0034 俊子がフった男の子の相談に御堂ちさとが乗る

ページ名:0034 俊子がフった男の子の相談に御堂ちさとが乗る

 喫茶店での、日々の業務や、級友のちょっかいなど、この仕事は存外充実している。
 なのだけど、俊子ちゃんがらみの問題を抱えることになったのは、少し考えものだ。

 と、言うのは、彼女がフった、問題の男の子が私の前に現われたのだ。どういう経緯で私の事を聞きつけたのか……やや強引に恋愛相談を持ちかけられた。
 問題なのは――俊子ちゃんの時でもそうだが――私、そんなに恋愛に明るくないぞと言う事だ。
 だからといって、相談できるポジションに偶然居合わせた以上、真面目に答えないわけにはいかなかった。

 そんなわけで差し向かいに座るの相談者は、鴻池浩一君である。彼女と同じクラスの男の子で、明るく、顔も悪くない。話しぶりも、相談内容の重たさを差し引けば随分とはきはきしているように思える。
 これは彼の美点だと思うけれど、話が直接的で要点が絞られている。利発な子に思えた。
 「え、こんないい子をフったの?」と言うのが、率直な意見である。

 とはいえ、かなり毛嫌いされるようになってしまったという。
 彼は、アイスコーヒーにミルクとガムシロを投入して、ストローで混ぜている。下向き加減の顔は、少し影があった。

 尤も俊子は、あのような性格だから、女子に根回しして悪口を広めると言う事もしていない。ああ、こんなに健全な男女なら、普通に付き合ったままでよかったのに!
 私が色々と思うこととは無関係に、彼はかなりショックな出来事であったらしい。

 で、デートはどうだったかというと、大きな失敗もなく、穏やかに思えた。
「何の映画を見たの?」
 かぶりつく私は、傍からは嫌な女に見えただろう。
 聞けば正当派の恋愛映画である。内容は家の都合や社会的な問題で別れ別れになった男女が、適齢期を過ぎた後に出会うと言うもの。中学生にしては背伸びしているが悪くない。
 何で、そのチョイスがダメだったのか謎だ。
 首を捻ってしまったが、鴻池君が心配そうにするのでやめにした。
 どんな理由にせよ、彼女の趣味じゃない以上、それは突っ込むべき事ではなかった。
 彼の年齢からして、女子のエスコートに未熟な点があったのは、ほぼ間違いないと思う。でも、この歳の男の子にしては、私のような女子と話すのに、割と慣れた話し方をしているのは高得点だ。
 明るい顔で聞いてみると、彼は女系家族で近所の親戚も女性だらけだと言う。訥々と語るのは、女性をぞんざいに扱う怖さを知っている空なのだろう。
 思えば、そういう慣れが気持ち悪いと思われたのかも知れないけど。
 一人で合点していると、彼の方は納得していないようだ。
 アイスコーヒーの氷が溶けて、薄い色の層ができはじめていた。

 他にもうんうんと話を聞いてあげたけれど、同情しかない。君は悪くないよ。もっといい出会いも必ずあるよと励ますばかりの話になった。

 ただ、彼は彼で納得していない様子はある。
「人間って、これって決めたことは、なかなか変えづらいでしょ? 人を嫌いって思うのも同じで、一度嫌いと決めた気持ちとの整合性をいつまでも気にし続けるものなんだよね。
 人から嫌われたらやれることは一つで、その人から遠ざかる事だよ。
 遠ざかるって拒否することじゃないからね。嫌われたからと言う理由で人を悪く言わないと気が済まなくなる人もいるけど、それは別の執着だし、それは病気。
 かといって、ご機嫌取りをしていても靡くことはないし、仮にそれで動く人がいたら、ただ、それは君を奴隷としたいだけの人だね。
 悪化させなければ、ほどよく付き合えるかも知れないし、気分が変わるかも知れない。ラブコメみたいな展開はあまり考えない方がいいけど、昼ドラみたいな地獄も多くはないから大丈夫」

 理屈で説明すると、彼は納得してくれた。
 ああ、多分、そういう所が好かれなかった理由かも知れないなどと思ってみたりもした。
 氷の殆ど残っていないアイスコーヒーと、自分用のコーヒーカップを引きながら彼の幸ある未来を願うだけだ。

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