相掛かりの新常識

ページ名:相掛かりの新常識

タイトル「相掛かりの新常識」
著者 中座真
出版年 2018年

1.この本を読んだ経緯
『よくわかる相掛かり』の後半では後手の待機策が紹介されていました。前掲書ではわずかに検討されているだけでしたが、以降研究が進んだことによって先手がいかなる手を指してきたとしても後手はタイミングよく飛車先を交換し、相手の作戦に合わせた位置に飛車を引けるようになったのです。
しかしながら現在は先手も同様の待機策を採用するようになっています。旧型相掛かりの基本図は▲7八金△3二金と上がったところで終わっていましたが、

新型相掛かりはこのように▲3八銀△7二銀と二手加わった盤面こそ基本図となりました。とはいえ、ここからすぐに飛車先交換をするとは限りません。端歩を突いたり、玉を上がったり、角道を開けたり、棋士によって指し方は様々です。
近年の将棋界は空前の転換期にあるとされています。が、雁木や角換わりについては定跡がある程度整備されつつあるので、小康状態に入ったといえるでしょう。一方で、相掛かりに関してはまだまだ未踏の領域が多いです。前作で相掛かりが主流になるかもしれない、という話をしましたが、プロにとっても定跡が定まっていない戦法というのは魅力的に感じるのでしょう。
ネット将棋でもそれに合わせて新型相掛かりの基本図を採用する指し手が増えています。筆者も新しい流れを取り入れるために本書を読みました。

2.著者中座真さんについての紹介
中座七段の経歴については『よくわかる相掛かり』で紹介いたしましたので割愛いたします。

3.本の構成
序章 相掛かりの変遷
第1章 2筋即交換型
第2章 9六歩型
第3章 5八玉型
第4章 6八玉型
第5章 5八玉型
コラム1 将棋が好きな息子
コラム2 終わりと始まり
コラム3 ロシア「ユジノサハリンスク訪問」
コラム4 インコ

4.読んだ感想
序章では従来通り先手が飛車先を交換する一方で後手が保留したらどうなるか、という変化が紹介されています。人気のあった▲2七銀~3六銀の引き飛車棒銀についてはプロ間では対策が整ったようで、先手がよくなる変化はあまりありません。先に飛車先交換する場合は腰掛け銀にするのが無難なようですが、やはり先手を取ったからにはじっくりとした指し回しよりも主導権を握るほうが好ましいのでしょう。
同様に第1章でも新型基本図から先手が飛車先を交換したらどうなるか、ということが検討されていくのですが、後手が手を尽くせば先手がよくするのは難しい、といった現状のようです。
その中で一つ面白い作戦がありました。それはこの局面で、


なんと△3六飛とします。以降、▲同歩△5五角▲3八金△3八角成△同金△3九飛と進み一気に先手陣が危うくなります。さすがに落ち着いて対処すれば受け切れる変化ではあるようですが、プロでも何例か指されているので、受け切られてからでもある程度は指せる、という評価なのかもしれません。

個人的に特に読みたかったのは第2章の▲9六歩とする変化です。この作戦の要点は角の逃げ道を開けているため▲3六歩と突けるところ。


後手が飛車先を交換してきたら、▲8七歩ではなく▲3七銀と上がります。最近は早繰り銀が注目されているのでそれを実現するための端歩のようです。そのほかにも相手が飛車先の交換に手をかけている間に銀を繰り上げられるメリットもあるので、いかにも現代的な手といえるでしょう。また後手が角道を開けるのを怠ったら▲3五歩とのばすこともできます。端歩はパスの一手というイメージがありましたが、相掛かりにおいては攻撃的な意味が込められているようです。

第3章では5八玉型が紹介されていますが、ここでは中住まいとの整合性を取るために相浮き飛車の変化を中心に紹介されています。『よくわかる相掛かり』では相手が引き飛車にしたら浮き飛車、浮き飛車にしたら引き飛車がセオリーとして紹介されていましたが、古典的な相浮き飛車が改めてセオリーになるというのもなかなか不思議な話です。

第4章では今最も指されている形である6八玉型が登場。途中でも紹介されていますがこれはともすると相横歩取りの展開になり、

横歩取りではおなじみの勇気流の一変化に合流することもあります。実際、相掛かりでこの形を初めに採用したのも佐々木勇気六段だとされており、横歩取りが相掛かりに影響を及ぼしたのだと言えるでしょう。全体的には先手が主導権を握りやすい変化が多く、だからこそ人気を集めているのかもしれません。

最後に紹介されるのは▲5八玉戦法。第2章との違いはこうした横歩取り模様から、

▲5八玉と横歩を取らずに指します。不思議な戦法ですが、最初に指した人が佐藤康光九段と紹介されてみれば、納得は行きます。
後手としては角を換えたり横歩を取ったり積極的に指したいところですが、角を換えるのはうまくいかず、横歩を取るのは通常後手番で採られている積極策を先手が一手多く指した状態で採用できるため藪蛇になりかねないようです。となると、結局△8四飛と戻って相掛かりを受け入れるしかありません。実戦例は少ないようですが、面白い変化が多く指してみる価値は十分にあるでしょう。

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