週末はちょっと都会の方でお仕事だ。
私とルイは、目立たない程度にモデルだの子役だのの仕事をやっている。尤も、最近はVTuberでのお仕事が主な収入源になってたりする。
学校のある街は、のぞみが止まる程度の街までは、車でも電車でも小一時間で、"通勤圏内"ではあるので、派手めなお仕事にも都合が良かった。
活動自体はもう半世紀になるのだけど、目立たないようにしているお陰で、わざわざ変なことを言い出す奴も今のところいない――80年代にちょっとテレビの仕事をしてたから、私たちの顔を見て思うところある人もいるだろうが「四十過ぎのおばさんに見える?」の一言で終わらせられる。
世界を恐怖に陥れた魔王と、その四天王の一人がこんな所で、張り切ってポーズを決めているとか思わないだろう。
ティーン向け雑誌のモデル撮影を軽くこなして、明日は日曜だし、一泊してから帰ろうとなったわけである。
日曜は、気になるお店を巡って、あとはぶらぶらと言うざっくりしたプランだった。
それで、昼ご飯のあとに、コンビニに寄ったときの事だ。
「ちょっと!」
私の横をすり抜ける一人のガキンチョの首根っこをひっ捕まえた。
肉付きもよく、やや汚れたブランドもののTシャツを着ている小柄な男の子である。
「真生、そういうお節介やめなさい」
私が何をしたがっていたのか、ルイにはお見通しだった。
「寝覚めが悪いでしょ?」
ルイは嘆息して、「自分の目に付いたものだけ助けて得意げになるのは、自分が社会で為になる人間だって思いたがってる人間のすることですよ?」と説教を垂れた。
私は無視して、千円札を彼に握らせると、「ちゃんとお金を払いなさい。一度盗みを覚えると、一生盗みでしか生きていられなくなるよ」と言い解放した。
「もう、真生!」
「ここだけの話で終わらせなければいいんでしょ?」
「いつから、そんなに人間好きになったの?」
「今は私たちも人間だよ」
そんなわけで、色んな人に手伝って貰いながら、ここはと思うNPOを見つけて、そこに投資するところから始めることにした。
世の中には色んな人間がいる。金があるのに子供には何もしない親、金もないし子供にも何もしない親、金はないのに人並み以上の見栄のある親、人の目に付くところだけ金を出す親、自分の価値観を教え込むことしか考えない親、何らかの問題で正常な教育を施せない親……幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものであるとは良く言ったものだ。
苦しむのは大体いつも子供であり、その子供が大人になったときに、またその子供を苦しめるのだ。
多分、それは誰が悪いという話ではないかも知れない。だが、何処かで始まったものは、何処かで止めなければならない。
こんな現実を目の前にしてしまうと、Solid State Societyも失敗しなければ夢のような世界を作れたかも知れないなんて思ってしまう。しかし、それは流石に"独裁者の夢"なんだろうな。
ちょっと暗い顔をしていると、ひじりに笑われてしまう。
「暗黒面ばかり見てると、世界が憎くて仕方なくなるよ。偶には綺麗なモノを見た方がいいよ」
それはそうなのだけど。
「ひょっとして、ちょっと後悔していない?」
と軽い口調で言われるので、こちらも意固地になるのだけど、やはり元が元だけに、嘘も吐けない。
「いいんじゃないの。人間、何か決断したら、どっかで迷うモノだから。
身体とか心壊すぐらいならやめちゃってもいいし、それはそれで真生ちゃんの決断だし、いいんじゃないかな? そこでもまた悩むんだろうけどさ。
結果は、最後にならないと分からないからね。
でもさ、割と結論は出てるでしょ? 単に辞めたいだけなら、もっと甘えて来てるだろうしね。
いいじゃない、死ぬ身体じゃないんだしさ」
図星は図星なのでぐうの音も出ない。
「ひじりんいじわるー」
「ま、お客さんになりそうな人が沢山いそうだし、ウチのサイトに誘導してよ」
最後の最後は、笑い話で終わられてしまった。
暇を見て、手伝いに行ったりすると、黙々として食べる子供や、笑顔の子供、怖ず怖ずと食べる子供などに出会う。勿論、寄付のつもりで食べに来る大人、お金に困っている大人、人との交流を求める老人など色々いる。
色々いれば、それもそれでトラブルもありそうだが、食い扶持を持って行かれるのが困る人は、概ね大人しい。
問題は、無駄に意識の高い人間の登場である。偏に、口だけを出したい奴だ。
「そんな化学調味料を使うなんて信じられない!」
カウンターの中にあるうまみ調味料をめざとく見つけたママが叫ぶ。
ルイが、チャイニーズ・レストラン・シンドロームに、グルタミン酸ナトリウムの関与する科学的根拠はないと言う話をするが、全く話を聞き入れない。
「でも、今まで普通に食べていたのにね?」
と私が馬鹿っぽく言ってみたら、顔を真っ赤にして喚きだした。
店長と呼ばれている会の世話役が、「お金も出さないで文句を言わんでください」と穏やかに突っぱねると、「私は子供達のためにこんなに頑張っているのに!」と言うのだ、「貴方は……」ルイが反論する。
「貴方は、結局、自分が怖いものを他の人が怖がらないのが気に入らないのでしょ? そして、自分が怖がっているのは間違いじゃない事だと、なんとかして人に教え込まなくちゃ気が済まないのでしょ。それは、結局ご自身のために言ってるのと同じじゃないかしら?」
四方八方からやいのやいのと言われた彼女は、「違います!」と叫ぶと、食事中の子供の手を引っ張って店を出て行った。
それからネットにあることないことを書かれたが、特にノーダメージであった。
自分のやってることが正義だって思うなら、なんでこんな狡いことするんだろう。
不当な方法で主張しなくてはならない事と、自分の正義との整合性を無視するようになったら、人間ダメね。
「あ、失敗した。ひじりんのところに相談するように言うんだった!」
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