タイトル「堅陣で圧勝!対振り銀冠穴熊」
著者 増田康宏
出版年 2017年
1.この本を読んだ経緯
ある日ソフトを使いながら居飛車穴熊の棋書を並べていたところ、従来通り▲7八玉とするのではなく、▲7八銀としろ、と推奨してきたことがありました。その時は無視していたのですが、後日居飛車穴熊の自戦を検討していた時にもやはり玉ではなく銀上がりを推奨してきたので、試しにどう進むのかと検討することに。
すると7九玉~8六歩~8七銀~7八金~7七角~8八玉という手順が並んでいき、ソフトの銀冠はこう組むのか、と言われるままに従っていると、▲9八香を勧められました。
通常の穴熊において▲8七銀と立ち、端攻めに備える形は知っていましたが、銀冠からの派生として穴熊に組む形は初見で、よくわからない囲いだ、と思ったものです。
時間が経つにつれてこの囲いはかつての最強ソフトponanzaが用いていたもので、それを増田六段も導入していたことを知ったため、自分に使いこなせるかはわからないけれど感覚だけでも取り入れておくのはいいだろう、と思い本書の購入へと至りました。
2.著者増田康宏さんについての紹介
増田六段は16歳でデビューした後、新人王戦で二連覇、竜王戦でも二年連続で5組4組を優勝するなど、若手の注目株として期待されている棋士です。居飛車党本格派で、特に2017年に流行った雁木をいち早く導入した棋士としてご存知の方も多いでしょう。
筆者が増田六段を初めて知ったのは藤井聡太四段(当時)と対戦した時のことでしたが、本格的な興味を抱いたのは「矢倉は終わった」と彼が発言していたことを知ってから。その他「詰将棋は意味がない」など過激な発言で物議をかもすこともある方ですが、一方で自分より年少の藤井七段に対して惜しみない賛辞を寄せるなど、良い意味でも悪い意味でも物事をはっきりと言える人物と言えるでしょう。また、最近では矢倉終焉発言を撤回し、急戦矢倉風の作戦を採用するなど柔軟な発想も持ち合わせています。
3.本の構成
第1章 銀冠穴熊の概要
第2章 対四間飛車
第3章 対四間飛車穴熊
第4章 対向かい飛車
第5章 実践編
第1局 銀冠穴熊の1号局
第2局 新人王獲得の一番
第3局 窪田ワールドを攻略
コラム1 勝負強さ・弱さ
コラム2 八王子将棋クラブ
コラム3 研究会の目的
コラム4 加古川青流戦の思い出
コラム5 コンピューター将棋
4.読んだ感想
第1章は駒組みの解説。先述した銀冠穴熊の手順では▲7七角と上がっていましたが、振り飛車側の右桂が上がっている場合は▲6六角と上がることを推奨しています。
居飛車穴熊を組む際にこの角をいかに処理しながら駒組みを行うかは初級者にとって懸念でして、桂上がりを牽制して▲6六歩と止めると、四間飛車の場合は△4五歩~4四銀という具合に易々と好形を許してしまうのがネックです。
一方、一度銀冠に組んだ上で6六角と上がれば角道を止めることなく駒組みを行なうことができます。△6五歩には▲7七角と戻らざるをえないため一見手損のようですが、角道を止めないで堅陣を組めるというそれ以上のメリットがあるので、総合的には得と言えるのでしょう。
なお、銀冠穴熊に組めるのは四間飛車、三間飛車、向かい飛車(持久戦)に限られており、中飛車に対してはオススメできない、と記されています。
第2章から本格的な検討が始まります。角道を開けたまま組めることを主張する銀冠穴熊ですが、振り飛車側としては▲9八香と上がったところで仕掛けたいところ。
有力策としてそのタイミングで△4五歩と角交換を挑む筋が検討されています。しっかりと対応すれば堅さで優る居飛車側が良くなる変化が多いですが、通常の穴熊同様振り飛車側のあの手この手の仕掛けに手を焼くことになりそうです。
振り飛車としては仕掛けて有望な変化がないのであれば手待ちをするのが吉、ということでその順も検討されているのですが、居飛車からの打開はおなじみの▲4八飛が紹介されています。
なお、振り飛車が千日手模様に逃げ込んだ場合、先手番ならともかく後手番を持った場合はむしろ得になる、とも記されています。通常の棋書と違って後手番の方針をカバーしてくれているのも嬉しいところ。
普通に囲って良くないのならばこちらも穴熊にせざるをえない、というのが振り飛車側の結論のようで、第3章からは相穴熊が検討されていきます。
△7二飛と振り直す定番の攻略法、飛車を振らずにガッチリと金二枚で組んで角交換を挑む作戦、そして振り飛車側も銀冠穴熊に組む作戦がそれぞれ紹介されますが、やはり居飛車側がよくなる変化が中心です。特に早めに銀冠に組んでいるおかげで相穴熊の争点になりやすい7筋のケアがしっかりしており、相手が攻め込む隙に他の方面でポイントを稼げるというのが主張点として挙げられています。
第4章では向かい飛車対策が検討されていますが、さすがに急戦相手に銀冠穴熊に組めることはなく、オーソドックスな美濃囲いによる対策が紹介されています。振り飛車が△5二金左と上がらない限り、銀冠に組む隙はないようです。
総合的に見て従来の穴熊と違って受け身からのカウンターを狙う作戦が中心的である、という印象を抱きました。穴熊はただでさえ手数が掛かる囲いとして有名ですが、銀冠穴熊はそれ以上に手数がかかるので宿命といえるのかもしれません。特に角道が開いていることはメリットとして紹介されていますが、裏を返せば角さえいなくなれば玉のコビンが開いていることをも意味します。
角交換を挑まれた際にいかに傷口を作らず8八金~7八金右と囲いを完成させられるか、そして一度組んでからは角の打ち込みにどう対処するか……穴熊は初級者が使いこなすには難しい戦法ですが、銀冠穴熊はそれ以上に難しい戦法という印象です。
増田六段自身もここ一年で銀冠穴熊を採用したことはありません。もっとも、香を上がる前に仕掛けられて、そのまま戦いを続けるという棋譜は残っているのですが。プロ間では香を上がられた時点ですでに難しいので、その前に仕掛けるしかない、というのが現状なのでしょうか。実戦で採用する際には銀冠のまま戦う術も合わせて習得しておく必要がありそうです。
コメント
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銀冠穴熊に7戦全敗中です。
対策がなく、▲竹俣紅銀冠穴熊vs△中村真梨花四間(勝ち)の棋譜を並べてている次第です。
>> 返信元
(それを自分で言わなかったらもっとすごいのに・・・ッ!!)
この▲66角を自力で発見して使ってたukecyiさんってやっぱすげーわ
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