盗撮の刑法における規定について

質問

盗撮を刑法で処罰できるように法改正を求める動きがあるようですが、被害者が誰だかわからない場合に性犯罪として処罰できるのかが課題でなかなか法改正の動きが進まないと書かれていました。

レイプや強制わいせつ罪など刑法で性犯罪として規定されている罪では、被害者が誰だかわからない場合は有罪にできないということなのでしょうか？
たとえばレイプの現場を目撃した人が犯人を取り押さえて警察に突きだし犯人も犯行を認めたものの、被害者の女性が行方をくらましてしまい誰が被害者だったのかわからない場合は、有罪にできないということでしょうか？

盗撮の場合は被害者が誰だかわからない場合がますます多いと思いますが、刑法による性犯罪ではなく迷惑防止条例で摘発しているからこそ被害者が不明でも有罪にできているということなのでしょうか？

回答

一般論として、お答えいたします。
＞レイプや強制わいせつ罪など刑法で性犯罪として規定されている罪では、被害者が誰だかわからない場合は有罪にできないということなのでしょうか？
＜本件に該当する刑罰規定としては、現行刑法においては強制性交等罪及び強制わいせつ罪に関するものと解します。平成29年施行改正刑法より以前の刑法の場合、刑法第22章（わいせつ、強制性交）に関しては、親告罪規定がありました、この場合、告訴権者が告訴を行わない場合そもそも国家訴追することはできません。
また、現行刑法においては、その規定はありませんが、現行刑法§176と§177において、その構成要件の成立を立証するためにはやはり、その被害者が必要です。ですので、現実的に不可能です。

＞刑法による性犯罪ではなく迷惑防止条例で摘発しているからこそ被害者が不明でも有罪にできているということなのでしょうか？
＜その通りです。というのは、当該刑法である§176及び§177における保護法益は、「性秩序ないし健全な性的風俗」です。よって、必ずしも原因と結果に人から人という要件が必要になります。（わかりやすいようにするため多少語弊を生みますが、、、）ただし、一般的な迷惑防止条例（ここでは特に大阪府迷惑防止条例に関して）では、§6第2項にもあるように、「『人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法』で、公共の場所又は公共の乗物における衣服等で覆われている内側の人の身体又は下着を『見、又は撮影すること』。」とあります。つまりは、迷惑防止条例では、実際に人と人との因果関係によって、秩序維持に著しい問題を生じさせたということではなく、『人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法』によって、『見、又は撮影すること』事態の「行為」そのものに対する保護法益が働くわけです。すなわち、法が守ろうとしている対象そのものが異なるわけです。故に、一般法たる刑法と地方自治法に基づく特別法たる迷惑防止条例における差異が生じるということです。

質問

ありがとうございます。やっぱりそういうことなのですね。
盗撮の規制で条例が守ろうとしている対象は女性個人ではなく、社会秩序を守ろうとしているのであって、盗撮事件が発生しても撮られた女性は被害者ではないということを最近知って驚きました。
時々みかける報道では、公衆女子トイレから盗撮カメラが発見され100人以上の盗撮データが見つかる等の事例もありますが、撮られた女性は被害者ではなく無関係者？で、人数を量刑に反映できないので軽い罪になってしまうのですね。
だからといって、これを改善するための法改正をして、被害者を撮られた個人に変更した場合、100人の女性が下半身しか写っておらず誰だか判別できない場合は、被害者の証言が得られないので犯罪が立証できず無罪になってしまう恐れがあるのですね。
なかなか難しい問題なのですね。

以上