或る夜の出来事

ページ名:或る夜の出来事

登録日:2025/12/15 Mon 23:42:00
更新日:2026/06/12 Fri 23:06:55NEW!
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映画 ラブコメ 或る夜の出来事 フランク・キャプラ ジェリコの壁 1934年




映画『或る夜の出来事』は1934年公開、フランク・キャプラ監督によるロマンティック・コメディの金字塔。



【概要】

1934年、映画史におけるひとつの事件が起きた。
それが『或る夜の出来事』である。
主演はクラーク・ゲーブルとクローデット・コルベール。
原作はサミュエル・ホプキンス・アダムズの短編『Night Bus』。
公開当初は誰も期待しておらず、コロンビア・ピクチャーズは宣伝に消極的だったが、地方の映画館で火がつき、口コミで大ヒット。
結果、アカデミー賞主要5部門(作品・監督・主演男優・主演女優・脚色)を初めて制覇した奇跡の映画。
スクリューボール・コメディの原型を築き、後の『ローマの休日(映画)』『卒業』『Runaway Bride』などに多大な影響を与えた。
1993年には国立フィルム登録簿入り。2030年にはパブリックドメイン化予定。
現代のラブコメに通じる「ケンカップル」「逃げる花嫁」「一夜の同室」などの定番を生み出した。


映画『或る夜の出来事』を語るなら、まずはこの二人の名前を讃えずにはいられない。
フランク・キャプラ──庶民の夢と希望を描き続けた監督。
ロバート・リスキン──言葉で人の心を動かす脚本家。
この作品は、原作「Night Bus」をベースにしながらも、二人が再構築した脚本がすべての鍵だった。
キャプラの演出は、派手さよりも「人間の温度」を重視。
キャプラは辛い時こそおとぎ話を信じようとした。
ラスト数分のハッピーエンドマジックまで、現実的な絶望を描く。
彼の映画は“信じた者が勝つ”物語であり、民主主義への信頼でもある。
リスキンのセリフは、笑いの中に真実を忍ばせる。
その結果、アカデミー賞主要5部門を史上初めて制覇するという、映画史に残る奇跡が生まれた。


【ストーリー】

1934年、世界恐慌の余波が残るアメリカ。
大富豪の令嬢エリーは、父の反対を押し切ってプレイボーイの飛行士と駆け落ち。
だが式の直前に逃亡、クルーザーから海に飛び込み、夜行バスでニューヨークへ向かう。
バスで出会ったのは、失業中の新聞記者ピーター。スクープ狙いで彼女に同行するが、
こんな時代に、金持ち令嬢と庶民の新聞記者が夜行バスで逃避行──という設定だけで、もうワクワクが止まらない。
エリーは父の支配から逃れ、ピーターはスクープを狙う。
最初は反発し合う二人が、旅を通じて少しずつ心を通わせていく。
モーテルでは毛布を吊るして「ジェリコの壁」を作り、互いの距離を保つ。
旧約聖書の象徴を、ユーモアとロマンスに昇華させた名演出。この演出が後の作品に引用されまくる名場面に。

+ ジェリコの壁-

1930年代のアメリカ映画界。
性的描写や男女の同室すら許されない──そんな厳格な倫理規定「ヘイズ・コード」が施行されていた。
今なら「時代錯誤」と一蹴されそうなルールだが、本作においてはこの制約こそが、映画史に残る創意工夫を生む土壌となった。
ピーターとエリーがモーテルで一夜を共にすることになる。
だが、ベッドを並べて寝る描写はNG。そこで監督フランク・キャプラは、部屋の中央にロープを張り、毛布を掛けて仕切りを作るという演出を考案。
それを「ジェリコの壁」と呼ぶ──この一言が、映画史を変えた。
この毛布は、ただの検閲対策ではない。
それは、男女の“心の距離”を象徴する壁となった。
ピーターとエリーは、互いに惹かれながらも、まだ心を許しきれていない。
その微妙な距離感を、毛布一枚で表現する──これが「ジェリコの壁」の本質だ。
そしてラスト。「ジェリコの壁が崩れた」と父親に電報を打ち、毛布が落ちて明かりが消える──
この瞬間こそ、心の壁が崩れ、恋が成就したことを暗示する演出なのだ。

+ 元ネタ-

「ジェリコの壁」という言葉は、旧約聖書『ヨシュア記』に登場する城壁に由来する。
神の命令に従い、イスラエルの民が7日間城壁の周囲を回り、角笛を吹くと、鉄壁のジェリコの壁が崩れ去った──
この逸話は「信仰によって崩れる壁」の象徴として知られている。
キャプラはこの宗教的象徴を、ラブコメの演出に転用した。
つまり、信頼と愛によって“心の壁”が崩れるという物語構造を、聖書の逸話になぞらえて描いたわけである。

ヒッチハイクではピーターが失敗続きなのに、エリーは脚を見せて一発成功。だがその車は泥棒だった!
誤解とすれ違いを経て、ラストではエリーが婚約者を捨ててピーターの元へ。
毛布が落ち、明かりが消える──それが「壁が崩れた」──「恋の成就」の瞬間。


【登場人物】

  • ピーター・ウォーン(クラーク・ゲーブル)

皮肉屋でぶっきらぼうな新聞記者。だが誠実で情に厚い。
肌着なしでシャツを脱ぐシーンが話題となり、男性肌着の売上が激減し、下着メーカーが映画会社に抗議するも逆効果という都市伝説も。
ピーターのドーナツの食べ方が「ダンキンドーナツ」の語源になったという説も。
ダンキンのダンクとはドーナツをミルクやコーヒーに浸すことで、ダンクシュート(バスケットボール)はこの食べ方に見立てて呼ばれるものである。
「これは原則の問題だ。誰かにバカにされたまま終わるのはごめんだ」39ドル60セント──旅の途中で売り払った衣類とガソリン代の合計額を請求。記者としての誇りと、男としての矜持が詰まっている。
ゲーブルはMGMから“左遷”のように貸し出されたが、アカデミー主演男優賞受賞。結果的にスターへと飛躍。

  • エリー・アンドリューズ(クローデット・コルベール)

大富豪の娘。わがままで世間知らずだが、芯は強く、旅を通じて成長していく。典型的なツンデレ
ヒッチハイクで脚を見せて車を止めるシーンは映画史に残る名場面。
男性用パジャマを借りて着る姿が可愛らしく、上下パジャマが流行。
「私は甘やかされて育ったと思われてるけど、実はずっと誰かに指図されてきた」──自由を求める孤独な令嬢。
コルベールは撮影後「世界最悪の映画を撮った」と嘆いていたが、アカデミー主演女優賞受賞。授賞式には列車から引き戻されて参加。

  • アレクサンダー・アンドリューズ(ウォルター・コノリー)

エリーの父。娘を心配しつつも、最終的には彼女の選択を尊重。最終的には庶民の男を認める懐の深さ。
「彼は報酬を求めなかった。使った金額だけ請求した」──ピーターの誠実さを見抜き、娘に選択を委ねる。

  • キング・ウェストリー(ジェイムソン・トーマス)

エリーの婚約者。金目当てのプレイボーイ。クラリスの婚約者とそっくり。いわゆる捨てられる側。最後は100,000ドルで手を引く。

【余談】

  • 映画の影響で夜行バスの利用者が急増。バス旅行が一気に注目されるように。
  • ラジオドラマ化、インド映画へのリメイク、ミュージカル化など、ジャンルを超えて愛され続けている。
  • スペースボール(SPACEBALLS)』の結婚式シーンは本作のオマージュ。『卒業』『ローマの休日』など逃げる花嫁系映画の原点でもある。
  • バックス・バニーのキャラ形成にも影響を与えたとされる。人参をかじりながら早口で話すゲーブルの姿が原型。
  • 「ジェリコの壁」は、後年『新世紀エヴァンゲリオン』第9話「瞬間、心重ねて」でそのまま引用される。惣流・アスカ・ラングレーがふすまを閉めながら「これは決して崩れることのないジェリコの壁」と言い放つシーン──まさに『或る夜の出来事』のオマージュである。*1

the walls of Jericho will protect you
from the big bad wolf


毛布一枚で隔てられた追記・修正が、項目を変えた──
それが『或る夜の出来事』なのです。




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  • 余談の最後の壁を越えてほしかったってLAS過激派の暴走に往年の心理分析を思い出した -- 名無しさん (2025-12-18 23:13:50)

#comment()

*1 だが、聖書的にはジェリコの壁は“崩れる”もの。つまり、アスカの言葉は「崩れない」と言いながらも、実は“崩れる予兆”を含んでいる。この二重構造が、アスカの心の防衛と、シンジとの関係の緊張を象徴している。さらに弐拾弐話では、ふすまの前でアスカが落ち込む描写がある。これは「壁を越えてほしかったのに、越えてもらえなかった」ことへの失望を表しているとも解釈できる。

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