗するの見て笑う人って、大半がどーせポテトサラダなんて作ったことないんだよね? いや、これ、簡単に作ってるように見えて、結構面倒くさいんだよねぇ」
 少し生意気な口調で語るのを見て、関係者は嫌な顔をしている。
 ひじりが目立つ所為で、特設スタジオの前には、人だかりが出てきていた。
 場所柄、若者が多く、その一挙手一投足を見つめている。

「冷えたから混ぜまーす」
 食材とマヨネーズを混ぜ混ぜする。
 味を見て、塩胡椒を追加して、そして完成だ。

「はーい!」
 得意げな顔でカメラを見つめる。
「料理できない子見つけて馬鹿にしたいんだろうけど、そういう事やってるから、テレビが凋落してくんじゃないの? あと二十年もしたら誰も見なくなるね。自分で招いた事だからしょうがないんだけどさ」

 そう言ってしまうと、観客から拍手喝采が起きた。
 スタッフ達は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
 流れを無視して、観客にポテサラを配り、「うまい!」の言葉を集める。
 その様子は、盗撮された映像がネットに流れて少し話題になった。
 当然、その様子が放送されることはなかった。

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