登録日:2017/04/28 Fri 23:15:00
更新日:2024/02/06 Tue 11:02:17NEW!
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戦慄する項目 scp scp財団 scp foundation thaumiel 記憶処理 djkaktus シリーズファーストナンバー 認識災害 ウツボ scp-3000コンテスト a random day joreth scp-3000 アナンタシェーシャ ドクウツボ
監督評議会命令
以下の文章はクラスVIII認識災害を描写しており、レベル5/3000に分類されています。未承認でのアクセスは禁止されています。
―3000―
資格情報を承認――――
LEVEL 5/3000
CLASSIFIED
すべて忘れて消え去ってしまえたら、それこそきっと大いなる救いなんだろうさ。
SCP-3000は共同創作サイト「SCP Foundation」で生み出されたオブジェクト。
オブジェクトクラスはThaumiel。財団が利用できる切り札的SCPである。
オブジェクト名は「Anantashesha(アナンタシェーシャ)」。SCP初の3000番台である。
アナンタシェーシャとは
正直Pixiv百科事典が詳しい説明をしているので細かい内容はそちらに委ねるとして、
概要だけかいつまむと、「千の頭を持つ蛇の神」。インド神話に登場するナーガの王。
悪王であるカンザに白い毛を抜かれ「バララーマ」という分身を作られたが、その役目を終えた時、口からアナンタの蛇を出し海へ帰ったという。
世界が始まるとき、そして世界が終わるとき、アナンタはヴィシュヌと共に原初の水を漂うという。
収容チームの1人、クリシュナモージー博士がSCP-3000をこう呼んだことから項目名となった。
概要
とまあ脱線はさておき、このSCPの説明に移ろう。
SCP-3000は上述の通りドクウツボに酷似した外見を持つ実体なのだが、何といってもサイズがおかしい。
何しろでかすぎて計測できていない。一説には全長600~900kmに及ぶという。
その為財団はコイツを収容することができず、《SCPFエレミタ》と呼ばれる潜水艦を用いた監視を行うのみとなっている。
その大きい図体の大部分は岩陰に隠れていて、普段は頭だけを出しているという。あと、でかいナリして目にも留まらぬ素早い動作で人を喰う。
更に、SCP-3000は単なる大怪獣ではない。周囲の人間に対し悪影響をもたらすのだ。
SCP-3000に近づいた人間には、頭痛や人間不信、記憶喪失や記憶改変の症状が現れる。
また、ミームへの抵抗性の弱い人間ほど影響を受けやすいようだ。SCP-3000発見時の調査の報告書に、精神汚染の餌食となった研究員の様子が記されている。
- ユージーン・ゲッツ博士の記述(抜粋)
…最初の夜、それに向けて沈降するに従い乗組員全体に不安が広がった。我々が何を発見するのか不明確であったためか、より悪質な何かが原因なのかは私には想像もつかなかった。
沈降するに従い、ウィリアムズが多量に汗をかき始めた。それについて尋ねられても、彼は返答できず、自分でも分からない何かを無くしているような気がすると主張した。
沈降すればするほど、彼はさらに迷走的に振る舞うようになり、私を"ダーレーン"と呼び、割り当てられた任務についての不安を表明するようになった。
(中略)
0940時ごろ、実体の頭部を初めて観察した。(略)
50メートル以内に接近したとき、実体はゆっくりと振り向き我々を見た。今でも私は闇の中でとぐろを巻くそれを見ていたことを思い出す。
ウィリアムズが艦の後部で狂犬のように叫んでいたのが今でも聞こえる。吠えて周囲のものを叩きながら、頭のなかでそれが見えると叫んでいた。
パーキンスとハリソンは彼を拘束しようとしたが、彼はふりほどいで頭を舷窓へ打ち付けた。あまりに激しく当たったので、ガラスの内層にヒビが入り、我々は浮上しなくてはならなくなった。
我々はウィリアムズに医療処置を施そうとしたが、そのときには彼はあまりに悪化していた。ガラスへの衝突でひどく潰れていて、しかしその負傷にもかかわらず、死にゆきながら簡素な言葉を発していた。
誰もそれを記録しなかった。そのときにはそうしようと思わなかったのだ。しかし私はよく覚えている。
彼は"そこには何もない、何も、何も"と言っていた。我々が数時間後海面についたときには、ウィリアムズは死んでいた。
SCP-3000発見の発端は、二隻のバングラデシュの漁船と15名の漁師がインド沿岸を漂流した後行方不明になったことだった。独立直後で情勢が不安定だったバングラデシュでのこの事件は世界中のメディアに騒ぎ立てられたが、運よくインドのカルカッタに居合わせた研究員の要請によって財団が調査を開始。ベンガル湾海底にてSCP-3000が発見された。
1972年に報告書が作成され、特別処置「アザック・プロトコル」が付加された。
財団に欠かせぬモノ――記憶処理
ここまでのSCP-3000を見てみると、「とにかくサイズのデカい認識災害」である。ぶっちゃけ大した事ないな!
読者諸兄は「収容できてないからKeter」が適切では…?とお思いかもしれないが、オブジェクトクラスはThaumiel。SCP-3000も、何らかの形で財団に利益を与えている、という事だ。
アニヲタ諸君は既にご存じであろう「記憶処理」。
「都合の悪い記憶を消して、無かったことにする」財団のお家芸だ。
しかし、今まで気になったことがなかっただろうか?そんな都合のいい記憶処理剤の入手ルートについて…
財団の切り札として
発見当初から、SCP-3000からは灰色の粘液の分泌が観察されていた。当初はSCP-3000の血液と思われていたそれは、SCP-3000の捕食行動時により活発に分泌されることが分かり…
そしてその粘液には強力な『記憶処理剤』となりうる物質が含まれていたのだ。
財団はY-909と名付けたその化合物から、各レベルの記憶処理剤を作り上げた。
しかし、さしもの財団もY-909の人工合成には現在まで成功しておらず、完成したのは「全ての記憶を消す」粗悪品だけだった。
その為、Y-909を使用する――記憶処理を行う為にはSCP-3000から粘液を採取する必要が、それには誰かがSCP-3000の餌となる必要があった。
サイト-29、サイト-50、そしてサイト-151の駐在研究員たちは、そのために「アザック・プロトコル」を作成した。
そこには、「SCP-3000の粘液調査」と偽ってDクラスをSCP-3000の生餌とし、Y-909の回収を続ける財団の姿があった。冷酷だが残酷ではない? 何の事だか。
- アザック・プロトコルの手順(若干要約)
MTFイプシロン-20"夜の漁師"のメンバーは給餌場所へ輸送される準備を行います。
一人のDクラス人員が鎮静剤を投与され、高圧潜水スーツを装備します。続いてDクラスは艦尾エアロック内で水中遠隔操作機に結び付けられます。
エアロックは注水され、Dクラスは操作機により給餌場所へと牽引されます。給餌場所へ到着すると、操作機はエレミタへ帰還します。
(この際、SCP-3000の場所をモニターし、もし実体が給餌場所から動き始めるならコースを修正しなくてはなりません)
【SCPFエレミタ】に搭乗する職員は、給餌の間SCP-3000をモニターします。この間、いかなる職員もミッション司令部の許可なしにエレミタを離れてはなりません。
獲物の完全な消費が終わった時点で、SCP-3000はその体の先端部付近からY-909の分泌を始めます。
深海潜水士の特殊チームが艦尾エアロックからSCPFエレミタを離れ、SCP-3000に近づきます。
Y-909の収集は、現在獲物の消費からおよそ2時間半後であると考えられているSCP-3000の"消化"期に行われなくてはなりません。
チームはこの時期が終わる前に帰還し艦を発進させなくてはなりません。
この時期の間、SCP-3000の典型的な影響は比較的弱くなっていますが、司令部は認知へのダメージに関してチームをモニターし続けます。
Y-909の収集が完了したならば、浮上する前に職員は収集した物質を安全容器に入れます。ミッション管理者が輸送の間物質をモニターします。
※エアロック……宇宙船によくある、船内と宇宙空間の境にある小部屋。空気が宇宙に漏れ出たり、部屋が海水で満杯にならないようにする役割がある。
財団はSCP-3000、そしてY-909が発見されるまで、記憶処理にはアヘンやクロロホルムという、場合によっては命さえ危ないシロモノを公然と使っていた。
Y-909を利用しないことは暗黒時代に後戻りするも同然と財団は考え、倫理委員会も審査委員会も黙らせ、DクラスをSCP-3000の餌およびY-909の回収係に割り当てている。
Y-909の危険性
だが、これで終わらないのがSCP。メリットもあればデメリットもあるのだ。
09年██/██日、財団職員の一人でありレベル3研究員の『ベンカトラマン・クリシュナモージー』博士が、
自らエアロックの外に出ようとした事件が起こる。
拘束され未遂に終わったが、何より不思議だったのは、認知抵抗値も高く、それまで問題を起していなかったクリシュナモージーが突発的にその行動を起こした点。
この事を踏まえ、臨床心理学者の『アナンド・マナバ博士』による会話記録が残された。
以下はその抜粋である。
(略)
クリシュナモージー:覚えてないんだ。少しも。どれも。まるで私の体が勝手に反射で動いているみたいに、何もかもが文脈につながらない感覚がある。すべてが繋がっていなくて、私はそれらをまとめようとして…私はただ疲れたんだ。
マナバ:そういう感覚が始まったのはいつ頃だい?
クリシュナモージー:我々はもうどれくらいここにいる?私は思いだせない。私は正直に言っていつのことだかわからない。君にもっと言えることがあればいいのに、私には何もない。私が心の中であの場所に目を向けると、そこには何か別のものがある - あるいは時には何もない。
マナバ:どういう意味だい?何か別のものとは?
クリシュナモージー:アナンド、私は他の人の夢を記憶していたんだ。私は私にはわからない顔を見た、見たこともない場所…あるいは見たことのあるかもしれない場所。わからない。自分の心が信頼できないときに、何が現実で何がそうじゃないかなんて、どうやって見分ければいい?
クリシュナモージー:私は…私は母親を思い出せない。声は覚えている、だけど顔を思い出せないんだ。匂いも…あるいは他の…でも彼女が神について私に語ったことは覚えている。(間)神はいる、アナンタシェーシャと呼ばれる。蛇だ、蛇の王。宇宙の中で、ヴィシュヌの下に横たわると言われる。6つの頭を持つ蛇の神。凄いと思わないか?
マナバ:それは…ああ、私もよく知っているよ。
クリシュナモージー:ああ…もちろん、すまない。忘れてたよ(訳注:おそらく二者は同じ文化圏の出身で、神話の説明をする必要はないことに気づいたことを示す)。(間)彼女は…私はよく覚えていない。だが彼女がアナンタシェーシャがどのように…どのように世界の終わりを過ぎて時を過ごすかを語ったのを覚えている。世界の終わりを過ぎて闇を見つめる。彼女は言ったよ、世界の光が過ぎ去ったとき、残るのはアナンタシェーシャだけ。(間)私は思い出せる限りの人生のすべてを財団に捧げてきた。名を売り名声を得るために、そして何かを残すために…出来ることは何でもした。私がここにいたことを示す何かを。だが…
マナバ:それはなんだ?
クリシュナモージー:私は…私はSCP-3000はアナンタシェーシャだと思う。この…この逸脱、この認知への裏切りは、神の近くにいたためだと思う。ただの神ではない、すべての時をまたがり存在する神、すべての時に同時に、そして…それをも超越して。もしかしたら…もしかしたら時の縁を超えた無の一部すらも、アナンタシェーシャの一部なのかもしれない。もしかしたらそれは、それは何らかの導管として作用し -
マナバ:ベンカット、頼むよ、我々は科学者だ -
クリシュナモージー:いや、最後まで言わせてくれ。この後、すべての後に訪れる無の反抗の中に、アナンタシェーシャはいる。私の記憶が生き続ける、あるいは私が見た私を通り過ぎていった記憶のように私自身が記憶される望みがある。確信…確信があるわけじゃないんだ。だが私がその目を覗き込み、それが私に見せるものを見たとき、私は怖かったんだ。私は単なる凡庸な男だ、アナンド。これは私が何年も認めようとしなかった恐怖だ。私が死んだ時に私が何者だったか誰も知らないという、無関心への恐怖だ。忘れられることへの恐れ。私の人生が無意味だったことへの恐れ。孤独への恐れ。死への恐れ。(嘆息)私が克服できない恐怖が私の中にあるんだ、アナンド。私は君に嘘はつきたくないし、ナーガの胃は私にとって恐怖ではないとは言わない、だがこれと私が見た永遠の暗闇だったら…私は決心したよ。
[ログ終了]
このインタビューの後、クリシュナモージーは2日ほど安全房に収容され、その後拘束命令が引き下げられた。
―――が。
クリシュナモージー:アナンド…私は間違っていた。(すすり泣く)神よ私を救い給え、これは -
<02:29:21> SCP-3000は襲いかかり素早くクリシュナモージーを消費する。
解放から3時間後、クリシュナモージーが【SCPFエレミタ】を無断使用しSCP-3000の元へ移動。
自らの肉体をSCP-3000に捧げ、餌となってしまう。
マナバ博士は、自らの日記の中で、こう綴っている。
彼はいつも私よりは信心深かった。彼の人生の終わりから間もなく、彼はアナンタシェーシャ - 原始ヒンドゥーの蛇の神 - のもとで生まれ変わり、永遠を歩き回るのだ。私は彼の信仰と彼の主張の整合性を問おうとするわけではないが、これは実に謎であり、この配属が以前の配属に比べれば比較的楽であっただけ、私は幸運であると考えるべきだろうと思っている。
もしかすると、彼は凡庸さにはまり込む運命を本当に恐れたのかもしれない。
もしかすると、この場所の静寂が彼にもっと悪い何かを思い起こさせたのかもしれない。
宗教的なバックグラウンドか、それともストレスか。クリシュナモージーにカウンセリング的なインタビューを行おうとした臨床心理学者にもかかわらず、彼にすらクリシュナモージーの真意はわからなかったことが伺える。
一方で
私は自身の心理に何が起こっているか気づいている。私は私の記憶が吸い取られていることを、その断片が今まさに失われていっていることを知っている。私は校門の前で自転車に乗った若い男の映像を思い出せる。80年代、私がシンガポールにいたころのように見える - 彼は笑っている - だが私は彼が友人なのか、恋人なのか、息子なのか、家族の友人なのか - この若者が誰なのか知らない。多分イタリア人?あるいはもしかしてオーストラリア人か?もしかしたらこれは嬉しい思い出ですらないかもしれない。
クリシュナモージーの言うとおり、マナバ博士にも、記憶の喪失が現れたのである。エレミタ艦内にいてもなお、SCP-3000の認識災害は届くというのか、あるいは艦内に貯蔵されたY-909を含む粘液の作用か。
私はこの30年、私の父が教えようとしたヒンドゥー教の全てを拒んできており、私の脳は彼が言ったはずのことを何一つ思い出そうとしない。
私はこれもウツボのせいだと言いたいが、正直に言うと単に彼の教えを全て忘れようとしただけなのだ。最初はそうではなかったかもしれないが、終わりには確実にそうなっていた。私は彼の外見すら辛うじて覚えているだけだ。だが私が祖父の名、大叔父の名を覚えられなかったときどれほど彼が怒ったかを思い出せる。彼は彼の文化遺産を残そうと必死だった、そして私は彼を悩ますためなら何でもした。彼は死の床について、死後に伝統的な死の儀式をしてくれるように私に頼んだ。彼は手順を書き出しすらしたのだが、私は彼にとても怒っていたため、彼の眼前でそれを破り捨てたのだ。何故だったのかも今では思い出せない。彼に関する私の記憶は、彼が私をどんな気分にしたかだけだ。彼はほぼ20年の間、我々の遺産を後代に渡そうとし続けた - そして今私が持っている全ては怒りと憎しみと後悔である。
私が取ったものはただ一つ、窓の脇のガネーシャの像だった。なぜそうしたかは自分でもわからないが、今それは本棚で湖畔のテラスで撮った私、私の妻、そして私達の娘の写真に並んで座っている。
私はいくつかのヒンドゥーの詩や歌を学ぼうとし始めていた。外出してヴェーダを一冊買った。だが私は節を上手く覚えることができなかった。
信心深い父親と深い確執を抱え、ほとんど無宗教のように生きてきたマナバ博士であったが、信仰と伝統文化を後代に伝えようとした父親の行為もまた、忘れられる恐怖への抵抗であったことを理解したのか、マナバ博士にも記憶を失う恐怖から宗教へ頼る気持ちが生まれたのか、ヒンドゥーの神の像や経典を求めている。
そしてついに、マナバ博士も精神を崩壊させる。【SCPFエレミタ】のエアロック付近で未応答、所謂植物状態で発見されたのだ。自らY-909を大量摂取したと考えられる。
その時に、破り捨てられた日記の1ページが発見されていた。
今週の初め、別件のレポートのためにノートを準備していたとき、私は誤って私と妻、そして娘の写った写真をナイトテーブルから落としてしまった。ガラスは割れて床を打ち、写真が出て落ちた。掃除している間、写真の裏に何かが書かれているのを見つけた。
“アナンド、シャンティ、パドマ。2002年6月”
しかし字体は私のものではなかった。それはベンカットのものだった。私は混乱した。なぜベンカットは私の写真の後ろに書いたんだ? 私はその時はあまり考えず、残骸を片付けて一日の仕事に戻った。
しかしこの疑問が頭に残った。小さなことで、いくつかの理由で説明がつく。しかし私は不安感を拭い去れなかった。昨日の晩、恐ろしい考えが私を打ちのめした。翌朝に持ち越すことなどできず、私はすぐに財団の職員アーカイブにアクセスし、受け入れがたい真実を認識した。
シャンティはベンカットの最初の妻だ。パドマは彼の娘。記録は明らかだった。私の思い出せる人生、彼女らと体験したと私の確信する出来事、それらは私のものではなく、ベンカットの記憶と体験なのだ。私は結婚したことはなく、子供はいない。今ですら彼女の笑い声、髪の香りが、私の心に鮮明に焼き付いている。しかし今やそれは私自身ではなく、ベンカットを通した体験だったと知ってしまった。
勿論、自分の人生の記憶と思っていたものが他人のそれとすり替えられていることは恐怖であろう、だがそれはもっと深い、人間が根源的に抱える恐怖につながるのだ。すなわち:
この現実を認識する恐怖は、また別の種類の奇妙な恐怖に取って代わられた。私はウツボが何をしたのか理解した。あれに付随する何か、あの生成物に潜む何かは、認知を嫌う。それは我々が真にそれである何かが残るまで、人間の精神を破壊し、我々が魂と信じている我々の一部を撒き散らすのだ。我々が真にそれである何か - すなわち、いつの日か不活性となる電気信号である。
私自身でさえ私を思い出せないのなら、他の誰が私を覚えているというのだろう?私は私自身の人生を忘れてしまった - そして私は奇妙にもこの啓示に対し無感情である。私は私以前の幾千もの人々と同じように、そして私の後の幾千がそうするように、闇へと消え去るだろう。私が忘れ去られることを誰も気にかけない。私は私自身のために絶望するのではなく、我々全て - 私とあなたのために絶望する。我々は全て忘却に向き合わされるだろう。私は無価値で、あなたも無価値だ。
人間が自分のアイデンティティ、または"魂"として自覚するものは、殆どが"記憶"に依存している。それを無くしたとき、人は自らの精神は脳のシナプスの電気信号に過ぎないことに気づくのだ。そして、その"記憶"すらも自らが死ねば - あるいは自分を覚えている家族や友人が死ねば - 消失する。自らが無価値な、悠久の時の流れの中ではあまりにも小さい存在に過ぎないと自覚すること。これこそがSCP-3000が人間に突きつける恐怖である。
我々は最後には、忘れ去られるのだ。*1
また、アザック・プロトコルに付属されたメモでは、
何人かの我々の生物学者は、SCP-3000は知的生物を知的たらしめている何かを分解しており、皮膚の一部からそれを濾過し、我々が集めているのはそれに含まれる「エーテル」であるという仮説を提唱している。もっとクソッタレなことを知りたいか?
我々はあれの内部で何が起きているのか見ようとして、その放射線写真を撮影した。あの中は人間の死体でいっぱいだ。あれは彼らを消化などしていない。何か別のことをしている。その最終産物がY-909だ。
SCP-3000はヒトを捕食し、取り込んだ人間の「記憶」「ミーム」「感性」などの「その人をその人たらしめるモノ」を引き出しているのだと考察する。
だとすれば、Y-909を取り込むことは、その人の「記憶」で元の「消すべき記憶」を上書きしているのであろうか?
それを繰り返せば、その人はいつか別人となる。自分ですら自分を覚えていないのだ。
結局は「全て忘れ去られる」。その後は何も変わらない。自分は必要とされない。
これに気づかせることが、【Y-909】の真の危険性である。
余談
SCP-3000は例によってコンテスト形式で決定されたが、そのテーマはズバリ「ホラー」。
この報告書で語られるホラーは、「自分が自分で無くなる恐怖」と「自分が忘れ去られる恐怖」である。
前者は知能を下げられたSCP、後者は人類の最後の希望への対比となっているような気がする。
SCP-3000はもはやこの報告書に留まらず、全てのSCPにおいて回想される「ホラー」である。それが高い評価に繋がったのではなかろうか。
ちなみにこのSCPはdjkaktus氏、A Random Day氏、Joreth氏による3人合作である。
…
Y-909に関するもう一つの可能性とSCP-3000の持つ異なる『恐怖』について
上記の考察におけるY-909の本質とはSCP-3000の犠牲者が持つ「記憶」「ミーム」「感性」といった要素が抽出されたエーテルであり、記憶処理とは即ち対象者の記憶の一部をそれで上書きすることである、とされている。
しかし、本当にそうなのだろうか?
クリシュナモージーとマナバ、2人の博士の身に起こったことについてもう一度考え直してみよう。
どちらの人物も3000が示唆する『自分自身ですら自分を覚えていられなくなり、最後には自分という存在が全てから忘れ去られ、闇へ消える』という事実がもたらす恐怖を理解し、自身の矮小さと無価値さに絶望したことで破滅に至っている。
そしてその恐怖を理解するきっかけとなった出来事とは「自分の記憶が失われるか、あるいは他の誰かのものに置き換わっていることを自覚した」というものである。
だが、そもそも何故そんな出来事が起きたのか? 何によって引き起こされたのか?
上記の考察を前提とするなら、それはY-909、ひいては記憶処理が原因ということになる。
しかしよく読んでみると、出来事の前後でクリシュナモージー博士やマナバ博士が記憶処理を受けたような描写は全くない。
描写がないだけで受けていたという可能性もあるが、それならマナバ博士や財団が一連の事案の原因としてY-909を疑っていないのは不自然である。
だとすればこの出来事を起こしたのは、2人の記憶を弄くったのは誰なのか?
もう察しが付くだろうが、SCP-3000本体としか考えられない。
覚えているだろうか、SCP-3000の精神汚染による症状の中に「記憶喪失」や「記憶改変」も含まれていたことを。
加えて被害に遭ったマナバ博士本人も「私はウツボが何をしたのか理解した」と日記に記している。
2人の博士はどちらもアザック・プロトコルの関係者である。当然ながら3000には何度も接近していただろうし、プロトコル実行時以外も比較的近くに滞在していたはずだ。
いくらアザック・プロトコル関係者として認知抵抗に優れていたとしても、記憶への影響は認識災害とは直接関係のない精神影響であり、完全に防ぐことはできなかったのだろう。
こうしてクリシュナモージー博士は自身の記憶を奪われ、マナバ博士はそんなクリシュナモージー博士の記憶を自らのものとして植え付けられた結果、ウツボが示唆する真の恐怖を理解し発狂してしまったのである。
つまり2人の博士や初期調査における探査職員達の記憶を狂わせ、弄んでいた張本人が3000ということになる。
また、3000に取り込まれたクリシュナモージー博士の記憶が記憶処理などを介さずマナバ博士に植え付けられたということは、記憶のすげ替えはY-909ではなく3000が直接行っており、取り込まれた人間の記憶といったものはY-909に含まれていない可能性が高い。
では結局のところ、Y-909という物質は一体何なのだろうか。
先程は省略したが、アザック・プロトコルに付属されたメモにそのヒントと思しき説明が書かれている。
当初、我々はそれを出血だと考えた。SCP-3000を見るため派遣された最初のチームは、分析のための血液サンプルを得るために潜った。SCP-3000が彼らに襲いかかり消費し、その物質をさらに分泌し始めたとき、我々は全く違うものを目撃していると気づいた。それは血などではなく、むしろプリオン懸濁液に近い。それは極度に有毒で、その周囲で長い時間を過ごすだけでパラノイア、記憶の喪失、自殺的な思考といったSCP-3000への暴露がもたらすものと同じ影響が発生する。
Y-909はそれ自体がSCP-3000と同じような異常性を有しているのだ。
更に、先程少し言及した人工合成によって生み出される「全ての記憶を消す粗悪品」についても少し考えてみよう。
そもそも何故人工的に合成したいのかと言えば、Y-909を確保するには人間を消費させなくてはならず、コスト面においても倫理面においても問題があるからである。
ならば当然、この粗悪品はそれらの問題を抱えずに済むような方法で合成されているはずだ。
3000がやっているのと同じように、人間的な要素を分解してエーテルを取り出すような方法では何も問題が解決しない以上、人間の記憶といった要素は粗悪品に含まれていないと考えるべきだろう。
にも関わらず、発生している問題は「記憶を上手く消せない」「消した記憶のギャップを埋められない」などといったものではなく「全ての記憶を消してしまう」というものである。
記憶処理がY-909に含まれる記憶を用いた上書きであるという説で考えると、これも何処か不自然ではないだろうか?
「任意の記憶を消せる」Y-909の劣化コピーが「記憶を全て消す」という効果を有している……
これらのことから考察できるY-909の本質とはつまり「SCP-3000の異常性の中継器」である。
3000による精神影響の効果範囲には未確定であるものの限界が存在するが、Y-909を摂取させた人間にはそれを中継とすることで離れた距離においても異常性を行使し、記憶を操作することが可能となる。
粗悪品の場合は中継として機能はするものの、3000による制御が十分に働かないため一種の暴走状態に陥り、結果として全ての記憶を消してしまっていると考えることができる。
実際、粗悪品についてはメモで「記憶処理そのものは作用したが次第に他のことも忘れ始め、最後には何も残らなかった(要約)」と説明されている。単なる上書きではこのような挙動は考えづらく、その点でも納得感があると言えるかもしれない。
もっともこの説の場合、なぜウツボがそんな財団に都合の良い効果をもたらしてくれるのかという部分で疑問は残るが…。
ここまでY-909に関するもう一つの可能性について考察してきたが、仮にこの説が正しいとした場合、SCP-3000が持つ『恐怖』にも異なる形を見出すことができる。
再び2人の博士の話に戻るが、最初に影響を受けたクリシュナモージー博士は自分が他人の夢を記憶していることを理解し、次に自らの本当の記憶が失われてしまったことを理解した。
マナバ博士とのインタビューにおいて彼は「自分が結婚しているのか、子供がいるのかもわからない」と語っている。
そして後に影響を受けたマナバ博士は自身が持つ「妻や娘と体験した出来事」の記憶がクリシュナモージー博士のものであり、本当の自分には妻子などいないことを理解した。
そして先程説明した通り、この記憶転移を引き起こしたのは3000本体であり、Y-909や記憶処理はこのプロセスに関わっていない可能性が高い。
これらの事実から読み取れることは、SCP-3000による記憶改変で失われた記憶は上書きされているわけでも廃棄されているわけでもなく、3000本体が保持している可能性が高いということ。
そしてY-909が3000の異常性の中継器であるとするなら、それを用いた記憶処理によって除去された記憶も3000に蓄積されていっていると考えることができる。
…ここまで考察した上であえて問おう。
なぜSCP-3000はクラスVIIIなどという極めて強力な認識災害を帯びているのか?
財団はこれまで数多くの異常存在を管理してきた。
「確保、収容、保護」の理念を掲げ「人類は恐怖から逃げ隠れていた時代に逆戻りしてはならない」という信念を胸に、暗闇の中に立ち、正常性という光の中で生きる人々から恐怖を遠ざけるために使命を果たしてきた。
しかし全てを完璧に成し遂げることはできず、時には光の中で生きるべき人々の一部が異常に直面し、恐怖する事態を許してしまうこともあった。
だがいつからか、彼らは記憶そのものを自在に消し去ることができる力を手に入れていた。
彼らはそれを用いて無垢なる人々の恐れや悲しみを取り除き、再び光の中で胸を張って生きられるようにした。
時には自らにもそれを使い、心を蝕む数多の異常にも立ち向かえるように己を強化し、あるいは鼓舞した。
彼ら自身をも絶望させる恐怖や、彼ら自身の失敗から生まれた後悔すらも覆い隠し、目をそらせるようにした。
遂には訪れた終焉からも立ち上がり、自らが一度味わった黙示録の真実も消し去って再始動を繰り返した。
そうして、暗闇から溢れ出るあらゆる恐怖の記憶を拭い去ってきた。
だが、その恐怖は真に消えてはいない。
例えどれだけ覆い隠しても、目をそらしても、自分自身ですら忘れてしまったとしても、消し去ったはずのものは常にそこにある。
ウツボは終焉を告げるものではなく、ただそれが何なのか、何であったのかを示す存在でしかない。
しかしそれは忘れ去った真実であり、決して逃れることのできないものである。
SCP-3000という存在は、恐怖を遠ざける財団自身が抱え込んできた『恐怖』の象徴である。
…という風にも考えられるのかもしれない。
追記・修正は新たなる記憶処理の発案と共にお願いします。
SCP-3000 - Anantashesha(アナンタシェーシャ)
by djkaktus and A Random Day and Joreth
http://www.scp-wiki.net/scp-3000 (本家)
http://ja.scp-wiki.net/scp-3000 (翻訳)
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