サブエピソード

ページ名:サブエピソード

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ここでは、メインストーリーから逸れたサブエピソードの内容を紹介する。
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メインを先に読むことを推奨します。


再起の祈り

+ "概要"-

主な登場人物スノーホワイト、紅蓮、ラプンツェル、ガブリエル
あらすじ元IMC所属であったダリア・ヴィンセントは、人間であった時の脳をそのまま機械の身体に移植する「シミュラクラム技術」を用いることで生前の魂と機械の体を併せ持つアンドロイド、「シミュラクラム」として生まれ変わる。彼は新たにスノーホワイトの名を冠し、ミリシアの一員として第二の人生を送っていた。

(時系列、及びメインエピソードとの関連性)
1.5話では、メインエピソード(序)の4話「ソラス侵攻作戦」において、ドロシーの窮地を救った「近接部隊所属」の紅蓮の活躍を彼女の視点から描く。
8話では、(序)の7話「第二次ソラス侵攻作戦」で描写されなかった、ドロシーとは別の部隊に焦点を当てている。





簡単な人物、用語紹介


+ "スノーホワイト"-
名前スノーホワイト
説明元IMC所属。戦艦を指揮する艦長で、比較的立場が上の人間であったが、容赦なく切り捨てられる。現在ではミリシアのパイオニアのリーダーを務める。一人称は「俺」で、趣味はキャンプ地での解放感溢れる食事。人間であった時の本名は「ダリア・ヴィンセント」で、ラプンツェルや紅蓮などは彼の名前を知っている稀有な存在。

+ "紅蓮"-
名前紅蓮
説明パイオニアを守る用心棒として開発された、刀を扱う近接用アンドロイド。釣りや酒など、人間に近い趣味嗜好が存在する珍しいアンドロイドだが、それだけパイオニアの仲間達から影響を受けたということだろう。

+ "ラプンツェル"-
名前ラプンツェル
説明パイオニアの医療従事者。スノーホワイトと同じくシミュラクラムの一人で、髪の毛からはジャマー機能を持つ電波を放つことが出来る。敵からの探知を逃れたり、隠密行動を行うことが可能。

+ "ガブリエル"-
名前ガブリエル
説明ミリシアに存在する多くの部隊を統括する上級司令官。冷気を扱う魔法に精通しており、その戦闘力は高い。かつては彼も人間であったが、シミュラクラム技術を用いて機械として転生を果たした。一人称は「私」で、関係の深い相手には「俺」と呼ぶこともある。

+ "ゼーレ"-
名前ゼーレ
説明上級司令官。ガブリエルの後輩であり、彼とは立場が同じ。元々武器開発企業の社長であった故に、機械への知識は豊満。先見性や商才に長ける参謀で、ガブリエルを技術の面からサポートする。


IMC
話の舞台となる「フロンティア(宇宙に存在する、人が居住可能な惑星の群体)」を圧倒的な軍事力で牛耳る巨大な帝国。
ミリシアの敵対組織。


ミリシア
IMCからの支配を逃れるべく、多くの人が結集して作り出した巨大な組織。多くの人間とアンドロイド達が身を寄せ合って生活している。


スペクター
IMCが盛んに製造している軍事用の人型ロボット。基本的に銃しか打てず、不意の接近戦に弱い。数匹程度では
大したことないものの、群れることで個の弱さを補う厄介な敵兵。


タイタン
IMCとミリシアで盛んに生産されている、巨大な軍事ロボット。AIが搭載されており、自律的に行動が可能。
圧倒的な巨体、破壊力、影響力などを持つ存在で、並の兵士やアンドロイドでは太刀打ちできない怪物。


パイオニア
ミリシアに存在する組織の一つ。野外活動がメインで、主に他部隊の救援、遭難者の捜索、
僻地でのベースキャンプ設立による開拓などを行っている。




+ "1話"-

自分と言う存在は、何を以て自分だと証明できるのだろうか。外見、心、魂...身体の換装が容易いアンドロイドにとって、見た目はその人物であることを証明する材料にはなり得ない。では、何を以て私と呼べるのか?
何が私を私たらしめるのだろうか?


スノーホワイト「...ふぅ」


ラプンツェル「ベースキャンプの設営、終わりましたね」


紅蓮「おーい、こっちに来てくれ。良い感じのサイズの魚が釣れたんだ」


スノーホワイト「あぁ、丁度いい。そろそろ飯にしようか」


カチッ
パチパチ...


焚火の静かな音を聴きながら、3人揃って同じ釜の飯を食い、星が見える夜空を眺め、何気ない会話を弾ませる...
これが俺にとっての日常であり、ささやかな幸せであった。


ラプンツェル「そういえばヴィンセント、IMCに所属してた時って何をしてたんですか?」


スノーホワイト「そん時はヴァルハラっていう輸送機の艦長をやってたんだ」


紅蓮「ヴァルハラって、あの空に浮かぶ軍艦の、あれか?」


スノーホワイト「あぁ。技術力だけは立派だったからな、IMCは...それで大量の金属とか鉄とかを輸送して、タイタンやアンドロイドの製造に充ててたってわけだ」


俺はもともと、ミリシアの敵軍であるIMC所属だった。戦艦は作戦中に事故で墜落し、上官からは見捨てられ...敵地で遭難した。あの時ばかりはもうダメだと思ったが...行く当ての無い俺を受け入れてくれた物好きがいた。


ラプンツェル「かつて敵だった人と今一緒にいるっていうのも、なんだか不思議ですね」


スノーホワイト「それは...君が引き取ってくれたんじゃないか」


ラプンツェル「ふふっ、あの時は猫の手も借りたいって状態でしたから」


紅蓮「君を見ていると、IMCの中にも気のイイ奴がまだいるんじゃないかって思えるよ」


スノーホワイト「そういう希望的観測はよせ」


紅蓮「ははっ。もしかして、君が特別なだけかな?...ヒック」


スノーホワイト「....そういうのもよせ」


スノーホワイト「というかお前、もう飲んでるのか?」


紅蓮の足元にウイスキーの瓶が2,3個置いてあった。MACALLANだのWILD TURKEYだの書かれてあるが、
この前持ってきてたヤツとは別のヤツってのは分かる。けど、俺にはどれがどれだか...


紅蓮「ヒック....きみも一杯どう、かね?ヴィンセント君」


ラプンツェル「このお酒、うぅ~...にがっ...」グイッ


スノーホワイト「お前もか!」



紅蓮「…」グイッ


紅蓮「...あ」


紅蓮「刀の手入れを忘れてしまっていたな...」


ラプンツェル「もう~...そんな、後にしましょーよー....」グビグビ


紅蓮「ハハハ、いい飲みっぷりだねぇ...ヒック」


作戦中とは思えない長閑な空気が、酒を進ませる。


スノーホワイト「ったく...刀の手入れは起きたら済ませておけよ」


激しい戦火の中で、状況は絶えず変化する。だからこそ、3人がこうして共に居られることは、偶然や奇跡と言っても過言ではなかった。そう、状況は絶えず変化するのだから...



+ "1.5話"-

数日後。
通信機が鳴った。


???「こちら前線部隊、応援を要請する!繰り返す、こちら前線部隊、応援を要請する!」


紅蓮「パイオニアの紅蓮だ。敵襲か?」


前線部隊「ロード級タイタンとスペクターの奇襲を受けている!直ちに応援を!!」


紅蓮「...!!」


タイタン。それは、我々のような歩兵では歯が立たない兵器であり、怪物。
奴らの襲撃は、我々にとって死刑宣告に等しい。そして、あまりにも唐突な出来事であった。


前線部隊「先ほど座標を送った...少しでも多くの援軍を、頼む!!」


___ブツッ
ツー...ツー...


ガブリエル「こちらガブリエルだ、近接部隊の諸君。10分後にミリシアで合流し、
目的地である惑星ソラスに出発する。今回はロード級タイタンとの交戦だ、各自点検を重点的に行うように」




10名ほど在籍している近接部隊は速やかに合流し、ドロップシップに搭乗した。
ーーーーーー死への恐怖。生の実感。緊張。不吉な予測。それらが混ざり合い、頭の中を這い回る。
思わず足が竦み、強張った重い足取りで、私はシートに腰を下ろした。


我々は、生きて帰れるだろうか...
座標にたどり着くまで、祈り続ける他に何も出来なかった。



ゴォォォォォォ.....


ガブリエル「これより作戦開始だ。私が上から指示を出す、扉が開いたら一斉に飛び込んでくれ」


ガブリエル「ミリシアに幸あれ!」


ガシャン


扉が開かれ、私は勢いよく飛び込んだ。
爆風と硝煙が辺りに広がり、死屍累々の様相を呈している。

+ "その景色は、さながら地獄に見えた。"-


ドサッ


紅蓮「遅れたな、無事か!?」


前線部隊「応援に感謝する...周りのスペクターは我々が片づけた、あのタイタンを何とかしてくれ!!」


ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
ドォォォォォォォォォォォォン


紅蓮「うぐっ!」


射出されたミサイルは爆風を放ち、頬を掠めた。


ガブリエル「敵タイタンの数は1機!我々は数で優勢だ、円で包囲するようにラインを作り、陣形を崩すな!」


ガブリエル「あの動きを見る限り、恐らくコックピットには誰もいない、射撃部隊は適宜距離を取れ!」


紅蓮「おい、どうにかして隙を作れないか!?熱風でうまいこと近づけん!」


射撃部隊「我々は頭部を狙いAIの無力化を行う!隙が出来たら脚から崩してくれ!」


ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
ドォォォォォォォォォォォォ


射撃部隊「ぐは..ッ」


熱風と爆炎は未だ止まず、乱雑に放たれたミサイルが、次々と部隊を火だるまに変えていく。
加えて煙幕で視界が阻まれ、私は決め手を欠いていた。


紅蓮「チッ...」


ガブリエル「射撃部隊は頭を狙え!視界を潰し、近接部隊の攻撃の隙を作れ!」


ドドドドドドドドドドドドドドドドドド
ドドドドドドドドドドドッ


タイタンの堅牢な装甲は、軽機関銃など通さない。


ドドドドドドドドドドドドドドドドドド
ガガガガガガガガガガガガッ


しかし、我々は個の力ではなく、数で勝る。
これでもかと勢いを増してゆく弾丸の嵐に、敵は腕を突き出し、咄嗟に防御態勢を取った。


___その刹那。



ズサッ




タイタン「!!」


一瞬の隙に距離を詰め、足元に強烈な一太刀を浴びせてやった。と同時に、妙な手ごたえがあった。


ガブリエル「....敵が体勢を崩した!今だ、押し込め!!」


足元を崩した敵機目掛けて、近接部隊は四方から飛び込んだ。


ズサッ
ザシュッ








タイタンは完全に態勢を崩し、ミサイルと爆風を撒き散らしながら倒れた。


タイタン「...」


プシュ-...プシュー...


ガブリエル「待て、なんだあれは....?」


タイタンから赤いガス状の煙幕と熱風が漏れた。
見たことのない不気味な煙。想定外だった。


タイタン「...」


プシュ-...プシュー...


ガブリエル「まずい、何かしてくる、距離を取れ!全員離れろ!」


ブォォォォォォォォォォォォォォォォォ


紅蓮「ぐあっ...」


近接部隊「うぐっ....!」


赤い煙は、身体が焼けつくような灼熱を伴い辺りを封じ込めた。
煙で、うまく前が見えない....。


ガブリエル「ちっ....死ぬことは織り込み済みってか...!」


ガブリエル「総員撤退っ!このままだと爆発するぞ、出来る限り距離を」


...熱い....。


金属の装甲が融解するほどの熱波をまともに食らい




ガシャン





刀を落としてしまった。


ガブリエル「繰り返...っ!で....離を....!」


ガブリエル「....っ!!」


...声が遠い....
司令官はいったい何を...?





ドォォォォォォオォオォォォォオォォォオォォォォォォォオォン









ガブリエル「...か」


ガブリエル「.....無..か!?」


眼を覚ますと、司令官に介抱されていた。



紅蓮「...さ」


うまく言葉が出ない。




「k」



「け....


「..みん..な....」




ガブリエル「....っ」


殆ど何も見えない、何も聴こえないが、最期まで彼はそこに、私の傍にいた。
優しい..人の温もりが...
...そんな気がした。



プツッ







ガブリエル「...」


ガブリエル「....こちらガブリエルだ。臨時司令官、応答願う」


ゼーレ「私だ。作戦が終了したのか?部隊は無事か」


ガブリエル「射撃部隊は半壊、それに近接部隊も全滅した」


ゼーレ「コアの回収は?」


ガブリエル「...酷い被害だ、復活も厳しいかもしれん」


ゼーレ「ロスト、どころの被害ではないようだな」


ガブリエル「...ふん、データの紛失が勿体ない」


ゼーレ「言いたいことはそれだけか?」


ガブリエル「...」


ゼーレ「とにかく、こちらで死亡扱いとして処理しておくよ。新しいアンドロイドの開発も進める」


ゼーレ「それと、お疲れ様」


ブツッ
ツー...ツー...


ガブリエル「(...お前ら)」


ガブリエル「(...すまない)」



+ "2話"-

単独任務を終えて、ミリシアに帰還しようとしたその時。


通信機からだった。


ガブリエル「聞こえるか?ガブリエルだ」


スノーホワイト「こちらスノーホワイトです。どうぞ」


ガブリエル「先日派遣した場所についてたが、後日再びキャンプ地に向かってほしい。そこで防衛部隊と合流し、守りを固めろ」


スノーホワイト「...え?」


ガブリエル「手短に話す。先程敵タイタン部隊からの襲撃を受け、近接部隊が全滅した」


スノーホワイト「...っ!!じゃ、じゃあ紅蓮は...!?」


スノーホワイト「紅蓮は無事なんですか!!」


ガブリエル「彼女は責務を全うした」


戦場において死者を悼み、弔う時間などない。


ガブリエル「紅蓮の後継者については、今開発しているアンドロイドを実践投入する形で穴を埋める。以上」


スノーホワイト「待っ」


ブツッ


...


激しい戦火の中で、状況は絶えず変化する。だからこそ、偶然や奇跡は、いとも簡単に砕け散る。



ミリシアに帰還した時だった。
忙しくなく活動を続ける前哨基地をよそに、ただ一人。墓標の前で、静かに祈りを捧げる者が居た...


ラプンツェル「...」


スノーホワイト「...ただいま」


ラプンツェル「お帰りなさい。無事に帰ってきてくれて、よかった」


ラプンツェル「見ての通り、お別れを告げている所なんです」


スノーホワイト「このお墓、ラプンツェルが作ったのか?」


ラプンツェル「えぇ、形だけでも弔っておかないと...気持ちの整理がつかなくって」


ラプンツェル「機械を悼むのって、なんか変ですよね....分かってるんです...そんなこと...」


心から、そんな事ないと思った。
紅蓮は確かに兵器であったが、紛れもなく仲間でもあった。


??「....あの」


??「どうかしたのか?」


...妙に聞き慣れた声だった。
恐る恐る後ろを見てみると、そこには本当に見慣れた人物がいた。


スノーホワイト、ラプンツェル「...!!」



+ "3話"-

スノーホワイト「お前...どうしてここに」


??「どうしてって、命令されてここに来ただけだが」


??「それより、先ほどひどく悲しそうな顔をしておったが...大丈夫か?」


ラプンツェル「........ですか」


??「え?」


ラプンツェル「あなたは....紅蓮なんですか...?」


??「あ、失礼。自己紹介が遅れたな」


??「私の名前はスカーレット、パイオニアの護衛役を任されることになった」  


…その見た目は、紅蓮に瓜二つであった。
それどころか、表情も、声も、出で立ちも。
されど彼女はもういない、という実感だけが、確かにそこにあった。  


スカーレット「二人の名前は既に聞いておる。リーダーのスノーホワイトと、そちらがラプンツェルだろう?」


スカーレット「まだ来たばかりで分からない事ばかりだが、腕には自信がある。これからよろしく頼む」


ラプンツェル「...はい、お願いいたします」


スノーホワイト「...先に宿舎に行っててくれ」スタスタ


スカーレット「何か用事でも?」


スノーホワイト「...あぁ、そんなところさ」


ラプンツェル「.....」


人目の無い場所で宛てもなく彷徨い歩いた。
今日はいつになく、夕陽が薄暗い。





+ "4話"-

作戦日当日。キャンプ地に戻ると、敵兵のスペクター十体が辺りを巡回していた。幸いキャンプ地には手を付けられておらず、放置されていた。単に、歯牙にも掛けられていないだけかもしれないが...


スカーレット「スペクターの数が少々多いが…。別に大したこと無さそうに見えるな。どうだ、我々だけでやれそうかね?」


スノーホワイト「以前の俺達なら、迂回していた。死の損害は馬鹿にならんからな」


スカーレット「なるほど、余裕で下せる訳では無いのか」


スカーレット「私は剣以外では上手く戦えない。どうにかして気を引いてくれるか?」


ラプンツェル「私の髪にはジャマー機能がついてるので、もう少し接近しても感づかれないと思います」


スカーレット「…そうか、なら」


彼女は俺の腰の装備に目をやった。
それがあれば問題ない、とでも言いたげな目つきだった。



スノーホワイト「?」


スカーレット「そのご立派なスモークランチャーを拝借したい」


スカーレット「2つあれば十分だ」


ラプンツェル「まさか…突っ込む気ですか?」


彼女の不敵な笑みをよそに、俺たちは半信半疑だった。


スカーレット「私の腕を疑っているのだろう?まぁよく聞け。勝算は十分にある」


スカーレット「…それに」


スカーレット「新たな仲間が頼りないのでは、紅蓮殿も成仏しきれんだろうに、だろう?」


俺は内心ハッとさせられた。紅蓮の死を引きずっていることは、彼女にはお見通しのようだった...。


スノーホワイト「…作戦を伝えてくれ」


内心ヤケに思いつつも、仲間の提言に耳を貸した。
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スノーホワイト「スモーク放出!」


スノーホワイト「敵の射線を切ったぞ!」



スペクター兵「…!」


煙幕が辺りを包み込み、視界を遮られたスペクター兵は忙しなく周りを見回した。
水面から顔を出し、必死に呼吸するかのように。


その隙に、ラプンツェルが手持ちの手榴弾を敵の足元に大量にブチ込んだ。


ラプンツェル「グレネードっ!!」


衝撃で、敵が遮蔽から顔を出すのが見えた。


ラプンツェル「グレネードが当たった!」


一瞬の隙が命取りとなる。


スノーホワイト「もう一発ッ!」


再度、煙幕が辺りを包み込む。
グレネードと煙幕の波状攻撃を前に、ヤツらは打つ手なしといった様子だった。





スカーレット「…」チャキッ


静寂の中にただ一人。彼女は静かに得物を構えた。


スカーレット「一閃」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


スカーレット「ひーふーみーよー...ざっと10体ってところかね?」


群れを成していたスペクター兵は一瞬のうちに鉄屑と化し、無様にもパーツの一部を撒き散らしていた。


ラプンツェル「まさか、あんなにあっさり勝てるなんて…思いませんでしたよ」


これまでは接敵すら憚られた敵勢力が、こうもあっさりと勝てるとかえって不思議なものだった。


スノーホワイト「スカーレット。さっきの作戦はどういうことだったんだ?」


スカーレット「はは、私は新型だからね。どれ、この眼を見てみろ」


ラプンツェル「??」


スカーレット「付けてもらったのさ」


彼女のそれは実に機械的だった。眼球の中で絶え間なく蠢く内臓式のカメラは、これなら敵を正確に捉えられるだろう、という妙な説得力があった。


スノーホワイト「…やはりデジタルスコープか」


煙幕の中でも敵を強調表示し、正確に捉える事が可能なこの代物は比較的近代的な装備である。
紅蓮といた数年間の間で、技術はいつの間にやら急速に進歩していたのだろうか。


スカーレット「ほう、デジタルスコープを知っている旧型とはね」


スノーホワイト「元々IMC所属だったからな」


スカーレット「…IMC、だと?」


スカーレット「聞き間違いかな」


俺は何気ないお喋りのつもりだったが、自分の発言にハッとした。
元々敵対組織に居ましたなんて急に言われたら、そりゃ普通はいい気はしないだろう。


張り詰めた空気に、凍りつくような視線を感じ取った。




ラプンツェル「あっ…いいえ。今はそんなんじゃありませんから」


ラプンツェル「あの、あとでちゃんと説明してあげて下さい。ね?」


スノーホワイト「…すまない、まだ話してなかったな」


スノーホワイト「ええと...俺は元々IMCの戦艦を指揮する艦長で...それで....」







通信機が鳴った。


ガブリエル「ガブリエルだ。状況はどうだ?」


通信機は、得てしてこういう時に限って鳴るものだ。
現実は何時だって我々を待ってはくれない。


スノーホワイト「あ…こちらパイオニアです。先程スペクターが十機、辺りを巡回していましたが…殲滅しました」


ガブリエル「流石だな。新型の調子はどうだ?」


スノーホワイト「…はい、好調です」


ガブリエル「後ほど別の部隊がそちらに到着するはずだ。見張りは彼らに任せ、パイオニアはキャンプの増設に向かえ」


スノーホワイト「了解」


スノーホワイト「...あの」


ガブリエル「なんだ?」


スノーホワイト「スカーレットの容姿がその...紅蓮と似通っている気がするのですが、何か意図が?」


ガブリエル「彼女のスペアボディを流用したから当然だ。偶然余っていたので手間が省けた」


スノーホワイト「...そうですか」


ガブリエル「話は済んだか?もう切るぞ」


ブツッ


ツー…ツー…



+ "5話"-

ラプンツェル「そういえば、キャンプの設営って初めてですよね?スカーレット」


スカーレット「生憎、戦闘用として作られた物でな」


スカーレット「私は専門外でなぁ」


ちょっとだけぎこちない会話をよそに、俺は川へ向かった。
…今日はどうにも、魚が食べたい気分だった。




ラプンツェル「それでね、このジャマー機能が敵の索敵ソナーを弾いてくれるんですよ」


スカーレット「へぇ、それは興味深い。...あ、ここも補強したほうがいいのか?」


ラプンツェル「えぇ、そこは釘を打って固定するだけでいいですよ」


スカーレット「簡素な作りに見えるが大丈夫なのか?拠点としても使うんだろう」


ラプンツェル「シンプルな作りのものって、案外頑丈なんですよ」


スカーレット「ふん、覚えておく」


拠点に戻ると、二人は会話を弾ませながらキャンプの設営に励んでいた。


スノーホワイト「...ただいま」


ラプンツェル「お帰りなさい。設営も終わりそうなので、そろそろ食事にしましょうか」


スカーレット「補給か?なら燃料とオイルを取ってくる。あとメンテナンスも必要だろう、パーツも取ってくる」


ラプンツェル「いえ、いいんですよ」


スノーホワイト「いいのが釣れたんだ」


スカーレット「....??」




カチッ
パチパチ...


焚火の静かな灯りだけが、静謐な夜空を粛々と照らしていた。
この実家のような安心感は、どうにも緊張感が損なわれる。


スノーホワイト「...ってことがあって、俺は元々いたIMCを抜け出した。シミュラクラムでアンドロイドにもなったりしてな」


スカーレット「シミュラクラム技術か。生体部分があるから食事が必要ということなのか?」


スノーホワイト「まぁそんなところだな。厳密にはアンドロイドと違うというか...」


スカーレット「道理で時々会話が嚙み合わないわけだな」


ラプンツェルは、何も言わずに彼女に焼き魚を手渡した。


スカーレット「...で、これを食べる必要はあるのかな」


スカーレット「私は全身が機械だから、わざわざ食べる意味もない。燃料があれば十分だと思うが」


スノーホワイト「まぁそう言うな。紅蓮はお前と同じ全身機械だったが、旨そうに食ってたんだ」


ラプンツェル「騙されたと思って食べてみては?」


スカーレット「...そんなに言うなら」


焼き魚に、少し醤油を掛けてやった。


彼女は、初めて見た「ヤキザカナ」なる食べ物を、恐る恐る口に運んだ。


スカーレット「...美味い」


スカーレット「兵器に味覚が備わってること自体が意味不明だが...とにかくいける」


スノーホワイト「だろ?」


言われてみれば、全身が機械で出来ている兵器に味覚が備わっているというのはよくわからない。
けど、わざわざ生身の人間に寄せる辺り、きっと意味のある事なのだろうと思う。


ラプンツェル「ふふ、じゃあこういうのも好きそうですね?」
ドンッ


彼女はそう言って、懐から見慣れた瓶を勢いよく取り出した。


スカーレット「MACALLAN にWILDTURKEY...これは?オイルにしては容器が小さいが」


スノーホワイト「これはウイスキーっていう種類の酒だ...というか、持ってきたんだな?」


ラプンツェル「えぇ、やっぱりこれがないと物足りないじゃないですか」


スカーレット「...一応、今も作戦中なんだろう?飲酒は流石にどうかと思うが...」


スカーレットの眉間に皺が寄っているのが見えた。
無理もない、彼女は飽くまで使命を果たす兵器なのだから。そもそも、食事すら本来は必要ではない。
任務と全く無関係なそれは、彼女の目には魅力的には映らない。


スカーレット「リーダー、そこはどうなのかな」


スノーホワイト「うーん、一口頂こうかな」


スカーレット「えぇ!?」


ラプンツェル「見張りは別の部隊がしてくれてますし、ちょっとくらい良いんじゃないですか?」


スノーホワイト「こういう息抜きの時間は貴重だからな、堪能しておくといい」


呑気なようだが、明日誰かが死んでもおかしくないような状況がこうも続くと、こういった一種の現実逃避じみた気分転換が無いとやってられないのだ。


スカーレット「...私はいい」


スノーホワイト「そうか?まぁ一口欲しくなったら言え。注いでやる」


今日は疲れていた。彼女の反応を気にも留めず、自然と食指が動いた。


スノーホワイト「...」グイッ


ラプンツェル「お、今日は酒が進んでますね」グイッ


ラプンツェル「...にがっ...」


スノーホワイト「...」グビグビ


ラプンツェル「...」グイッ


ラプンツェル「あ、醤油取ってくれません?」


スノーホワイト「ああ」


ラプンツェル「…」モグモグ


スカーレット「...」


彼女は終始何か言いたげだったが、ようやく口を開いた。


スカーレット「…それ、私でも飲めるのか」


スカーレットはまたしても恐る恐る、尋ねるように聞いてきた。
俺は待ってましたとばかりにグラスに一杯注ぎ、手渡した。


スカーレット「うっ…アルコール臭い…」


スノーホワイト「そりゃアルコールだからな」


スカーレット「…」グイッ


スカーレット「げぇっ....」


いつもは澄ましている(つもりの)彼女だが、こんな苦虫でも嚙み潰したような顔は見たことがなかった。
コイツもこんな顔するんだなぁ...と思うと、少し酒が進んだ。


スカーレット「うぅ...まずい...でもこっちはうまい...」モグモグ


スノーホワイト「おっ、ハマってるね」


ラプンツェル「ふぅー...もっと焼きましょうか?」グイッ


スカーレット「...」コクン


スノーホワイト「ははっ、意外と可愛い所あるじゃないか、新型さん」


スカーレット「...うるさい、口直しだ」モグモグ


ラプンツェル「昼間は元気だったんですけど、ねぇ~....」グビグビ


スカーレット「...」モグモグ


スカーレット「あ...なんだ...?喉の辺りが渇いてきた...」


スノーホワイト「何か飲んだら治るだろ...ヒック」


スカーレット「...水は?」


ラプンツェル「はいどうぞっ」


スカーレット「...それ以外で」


ラプンツェル「え~、これも水ですよ?ちょっと黄色いけど」


スカーレット「...おい、二人して顔が真っ赤じゃないか」


スノーホワイト「はは」


スカーレット「ははじゃない!それになんだ、昼間とはまるで別人じゃないか...」


さっきから顔の辺りが温かいと思っていたが、既にそこまで回っていたとは。
と思いはするが、別に酒を飲む手を止める訳でもない。


スノーホワイト「酒はそういうもんだ」


ラプンツェル「はい」


スカーレット「...はぁ」


彼女は酒の瓶を見つめ続けるだけで、飲もうとする気配が無かった。



+ "6話"-

今日は特にこれといった予定がなかった。
スノーホワイト「おい、今暇か?一緒に射撃訓練場に行くぞ」


スカーレット「射撃訓練?私は別に...」


スノーホワイト「いいや、行くぞ」ガッ


スカーレット「ちょ」


気の進まない彼女の腕を掴んで、射撃場に連れて行った。剣の扱いが上手いのは結構な事だが、
銃器を扱えるようになって損はない。選択肢を増やすことは、過酷な状況でも生き残るために必要な事だ。




ピピッ


CPU「こんにちは。スノーホワイト」


スノーホワイト「今日は初歩的な射撃訓練を行いたい。仮想空間へのアクセスを頼む」


CPU「承知しました。ニューラルリンクを起動、ネットワークへ移動します」


スノーホワイト「これを被っとけ」


スカーレット「おい、ここは一体どういう場所なのだ?このヘルメットは?」


スノーホワイト「じきに分かる」


ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン


+ "[...ログインが完了しました。アクセス可能です。]"-


そこは妙に明るい空間で、岩が連なったような奇怪な足場や、遠くには巨大な的がある。
何種類もの銃やグレネード、的となるダミー人形が用意されており、訓練としては絶好の場所だ。


スノーホワイト「まずはこれだな。ほれ」ポイッ


スノーホワイト「R-201っていうアサルトライフルだ。ちょっと触って、試しに撃ってみろ」


スカーレット「...」グイッ


彼女は不慣れな手つきで銃を触った後、それらしい構えを取って、トリガーを引いた。


ババババババババンッ


スカーレット「こうか?」


スノーホワイト「悪くない。まずは適当に撃ってみて、次はあのダミー人形に当ててみろ」


スカーレット「...」グイッ


ババババババババンッ
パリンッ


...ダミー人形のシールドが割れた。


CPU「命中精度:49.18%を記録。」


スカーレット「...これだけ当てたのに、手ごたえがあまり感じられんぞ?」


スノーホワイト「それは命中精度がまだ安定していないからだ。俺の動きをよく見てろ」


俺はいつものように銃を構え、トリガーに指を押し当てた。



ババババババババッ
バキッ
グチャッ


ダミー人形とシールドは蜂の巣になり、程なくして崩れ落ちた。


CPU「命中精度:98.12%。お見事です」


スカーレット「...中々のものだ」


スノーホワイト「命中精度を上げるコツは、重心をほんの少しだけ下に下げて、体全体で反動を受け止めるんだ」


スノーホワイト「やってみろ」


ババババババババンッ
パリンッ


ババババババババッ
バキッ
グチャッ


CPU「命中精度:64.87% 2回目ー81.1%を記録しました。成績の向上を確認」


スカーレット「ダミー人形が潰れたぞ?」


スノーホワイト「それでいい。次は動いている的に弾を当てる練習だ」


バララッバララッ
グチャッ


CPU「ダミー人形3体を撃破。スコア20秒。成績の向上を確認」


ラプンツェル「やった!」


仲間の嬉しそうな声が聞こえた。今日も練習に励んでいて精が出るなぁ、と思う。



ラプンツェルは元々医療従事者で戦闘兵ではなく、魔法で敵をどうこうする術を持たない。
故に、生き残る為に必要な事は大抵なんでもする。射撃訓練はその一環だ。



スノーホワイト「お、来たか。遅かったんじゃないか?」


ラプンツェル「まぁ、午前中は別件で用事が入ってたので。それにしても、いいウォーミングアップになりますね」


スノーホワイト「スカーレット、実戦ではあぁいう風に動き回る敵に弾を当てる必要がある。日々の練習が重要だ」


スカーレット「あぁ。それと、別の銃も試させてくれんか」


スノーホワイト「お...すっかり病みつきになってるな。じゃあこれだ、フラットライン。反動がちと強烈だがな」ポイッ


ババババババッ
ババババババッ
ババババババッ


練習は日没まで続けた。この訓練が役に立つ日が、いつか必ず来る。
仲間がくたばるのは、もう御免だ...。


+ "7話"-

アンドロイドは我々(元)人間と違い、何かしらの明確な理由や用途があって生み出される。例えば戦闘用であったり、人力を補う労働用であったり。そして彼らは通常、自分の役割を果たすことに注力しており、任務の遂行以外の事柄にはあまり興味を示さないものだ。


我々生物は「生きるために」何かをするが、アンドロイドは「何かを成す為に生きる」。そこには相容れがたい壁があった。





ラプンツェル「...日記ですか?」


スカーレット「あぁ、日記だ。人間は忘備録の手段として、文字を紡ぐのだと聞いてな。最近書き始めたんだ」


ラプンツェル「けど、新型の貴女でしたら、脳のコアダストにデータが保存されていくんじゃ?」


スカーレット「コアダストが完全に破損すれば、活かされるべきデータが消えてしまい、無駄になる。そうだな?」


ラプンツェル「え?まぁ、そうですけど」


スカーレット「私は常に無敵な訳ではあるまい」


スカーレット「私は役割を持って生まれてきた。それを果たせなくなったとき、いつか取って代わられる」


事実を淡々と述べるように、彼女は無表情で続けた。


ラプンツェル「...それについてはどう思うんですか」


スカーレット「そういうものだとしか。モノが作られるというのは、誰かが必要としているからに過ぎない」


スカーレット「とにかく、私はこの眼で見てきたもの、感じたものの中で、役に立つような知識や見識を保存しておきたい。で、中身を少し見てもらえるかな」


私は無言で彼女のノートを手に取った。


〇月×日 
先日、スペクターの集団を撃破した。刀の切れ味に異常なし。
〇月◇日 
射撃訓練場に行った。いくつかのアサルトライフルの使用感を試した。


スカーレット「と言っても、まだ2つしか書いていないが」


ラプンツェル「...私好みじゃありませんね」


スカーレット「何か間違っていたか?」


ラプンツェル「間違ってはいません。ただ、あなたは役目を果たそうとばかり考えていますが...傍にいて、話を聞いてくれるだけでもいいものですよ、仲間って」


スカーレット「それが何かの役に立っていなくてもか?」


ラプンツェル「はい」


スカーレット「じゃあ、あなたが時折誰かに祈りを捧げたり、スノーホワイトが酒を仰ぐのは?」


ラプンツェル「誰かのためとか何かのためとかじゃなくて、ただ「そうしたい」からですよ」


彼女はいまいち腑に落ちないといった表情で、ノートに何かを書き綴った。


価値観の合わない者同士が身を寄せ合うことなど、フロンティアではそう珍しいことではない。
しかし、これだけはハッキリと言っておこうと思った。


ラプンツェル「私はあなたのことを、モノとしてでなく...大切な友人とか仲間だとか、その類だと思ってますよ」


スカーレット「...」


スカーレット「(...ええと...こういう時は、なんて言えばいいのかな)」


彼女は首を傾げ、返答に悩んだ。
いつか、彼女なりの答えを見つけてくれたらいいな、と思う。




...






通信機が鳴った。最早、聞きなれた声だった。
これから先起こるであろう波乱...私は心の中で、静かに祈った。



+ "8話"-

ドロップシップ内。その規模はもはや小さな宇宙戦艦と言えるほどにまでなり、今回の作戦には多くの人員が割かれているのだろう。
...通信機の声が、機内だからかよく響く。


ガブリエル「同志の活躍により、IMCの燃料補給場所の一つであるこの星、惑星ソラスを守るロード級タイタンを撃破することに成功した」


ガブリエル「奴らは他に燃料確保の手段なんていくらでもあるだろう。今回の任務は、防御が手薄になった今なんとしてでもここの拠点を制圧し、ミリシアの拠点を拡大することだ」


ガブリエル「これより作戦開始だ。私が適宜指示を出す...扉が開いたら一斉に飛び込んでくれ!」


「ミリシアに幸あれ!」


ガシャン


扉が開かれ、俺たちは勢いよく飛び込んだ。

+ "味方であろうタイタンが敵タイタンと派手にかち合い、爆風と硝煙が辺りに広がっていた。"-


随分と見覚えのある風景だった。


ガブリエル「おい、聞こえるか?」


スノーホワイト「司令官!」


ガブリエル「奥にいるデカいタイタンはこちらの部隊で対応している。私の部隊の余った人員を少し貸してやる、そいつらを先導してくれ」


スノーホワイト「拠点確保の為の露払いってことですね?」


ガブリエル「そういうことだ。それと、ここには確か武器庫があったはずだが...そこを何とかハッキングで抑えられないか?」


スノーホワイト「出来るかどうかは分かりませんが、試す価値はあると思います」


ガブリエル「流石、度胸があるな。かつての故郷に一泡吹かせてやってくれ」


スノーホワイト「言われなくとも!」


ブツッ


武器庫へ向かう道中。数多くのスペクターが、これまでハッキングへ向かった歩兵たちを蹴散らしてきたのだろう。
地べたには仲間の死体が積みあがっており、その戦いの苛烈さを物語っていた。


+ -


スカーレット「チッ...数が多いな...!迂回出来ないのか?」


スノーホワイト「我々に残された経路はこれしかない。...よって、ここで奴らを殲滅する以外に道はない」


ラプンツェル「...犠牲を覚悟の上で、ですよね」


スノーホワイト「その通りだ。けど、ここで尻尾を巻いて逃げるような奴が、わざわざお呼ばれする理由もない」


スノーホワイト「そうだな?」


後ろを振り向くと、皆は黙って頷いた。



ドドドドドドドドドドドッ
バララッバララッバララッ


スノーホワイト「手を止めるな、撃て、撃ち続けろ!」


スカーレット「私が援護する、横の奴らは一度退がれ!」


ドドドドドドドドドドドッ
バララッバララッ


「ぐはっ」


「うっ....!」


銃弾とグレネードが絶え間なく飛び交い、互いの人員は少しづつ、だが確実に、一人一人数を減らしていった。
こちらの援軍。あちらの増援。戦力が次々と投入されていった。


だが舐めるな...我々とて意地がある。これまでの訓練や戦闘が無駄ではなかったと、今日こそ思い知らせてやる。


スノーホワイト「押せているぞ!進め、前進だ!射撃を続けろ!」


ドドドドドドドドドドドッ
ガガガガガガガガガガガガガガガッ




スノーホワイト「...オールクリア。時間がない、速やかに態勢を立て直し、武器と弾は敵から鹵獲しろ」


ラプンツェル「手負いの方はこちらに。私が回復します、必要なら医療キットも使ってください」


スカーレット「しかしどういうことだ...防御が手薄ではなかったのか?あの数は一体...」


IMCからすれば補給地など他にいくらでもアテがあるだろうに、確かに妙に敵の数が多い。
別の作戦の為の単なる時間稼ぎなのか、あるいは...




ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
ドォォォオォォォォォォォォォォン



+ "9話"-

大地を割き、亀裂が入るかのような轟音。
急な上からの衝撃に俺は思わず仰け反り、思い切り倒れこんだ。

+ "...そこにいたのは、俺の見たことのないヤツだった。"-


激しい衝撃で視点が合わず、めまいがする。この時既に、仲間の小銃兵が2,3人ほど踏みつぶされていた。
IMCに居たころには見たことない新型のタイタン...



...その時、自分の置かれている状況をようやく理解した。


小銃兵「タイタン、タイタンだっ!逃げろぉ!」


ドドドドドドドドドドドッ
ドォン


まず一人。強烈な足踏みで、兵士は瞬く間にミンチになった。
もう一人。無慈悲に敵を追尾するミサイルは、兵士を巻き込んで爆発を起こした。


...幸か不幸か、こちらを向いてはいない。俺たちは体を伏せ、茂みの奥で必死に息を押し殺...


...速い...!! 
その巨大な脚をこちらに向け、今まさに始末してやるといった様子だった。


+ "その時ばかりは全てを諦め...唐突に迫りくる死の瞬間に怯え、目を瞑った...ここで死ぬ定めなのだと思った。"-
























??「BT、敵機を補足した」


??「了解です」


??「ミサイルを射出します」


ドドドドドドドドドドドッ


ミサイルは正確に敵タイタンを打ち抜き、態勢を崩した。


スッ
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォン


...まるで、重量物を地面に打ち付けているような激しい振動がした。
いや違う....正確には、タイタンは敵機を「背負い投げていた」。


??「敵タイタンが接近。ロード級であると予測。」


??「...これより交戦する。...応援を頼む」


+ "...。"-


...その声は。




「大丈夫か?お前ら!」














...実に安心できる、いい意味で聞きなれた声だった。



ガブリエル「私一人では勝てるかどうか分からん...まだ戦えるか?少しでも応援が欲しい」


俺たちは言われるがままに頷いた...自分に出来ることなら、そして、あの怪物を仕留める算段があるのならば...
なんでもやろうと思えた。



ガブリエル「BT、やれるよな?」


司令は声を掛けた。彼の愛機であろうタイタンは、BTと言うらしい。


BT「勿論です」





+ "10話"-

ドドドドドドドドドドドッ
ガブリエル「今だ!斬撃を打ち込め!」


ザンッ


スカーレットはすかさず刀剣を振るい、衝撃波が敵タイタンの頭部にヒビを入れた。...これで何回目だ。


スカーレット「これでもまだ倒れないのか!?」


敵機は頭部から激しいスパークを放出しながらも尚、タイタンと激しくかちあった。


BTは敵機と腕を組みあい、熱風が感じられるほどの至近距離で睨みあった。


ガブリエル「うぐっ...!」


スノーホワイト「頭部を撃て!敵タイタンの攻勢を抑えろ!」


バララッバララッバッ....


カチッカチッ


ラプンツェル「だめ!もう弾がない!」


...既に交戦から十分程度は経過しただろうか。あれだけあった弾は大方使い切り、空薬きょうが地面に山積みになっていた。既に俺も何マガジン分も費やしている。これ以上の膠着は避けたい。しかし...



ガブリエル「...いいんだ、もう撤退してくれ」


ガブリエル「銃弾だけではコイツには勝てない...!」


スノーホワイト「ではどうしろと!?」



ガブリエル「...スカーレット、私が奴の動きを封じ込める。その隙にロデオしてくれ」


ロデオ。それは敵タイタンの上半身に飛び掛かり、内部のバッテリーを直接攻撃するというものである。
銃弾をこれ程にまで通さない相手となれば、もはやバッテリーごと破壊する以外に選択肢はないだろう。
しかし、相手は超大型の重機である。飛び掛かった者に命の保証はない。


ラプンツェル「そんな....!」


そうこうしている間にも、敵機はタイタンの腕を激しく掴み、握りつぶすかのように離そうとしない。
近接部隊の屍の山からは絶えず血が流れ、敵タイタンは一瞬足を滑らせ、態勢を崩した。


その隙を見逃す訳もなかった。












彼が何かを強く心の中に念じたかと思うと、凍える冷気が辺りを瞬時に封じ込めた。


ガブリエル「地に伏す贄を凍てつかし」


ガブリエル「万物を戒める者よ 今此処に」


機械の肉体ごと凍り付くような激しい吹雪が辺りを覆い尽くす。
先ほどの熱気は何だったのかと思ってしまうほどの、冷気を伴った暴風。


ガブリエル「セルシウス」





.....







BT「流石です、パイロット」




.....



風が急に止んだかと思うと、そこには不思議な光景が広がっていた。
地べたに広がる血はまるで軌跡を描くかのように空中で氷の束と化し、
巨大な重機はまるで氷の彫刻のように、全身をフリーズさせていた。


ガブリエル「...がはっ」


ラプンツェル「司令官っ!」


ガブリエル「....ちと無理をしたかな...ハハ」


彼女は上官を素早く抱擁した。虚ろな目、口からはか細く血を垂れ流し、もはや戦闘は不可能な有様だった。
吐き出された血は、上から赤を塗るように氷の床を流れ、這い回っていた。


BT「ガブリエル司令の器官機能が低下しています。これ以上の戦闘は危険と判断」



上官から余った弾薬を僅かに分けてもらった。これ以上の消耗は、総員撤退の選択肢も視野に入れなければならない。






スカーレット「二人とも」


スカーレット「私がロストしたら、回収は頼むぞ」


スノーホワイト「...分かった」


ラプンツェル「約束します。必ず、必ずあなたを...」






スノーホワイト&ラプンツェル「「見つけ出す」」


+ "11話"-

武器庫の周辺には、激しい爆発の跡やスペクターやミリシア兵の亡骸、地べたを転がる薬きょうと、火薬臭い匂いの様子が見て取れた。
...別部隊が激しく敵地で暴れていたのだろう。自分たちの奮闘は、初めて大いに意味のあるものだと思えた。


セキュリティが既に破られた後であればあとは簡単だった。


使い古し、少々サビついたデータナイフを武器庫に差し込んだ。USBのようにデータの交信が可能な、IMCの技術力の象徴の一つである。故に数は少なく、携帯を許されるのは一部の存在に限られる。


武器庫AI「ログイン認証中。こんばんは、スノーホワイト」


スノーホワイト「周辺の機械兵の動作回路を全て停止しろ」


武器庫AI「承知しました。直ちに動作停止用電磁パルスを送信します」


...その時だった。





ドォォォォォォオォオォォォォオォォォオォォォォォォォオォン


ラプンツェル「...!」


武器庫AI「警告。警告。大爆発を検知」


キュイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン


スノーホワイト「まずい...」


武器庫AI「対象の機械兵を全てスリープさせ、別エリア担当のスペクターを調査に向かわせます」


爆発は、間違いなく先ほどの交戦地帯から聞こえた。そこには手負いの指揮官と、
体が残っているかさえ疑わしい仲間がいる。


ドドドドドドドドドドドッ
ドドドドドドドドドドドッ



音を聞きつけたスペクター兵は大挙して押し寄せてきた。
...時間がない。




先ほどの交戦地帯に戻ってきたはずなのに、スカーレットだけが見当たらない。


ラプンツェル「ご無事ですか、ふたり....と....も....」


いや、そこに「あった」。


ガブリエル「...っ」





彼女は頭だけを残して吹き飛び、体のパーツは爆発で引き割かれ、首元から生々しい断面図が覗いていた。


無情な光景が広がる一方で、足音が次第に近づいてきているのがわかる。
....急がなければ。


BT「多数のスペクター兵の接近を検知」


BT「ガブリエル司令官はこれ以上の戦闘は不可能です」


BT「彼をお願いします」


スノーホワイト「....あぁ、あとは任せてくれ。タイタンさん」


ラプンツェル「ありがとうございます、BTさん。二人の安全は、私たちが保証します」


BT「ご武運を」




ラプンツェル「...念のため、ジャマー電波を散布します」


スノーホワイト「...頭はバッグに入れる。司令官が俺が負ぶうから、任せてくれ」


俺たちは腹を括り、死ぬ気でドロップシップまで走り続けた。





+ "12話"-

ドロップシップに何とかこぎ着け、既にミリシアへ帰還し始めていた。


俺は操縦を担当し、ラプンツェルは二人の応急手当をしていた。



ガブリエル「うう...」


ラプンツェル「お目覚めですか、司令官」


ガブリエル「...既にドロップシップの中か...ありがとう」


ラプンツェル「これが私の仕事ですから」


ガブリエル「...これからどこへ?」


ラプンツェル「ミリシアに帰還して、セラフィムに看てもらいましょう。私たちもボロボロですし...何より」


彼女は無言で頭を見つめた。


ガブリエル「...そうだな」


ラプンツェル「応急処置用のパーツがあります、手伝ってください」




私は小刻みに震える手つきを抑えながら、首からだらんと垂れて断線している回路に、ケーブルを慎重に繋いだ。
通電させ、コアダストに微弱な電流を流すことで、コアダストの温度を保つ。気絶した人間に電流を流す、
AEDに近い治療法である。と言っても、こちらは本当に悪あがき程度のものに過ぎない。


あるだけのケーブルを次々に繋いだ。少しでも通電を安定させるために。


彼女は甲斐甲斐しく、私の手当てまでしてくれた。凍り付いた金属の掌に小さな火種をあてがい、
少しでも体温と動力を確保した。




ガブリエル「君は...いいのか」


ラプンツェル「私は大丈夫ですよ」


彼女の顔には血や汚れが飛散し、額からは脂汗が出ていた。それでも彼女は懸命に笑ってみせた。
操縦席の彼は、何時になくまっすぐな目で前を見ていた。








「...あ...」


ラプンツェル「...スカーレット」


スカーレットは虚ろな目に微かに光を灯し、必死に口を動かし、何かを伝えていた。






「ラプン...ツェル」


「大丈夫です...あなたは私が護ります。大丈夫です...きっと」


「...さ...け..」


「あんなに吐いていたのにいつ気に入ったんですか?」


「みん..な...で....」


「...」


「...ヴィンセント。」


「....?」


「ラプンツェル。」


「魔法の言葉です。私たちを繋ぐ、大切な言葉。どうか、覚えておいてください...」


「...ヴィ...セン.」



プツッ




彼女の最期の動力が停止した。


ツー...ツー....


「...ラプンツェル、着いた。急ごう」





+ "最終話"-









セラフィム「〇〇番の××さん、受付までお越しください」


セラフィムクリニック。多くの医療班、技術班が滞在する、ミリシアの大きな病院。


あれから一週間ほどの日時が経過し、体を新調し復活したスカーレットを、代表者として引き取りに来た。



セラフィム「~~のスノーホワイトさん、こちらへどうぞ」


...来た。


ガラガラと扉をあけると、そこにいたのは全く見知らぬ誰かだった。
純白の大きな三度笠と鞘のついた刀剣を壁に立てかけ、白い服装に身を包む、
和装した女性のようなアンドロイドだった。頭が混乱して、しばらく声が出なかった。













「...スノーホワイト」


「...私を覚えているかな」


だが、確かに俺を呼びかける声は、彼女そのものだった。


「...変わったな、お前」


「あぁ...変わったさ。いろいろなことがね...こんな世の中なんだ、あらゆる物が絶えず変化するってことなんだろう」


「けど、これだけは覚えているんだ」








「ヴィンセント、ラプンツェル」


「...!!」


彼女はそう言って、俺を優しく抱きしめた。


「私たちを繋ぐ、大切な言葉なんだろう?」


「君の大切な言葉、私にも教えてくれないか」


「...スカーレット」


「え?」


「名前だよ。俺のかけがえのない仲間の...名前だ」


彼女を思いきり抱き返してやった。


「...こういう時、なんて言えばいいか...分からなくてね」


「何でもいいさ」


「...じゃあ」












「ただいま」



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