対中飛車角道不突き左美濃

ページ名:対中飛車角道不突き左美濃

タイトル 『振り飛車最前線 対中飛車角道不突き左美濃』

著者 都成竜馬
出版年 2018年
1.この本を読んだ経緯
現状居飛車党にとって最も警戒すべき振り飛車は中飛車といっていいでしょう。およそ20年前に登場して以来猛威をふるっていたゴキゲン中飛車については「超速▲3七銀」が発明されたため、居飛車側がだいぶ戦えるようになりました。
とはいえ、振り飛車側からの対策も進んだため現在は初手から▲2六歩△3四歩▲2五歩△3三角▲7六歩と進めてゴキゲン中飛車自体を封じる動きも一般的になっています。特に2018年の王位戦では挑戦者の豊島先生が先手番を持った際にはすべてこの順を選び、菅井先生が得意としているゴキゲン中飛車を封じて王位獲得に至りました。
もっとも、この順は後手番では選べません。初手▲5六歩からの中飛車に対して豊島先生は勝ちを収めることができず、依然として中飛車の優秀性は健在であると証明する結果となりました。
ネット将棋でも初手▲5六歩からの中飛車はシンプルでありながら主導権を握りやすいため、人気の高い戦法としてよく指されています。
筆者もこの戦法には苦戦させられることが多い上に、世の中に出ている中飛車対策の本はほとんどが先手居飛車の対策であったため、一手の違いに苦労することが多々ありました。
そんな中で本書は珍しく後手番の対策を教授してくれるものだったため、購入に至りました。
 
2.著者都成竜馬さんについての紹介
都成五段は26歳の年齢制限ギリギリでプロ棋士になった方です。奨励会時代から谷川浩司九段の唯一の弟子として将棋ファンには知られており、2013年に出場した新人王戦では、奨励会員が一般棋戦優勝を果たすという史上初の快挙を成し遂げました。「都成流」と呼ばれる独特な指し手を披露することも多く、今後も話題を作り続ける棋士となるでしょう。
なお、都成五段は振り飛車党ではありますが、本書は中飛車を主に指す棋士が居飛車側の立場に立って対策を研究するという一風変わった趣の棋書となっています。
 
 
3.本の構成 (目次そのまま書いてください)
  序章 本書の概要
  第一章 ▲5五歩型
  第二章 ▲5五歩保留―美濃囲い
  第三章 ▲5五歩保留―穴熊
  第四章 実戦編
   第一局 千田五段の新構想 千田翔太五段戦
   第二局 △6四歩型の優秀性 藤井聡太四段戦
   第三局 終盤で競り負ける 藤井聡太四段戦
   第四局 初めての端角で勝つ 伊藤博文七段戦
   第五局 中飛車穴熊で快勝 藤森哲也五段戦
  コラム1 小さい頃のころ
  コラム2 弟子入り
  コラム3 趣味の話
  コラム4 上達法
 
4.読んだ感想
第一章では従来通り中飛車側が5五歩と位を取ってきた時の対策が紹介されています。
本書で紹介されている作戦のキモは角道を開ける一手を省略すること。代わりに6二銀~7四歩~7三銀と早めに銀を繰り上がり、ゴキ中対策の超速を後手で応用します。一通り駒組みが整い中盤戦に差し掛かったところで満を持して△3四歩と指す「居合い抜き超速」はここ数年で流行を見せ、一時期先手中飛車の勝率が落ちたほどでした。本書で△3四歩と開ける変化はあくまで先手が銀対抗や▲6六歩型で持久戦を志向してきたときに限られています。
その代わりに紹介されるのは△1三角と端角を使う形。
もし先手が穴熊に組もうとしたらなおさらこの形は有効で、6九の金が動けませんし、5筋の歩が切れていたら△5七歩からの抑え込みも狙えます。
 
この端角があるからには先手も簡単に5筋の歩交換は狙えません。ということで近年振り飛車側が改善策として用意したのが、第二章で紹介される▲5六歩のまま進行する中飛車です。
後手も△5四歩と突き、6二銀~5三銀~6四銀と繰り上がる形は郷田流として定着していますが、本書ではあくまで5筋の歩は突かず美濃囲いのまま進めていきます。中飛車側の主張は5五角の筋を見せることで△7四歩からの超速を咎めようとすることですから、△7三銀と早めに繰り上がるのは後手側に思わしい変化がありません。
そこで本書がオススメしているのが△6四歩とする形です。超速の含みをなくしてしまうため一見損にも見えますが、銀を6二に置くことで中央を手厚くし、代わって7三桂~1三角~6五桂と左右から5七の地点を攻めていくのがこの戦術の狙い筋となります(もっとも桂を上がるのは駒組が整ってからがベストであって、早めに上がると目標になりやすいです)。素直に▲1五歩と端を攻めても、かえって自陣のキズを広げることにもなりかねませんから中飛車としては桂跳ねを牽制して▲6六歩と持久戦に持ち込むしかないようです。
 
持久戦に持ち込まざるを得ないなら、穴熊vs美濃囲いにして陣形差の有利を主張するしかない、という中飛車側の心理を説明したのが第三章です。
ここでもやはり端角+右桂が威力を発揮します。穴熊にしても端角にされれば左金を囲いにくっつけるのは難しくなるので、先手は▲6六歩・6七銀型を諦め、5七銀~4六銀と上がることになります。
これに対しては6四歩型ではなかなかうまく戦えません。6六歩と省略しているおかげで、先手のほうが一手早く銀を繰り上げているからです。端角もこれではなかなかうまく使えないので、後手も6四歩の一手を省略することになります。
先手としてはたとえ6四歩の支えなしであろうとやはり6五桂と飛ばれるのは怖いので、▲6六歩~6八飛と6四歩を強要することになります。すぐの仕掛けは難しくなりましたが、先手に一手損をさせているので後手としては不満はありません。ここからは銀冠穴熊に組むなど色々な戦い方があるでしょう。
 
全体としては先手中飛車に対して主導権を握らせず、逆に後手から攻めていけるというのが魅力的に映りました。実際に筆者がネット将棋で使ってみると、少なくとも先手に攻め込まれることはなく、無理な動きを誘発させて勝つ展開も作ることができました。端角を使うタイミングは難しいところがありますが、端攻めへの対処法を覚えておけば先手中飛車に対する苦手意識はなくなりそうです。

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