0010 ちさとのバイト先が見つかる話

ページ名:0010 ちさとのバイト先が見つかる話

 ちさとのバイト先問題は、ひじりによって解決した。
 学校からほど近くの個人営の喫茶店に、無理矢理店員の口を作ったという話だ。
 店主は、喫茶店の上階にあるマンションのオーナーで、一言で言えば、趣味でやっている喫茶店である。
 悪い人ではないが、俗物的というのが、ひじりの見立てで、それ故に、「JCを雇ったら箔が付くんじゃない?」とか言うクソみたいな誘導尋問で話が決まったらしい。
 小綺麗だがなんとも地味な店で、店長の旅行先での土産物やら、何か気に入ったモノの写真とかが飾ってある、実に趣味らしい店であった。
 ちさとは、「うわぁ」ぐらいの感想であったが、背に腹はかえられないし、店長も生理的に無理と言うほど拒否感がなかったので、"とりあえず"店員になる事を決めた。
 女子中学生に与えるバイト代としては割といい方であるが、満足な生活を目指そうと思うと、結構しんどい戦いになるなと思った。
 何故か綾夏がしゃしゃり出たお陰で、契約書なしのなし崩しの雇用契約とはならず、法的に意味のある書類を作成できた。
 勿論、店主に悪意があった訳ではなく、人を雇うと言う経験がなかった事に起因している。まぁ、こんな程度の店はいくらでもあるかと、ちさとは嘆息した。
 店を出るとき、「息子が兄弟して理屈っぽくて仕方ないんだ。何かあったら相手してくれないか?」と声を掛けられる。「うわぁ」と再度引いたのだが、「いくらになります?」と即答した自分もなかなかのモノだと思った。
 店主は嫌な顔をしたが、「上手いこと黙らせたら、一万円払うよ」と言った。ひじりが「そんな事言っていいの?」と割り込んだが、「契約書とかなければね」とやり返された。
 綾夏はそれを聞いて、苦虫を噛み潰したような顔をしたが、当のちさとは「私、口が達者な方ですよ?」と挑戦的であった。

 ちさとは何か勝ったような気がしていたが、ひじりは少しばかり申し訳なさそうにしていた。
 だけど、綾夏としては、「私たちトラブルメーカーだし、それを考えると、店長には御の字だよ。好きになれないタイプだから、ちょっと心配だけど」と、あやふやな答えを出していた。彼女の性格からすると歯切れが悪いなとちさとは思ったし、ひじりも「誰の味方したいの?」と突っ込んだぐらいだ。
「商売人としては、普通のお店やるつもりなら、私たちみたいなのは雇わないものよ。残念だけど、雇われたがらない人が勤める所って、限られてるし、それが市場主義だからね」
 そこまで言って、二人はその先が読めた。
「やっぱり、自分の運命を自分で握らないとね」
 そんな簡単に起業できるかよと。

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