ハンガリー Hungary はフン族の子孫と言う意味?

ページ名:ハンガリー Hungary はフン族の子孫と言う意味?

 【質問】
 ハンガリー Hungary はフン族の子孫と言う意味

 【回答】

 英語の Hungary,すなわち,ラテン語の Hungaria(フンガーリア)はフン族の国という意味ではありません.
 フン族の国は「フンニア」(Hunnia) です.
(確かハンガリーの映画会社にもフンニア撮影所というのがあったと思います.)

 ウラル地方から東方からの民族大移動の圧力により,黒海の方に避難してきたマジャル人は,トルコ系のオノグル (onogur) 人の庇護を求め,しばし彼らと行動を共にしておりました.
 その結果,マジャル人達も周囲から“オノグル人”と呼ばれるようになりました.
 ハンガリー人がカルパチア盆地に征服定住した時にもそう呼ばれました.
 それが転じたものが,ラテン語の民族名の Ungarus(ウンガールス)で,国名の Ungaria(ウンガーリア)です.
 ドイツ語の Ungarn やロシア語の Vengrija,イタリア語の Ungaria,フィンランド後の Unkari 等は全てこの語形が語源です.

 その後,中世になって,西欧諸国で Ungaria の先頭に黙音のHが付く表記が現れ始めました.
 ラテン語でも Hungaria と書かれるようになりましたが,当初の発音は「ウンガーリア」のままだったと推定されます.
 それが後にHも発音されるようになり,これが英語やフランス語等におけるハンガリーの表記になっていったものと思われます.
 ですから,語源的にフン族は全く関係ありません.

 もっとも,西欧で Ungaria の先頭にHがつくようになったのには,多分,フン族との連想も働いていた可能性もあります.
 一説には中世フランスの学生の悪ふざけが発端だったとも言われています.
(このフランス人学生の悪戯説は,むかし,現在の駐日ハンガリー大使のお父上のセルダヘイ・イシュトヴァーン先生に聞いたことです.)


  アジアとの関係で言えば,匈奴が西へ行ってフン族になり,その子孫がMagyarになったと言う説がありますが,未だ証明されていません.
 狩人のフノル (Hunor) とマゴル (Magor) 兄弟の伝説がそれです.
 2人で魔法の鹿 (csoda szarvas) を追って行き,最後に現地の娘を嫁にし,フノルの子孫がフン族に,マゴルの子孫がマジャル族になったというですが,しかし,これは恐らく中世の創作でしょう.

しい坊(黄文字部分)他 : 世界史板,2001/09/30
青文字:加筆改修部分


 

 【反論】
 おっしゃるとおり,マジャール人はフン族の末裔ではありません.
 しかし,彼らの民族伝承では,彼らをパノニア平原に導いた族長アールパードはフン族の大王であるアッチラの末裔だということになっているそうです.
 中世の年代記等でもそういう記載になっているそうで,アールパード家の王たちは,自分たちはアッチラの子孫と信じていたのでしょう.
 ちなみに現在のハンガリーでアッチラという名はけっこうポピュラーですが,これは中世のそれとは関係なく,近代になってハンガリーらしい名前ということで名づけるのがはやりになった名残だそうです.

 【再反論】
 そうなんですか (^^)?
 寡聞にして存じません.

 中世の歴史書は現代の歴史学的な文献とは違います.
 ハンガリーに限りませんが,当時の歴史書はどこの国民のものでも限りなく文学作品に近く,概ね,彼らの居住地にかつて居住していた名門民族 (?) を自分らの直接の先祖だとすることが一般的でした.
 現代でも,ルーマニアの“ダキア=ローマ史観”なんていうのはその典型ですね.

しい坊 : 世界史板,2001/09/
青文字:加筆改修部分

 歴史好きの友人(ご主人はハンガリー人)から聞いた話ですので,正確ではないかも知れませんがハンガリーの建国伝説におけるアッティラ関連の件です.
 それによれば,フン族とマジャール族はもともとひとつの民族だったいうことになっております.

 その当時の彼らの王(族長のことでしょう)ニムロードの息子のフノルとマジャールが狩りに出かけて牡鹿に出会い,その後を追ってたどり着いた土地現地の娘と結婚して住み着きました
(ドンの河口あたりのことだそうです).
 やがて,その地も手狭となり新天地を求めて旅立つかが,一族の中で議論されましたした.
 その結果,フノルの子孫であるフン族は神の剣の飛んでいった西の方角へと向かい,マジャールの子孫はドン川の河口の地に居残ってフン族からの知らせを待つことになったそうです.
 西に向かった当時のフン族の長の息子がアッチラとブダです.
 フン族はドナウとティサの間の地に落ち着き.その地で神の剣を見つけます.
 そしてその神の加護の元に「世界征服」をしたことになっています.

 古い年代記(たぶんゲスタ・ウンガロルムのことでしょう)ではこの伝説を基にアールパード(後に残ったマジャールの子孫)達の「フンニア」(ドナウの東)征服を正当化しているのだそうです.
 つまりフンニアはアッチラが神の剣を見つけた土地で,フン族とマジャール族にとっては神に約束された土地ということになるのだそうですです.
(フン族の征服した土地ともみれるが,一般にはドナウの西のパンノニアに対してドナウの東).

 さて,伝説ではアッチラにはアラダールとチャバの二人の息子がいて跡目を巡り,フン族を二分して凄惨な争いをしたといいます.
 流血の闘争の結果,チャバがアラダールを殺して勝利を得ましたが,一族のうち生き残ったのは数千人という悲惨な状況になってしまいました.
 ここにおいてチャバはマジャール族を呼びに戻ることを決意します.
 マジャール達の力を加えて,アッチラの領土を取り戻そうとしたのです.

 そこで,東の果てのセーケイに一族のうち3千人を残し,マジャールの住む祖先の地に向かって出発しますが,出発に際し儀式を行い,セーケイに残る一族に危険が迫ればすぐさま駆けつけることを誓ったのです.
 ここにおいてチャバはマジャールの地へ出発しかけましたが,セーケイが敵に襲われ3度戻る破目になりました.
 そして4度めに出発して,その後戻ることはなかったのです.
 百年後,再びセーケイが敵に襲われたとき,チャバ達は当然もうこの世にはいなかったのですが,天から舞い戻ってきてセーケイの危機を救ったといわれています.
 セーケイに残ったもの達がトランシルバニアのセーケイ人の祖先になったと言われているわけですが,彼らにとってチャバは,誓いを守りセーケイを救う勇者なのだそうです.

 東に向かったチャバ達はマジャールの住む地に無事にたどり着き,肥沃で美しいフンニアのことを語り旅立つことを勧めました.
 マジャールの若者たちは出発に乗り気でしたが,長老たちは今はその時ではないので時が満ちるのを待つように言い,すぐには出発しませんでした.
 そして4百年後にマジャール達は「約束の地」に向かったのです.
 因みにチャバがアールパードの一族の先祖となるのだそうです.

 全く余談ですが第二次大戦中のハンガリー軍の対空戦車はニムロード,装甲車はチャバの名がつけられています.

 余談ついでですが,王宮の丘にあるハンガリーの昔のトーテムであるトゥルル(鷲の怪獣みたいな想像上の生き物)が守っている剣が,伝説の神の剣を表しているのだそうです.

 素人が伝聞を元にして書いてますのでご笑覧ください.
 教えてくれてTさん感謝.

ギシュクラ・ヤーノシュ : 世界史板,2001/10/03
青文字:加筆改修部分

 はい,それは,いわゆる「フン・マジャル伝説群」で伝えられている伝説です.
 いつ頃からそういう“伝説”が騙られるように,違った,語られるようになったのかは不明ですが,ハンガリー人がフン族と親縁関係にあるという話は,すでにアノニムスの歴史書『ゲスタ・フンガロールム』に記述があります.
(13世紀に著された,現存する最古のハンガリーの史書です.
 ただし著者は歴史学者ではなく,13世紀の欧州の状況を過去に投影するなど,内容に信憑性がないことはわかっています).
 フン・マジャル同系説はケーザイ・シモンやカールティ・マールクが表わした『年代記』には詳しく記述されています.

 ただ,現在の研究では,これらがハンガリー人のカルパチア盆地への征服定住前の伝説を含んでいるという考えは否定されています.
 恐らくは中世の歴史家達がハンガリー人の歴史を偉大なものに見せるために,パンノーニアのゲルマン人やハンガリー王国の都市に居住するドイツ人市民,ドイツ人移民等の諸伝説や,吟遊詩人 (Spielmann) が歌い伝えたニーベルングの歌に含まれている西欧世界のフン伝説等や,スロヴェニア人の仲介で伝えられた東ゴート人のアッティラ伝説等から創作したものではないかと想像されています.
 言わば,大和政権が征服した多くの地方豪族等の伝説を自らの伝説に統合した『古事記』のようなものだと考えればよろしいでしょうか?

 楽しい話ですが,学術的には完全に史実ではないと証明されていると言ってよいでしょう.
 しかし,楽しい話ですから,当然,今のハンガリー人達は色々なものの名前にそれらの登場人物の名前を使ったりします.
 我々日本人も伊弉諾(いざなぎ)や伊弉冉(いざなみ)の話や,素戔嗚(すさのお)の話は血湧き肉踊るものがあり,アニメなどにもなっていますが,本気でそれを史実だと信じている人は,一部の「新しい日本史を考える会」の人達位 なものでしょう (^^;).
 ハンガリー人もだいたい同じスタンスです.

 この一連の「フン・マジャル伝説群」は史実ではありませんが,ハンガリーを研究する者であるならば,当然,常識として知っていなければならないということは言うまでもありません.
 ちょうど,日本史を研究する外国人の研究者も『古事記』は知っていなければならないように.
 しかし,誰も『古事記』の記述を史実だと主張はしませんよね?
(『古事記』の物語は好きだという人は多いでしょうけど.)

しい坊 : 世界史板,2001/10/03
青文字:加筆改修部分

 ありがとうございます.
 私もこれが事実とは思っておりません.
 ただ,ハンガリー人の考え方の中にこのような伝説があるということは承知しておくべきことと考えます.

 一方で西欧諸国では悪魔の如く恐れられるアッティラの末裔を自称し,また一方では初代国王イシュトヴァーン1世に対してローマ教皇が王冠を授ける際に使者に対して
「汝らの首長は真の使徒なり.」
と言ったという使徒王国の伝承を信じているというあたりが非常に興味深い部分です.

ギシュクラ・ヤーノシュ : 世界史板,2001/10/05
青文字:加筆改修部分

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