0006 響子と飛鳥のお仕事とゲーム対決

ページ名:0006 響子と飛鳥のお仕事とゲーム対決

 この学校では、何かと武闘派がいるので、自衛隊や警察、民間軍事会社から声が掛かって訓練を施したりしている。
 元の世界で槍だの剣だのを振るってた連中でも、戦闘センス、野生の勘と言うモノはフルに生きているので、この世界の武器や戦闘システムをひとたび学べば、優秀な教官になるのだ。
 実際に"業務"を行うのは、内緒のお約束でできない事になっている。

 尤も、学校自体を狙う連中がいるので、そこは治外法権らしい。
 だから、戦いたくてウズウズしている子たちは、概ね不埒な連中の来訪を心待ちにしていたりするのだ。

 さて、うずうずしていると言えば、響子もバトルマニア的な一面を持ったりする。彼女はかつての世界で戦闘爆撃機のパイロットだった。
 防空から制空、爆撃、雷撃――軍人としてのキャリアを重ねて、出世して第一線から退くと知ると、さっさと傭兵稼業に転職したぐらいである。
 それでもう一人、空戦経験があると言えば、飛鳥もそうなのだ。
 尤も、こっちは頑なに過去を語らないし、そもそも前の世界でも転生者だったらしい。

 先日はF-5E一個分隊で、F-35A一個小隊を邀撃をすると言う無茶な話であった。それでも無傷で半数以上の撃墜判定をもぎ取るというのだから、チーターと戦っているようなものである。
 で、そんな響子が言うには、「飛鳥と一度手合わせ願いたいモノだね」と言うのを「模擬戦でも、クラスメートに銃口を向けたくない」とにべもなく断られたらしい。

「と、言うわけで、ゲームならいいでしょうってんで、用意しましたよ!」
 ななみがどこからか、同スペックのゲーミングPCを2台、ふた揃いのスティック、スロットル、ラダーペダル、HMDを調達してきて教室でセッティングをしてしまった。
 噂は素早く、校内から暇な生徒が次々に集まる。
 で、こんな時には当然のように賭け事が始まる訳で、もう、何でもアリになってきている。

 飛鳥は不承不承と言う顔をしながらも、ここまで準備されたら悪いからと言う理由で、この対戦に同意した。
 用意されたのは、第二次大戦のコンバットフライトシムである。
 ここで、響子はフォッケウルフFw190 D-9を選び、それじゃぁと言う事で、飛鳥はスピットファイアMk. IXを選んだ。
 嫌そうな顔しながら、周りを楽しませようとしているのだから、飛鳥も素直ではない。

 最高速度は40km/hも違うし、響子の実力は折り紙付きなので、この勝負は早めに終わるだろうと周囲は見ていた。
 だが、始まって早々、響子はわざと、飛鳥に後ろを取らせるようにしていた。携行段数は、Fw190の半分程度なので先に撃たせておかないと釣り合いが取れないのだ。
 この勝負、早くは終われないだろうなと、響子は感じ取った。

 優雅なアクロバット飛行を続けながら、飛鳥はわずかなチャンスに確実に命中させていく。
 お互い燃料を消費しつつ、焦りが見えるのが響子だ。
 後半に入ってからは、積極的な行動に出始めた。
 お互いに、残弾と航続距離の読み合いになる。
 こんな時にも、飛鳥はポーカーフェイス――と言うよりも、いつも通りの不快感を顕わにしたような口元が見える。否、少し笑っているか?

 結果的には、燃料切れギリギリでコクピットに20mmを命中させたのは、飛鳥の方であった。
 響子は、「まぁ、こんなものね」と言う顔をしていながら、内心ショックであったに違いない。
 響子は、前の世界でもそうであったし、今の世界でも自分よりも上手く飛行機を飛ばせる人間はいないと信じていたからである。
 ただ、それで飛鳥を恨む気持ちが出たかというと、それは全くなくて、「世の中はどんなことでも起こりえるのだ」と言う畏怖の方が強かったようである――その境地に至る一ヶ月ばかり、飛行機に乗れないでいたのだが。

 あと、この話で面白かったのは、楓がちさとの財布から全額抜き取り、飛鳥に掛けて大儲けした上でちさとに返したというぐらいだろうか。
「もしもの事があったらどうしたんですか!?」
 憤るちさとに対して、「この身体を使ってでも返してやるよ」と言い放った。ちさとが楓のいい玩具なのだなと言う印象を全校に知らしめたイベントであった。

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