登録日:2012/03/02 Fri 07:02:25
更新日:2023/10/16 Mon 13:27:28NEW!
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ライトノベル 川口士 一迅社文庫 ファンタジー 地図 旅 星図詠のリーナ 測量 南野彼方
わたしが歩いた道を、見たものを、描いていくの。
これは、わたしの地図。
『星図詠(せいずよみ)のリーナ』
レーベル:一迅社文庫
著者:川口士
イラスト:南野彼方
第1巻は2009年発行。全3巻。
【概要】
作者の地図好き趣味が前面に押し出され、他に類をあまり見ない“マッピング・ファンタジー”と銘打たれたライトノベル。
中世ファンタジーチックな世界を舞台に、地図作成の任を請け負って旅に出た王女リーナが事件や陰謀に出くわしたり、お供の傭兵ダールが切った張ったの大立ち回りをする、そんな物語。
本作で注目すべきなのは、旅の折々で作中の世界観描写がとても丁寧な点。
地域ごとに異なる建築の工夫(壁に塗る塗料のあれこれ)とその質感や臭いを始め、人々の暮らしぶり、彼らの食べ物、道中に見上げた空の青さや風の爽やかさetc……。
それら諸々を、すっきりとした、しかし情感たっぷりの文体で伝えているのである。
また、前述のジャンルが示すように測量から地図作成までの手順を非常に詳しく追っているのも特徴的。
特にこちらに関しては、思わぬところで本作が紹介される原因ともなった(後述)。
ただし「魔王が……」「世界の危機が……」「戦争が……」などというお約束な展開とは縁遠く、内容はどちらかと言えば地味な部類。
そういったものを求めて読むと肩透かしを喰い兼ねないので注意されたし。
【序盤のストーリー】
父である国王の命を受け、ある街へと地図作りの旅に出た王女リーナと護衛の騎士達。
しかし彼らは道の途中で正体不明の一団の襲撃を受け、その殆どが命を落としてしまう。
危うく自身にも刃が及ぶ所だったのだが、そこを流れの傭兵ダールに助けられたリーナは彼を護衛に雇って旅を続けることになる。
やがて、妖魔をかわし夜盗を退けて目的の街に着いたリーナは、周辺地域の地図作りを進めていく。
だがそれと時を同じくして、彼女の命を狙う陰謀も密かに進行しつつあった。
迫る魔の手、そして辺境の島にて目覚める強大な力を持った“何か”。
リーナはそれらの脅威を潜り抜け、無事に役目を果たすことが出来るのか?
【主要登場人物】
○リーナ
本作の主人公。16歳。
庶子であり生まれも遅いため、王女という立場ながら権力闘争とは無縁に育った少女。
そうして培われた自由で大らかな気質により、父や三人の兄、(一人の姉を除いた)姉妹や家臣から愛されている。
また極めて庶民的かつ活動的で、堅苦しく宮廷で暮らすより、城下の買い食いや酒場で旅人の話をきくことを楽しむ傾向にある。
亡き母の影響で幼い頃から測量・地図作成技術を学んでおり、その手並みは今では熟練者の域に達している。夢は大陸全土に渡る地図を描くこと。
本編ではその知識や技術を元に、独自の発想でもって問題解決へと奔走していく。
なお、戦う術は持たないものの、戦地を母に連れまわされていた経験から流血沙汰への耐性はある様子。
「自分が生きているこの世界を知りたいというのは、自然なことだと思うの」
○ダール
18歳。半生を剣と共に過ごしてきたという、若いながらに凄腕の傭兵。
リーナの戦闘能力が皆無な分、荒事の殆どはこちらが担当する。
性格はがさつでドライ。冒頭でリーナを助けたのも「金のため」とあからさまに示す有様だった。
以降も傭兵としてのプライドからリーナには割り切った態度を保つが、その人柄に調子を崩され、やがては彼女の夢を共に追いたいと願うようになる。
かなりくたびれた服装をしていながら、常に左腕だけは大仰な籠手で覆っているのが特徴的。
そこには“ある秘密”が隠されているのだが……。
「立ちふさがる障害は俺が止める。人間だろうと落石だろうと――竜だろうと、だ」
○サラ
18歳。リーナの侍女を長らく務める、誰にでも敬語で接する物静かな少女。巨乳。
政治的に見て味方に乏しいリーナにとって、公私の区別なく信頼できる数少ない人物である。
サラからしてもリーナは妹のように可愛い存在で、何時でも何処でも何よりもリーナが最優先といった風。
そのような溺愛ぶりから、ダールを毛嫌いして彼をリーナに近づけまいとしている。
ちなみに、リーナを護るために武術を修めている。
「私はリーナ様のお傍にいます。それがたとえ黄泉路の果てであろうと」
○タルヴ
リーナの護衛についていた騎士のうち、冒頭の襲撃で唯一生き残った初老の男。
過去に多くの戦いを経験してきただけあり、剣の腕はかなりのもの。
引き続きリーナの護衛任務に当たるが、深窓の令嬢とはかけ離れた彼女の振る舞いに初めは驚きつつ、その親しみやすさに心地よさを覚えていく。
リーナを王族として敬わないダールとの仲は最悪だが、こちらに対してもある種の連帯感を築いていく……かもしれない。
○パルヴィ
彼女の腹違いの姉、つまりは同じく王女の一人。財務や統治諸々に関する知識に優れる。
歳はリーナより少し上だが身長は彼女より低く、ついでにかなりの貧乳。
他の兄や姉妹の中でただ一人リーナに厳しく当たる人物で、その影響でリーナは彼女が苦手。
彼女がそう接する理由とは?
【用語】
◇イーデン
リーナの生国にして、物語の舞台となる“大陸”の最強国。
当初は西方の小国に過ぎなかったが、現在では勢力を増して大陸の中心に都を移し、大陸で長らく続いていた戦乱を収めつつある。
現在の王は三男六女の子供に恵まれ、リーナはその五女にあたる。
◇妖精
森の奥深くに住むエルフや豚面のオルクなど、人とは異なる生態を持つ種族の総称。
後者は人に混じって傭兵業に勤しむ者も多い。
◇竜
人や村を襲い財宝を蓄え、高貴な女性を攫った果てに騎士に討たれる……などの伝承を持つ生物。
とは言うものの、まず人前に姿を見せないために実態は殆ど謎に包まれているのが現状だったりする。
実際のそれらは伝承に謳われるように画一的なものではなく、様々な姿をとる。よくあるトカゲ似の姿で暴れまわるものもいれば、“人に憑く”ものもいる。
旅の中でリーナは、何故か引き寄せられるようにそれらと遭遇することになる。
◇形見の磁針
王に嫁ぐ前は占星術師だったという亡き母がリーナに遺した、非常に高い精度を持つコンパス。
この所持者であるということには特別な意味が秘められているのだが、当のリーナはその事実を知らないまま。
【余談】
“ラノベ(しかもガチのファンタジー物)で測量や地図を詳しく扱った異色作”ということで、長い歴史をもつ測量専門誌『月刊 測量』のコラムで紹介されたことがある。
紙上では諸々の学術誌に紛れた本作が、やはり他の学術誌と同じように真面目に紹介されたらしい。……なんぞこれ。
(掲載誌は『月刊測量 2009年 9月号』)
その様に変わった方面でコアな反響を生んだ本作だが、商業的には振るわず3巻を持って一旦終了と相成った。
続編の構想も無いではないらしいが、同レーベルで作者が『千の魔剣と盾の乙女』を書いている現在は見込みは薄そう。
ちなみに、『千の魔剣』の物語は本作の時代から数百年後の未来を描いたものらしいことが濃厚に仄めかされている。
本作を読んでおくと、『千の魔剣』の主人公ロックが手にする一振りの魔剣との繋がりに気づけるはず。
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