0003 福部先生が2年A組の生徒を紹介する

ページ名:0003 福部先生が2年A組の生徒を紹介する

 2年A組の担任、福部三惠子は若干の悩みを抱えていた。
 今年で教員三年目になるのだけれど、やっている事が全くの"教師の真似事"でしかなかったからだ。
 それもこれも、この稜邦中学校自体がフェイクの存在と言って過言ではなかったからだ。
 私立と言いつつ、理事会や校長は、国から派遣されているし、面接の時から秘密保持契約がやたらしんどいので、絶対的に怪しいと気付くべきだったのだ。
 生徒はやたらとヤバイ連中であるのは間違いないのだが、それには触れてはいけないらしく、それでも彼女らが生徒を演じる以上は、自分も教師を演じなければならないのである。
 この三年、見ている生徒は変わらない。もし来年、三年生が終われば、彼女たちはそのまま一年生として入学する。一年目は感慨深かったが、すぐに新年が始まると、教員としての成長を一切せぬまま年月を過ごした気持ちにとらわれる。
 自分がしたいのは教員として何か意味のある仕事をしたいのであり、終わらないインプロヴィゼーションではないのだ。
 若く、美人、若干抜けている所はあるが頭は悪くない。そうした特徴が、採用された理由なのだろうなと考えると、少し悔しくある。

 ため息を吐くと、教室の扉を開く。
「はい、出席をとります!」

「在則さん。在則真琴さん」
「エレンと昨日から実験棟です」
 香山アンナさんが答えた。
 アンナは、細身だが健康そうな子だ。香山エレンさんと"似ていない"双子の兄弟である。
 真琴さんも、エレンさんもちょっと影があると言うか、不気味な雰囲気がある。エレンさんは髪を整えているのでそれもまぁ気分の問題だけど、真琴さんは綺麗な黒髪なのに、邪魔になると適当に鋏で切ってしまうので、なおさら怖い。いつか、友達が綺麗にしてくれた時があるが、その時は信じられないぐらい美人だったのだけど……まなびさんと仲がいい。

「楓さん」
「はい」
 耳とか尻尾とか生えているし、もう、意味分からないでしょ。可愛いのは可愛いのだけど、言動は可愛くない……って大体ここの生徒はそんなのばかりか。殺気が鋭い時があって怖い。
 妙に顔が広くて、校内の大体の場所を顔パスで入っていくし、校内の人物に関しては、全員とほぼ上手くやっている。

「風山さん、風山守さん」
「はい、はーい」
 なんか妙に自信のある顔をしている子。可愛いのだけど、踵繋さんと一緒にいるときは、ろくな事をしないようなイメージがある。

「香山さん、香山アンナさん」
「はい」
「エレンさんは遅刻と……」

「踵さん、踵繋さん……は、今日もいないね」
 女にしておくには勿体ないほどの男前。だけど、放浪癖があって、学校に顔出す日が少ない。

「高蔵寺さん。高蔵寺春日さん」
「はい」
 全体的に白いって感じの子。色白というのもあるのだけど、存在に透明感がある凄くいい子。何故、日暮阿由武さんと釈ひじりさんと仲良くやっているのか謎でしかない。

「釈さん、釈ひじりさん」
「いるよー」
 ギャルっぽい子というか、ギャルなんだけど、世の中を達観したような顔するから怖い。

「神内さん、神内真生さん」
「はい」
 小柄で可愛い。白髪のボブで、瞳が透き通っていて、見つめられると、深淵を覗いている気になる。楚山さんと仲が良くて、アイドルユニットでも成立しそうなピュアさを感じる。

「染井さん。染井燈理さん」
「はい」
 身体が大きく、しっかりしたスポーティーな子。この子もイケメン枠。

「楚山さん、楚山ルイさん」
 銀髪ロングの赤い目の子。神内さんと一緒にいる姿は和むなぁ。

「瀧さん、瀧つかささん」
「はいよー」
 何というか、正統派の不良って感じのする怖い子。切れ長の目で、目つきが悪い。

「溜川さん、溜川響子さん」
「あ、呼び出しかかって出かけてますー」
 この子もスポーティー。だけど、染井さんのようながっちりタイプではない。何故か、ティアドロップのサングラスがよく似合うのだけど。
 それにしても、このクラス、謎の"呼び出し"が多いのだけど……

「都留岐さん、都留岐友加里さん」
「いますよ」
 なんというか、普通に爽やか。誰も不快にさせない主人公タイプに見える子。勉強も運動も高水準を維持していて、そして誰にも好かれると言う感じ。

「鐵池さん。鐵池羊子さん」
「はい」
 丸顔に、丸い眼鏡、長身で胸が大きくて、髪はおさげ、もう、なんというかである。
 電話口でなんか政治的な話してたけど、大丈夫かしら?

「中功さん、中功綾夏さん」
「購買でトラブルがあって遅れますー」
 何というか、商売人を絵にしたような子。口が上手いし、頭が切れる。購買のお世話をしてるのだけど、その購買がなんとも言えない雰囲気ね……黙っていれば可愛い子なんだけど。

「虹さん、虹紡季さん。」
「はい」
 動物のような可愛さのある子なんだけど、時々恐ろしいほどの正論を吐くので怖い。それでいて理想論まで語るので、この子の考えの射程も怖い。

「西村さん、西村まなびさん」
「はい」
 在則さんが一方的に好いているように見えるけど、一応付き合ってる感じがする。中性的な美人で、勉強も運動も万全。ただ、人間味が欠ける感じがする。

「日暮さん、日暮阿由武さん」
「あいよー」
 何というか、凄く軽い感じがする。色黒のギャルで、当然と言えば当然だが、釈さんと遊んでいる。だから、なんで高蔵寺さんと仲がいいの?

「星野さん、星野宙さん」
「はい」
 本当に何考えているかよく分からない子。宇宙人みたいと形容するのがぴったり。で、文学少女。本ばかり読んでるし、何か書けば賞を取ってしまう。典型的メガネっ娘。

「舞阪さん、舞阪コウさん」
「ここにいますよ」
 ちっちゃくて可愛いのだけど、物事を暴力で解決しがちが傾向がある。そして実際に凄く強そうな感じに満ちている。怖い。
 諸國さん仲がよくていつも一緒にいる。

「御堂さん、御堂ちさとさん」
「はい」
 この子は、恐ろしく普通。否、普通で何が悪いと言う事はないけど、この学級の中で、こんな普通の子がいていいのかよって思うほど普通。
 真面目そうだし、大人しそうだけど……不憫だ。

「蜷森さん、蜷森飛鳥さん」
「はい」
 実に大人しい。無茶苦茶静か。そう言うと存在感が薄いかと思われるが、存在感はある。努めて静かにしている気がする。もっと笑った方が可愛い気がするけど、仏頂面しか見ない。

「諸國さん、諸國涼子さん」
「ここに」
 頭がいいのは間違いない。そして、凄く落ち着いた大人の女性と言う印象しかない。私より大人なのでは……ってそんな子ばかりか。
 老けていると言う意味ではなく、悟っていると言う感じだ。

「八意さん。八意ななみさん」
「はい」
 この子も科学関係で香山エレンさんと、在則さんと一緒に色々やっている。
 利発そうだけど、冗談が分かるタイプの子。高度なジョーク含んだ論文とか普通に書いていそうな感じ。まぁ、怖い。

 饅頭怖いと冗談言える程度には怖い。
 さぁ、今日も一日頑張ろう!

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