0041 真生とルイがお気持ちメールに反論する

ページ名:0041 真生とルイがお気持ちメールに反論する

 真生とルイのVTuberだが、見所の一つは、昔のことをかなり好き勝手に語る回だ。しかし、それ故に時折面倒くさい人間に突っかかれる事がある。そういう時には、本気で応戦する。
 それはそれで楽しいと言うのが好事家の意見である。

 今日も香ばしいメールを取り上げた。
「"真生さん、ルイさんこんにちは"
 はい、こんにちは」
「こんにちは」
「"お二人は終戦の三年後にお生まれになったそうですが、戦後の混乱期はいかがお過ごしだったでしょうか?"
 と言われてもねぇ。別に闇市行った事ないし、空襲とかあった地域でもないから、そんなにかなぁ。
 ああ、学校の裏が畑になってたねぇ。その頃はもう、食べ物手に入ってたから、荒れ放題になってたけど」
「一回、品種改良のイモ食べた事あったよね」
「あぁ、あったねぇ。むちゃくちゃ不味かった。くわいの嫌なところを筋張ったイモにインストールした感じの味」
「栄養はあるとか言ってたけど」
「ご近所には配ってたそうだから、害はないんだと思うよ」
 そんな話をしていたが、「流石に話を逸らすなと言われそう」だと笑い、ほどほどの所で、続きに進んだ。
 彼女たちの話は、割と当時の世相にシビアだったので、岩戸景気の時に出会った態度がデカいだけの成金や、バブル期の馬鹿でも一流企業に入った奴の話などして、プチ炎上を起こした。
 或いは、浅間山荘事件の話などは、「結局ああいう内ゲバが明確になったから警察の努力も無駄にならずにすんだよね。偶にまだ革命ごっこやってる馬鹿がいるけど」などと言って、お叱りのお手紙を貰ったりもしたようだ。

 さて続きだ。
 話は婉曲に遠回しに進み、"終戦直前に特攻で命を落とした青年"を援用する事になる。実に涙を誘う、辞世の句や遺書を読み上げ、こんな人たちが拓いた未来が、こんなクソくだらない放送する"若者"を生み出すなんて、彼らも草葉の陰で悲しんでいるぞと言う話だった。

 前段、感情を込めて読んだお陰で、視聴者はすっかり毒されてしまったが、自分の事を言う段になると口調を改める。
「もう、どこからお話しすればいいか難しいほどにとっ散らかってるよね」
 真生は余裕たっぷりに笑う。
「先ずは遺書の話とかどう?」
「そう。先ずね、問題の遺書は後世の創作と言う結論が出ていますね」
 ルイがアシストすると、やや馬鹿にしつつ、きっぱりした口調で進める。
「ソースは公式ページの方に上げるけど、講演でさんざっぱら読み上げてた人が、遺族に訴えられる事があってね。研究者も指摘していたりするし、最後には一旦それを認めているんだよね。だからこれは嘘です。
 勿論、特別攻撃で亡くなった人々が様々な思いを持っていたのは事実だよ。それが例えば、貴方の信じる未来や国の事を考えていた人もいるとは思うけどね。
 でも、こういう嘘を重ねていくと、そういう言葉も全部疑わしいモノとされてしまうよ。
 いい話だから嘘でもいいとしてしまうと、嘘を広めようとする人は、美談を自由自在にこさえて、自分に便利なように議論を進めてしまう。
 いい話だからではなく、いい話なら尚更嘘はあってはならないのね。
 だから、この話は、もう、これでお仕舞いでもいいのだけど、この際だから、他の部分も突っ込んでいこう」

 そこで今度は、ルイにバトンタッチする。
「次は私から。
 特攻は本当に悲劇だと思うし、胸が痛むね。でもね、それで死んでいった人がいるから、死んでいった人を尊重しろっていうのはね、それ、まさに若者を死地へと追いやっていった人たちの理屈だよね。
 彼らは国のために命を厭わなかった。お前も同じように命を国に捧げなくて恥ずかしいのかってね。
 だから、特攻で亡くなった人々の命を、自分の言いたい事のために利用するのは、もの凄く不謹慎じゃないかな?
 大体、どういう権利があって、亡くなった人々の気持ちを代弁しているの? 何の根拠があって自分の意見と彼らの意見が同じだって決めつけられるの?
 正直な話、最低な気分になる」
 ルイが声を低くして答えた。

「最後の部分なんだけど」
 調子を変えて、真生が少し笑うように語りかける。
「う~ん、私達はそこそこ長生きしているから特に感じるけど、世の中はやっぱり少しずつ良くなってると思うんだよね」
 ルイが少し真面目路線に持っていこうとした。
「そうそう。私達がこの世界に来たとき、そりゃもう、差別だらけだったし、簡単な病気とかちょっとした怪我で人は死んでたし、役人は不親切だし、警察も横暴だったよ」
 真生も真面目な話をしたそうだったが、当時を思い出したのか、口調がほぼ笑っていた。
「その分、私達も無茶苦茶してたけどね」
「それはそれでかなり楽しかったけど、あの頃の笑い話、今すると、かなり炎上しちゃうからダメダメ」
 ルイがわざと焦ったように言う。
「本当にね」
 ここで二人はひとしきり笑う。

「それでなんだっけ……そうそう、世の中良くなってるよって話ね」
「こうやってリスナーさん達の反応とか見られるようになったしね」
 真生がルイにちょっかいを出す。
「ルイ、そうやって媚び売ってく」
 真生は自分でツッコミを入れた癖に、勝手に噴き出した。
「媚びぐらいしか売り物ないからね」
 ルイがしれっと返したので、真生は笑顔で正論を進める。
「媚びが商売になるなんてやっぱりいい時代だと思うんだよね。
 大昔は暴力だけが食べて行く為の方法だった訳でしょ。頭を使う人が出てきたり、モノを精密に作れる人が出てきたり、道具を上手く扱える人が出てきたり。そうやって、人が食べていくためのチャンネルがどんどん広がる。それって、やっぱり人類の進歩だと思うよ。
 進歩していく中で、いろいろな寄り道があって、部分的に悪いモノも出ていくだろうけど、人類ってそういうのを克服しているから、どうにかこうにか今までやって来られたんだと思うんだよ」
 ルイが同調する。
「この国が曲がりなりにも豊かなのは、勿論、先人の努力の賜物なんだけど、先人に配慮して自由を謳歌したらダメなら、何も進歩しない事が正しいって事になるんだよね」
「差別を受けている人は、差別を我慢してた人々に遠慮しなくちゃいけないって事になるからね。それはやっぱりおかしいよ」

 流れてくるコメントは、最初は刺激的であったが、最終的には概ね同意見が多かった――これは彼らが真生とルイに説得されたからではなく、勝てないと気付いた連中が逃げ出したに過ぎないからだ。
 それを分かっていて、真生は笑う。
「こうやって反論しても、またお気持ちメールが来るんだよね」
「凄く長文のね」
「そうそう、二万五千字ぐらいの」
 こういう放送が全くと言って伸びない。彼女らは、それが承知の上であると語っていた。
 辛い日常から逃避しにVTuver見に来てるのに、こんなことをするのはダメだと言うリスナーもいる。
 正直な話、嫌いでもって執着している人間は、ただ、反応があると言う事だけが嬉しいのだ。だから、これは無視するのが一番なのだ。
 でもそうしないのは、何なのだろうか?
 真生は言う。「私、人間嫌いだからね」と。
 それは中二病のそれではなく、もっと根深い何かを感じる"人間嫌い"であった。

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