「私、御堂ちさと十四歳、中学二年生!」
溢れんばかりの笑みをカメラに向けている少女は、ポニテでスレンダーでやや長身の少女である。気持ち吊り目で眼鏡をした、委員長キャラが似合う子だ。
「はいカット!」
「もう、出だしだけで何カット撮るんですか!?」
ちさとは、この"儀式"に不満であった。
「イニシエーションじゃよ」
涼しい顔で動画をチェックしているのは、楓と言う狐耳ともふもふの尻尾が生えた小柄な少女であった。
何がイニシエーションかと言えば、この"地獄"へちさとがやって来たからだ。
八意ななみは、そのインテリくさい視線で動画をチェックすると、悪戯っぽく「もっと萌え萌えって感じでやってみない?」と提案する。
鐵池羊子は、首を捻りながら、肯定も否定もしない。
「何ですか、初々しくやれって言うのは何だったんですか!? 恥ずかしいんですよ!」
ちさとの視線の先には、ロックグラスが三つ乗ってるテーブルがある。三人の中学生は、やたらとくっさいスコッチをちびちびやりながら、ちさとの恥ずかしいムービーを撮っている。
ちさと的には、その撮影の意義を一ミリも感じていないのだが、三人は是非とも必要だと言うし、学校の担任にその話をすれば、「そうね、やったほうがいいね!」と全肯定してしまったのだ。
「そんなに必要だって言うなら、見せてくださいよ! 三人分のイニシエーション・ムービーを!」
ややキレ気味に言ってみたのだけど、三人はあっさりと承諾してしまった。
「これを見せる事に抵抗はないのじゃが、お主、コレを見たら、何も拒否できなくなるがいいかの?」
酷い脅しだ。だが、ここまで来たら、ちさとも引くに引けない。
「見てやりましょうとも!」
楓編
スマホ経由で大型テレビに映し出された映像は、モノクロの八ミリフィルムをデジタル化したものだった。
「えー、儂は、前の世界では神に挑戦して失敗した愚か者じゃ。
姿形は何一つ変わっておらんからのぉ。この姿で何かしたいと言うことはないが……
そうじゃな、この世界にも酒はあると言うし、色々試したい所じゃの!」
ここで第三者の声で質問が入る。
「前の世界か……この世界の古い雰囲気がある感じで、もっと"非科学的"な世界じゃな。神も物の怪も日常の中におって、儂は不埒な奴原を切って捨てるのが仕事じゃった。
色々と面倒なことがあって、ゲームチェンジしようとして失敗したので、ここに飛ばされたのじゃがな」
照れ笑いの顔が可愛い……言っている事の物騒さはともかくとして、音声がなければ、可愛げのあるコスプレ少女のインタビューみたいではあった。
ななみ編
滲んだ画像とノイズが入る、ホームビデオのような映像に彼女が映し出される。
「私は、市中の一千万人あまりの命を救おうと、"治療"を施したのだけど、色々あって殺されちゃいました!」
はじける笑顔で答える彼女の言葉はやはり物騒だった。
「ここに来たって事は、多分、私の試みは失敗だったのかなと思います」
「え、同じ事になったら? 次は失敗しません御期待下さい」
迷いのない答えに狂気の片鱗が見える。
「前の世界は、機械化の進んだ世界で、科学技術的にはこの世界よりもずっと先にあったかなぁ。科学の進捗を定量的に表現できないのでなんとも言えませんけどね」
なんとなく人となりがにじみ出ている。前の世界は、ここから美少女の皮を剥いだのだと思うと恐ろしい。
羊子編
こちらも八ミリフィルムだったが、こちらはカラーである。
今日のイメージと同じ、丸顔にお下げ、長身で胸がでかい。旧型の制服が凄く似合っていた。
「えっと。前の世界では、独裁者って呼ばれてました!」
何かの主張ビデオかしら? と言う出だしだ。
「戦争で、自国だけで二千万人……溶かして、あと収容所とかに百万人単位で入れていたから地獄行きはしかたないかなって」
急にしおらしい表情となる。
「この世界では、あんまり謀略とかそういうのとは距離を置きたいかな。
普通にパン屋か何かで仕事できたらなって」
この羊子が、今やこっちの世界の、幾人かの政治家のブレインをやっているのだから、「おい、パン屋どこ行ったんだよ!」と言う印象しか残らなかった。
「えっ、えっ!? 萌え要素とか必要ないじゃないですか!」
三人は、ニヤニヤしながら、スコッチを呷るばかりだった。
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