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TITANFALL(序)
禍中に沈む。
かつて神は、魔法の力を用いて地球に生命を生み出した。生み出された生命はそれぞれ独自の進化を遂げ、
実に多種多様な存在が生まれた。その中に、神との対話が可能な唯一の存在「人類」がいた。
神は人類に魔法の力を貸し与え、人類は魔法を行使することで両者は共に生きてきた。
だが、人類は魔法の力に魅入られ、次第にそれを我がものとしようとした。
人類は知恵を絞り、発展させてきた文明を神殺しに用いることで世界の頂点に立とうとした。
長きに渡る戦いの末に神は婚約者を失い、人類はその人口を6割失うという壊滅的な終わりを迎えた。
人類と神は、既に互いに共存することを望んではいなかった。
地球以外の星に移り住むことを余儀なくされ、人々は宇宙へと目を向けた。
人が居住可能な程に資源に満ち溢れた惑星の集合体「フロンティア」...。
......
あれから約1世紀後。
人々は宇宙に生存圏を移し、再び文明を再興させていた。機械、魔法、科学...
それらを融合させることで、独自の進化を遂げた。神から賜ったその力を、種の発展の為に用いたのだった。
失われた人口は、機械の姿に身を包む「アンドロイド」を生み出すことで、種全体の数を確保した。
大災害を切っ掛けに著しく発展した文明は、やがては衝突を生み出した。
魔法の力を持つ者。持たぬ者。資源に満ち溢れた星に生まれた者。そうでない者。
それらを全て支配し、我が物とする者達がいた。
名は「ハモンド」。大企業、ハモンド・エンジニアリング・インダストリー。
彼らはフロンティアを発見し、人類の生存圏を新たに見出すという偉業を成し遂げたが、
彼らが持つ技術力や魔法力は、やがて彼らの支配の為に使われ始めた。
ハモンドは後に「IMC」と呼ばれる軍を使い、世界に猛威を振るうことでフロンティアの支配を確実なものとした。
それを黙って見届けることを認めなかった者達は、アンチIMC連合組織「ミリシア」を結成。
IMCとミリシアの、二つが分かつ世界。
彼ら人類は新天地にて、尚も過ちを繰り返そうとしているのだろうか...。
そして私は今。新天地にて居を構え、最愛の人物を探し求めていた。
幼少期に学んだ魔法の知識を活かし、魔法学校の臨時教師をすることで食いつなぐ日々だった。
...だが、それも長くは続かないだろう。
IMCとミリシアの、存続を賭けた争いは...
再び幕を開けようとしていた。
鬱蒼とした森の中で、私たちは激しい銃撃戦を展開していた。

目の前には小型の機械兵、スペクターが立ちはだかっていた。彼らは射撃精度が疎かだが、
数にモノを言わせて突っ込んでくる厄介な敵兵だ。
私は1、2週間程の射撃訓練を終え、小銃兵が集まって出来た分隊、
「射撃部隊」の一員として、既に実戦投入の段階に入っていた。
...ここからが本番だ。
「私だ。司令のガブリエルだ。...射撃部隊の諸君、現状上手くやっているようだな」
「今回の我々の目的はここ、燃料補給地ソラスの制圧を行い、ミリシアの勢力を少しでも推し拡げる事だ」
「この星を奪取する以外に、我々ミリシアの未来はない」
惑星ソラス。敵軍IMCが燃料補給に使っている場所であり、
故に周辺をパトロールしている敵兵がわんさかいる危険な場所だ。
ミリシアは常に物資に余裕が無く、敵の領域にわざわざ突っ込んでモノを奪うという、
一方的で不利な選択肢を取る事しか出来ない。我々に、それ以外の選択肢は無いのだった。
...空から大量のカプセルのような物が降り注ぐ。
激しい煙と共に、連中は再びやってくる。
ガブリエル「撃て!撃ち続けろ!互いをカバーしあうように弾幕を展開し続けろ!」
...弾切れだ!
ドロシー「リロードします!援護を!」
射撃部隊「了解!私がカバーする!」
私はまだ慣れない手つきで手元のマガジンを交換し、すぐさま銃撃戦に復帰する。
射撃部隊「ぐあっ!」
「....メーデー!....メーデー!肩を撃たれたっ!」
お世辞にも良いとは言えない私の射撃精度では、敵を完璧に抑えることは難しかった。
戦場にて肩を並べる仲間が一度前線から引き下がる度に、
その分だけ我々の戦力はジリジリと削られ、一人一人の限界が早まっていく。
ガブリエル「ドロシー、まだやれそうか?」
ドロシー「はい!何とか!何とか!!」
私は必死で問いかけに答えるが、激しい攻防を前にまともな応答は出来そうになかった。
ガブリエル「...予想以上に敵軍の戦力が多い。これより、攻撃魔法の使用を許可する」
...来た。
攻撃魔法。魔法を使える者たちは、脳内や心の中で強く念じることで、
そのイメージを炎や冷気、風として発現させることが出来る。
...多大な隙を敵の目の前で晒す覚悟があるなら、の話だが。
ガブリエル「...総員に告ぐ。これよりドロシーが攻撃魔法の詠唱段階に入る。少しでも時間を稼ぎ、彼女の支援に徹しろ」
我々の人数は先ほどよりも確かに減っているはずなのに、弾幕の勢いはより激しさを増していく。
銃弾の嵐が敵兵に降り注ぎ、奴らはその猛攻を前に手をこまねいていた。
...彼らの助力に感謝し、私は手を合わせ、祈りを捧げた。
「紅き炎を身に纏い」
「大地を総て灼き尽くす」
「フレア」
幾許かの爆発と轟音の後に、戦場はすぐさま鎮まり返る。
静寂の最中、煉獄の炎が辺りを覆い尽くしていた。
木々は燃え盛り、さながら地獄の様相を呈していた。

....私は思わず脱力し、全身から力が抜けるように地面に倒れ伏した。
ガブリエル「....オールクリアだ、ご苦労」
ガブリエル「...これが彼女の力か...まるで、まるで....」
視界が朦朧とする中で、歓声と雄叫びが聞こえてくる。
射撃部隊「おい、今の爆発!見たか!?スペクターが一瞬で蒸発したぞ!」
射撃部隊「凄い...まるで神だ......神が私たちに味方したんだわ....」
彼らは私の周りに集まると、私の体をスッと持ち上げ、祀り上げるように胴上げをし始めた。
魔法で消耗した体にこの振動は堪えるので止めて欲しい。嬉しそうな彼らの顔を見ると、そうは言えなかったが…
ガブリエル「...お前ら、そこまで。ドロシー、体調の方は?」
ドロシー「は...吐きそう...ですけど、まだ...やれます」
強力な魔法は、それを発現させる事自体が難しい。それに加え、戦場での命懸けの最中。
強烈な緊張や恐怖と相まって、数発撃つだけで頭痛や眩暈、強い倦怠感に襲われるものだ。
ガブリエル「...無理せずに少し休め。一度部隊の進軍を中止する...一歩ずつ、慎重に進めばいい」
彼はそう言って、労うように私の肩を叩いた。
...この人が私たちの司令で助かった。
司令の言葉で、射撃部隊はひとまず休息の機会を得られたのだった。
ドロシー「あの...何してるんですか?」
射撃部隊「ん?あぁ、これか。腕のパーツが故障してきたから、スペクターからちょっと拝借してるってとこだ」
ドロシー「え...腕を故障って、どういうことですか」
射撃部隊「俺たち、腕とか脚とか...体の一部が機械でさ。いわゆるサイボーグ?ってやつだよ」
彼らはそう言って、横たわっていた敵の腕をばらしてパーツをいくつか取り外し、自分の腕に装着していた。
...少しぎょっとする光景だが、その慣れた手つきからは「ごく当たり前のこと」という雰囲気が感じられた。
射撃部隊「司令。弾が切れちまったんですが、物資はいつ届くんですか?」
ガブリエル「救援物資はいつでも戦場に届けられる訳じゃない。届くまでは敵の使っていた銃を使え」
射撃部隊「えー...敵から奪う事が前提だから、追加の弾なんて送らんでもいいだろうって?」
ガブリエル「敵の使ってたオモチャじゃ戦えませんってか?」
射撃部隊「ハハ。本当にそうなら、もうとっくにくたばってますがね」
...ある者は態勢を立て直し、木々の茂みに隠れて作業を行っていた。
またある者は、先ほどの異様な光景を目の当たりにして、好奇心に駆り立てられていた。
射撃部隊「ねぇ、ドロシーさんだっけ。さっきの魔法、凄かったけど...あれ、どうやって撃ったの?」
ドロシー「あぁ、えっとね、まずはどんな魔法を撃ちたいかをイメージして、それから____________」
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォン
....耳を劈く程の強烈な轟音。地割れかと見まごう程の大地の振動。何も見えなくなるほどの煙幕。
ぐちゃり、と肉塊を踏みつぶす音。

...これが、例の怪物か。
私は戦場に来て初めて、生物が本能的に持ちうる原始的な恐怖を感じた。
....こいつは間違いなく、ヤバい....という確信。
その圧倒的な巨体と衝撃的な邂逅は....そう思わせるだけの凄まじい説得力に溢れていた。
次いで、煙幕の中から出てくる増援の数々。

スペクターの、あの殺気だった赤い目つき。
背筋が凍り、先ほどの衝撃も相まって死の文字が頭を過ぎる。
あぁ父よ...偉大なる神よ...!私を....どうか救ってください....
ガブリエル「まずは周辺のスペクターを片付けろ!少しでも数を減らし、先のことは後続に任せる!直ちに応援を呼べっ!」
射撃部隊の一人は激しい銃撃戦の最中、通信機に向かって祈るように必死に叫び続けた。
「こちら前線部隊、応援を要請する!繰り返す、こちら前線部隊、応援を要請する!」
「こちら前線部隊、応援を要請する!繰り返す、こちら前線部隊、応援を要請する!」
「「....こちらパイオニア部隊の紅蓮だ。敵襲か?」」
「ロード級タイタンとスペクターの奇襲を受けている!直ちに応援を!!」
「「....!!」」
「「了解、速やかにそちらに向かう!」」
援軍が来てくれるのは何よりだが、先ほどのスペクターとの銃撃戦で数人の戦力を失っている....!
このままでは....持ちそうにない...っ!
射撃部隊「お前ら!ラインを下げろ!前に進む事なんて今は考えなくていいっ....後退しながら戦え!」
....
ガブリエル「...よく聞け、お前ら」
ガブリエル「周りのスペクターは私が全て片づける!」
私が全て片付ける?
...ここに来て、あの人は一体何を?
ドロシー「司令官、何か方法が!?」
ガブリエル「考えるな!撃て、1秒でも時間を稼ぐために撃ち続けろ!」
ガブリエル「...20秒。20秒だけあれば...十分だ」
....数十秒稼ぐだけで、周りのスペクターを蹴散らせるような術なんて...どこにも.....
....まさか
あの人は....まさか....!
......
「地に伏す贄を凍てつかし」
「万物を戒める者よ 我が元に」
敵タイタンはおろか、自軍すらも凍死しかねない....そう思わせるほどの激しい吹雪が辺りを覆い尽くす。
先ほどの煉獄の風景は黒煙を上げ、絶対零度を前に消えかかっていた。
吹雪の勢いが臨界点に達した刹那、その言葉は紡がれた______。
「「セルシウス」」
強烈な魔法を打ち出した反動からか、
口から思わず血を噴き出し、それが掌に広がっていた。
......
......
そのまさかだ、ドロシー。猛吹雪に晒されて、一瞬にして敵が全員氷漬けになったら君はどう思うか.....
....私も...
....かは...っ....
ドロシー「司令!大丈夫ですか、司令っ!口から血が....血が!」
....気にするなっ...
...私には....まだやるべきことがある....っ!
震える声と手つきを抑え、通信機に声を入れた。
「こちら....ガブリエルだ...近接部隊の諸君」
「10分後にミリシアで合流...目的地のソラスに出発してくれ....今回はロード級タイタンとの交戦だ、
各自点検を重点的に行うように...抜かるなよ」
近接部隊「いえ...司令。5分後には到着可能です」
「ハハ...助かる...」
___ブツッ
ツー...ツー...
...すまない。
....少し...休ませて貰うぞ...
ドロシー「「天地を総て焼き尽くす 緋き焔よ我が元へ 再び集いて回帰せん」」
「「フレア」」
............
.......
...
気絶から目が覚めると、
再び爆発と轟音が続き、煉獄の炎は周辺のスペクターを灰と化すまで燃やし尽くしていた。
木々は燃え盛り、辺り一帯は再び地獄の様相を呈していた。
...辺りを見回すと、上空には援軍と思しきドロップシップが巡回していた。彼らはもう来てくれたというのか。
近接部隊「司令、ただいま到着致しました!」
ガブリエル「...応援に感謝する。これより作戦開始だ...扉が開いたら一斉に飛び込んでくれ」
ガブリエル「ミリシアに幸あれ!」
....君がいなかったら、我々はここまで持たなかったかもしれない。
...ありがとう、ドロシー....。
あとは、あの深手を負ったタイタン1機だけだ。
ガブリエル「射撃部隊は近接部隊に後を任せ、直ちに撤退を開始しろ!これ以上の戦闘は危険だ!」
ここまで前線を上げてくれた部隊に心の中で感謝し、速やかに撤退命令を出した。
彼ら彼女らはもう、これ以上は耐えられない。
....けど、私は違う。
これからの未来を担う者達の為に....
引き下がる訳には行かない。
目を覚ますと...そこは見覚えのある光景だった。

射撃部隊「...大丈夫?」
仲間の呼びかける声が耳に入り、薄れていた意識が覚醒するようにハッと目が覚めた。
射撃部隊「援軍が来てくれたから一度撤退したんだけど、大丈夫?まだやれそう?」
...私は二度も大技を放って消耗したのだろう。だが早い段階で撤退したお陰か、まだ何とか戦えるだけの体力は残っていた。
...目を覚まして間もなく、耳障りな通信機のノイズが鼓膜に入り込んできた。
ゼーレ「初めまして、射撃部隊の諸君。ただ今より臨時で君たちを指揮することなった指揮官のゼーレだ。」
ゼーレ「...今回の作戦ではキミが鍵になる。ドロシー、まだやれそうか?」
ドロシー「はい...なんとか。ギリギリですけどね」
ゼーレ「では手短に作戦を説明する。今はガブリエル司令率いる近接部隊が小型兵を相手取っている。その隙に
進軍し、君たちにはあのデカブツとカチあってもらう」
デカブツ。明言こそされていないが、間違いなくタイタンの事だろう。
...あの衝撃的な邂逅、そしてあの存在感。
...全てが私にとって恐怖であり、その記憶は脳裏に深々と刻み込まれていた....。
ゼーレ「で、どうやって敵タイタンどもを始末するのかっていうのが君たちの疑問だろう。それに関しては問題ない」
指揮官がそう言い終えると、上空を飛行しているドロップシップから物資が雑に放り投げられた。

中に入っていたのは、何の変哲もないただのサブマシンガン。これが何かのカギを握るというのか?
ドロシー「...これは?」
ゼーレ「私が最近開発した銃でね。ボルトSMGって言うんだ、覚えておいてくれ」
ゼーレ「で、こいつはエネルギーの銃弾を放つタイプの武器なんだが、それが敵タイタン共の足を止めてくれる」
どういう原理であのバケモノの足を止められるかなんて知る由も無いが....
もしそれが本当なら、それ以上の僥倖は無いと言えるだろう。
ドロシー「足止めしている隙に、銃やら魔法やらで倒してこいということですね」
ゼーレ「そういうことだ。魔法を使えない者達は、この武器でドロシーの援護射撃をメインに行ってくれ」
ドロシー「...私に相当期待しているようですが」
ゼーレ「君が期待の新人というのはさっきの戦闘を見たら分かるさ。あの凄まじい規模の大爆発をね」
ゼーレ「さて、これ以上お喋りに興じるのはお家に帰ってからにしよう。ではそろそろ始めようか、
強く美しきライフルマンの諸君?」
ゼーレ「ミリシアに...幸あれ!」
彼女の力強い掛け声と共に、我々は再度進軍を開始した。

辺りは薄暗く燃え盛り、その光景は私の緊張を弥が上にも後押しした。
しかし、この戦場を突き進んででも会うべき人物がいる。
全ては"彼女"に会うために、私は今ここに立っているのだ。
ドロシー「...っ...!!」
...いた。
奥の方まで歩みを進めると、例のデカブツが我が物顔で地上を闊歩していた。
頭の中で戦うとは分かっていても、実際に目の前にいるというだけで思わず足が竦んでしまう。
ドロシー「うっ...」
幸い、こちらに気づいている様子は無い。であれば何も考えずに先手を取ればいいだけなのに、手が震えて....
トリガーを引けそうな気がしない。
射撃部隊「おい、お前。顔色が悪いが大丈夫か...?」
額に脂汗が滲み、思わず首を横に振った。
...我ながら情けない。
射撃部隊「...新人にはキツイか。大丈夫だ、ゼーレ司令殿が開発したコイツがある。俺たちに任せてくれ」
そう言うと、彼ら射撃部隊は静かな茂みの中敵を包囲するように散らばり、囲むように展開した。
射撃部隊「....撃てっ!!」
彼の勇ましい一声を切っ掛けに、部隊の一斉射撃が始まった。
電撃を伴なったエネルギー弾は敵機を内部から蝕むように動きを封じ、その巨体による猛撃を不能としていた。
...ゼーレ、と言う人の技術力には感服である。
これまで苦戦を強いられてきたタイタンも、動きさえ止めてしまえばどうにでもなるんじゃないか...と、そう思えた。
射撃部隊「...ドロシー!今だ!」
....
ドロシー「紫電の神槌よ、来たれ」
ドロシー「「ライトニング!」」
...
落雷は敵タイタンを正確に狙い、その刃で機械を焼き尽くし、真っ二つに引き裂いていた。
そして、その音を聞きつけてやってくる敵の援軍の数々。

敵の数はというと、恐らく10機以上...だろうか。
タイタンとは言え、さっきは1体しかいなかったというのに。
...こいつらも、今ここでやるしかないのか。
「メーデー!メーデー!!」
「ぐはっ....」
「肩を撃たれたっ!」
私たちは数の暴力に押され、その頭数を少しずつ...だが確実に消耗していた。
雷に撃たれ焦土となった地面、そこに横たわる敵の亡骸、血しぶき、硝煙の香り。
そして、味方の断末魔。
思わず目を背けたくなるような生々しい光景が続き、吐き気さえ感じられた。
......
...
ドォォォォォォオォオォォォォオォォォオォォォォォォォオォン
「うっ...!」
彼方より聞こえる大爆発の轟音。耳を塞いでいてもお構いなしに鼓膜に飛び込んでくるそれは、
その衝撃と、爆発の大きさの如何がどれ程のものであるのかを明示していた。
敵のタイタンと、味方の近接部隊の彼らのものと思しきパーツが無情にも上空に打ち上げられていた。
通信機が鳴った。そのガサガサという耳障りな音は、通信機越しの人物の焦りさえ感じられる。
目まぐるしく変わる戦況を前に、人の余裕など瞬時に崩れ去る。
ゼーレ「...二つ、忠告しておかないといけない」
ゼーレ「一つ、近接部隊はガブリエル司令ともども大打撃を受け、撤退を余儀なくされた」
ゼーレ「....一つ、百を超える数のスペクターがこちらに接近している...。」
ゼーレ「そちらに手負いのタイタンが援護にやってくるはずだ、それまで持ちこたえろ!」
ドロシー「撤退の2文字は無いのですか!?」
ゼーレ「今回の任務は、多大な犠牲を出すに値する....これは総司令からの勅命だ」
ゼーレ「ミリシアに...幸あれ!」
射撃部隊は私を含め、残すところあと3人程度だった。
敵機は私たちの眼前で、夥しい数の徒党を組んで立ちふさがった。
ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン....
.....
...
空を見上げると、巨大な銃器を構えたタイタンがこちらに着地しようとしていた。
....
ドォォォォォォオォオォォォォオォォォオォォォォォォォオォン

「遅れました、ライフルマン」
「私はBT 」
「多数のスペクター兵が接近しています、これより殲滅モードに移行します」
BTと名乗るその機体は、巨大なレールガンを右手に携え、全身からは激しく燃え盛るミサイルを飛ばしていた。
私たちはあまりに突然すぎる彼の登場に呆然とし...しばらく呆けるようにしてその光景を目に焼き付けていた。
彼が放つ銃弾は数多のスペクター兵を蹴散らし、ミサイルは数多くの敵機を鉄くずに変えていた。
....これが.....タイタンの力なのか...。
しかし、スペクター兵も負けじと数の勢いを生かし、一斉に銃弾をばら撒いてくる。
BTは右腕から巨大なバリアを展開し、必死に守りの体制に入っていた。
「ライフルマン、助けが必要です。敵の攻撃を抑える必要があります」
...私も口を開けて戦況を眺めている場合ではない、早く動かなくては!
そう思い、私なりに必死に援護に回った。
…
いくらタイタンでも、大勢を相手取るのは厳しいものがあったのだろう。
彼は膝をつき、その動力は限界を迎えたかに見えた。
「動作動力 低下中...」
.......
...
ゼーレ「ドロシー!聞こえるか!」
ゼーレ「今から君に!ドロップシップから通信機を渡す!受け取ったらすぐにBTに乗れ!」
ドロシー「乗れったって!どうやって動かせばいいんですか!」
ゼーレ「BTの背中に乗れ!そしたら分かる!」
彼女はそう言って、ドロップシップから乱暴にブツを放り投げた。
ドロシー「いきなり言われたって…私にどうしろと…」
…あの怪物に乗りこんで操縦しろと言われても、全くイメージが湧いてこない。
そもそも、人が乗れる兵器だということさえ全く知らなかったのに。
私は...私はどうすればいい...?
私は必死に通信機を受け取り、電源をオンにする。
もうどうにでもなれと思いつつ、彼の背中に飛び込んだ。

ゼーレ「いいか、乗り込んだら何か聞こえてくるはずだ...落ち着け、目を閉じて...それに耳を澄ますんだ。」
私は座席について静かに目を閉じると、BTの声が聞こえてきた。

ヴァンガード級タイタン : BT
主要プロトコル
1.パイロットへリンクせよ
2.任務を執行せよ
3.パイロットを保護せよ
「「プロトコル...起動」」 「「パイロットの保護を最優先」」「「動力の低下を確認」」
「「パイロットとリンクします」」
.......
「「起動」」
...やるしかない。
私の必死の覚悟が伝わったのか、BTはメキメキと音を立て、その立派な二足で起き上がり始めた。
「「聞こえますか、ライフルマン」」
「「私の操縦席にはあなたがいます。あなたが私を動かしてくれれば、私はより効率的に戦闘することが可能になります____攻撃のご指示を、ライフルマン。」」
BTは私を呼んだ。私はライフルマンなんて名前ではないのだが...今はそれどころではない。
私は勢いに任せ、手前のレバーを押した。
「うわっ!」
BTは全身からミサイルを激しく噴射し、こちらの様子を警戒していたスペクターに猛烈な爆風を叩き込んだ。
「「その調子です。あなたが操作してくれれば、私は同時に2つの攻撃が可能となります。引き続きご指示を」」
私は再びレバーを押した。BTは再度ミサイルを放ちながらも、彼自身はその剛腕を敵機の顔面にお見舞いしていた。
ミサイルによる波状攻撃と、その巨体を活かした近接攻撃を織り交ぜた攻撃は実に強力だった。
周りを檻で囲むように存在していたはずのスペクターは次々と数を減らし、残すところ半数程度になっていた。
.........
....
その時、コックピットは画面にWarningの文字を映し出すと共に、警告音を発し始めた。
「あの...なんか警告文が出てきてるんだけど!」
「「動力低下中...残り3%。 残りの動力が僅かしかありません」」
「これはどうすればいい?私は何をすればいいの?」
「「敵機を速やかに撃破しなくてはなりません」」
「「あなたの命令があれば、私は効率的な戦闘が可能です」」
「「ライフルマン、ご指示を」」
...私に出来る事はこれしかない...
そう決意を固め、彼に命令を下した。
「...BT、敵を牽制して時間を稼いでくれる?」
「「了解です」」
彼は自身の判断を信じ、ありったけのミサイルを放ち続けた。
残ったスペクターは都合の良い遮蔽に身を隠し、そこから一歩たりとも出てくる気配が無かった。
.....
....
「紫電の神槌よ」
「眼前の厄を打ち払い給え」
「ライトニング」
...遮蔽に身を隠していた最後の敵は雷の刃で貫かれ、その体の断面を開けっ広げにお披露目していた。
「「お見事...です...ライフル...マ」」
「「ン....」」
彼はついに体勢を保てなくなり、大地に片膝をつき始めた。
「「動力停止....」」
....
コックピットの画面の暗転と共に、私の意識もそれに追従するように深い眠りに呑まれた。
...
ゼーレ「...ありがとう。二人とも」
ゼーレ「彼らをミリシアまで送り届けなければ」
ゼーレ「そしてこの結果を...報告しなければな」
目を覚ますと...そこは見覚えのない光景だった。

白い天井に白いカーテン。間違いない、私はあの後病院送りにされたのだろう。
...どうやらあの作戦で激しく消耗したのか、私は長い間気絶したようだ...。
記憶が曖昧だが、あのBTと名乗ったタイタンは無事なのだろうか?
医療スタッフ「お目覚めのようですね、体調の方はいかがです?」
...
身体の節々が少し痛み、加えて少々熱っぽさを感じていたが、それ以外はどうという事はない。
自分の持つ治癒力は、改めて人並み外れていると思った。
スタッフ「...40.2度、ですか。思ったより発熱の方が酷いようですけど、本当に大丈夫なんです?」
40度越えの高熱。一般的な人間基準で言うならば重度と言っていいが、私は少々の微熱程度に感じていた。
スタッフ「これ程の高熱でありながら、特にこれといった重い症状が出ていないのは珍しいですね...」
私を看護してくれているスタッフの、心配そうな声が耳に入る。
...それに続いて、聞き慣れた声がした。
「元気にしてるか、新人さん」
ふさふさの白い長髪に、クールな濃紺の軍服と軍帽のその人は、私もよく知っている人物だった。
...渋く響き渡るオオカミのようなその声は、男性的でありながらどことなく優しさが感じられた。
「よっ」
「...ガブリエル司令」
彼は笑顔で、元気そうに私に声を掛けた。が、その頬には深々と火傷や傷跡などが刻まれており、
彼のような人物でさえ、戦場では当たり前のように深手を負わされるのだと痛感させられた。
ガブリエル「君に伝えたいことがいくつかあって、会いに来たんだ」
彼は凛とした表情でこちらを向き、静かに口を開いた。
ガブリエル「まず一つ。君とBTの最後の奮闘のお陰で、ソラス侵攻作戦は無事に成功を収めた。
君がいなかったらと思うと...。本当に感謝している、ありがとう。」
司令は私の頭を撫でた。その温かい手つきからは、彼の人柄のようなものが感じられた。
ガブリエル「次にもう一つ。君の素晴らしい功績を鑑みて、昇進を考えてるんだ」
ドロシー「昇進...ですか?それって、本部の方に移動して内勤みたいな...」
風のウワサで聞いたことがある。ミリシアの本部にはアークという中枢都市が存在し、
そこに勤務している者たちは、比較的IMCの影響を受けづらい安全な場所で働けるということ。
ガブリエル「いや、そういうのじゃない。ここに務めて、IMCと戦うってことは変わらないよ」
ドロシー「では、何が?」
ガブリエル「...君は、パイロットという職業を聞いたことがあるかな」
ドロシー「うーん...戦闘機か何かに乗って、空軍のような部隊に所属する仕事と聞いたことがあります」
彼はどこか苦笑交じりの表情を浮かべた。私の想像とは違ったのだろうか?
ガブリエル「...分かった、一から説明していくから、ゆっくり聞いてくれ」
.....

タイタン。それは、人類が生み出した技術力の結晶にして、戦場を支配する「力」の象徴。
自律的に動くAIが中に搭載されており、機械的に動き回るだけでも歩兵にとっては脅威的な存在である。
この世界の創造神である「白き巨人」の名に肖り、タイタンの名が付けられたという。
パイロットの最大の特徴は、彼らがタイタンを乗りこなす一級の戦闘兵という事だろう。
およそ5,6mはあろうかというその巨大な兵器を操縦することはパイロットでなければ叶わず、
一般的な歩兵とは一線を画す圧倒的な実力を持つ。
堅い絆で結ばれたパイロットとタイタンの力は、フロンティアに存在する数多の兵器を以てしても敵わないとされる。
それほどまでに戦場では絶対的な存在であり、多くの兵士にとって、畏敬の対象そのものである。
ガブリエル「結論から言おう。君、パイロットになる気はないか?」
ドロシー「...へ?」
ドロシー「...それって、この前BTに乗って動かしたみたいなことを、これからもずっとやれってことですよね?」
ガブリエル「そうだ」
ドロシー「いやいや...無理ですよ、そんなの...」
私は頭が混乱した。
まだミリシアに所属してから間もないこの私が、昇進の段階まで進んでいたとは...。
ドロシー「前はゼーレさんに乗れって言われて、適当に中のボタンとかレバーを押しただけですから....
どうやって動かせばいいかすら、まだよく分かってないのに」
今にして思えば、あの状況を説明なしでよくもまぁ乗り越えたものだと改めて思う。
ガブリエル「それに関しては問題ない、私が手取り足取り全て教える」
ガブリエル「手始めに、BTを君に貸すよ。君が搭乗するのなら、彼もNoとは言わないだろうし」
ドロシー「BTの正規のパイロットって...司令だったんですか?」
ガブリエル「君には言い忘れてたけどね」
....
ガブリエル「正直な話、君には凄く期待していてね」
ガブリエル「スペクターどもを一瞬で灰に変えたあの熱風。あと、雷の魔法で敵タイタンを貫いたとも聞いたんだが」
ガブリエル「これだけ高等な魔法を使える兵士はそう多くないからね」
司令の話を聞く限り、ミリシアにおいて魔法を使える兵士というのは貴重な存在なのかもしれない。
にしても、初陣を終えた後にすぐ昇級の話がチラつくのは、少々時期尚早だと感じた。
ドロシー「...あの、初めての任務を終えた後の話としては、少し急すぎると思うのですが」
ガブリエル「...君にはそれだけの可能性があると思うんだ」
...反応に困った。
タイタンの操作方法すら分からない今パイロットになれと言われても無理な話だが、
司令が一から教えてくれるとなれば話は別だ。
....それに、私なりに感じたあの一体感。
あの、不思議な昂ぶり。高揚感。そして、実際に大勢の敵をなぎ倒したという圧倒的なその力。
...正直な話、気になってはいた。
ドロシー「あの...本当にいいんですか?」
ガブリエル「あぁ、全く構わないよ」
...彼は、それだけ私を買ってくれているという事だろう。
自分で言うのも何だが、魔法の力だけは誰にも負けない自信があった。
ガブリエル「...そういえば、君がなんでミリシアに志願したのかって聞いてなかった気がするな」
ガブリエル「丁度良い機会だし、教えてくれないか」
...
ドロシー「...ここに来たっきり、連絡がつかない姉がいるんです」
ドロシー「かけがえのない...私にとってたった一人だけの姉さん。彼女を...探しに来ました」
ガブリエル「...お姉さんを探すために、わざわざ軍に入隊しようと思ったのか?」
ドロシー「...はい、他の人からすれば、だいぶ変わってるかもしれませんが」
ドロシー「私はとにかく、家族を守りたいんです。私にはそれ以外何もないし、どうやって探せばいいかも分からないけど」
ガブリエル「...ありがとう、教えてくれて。守るべき何かがあるっていうのは、君も私も同じのようだね」
ガブリエル「そうだ。これ貰っといてくれ」
ドロシー「?」
Gabrielle MacAllan
ガブリエル「名刺だよ。暇になったら個人的に連絡してくれ。腹を割って、君と話したいことがある」
ガブリエル「...とまではいかなくとも、私の声を聴きたくなったら電話してくれてもいいんだよ、ハハ」
ドロシー「…全く、まだ知り合って間もないじゃないですか」
ガブリエル「それじゃあね、期待の新人さん。いい返事を待ってるよ」
...........
スタッフ「...お姉さん、無事だといいですね」
ドロシー「えぇ...本当に。」
スタッフ「体調が良くなるまでは、ここでゆっくり休んでいってください。えっと...ドレシーさん...でしたっけ」
そういえば、彼女に対してまだ自分の名前を口にしていない事に今更気づいた。
名前....
...私の....名前は....
ドロシー「...えっと...」
ドロシー「げ...」
ドロシ「.....ゲイル。ドロシー・ゲイル。覚えておいて」
ガブリエル司令が持ち掛けた、パイロット昇格への話。それは単純な昇級昇格という話には収まらず、
今後私の命運に深く関わってくることだ...と、そんな予感がした。
...
ここまでの簡易的な人物紹介(1~5話)

主人公。名前の由来は「オズの魔法使い」のドロシー・ゲイルより。
フロンティアに移住してしばらくは、資格を活かして魔法学校の臨時講師をすることで生計を立てていた。
消息不明となった姉を探すべく、IMCとミリシアの戦争の渦中に呑まれる選択をした。
現在ではミリシアの歩兵であるライフルマンとして活躍しているが、凄まじい魔力の持ち主である事から
上層部からも一目置かれており、彼女を上級戦闘兵であるパイロットにさせるための話が既に進んでいるようだ。

ミリシアの最高司令官。ドロシーの個の強さを特別視しており、同時に警戒している。
特にこれといった戦闘力や特殊能力を持つわけではないが、にも関わらずその地位に就いている辺りに、
彼女の指揮官としての実力が伺える。指揮の腕は悪くなく、人望も厚い。
ミリシアの上層部の指揮官であるガブリエル、ゼーレを従える存在。

こう見えて男性。
ヘルムの部下であり、ミリシアを支える戦闘司令官の一人。
脳を移植することで魂を機械の身体に注入する技術を用いて、現在では元人間のアンドロイドとして活躍している。
ヘルム、ガブリエル、ゼーレの3人の中で唯一直接的な戦闘能力を持つ存在であり、冷気の魔法を専攻分野とする。
故に自身も前線に出て、部隊を直接率いる事が多い。
戦闘兵としての階級は1等パイロット(パイロットの中でも上位の階級)であり、BTとバディを組んでいる。
ドロシーの強さと人柄に可能性を信じ、彼女にBTの搭乗権を譲渡しようと考えているようだ。

ミリシアを支える司令官の一人。重火器を扱う武器製造メーカー「Seele Armory」の社長でもあり、
ミリシアの傘下に入る代わりに、SA社が製造した武器を定期的に購入する契約をヘルムと結んでいる。
彼女の製造する武器はどれも高額かつ高性能であり、エネルギー弾を射出する新型のサブマシンガン「ボルトSMG」
は、対敵兵機用武器として極めて強力であるともっぱらの評判。

ミリシアが誇る強力な巨大ロボット。普遍的なタイタンである「ロード級」の更に上を行く「ヴァンガード級」のタイタンであり、元々IMCが試験的に運用していたものを鹵獲した個体である。
普通のタイタンにはプロトコルと呼ばれる、任務を執行するための三原則のようなものがプログラムされている。
基本的に数字の大きいプロトコルを優先し、3,2,1という順で、それに基づいて動く。無論BTもその例に漏れない。
彼のプロトコルは優先度順に、「パイロットを守る」「任務を遂行する」「パイロットに搭乗して操縦してもらう」
ことの3つである。ただし、必ず遵守しなくてはならない訳ではない。
Tips
魔法の大元である魔力は、この世界のあらゆる場所に存在する元素のようなものである。
特に液体に溶けやすいという性質があり、現実世界の水のようにこの世界を循環している。
脳内で想起する、心で祈る、あるいはイメージすることで自然現象を行使できる術。これを魔法と言い、
兵器として利用できる程の規模のものを扱う者は「魔法使い」と呼ばれ重宝されている。
多くの人々は小さな火を起こす、そよ風を起こす等、日用レベルの規模しか扱えないことが多い。
精神や集中力、魔法に対する相性など個人差に強く依存する力であるため、人によって大きく向き不向きがある。
優れた魔法使いは、その身に膨大な魔力を蓄えている事が多いとされる。
脳細胞や血液は特に魔力が蓄積しやすい場所であり、彼らは自身の肉体を媒介に魔法を打ち出す事を可能としている。
この世界の生物は水や空気中の魔力が体内に蓄積している事が多々あるため、生物濃縮を繰り返すほど
(=生態系の上位に位置する捕食者であるほど)膨大な量や濃度の魔力をその身に宿しやすい。
ドロシーは特に優れた魔法使いであり、それを証明する魔法技師1級の資格を有している。
ドロシー「失礼します」
数日後。体調が良くなった私は、司令と"話"をしに来た。
ドアを開けると、シックな色調のカーペットと本棚に大量に敷き詰められた魔導書が見えた。

本棚には魔法学や科学、魔法数式学など魔術に関する本が多く揃っており、彼の勉強熱心な一面が伺えた。
ガブリエル「来てくれて感謝する。君とはゆっくり"話"でもしたいと思っていた所でね」
司令は呑気に紅茶を淹れだした。実に優雅な光景に見えるが、彼の目はどこか冷めている。
ガブリエル「まぁ座ってくれ。茶でも飲みながら話そう」
ドロシー「ありがとうございます、それで、話っていうのは...」
ガブリエル「魔法技士資格1級を持っていると聞いてね」
ガブリエル「君はどうやってその技能を身に着けたんだろうと思ってね、何かあれば教えて欲しいんだが」
魔法技師1級。自然を行使できる存在である魔法使いの中でも、最高峰に位置するとされる存在。
そして、そのような人物であることを証明する資格であり、多くの魔法使いにとっての誉れ。
...私は返答に困った。魔法技師1級を持っているのは頑張って勉強したからです、と言ったところで、
彼は「はいそうですか」と言いそうな様子もない。恐らく、私に何かあると踏んでいるのだろう。
...だからと言って、真実を言うのは少し憚られた。
何となく、彼に怖がられるのは嫌だと思った。
私は返答に困り、紅茶に口をつけることでお茶を濁した。
ドロシー「...美味しい」
ガブリエル「うん…美味そうに飲むね。私のお気に入りの茶葉を使ったんだが、口に合うようでよかった」
彼の気を逸らすように、なんとはなしに質問を投げかける。
ドロシー「そういえば司令、今どういう魔法の勉強をされているんですか?」
ガブリエル「冷気の魔法だよ。今より太古の時代の遥か昔に、魔神セフィロトっていう神が生み出したとされている
力とか何とか...って言われてるけど、知ってるかい?」
ドロシー「....魔神セフィロト!」
ガブリエル「お、知ってるのか?流石だな」
私はその言葉を知っていた。この世界の創造神こと古龍ラグナロクの生みの親...と幼少期に聞いたことがある。
自分に縁のある人物を耳にして、つい声が出てしまう。
ガブリエル「君は前に炎の魔法を使ってたようだけど、それも魔神セフィロトが生み出した力なのかな」
ドロシー「...いいえ。炎の力は鬼神ズルワーン、それと、雷は女神ソフィアが生み出したとされています」
ドロシー「鬼神、女神、魔神...3柱の神々は、畏敬の念を込めて「三闘神」と呼ばれていました」
...しまった、つい色んなことを口走ってしまった。
魔法学校で教師をしていた時の癖が染みついていたのだろうか...。
ガブリエル「へえ、三闘神か…。座学は得意なつもりだったんだが、君の知識は聞き馴染みがなくて面白いな」
ガブリエル「そういう話はどこで知り得るんだ?」
ドロシー「小さい頃に、親から聞かされたもので」
ガブリエル「親から?魔法のルーツまでも知ってるとなると、相当魔法に精通していると思うんだが」
ガブリエル「君は元々、高名な魔法使いの血筋ってことなのかな」
ドロシー「…はい、まぁそんなところです」
私は消え入るような声で、気まずくそう答えた。
彼は紅茶に口をつけると、キッパリとした表情でこう言った。
ガブリエル「…正直な話、私にとって君は「選ばれし者」に見えるんだ」
ドロシー「選ばれし者、ですか?」
ガブリエル「こう見えて、私も君と同じように魔法技師の1級を持っているんだが…」
ガブリエル「君の力と私の持つ力がイコールだとはとても思えなくてね」
ガブリエル「それと、これ」
彼は1枚の紙を渡した。それは、前に病院で行った健康診断と血液検査の結果であり、それぞれの欄に
「異常あり」と書かれていた。
それは、訳ありであるということを科学的に証明したようなものだった。
ガブリエル「....正直に言ってくれ、君は神なのか?」
ドロシー「…」
彼は今、確信を持って私に問いかけているだろう。
…紅茶は既に飲み干していた。
...私の出自を彼に打ち明けていいものだろうか?
司令に恐れられたくない一方で、真実を有耶無耶にしたくはなかった。
彼の真剣な眼差しを見て、私は恐る恐る真相を打ち明けた。
ドロシー「…もし私が神の子孫だと言ったら、私を嫌いになりますか?」
ガブリエル「いや、全く」
ドロシー「...へ?」
...司令の意外な反応に、私は思わず変な声で聞き返してしまう。
本気で神が怖くないのだろうか?
ドロシー「...私が怖くないのですか?」
ガブリエル「全く」
ドロシー「…私のパパも、昔一緒にいた姉さんも、そして私も…人間の事が嫌いなのに」
ドロシー「あなたは人間でありながら、神を恐れないのですね」
ガブリエル「...確かに人類は過去に、神と果てしなく争ってきた…けど、それはそれだよ」
彼は私の目を見ながら、2杯目の紅茶を淹れてくれた。1杯目よりも温かく、優しい味わいがした。
ガブリエル「じゃあさ、私のことは嫌いかな」
...司令の唐突な質問に、思わず噴き出しそうになる。
私の初陣を成功に導いてくれた人物だ。彼には感謝している。
ドロシー「…!?そ、そんなこと…!」
必死で首を横に振る私を見て、彼は仕方無さそうに微笑んだ。
ガブリエル「何もそこまで否定しなくてもいいけど…うん、嬉しいよ」
…
ガブリエル「…さて、本題に入ろう」
ガブリエル「単刀直入に言うが、BTの搭乗権を正式に君に譲渡しようかと思うんだ」
前にもこの話題は出たが、やはり来たか。
ドロシー「…ありがとうございます、私としても異論はありません」
ガブリエル「そう言ってくれて嬉しいよ、ありがとう。君ほどBTを乗りこなせそうな人物もそういないだろうしね」
ガブリエル「ただ、あのデカさのタイタンを操縦するのは簡単な事じゃない。何よりパイロットになるということは、より危険な任務に立ち向かう必要があるということ」
ドロシー「それだけ覚悟が必要ということですね」
ガブリエル「その通りだ。今後の事を考えると、今までの戦いは前哨戦と言っても過言じゃない」
ここからが本当の戦いだということは、彼の真剣な語り口から察せられた。
ガブリエル「明日から搭乗の訓練を行う。それまでいい子で待っててくれよ」
ガブリエル「...おっと、こんな時間か。そろそろ行かないとだな…それじゃあね。新人さん」
ガブリエル司令は数多くの部隊を部下に持ち、多くの作戦をシミュレーション、立案しなければならない。
立場が暇を許さないのは承知の上だが、彼は私を「怖くない」と対等に見てくれた。
後もう少しだけ、こうして話していたいと思った。
ドロシー「…あの、司令!」
ガブリエル「ん?」
ドロシー「紅茶…美味しかったです」
ガブリエル「…飲みたかったらいつでも来いよ。今度は高いのを用意しておく」
…
…
司令室。ドロシーとの"話"を終えた私は薄暗い部屋の中で、ヘルム総司令の話を静かに聞いていた。
ヘルム「...タイフォンに送った派遣隊の様子は?」
ガブリエル「5隻中3隻が既に通信が途絶えている状況...とのことです」
惑星タイフォン。鉱物を始めとした資源が豊富に採掘できる、IMCの支配下にある惑星。
だが、偵察ドローンを度々送り込んでいるにも関わらず、外敵が殆ど見当たらない不気味なエリアでもあった。
辺りには、雷雲の群体が不自然に空を覆い尽くしている光景が広がるばかりである。
我々は調査の為に派遣隊を向かわせているものの、今回で既に6隻もの調査船との連絡が途絶えている。
...何らかの要因によって多くの人員が犠牲になったことは明らかであり、これ以上の調査は難航を極めるだろう。
...ただし、彼女に限っては例外...なのかもしれない。
私はもはやそれに縋る以外に無く、藁をも掴む思いだった。
...
ヘルム「道理で強いと思ってたけど、ドロシーはやはり神の血筋だったのね」
ヘルム「で、あなた達は彼女を贔屓しているようだけど、私は私なりにやらせてもらうわ」
ゼーレ「と言うと?」
ヘルム「彼女がパイロットになっても、すぐには単独での任務はさせられない。メティスに同行してもらう」
メティス。3名のパイロットによって構成された、ミリシア最強の部隊。そして、私の直属の部隊でもある。
ガブリエル「それは監視も兼ねてという事ですか?」
ヘルム「兼ねてというか、それがメインよ。彼女の計り知れない力の矛先が、我々に向かないという保証はない」
ヘルム「だからガブリエル。あなたの所のパイロットを同行させて、ドロシーの監視を行わせる」
ゼーレ「メティスを派遣するとなると、マクスウェルかラプラスか、どちらが適任だろうか?」
ヘルム「当然ラプラスに決まってる。彼女ほど誠実に任務をこなしてくれるパイロットはそういないもの」
ラプラス。メティスのリーダーであり、歴戦のパイロット。
彼女を監視のお供につけさせる辺りに、総司令はドロシーの事を重く見ているのだろう。
ヘルム「それについて異論は無いわね?」
ガブリエル「ありません。ドレイクとマクスウェルには待機命令を出しておきます」
総司令が話している間、ゼーレは速やかに部隊の編成を行っていた。
...この内、何人が無事に帰還できるのだろう。
ヘルム「明日からの訓練で、良い結果が聞けるといいんだけど」
BT「ドロシー、レバーを上に上げればホバリングが可能です」
ドロシー「えー…これ?」
BT「それはミサイル射出の方のレバーです。そちらの右にあります」
ドロシー「…これ?」
BT「正解です。ごく僅かながら、ようやく少しずつ進歩が見えてきました」
ドロシー「…出来の悪いパイロットで悪かったわね」
BT「優秀なパイロットは経験から学びます。即ち、優秀なパイロットに失敗は付き物です」
ドロシー「励ましてるんだかバカにしてるんだか…」
...こうして、BTに指導を受けながらの搭乗訓練が始まった。
...
ヘルム「戦闘効率を評価する。...77%か、そろそろ実戦投入しても問題ないわね」
搭乗訓練から早1週間が経過した。毎日嫌気が指すほどBTと一緒に過ごした私は、
既にある程度の動きはマスターしていた。
ヘルム「ドロシー、明日には任務に行ってもらうわ。かなり危険な任務だけど、自信はある?」
ドロシー「具体的にどういった内容の任務ですか?」
ヘルム「ミリシアから離れた星にタイフォンっていう星があるんだけど、知ってるかしら」
ドロシー「IMCの近くにある惑星で、確か鉱物を始めとした多くの資源が豊富だって聞いてます」
ヘルム「そう。だからミリシアはソラスに続いてそこも侵攻したいと思ってるんだけど、並みの一般兵では
足を踏み入れる事すら叶わないような場所なの」
ヘルム「ところどころを雷雲が空を覆うような場所で、視界や天候の条件が非常に悪い。並大抵の実力では偵察すら
難しいの。実際にうちが送った偵察部隊も、それのせいで幾度も撤退せざるを得なかった」
ドロシー「...その秘密を探って来いというわけですね」
ヘルム「そういうこと。けど、まだ不可解な事も多い危険な場所だから...私の知る限りでは、もう一人くらいしか
当てがいない」
総司令はそう言うと通信機を取り出し、誰かを呼び出した。...タイタンという4文字が聞こえた気がしたが、
明らかに気のせいではなかった。
........
上空から聞こえてくる、何かが急速に近づいてくるこの音。
....
「「タイタンフォール、スタンバイ!」」
....
「「ヒーロー参上!!」」
雄々しい叫びと轟音と共にやってきたその金髪の人物は、開口一番に大胆なカミングアウトを始めた。
ヘルム「紹介するわ。彼女はラプラスっていうの。トーンっていうタイタンに乗ってるパイロットなんだけど」
ラプラス「総司令!そんなまどろっこしい説明はよしてくれ。「ミリシア最強のパイロット」で充分だ!」
...彼女はどうにもアツいハートの持ち主のようだ。
ヘルム「...それでね。彼女が先導してくれるから、タイフォンの偵察任務に行ってきて欲しいの」
ラプラス「ハハハ、初めましてだな!君の噂はかねがね聞いているぞ、超大型の新人だって」
ヘルム「で、作戦の資料は渡しておくから、二人ともちゃんと目を通しておいて。...あとラプラス、
あまりはしゃぎ過ぎないように。重要なことはきちんと彼女に説明してあげて」
ラプラス「承知!新人、とりあえず私の部屋までついてこい、ダッシュだ!」
...彼女は熱いハートに加えて、せっかちな性分も持ち合わせているらしい。

彼女の部屋は、実に機械的だった。よく言えば機能的で、悪く言えば人間臭さに欠けた無機質な部屋。
ラプラス「うむ。早速で申し訳ないが、これより作戦会議を行うぞ新人!」
彼女はモニターからレーダーを起動させた。画面に浮かぶ電子的なマップには、
タイフォンまでの道のりの概略図が示されてあった。
ドロシー「もっと難解なルートかと思いましたけど、結構一本道なんですね」
ラプラス「うむ、だからこそ不可解なんだ。こんな簡単な道のりなのに、なぜか発生する悪天候のせいで踏破すら難しい状況にある」
ラプラス「私はな、雷雨を疑似的に発生させる防衛システムでもあるんじゃないかと踏んでるんだ」
ドロシー「雷の術を極めた魔法使いがいる...という可能性は?」
ラプラス「分からない。けど、そういった人物が過去にウチに攻めて来た、という報告は今まで一度もない」
ラプラス「IMCは手段を選ばない国家として有名だ。天候にすら干渉する程の傑物を仮に抱えているなら、
1度も攻めない理由があるだろうか?君はどう思う?」
ドロシー「...そうですね、IMCは使い捨てのように大量の兵器を製造しているくらいなので」
ラプラス「それに。タイフォンはかつて、良質な鉄や金属がよく採れる星だった。スコールを降らせたり、
電力を増幅させて雷のようなモノを打ち出す兵器があってもおかしくない」
ラプラス「いいか、戦場では無数のパターンがある。全てを対策し、網羅するのは不可能に近い。まずは現実的な
可能性から対策するのが得策だ、新人」
ドロシー「では、大型の機械やシステムのようなものがあると仮定して、どう進むのが得策でしょうか?」
ラプラス「大規模な雷を打ち出してるとなると、恐らくそれを制御したりする避雷針のような建造物があるはずだ。
それの位置を大まかに把握して、レーザー砲での破壊を試みる」
ドロシー「レーザー砲はどうやって?」
ラプラス「大丈夫、それはトーンに備わっている。IMCのデカブツ相手にも引けを取らない兵器だ」
彼女の愛機はトーンというらしい。BTとは違い、実弾ではなく電磁砲を打ち出すタイプのタイタン。
タイタンという兵器は実に多種多様な種類が存在しているようで、この戦争は私が思う以上に長引いているのだろう。
ドロシー「なるほど、他には何かありますか?」
ラプラス「それ以上は実際に行ってみないとわからない。何でもプランを固めようとするのは得策じゃないぞ、
新人?」
彼女は先輩風を吹かすように、得意げに笑ってみせた。
ドロシー「...勉強になります」
ラプラス「フフン、堅苦しくて細かい話はまた明日にしよう。...ちょっと待っててくれ、いいものを持ってくる」
ドロシー「?」
ラプラス「じゃーん!」
そう言って、彼女は紅茶のティーバッグの入った袋と砂糖の入ったビンを持ってきた。
ドロシー「...紅茶?」
ラプラス「せっかくの機会なんだ、"女子会"でもしようじゃないか!ここからは敬語なんて使わないで、
気楽に話しかけてくれ!ハハハ!」
この世には、こんなに暑苦しい女子会があるものなのかと思った。というかこの人、紅茶ってキャラじゃないだろ。
ラプラス「私は砂糖は多めに入れる派だが、新人は?小さじ4杯くらいにしておこうか?」
ドロシー「私は無糖か微糖派なので、無しでお願いします」
ラプラス「えぇ?砂糖があって初めて飲めるような苦さじゃないか?」
ドロシー「うーん、素材の良さが感じられて、私は砂糖無しっていうのも好きですよ」
私は甘いものは好きだが、添加物や調味料にまみれた物は少し苦手だ。
ここに来るまでの長い間、自然と共に暮らしてきたので人工的過ぎる物はあまり合わない。
ラプラス「そ、素材の良さだと?君といいガブリエル司令といい、私の周りは曲者が多いな!」
ドロシー「ガブリエル司令も同じようなことを?」
ラプラス「...あぁ、このティーバッグは元々司令から頂いたものだ!それを無下にするのも悪いから、
どうにかして自分なりに美味しく飲める方法を考えてた所でな!」
ドロシー「それで砂糖を?」
ラプラス「ほろ苦い紅茶は苦手だが、砂糖を多めにすれば何とかって感じだ!」
やはり紅茶を嗜むキャラではなかったが、彼女はどうも律儀な部分があるらしい。
というより、ただの兵器でしかないアンドロイドがどうしてこうも暑苦しい性格なのだろう。
ドロシー「...というか、アンドロイドになんで味覚があるんですか?」
ラプラス「おかしいか?」
彼女はあたかもそれが当然かのように返した。
本人からすれば当たり前でも、私にはそれが不思議な事に感じられた。
ドロシー「...あの。アンドロイドって戦争の道具じゃないですか。なのに、あなたにはどうして実際に生きている
人間みたいに、味覚が備わってるんだろうって」
ラプラス「...アンドロイドは、戦争の道具という一言では言い表せない...複雑な存在なんだ」
ラプラス「...我々アンドロイドはな、生きている」
ドロシー「?」
ラプラス「少しおとぎ話でもしようか、新人。アンドロイドがなぜ生まれたか知ってるか?」
..彼女は何か思う所があったのか、紅茶を一口飲んで昔話を語り始めた。
....
人類は神と争いを起こしたことでその数を大きく減らし、新天地での開拓がうまく行えずにいた。
そこで彼らは、労働力を増やすためにロボットを製造することで開拓作業の効率を飛躍的に上げることに成功した。
次に彼らは、ロボットにより高度な命令を下す為に自らの道具に感情を持たせ、人間の心を理解させることにした。
やがてロボットは、人間と遜色ない程に豊かな精神を持ち始めた。
創造主である人類は、彼らアンドロイドと共に生きる喜びを覚えた。
人工の生体部分を用いてその見た目を人間に似せていたり、心と言って差し支えない程の高度な感情を持たせ、
また人間同様に睡眠や食事を必要とする機能まで取りつけた。
その扱いは道具としての範疇を超えており、それらの機能は人間と問題なく共生するためと言っても過言ではない。
失われた人員を埋めるべく生み出された第二の人類は、「アンドロイド」と名付けられるようになった。
...
ラプラス「私は戦争の道具でありながら、人間と同じように生き、暮らすことを許されている」
ラプラス「総司令は、きっとそういう世界を望んでいるのかもしれないな」
命も無いのに、生きている。
それは私にとってはまだ、理解しがたい事だった。
作戦日当日。
パイロット2名を主軸とした、総員6名による調査部隊「グリフォン」は、タイフォンの謎を探るべく上空を巡回していた。 タイタンが2機、戦闘機が4機も使われており、この規模の武装から察するに最悪敵と戦うつもりなのだろう。
私とラプラス先輩はそれぞれのタイタンに乗り込み、惑星タイフォンの上空を飛行して様子を伺いつつ前に出た。

遠くに目をやると、いかにもといった物々しい雷雲が空を覆っているのが見える。
コックピット越しからでも、不吉な予感が肌で感じられた。
ガブリエル「聞こえるか?私だ。既にタイフォンの圏内に到着しているが、何か見えるか?」
調査員「司令!雷雨でよく見えませんが...遠くに高エネルギー反応を検知しました!」
ガブリエル「特定の1か所にエネルギーが集中していて、そこから全体に散布するように広がっているな...
ラプラス、どう思う?」
ラプラス「私の予想だと、そこに制御装置のようなものがあると思う。特にこれだけの規模の雷雨ともなると、
デカい建造物とか避雷針とかが置いてあっても不思議じゃない」
先輩は冷静にそう答える。私が知らないだけで、彼女は私の思う以上に手慣れなのだろう。
ガブリエル「一理あるな。それと、接近するときは互いを援護しあえる距離を保て、視界が悪いからな」
私たちはジリジリと詰め寄るように、それぞれ前に出た。
刹那、白い閃光が眼前を覆い尽くし、その直後に激しい衝撃が迸る。
...
周りに警鐘を鳴らすが如く鳴動する落雷は、前に出れば出るほどその勢いを増してゆく。
ラプラス「...思ったより雷が激しいな、大丈夫か?みんな!」
雷がBTの機体を掠める度に、内部に小さなスパークの衝撃がパチパチと響く。
このままダメージを受け続ければ、中に浸透してきた電撃をまともに喰らう羽目になるだろう。
ドロシー「えぇ、何とか!でもこのままだと私たち、丸焦げになりますよ!」
調査員「ラプラス隊長!奥に行けば行くほど雷の勢いが上がっています!このまま先に進むには、対策を講じる
必要があるように思われます!」
ガブリエル「...仕方ない、電磁シールドを使え。あれを装備すれば無理やり偵察するくらいは可能だろう」
電磁シールド。タイタンに備わった防御機能であり、タイタンのバッテリーを多く消費する代わりに、
強固な守りに身を固めることができる。
ラプラス「え、もう使うのか?しかし、あれは目立つから危ない気もするが...」
ガブリエル「いや、雷にでも撃たれてくたばるよりはずっとマシだ。それに、シールドがあれば万が一の不意打ちを
受けても致命傷には至らない」
ガブリエル「お前達は貴重な戦力で、替えが効かない。死より大きな損害は無いものと思え」
彼はそう言い切った。私たちはその言葉を信じ、電磁シールドを全身に張り巡らせる。
ガブリエル「今回の目的はあくまで調査だ。キリの良いところで速やかに撤退する」
全身を覆う堅牢な電磁気の鎧は、降り注ぐ落雷を容易に弾き飛ばした。
...なるほど、こんな防御手段まで備えているのなら、そりゃ一般的な歩兵がタイタンに勝てるはずもない。
だが、調査部隊の彼らのシールドは私たちのものに比べて規模が小さく、なんだかその場凌ぎな印象を受けた。
ドロシー「あの...そちらのシールドの規模が小さいように思えるのですが、大丈夫ですか?」
調査員「なかなか厳しいものがあるとは思いますが、仕方ありません。ひとまずは、まぁ....”コレ”で頑張りますよ!」
コレ。彼の右腕は、大きくて青いボーリングのピン...のようなものを抱えていた。
彼はピンの底にあいた穴に腕全体をゆっくりと突っ込み、捩じった。
...すると、戦闘機を覆うように青く半透明なバリアが展開され、空から降り注ぐ雷を弾き返していた。
ドロシー「ええと...その右腕のそれは?」
調査員「あぁ、これは携帯式のシールドバッテリーって言って。穴に腕はめこんで、そうすると電気のバリアが
展開される...つーワケです」
タイタンのバリア展開機能を持ち運び式にして、小型化したものという事だろう。
...彼らのバリアが全部剥がれ落ちる前に、さっさと原因を明らかにして早いとこ撤退したいものだ。
ラプラス「...ここまで来たが、前方に何か見える。このシルエットは...間違いない、避雷針だ!」
ドロシー「司令、前方の建造物を吹き飛ばします。電磁砲の使用許可を!」
ガブリエル「これより、2名のパイロットは全ての兵器を独自の判断で使っても構わない。二人の力を信じたいのでね」
ラプラス「感謝する!...危ないから少し離れてろ新人、そして私の活躍を脳裏に焼き付けろ!」
彼女のタイタンは巨大なレールガンを唸らせるように天を仰ぎ、光り輝くレーザーを前方に薙ぎ払った。
...
天に聳え立つ避雷針は巨大なレーザーをまともに食らい、根元からその牙城を崩壊させていた。
眼の前の兵器が瓦礫の山と化してしばらくすると、雷は勢いが徐々に収まり、雨が静かに上がっていた。
調査員「…急に雨が止みましたね。雷の勢いも、徐々に弱まっているように見えます」
調査員「つーことは、さっきの馬鹿デケぇのが悪さしてたってことなのか?」
ラプラス「確かに、あの雷雨はこいつが元凶だったのかもな。それにしてはあまり手応えが無かったが…」
ラプラス「で、司令。天候が良くなってきたが、任務はこれで終わりだろう?褒めてくれても構わないぞ?」
ガブリエル「...だ、引き続き...索....」
ラプラス「司令、感謝の言葉がよく聞こえないぞ!」
ガブリエル「...通...信....」
ラプラス「え、ありがとう?今何て?」
ドロシー「司令!言葉が途切れてよく聞こえません!」
ザーッ....
調査員「司令!ガブリエル司令!応答願います、ガブリエル司令!」
調査員「...おい何なんだよ...通信がこんな都合悪いタイミングでオシャカになるか?普通...!」
ドロシー「....待って、司令だけじゃなくて、ミリシア自体に繋がらなくなってます!」
ラプラス「なんだと...!?近くに電波妨害装置なんてあったか?そんな物...どこにも....」
塔を破壊した途端、司令との通信が全面的に途絶えた。
...あからさまに狙ったかのようなタイミングに、思わず身構える。
ラプラス「...待て、あれは...?」
ラプラス「...!!」
突如として通信機から聞こえてくる、雷が降り注ぐような、激しく耳障りな轟音。
微かに聞こえてくる声から、既に派遣されていた調査班からの通信であることが分かった。
「「紫の...」」
「「お.....」」
何かを打ち付けるような、激しい雷の鳴動が二つ。その後にノイズ交じりに聞こえてきた、紫の...という言葉。
...調査班からの通信は、それが最後のものとなった。
ラプラス「...総員注意!!前方から多数の雷雲が接近しているぞッ!!」
ドロシー「...何...あれ...」
緊迫した一声に思わずコックピットの方を見ると、大規模な雷雲がこちらに大挙して押し寄せ、
この世の終わりかと見まごう程の落雷が辺りに放出されていた。

ラプラス「気をつけろ、あんな雷まともに食らったら...死ぬぞ!」
ラプラス「各自、シールドを最大限に展開!パイロット以外の隊員は直ちに後退しろ!」
私も急いでシールドを再展開し、雷撃に備えた。
BTのバッテリーは既にある程度消費してしまっていたが、無事に帰れると思いたい...。
...
調査員「ぐお...っ....!!」
...落雷は、狙いすましたかのように戦闘機をシールドごと真正面から貫いていた。
無残にもバラバラになった戦闘機と焼け焦げた肉塊が、海に向かってボロっと崩れ落ちた。
...あまりにも唐突で、惨い。
調査員「....ぁ…あああ…ぁぁあぁぁぁぁぁぁ...」
生々しいその死の間際は、どうしても脳裏にへばりついて忘れられる気がしない。
加えて、仲間の狂乱的な叫び声で...頭がおかしくなりそうだった。
ラプラス「...おい、落ち着け!!後ろならまだ勢いが弱い、下がれ!とにかく下がって距離を取るんだ!」
ラプラス「...なっ....」
...気づいた頃にはもう、遅かった。
先ほどまで横にいたはずの部隊員は4人全員、戦闘機を激しく炎上させながら墜落し始めていた。
BT「...ドロシー、心拍数が上がっています。大丈夫ですか?」
ドロシー「...っっ....」
BT「落ち着いて、深呼吸して。大丈夫です、私がサポートします」
...
その時、激しい雨が辺りに降り始め、黒煙を帯びた雷雲は空を完全に覆い尽くし...暗黒の様相を呈していた。
...その世紀末のような光景は、神でも顕現しそうな勢いだった。
鼓膜がはち切れんばかりの天の咆哮と共に、""それ""は舞い降りた。
.......
???「ヴァンガード級パイロットを2名確認」
???「...承知致しました。」

???「初めまして、お二方。IMCから参りました、わたくしイサベルと申します。」
イサベル「そちらのピンクの髪のお方。ドロシー様でお間違いないですか?」
...彼女の凄まじいエネルギーに思わず仰け反りそうになるが、グッと堪えて眼前の人物を目に焼き付けた。
私達とさして変わらぬ背丈で、少し見た目がメカメカしいだけの少女といった風貌の敵。
…と言うには余りにも凄まじい覇気を醸しており、明らかに只者ではない。
ドロシー「…」
私は嘘をつく気にもなれず、しかし警戒しながら黙って頷いた。
イサベル「やはりそうだったのですね。訳あって貴女を保護するよう命じられたのですが、ご協力頂けますか?」
ラプラス「...おい、ちょっと待て、保護とはどういうことだ!」
イサベル「そのままの意味です。」
ラプラス「なぁ新人、コイツ君の知り合いなのか!?」
…知り合いのはずがない。こんな悪天候を呼び寄せる天災みたいなアンドロイド、私の知り合いには居ない。
ドロシー「いえ...全く。それより、私をどこかへ連れ去って、どうするつもり?」
イサベル「指揮官様から保護の任務を頂きましたので、引き渡し次第撤退するつもりです。」
ドロシー「違う、あなたのことは聞いてない!私を拉致して、人体実験のモルモットにでもするつもりなのかって
聞いてるの!」
彼女の妙に恭しい態度が気に食わず、思わず喧嘩腰で突っ張ってしまう。
イサベル「貴女の処遇はわたくしには分かりかねます。全ては指揮官様次第ですので」
ドロシー「まぁ、どのみちノコノコ着いていくつもりなんてないんだけど」
イサベル「でしょうね。...まぁ当然のこと、仕方ありません」
イサベルが言う「指揮官様」。さしずめ彼女の上官といった所だろうが、あのIMCに与する人物だ。
私の保護という建前も、実際はどうせ碌な理由ではないだろう。
イサベル「ですので、貴女を力づくで回収する次第でございます」
ラプラス「ふん、IMCらしいやり方だな!」
イサベル「誉め言葉として受け取っておきますわ。」
ラプラス「大体お前、タイタンも無しにパイロット2人に挑むことがどれだけ無謀か分からないのか!?」
険悪な雰囲気が漂い、一触即発といった空気を呈していた。当然だ、負ければどうなるか分かったものではない。
イサベル「…エリートであるこのわたくしが、わざわざタイタンに頼る必要があるのかどうか…」
イサベル「それは貴方達が決める事ではありませんから」
彼女はそう言うと、3対の翼を不気味にはためかせ今にも天に飛び立とうとしていた。
イサベル「エネルギーの充填を開始。武装形態に移行」
「「モード、起動」」
ラプラス「行くぞ、トーン!!」
トーン「戦闘態勢に移行します。共に戦えば強力です」
ドロシー「来るよ、BT!!」
BT「全権限をパイロットに譲渡。システムを接続します」
「「パイロットモード、オンライン」」
イサベル「では...参ります。」
イサベル「ライトニング!!」
ドロシー「うぐ....っ...」
敵機の指先から雷の刃が迸り、まだ余力を残していた電磁シールドを掠めた。
詠唱も無しに飛んできた咄嗟の魔法に対応できず、思わぬ被弾を受けてしまう。
...こいつ...速い...!!
BT「ドロシー。敵アンドロイドは恐らく、上級の魔法使いに準ずるものと予想。これまでのような無人のタイタンが
相手ではありません。注意してください」
ドロシー「そうね...ちょっと油断したわ」
一方先輩はというと、一瞬にして姿を晦まし既に攻撃態勢に入っていた。
...これが、彼女の特殊能力なのだろうか?
イサベル「この一瞬で姿を消すとは、お隣の方もなかなかですね。瞬間移動の能力でもお持ちですか?」
彼女は右手から赤黒い電磁気のシールドを構え、後方から打ち出された電磁砲を見事に受け止めてみせた。
後ろすら向いていない、本当に一瞬の所作。
...目視すら不要だと言うのか。
イサベル「後ろで構えてるのは...見えてますよ!」
ラプラス「ハハ、余裕ぶってるけどシールドがもうバラバラじゃないか!それ結構バッテリー使うんじゃないか?」
イサベル「再装填に時間はさして掛かりませんので、お気遣いなく。」
全く隙が見えない相手だというのに、先輩はまだまだ余裕そうにピンピンしていた。
互いに会話を交えながらも各々エネルギーの装填を行っていて、速すぎて何が何だかワケが分からない。
お互いの口数が段々増えてくると共に、戦場の様子も徐々にヒートアップしていく。
辺りには雷やミサイル、時折砲撃が四方に飛び交い、その凄絶さを物語っていた。
指先から再度放たれた電撃を何とか躱し、攻勢の機会を伺う。
BT「ドロシー。味方のパイロットが陽動を上手く行っている模様です」
ドロシー「動きがかなり俊敏だから、どう攻めたものか...」
ドロシー「牽制程度の攻撃じゃ電磁シールドに守られそうだけど、何か手立ては?」
BT「ガブリエル司令がパイロットだった時に、こんな事を聞いたことがあります。「熱気に強い機械は電撃に弱く、電撃に強い耐性のある機械は、逆に熱気や冷気に弱いことがある」と」
ドロシー「...司令を疑うつもりはないけど、それは確かなの?」
BT「はい、信じて。」
ドロシー「広範囲を攻撃できる、熱気や冷気の攻撃...」
.......
...
BT「ドロシー、味方のパイロットが再度姿を消しました。敵は恐らく我々を標的にするでしょう」
ドロシー「天地を総て焼き尽くす 緋き...ん、何?」
BT「...敵の狙いがこちらに向いています」
ドロシー「今は詠唱中よ...どうにか耐えられそう?」
BT「予備の電磁シールドがあれば、何とか持ちこたえられるでしょう」
予備のシールドは既にヒビが入っており、これ以上攻撃に耐えられる保証はない。
しかし、このまま攻め方が分からないままでは勝てない。どこかで攻勢に入らなければ負けてしまう。
どこかのタイミングで、攻めなければ。
ドロシー「...このまま詠唱を続行するわ」
BT「了解。ご無理なさらずに」
ドロシー「....無茶言ってごめんね、BT」
BT「あなたの指示を優先します。それが任務ですので」
....
「天地を総て焼き尽くす 緋き焔よ我が元へ 来たりて彼の者を燼滅せん」
「「フレア」」
....
イサベル「遅いッ!!」
ドロシー「…!?」
灼熱の熱風は、瞬時に展開されたシールドを捻じ曲げながらも、奴の機体に届くには至らなかった。
…私の魔法を、こうもあっさりと受け止めるなんて。
イサベル「…フレア、ですか。あぁ、炎の力を秘めたた高位な術…でしたっけ」
イサベル「前に見たものとは少し違う。フレアにも、いろいろと型があるのですね、ドロシー様?」
…不気味だ。
なんでこいつは敵を目の前にして、こうもベラベラとお喋りに興じているのだろう。
油断…いや、あの獲物を捉えるような、鋭く不敵な目つき。
油断ではなく、余裕からの行動なのか。
ドロシー「チッ…」
ドロシー「BT!」
彼は私の呼びかけに応じ、右手の巨大な機関銃を敵
目掛けてぶっ放した。
BT「このまま射撃を続けます。備えて下さい」
ドロシー「分かってるよッ!」
激しい反動で機体はガタガタと揺れ動き、何かを掴まないと吹き飛ばされてしまいそうな気さえした。
必死に攻撃を仕掛ける私達をあざ笑うかのように、
彼女はシールドも無しに高速で飛び回って回避していた。
ラプラス「そこだッ…!!」
イサベル「…だから、見えてるって言ってるでしょ」
イサベルはすぐさま片手で展開したシールドで電磁砲を受け止めた後に、もう片方の腕で雷の斬撃を巻き起こした。
片腕は守りの構えを取るが、もう片方は一向に攻撃を止めようともしていない。
ドロシー「ぐっ...はッ....」
こんな近距離であんな斬撃、避けれるワケが…!
BT「ドロシー。私と違ってあなたには痛覚がありますから、ご無理なさらず」
…彼は機体にダメージを負いながらも、私を心配していた。
ドロシー「ぐふッ…」
…ただ技を放つだけでは、奴には届かない。
助けを求めるように先輩の方を見ると、彼女がシールドバッテリーに指を指した後に、2本の人差し指でバツの印を描いているのが見えた。
BT「…彼女が何かを伝えようとしています」
BT「敵の方を見て、シールドに指を指して、バツ印」
…彼の言葉を聞いてイサベルの方を見ると、彼女の
電磁シールドは先程よりもかなり色褪せ、ヒビが入っていた。
にも関わらず、敵は一向にシールドを装填しようとしない。
…なるほど、奴にはもうシールドの予備が無いのかもしれない。
BT「…パイロット。これは予想なのですが」
BT「アンドロイドは活動するために、電気回路を通じて電気を内部に通す必要があります」
BT「敵はアンドロイドでありながら、あの規模の電撃を行使しても、それを内部に通さない作りになっています。恐らく」
…彼は何かを思いついたかのように、私にその考えを語った。
機械の話は、私はよくわからない。
フグがなんで自分の毒で死なないか、という類の話
なんて、考えたこともない。
BT「導体と絶縁体の両方の性質を併せ持つ素材が使われていると思います」
ドロシー「…それって、魔法半導体のことよね」
BT「はい。魔法半導体は、温度によって電気を通す力が変化する性質があります」
BT「それを破壊する必要があります」
…彼の言いたいことはなんとなく分かった。
イサベルが、仮に電気そのものをコントロールして自在に制御できるなら、電磁砲にわざわざシールドを使ってまで防御しないはず。
先輩は私を信じたのか、再び姿を消して攻撃の態勢に入っていた。
ドロシー「BT、あなたにお願いがある」
ドロシー「私を守って」
…
ドロシー「いいから....BT...私を守れっ...!」
BT「...了解です。」
目を血走らせながらも死ぬ気で耐え凌ぎ、全身にありったけの力を込める。
ドロシー「...フレアアアアアアアアアあああああああっっっ!!!」
イサベル「!?」
イサベル「攻撃をまともに受け止めて、それでも反撃するつもり!?あなたここで死にたいのですか!?」
BT「ドロシー、敵が守りに徹しています!その調子です、私もミサイルで援護します」
彼は淡々と、しかし私にとって大変貴重な情報を提供してくれた。熱波と爆風を浴び続けたバリアは融解して
捻じ曲がり、ついに音を立てて崩れ落ちた。
ドロシー「...っ!」
___刹那。
イサベル「うぐっ...!」
ラプラス「...捉えた!」
トーンの右腕は、敵の胸部を貫いていた。重機のアームにガッチリとホールドされた彼女は激痛に身をよじらせ、
のたうち回り、言葉にならない言葉を叫び続けた。
ラプラス「ここから零距離射撃をぶっ放す、みんな離れろ!!」
イサベル「がっ..あ...っああああっっ!!」
悲痛な叫びと共に、辺り一面を強大な磁気が覆い尽くした。凄まじい電磁力に引っ張られ、
私たちは磁石のように引き合い、敵はBTに張り付くように引っ付いていた。
BT「ドロシー、注意してください。敵の様子がおかしい、何かしてきます」
BT「衝撃に備えて」
ラプラス「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!」
...........
.....
ドォォォォォォオォオォォォォオォォォオォォォォォォォオォン
ラプラス「...か....っ」
トーン「パイロット、大爆発に巻き込まれまれましたね。ごブブブ、ごごごごごごごごごご無事ですか?」
私の愛機は...衝撃と大規模な磁気に浸食され、言語機能が半分イってしまっていた。
ラプラス「だい...丈夫だ、まだやれるっ...」
ラプラス「...!」
ラプラス「おい、新人とBTは!?二人は無事か!!」
トーン「せイ体反応、テイカ。」
奴の自爆攻撃で我々は想像以上に致命傷を受けており、近いうちに撤退しなくては誰かが死ぬ。
司令との通信が今も途切れていることから援軍の可能性は皆無に等しく、このまま突っ込む訳には行かない事が…
何より悔しい。
ラプラス「私が脱出用のポータルをこじ開ける、あと少しだけ頑張ってくれ!」
トーン「任せ、くだサ、イ...」
BT「ド...ロシー、無事ですか?」
ドロシー「...ぐっ...何とかね....」
ドロシー「うっ...お"え"っ"...」
BT「私の内部パーtが38パーせんと破ソンしていsます。どろしー、アナタも出血が...」
...私たちは文字通り、壊滅的な被害を受けていた。BTの前面は大きく破損し、小さな人が何とか入れるくらいの
大きな風穴を開けられていた。そこから攻撃を受けようものなら、私も無事では済まないだろう。
ドロシー「...イサベルは!?」
...イサベルは、奴はどこに行った?
.............
ガシッ
イサベル「ハァ....ハァ....」
イサベル「逃がしませんよ...っ!」
ドロシー「がっ....ぐっ...!」
BT「!!」
...奴は、一瞬にしてBTの機体の中に飛び込んで、あまつさえ私の首筋を掴んできた。
...苦しい....
イサベル「何としてでも...連れていく”っ...!」
ドロシー「ぐ"ぁ"...っ”....」
首元に入る力が段々強くなるのが分かる。と同時に視界がぼやけ、意識が薄れていく....
イサベル「ボロボロの機体と...パイロットに...何が出"来"る"の...ですか…っ….!」
.................
.........
....

ヴァンガード級タイタン : BT
主要プロトコル
1.パイロットとリンクせよ
2.任務を執行せよ
3.パイロットを保護せよ
4
EEveVVVVάVVחַוָּהחַוָּוָּהVwāhāhwāhāhV
E Εά EEEEEVVVVeeVVVVVVeeeeVVeeeeEEEVVVVVVVVVVeeeeeeeeeeeee
Eά Eά Eά Eά Eά Eά Eά Eά Eά Eά Eά Eά Eeeeeeeeeeeeeeeeee
VVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVV
[[[Eוָּה Ḥh、حواء Haā Εά を 保護せよ]]]
ガシッ
イサベル「ぐあっ…!なんだ…この…力っ…!」
BT「警告します。ドロシーを直ちに開放せよ」
イサベル「ぐっ…この…離せ…ッ゙!!」
...首元が緩み、朦朧としながらも意識が回復してきたのが分かる。
中に潜り込んできたイサベルが、BTに握り潰されている光景がうっすらと見えた。
イサベル「離さないなら…また…さっきみたいに…っ!」
BT「自爆のつもりですか」
BT「構いません、ドロシーを直ちに開放して下さい」
...あなたが守ってくれなかったら、私は今頃死んでいたかもしれない。
でも、私も何か...しなくては...
イサベル「…お前…!自分のパイロットを…見殺しに…ッ゙…するつもり…っ!?」
BT「彼女はその程度では死にません」
イサベル「パイロットを傷つけるタイタン…そんなの…この世にぃっ…いるものですかっ…!!」
…
イサベル「がっ…!」
ドロシー「その腕…もらった…っ!」
イサベル「まだ…起きて…たの…ッ゙!」
私は意趣返しとばかりに、奴の腕を掴んでやった。
...ここで死ぬくらいなら、腕の一本くらいぶち抜いてやりたい...
BT「ドロシー、出血量が上がっています。ご無理なさらず」
ドロシー「ここで…くたばる…くらい…なら…」
ドロシー「腕の…一本くら…い…」
ドロシー「…がはッ゙…」
BT「ドロシー!」
…
ラプラス「BT―!!!」
ラプラス「状況は!?」
BT「大分部が大破しています、ドロシーも瀕死の状態です」
BT「彼女を頼みます」
...新人のタイタンは既に大きな穴を開けられており、内部でもがくように暴れるイサベルと、操縦席で死んだように
横たわっている新人が見える。
...遅れてすまない、二人とも。
ラプラス「BT、お前は…」
BT「プロトコル4に基づいて、わたしはここを離れられません」
…プロトコル4…だと…?
...ありえない。ヴァンガード級のタイタンでさえ、3つ搭載するのが限界だというのに。
トーン「パイロット、どどどどろしーノ反応がテイカ中」
トーン「ごシジを」
...いや、今はそんなことを考えている場合ではない。
新人の保護を最優先に考え、彼女だけでも連れて帰らなくては。
すぐそばで暴れるイサベルをよそに、内部で気絶している新人を抱き抱える。
全身は雷に打たれたかのように焼け爛れ、口からは絶えず血が流れている。
...まだ息があるのが不思議なくらいだった。
ラプラス「トーン、ポータルを通過して速やかに帰還するぞ…彼女をセラフィムまで送り届けないと」
トーン「りようかいです」
ラプラス「…BT、すまない」
BT「いいえ」
BT「ドロシーを、ありがとうございます」
ラプラス「…彼女の安全は私が保証する、任せてくれ」
BT「幸運を」
イサベル「待…て…」
イサベル「逃げ…る…なぁッ゙…!」
…
BT「あなたの相手は私です」
イサベル「ぐっ…う"っ...っ"」
BT「(ドロシー。あなたが最後、なぜイサベルの腕を掴んだのか。シミュレーションしても、
あなたの意図は汲み取れませんでした)」
BT「(彼女の腕に何かあるのか、私には理解できません)」
イサベル「クソっ…こんな…鉄クズ…!」
BT「(ですが、あなたのことです。きっと何か意味があっての事なのでしょう)」
イサベル「はな…せッ゙…!」
BT「(最期に…あなたを信じます)」
イサベル「がっ…ああああああっ…!」
......
...
BT「動力…低下…」
BT「活動…限界…」
BT「空中制御…不可…」
...ポータルを通過する前に私が見た、最後の光景。
新人のタイタンが天から墜落していく様を受け入れられず、思わず目を背けてしまう。
イサベル「…ッ…」
「…ハハハ…ッ…ッ…」
「アハハハハハハ…ッ…ッ!」
「そのまま…どうかそのまま堕ちていってください…」
「わたくしは生き残りました…が…」
「あなたは…ここで終わり…」
「…」
指揮官様から頂いたこの機械の身体も、既に四肢がほとんど千切れており、無事に帰還できるかどうか。
貴重な部品やパーツを全部ボロボロにして、しかもドロシーの確保にも失敗してしまった。
...動けなくなる前に、戻らないと。
「…これより…帰還…致します…」
「指揮官様…」
「わたくしは…貴方様の…為に…」
「すべてを…捧げ…ます…」
ガブリエル「…!」
ガブリエル「通信が復旧した…だと…?」
…通信機が鳴った。
ラプラス「司令、応答求む、司令!!」
ガブリエル「…ラプラス、無事か!?」
ラプラス「今、ポータルを通って何とか逃げてきた所だが…私の愛機と新人がもう持たない、迎えに来てくれ」
通信が繋がらない中でも、彼女たちは無事に帰ってきてくれた。
私は部下に指示を出し、速やかに負傷兵達の回収に向かわせた。
ガブリエル「ドロシーもそちらにいるのか?」
ラプラス「あぁ…だが、出血と火傷により重症の状態だ。時間がない…」
ガブリエル「…分かった、セラフィムから医療班を派遣して回収させる」
ラプラス「それと…BTが敵アンドロイドにやられた。...彼が心配だ」
...BTがやられた?
いや、彼は私を長いこと支えてくれた戦友だ。機体がやられても、きっと中のコアは生きているはず。
ガブリエル「…至急回収班を向かわせる。彼のコアダストは...何としてでも手に入れなければ」
ラプラス「…BT…」
BTがこれまで撃破されたことなど、片手で数えるほどしか無かった。
...IMCはここに来て、切り札を切ってきたというのか?
BTのコアを予備の機体に移し終えたら、彼から話を聞かなければ。
タイフォンでどんなことがあったのか、どんな敵と戦ったのか。
...パイロット二人を退けるほどの強敵。そいつが一体、何者なのかということを。
...目を覚ますと、そこはドロップシップの中だった。しかし、これから作戦に向かうという雰囲気は感じられず、
むしろ帰還するといった様子だった。あまり見覚えのない風景に不思議な感覚がした。
「お目覚めのようですね、よかった」
「体調はいかがです?どこか痛みますか?」
ドロシー「...全身が痛い。あと、頭がクラクラする...」
「分かりました。応急処置ではありますが...鎮痛剤を増やしておきます」
中を見渡すと、奥では見覚えのあるタイタンが時折火花を散らしながらも修理を受けていた。
その姿が、トーンのものであることを理解するのに時間は掛からなかった。
ドロシー「...先輩は!?」
私は大事な事をハッと思い出し、起き上がろうとした。しかし全身がズキズキと痛み、上手く起き上がれない。
ドロシー「い"っ...」
「ちょっと、まだ安静にしてて下さい!横になってれば、きっとすぐに治りますから」
「それと、金髪の患者なら奥で治療中ですよ、あなたの先輩かは分かりませんが」
少なくとも、先輩は無事なようだ。今どういう状態かは分からないが、近くにいるというだけでも何となく安心できた。
しかし、私は彼のことが何より心配だった。
ドロシー「...あの、BTを見ていませんか?私の...タイタンなんです」
「BT...ですか。ヴィンセント、何か知らない?」
ヴィンセント「ん、ラプンツェル...何か言ったか?集中しててよく聞こえなかった」
ドロップシップを運転している白いアンドロイドは少々ぶっきらぼうに答えた。そして、
私の看病をしてくれているこの人は、ラプンツェルと言うらしい。いつもの病院だと見たことない人だった。
ラプンツェル「患者の方がBTっていうタイタンを探してるんだけど、何かわかる?」
ヴィンセント「あー、それならそこら辺にコアが置いてある。見せてやれ」

彼女から受け取ったそれは、なかなかの重量があった。それは見た目からして間違いなくBTのものであることが
分かり、重さも気にせずしばらくぼんやりと眺めていた。
私は思わず安堵し、コアを抱きしめた。
けど、どうしてここにあるのだろう。
ドロシー「これ...あなた達が回収してくれたんですか?」
ラプンツェル「はい。私たちはパイオニアと言う部隊で、作戦支援やコアパーツの回収が主な仕事なんですよ」
ラプンツェル「後はまぁ、負傷した部隊の応急処置とかもしてますが」
彼女たちの救援が無ければ、私はおろか、ラプラス先輩やBTでさえ生きてはいなかっただろう。
自分が生きているのは、顔も名前もよく知らない誰かのお陰だとしみじみ感じた。
ラプンツェル「そういえば、近くにこんなものも落ちてたんですよ。一応回収したんですけど、誰の物なんでしょうね」
ドロシー「...!」
ドロシー「腕...イサベルの...!!」
ラプンツェル「お知り合いですか?」
ドロシー「いいえ...さっきまで戦ってたIMCのアンドロイドなんだけど...腕...?」
ドロシー「...なんで腕だけ取れてるんだろう....」
ラプンツェル「きっとあなたのタイタンが、戦利品でも持ち帰るつもりだったんじゃないですか?」
ドロシー「…」
ドロシー「…そうね」
…
数日後。
私はセラフィムの病院で療養中…だったが、どうにも心が落ち着かない。
ヘルム「ドロシー。体調の方はどう?」
ドロシー「体の節々が少し痛みますが、まぁそれくらいです」
ヘルム「…前々から思ってたけど、あなたの治癒力というか、生命力って並外れてるわよね」
ヘルム「けどまぁ、それは大変結構な事。こう見えて、あなたには感謝してるの」
今、私の目の前には総司令がいらっしゃる。
きっと何か大切な話があるんだろうな、と思うと心がどうも落ち着かない。
ドロシー「…そんな事をわざわざ伝えに来たのですか?」
ヘルム「あ…ごめんなさい。話が逸れたわね」
ヘルム「今日話したいのは、この前のタイフォンでの任務の事」
ドロシー「というと?」
ヘルム「あなたが戦ったアンドロイドの事よ。既にラプラスからも話を聞いたんだけど、よく聞いて」
ドロシー「…イサベルの事ですね」
ヘルム「その通り。それでね…まず、イサベルには特異な能力があるわ。電磁シールドを装填できる
アンドロイドなんて初めて知ったんだけど、何よりその圧倒的な魔法能力」
ヘルム「雷雲を呼び寄せて天候を操作したり、瞬時に超強力な磁場を発生させたりとか」
ヘルム「周囲に対して、これ程の影響力を持つ魔法使いなんて…そんなの聞いたことがないわ」
ドロシー「…まるで、神の如き力…ですね」
ヘルム「あなたですらそう思うのね」
天候を司る力。それは、太古より神に等しき存在のみが行使する、大いなる力。
偉大なる自然を自らの意志とその身一つで塗り替えることは、1級の魔法技師の力を以てしても難しい。
大抵は、一瞬だけ吹雪や暴風を起こすくらいが関の山であるが、イサベルはそうではなかった。
あの大規模な雷雲は、イサベルが呼び起こしたものなのだろうか?
ヘルム「私も不審に思ってね、イサベルの腕のデータを解析してもらったの」
ヘルム「詳しいことは、彼女に説明してもらう」
総司令はそう言って、カメラを繋いだ。
画面には金髪の女性が映っており、きっとこの人がイサベルの腕を解析したのだろう。

???「やっほ〜、総司令、どうしたの?」
ヘルム「こんにちは。あなたがお熱のドロシーさんならここにいるわよ。イサベルの腕を解析した結果
どうだったのか、教えてあげて」
???「…おほん。初めまして、新人パイロットさん。私はマクスウェル、普段は技術班として働いてるわ」
マクスウェル「この前は金髪のアイツが世話になったわね。ありがとう〜」
ラプラス「初めまして、金髪のアイツって…ラプラス先輩の事ですよね」
マクスウェル「そうよ?私は彼女と同じチームなの。今回は待機命令が出されたから一緒に行けなかったんだけど…
残念だなぁ」
ラプラス先輩と同じという事は、あの凄腕パイロットの部隊…メティスの一角ということだろう。
思わず背筋がピンと伸びる。
マクスウェル「それでね、今回の解析実験で分かったことをいくつか挙げるわ」
マクスウェル「イサベルの腕から特殊な血みたいな体液が検出されたんだけど、それに凄い濃度の魔力が含まれているの」
ドロシー「魔法使いの血は魔力を多分に含みますが、それに近いものですかね」
マクスウェル「うーん…これ程の濃度の血は、ちょっと見たことない。並の人間なら、間違いなく猛毒になる
高濃度だね」
並の人間では耐えられないほどの魔力も、生身の少ないアンドロイドなら耐えられるということだろうか?
しかし、機械に魔力を注ぎこんだだけであれほどの魔法が使えるのなら、既にIMCが世界を支配しているだろう。
あるいは、並の魔法使いとは全く別の、未知の力を持っているのかもしれない。
どちらにせよ今はどれも憶測の域を出ず、真相は分からないが。
マクスウェル「ラプラスの話は疑わしい所もあったんだけど、この血が全身に含まれているなら…
あり得ない話じゃない」
ドロシー「彼女の特異的な魔法は、それによるものと言うことですね」
マクスウェル「それで間違いないだろうね」
マクスウェル「あと、これはあくまで私の仮説だから...本当かは定かじゃないんだけどね」
マクスウェル「イサベルの腕なんだけど。あれ、光に照らすと角度によって七色に輝くんだけど、気づいた?」
ドロシー「七色ですか?まるで虹みたいで、なんか綺麗ですね」
イサベルの腕を眺めていた時も、そんなこと全く気付かなかった。
なんだか幻想的だが、七色に光る金属なんて見たことがない...今度、ゆっくりと見てみたいかも。
マクスウェル「...でね、なんでだろうって思うの。七色に光る金属なんて、自然界には存在しないはずなのに」
ヘルム「...オリハルコン。この金属について、何か聞いたことはある?」
ドロシー「...オリハルコン?えと...最近の絵本や漫画で見たことあるぐらいで、あとは何も....」
ヘルム「そう。絵本や小説を始めとした創作において、「伝説上の金属」として度々名前が出ることがあるわ」
マクスウェル「イサベルの身体を構成する金属には、これが用いられているのかもしれないって思うんだよね」
...自然界には存在せず、魔法との相性が優れた金属を合成することで人工的に作り出した、極めて希少で近代的な金属。
空にかざすと七色に光り、内部に秘めた魔法のエネルギーは、「神の奇跡がもたらした金属」と例えられるほど。
魔法との相性が極めて良好な金属に対し、人々は賞賛の意味を込めて「まるで伝説上のオリハルコンのようだ」
というように喩え、表現する...らしい。
マクスウェル「あの血が膨大な魔力を持つと仮定して、それに耐えられるだけの金属が無ければ意味が無い」
マクスウェル「けど、イサベルの身体はその魔力に耐えられて、しかも強大な魔法の行使まで可能としている」
ヘルム「我々ミリシアのアンドロイドとは全く別の製法で生み出されている可能性がある...ということよ」
...つまり、「魔法を行使するアンドロイド」を最初から作るつもりで生み出された、特別製...。
それがイサベル、ということなのだろうか。
マクスウェル「でね、ここからが本題なんだけど」
マクスウェル「キミは普段作戦のときに、普通の歩兵用の重い装備をしていると思うんだけど。
あれちょっと使いづらいと思わない?」
ドロシー「…確かに。守りは硬いですけど、重くて動きづらいし、視界もちょっと悪いです」
私はライフルマンになってすぐに臨時のパイロットになったから、まだライフルマンの装備を着用したままだ。
陸も空も制さければならないパイロットにとって、この装備はあまりに重く機動力に欠ける。
マクスウェル「そこでね、イサベルの血と金属を使ってあなた専用の装備を作ろうと思ってるんだけど。どうかな」
ドロシー「…そういえば、ラプラス先輩は私とは全く別の武装をしてましたけど…あれも専用の装備なんですか?」
マクスウェル「その通り。ウチではね、まだメティスの3人でしか運用されていないんだけど」
マクスウェル「キミも自分専用のスーツを作ってみる…ってのはどう?」
...メティスの3人が既に専用の装備を着用しているのは、やはりパイロットだからだろうか?
ラプラス先輩はアンドロイドであるため、生身の人間よりかは多少軽装でも十分なだけかもしれないが。
ドロシー「...あの、専用の装備があると、具体的に何が変わるんですか?」
マクスウェル「純粋に魔法の力がパワーアップするのは間違いないね。けどその分、今まで以上に過酷な任務に行く
羽目になるでしょうけど」
マクスウェル「今回あなたは生きてるのが不思議なくらい死にかけた訳だけど…これからは、本当にいつ死んでも
おかしくない」
...実際、私はイサベルに首を掴まれた時、もしかしたらここで死ぬのかもしれないと感じた。
彼女以上の強敵と相対した時、それが私の命日なのかもしれない。
だが、愛しの姉さんの無事を確認するまでは、私はまだ死ぬ訳にはいかない。
ドロシー「いつ死んでもおかしくないのは、今までずっとそうだったと思います。そしてきっと…これからも」
マクスウェル「…なかなか度胸があるというか、覚悟が決まってるね」
ドロシー「はい」
ヘルム「良かったら彼女にも教えてあげて欲しいんだけど。あなたが何の為に、ここまで来たのかってこと」
ドロシー「…私には、生き別れた一人の姉さんがいます」
ドロシー「人類がアウトランズに移住を始めた頃から、全く連絡が取れなくなってしまって…」
ドロシー「私には、彼女以外に居場所と言える人なんていなくて...」
ヘルム「あなたにとっては危険を冒してでも探したい…かけがえのない人物なのよね」
ドロシー「…はい」
マクスウェル「キミのお姉さんとなると、魔法使いだったのかな」
ドロシー「...そうです。腕の立つ、優れた魔法使いでした」
姉さんは魔法の知識に富み、アウトランズに行くまでは彼女が私に魔法を教えてくれた。
人気のない場所でそこらをうろつく猛獣にも、この護身術があれば対抗することが出来た。
マクスウェル「…変なことに巻き込まれてないといいけど」
ドロシー「そう願うしかないですね。もしこの戦争が終わった時に彼女は無事で…それでどこかで会えたらいいなぁって」
ドロシー「…その日を夢見て、私は戦うんです」
…
ヘルム「…ありがとう、ドロシー」
ヘルム「最後に、一つだけ。」
マクスウェル「お、来た?」
ドロシー「?」
ヘルム「臨時パイロット、ドロシー。貴方はこのタイフォンの作戦任務において…未踏の惑星の踏破に成功したこと。未知の強敵を退けたこと。多大な戦果と功績を挙げたこと…」
ヘルム「以上を踏まえ、あなたと…あなたのパートナーのタイタンであるBTを、正式なパイロットとして認可します」
ドロシー「…!」
ドロシー「ありがとうございます…!」
マクスウェル「おめでとう。ミリシアのパイロットって、彼女で6だか7人目くらいよね」
ヘルム「彼女は5番目になるわね。パイロットという役職は一般兵の中では最高峰で、それだけ頭数が少ないの」
...5番目。ガブリエル司令とメティスの3人に次ぐ、5番目ということだろう。
ミリシアは巨大な組織だと思っていたが、それでもパイロットになれる人物はごく一部に限られるのだろう。
マクスウェル「あ、階級はどうするの?」
ヘルム「階級はもう決めてある。ラプラスやガブリエルと同じ階級の一等パイロット。」
先輩や司令と同じ階級。二人とも多くの部下を持つエリート中のエリートであり、私はそこに肩を並べることになる。
...いや。肩を並べられるような、一等に恥じない人物になれという総司令からの勅命だろうか。
マクスウェル「おぉ〜…そうなると、私とドレイクの一つ上の階級ってことよね?」
ヘルム「そうね、あなたより立場が一つ上の後輩ってことになるけど、そんな口の効き方で大丈夫?」
マクスウェル「あはは、私は技術担当兼パイロットってだけだから〜」
ドロシー「先輩や司令と同じ立場になるってことは、私はこれから多くの責任を抱えるということですか?」
ヘルム「そうね…多くの責任や部下。これからは自身だけでなく、誰かの命を背負って戦うことになるかもしれない」
ヘルム「パイロットは単純な強さだけでなく、強靭な精神力や戦況を見極める聡明さ、危機回避能力とか」
ヘルム「加えて、部下を動かす指揮能力も求められる場面もあるわ」
...彼らは単純な強さだけで成り立つ役職ではない。故に、パイロットは最高峰と称されているのだろう。
マクスウェル「…強さに関しては心配しなくていいわ」
マクスウェル「既に多額の支援金が舞い込んで来たから。ミリシアの技術力を集結させて、キミ専用の
最高の装備を作る。約束するよ」
マクスウェル「けど、その分すごーく精密な身体検査も必要になってくるから、長い間拘束されるだろうけどね、
アハハ!」
ドロシー「…いいえ、私のために時間もリソースも割いてくれて…むしろありがたい限りです」
ヘルム「それじゃあね、ドロシー。BTなら明日頃には修理が完了するだろうから、その時に話でもしてきなさい」
…
自分と言う存在は、何を以て自分だと証明できるのだろうか。身体の換装が容易いアンドロイドにとって、見た目は
その人物であることを証明する材料にはなり得ない。
では、何を以て私と呼べるのか?
何が私を私たらしめるのだろうか?
.....
....
ラプンツェル「...ふぅ。ベースキャンプの設営、やっと終わりましたね」
紅蓮「おーい、こっちに来てくれ。良い感じのサイズの魚が釣れたんだ」
スノーホワイト「あぁ、丁度いい。俺もそろそろ腹が減ってきたところでな」

焚火の静かな音を聴きながら、3人揃って同じ釜の飯を食い、星が見える夜空を眺め、何気ない会話を弾ませる...
これが俺にとっての日常であり、ささやかな幸せであった。
作戦支援や物資の調達などが主な業務である俺達パイオニア部隊は、他の部隊よりもドンパチやることは少ない。
だから、他の部隊よりもちょっとだけ、こういう長閑な雰囲気を味わう機会に恵まれた。
紅蓮「...ひっく」
スノーホワイト「...なぁ、紅蓮。一杯やる前に、まずやることがあるんじゃねーのか?」
紅蓮「あぁ、それは...明日でいい。明日でいいんだ」
紅蓮の足元には、ウイスキーの瓶が2,3個置いてあった。酒を嗜むのもいいが、まずはそのご立派な刀のお手入れを
してからでも、別に遅くはないと思うんだが。
紅蓮「ん、ラプンは既に酔い潰れているのか?...はは、こりゃいい飲みっぷりだ」
1瓶丸ごと空にしたラプンツェルは既に酔い潰れ、テントの中で寝っ転がっていた。
紅蓮といいあいつといい、一応今も作戦中なんだから流石に飲酒は控えて欲しいもんだ。
だが、作戦中とは思えない長閑な空気が、却って酒を進ませるんだろう。
スノーホワイト「ったく...刀の手入れは起きたら済ませておけよ」
紅蓮「はいはい、君も一杯飲んだらどうなんだね?」
スノーホワイト「今日は飲んだくれの子守をしなきゃいかんのでな。それも二人だ」
そうは言いつつも、仲間が思い切り羽を伸ばせている事を考えると、別に嫌な気はしなかった。
激しい戦火の中で、状況は絶えず変化する。だからこそ、3人がこうして共に居られることは、偶然や奇跡と言っても
過言ではなかった。そう、状況は絶えず変化するのだから...
スノーホワイト「...は?」
スノーホワイト「...じゃあ、紅蓮は、紅蓮は...!」
ガブリエル「...パイオニア、近接部隊所属。アンドロイド識別名、紅蓮は...一人の兵士として、責務を全うした」
ガブリエル「紅蓮の後継者については、今開発しているアンドロイドを実践投入する形で穴を埋める。...以上」
...紅蓮。
通信機から聞こえてきたそれは、あまりにも唐突な訃報だった。
彼女はソラス侵攻作戦において、ロード級タイタンの自爆攻撃をモロに食らい...亡くなった。
何だかんだ言って、俺たちはこの先も3人でずっと一緒にいられるんじゃないかとか、そんな甘い考えが止められなかった。
そうやって辛い現実から逃げるようにして、俺はただ現を抜かしていただけだった。
激しい戦火の中で、状況は絶えず変化する。だからこそ、偶然や奇跡は...いとも簡単に砕け散る。
...そんなことを思い出しながら、俺とラプンは...ゼーレ司令が開発したらしい、"紅蓮の後継者"に会いに来た。
「初めまして。今日からパイオニアの護衛役を任されることになったスカーレットだ。よろしく」
ゼーレ司令が開発したらしい、"紅蓮の後継者"。
...
…その見た目は、紅蓮に瓜二つだった。
それどころか、声も、顔も、出で立ちも。...いや、刀を構えている所まで、彼女にそっくりだった。
されど、その淡々とした機械的な喋り方を聞いて思う。
彼女はもういないという実感。それだけが、確かにそこにあった。
ラプンツェル「...ぐれ...」
ラプンツェル「...いえ、なんでも」
眼の前にいる人物は、紅蓮ではなく、その生き写しに過ぎない。
彼女には申し訳ないが、俺たちはその顔を見るたびに...紅蓮との思い出が脳裏を過ぎってしまう。
いつの時代も、別れと死は唐突に訪れる。
であればこそ、出会いも相応に多いものなのだろうか。...そう信じて、いいものなのか。
...数日後。
IMCとの戦いで荒れ果てたソラスだっが、奥の方はまだ手つかずなのか緑が多く、自然で溢れていた。
ミリシアの星となった今、俺たちパイオニアはここを開拓しにやって来たのだ。
ここは自然や生命に満ちていた。危険な肉食動物が群れを成して、俺たちを遠巻きに眺めているのが見える。
奴らは敵を食う食わないに関わらず、一度縄張りに入ればどこまでも追ってくる執拗なタチだ。
スノーホワイト「...生憎だが、今日は戦いに来たわけじゃない。いちいち相手してたら弾が持たねぇ」
ラプンツェル「じゃ、迂回しますか?ベースキャンプの設置なら、別にここじゃなくてもいいですし」
スカーレット「...ここがいいのか?」
ラプンツェル「え?」
スカーレット「迂回するという手段はあれど、本当はここの方が立地的に好条件なのか?」
ラプンツェル「...えぇ、まぁ。隠れ家にピッタリだし、日当たりもちょうど良いし、悪くないかなって」
...ラプンがそう言い終えた時。
スカーレットはその一太刀で、既に死体の山を築き上げていた。
スカーレット「...オールクリア」
スカーレット「この猛獣共は何かに使えないか?皮とか鱗とか」
見事というか、無慈悲というか。
どちらにせよ、一片の迷いもないその動きは、圧巻....としか言い表せなかった。
ラプンツェル「あ...えと...」
スカーレット「...?」
スカーレット「何か悪いことをしてしまったか?」
ラプンツェル「...いえ。助かりました、あなたのお陰で」
ラプンツェル「お強いんですね」

さっきの猛獣共を一瞬で沈めたことからも分かるように、スカーレットは凄く腕の立つ剣士なんだろう。
紅蓮がまだいた頃の俺たちは、3人で連携を取ることで敵を退けてきたが、もうその必要もないかもしれない。
強い分にはそれだけ生き残れるから大歓迎な一方で、どことなく寂しさを覚えた。
後日。
修復室の向こうに、いつもの姿を取り戻した彼がいた。

ドロシー「BT!元気してた?」
BT「お久しぶりです、ドロシー。前回の任務から1週間と数時間が経過しています」
ドロシー「前はコアだけだったけど、今はもうすっかり五体満足のようで安心したよ」
BT「いいえ、20000パーツ満足です。マクスウェル博士は素晴らしい技術をお持ちのようです」
BTは至って真面目で、時にこういう例えや表現が通じない時も多い。
もっとも、彼のそういう不器用なまでの真っ直ぐさが、私は凄く好きだ。
ドロシー「ふふ、相変わらずだね...。けど、それは言葉の綾ってやつよ」
BT「了解。人間の場合は【ゴタイマンゾク】と表現することを、ボキャブラリーに登録しておきます」
BT「あなたは前回の任務で瀕死の重傷を負ったようですが、今はゴタイマンゾクのようですね」
私がこうしてゴタイマンゾクでいられるのは、ひとえにBTのお陰だろう。
口に出すのは恥ずかしいから、心の中でそう思った。
BT「…話は変わりますが、ドロシー。前の任務の時に、何故イサベルの腕を掴んだのですか」
ドロシー「あれは別に、ここで死ぬくらいなら腕の一本くらい引きちぎってやるっていう...」
ドロシー「まぁ...最後の足掻きというか、私の気持ちの表れというか、表現だよ、表現」
私からすれば特に深い意味は無い。BTは私の行動を模倣し、わざわざイサベルの腕を持ち帰ってきたみたいだが。
BT「今、イサベルの腕は兵器的な価値があるとして、技術班によって解析されていると聞きます」
BT「それを狙った訳ではないのですか」
ドロシー「いや、イサベルの腕にそこまでの価値があるってことは分からなかったな」
BT「中々無鉄砲なことをするのですね」
ドロシー「けど、持ち帰ろうと思ったのはあなたが決めたことでしょ」
BT「否定はしません」
ドロシー「結構信頼してくれてるじゃない」
.......
ドロシー「....ねぇ、BT。前回の任務の結果を鑑みて、私は正式にパイロットに選ばれることになったの」
BT「ライフルマンからの昇格おめでとうございます」
BT「あなたのように優れたパイロットなら、タイタンも良く思う事でしょう」
ドロシー「あなたのパイロットとしてね」
BT「...!」
ドロシー「認められたのは私じゃない。あなたと、私」
BT「...あなたと共に戦友として戦えること、光栄に思います」
ドロシー「...戦友...か」
ドロシー「いい響きだね」
BT「これから、よろしくお願いします」
BT「パイロット」
.....
...
神がもたらした力である魔法と、人の技術力によって生み出されたタイタン。
二つの力を併せ持ち、ミリシアに勝利をもたらす者がいた。
人と神。相容れがたき力をその身に宿す少女は、戦禍の最中で命を燃やす。
ここまでの簡易的な人物紹介②(9話~最終話まで)

(黒いインナーと真っ白なジャケット、そこに薄い金髪ツインテールがトレードマーク。)
ミリシアが誇る最強の部隊、メティスのリーダー。せっかちで熱い性格の持ち主だが、
戦闘経験が豊富で冷静な部分も一部持ち合わせており、ベテラン。
特殊能力は「次元移動」。瞬時に別の次元を行き来することで、あたかも瞬間移動を繰り返しているかのような
動きが可能になり、敵を攪乱できる。
また、始点と終点の2点間を繋ぐポータルを生成することが出来る。これにより、チームの退路や移動経路を
安全に確保し、部隊を能動的に動かすことが可能。
階級は1等パイロット。
巨大なレールガンから強力な電磁砲を放つヴァンガード級タイタン、トーンに搭乗する。

(彼女はいつも好奇心旺盛で、いつも楽しそうに笑っている。髪の色は山吹色に近い。)
極めて有能な研究員。普段はゼーレの指示の元、重火器やタイタン用の兵器などの製造に携わっており、
技術の面からミリシアを支えている。
イサベルの腕を解析し、ドロシーに専用の装備を作る提案をしたのも彼女によるもの。
同時にメティスの一角でもあり、階級は2等パイロット。自らが作り上げた戦闘兵器を用いて巧みに戦う、
技巧派のパイロット。

(戦闘中のイサベル。片腕が欠損しているように見えるが、何てことなさそうに強がる表情が彼女らしい。)
タイフォン探索任務で突如として現れたIMCのアンドロイド。普段は丁寧な敬語で話すが、そのやり方は力尽くで強引。
且つ、タイタンをパイロットの道具としてしか見ておらず、その性格は慇懃無礼かつ傲慢。
ドロシー曰く「神の如き」魔法能力を有しており、中型の魔法を詠唱要らずで放出する、
巨大な電磁気を生成する、果ては天候に干渉する力を持ち、ヴァンガード級タイタンとパイロット二人を
単騎で退けるその実力は前例が無く*1、特級の危険人物として扱われている。
TITANFALL(破)
この世界に、勝者などいない。
")
...今から約20年前のこと。私はハモンドの病室で生まれた。
婚約者に先立たれた母は、不治の病を患っていた。最期に私を出産し、息絶えた。
親の居ない私は、あるお方に引き取られた。
生みの親は既に他界していたが、私には育ての母がいた。
しかし、IMCとミリシアという二つの組織がフロンティアで大規模な戦争をしていたため、周囲は危険だった。
だから私は母の言いつけを守り、自室で勉強や一人遊びなどをすることで退屈を紛らわせた。
「こんにちは、ハラン。今日も魔法のお勉強をしているのかい?」
「おはよう、ハランちゃん。今日は何をして遊ぶのかしら?」
けど、母以外にも周囲の人は私によくしてくれた。
「こんにちは、守衛さん。今日はみんなの話を聞かせてほしいな」
母は大抵不在だった為、シュエイさんという人が2~3人程度、常に私の周りにいた。
だから育ての親に会えない寂しさも、何とか凌げていた。
そんな欠伸の出るような日々も、突如として終わりを迎える事となる。
私がハモンドの魔法学校に通い、中学を卒業するぐらいになった頃の事だった。
............
......
「先生!容態が悪化しています!」
「急いで救急搬送して!」
「クソッ...ミリシアの奴らめ!」
ハモンドの中を忙しなく駆け回る彼ら医療従事者達は、負傷した患者を懸命に搬送していた。
ミリシアからの襲撃を受け、苦しみ喘ぐ者。腕を火傷し、痛みに顔を歪ませる者...
...その中に、私の母もいた。
医療従事者達の必死な声と、ガラガラと忙しなく聞こえてくる、患者を運ぶ台車の音。
「お母さん!!」
「...」
「ハランちゃん!危ない!!」
それから数時間後。私はドアの前で駄々をこねるように何時間も粘ることで、病室に入ることを許可された。
母がとにかく心配だった。彼女の無事を、その目できちんと確認したかった。
「「...ハラン」」
「お母さん!」
「「これは...私の不注意なんだ」」
...不注意?
それで済ませられるような軽い怪我にはとても見えなかった。
医療従事者達が慎重に彼女の装備を外すと、傷だらけになった素肌が露になった。
「ねぇ、どうしてそんなに傷だらけなの!?お母さんのお仕事って、そんなに危険な事をさせられているの!?」
「お母さんがそんなになるくらいなら、私がやる...私が代わりにやってあげる!」
「「...」」
「ねぇ...お母さん」
「それもこれも全部、ミリシアって奴のせいなの...?」
「「...やはり知っていたのか」」
「守衛さんがいつも教えてくれるから。お母さん、ミリシアっていう組織と戦ってるんでしょ...?」
「それでお母さんは、IMCのリーダーをしてるんだよね...?」
守衛さんが教えてくれた程度の話なので、本当かどうかはよく分からない。
彼らの話が本当なら、私の母はIMCの最高司令官で、危険な戦場に出向くことも多いと聞く。
...だから母は、いつも忙しそうだったのだろうか。
「「...子どもに嘘はつけないな...ハハ....」」
私は母の手を握った。恐ろしいほど冷たく、それでいながら、手の表面は薄っすらと火傷していた。
私は子供心に、魔法の影響によるものなのだと思った。
「ねぇ、お母さん。私に何かできることはない?」
「「...お前はまだ...成人すらしていない...」」
「「ごほ...っ....」」
母が咳き込む度に、彼女の役に立てない自分が憎いと思った。
母が苦しむくらいなら、私が代わりに背負ってやりたいと思った。
「ねぇ...子どもだからってあしらわないでよ...。私本気なの。何か出来ることがあれば、小さなことだって...」
「「...なら、兵役訓練でも受けてみたらどうだ...」」
「兵役訓練...?」
兵役訓練。私が中学を卒業したら、きっとすぐにでも受けられるようになるだろう。
既に推薦が掛かっている高校を諦める事よりも、唯一の家族を諦める事の方が、私には凄く辛い。耐えられない。
「分かった。やるよ」
「「なっ...!」」
「私がそこで頑張って、戦果を挙げる。そうすればお母さんの事も支えてあげられるよね」
「「馬鹿を言うな...!お前はまだ、14か15の年じゃないか!」」
「私はもう15だけど...お母さん。私には15年分の魔法の知識がある。ちょっと魔法を詠唱すれば、炎を起こすこと
ぐらいできる。学校での魔法科目だって、最高評価以外貰った事が無い」
「身体能力測定だって、常にトップの成績だった。君がIMCに入隊すれば、きっとお偉いさんは喜ぶだろうって、
先生にも言われた」
「「...っ...」」
今にしてみれば、酷い説得だった。学校での評価と軍隊での成績など、比べ物にならない。
しかし、私にはそれしかなかった。
彼女は私の必死の説得に押され、私専用の軍事訓練プロジェクトが始まった。
「射撃精度は90%を超えています」
IMC兵「いいぞ!これならきっと実戦でも問題ない。あとは実際の戦場に出て、戦闘に慣れるしかないね」
.....
..
「炎の精霊よ」
「我が怒りの心火を捧ぐ」
「この憤りを昇華させ給え」
ハラン「フレアっっ...ッ!」
....私は思わず脱力し、全身から力が抜け...地面に倒れ伏した。
IMC兵「....オールクリアだ、ご苦労」
IMC兵「...これが彼女の力か...まるで、まるで....」
視界が朦朧とする中で、歓声と雄叫びが聞こえてくる。
IMC射撃部隊「おい、今の爆発!見たか!?敵兵の軍団が一瞬で蒸発したぞ!」
IMC射撃部隊「凄い...まるで神だ......神が私たちに味方したんだわ....」
彼らは私の周りに集まると、私の体をスッと持ち上げ、祀り上げるように胴上げをし始めた。
「「...そこまで。ハラン、体調の方は?」」
ハラン「は...吐きそう...だけど、まだ...やれるわ」
強力な魔法は、それを発現させる事自体が難しい。それに加え、戦場での命懸けの最中。
強烈な緊張や恐怖と相まって、数発撃つだけで頭痛や眩暈、強い倦怠感に襲われるものだ。
しかし、私はやりきった。初めての戦場でも、無事にやり遂げたのだ。
「「いや、任務はこれで完了だ。戻ってこい」」
ハラン「ハハ...私...頑張ったよね...」
「「...あぁ、これがお前の初陣だというのに、よくやった。」」
ハラン「...!」
よくやった。その何気ない言葉を聞いて、私は初めて母の役に立てた気がした。
よくやった。その言葉を聞くたびに、私はここまで頑張ってきたのだと思えた。
ハラン「おか...あ....いいえ。.」
ハラン「指揮官様...。」
私は幸せなことに、才能があった。その圧倒的な魔法力と、それを学べる環境が私にはあった。
ライフルマンとして活躍していた私は、IMCに入隊してから1年という驚異の速さで、
パイロットへの昇格試験が始まった。
「「パイロット、レバーを押せば上にホバリングが出来ます。試してください」」
ハラン「こう?」
「「お見事です。左方向に味方の戦艦ヴァルハラが飛行しています。後を追従してください」」
ハラン「左は...こっちかな」
「「...彼らから通信が届きました。繋ぎます」」
艦長「おいガキ、なかなかいい腕してるじゃねえか。空を飛ぶ気分はどうだ?」
通信機から、馴染み深い声が聞こえてくる。いつも親しげに話してくれる彼は、いつもこうして空を飛んでいたのか...
と思うと、感慨深いものがあった。
ハラン「なかなかいい気分ね、おじさん。こんなに楽しいなら、もっと早く教えてくれてもよかったのに」
艦長「へっ...生意気だな。おじさんじゃなくて、ヴィンセントおじさん、だろ?」
艦長「...なぁ。もっと高度を上げて、空を見てみろよ。いい眺めだぞ」
私は上方向にしばらくホバリングし続けた後に、タイタンのコックピット画面を眺めた。
ハラン「わぁ...」

そこには澄んだ青空が広がっていた。幼少期では、見ることなど叶わなかった景色。
白く透明感のある惑星と、下に広がる雄大な緑の山脈。その二つの対比に、私はすっかり見惚れていた。
...
ネメシス「1年間よくやった、ハラン。今日を持って、お前を正式にパイロットに認可する」
ネメシス「こいつはお前の相棒となるタイタンだ。上手く使え」

巨大な軍工廠の奥に佇んでいたそのタイタンは、私のよく知る機体だった。
細身で他のタイプのタイタンに比べ、耐久性で劣るものの機動力に長け、空中戦で猛威を振るう。
そして、私のパイロット試験を1年間に渡り支え続けてくれた、無二の相棒。
彼女に挨拶をするために背中の電源をオンにし、いつものように搭乗席に腰かけた。
タイタン「お帰りなさいパイロット。戻ってきてくれてよかったです。」
ハラン「ただいま。私の試験が修了したから挨拶しに来たの」
タイタン「パイロットへの昇級したのですね。おめでとうございます。」
彼女は無機質ながらも会話が可能なタイタンであり、普通のタイタンにはあまり見ない珍しい機能を持っている。
指揮官様曰く「感情による力は時に計り知れない可能性をもたらす」と、
タイタンにも感情を備える実験が行われた。私のタイタンはその成功作と言われている。
彼女にも、私のように心があるのだろうか?
ハラン「...ねぇ、あなたの型番ってどんな名前だっけ?」
タイタン「はい。私の正式名称は、BasicTitanーTYPE02です。」
ベーシックタイタン、タイプゼロツー。
あまりにも無機質で、且つ呼び辛く長い名前。
ハラン「私とあなたは、これから戦場を共にする仲間よ」
ハラン「ベーシックタイタン02じゃ、ちょっと長すぎる。あなたにはそれに代わる、何か別の名前が必要だと思うの」
タイタン「タイタンで構いません。」
ハラン「いや、タイタンだけだとどれを指してるのか分からないでしょ?」
タイタン「私は識別認識機能により、瞬時に敵味方の判断が可能です」
ハラン「...あなたはそうかもしれないけど、私はそうじゃないの」
彼女に勝手な名前をつけるのは私のエゴかもしれないが、それでも戦場でベーシックタイタン、などと
いちいち呼んでいる暇はない。
...何かキャッチーな名前は無いものだろうか。
ハラン「...ノーススター。ノーススター....!」
ハラン「ねぇ、ノーススター...っていう名前はどう?」
ネメシス「ノーススター…とは何だ?」
ハラン「北極星って意味なの。私が見た中でも特に印象的でね...ヴィンセントおじさんが教えてくれたんだけど、
北極星って結構綺麗な星なのよ」
私はパイロット試験中に見た、コックピット越しに見える青空や、夜空に浮かぶ星々の事を思い出した。
...北極星。おじさんが教えてくれた、闇夜の中に煌々と輝くあの美しい星の名前を、彼女に授けた。
タイタン「...ノーススター。私の識別名をノーススターに更新しました。」
ノーススター「パイロット。これからよろしくお願いします」
....
それから、数か月前の事。
ネメシス「今日からこの二人のパイロットが、お前のチームに加わることになった」
イサベル「初めまして、わたくしイサベルと申します。以後お見知りおきを」
ノア「初めまして...ってあんた、とぼけた顔してるけど大丈夫?ねぇ指揮官様?こんな奴があたしたちのリーダー?」
丁寧な物腰のイサベルと、生意気な少女...といった風貌のノア。
アンドロイドにしては二人とも一癖あると思ったが、私にとってはあまり関係がない。
ハラン「...初めまして!私はハラン、その...これから...よろしくね」
パイロットは上級の戦闘兵であり、その頭数は極めて少ない。
ましてや私と同じチームとして動ける仲間、となると猶更居ないだろう。
だから、私にとっては初めて...同じ目線の友達が出来たような気がした。
ハラン「...指揮官様。その...チーム名とか...あるの?」
ネメシス「特に」
ハラン「何かの縁でこうして仲間になったんだし...せっかくなら、チームに名前でもつけない?」
イサベル「我々はただ、一つの目的の為に集められただけの寄せ集めだと思いますけどね。はしゃぎすぎでは?」
ノア「あんたにまともな名前が付けられるとは思わないんだけど」
...二人とも、私よりかは幾分ドライな性格なのだろう。
IMCの兵器の中では、特に感情の乗った話し方をする方ではあるが。
ノア「まぁ、あたしたちのエリートたる地位を誇示する手段としては悪くないんじゃない?」
イサベル「...エリート...ですか...」
エリートという言葉に食いつくあたり、彼女達にとってはそこに何か意味があるのだろう。
やはり、定型文しか話さないスペクター等に比べると、随分感情が豊かで話していて気分がいいものだ。
ネメシス「まぁ確かに、名前があったほうが分かりやすくていいな。で、名前は?」
ハラン「名前...。そうね、名前は...」
ネメシス「これより、我らがIMCが擁するパイロット部隊に対する式典を執り行う」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!見ろ、我らがIMCが誇る最強のパイロット様だ!」
「道を開けろ、貴様ら!無敵の最強部隊がお通りだ!」
.........ワァァァアアアアアアアアァァァァァァァアアアアアアアァァァァァ.........

...軍の再編により、私たち3人のパイロット部隊が生まれたことを祝する式典が始まった。
ノアとイサベルは澄ました様子だが、私は緊張で道を歩くのが気恥ずかしかった。
「ノアーっ!今日も可愛いなーッ!」
ノア「ちょ、うっさいわよ!」
「あぁ...イサベルさん...今日も素敵だわ...」
イサベル「...ふん」
「うおぉぉぉぉぉぉ!今イサベルさんが!イサベルさんがこっちを見た!見てくれたッッ!!」
...部隊が生まれてまだ数か月だというのに、この盛大な歓声。
私たちは、想像以上に大きな民衆の期待と、それに伴う大いなる責任を背負っているのだろう。
「おい見ろ!あそこにいるのは我らがハラン様じゃないか!!」
「ハラン様ああああああ!!」
「こっち向いてーっ!!」
...随所で大爆発のように巻き起こる、黄色い声援。
恥ずかしくて今にも死にそうだが、私は何も聴こえない振りをして壇に向かう。
スぺクター武装兵「ネメシス皇帝陛下。ご挨拶はいかがなさいますか?」
ネメシス「私はいい。ノア、イサベル、何か言いたいことはあるか?」
イサベル「特にありませんわ。大勢の前でスピーチとか、柄ではありませんので。」
ノア「え...!?あ、あたしはいいかな...ハハハ...そういうの、苦手だし....」
スペクター兵「では、ハラン隊長。簡単なご挨拶でも構いませんので、何かをお話して頂けますか?」
...私はこの部隊を先導するリーダーであり、看板。あるいは、顔。
下手なスピーチをするだけして、IMC最強の部隊の肩書きに泥を塗る訳には行かない。
...しかし、何を話せば良いのだろう...。
私は震える手つきを抑え、マイクを手に取る。
...こういうの、苦手なんだけどな.....。
「...ええと、こんにちは、皆様。...いえ、正確には同志...ですね。」
「おほん...この場を借りて、改めて自己紹介を...。私はハラン...今年で20になります」
「私は15の時にIMCに入隊し、約4,5年という年月を掛けて...パイロットに昇級致しました」
「陛下を始め、同志の皆様方のご理解と、ご協力のお陰です」
「また...ハモンドの技術班の手によって、数年前にイサベルとノアが生み出されました」
「私に匹敵するほどの実力を持った、素晴らしいパイロットです」
「そして軍組織の再編の結果、私たち3人による一つの部隊が誕生致しました」
「名は...インヘルト。継承、または接ぎ木という意味があります。」
「接ぎ木は、人の手によってその命を繋いでいる儚い一面もありますが、そうではなく」
「我々の誕生は...ハモンドの皆様の努力の賜物だということを、端的に表したものになります」
「私たちインヘルトは、IMC軍の繁栄の為に命を捧げることを...ここに誓います」
「死力を尽くし、其の身を捧げよ!全ては、皇帝陛下の為に!!」
「「皇帝陛下の為に!!」」
「「大義に殉じ、神に血を捧げよ!全ては、ハモンドの為に!!!」」
「「我らハモンドよ 永遠に!!」」
.........ワァァァアアアアアアアアァァァァァァァアアアアアアアァァァァァ.........
ネメシス「...それでは、最後に。インヘルト部隊への戴冠式を執り行う」
皇帝陛下がそう仰ると、スペクター兵達が私たちの頭に何かを取り付けた。
ノア「ねぇ、この一対の角みたいなのは何?」
スペクター「これはアンテナでございます。高性能な通信機でありながら、さながら王冠のようにも見えるように
このような一対の角のデザインに完成した次第です」
イサベル「つまり、我々の権威を示す象徴ということですね?」
スペクター「左様。」
王冠。
その地位や権力を示すにはもってこいの手段なのだが、別に私は...特に名声や栄誉は求めていなかった。
私には似合わないな....と思いつつも、角がズレて落ちないように慎重に頭に取りつける。
ネメシス「今日を持って、偉大なるインヘルト部隊がこの世に生を受けることとなった。諸君、彼女らの活躍を、
どうかその目で見届けて頂きたい」
ネメシス「以上を持って、式典の挨拶を終了する。本日は同志の為に、酒も食事も用意した。では、良い一日を」
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」
「「皇帝陛下万歳ッ!!」」
「「IMCに...幸あれっっ!!」」
「「我らハモンドよ 永遠に!!」」
大声で盛り上がる兵士たちをよそに、陛下は足早にその場を去ってしまった。
....この日ぐらい、一緒に食事でもしてくれたらな...と思う。
それに、私はこんな扱いを望んでるわけじゃないのに。私は誰かから歓声の声で迎え入れられること自体は
嫌いじゃないし、それ自体は嬉しい、けど。
私はただ...母親に傍にいて欲しい。それだけだった。
....
..
そして、今日。この日は私の誕生日だった。時間は決まっていないが、私の誕生日は母が一緒に食事を取ってくれる。
毎年そういうしきたりのようなものがあった。
私がパイロットの認定試験に合格したときは、わざわざ大金を積んでまでして、私に専用の装備を開発してくれた。
「「今年で17になるな...何か欲しいものはあるか?」」
「ううん...お母さんと一緒に食事が出来るだけでも...充分かな」
「「フッ...安上がりだな、お前も...」」
彼女は基本的に無表情で、その固い顔つきが変わることは皆無に近い。
しかし、この特別な日だけは、少しだけ優しい眼差しが見える事がある。
ハラン「...これは?」
ネメシス「「お前に専用の装備を作った。今までより動きやすく、かつ性能も優れているはずだ」」
ハラン「...ありがとう」
ハラン「...ねぇ、お母さん。これも素敵なプレゼントだとは思うんだけどね」
ハラン「その...私はもっと、お母さんが傍にいて、褒めてくれたり...撫でてもらったりする方が、何よりかなって」
ネメシス「「...そんなことか?」」
ハラン「そ、そんなこと...じゃないでしょ!」
母は、私が本当に必要としているものをいまいち理解していない節がある。
私はあなたの為にここまで頑張ってきたのだから、もう少し私と向き合って欲しいと思う。
...しかし、毎年この日だけは。わざわざ私のために時間をとってくれることが、何より嬉しかった。
今年はどんな会話をするのだろう...とぼんやり考えていた。
..............
「先生!容態が悪化しています!」
「急いで救急搬送して!」
「速やかに電力と動力の供給を!」
ハモンドの中を忙しなく駆け回る彼ら医療従事者達は、負傷した患者を懸命に搬送していた。
ミリシアからの襲撃を受け、腕をもがれ...全身を酷く損傷している者がいた。
医療従事者達の必死な声と、ガラガラと忙しなく聞こえてくる、患者を運ぶ台車の音。
ハラン「....!」
ハラン「イサベルッ!!」
病室。
突如としてタイフォンに現れたパイロット2人と接敵し、彼女は重症を負って帰ってきた。
ベッドの上に横たわるそれは、なんとか息がある事を除いて...戦死した遺体にしか見えなかった。
爆発で全身は大破し、胸元は抉られたように穴が開いている。間違いなく呼吸器官を損傷しており、
もがくように苦しそうに喘ぐ姿に胸が痛くなった。
ネメシス「...思った以上に損傷が酷いな、修理費も馬鹿にならん」
ハラン「ねぇ...イサベルは大丈夫なの?」
ネメシス「さぁな」
ハラン「さぁな...って、なんで他人事なの...?」
ネメシス「...役目を果たせなくなったアンドロイドに価値など無い」
価値など、無い。
打ち捨てられたゴミに向かって吐くような物言いを、表情一つ変えずに言ってみせた。
ハラン「....そんな....」
ハラン「...あの、先生。イサベルはもう助からないの...?」
医療班「内部のコアを一部回収、他の機体に記憶だけ引き継ぐという形になるかもしれません」
ハラン「...記憶...」
医療技術者である彼も、イサベルをわざわざ必死に助けようとはしていなかった。
記憶さえ引き継げばまた機能するから、この機体は死んでも構わないと思っているのだろう。
廊下の方から、大勢の人が集まっている音が聞こえた。
病室の近くで何やらイサベルについて話していた。
「なぁ、聞いたか?天下のインヘルト様が敗北だとよ」
「けど、イサベルさんは2人のヴァンガード級パイロットを単騎で相手取ったのよ。これってむしろ快挙じゃないかしら?」
「式典では神のように祀り上げられてた彼女ですら、負けるときは負けるんだなぁ」
「ミリシアが強いのか、インヘルトが思ったよりも普通だったのか、どっちなのかね」
「ミリシアも昔は弱かったんだが、ここ最近我々が押されることも増えてきたしなぁ....」
彼女に対する意見は色々と割れており、物議を醸していた。
しかし、誰一人として彼女の様態を心配する者は存在せず、全員がただただ野次馬を決め込んでいた。
式典ではあれだけ黄色い声で喚き散らしていた癖に、思った程大したことない知るとこれか。
ネメシス「コアの確保は可能なのか?」
医療班「はい。彼女の戦闘データは貴重ですので、そこだけ回収しましょう」
医療班「ここまで損傷が進んでるとなると、記憶の大部分を捨てるか、機体を全て捨てるかの二択になると思います」
医療班「どうされますか?」
ネメシス「記憶の方を第一に優先しろ、一度死んででも果たしてもらう使命がある。機体の方は捨てても構わん」
医療班「と、言いますと?」
ネメシス「その汚名を返上してもらう」
ネメシス「インヘルトに敗北はない…アウトランズの愚かな民衆に、そう思わせる必要がある」
医療班「アウトランズには確か…我々に支援しているスポンサー企業が存在していますよね」
アウトランズ。我々が住んでいるフロンティアよりも更に外側に存在する惑星群であり、
フロンティアよりも経済面と言う一点において先進している。
奴らは対岸の火事の如く遠巻きに戦争を眺めているだけだが、さっさと争いを終わらせて欲しいのか
大量に金を寄越してくる。
ネメシス「奴らにより投資してもらう。その為には、一度倒れても再び立ち上がるような偉大なる英雄、
及びサクセスストーリーが必要だ。特に感動する奴をな」
ハラン「…イサベルをどうするつもり?」
ネメシス「遠くから戦争を指を咥えて見ているだけの奴らはな、お涙頂戴話が大好きだからな」
ネメシス「記憶保持を優先しろ、費用が嵩むのはいい。新しい機体にそのデータを引き継がせる」
医療班「承知しました。...彼女の機体はどうしますか?」
...次の瞬間。母は何も言わず、私に何かを手渡した。
ハラン「...え?」
ハラン「なに...これ...」
ネメシス「ハラン。人の心を簡単に動かす方法を知っているか?」
ネメシス「___撃て」
ハラン「...!?」
ハラン「...い...いや...っ...」
ネメシス「撃て」
ハラン「...できない...っ...!」
私はこれまでの任務において、大勢の敵を射殺してきた。それは敵だからであり、お国の為であり、母の為であった。
同じ目線に立つ仲間を始末しろと言われると...引き金を引く手が震えた。
あまつさえ彼女は、部下の死を架空の作り話のダシにしようとしていたのだった。
ネメシス「...筆頭パイロット、ハラン。イサベルは、最期までその使命を全うしたと伝えろ」
ネメシス「撃て」
_____手元が狂い、弾丸は急所を掠めた。その弱弱しい一手が止めとなり、彼女の最期の動力が停止した。
.......................
私たちは、IMCが誇る最強のパイロット部隊だった。だからどこかで忘れてしまっていたのだろう。
私たちのような強者でさえ、明日生きている保証なんてどこにも無いということを。
私たちのような英雄でさえ、死ねば誰も見向きもしてくれないのだということを。
今更ながら、しかし改めて思い出す。
この世界は、残酷だということを。
")
「「ライトニング!」」
「「フレアッ!!」」
「「メテオ!!」」
マクスウェル「ドロシー。新装備の調子はどう?」
ドロシー「凄い...今までの比にならない...!」
...マクスウェル博士が製造してくれたこの装備は、
大型の魔法を連発することが可能な上に、身体に対する凄まじい負担を殆ど軽減することに成功していた。
かつてはフレアを撃つだけで、激しい眩暈に襲われた。大型の魔法を3回ぶっ放した任務の時なんかは、
3回詠唱した時点でダウンし、セラフィムにお世話になったものだ。
しかし、今回はそれが無い。
マクスウェル「けど、君の力はこんなもんじゃない。もっと装備が身体に馴染めば、より力を発揮するはず」
マクスウェル「もうちょっとだけ試してみて!」
ドロシー「失礼します」
数日後。"重要な話がある"とだけ言われた私は司令室に呼ばれた。
この司令室は特に防音性に長けた部屋であり、部屋の中の様子を外から伺い知ることは不可能である。
司令室。そこには、総司令、司令官2名、メティス3名といった錚々たる顔ぶれが一堂に会しており、
ピリピリとした空気を醸していた。...げんなりするほど重い空気は、いかにも何かあるといった感じだ。
ヘルム「とりあえず、座って」
ヘルム「今回の議題は、"あなたとイサベルの関係性"よ」
...は?
ヘルム「...信じられないって感じね。マクスウェル、説明してあげて」
マクスウェル「...おほん。ドロシー、この前の、あの何日も掛かった身体検査のことは覚えてる?」
ドロシー「...うん」
マクスウェル「その検査の結果ね、あなたに含まれている血液が、イサベルの物とほぼ完全に一致しているの」
...............
言葉が出なかった。
ほぼ完全に、一致?
それは一体、何を意味しているのか。混乱した頭では、到底考えられなかった。
マクスウェル「あなたとイサベルの血液に含まれる遺伝子情報はね、ほぼ完全に同一と言ってもいい」
マクスウェル「ハッキリ言うけど、あなたとイサベルに血縁関係があるんじゃないかって、私たちは思うの」
ガブリエル「ドロシー。君は生き別れのお姉さんを探しているんだったよな?何か心当たりは?」
....血縁関係。
姉さん...?
...いや、違う。姉さんはあんな紫色の髪をしていないし、そもそもイサベルはアンドロイドだ。
ドロシー「いえ...イサベルはアンドロイドなので、関係ないかと」
ゼーレ「ドロシー。我々が考えている選択肢はこうだ」
ゼーレ「まず一つ。シミュラクラム技術を用いたという説...」
ドロシー「...シミュラクラム?」
ゼーレ「人間にはな、本物の脳を機体に搭載することで、生前の魂や記憶を継承しながらも、アンドロイドに
進化する技術がある」
ゼーレ「生体部分を人工的に作ることで、魔力を持ちながらも機械の身体を手にしている個体も生み出すことも
出来る。ガブリエル司令なんかはその一例だ」
...仮にイサベルがガブリエル司令と同じ製法で生み出されているなら、彼女と司令の圧倒的な魔力の差の説明がつかない。
単に魔力を注入しただけの機械人形だとは到底思えない...そう思えてしまうほどの力が、彼女からは感じられた。
ガブリエル司令「つまりだな、君のお姉さんがシミュラクラム化した姿が、イサベルなんじゃないかという説だ」
ドロシー「...いいえ、それは...無いと思います」
ドロシー「姉さんは...私の事が大好きで...毎日いろんなことを教えてくれました...」
ドロシー「そんな人が...私を殺すような真似をしに来るでしょうか.....」
...それに、もし姉さんの記憶が無事に保持されているならば、彼女がそんなことをするはずがない。
彼女のあの、暖かな抱擁。優しい眼差し。私にいろいろな事を教えてくれた献身性。
イサベルからは、そういった要素が全く感じられなかった。
ガブリエル司令「...彼女はアンドロイドだ。もし...もし仮に、その魂や記憶を誰かに改ざ...」
彼がそう言うと、総司令は彼の唇に人差し指を静かに当てた。
ヘルム「...それ以上はダメよ。何も言わないで」
ガブリエル司令「...失礼。本人が可能性が低いと言うんだったら、この説は聞き流してくれ」
...私はその時だけ、総司令の事が好きになった。
様子を見る限り、彼らは真剣なだけで、私を追い詰める気は無いようだ...。
ドロシー「...他の説は?」
ラプラス「それについては私が説明しよう、新人。一瞬だけだが、このビデオ映像を見てくれ」
大きなモニターに、私と先輩がイサベルと対峙している時の映像が流れた。
イサベルが、赤黒い稲妻と共に電磁気のシールドを展開していた時の様子が映し出されていた。
次の映像は、私が新しいスーツに身を包み訓練していた時の様子だった。
魔法を連発しながら、赤黒い稲妻を放出していた。
ラプラス「...共通しているのは、魔法を出力したときにこの赤黒い光が放出されている点だ」
ラプラス「魔法には、炎、冷気、風、雷の4大元素が存在する...そう科学的に証明されているが、こいつだけは違う」
ラプラス「技術班の検査によると、この赤黒い稲妻は現状どの属性にも当てはまらないという特異な点を持つ」
ドロシー「...四大元素のどれにも当てはまらない?」
ドロシー「...何ですか、それ...」
三闘神とその子孫が用いた4大元素は、全ての魔法及び自然の祖であり、根源とされる力。
...そのどれにも当てはまらないということは、自然を超越した力だとでも言うのか。
ラプラス「いや、違う。正確にはな、この稲妻は、4大元素のすべての要素を含んでいる」
ラプラス「4大元素が融合し混ざり合い、新たな力として昇華しているんだ」
ラプラス「文献や人の話で見聞きしたことがある。4つの属性を行使し、太古より恐れられた...神。」
ドロシー「...4つの属性を持ち、その力を行使した存在...」
ラプラス「...そう、古龍だ」
....古龍ラグナロク。三闘神の子孫であり、彼らが持つ炎、冷気、雷に加え、風の属性までをも司る、「白き巨人」。
...そして、私のパパであり、人々が恐れをなす、正真正銘の神。
ラプラス「我々の二つの目の説はこれだ。古龍ラグナロクの...遠い子孫なんじゃないかって」
私が一緒にいたから分かる。私のパパは、一人の女性しか愛さなかった。
そして、その女性...私のママは、私を出産した後にその生涯を終えたと聞く。
....私が知らないだけで、本当はもっと深い...深淵に、私の知らない真実があるというのか。
あまりにも突飛な説だが、もし仮にイサベルが4大元素を行使することが出来るのならば...
神の子孫だという説は別に間違ってはいない。
ヘルム「...ドロシー。言っておくけど、私はイサベルとあなたが裏で繋がっているだとか、そういうことは考えてないの」
ヘルム「ここまでミリシアに尽くしてくれたあなたを、今更疑いたくはない。...ただ、あまりにも不明瞭な点が多すぎる」
ヘルム「私たちは、あなたと一緒に...真実を確かめたい。きっとこの先は、想像を絶する地獄を突き進むことになる
かもしれない....けど。」
ドロシー「...総司令」
ドロシー「何が真実で、何が嘘なのか...私にもよくわかりません」
ドロシー「けど...真相をこの目で見たい気持ちは、皆と一緒です」
ドロシー「私をどうか、地獄へ連れて行ってください」
アンドロイド : 識別名 イサベル
主要プロトコル
1 .... .... .....
2.創造主に服従せよ
CPUシステム 再起動中......
....
...
朝になり、忌々しい記憶と共に目が覚める。
...少々いびつに繋げられた腕のパーツの部分が、私の敗北を物語っていた。
私は、エリートのはずなのに。
IMCにその名を轟かせる、華々しいパイロット部隊。インヘルトのイサベルのはずだったのに。
「目が覚めたか」
指揮官様が近づいてくる。彼女の力になれない自分が憎くて、俯いてしまう。
ネメシス「顔を上げろ」
イサベル「...申し訳ありません、指揮官様」
イサベル「ミリシアのパイロットに、遅れを取ってしまいました」
ネメシス「...いや、よくやった」
イサベル「...え?」
指揮官様の意外な反応に、私は思わず声を上げてしまう。
ネメシス「お前は、タイタン無しでヴァンガード級パイロット2名を相手取り、撃退さえしてみせた」
ネメシス「これ以上の結果は望めないだろう」
指揮官様はそう言って、私の頭を撫でてくれた。
ドロシーの確保に失敗したから、てっきり詰められるものかと思っていたのに。
イサベル「お褒めに預かり光栄です、指揮官様...」
指揮官様は誰かを褒めるときも、誰かを叱るときも、いや...誰かを始末するときでさえ、その表情が変わることはない。
元々そういう人なのかもしれないが、有能な部下には時折寛容で、ふと優しさを見せるときがある。
ネメシス「お前は素晴らしい活躍をした」
ネメシス「...にも関わらず、異を唱える者達がいる」
イサベル「...アウトランズの連中...それも、出資者のあいつらのことですね」
ネメシス「その通りだ。アウトランズの連中は、お前が負けたということにしか目を向けていない」
ネメシス「大枚をはたいて支援しているのだから、さっさと戦争を終わらせて来いということなんだろうがな」
アウトランズの連中は戦争を終わらせて、1日でも早く宇宙での平和を享受したいようだがそうはいかない。
...私たちの目的は平和ではない。我々の理想は、フロンティアのみならずアウトランズまでも我が物とし、
我々ハモンドが宇宙全土を完全に支配すること...
ネメシス「...そろそろ薬の時間だ。体調がまだ優れないだろうから、今日は濃度を下げたものにしよう」
医療班の彼らが、病院食を持ってきた。
病院食と言っても、強力な鎮痛剤とゼリー食と...あとは、特殊な血。
イサベル「...指揮官様。体調の方ならもう平気ですので、より高濃度の物を持ってきて頂けませんか」
ネメシス「分かった。だが無理はするな、少しずつ身体に慣らせ」
指揮官様はそう言って、血の液体をより高濃度のものにしてくれた。
...液体はゴボゴボと煮えたぎるように泡立ち、不吉な赤黒い稲妻をスパークさせていた。
イサベル「...ぶふっ」
イサベル「...ごほっ...げほ...っ...」
体内に入れた瞬間...全身を内側から焼かれるような激しい痛み、全身から力が抜けるような重い脱力感、
倦怠感に襲われ、反射的に噴き出してしまった。
指揮官様は怒るでも心配するでもなく、淡々と床を拭き始めた。
...こういう光景には、慣れているのだろう。
イサベル「すみ....ませ...」
ネメシス「無理はするな、濃度を半分にしろ」
私は再度、血を体内に流し込む。全身に少しだけ力が漲り、鼓動が高まるのを肌で感じた。
私のような、身体の大部分が機械で出来たアンドロイドでさえこの有様だ。
ハランは生身の人間でありながら、こんな苦痛に満ちた液体を何とか凌いで飲み干しているのか...と思うと、
インヘルトのリーダーの名は伊達ではないという事なのだろうか...。
私はその時、ハランのリーダーとしての覚悟のようなものを、少しだけ感じた気がした。
ネメシス「...イサベル、ドロシーの捕獲任務のことは覚えているか?」
イサベル「はい、指揮官様。彼女はわたくしの想像を遥かに超える強さを持っています」
ネメシス「ここ最近、ミリシアは強力な兵を揃え始めた。特に、ドロシーは魔法使いとしては圧倒的な強さだ」
ネメシス「もしかしたら、我々で言うところの古龍の血のようなものを、既に開発しているのかもしれん」
古龍の血。IMCでさえ生産、調達が難しい代物であり、この液体に身体が適応できればより強大な魔法の力を得る。
どうやって作られているかはよく分からないが、ミリシアにそんな技術力があるとは思えない。
イサベル「...ミリシアに、そんなことが可能でしょうか」
ネメシス「宇宙は我々の思う以上に広い。腕の優れた科学者など、探せば普通にいるだろう」
イサベル「何であれ、私たちの対抗馬がついに現れた...ということですね...」
ネメシス「その通りだ。だからこそ、ドロシーを潰せば我々の支配がより盤石なものとなる」
ネメシス「だが、功を焦ることはない...。正面から潰すだけが、我々のやり方ではない。」
ネメシス「...そろそろ時間だ。次の任務だけ伝えておく」
...傍から見たら、インヘルト頼りにしか思えない作戦。
しかし、指揮官様が私達を買ってくださるのならば、それに喜んで応えるまでだ。
イサベル「...承知致しました。指揮官様...」
イサベル「わたくしは、貴女様の為に...」
「全てを...捧げます」
惑星ベクタ。ミリシアの遠くに位置する惑星だが、極めて強大な軍事力を有したバルカン帝国を擁する。
我々に今必要な事は、王手をかける前に念入りに対策を練っておくことだ。
ハラン「総員、戦闘配置。私に続く後続部隊は、速やかに砲撃の準備を」
「撃てッ!」
私の号令の後に、後続の空軍部隊からレーザーの嵐が降り注ぐ。
レーザー砲が空から放たれて、大地を焦土に焼き尽くす光景はいつ見ても残酷なものだ。
「うわぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁ!!」
「メーデー!!メーデー!!」
「メディックぁぁぁあああああぁぁっぁあぁぁ!!!」
敵兵の悲痛な叫びが聞こえる。地上を這う事しかできない歩兵は、空からの攻撃に成す術もない。
「「3人のパイロットが展開しているぞ!1か所に留まってはならんッ!陣形を広げろッッ!」」
敵国の指揮官が、高らかに声を上げていた。
その声に応じ、想像を絶する夥しい数の戦闘機が空を覆い尽くしているのが見える。
こちらは少数。あちらは大勢。数で言えば劣勢に思えるが、ミリシアのドロシーとかいう奴よりかはよっぽどマシだろう。
何せ、未だにこれといった魔法術を使われていないのだから。
「ハラン、危ないっっ!!」
空軍部隊「ぐあ...ッ...!」
...地上からの巨大な砲弾に巻き込まれた戦闘機は、瞬時にしてミンチとなった。
「「防壁展開」」
「「テンペスト」」
それを何とかして食い止める、巨大な風のシールド。
強烈な風圧は凄まじい勢いで放たれた砲撃すらも抑え込み、すんでのところで無力化に成功していた。
ノア「ハラン!!下にもまだヤバい兵器がゴロゴロいるんだから、よそ見するんじゃないわよ!!」
...彼女が必死で守ってくれたのだろう。仲間の咄嗟の防壁が無ければ、私も彼のようにきっと肉塊にされていた。

地上に黒く聳え立つそれは、明らかにただの巨大な砲台ではない。
アレに巻き込まれれば、もう二度と誰かに守られることも、誰かを守る事すらも叶わない。そう思える威力だった。
ノア「まさかアンタ、あれも見えずに突っ込んだ訳!?」
地上からは狙撃され、空からは包囲されている状況。本当に感謝したいのに、ありがとうと息つく暇もない。
これ程の大群が相手ともなれば、もはやアレに頼る以外にないだろう。
ハラン「ノーススター、一度パイロットモードを解除するわ。別々で動きましょう」
ノーススター「...了解です、パイロット。私が時間を稼ぎ支援致します」
ハラン「イサベル!いつものアレを!」
イサベル「分かってますわ!ノア、構えて!!」
私の陽動に釣られ、敵戦闘機の銃口がこちらに一斉に向くのが見える。
…正直言って、凄く怖い。だが、これが私にできる最大限のサポートならば、体を張る事など惜しくない。
ノア「ハラン!後ろ!!」
ハラン「...ッ...!」
死角からの銃弾を肩に掠め、鋭い痛みが走る。
タイタンが居ない今、銃弾に巻き込まれれば私は一瞬にして電磁シールドごと貫かれ、蜂の巣にされるだろう。
しかし、このスピードに付いていける戦闘機などこの世に存在しない。
ノーススターは最高速度で空を飛び回り、的確にミサイルを射出して敵の数をじりじりと削っていた。
敵のヘイトを買い、奴らの警戒が薄れた頃にそれは放たれる。
...............
「「天を均すは空の怒り」」
「「太古より恐れられし禍の、根源の名を今此処に」」
「「超然たる龍の王」」
「「ラグナロク」」
「「万物裁くは神の意志」」
「「太古より恐れられし禍の、根源の名を今此処に」」
「「泰然たる聡明の女神」」
「「ソフィア」」
…
暴風。それは全てを奪い去る、空がもたらす災厄。
落雷。それは全てを撃ち落とす、天がもたらす災厄。
二つの力が混ざり合い、雷撃を伴った嵐。それは、空の敵をいとも容易く呑み込み引き裂いてしまう。
空を覆い尽くし、黒き雲海を形成していた戦闘機は災禍を前に成す術も無く撃ち落とされ、散っていった。
…そして、続け様に聞こえてくる地上からの迎撃砲。
空軍部隊を一掃し、思わず一息つきたくなるがグッと堪える。
大地に根差した砲台の、その声音が鎮まるまでは…
私達はまだ、終われない。
「「メーデー、メーデー!」」
「「こちら惑星ベクタだ。現在IMC軍のパイロット部隊からの攻撃を受けている!」」
「「どうか助けてくれ...既に座標は送った、至急応援を要請する!!」」
...30分前、ミリシアに向けて送られた謎の電波。
ゼーレ「総司令。この電波はどうするんだ?」
ヘルム「電波はベクタのものか...他の信号はないの?」
ゼーレ「この信号で最後だ」
惑星ベクタ。ミリシアから遠く離れた惑星であり、魔法があまり発展していない代わりに兵器の開発が進んでいる。
数多くの国々を有する中でも特に強大な帝国、中立国家バルカンを擁する。
良く言えば中立側ではあるが、IMCからすれば格好の的とも言える。
IMCが直接ミリシアを標的にするのではなく周囲の方から襲撃し始めたのは、包囲して確実に潰すつもりなのか。
ヘルム「ここからどれくらいで到着する?」
ゼーレ「部隊編成の時間も含めると1時間半...といったところか」
ゼーレ「IMCのパイロット部隊と来れば、相当なエリートだろう。バルカン帝国が果たしてどれだけ持つか次第だな」
ヘルム「IMCのパイロットに、イサベルが居るのかだけ知りたい」
ガブリエル「...総司令。既に送り込んだドローンから、激しい雷を伴った台風が観測されました」
ヘルム「...タイフォンの時と同じね。今回も彼女がいるのかもしれない」
ベクタに貸しを作っておけば、後々我々の役に立つのは間違いないだろう。
...と分かっていても、イサベルがいるかもしれないと考えるとそれだけで慎重にならざるを得ない。
今後の投資のためと思って我々が壊滅してしまっては本末転倒だ。
総司令は、どう考えるのだろう。
ガブリエル「どう動きます?」
ヘルム「ベクタの持つ資源はかなりのものよ。援軍を送り込んで協力関係にこぎ着けたら儲けものね」
ヘルム「けど、イサベルがいるかもしれない以上、主力の部隊も送り込むわ」
ヘルム「...ガブリエル。ドローンをもっと見れない?」
ガブリエル「...鉄板のようなものが、打ち上げられているような...?」
ゼーレ「局所的に雷と台風が発生していることが分かる。兵器などの機械の類が、台風に巻き込まれて
打ち上げられてるんじゃないか?」
局所的な雷鳴と暴風。遥か遠くのドローンからでも僅かに観測できる所を見ると、これはもはや大災害と言っていい。
仮にも強大な国力を誇る帝国が、ただの雷と台風程度でうちに救援を出してくるとは到底思えない。
ガブリエル「...総司令。これほどの規模の台風と落雷が持続していると考えると、天候操作の類と見て間違いありません」
ヘルム「それって、イサベルが起こしたあの雷雲を召喚する能力のことよね...」
ガブリエル「はい。イサベルの他に、また別の...神に匹敵するほどの魔法使いがいると思います」
ガブリエル「我々は慎重に動くべきかと」
帝国を助けることのメリットとデメリット。その天秤は、私の中ではデメリットの方に傾き始めていた。
ヘルム「...ゼーレ。ドロシーの強化装備の出来は?」
ゼーレ「完璧だ。私の想像以上と言っていい」
ゼーレ「私としては、今こそドロシーの進化した力を試すべきだと思うのだがな」
ガブリエル「...彼女を失うリスクを取るべきだと思うんだが」
...総司令は深く溜め息をつき、重い腰を上げるように静かに口を開いた。
ヘルム「このままベクタからの通信が無かったら、そろそろ編成に取り掛かるわ。攻撃の準備に入る」
ガブリエル「...総司令。危険を冒してまで、ベクタに援軍を送り込むに値する理由があるのでしょうか」
ヘルム「我々が勝利するのに必要なことは、まず自分たちの限界を知ることよ」
ヘルム「ドロシーは以前よりも更に大きな力を掌握し、そしてミリシア自体もソラスとタイフォンを奪取してから、
組織の力も強くなってきた」
ゼーレ「私も総司令に賛成だ。主力であるドロシーの力を試すには悪くない機会だろう」
ガブリエル「しかし、彼女の実力を測り違えば我々は一気に力を失うことになる」
ガブリエル「彼女を失うことのリスクをもう少し重く見ても良いと思うのですが」
...総司令もそれは当然把握し、その対策を既に考えていたのだろう。間髪入れずに主張が続いた。
ヘルム「バルカンは最悪、犠牲になっても全く構わない」
ガブリエル「...ベクタに貸しを作るのではないのですか?」
ヘルム「それはバルカンを死守してでも、という意味ではないわ。あそこには囮になってもらって、それ以外の
生き残った国々からの支援を要請すればいい」
ヘルム「いくらIMCでも無傷でバルカンを滅ぼすのは無理があると思うし、仮にそうなら引き返すだけ」
ガブリエル「...それでIMCが疲弊していたら、むしろ攻撃のチャンスだと」
ヘルム「そのつもり。今回の目的はドロシーの強化具合を確かめる実験よ。ベクタへの助け舟は、あくまで可能ならばついでに行う程度のもの、と考えてもらって構わない」
...仲間との協調を重んじるミリシアの総司令としては、彼女の作戦は意外だった。
しかし、敵軍が他所の国とやり合っている隙に横槍を入れるくらいでなければ、実際勝てるかどうか定かではない。
ガブリエル「...総司令の考えはよく分かりました。ですが、ドロシーだけでも連れて帰る手段は用意しておくべきかと」
ヘルム「もちろん、メティスの一人を同行させるわ。彼女の能力とラプラスのポータルがあれば、退路の確保は容易いもの」
ゼーレ「では、そろそろ編成に取り掛かろう。大まかにシミュレーションして、このような形になった」
...
...通信機が鳴った。
ガブリエル「スノーホワイトか。どうした?」
スノーホワイト「只今ベクタから音声信号を受信しました。今からそちらの回線に繋ぎます」
「「...こちら、チーム404のミアス・ウォルターです。我々はIMC軍の襲撃を逃れるため、そちらに向かっています」」
ガブリエル「初めまして、私はミリシアの司令官を務めている者だ。ベクタの状況は分かるか?」
「「..バルカン帝国の空軍部隊との通信が取れなくなってから、しばらく経ちました。バルカン以外の国々にも被害が
出ていてもおかしくないと思います」」
ガブリエル「通信?彼らとは味方なのか?」
「「はい。我々チーム404は、現在バルカンに雇用されている傭兵部隊ですが...」」
「「彼らの救助に向かった所、既に空軍部隊が半壊しており撤退を余儀なくされた次第です」」
傭兵部隊404。その実力の高さは耳にしたことがあるが、彼らでさえ踵を返すような状況。
バルカンを失ったベクタに、もはや星ごとIMCに食われる以外の未来は何も無い。
もう一度ドローン越しに状況を確認すると、嵐の勢いは先程に比べて幾分衰えているように見えた。
...恐らく、もう目も当てられない惨状になっているかもしれない。
ガブリエル「...嵐が止んできた。IMC軍の攻撃も一段落したのかもしれん」
「「ミリシアの司令官殿。我々は現在、IMCの襲撃から逃れている状況下にあります。一時的な保護を要求したい」」
ガブリエル「元よりそのつもりだ。雇用が決まってうちに安い金でこき使われる羽目になっても、恨まないでくれよ」
「「...ご理解に感謝します。今回は状況が状況ですから、我々も生きるためになりふり構っていられません」」
...IMCの脅威を目前にして、我々が取るべき行動はただ一つ。生きるために、共に身を寄せ合うこと。
少しでも生に縋り付くために、生きるための勝ち筋を手繰り寄せなければ。
...それがただの利害関係であれど、今はそれで十分だ。
...敵の攻撃が止んできたと踏んで、私は作戦を少し変更して別の方針を立てた。
ガブリエル「ただ一つ、協力して欲しいことがある」
ガブリエル「一度ベクタの様子を偵察する。こちらも一応戦闘部隊を送り込むが、生き残りがいるか確認したい」
「「...既にいないかもしれない生き残りをわざわざ探すのですか?」」
ガブリエル「こちらとしては、ベクタにパイプを通して支援してもらいたい。その為のアピールというのかな」
ガブリエル「ベクタとしては、帝国にもう望みがないからうちに救援を求めたのだろう。星の存続を他所に頼るしか
無いこの状況をうまく掴めば、彼らベクタから多少燃料やら鉄やらは支援して貰えるはずだ」
「「抵抗手段を無くした彼らに対して、一応手を差し伸べるポーズはしておくということですね」」
ガブリエル「あぁ。我々もタダで人助けが出来るくらい、資源に余裕がある訳じゃないからな」
...出来ることなら、それが一番いい...。
「「では、仮に...あ、何か言いました?」」
ガブリエル「...いや、なんでも。続けてくれ」
「「...おほん。では、敵のパイロットがまだ残留していた場合どうしますか?」」
ガブリエル「うちの主力部隊をぶつけ、時間を稼いでもらう。君たちにはその間に生き残りの兵を探し、救助に
向かって欲しい。ベクタの近くにうちの管轄であるソラスがあるんだが、そこで構わないか?」
「「構いません、そのような作戦で行きましょう。こちらからも最低限の戦力は提供させてもらいます」」
ガブリエル「ありがとう。ただ残留している敵戦力がまだ不明瞭だ。互いに無理することなく行こう」
...我々はバルカンを犠牲にしてでも、ベクタが丸ごとIMCに乗っ取られる未来だけは回避しなければならない。
...総司令達は私の通信を聞きながら、既に部隊の編成をあらかた終えていた。
私の頭の中で思い描いていた編成とある程度似通ったものが完成しており、二人とも生き残りを救助する方向性に
シフトしているようだった。
スノーホワイト「司令。俺から一つ...彼によろしいですか?」
ガブリエル「あぁ、こっちの話は済んだ。後は二人で話してくれ」
スノーホワイト「...なぁ、君。さっき、ミアス...ウォルターと言ったか?」
「「はい」」
スノーホワイト「IMC所属、戦艦ヴァルハラの副艦長...マーカス・ウォルターの息子で違いないか?」
「「そうですけど...何故それを?」」
スノーホワイト「マーカスは...俺がIMCにいた頃の…その、部下だったんだ」
「「...!!」」
彼がIMCで艦長を務めていた頃に、マーカスという部下がいた。
部下の息子に対し、まるで本当の家族かのように優しく声を掛ける彼からは、どこか哀愁が感じられた。
「「えっと..じゃあ貴方が...ダリア・ヴィンセントさん?」」
スノーホワイト「...あぁ。ダリアで構わん、それかスノーホワイトと呼べ」
「「...その、ダリアさん。あなたが操縦している戦艦が墜落して、それで事故で亡くなったと聞いたのですが...」」
スノーホワイト「...IMCはそういうテイにして、俺たちを捨てたってだけのことさ」
スノーホワイト「...君とは今度ゆっくり話したい。君のお父さんのことについて、色々とね」
...404が本当に信頼していい部隊かは、私には分からない。
だが、スノーホワイトと繋がりのある人物ならば...彼らともきっとうまくやっていけそうな気がした。
ガブリエル「なら話が早いな。スノーホワイト、今ソラスにいるのだろう?彼を保護してやってくれ」
スノーホワイト「...いえ、司令。一つお願いがあります」
スノーホワイト「...俺も、作戦に同行させて下さい」
...
唐突で自分勝手にも思える、彼の一声。
しかし、自分を簡単に切り捨てた故郷に何か思う所があるのだろう、私は彼の移動を総司令に申し出た。
惑星ベクタ。私たちが到着するころには、バラバラになった戦闘機や兵士だったものが地面に横たわっており、
受け入れがたい陰惨な光景が広がっていた。...敵は恐らく、既に撤退したのだろう。
「紫の...女...に...」
「気を...つけて...」
どこからか聞こえてくる、無念が感じられる兵士の声。
イサベルの力は、彼ら一般兵にとってはこれ程までに破滅的で、災害の如き力だと言うのか。
ドロシー「...さっきまでは雷が酷かったのに、すっかり快晴ですね...先輩」
ドレイク「私たちが怖いから、暴れるだけ暴れて撤退したといった所だろう。小心者だな、ハハハ!」
メティスの戦闘経験は、この状況下でも笑い飛ばせる程には地獄だったのだろうか。
それとも、単に彼女が私の想像以上のバカなのか。
ドレイク「おい、そこのお前。大丈夫か?」
先輩が一人の兵士に声を掛けた。彼は、全身に切り刻まれたかのような痛々しい傷跡を深々と刻まれており、
助かる見込みがあるのかどうかも分からない。
ドレイク「ミリシアのパイロットであるこの私、ドレイク様が来たからにはもう大丈夫だ!有難く思え!」
兵士「ミリ...シア...」
ドロシー「...私は救護班を呼んできます。想像以上に負傷兵が多いので、彼らに回収してもらいましょう」
ドレイク「おぉ、気が利く新人だな!ありがとう!」
彼女は私に感謝しながらも、負傷した兵士に対し速やかに応急処置を行っていた。
ドレイク「そこのお前、出血が酷いな。ミリシアのパイロット様が今助けてやる」
ドレイク「そこのお前は?脚のパーツが壊れて立てないだと?医療班が迎えに来る、それまで待ってろ」
ドレイク「助けに来てくれたのかって?恩を売るだけ売りつけるのはヴィランの基本だからな、ハハハハ!」
...惑星ソラス。元々はIMCの支配下にあったが、私たちがかつて死ぬ気で勝ち取った燃料補給地。
ミリシアとベクタを結ぶこの星のお陰で、負傷兵は1時間もあれば何とか治療を受けられるだろう。
既に何隻もドロップシップがこちらに向かってきている。少しでも多くの人命を救う為に。
「「戦闘配置」」
「「仇敵を撃ち落とせ」」
BT「パイロット、何か来ます。伏せて________」
___________________
遠くの空から聞こえてくる、爆撃機のミサイルの爆発。
まさか、他にも伏兵が居たのか?
「「IMC軍の戦闘機を撃破」」
「「ミリシア軍の支援に感謝」」
「「流石だね、レナ。ミリシアのパイロット様への挨拶はいいの?」」
感謝?
戦場にはいまいち似合わないその言葉に首を傾げていると、通信機から声が聞こえてきた。
「「...こんにちは、ミリシアのパイロットさん。他の人から聞いたんだけど、ドロシーさんだよね?」」
これまた戦場には似合わない、明るい快活な声。
ドロシー「初めまして、私がドロシーだけど...あなたは?」

「「私はレナ。チーム404っていう傭兵部隊に所属してるんだけど、ベクタの人達に雇われてここまで来たの!」」
レナ「「ミリシアのパイロット様が凄いって噂だったから一目見てみたかったんだよね!」」
無邪気で可愛らしい人だ。しかし、余裕そうに空を飛び回っている辺り、彼女もヤワじゃないのだろう。
ドロシー「ありがとう。チーム404が何かは知らないけど、助けに来てくれんだよね?」
レナ「うん!...あ、敵の増援だ!ゴメン、ミアスに代わるね!また後で!」
___プツッ

可愛らしい、ポニーテールの女性...のように見えた。
ミアス「初めまして、ドロシーさん。僕はミアス、チーム404の指揮官...みたいなものだと思ってほしい」
ドロシー「初めまして。IMCの増援が来たみたいだけど、大丈夫?」
ミアス「今はね。…そうだ、ミリシアに帰還したら、仲間の事をちゃんと君に紹介しておかないと」
ドロシー「えっと...あなた達もミリシアに来るの?」
ミアス「うん、雇い主のバルカン帝国は既にこの有様だし、ミリシアの傘下に入った方がいいかなって。既に
司令のガブリエルさんって人と話をつけてあるから、安心していいよ」
私は特に嫌だとは思わなかった。IMCに立ち向かうためには結託することが不可欠であり、それ以外どうしようもないことは、重々承知の上だった。
BT「(...パイロット、女性の一人称に「僕」はあり得るのでしょうか)」
ドロシー「(ちょ、今そういうのいいから...。というか、別にどっちだっていいでしょ)」
ドレイク「おーい!!」
ドレイク「さっきの爆発はなんだ!?」
ドロシー「あ、先輩。今、404という部隊がミリシアに協力してくれて、IMCの空軍部隊と戦っています」
ドレイク「そうか、IMCは嫌われてるからな!それで、お前は助けに行かなくていいのか?」
ドロシー「...今日は特に出番が無いかもしれません、私たち」
ドロシー「彼ら、余裕の表情で敵部隊を殲滅しています」
ドレイク「何だと!?ラプラスも出動してるから、てっきり決死の大作戦だと思ったんだがな...」
ドレイク「...フン!イサベルがいるだろうと思って来たのに、既に帰ってしまってはな!」
イサベルの血の秘密を探り損ねたのは残念だが、いいこともあった。
チーム404。彼らのような有能な戦力が仲間に入ってくれたら...
..........
...
「「メーデー、メーデー、墜落する!メーデー!」」
「「敵タイタンを検知!至急応援を求む!至急応援ッ!」」
通信機から聞こえてくる、断末魔に似た何か。それが耳に入る度に背筋が凍り付き、血の気が引く感覚がする。
「「敵パイロットだッッ!!」」
ドレイク「「....!!」」
ドレイク「「お前ら!今すぐそちらに向かう!私と変われ!」」
........
....
「はい、撃破と。IMCの空軍部隊ってはっきり言ってパイロット以外カスだけど、こんなに奴らに負ける程なんてね」
「でも、あれ機体にミリシアって書いてないし...ミリシアのパイロットは今日は来ないのかなぁ?」
「チーム404...って、もしかしてミリシアの一派だったりして。まぁ、こんだけ雑魚ならどのみち関係ないか」
ドレイク「お前ら!大丈夫かっ!」
先輩の叫びに、一歩遅れて応答が返ってくる。
レナ「ドロシー!こいつ、ヤバいよ...!気を付けて!」
彼女の戦闘機が敵タイタンのミサイルを必死に回避しているが、このままでは直に沈んでしまう。
...急がなくては。
BTはレナの支援をするべく、速やかにミサイルを敵機に射出した。
...だが、彼の冴え渡る素早い判断でさえ、奴には届かなかった。
??「効かないよ、それ!」
瞬時に展開された電磁シールドを前に、ミサイル数発如きでは何の意味も為さず、瞬時に灰と化した。
??「あー、ミリシアのパイロットさん...こんにちは。今から片方潰すつもりなんだけど、どっちがドロシーだっけ」
このダルそうな、しかし全く隙の無いこの感じ。
かつての強敵と睨みあった時と、同じような感触がした。
ドレイク「私はドレイクだ!覚えておけ、このチビ!」
??「チビ?チビじゃないわよ。あたしノアっていうの、冥土の土産に覚えておいてね」
ノア「そんで、もう戦うのとかダルいからさ...そっちのピンクの髪のドロシーさん。よかったらIMCに来ない?」
この人を舐めた態度。それに加え、あの一瞬だけで分かる近寄りがたき強さ。
間違いない。彼女もまた、イサベルと肩を並べる存在の一人だろう。
ミアス「...申し訳ない、ドロシーさん。この化け物は君に任せるよ、負傷兵は僕らが連れて行くから」
ドロシー「...ありがとう、ミアス。こいつは私たちが対処しておくわ」
ノア「あー...悪いんだけど、ドロシー以外の人達に用はないから、もう帰ってもらっていいよ。殺す労力が省けるのは、あたしとしても嬉しいし」
BT「(...パイロット。あのアンドロイドから、風の魔力を検知しました)」
ドロシー「(魔力がどのくらいの規模なのか分かる?)」
BT「(風速およそ14m/sと判断。人が風に向かって歩く事が困難なレベルです)」
BT「(ですが、私の中にいれば安全です。少なくとも今は)」
...少なくとも、今は大丈夫。
彼女が本気を出せばどうなるかなんて知る由もないが、今は縋るものがあるだけマシだ。
ドロシー「(ありがとう、BT。今回もあなたに頼りっきりになるかも)」
BT「(問題ありません、パイロット。こちらも強気で行きましょう。自分自身と、そして私を信じて。)」
ノア「で、邪魔者はもういない?」
ドレイク「おい!誰が邪魔者だ!」
ノア「あー、うん...ドロシー。あなたにだけ来てもらいたいんだけど、こいつがそんなこと許す訳ないでしょ?」
ドロシー「当たり前じゃない。まぁ、お茶菓子くらい出してくれたら別に行ってもいいんだけどなぁ」
ドレイク「おい!そんなものに釣られてどうする!」
柄にもない事を言ったついでに横目を走らせると、404の部隊が既に脱出を始めていた。
恐らくソラスに向かうのだろう。後もう少しだけ時間を稼ぎ、彼らに負傷兵の救援をしてもらわなくては。
BT「(パイロット、その調子です。もう少しだけ時間を稼ぎましょう)」
ドロシー「(やばい、こういうの苦手なんだけど...!)」
ノアを乗せたタイタンは、痺れを切らしたのかビキビキと音を軋ませながら右腕の重機を動かしていた。
...そろそろ来るかもしれない。
ノア「まぁいいや、どうせ来ないんだろうし...あたしの方から力ずくで行かせてもらうね」
BT「パイロット、衝撃に備えて」
ドレイク「リージョン、行けるよな!?」
リージョン「いつでも行けます、マスター。パイロットモードに移行します」
ドロシー「来る...!」
ノア「エネルギーの充填を開始。武装形態に移行」
「「モード、起動」」
「「フレアッ!!」」
開戦直後、私はお構いなしに上級呪文をぶっ放す。
詠唱も無く咄嗟に飛ばしたはずの強烈な灼熱は、彼女が巻き起こす風圧を前に鎮まり返った。
何故効かないのか、と考えるまでもない。彼女の前では、文字通り風前の灯火と言ったところだろう。
ノア「プッ...炎は生物に強いって言うけど、まぁあたしが相手じゃねぇ...(笑)」
ノア「あ、ごめんねドロシー。ご自慢の武器が効かなくて焦ってる感じ?」
私は炎の属性しか使えない訳ではないが、だからといってどう攻めればいいかも分からない。
ドレイク「砕け散れぇぇぇぇぇえええぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!
ノア「ちょっ...アブな...ッ!?」
ノア「防壁展開っ!!」
凄まじい絶叫と共に放たれる、雷を伴なった激しい突進。
開幕からアクセル全開で突っ込む先輩も先輩だが、それをギリギリのところで防いでみせる敵も敵である。
ノア「ちょ...いきなり距離近いって!」
ドレイク「フン、なかなかやるな!だが風は風!そんなそよ風がこれ以上守ってくれるとでも?」
ドレイク「砕け散れぇぇぇぇぇえええぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
ノア「うわぁぁぁ!いきなり突っ込んでこないでよッ!!」
至近距離から放たれる雷撃のタックルを、敵タイタンがブースターを起動させ回避する。
距離を取り逃げ惑いつつも、その正確なホバリングはまだまだ余裕といった様子だ。
彼女の指先から放たれた風の弾丸を見逃さず、咄嗟に避ける。
ドロシー「あなたこそ、さり気なく逃げながら攻撃してこないでよ!」
ノア「それ1vs2の状況の奴が言う事じゃないでしょ!」
.........
....
交戦から数分が経った。先輩のタックルも私のフレアも、BTやリージョンが放つ銃弾やミサイルも、
未だに彼女に一発たりとも通っていない。その堅牢な盾を前に、どう攻めたものか...
こちらの攻めは一向に通用する気がしないが、あちらは別だ。
風を凝縮した弾丸は、BTの頑丈な装甲を少しずつ、だが確実に蝕んでいた。
このままでは、こちらが持たない。
BT「パイロット。敵パイロットの風魔法は強力です。風圧のバリアを壊さない限り、勝利はありません」
ドロシー「ねぇ、風属性っぽいやつに効きそうな属性ってないの?」
BT「過去の戦闘記録を検索中。検索結果はありません」
ノアの様子を見る限り、接近を避けているような気がする。確かにあの小柄な体系は殴り合いには不向きだろうけど。
とすると、魔法云々ではなく物理?
ノア「防壁展開!」
ノア「あんたの突撃は通らない!」
しかし、強力な風圧が安易な接近を許さない。タイタンの重量さえ押し流す風力ともなれば、むしろ至近距離での
近接攻撃は自殺行為の類なのかもしれない。
ドレイク「フン!このヴィランを前にしてブルブル震えてるのか?腰抜け!」
先輩は尚も突進を繰り返していた。アレを通せば何かあるのか、それともただの馬鹿なのか。
というか、今更だけどヴィランってなんだ?
...先輩がしきりにこちらをチラチラと見ている。時間を稼ぐから、有効打は私に任せるということだろうか?
私はそう考えつつ、雷の術式を召喚する。天から降り注ぐ落雷ともなれば、風での防御は不可能だろう。
BT、牽制で時間を稼いでくれてありがとう。
早く私が有効打を見つけて、この地道なダメージレースをどうにかして勝利につなげなければならない。
....
「「暴風の龍神よ」」
「「災から我が身を護り、厄を打ち払い給え」」
「「テンペスト」」
....
横からの突撃。私が召喚した、上方向からの落雷。2機のタイタンによる強烈なミサイルによる波状攻撃。
赤黒い稲妻が迸り、ヤツが展開した風の防壁を前にそれらは全て無に帰した。
...一つを除いて。
「「うぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉおぉぉぉッッッ!!!」」
「「ハハハッッ!!どうだノア!それしきの風如きで、このドレイクを止められるかぁぁぁ!!」」
ノアはまだ身を固め、耐え凌いでいた。
この絶好のチャンス、逃す訳にはいかない。
「「うぉぉぉぉぉッ!ドレイク!!あんたなかなかやるじゃない!!!でもちょっと抑えて欲しいなぁぁぁぁ!!」」
けど、あのやり取りを見る限り、彼女はまだ本気を出しているかすら怪しい。
あの城塞を崩すには...どうすれば?
.....
BT「パイロット。先ほどの防壁の詠唱の際、赤黒い光が検知できました」
BT「あなたならアレを攻撃魔法として使えるかもしれません」
イサベルでも見た、そして私も魔法を放出した際に同時に放たれるらしい、あの不吉な何か。
そもそもどういう属性なのか?4大元素が合わさったところで、中和して却って威力が弱まりそうなものだが、
何をどう想起して、攻撃に転化すればいいのか?
ラプラス「文献や人の話で見聞きしたことがある。4つの属性を行使し、太古より恐れられた...神。」
ラプラス「...そう、古龍だ」
ラプラス先輩の言葉を思い出す。
...私のパパ...否、古龍だけが使っていたとされる、4大元素を統括する龍の力。
龍の力だから...龍属性?
BT「私がサポートします、パイロット。詠唱に力を入れてください」
彼の厚意に甘え、静かに眼を瞑る。
...このままイメージを深めよう。
ドレイク「うぉぉぉぉぉおぉぉぉぉッ!!新人、そろそろ援護してくれないかッ!!」
ドレイク「おい、何を黙ってるんだ!!詠唱か!詠唱でもしてるのか!!なら仕方ないな!!ハハハ!!!」
....
「「数多の命を駆逐せし時 肉を裂き 骨を砕き 血を啜った時 彼の者は現れん」」
「「劫火を熾し 海神を喰らう者」」
「「風と雷とを従え 天より裁きを下す者」」
「「声あらば叫べ 耳あらば聞け 心あらば祈れ」」
「「天と地とを覆い尽くす その者の名は________」」
.......
.....
「「暴風の龍神よ」」
「「再び来たりて災から我が身を護り給え」」
「「テンペスト」」
彼女は再度バリアを展開し、守りの態勢に入る。
私が打ち出した赤黒いガスは扇状に広がり、包囲して襲い掛かるように飛びこんでいった。
敵機は既に、黒煙に丸ごと覆い尽くされていた。
ノア「....あ、あれ...て、テンペスト?バッテリーでも切らした?」
ドス黒い霧は一か所に集中するように集い、光を放ち始め___________。
ノア「テンペスト!パイロットを護れ!」
ノア「テンペストっ!」
ドォォォォォォオォオォォォォオォォォオォォォォォォォオォン
私なりに打ち出した、龍?の力。それがガス状となり、敵の元で大爆発を起こした。
...これが、本当に龍の力なのか?
ノア「ごほ..っ...げ"ほ"っ...」
ノア「何..なの...今の...」
ドレイク「ゴホッ...ゴホ...ッ...おい、新人...今のは...?」
...私にも、何が起こったか分からない。
けど、あれだけ堅牢だった風の防壁は、龍の力を前に搔き消されたかのように感じた。
ノア「ぐふ...ッ...」
猛毒に冒されたような重い呻き声を上げており、恐らく相当効いたのだろう。
...神に準ずる存在に、一矢報いるこの力。これこそが、壁の突破の鍵になるのかもしれない。
BT「パイロット、お見事です」
ドロシー「うん...詠唱が長くなってごめんね」
BT「いいえ、即興で詩を唄う才覚、流石です。司令はあなたを評価するでしょう」
ノア「...図に乗りやがって...っ」
ノア「...お前らぁぁぁぁぁッッ!!」

ドロシー「褒めてくれて嬉しいよ、BT。...けど、続きは私が生きてたら聞かせて」
ドレイク「...おい、お前ら...イチャついてる場合じゃねえ...」
先ほどの、タイタンを押し流すほどの風力。
それが更に勢いを増し、円状に包囲するように展開された乱気流は、私たちの全ての退路を断った。
リージョン「マスター、念のため電磁シールドを再装填します」
BT「...敵の様子に注意してください、パイロット」
あまりにも激しすぎる暴風に、その力の主でさえ逃げ場を失くしていた。
その異様な光景は、これから神でも顕現するのかといった具合だ。
ノア「ミリシアのヴァンガード級パイロット、よく聞け...!」
ノア「今この瞬間から、ここは神でさえ生きて出られはしない...!!」
...いや、違う。彼女は自らあのようにしたのだろう。
我々の退路ごと全てを断ち、ここで殲滅するために。
ノア「...殺す、ここで、全員!!殺す!!!」
...もう、逃げ場はない。
私たちに残されたこの狭い空間では、敵の攻撃を掻い潜るにも限界があった。
至近距離から放たれる術や魔法は防げても、タイタンの剛拳が互いの機体に深々と突き刺さるほどの距離。
互いが放つミサイルや銃弾が、その高熱で機体を徐々に融解する。
痛みや熱さから来る眩暈が、私の正気を奪っていく。
ドレイク「ぐっ...はッ....!」
そして、それは相手も同じだ。
ノア「ごほ...ッ....!」
先輩と敵の、互いのコックピットが次第に赤く染まり、苛烈な勝負を血生臭く物語っていた。
機械のパーツが軋む音、血を吐き散らし、咽るように咳き込む声。機体が擦れ合い、飛び散る火花の衝撃。
ドロシー「先輩っっ!!」
ドロシー「...ぐ...っ....」
...割って入るように身を挺して援護に入っても、奴のタイタンに力で押し返され、全く敵わない。
...今になって改めて気づいたが、我々のタイタンよりも二回りほど大きいその巨体は、私たちの2機よりも遥かに
大きなサイズを誇っていた。
このまま純粋な力押しが続けば、負ける。
ならば....
ドロシー「(遥けき天の咆哮よ)」
ドロシー「(我が両掌に宿りしは 黎明もたらす陽が如く)」
ドロシー「ライトニン...」
ノア「...!」
ノア「させるかぁッ!」
ドロシー「ぐ....あ..っ....」
BT「...パイロット!」
...敵タイタンの猛烈なパンチに機体が大きく揺れ、激しい吐き気がこみ上げる。
...ダメだ。
この距離だと、口に出さずとも魔法の詠唱を悟られてしまう。
単純な殴り合いでは不利を強いられ、魔法で攻めようにもこの距離だと発動すらさせてもらえない。
...万事休す、なのか...。
...もはや魔法もへったくれもない、泥臭く熾烈な殴り合いを前に私は思考を止め、殆ど本能的に殴り掛かっていた。
..............
「一閃」
....
「...殲滅完了、周囲の敵兵は全て斬り伏せた」
...通信機越しに聞こえてくる、冷静な一声。
私の開発した”新型”が、ベクタに跋扈するスペクター達をその一太刀を以て瞬時に切り伏せていた。
我々ミリシアはここ最近の躍進により、彼女の様な心強い戦力を着実に増やしつつある。
ゼーレ「ありがとう、スカーレット。見事な剣捌きだったよ、良いものを見せてもらった」
スカーレット「はは、司令殿のご命令とあらばお安い御用だ。それで...私はこのまま任務続行、かね」
ゼーレ「...あぁ。ガブリエル司令の周囲で引き続き敵兵の殲滅に当たってくれ。これから忙しくなる」
スカーレット「重役の用心棒か。報酬は期待している」
...
モニターのレーダーに目をやると、ドレイクの生体反応が最初の半分以下にまで弱まっている様子が映っていた。
彼女とドロシーの生死は、我々の一打...もとい、勝算の薄い博打に掛かっている。
...

ベクタの地上にまだ残っていた、この大砲。
IMCとの死闘の末か、優に数mを誇るであろうその立派な砲身も、既にボロボロになっていた。
マクスウェル「司令。これが多分一番状態の良い砲台だけど、この位置で大丈夫?」
ゼーレ「問題ない。メインは中の砲弾じゃないから、多少ズレていても構わない」
ゼーレ「ガブリエル司令。そちらの上空では凄まじい規模の暴風が展開されているようだが、今は大丈夫なのか?」
ガブリエル「さっきまでは歩くことすら出来なかったがな...今は範囲外に逃げ込んで何とか、という感じだ」
ガブリエル「それよりも、今我々の上空で何かを囲むように球状に展開されている...あの暴風が気になってな」
...先ほどの報告では、バルカン付近全体が風速15~16m/sを記録していたそうだが、今はそうではない。
現在では司令達の遥か上空で暴風が球状に展開され、一部の空間だけ隔離し囲むように展開されている事から、敵は
恐らく何かを閉じ込めているのだろう。
マクスウェル「...そろそろ取り掛かった方がいいよね、司令?それで、私たちは何をすればいい?」
ゼーレ「あぁ、作戦の概要は_____」
..........
....
「「おい、大丈夫か!!」」
「「二人とも、聞こえるか!!!」」
...突如として耳に入ってきた、通信機越しの叫び声。だが、空を切り刻む暴風や、風を切る銃撃音のせいでよく聞こえない。
もっとも、司令のその必死な呼び声に、返事をする余裕もない。
けれど、撃ち合いを続けながらも必死に耳を澄ます。それが福音であると信じる以外に、希望は無いと思うから。
BT「「こちらBTです、聞こえますか、司令」」
ガブリエル「「...ダメだ、二人の声が聞こえない!!」」
ガブリエル「「リージョン、BT!!お前らのパイロットは無事か!?」」
ガブリエル「「...クソッ、ダメだ!通信が途切れてるのか!?」」
マクスウェル「「司令、エネルギー反応ならまだあるわ!みんながまだ生きてるかもしれないうちに、早く!」」
ラプラス「「マクスウェル、もう準備に入れ!時間が無い!!」」
...
ガブリエル「「...ドレイク、下から何か光みたいなものが見えたら、フェーズダイブの準備を頼む」」
ガブリエル「「...ドロシー、ドレイクに可能な限り近づいてくれ、少しでも事故を防ぐ」」
BT「了解です、司令。味方のタイタンに接近します」
BT「司令、何をするつもりですか」
...フェーズ.....なんとか。どういう意味かは全く分からない。
けれど、それが何かなんて、どうでもいい。何でもいい。
この地獄を、切り抜けられるなら。
ガブリエル「「マクスウェル!ラプラス!準備を!!」」
ガブリエル「「...お前ら...時間を稼いでくれ...!20秒だ...20秒でいい....!」」
ガブリエル「「耐えてくれ...20秒だけ....」」
ガブリエル「「...頼む...!」」
...20秒...稼ぐだけで、この状況をどうにかできる術なんて...どこにも.....
...
「「地に伏す贄を凍てつかし」」
「「万物を戒める者よ 我が元に」」
「「紅き炎を身に纏い」」
「「大地を総て灼き尽くす」」
「「紫電の神槌よ」」
「「天地にその名を轟かせ」」
私たち3人は全身全霊で力を込め、祈りを捧げた。
大空で戦う彼ら彼女らに、この想いが届くように。
「「氷、炎、雷の力」」
「「三位一体」」
地上の方から微かに聞こえてくる、音。
それが次第に近づいてくるのが分かる。
ドレイク「ドロシーっっ!!」
ドレイク「こっちだっ!」
先輩の必死の叫びに、敵タイタンとかち合っていた私はすぐさま後退し彼女の後を追う。
ノア「待…て…」
ノア「逃げ…る…なぁッ゙…!」
ドロシー「BT逃げて!!」
BT「ブースター出力を最大にしています」
BT「あと少しです、あと少し_____」
紅い光が眼前を覆い尽くした、刹那。

引き裂かれた空間の狭間のような"そこ"に、私はいた。
全てが静かで、まるで無音のように感じられた。さながら、瞬時に宇宙空間に放り出されたような、ある種の解放感。
ドレイク「...新人!無事か...!」
この空間は、先輩が作り出したものなのだろうか。
何もかもが静かで穏やかで、何もないこの空間。それが今では、とても安らかな場所のように感じられた。
...あぁ、私はここで______________
ドレイク「......おい!!」
ドロシー「...っ!?」
先輩の必死な呼びかけで、閉じ掛けていた瞼が開いた。
その瞬間、奇妙な異空間...のようなものは私からすぐさま姿を消し、先ほどの暴風渦巻く地獄が、
私の目の前に再び_____________________________
周囲には、全てを拒む台風...ではなく、あの不吉な赤黒い光の、爆発したかのような軌跡が辺りに散らばっていた。
....あっちから、"こっち側"に戻ってきた途端、状況は丸ごと変わっていた。
幾度も続く、激しい大爆発。
...一体、何が起こっているのか....
...分からない。
ドレイク「馬鹿、巻き込まれるぞっ!!そこから離れろっ!!」
.....
先輩のタイタンに引っ張られ、私は力なく、眼前に映る異様な光景を眺めていた。
さっき見たような、赤黒い煙。何度も巻き起こる、轟音を伴なった大爆発。声にならない、奴の悲痛な叫び声。
...これは...龍の...力...?
...
「活動…限界…」
「空中制御…不可…」
「メーデー...メー...デー...」
「しきかん...さ...ま...」
事切れたように気を失い、天から墜落していくノアの姿。....あれほど強がっていた彼女の、最期の姿。
恐ろしい巨大な怪物が、爆炎に包まれ地に墜ちてゆく。
ドレイク「...なぁ、新人」
ドレイク「私たち、あいつ一人にこんなにボロボロにさせられて.....なんで勝ったんだろうな」
ドロシー「...奇跡、じゃないですか」
ドレイク「ハハ...ガブリエル司令達が起こした...奇跡?」
「「...えるか」」
「「聞こえるか!!」」
ドロシー「ガブリエル...司令...?」
...彼の、切迫した声が耳に入る。
音を妨げる風は止み、大きな声が耳に直接入り込んでくる。
ドロシー「...司令、あの、私______」
「「後ろだ...っっ!!」」

「「パイロット、ミリシアのヴァンガード級パイロットを2名検知しました」」
「「無視して。何としてでも、ノアの確保を!」」
「「了解」」
...我々の理解を拒む、あまりにも唐突な出現。
「「私はここで撤退する、総員、戦闘準備を」」
「「空軍部隊に告ぐ!いいか、我々はここで死に...隊長の時間を稼ぐ!」」
「「後続の部隊は、直ちに対地迎撃砲の準備を!!」」
...神は...
神は、この満身創痍の状態で...まだ戦えと言うのか。
空から放たれる、レーザー砲、銃撃、爆撃ミサイル。
BTとリージョンの咄嗟のシールドもその圧倒的な物量を前に、音を立てて崩れ落ちそうになっていた。
暴風でボロボロになった機体は激しくスパークし、もはやいつ"落ちても"おかしくない。
リージョン「パイロット、シールドの耐久値が著しく低下しています」
リージョン「これ以上は守れません」
ドレイク「く...っ...!」
BT「...パイロット、私の機体から脱出して逃げてください」
BT「今ならまだ間に合うかもしれません」
BTの、捨て身の提案。
私はあなたと一緒にここまで頑張ってきたのに、今更見捨てろ、だなんて...。
ドロシー「...そんなの...っ!」
ドロシー「出来ないっっ!!」
BT「確かにこの状況では、脱出は難しいかもしれません」
BT「...いや、訂正します」
「「戦闘配置」」
「「仇敵を撃ち落とせ」」
BT「パイロット、伏せて________」
___________________
「「Dalia"s on station」」
「「空は俺の領域だ」」
「危ない!後ろっ!」
...
「「ナイス援護だ、レナ」」
「へへへ、悪くないでしょ?ダリアさん」
「...あ、ミリシアでは【パイオニアのスノーホワイトさん】だっけ?」
「「...何でもいい」」
...通信機が鳴った。画面には、見覚えのあるポニーテールの子が映し出されていた。
頬には赤い点のような染みがついており、随分"忙しかった"のだろう。
ミアス「やぁ、ドロシーさん。間に合ってよかった」
ミアス「そっちにミリシアの人達が救助に向かってる。...空軍部隊は、僕らに任せてくれて大丈夫だから」
...
ありがとう。それだけ彼らに伝えて、あとは何も言わずにその場を後にした。
私の愛機から聞こえてくる、内部で絶えずスパークする音が彼の限界を物語っていた。
私も彼も、先輩も...もうこれ以上は戦えない。
「「おーーーーーーーーーーーーーーい!!!」」
「「ドレイク、ドロシー!!!」」
...赤い夕陽が刺す、地平線の向こう。
こちらに手を振る、彼ら彼女らの姿が見える。
...あぁ、彼らの呼び声の、なんと温かいことか。
仲間からの歓声を聞く度に、私の居場所はここにあるのだと、心からそう思えた。

簡易的な人物紹介(1~10話)

(3人の中でも分かりやすく、赤い眼と白い髪が特徴。)
メティスの一角。雷の力と、一瞬だけ別の次元に入り込むことが出来る特殊能力「フェーズダイブ」を用いて戦う。
逆張りで、ヴィランを自称することで目立つことが好きだが、周りからは「変な人だけどいい人」と思われている。
戦闘兵としての階級は2等パイロット。単純な殴り合いに特化した攻撃が強いヴァンガード級タイタン、
「リージョン」に搭乗する。
指揮官であるミアス・ウォルターをリーダーとする、空中戦が得意な腕利きの傭兵部隊。
作中では惑星ベクタにあるバルカン帝国に雇われていたが、帝国がIMCに滅ぼされたことでミリシアの一派となる。
- ミアス・ウォルター

404の指揮官的存在。華奢な見た目のため女性に見えるが、男性。
戦艦ヴァルハラの副艦長「マーカス・ウォルター」という父が居たが、既に他界しているようだ。
スノーホワイトは彼の父と親交があり、彼がミリシアに志願したのもそういう不思議な縁あってのことである。
- レナ

404のメンバー。ドロシー曰く「戦場には似合わない、快活で可愛らしい女性」。
実力についてはミアスやスノーホワイトも認める所であり、そのギャップが異質な強さを演出している。
メインエピソード(序)の最終盤でも登場したミリシアの部隊。作戦の救助や支援が主な仕事だが、戦闘力もそれなり。
サブエピソード「再起の祈り」では、彼らに焦点を当てた物語が展開される。
- スノーホワイト

パイオニアのリーダーであり、シミュラクラム。人間だった頃の本名は「ダリア・ヴィンセント」。
IMCに居た頃は戦艦ヴァルハラの艦長だった故に、機械いじりや空中戦を得意としている。
ワケあって現在ではミリシア側についているが、その秘密を知る者は少ない。
- ラプンツェル
パイオニアのメンバー。シミュラクラムで機械化した体で、ミリシアの負傷兵を優しく看護する。
スノーホワイトとの関わりが深い人物でもあり、彼の人間だった時の素顔を知っている数少ない人物。
- スカーレット
(サブエピソードに登場し、メインエピソードでは現在未登場。)

(IMCの宣材写真での彼女。後ろには戦艦が映っている?)
バルカン帝国を滅ぼした、IMCのパイロット部隊「インヘルト」の一人。テンペストというタイタンに搭乗する。
イサベル同様に「神の如き」魔法能力を有しており、四大元素の中でも最高位である風の属性を行使する。
外界からは干渉が困難なほどの暴風を発生させドレイクとドロシーを殲滅しに掛かるが、人為的に発生させた
龍属性エネルギーの大爆発を何度も受け続け、敗北。
ヴァンガード級パイロット2人に加え、ガブリエル、マクスウェル、ラプラスによる連携が無ければ突破は不可能であったと目されており、イサベル以上に影響力の高い特級の危険人物として扱われている。
アンドロイド : 識別名 ノア
主要プロトコル
1 .... .... .....
2.創造主に服従せよ
CPUシステム 再起動中......
....
「ぁぁあぁああぁぁぁぁぁああぁ…!!」
「…ぁ…」
「…夢…か…」
呼び起こされた死の瞬間が、脳裏になだれ込んでくるこの感覚。
コアダストは無事だったが、あたしの機体は死んだのだろう。
ハラン「…おはよう、ノア…。落ち着いて、大丈夫?」
…忌々しい、仲間の声。
わざわざ死のリスクを冒してまで、何故あたしを助けたのか。自分が死ぬことが、
洒落にならない損害になると何故わからないのか。
こんな残酷な世界でいい子ぶるお前の要領の悪さというか、スマートさに欠けるとことか、全てが憎い。
ノア「…あのとき、どうしてあたしを助けたの」
ハラン「…あなたを見捨てたくなかったから」
ノア「ねぇ。あたしはアンドロイドで、死んでも復活できるって事は分かってるよね?」
あたしとイサベルはアンドロイドでも、お前は違う。
お前は人間で、死ねばそれで終わってしまう。
ハラン「…けど!」
ハラン「あの時一緒にいたあなたは、今もここにいる」
ハラン「あなたの魂が一度死んで復活したとして…それは私の知るあなたじゃない」
ノア「そうやってゴマ擦ってれば、またあたしに守ってもらえるとでも思ってる?」
ハラン「…ベクタであれだけ必死に守ってくれたあなたがそんな事言うの?」
ノア「…ッ…!」
あたしがお前を守るのは、指揮官様の命令に過ぎない。
それが善意によるものだと本気で思ってそうなそのツラに、一発お見舞いしてやりたかった。
ノア「…どけ」
ハラン「ちょっと、どこ行くの!?」
ノア「…指揮官様と、イサベルの所に」
ノア「お前じゃ話にならないから」
ハラン「…勝手にしなさい」
部屋を後にし、初めての死を経験してふと思った。
死ねば全て無に帰る恐怖と、
死んでも再び闘い続けなければならない絶望。
どちらのほうが、苦しいのだろう。
…

Semitam vitæ ambulavit Deus, (神は生命の道を歩み)
et semitam sapientiæ ambulavit homo.(そして人類は、叡智の道を歩んだ)
Ragnarok, nomen draconis significat "finem";(ラグナロク、かの龍の名の意味は....)
...ダメだ、あたしの教養レベルだとこれ以上は読めそうにない。というか読む気にもならない。
指揮官様の部屋の天井に書いてある、このデザイン。
変に難解で、変に陰気臭く、そして重厚な雰囲気で、近寄りがたい。
というか、神が生命で人が叡智なら、アンドロイドであるあたしはどっちなんだ。
鬱積したイライラを心の中で毒づきながらも指揮官様の部屋に入ると、イサベルと何やら話をしていた。
ドロシーとかいうやつにタイタンごと破壊されてしまった事を、怒っていないといいけど...
イサベル「あ、ノア。あなたも来たんですね」
ノア「あ…イサベル…その、指揮官様に謝りたいことがあって、来たんだけど」
指揮官様に目をやると、怒っている雰囲気はあまり感じられず、今後のことについて何か話し合っている様子だった。
...嫌な話じゃないといいな。
ノア「...あの、指揮官様、その...」
ネメシス「なんだ」
ノア「あ...えと、ごめんなさい、その、任務に失敗しちゃって」
ネメシス「その件について話す時間はない」
ノア「...え」
指揮官様の遮るような一声で、言いたい事がうまく言えなかった。
ネメシス「お前らに会わせたい人物がいる。来い」
...怒られなかっただけマシかもしれないが、その目はあたしを向いてはいなかった。
言い訳よりも結果を持ってこいという事なのか。...いや、それよりも重要な話があるから、どうでもいいのだろうか。
…
あたしとイサベルは、指揮官様に連れられて奇妙な場所に来た。
そこは培養槽が多く置かれている培養実験室であり、恐らくここでシミュラクラムを生み出しているのだろう。
...隅の方に目をやると、あたしとイサベルの素体がいくつか床に置かれてあった。
バツと書かれたものがそれぞれ10個以上。対して、◯とつけられたものはたった1つずつ。
指揮官様が戻ってくると、隣に細身のロボットを連れ歩いていた。
ネメシス「私はこれから忙しくなる。暫くの間はこいつの指示で動け」
.......
...
??「…初めまして、私はアッシュ。ネメシスが不在の間は私が指揮を取りますので、足を引っ張らぬように」
全身を機械に包み込んでおり、いや...その見た目は人間にも似せておらず、いかにもなロボットといったこの感じ。
だが、彼女の言い放ったその冷徹な言葉には、人が持つ特有の冷酷さや冷たさといったものを秘めていた。
指揮官様は、忙しいとでも言わんばかりに実験室の奥に向かってしまった。
...
プロトコル2 .創造主に服従せよ
「ノア、大変な任務だっただろう。お疲れ様」
あたしが指揮官様を想う気持ちなんて、プロトコルにそう設定されたから...なんて自分でもよくわかってるつもりなのに。
...そんな風に言ってくれたら、よかったのにな。
アッシュ「...おい、お前。何を呆けているのですか?」
ノア「...あ、ごめん。ボーっとしてた、続けて」
アッシュ「...詳しいことは司令室で話します。今後の方針ついでに話しますから、よく聞いて下さい」
.....
ノア「…適合者?」
アッシュ「はい。この世にはどうやら、古龍の血に完全に適合できる人間がいます。極めて稀ですが」
アッシュ「ネメシスはその適合者を使って、何か悪趣味な実験でもしているのだと思いますが」
イサベル「思います…って、あなたはご存知ないのですか?」
アッシュ「そいつの脳を使ったシミュラクラムを作れとまでは言われましたが、それ以上は詳しくは」
…シミュラクラム。
人間の脳そのものを機械の身体に詰めることで、生前の魂を継承できる技術。
指揮官様は、古龍の血に完全に適応できる存在を生み出して、一体何をしたいのだろう。
アッシュ「まぁ、重要な実験で手が離せない彼女の代わりに、私が司令をしに来たというだけですが」
ノア「…ねぇ、ハランでさえまだ完全には程遠いのに、完全に適合できる人間なんて本当にいるの?」
アッシュ「さぁ。昔は神と人間が共存していましたし、天に愛された人間でもいたのでは?」
ノア「…てっきり、あんたは指揮官様の全てを知っているのかと…」
アッシュ「いいえ。彼女の伝手でシミュラクラムになった以外は、ただの仕事仲間ですから」
ノア「...仕事仲間って、あんたは普段何をしてる人なの?」
アッシュ「普段は実験室で、主に魔法の研究と兵器の製造を」
...要は、技術をもたらす科学者、研究者といった人物だろう。
指揮官様から直接指揮権限を渡されているあたり、IMCの中枢人物かもしれない。
イサベル「…あの、実験は今どのような段階なのでしょう」
アッシュ「取り敢えずシミュラクラム化には成功して、その適合者は今ネメシスと一緒にいます。それ以降は私も
知りませんが」
アッシュ「...そうだ、これを渡すように言われているのだった」
彼女から、「M」と書かれた輸血パックを受け取った。...見た目は何の変哲もない、輸血パック。
イサベル「...わざわざ渡すあたり、ただの輸血パックではないようですね」
アッシュ「試験用として支給しておきます。ハランに渡してください」
ノア「...あいつに渡して、飲ませればいいの?」
アッシュ「はい。あなた達の修理費は洒落になりませんが、彼女なら、それを挽回できるかもしれませんから」
イサベル「...それって、どういう_____」
アッシュ「焦ることはありません。前回の任務で、アウトランズからの支援金が増えています」
彼女の口角が上がり、機械の鉄面皮の上から不気味な笑みを浮かべた。
アッシュ「私たちはまだ、攻めるべきではありません。今はただ、待てばいい_________」
...その真理を伺い知るには、あたしは余りにも無知で、何も知らなかった。
...........................
「「私は、彼女を」」
「「彼女を....」」
「「私は___________________」」

私の脳裏に眠る、昔日の記憶。
あれは私が見た幻だったのか、そうではない、確かな現実なのか。
どちらにせよ...私はそれを、諦めたくは無かった。
........
「「...ここは...どこ」」
「「...あなた...だれ...?」」
「「わたし...マリア。あなた...だれ...?」」
...シミュラクラム実験は無事に成功し、機体に意識を移した彼女は永い眠りから目を醒ました。
少なくとも、自分の名前は憶えているようだ...。
実験研究員「陛下、被験体が目を覚ました模様です。如何なさいますか?」
ネメシス「被験体ではなく、マリアだ。間違えてはならん。...それと、しばらく二人だけでいさせてくれ」
研究員「承知致しました、陛下。他の研究員にも伝えておきます」
ネメシス「あぁ...助かる...」
.......
「マリア」
「私を覚えているか」
マリア「...」
マリア「...よく、分からない」
マリア「...ねぇ、そこの人。ここはどこなの?」
マリア「わたし、全身が変な感じがするんだけど、これは何?」
ネメシス「...あなたは、長い眠りから目を覚まし、そして機械として蘇った」
マリア「...機械として、蘇った?どういう意味?私はもう、解放されたの...?」
...彼女が目を覚ましたのも、何十年ぶりだ。
この狼狽えぶりも、別におかしなことではないのだ。
ネメシス「...安心してくれ、ここは私の軍の病院だよ」
マリア「...軍?待って、じゃあ何かと戦ってるの?戦いは、もう_________」
彼女は血の気の引いた表情で頭を抱え、ヒステリックになりかけた。
私は後ろの研究員に精神安定剤の投与を命じ、数値が徐々に安定していくのをしかと見続けた。
...この狼藉。無理もない、起きたら何もかもが変わり果てているのだから。
ネメシス「よく聞いて。今ここに、あなたを傷つけるものは誰もいない」
マリア「じゃあどうして、あの人がいない、あの人は_____」
ネメシス「...エデンのことかな」
マリア「...エデン?」
マリア「その名前、どこかで________」
ネメシス「名前だよ、あなたの愛する人の名前」
マリア「...私の愛する....その人は、エデンって言うの?」
エデン。
永い眠りの中でも彼女は、自分の名前を始め、最愛の人の名前を薄っすらと憶えていた。
...この調子なら、きっと私のこともいつか思い出すだろう。
この情緒不安定な時に、全てを話すにはあまりにもタイミングが悪い。
ネメシス「エデンなら、遠い星で静かに暮らしているよ」
マリア「...星?何か理由があって彼は遠くにいるの?どうして?」
ネメシス「今、宇宙規模で戦争が起きてるんだ。あなたは知らなくて当然なんだけど」
マリア「...じゃあ、やっぱり戦いはまだ....」
ネメシス「...よく聞いて」
ネメシス「...私がこの戦争を終わらせる。そしたら、あなたは彼の元に会いに行ける」
マリア「...あなたが、終わらせてくれるの?」
ネメシス「それには...あなたの理解と協力が不可欠だ、分かってくれるね?」
彼女は何も分からないといった様子で不安そうに、そして静かに頷いた。
ネメシス「だが、私にはまだ1つだけ....手に入れ終えてないものがある」
ネメシス「私に残された、最後の1ピース。それさえあれば、全てが私の望むままに」
ネメシス「それを手に入れるのは、ずっとずっと先のことになるかもしれないけど」
ネメシス「よく聞け、マリア」
ネメシス「我が名はネメシス」
ネメシス「ここでは私のことを、そう呼ぶといい」
........
.....
「がは...っ....」
「ごほ...っ...げほ...ッ」
私はいつも通り、古龍の血を飲まされていた。今回ノアから渡された輸血パックも、いつものように吐き気のする味。
アッシュ「吐くな。貴重な実験用の血なのですよ。全て飲み干しなさい、ハラン。」
医療班「アッシュ司令。彼女にはまだ、刺激が...」
アッシュ「いいえ、目的はあくまでも実験すること。全て飲み干し、その結果どうなったかを記録する必要がある」
アッシュ「だから全て飲み干しなさい。これはあなたの指揮官様からの命令ですよ、ハラン。」
指揮...官......。
...指揮官様が私に会いに来なくなってから、もう一週間が経とうとしていた。
いつもよりも全身が滾り、力が漲り、何かに浸食されるかのようなこの感覚は、初めてだった。
指揮官は、よくわからない実験で何を求めているのだろう...。
......その日の晩は、どうにも眠れなかった。
私は当てもなく歩き回ると、指揮官様の部屋から、中途半端に開けられたドアから漏れ出る光が見えた。
電気もつけずに、寝てしまったのだろうか?そう思い部屋に立ち寄ると、指揮官様が机に突っ伏して寝ていた。
私は指揮官様の顔をそっと覗き見ると、酷い隈が出来ていた。...と、肘の下の方には何かタブレットがあるのが見えた。
日記でもつけているのだろうか?
好奇心からそっと手を伸ばしタブレットを手に取った。
「「実験記録用ノート」」
....実験。
それを覗き見る事に背徳感のようなものが心の中で浮かび上がったが、私の中の好奇心がすぐさまそれを抑えつけた。
充電はあと数%しか残っていなかった。適当にページをめくり、膨大なデータの中から気になるところを探した。
ノートを探していると、私の見たかったものがそこに書かれていた。
〇月×日
...............
..........
...ベクタでの戦いから数日後。司令室にて、新たなる強敵である「ノア」の対策と今後の方針を議題とした会議が行われていた。司令達が眉を顰めながら議論を交わす様子は心が落ち着かないが、私たちに休んでいる暇など無いのだ。
ヘルム「前回の任務では、パイロットらしき人物はノアともう一人。イサベルは誰か確認できた?」
ガブリエル「チーム404は3機のパイロットを目視で確認しましたが、我々が交戦したのはノア1機だけです」
ヘルム「つまり、3人のパイロット+αの部隊だけでバルカン帝国を陥落したと?」
ガブリエル「はい。話を聞いた限りでは」
ヘルム「奴ら化け物ね...ノア1機撃破するだけでもあれだけの戦力を投入してやっとって感じだし、先が思いやられる...」
ドロシー「それに、IMCのことですから...まだ2,3人くらいはバックに控えてると思った方がいいのかなと」
ヘルム「...そうね。イサベルとノアともう一人だけ...って前提だとまずいわ」
ゼーレ「...今回我々が本当に話すべきことは、未来の先を憂う事なのか?」
ゼーレ「もっと建設的な話をしよう。ドロシー、今回勝利を収めたのは何故だと思う?」
ドロシー「ノアを撃破した時に、赤黒い光が爆発したような気がしました。私が撃った魔法でもあるまいし、
あれ一体何だったんですか?」
ガブリエル「あれは恐らく、偶発的に発生した龍属性エネルギーの爆発...とでも言えばいいのだろうか」
ガブリエル「私が氷の魔法を、マクスウェルとラプラスにはそれぞれ炎と雷の魔法を撃ちださせた」
ガブリエル「それを暴風に当てたところ、4大元素が入り混じってああなった....のかな」
つまり、炎、氷、雷、そしてノアが打ち出した風魔法の4元素が入り混じった結果、龍属性の爆発が起きた...
ということなのだろうか?
しかし、それだけで龍属性が発現するなら、これまで人類史でこのような力が何故利用されなかったのだろうか。
ノアの堅牢な風のバリアはあの魔法で瞬時に破壊できたし、かなりパワーのありそうなエネルギーではあると思う。
ゼーレ「その情報を基にうちで何回か実験をさせたところ、赤黒い光や稲妻は見られなかった」
ゼーレ「これは私の完全な予想なんだが、龍属性の発現には4大元素に加えて何かもう一つの要素が必要なんじゃないか?例えば、イサベルに見られたような特殊な体液や血が必要...とかね」
ヘルム「確かに、ノアもイサベルも強大な魔法を行使して、天候に干渉する力を持っているという点で一致するわ。
ノアがあの血を持っていてもおかしくはない」
ガブリエル「なぁ、その龍属性ってのは、具体的にどういう力なんだ?分かりやすい炎や冷気に比べて、
いまいちイメージがつかないんだが」
ドロシー「..うーん。私なりに赤黒い稲妻を詠唱した時なんかは、ノアが展開していた風のバリアが剥がれた気がしました」
ガブリエル「それと、私たちが暴風に向かって魔法を撃ちだした時も、大爆発を起こして乱気流は跡形もなく消え去った」
ガブリエル「...まさかとは思うが、他の属性魔法を掻き消す力...とかか?」
ヘルム「属性を掻き消す属性...まるで、上位種族がこれ見よがしに持ってそうな力ね」
ゼーレ「実験してみない事には何も分からないままだな」
3人は深く思慮した後に、ゆっくりとこちらに目線を配った。
ヘルム「...ドロシー、今日の午後なんだけど。時間ある?」
ドロシー「あ...」
ガブリエル「私も少し気になる事が」
ドロシー「...ハハ...」
ゼーレ「ドロシー。君には我々のリソースを大量につぎ込んでいるんだ」
ゼーレ「分かるね?」
ドロシー「...ハイ」
...この日、私の一日は最悪だった。
午前中は狭くて暗い部屋で上司3人と堅い会議をし、午後は龍の魔法を用いた実験を日が暮れるまで行った。
...この専用スーツがなければ、こんだけ魔法を連発なんて出来やしなかっただろう。
ありがとう、マクスウェル博士。
...昨日は散々な日だったが、いろいろな議論と実験を重ねて、私たちは私たちなりの予想、および結論を導き出した。
まず、実験から得られたこと。
- 私が打ち出した龍属性は、実際に他者の炎や冷気と言った魔法を掻き消す力があること
- 4大元素だけでは龍属性は一切発現できなかったこと
- しかし、4大元素が融合した際に私の魔法が含まれていると、必ず龍属性の爆発が観測できたということ
以上の事から、4大元素がぶつかった際に龍属性の爆発が生じたときは、誰かが特殊な力を持っているから、
特殊な力が混ざったから、と考えられる。
現状そのパターンに当てはまるのは私とノアだけであり、ノアのあの圧倒的な魔力を考えると、彼女もまた「特殊な血」
を持っていると考えられるだろう。
...いろいろな発見が得られた一方で、また疑問点も生まれた。
龍の力は、本来では古龍ラグナロク(とその血統)しか使わない、使えない力とされている。
あくまで口伝や文献ではそうとされているだけ、と言えばそれまでだが、
ここまで神々の様な力を行使できる存在がそう多くいるものだろうか?
イサベルもノアも、何か神の要素やその一端を手にしている、あるいは掌握しているという事なのかもしれないが、
ただのアンドロイドが神の如き力を振るうのは、何がそうさせているのだろうか?
考えれば考える程に何も思い浮かばず、ノアの最期の言葉を思い出す。しきかん、さま…
そいつが、何か裏で手を引いているのだろうか?
……
「おーい、ドロシー?深刻そうな顔してるけど大丈夫?」
「そりゃあんな化け物相手にしたんだし、それでピンピンしてる方がどうかしてるよ」
「忙しいだろうに、急に来て頂いて申し訳ない…ドロシー」
…チーム404。ノアとの激闘の後、ミリシアの正式な一員となった祝いとして彼らの部屋にお邪魔していた。
チーム404と言っても、その数はレナ、レイヴン、ミアスの3人だけだった。
私はそれを言えずにいたが、あの時のノアの出現によって、何人もの仲間が犠牲になったのだろう。
ドロシー「…あ、ごめん、レナ。ちょっと考え事してた」
レナ「なんかさー、これからの未来を憂いてたというか、そんな顔してたよ?」
ミアス「君とは違って一等パイロット様だからねー、いろいろあるでしょ」
レナ「いや、私だって割と凄腕の方なんだけど?」
レイヴン「2人とも、ちょっと静かにしてくれ...ドロシー、砂糖は抜いておいた」

ドロシー「ありがとう、レイヴン。それで、さっき言ってた悩みって?」
レイヴン「えっと...しょ、初対面の人に言うのもどうかと思うんだが...私、目標とかが見つからなくて」
レイヴン「その、みんな何かの為とか、何か戦う大義みたいなものがあって、うらやましいなって」
ドロシー「大義かぁ...私はただ捜してる人がいるから、その人の為に戦ってるってだけだけどね、ハハ」
レナ「生き別れたお姉さんがいるんでしょ?もし見つかったらどうするの?」
ドロシー「多分だけど、IMCとミリシアの抗争が終わるまで戦い続けると思う。巻き込まれて欲しくないから」
3人から、おぉ...という感嘆の声があがった。
レナ「...なんか、戦う理由までかっこよくない?」
レイヴン「戦うに値するだけの理由とその覚悟...格好いい...」
...別に、私はただ目標に向かって泥臭く足掻くことしかできないから、そんな目で見ないで欲しい。
レナ「...私も、ドロシーみたいな1等パイロットになれたらなぁ...」
ミアス「そういえば君、いっつもパイロットになりたいなりたいってうるさいけど、なんかあるの?」
レナ「いやー、ぶっちゃけ高給取りじゃん、パイロットって」
ミアス「いや、結局金かよ!分かるけど」
レナ「それに、折角ミリシアで働かせてもらえるなら、やっぱキャリアアップして資格取りたくない?何よりカッコいいし」
レイヴン「なかなか現金な事を言うんだな」
レナ「だってさー、金がないと何も始まらないでしょ?」
…90%。
パイロットを夢見る候補生達のおよそ90%は、昇格してから一年以内に命を落とすとされている。
彼女の発言は現金な人のそれに見えて、あまりに先が見えていない。
ドロシー「…それ、本気で言ってる?」
レナ「え?うん。やっぱり世の中金でしょ?」
ドロシー「…司令達にその話通しておくから。来週から私の所に来て」
レナ「え…え?」
ミアス「おー、一流のパイロット様直々に推薦してもらえてよかったじゃん(笑)」
レナ「え…あ、いきなり過ぎない!?大丈夫!?」
ドロシー「まさか、本気じゃなかったの?」
レナ「あ、いや…割と本気…だけど…」
チーム404。傭兵稼業が務まる程のエリートであり、ミリシアからしても失うことは是が非でも避けたい貴重な人材。
だからこそ、パイロットの現実を知ってもらわないといけない。あなたですら、特別な存在ではないのだと。
ガブリエル「レナ、準備はいいか?」
レナ「はい、いつでもいけます!」
ガブリエル「シミュレーションタイプa...スペクター兵5体をシステムに再構築」
ガブリエル「パイロット適正試験、始め」
レナ「ふん、こんな奴ら見飽きたよ!」
彼女は慣れた手付きで銃を構え、放たれた弾丸がスペクターの頭部を貫き速やかに無力化していく。
見事な腕前だ。銃の扱いは私より、彼女の方が優れていると言える。
ガブリエル「いいスコアだ。次はスペクターの強化兵、リーパー3機とスペクター5体だ。いけるな?」
レナ「射撃なら朝飯前ですよ、司令!」
ガブリエル「いい返事だ。では始め」
カチャッ
ドドドドドドッ
彼女は背中のボルト銃にすぐさま手を付けた。
鈍重なその兵器は強力な火力と防御力を持つが、電撃で内部から無力化してしまえば恐れるものではない。
リーパーを直ちに機能停止にさせた後に、閃光手榴弾を上空に放り投げた。
ガブリエル「数的有利に物を言わせず広範囲をカバーする的確な判断。流石だな」
ドロシー「対多数における立ち回りは文句ないと思います。そろそろ次の段階に行きましょうか」
「「警告。ロード級タイタンを2体検知」」
「「必要に応じて速やかにテストを中止して下さい」」
ガブリエル「え…2体だと?」
ドロシー「はい。彼女の場合、格下を速やかに狩る能力に優れますが、タイタン相手にそれが続くかどうか」
ガブリエル「…テストを続行するかは私が判断する。いいな?」
ドロシー「はい、構いません」
カチャッ
ドドドドドドッ
彼女はボルトを構え、片方を速やかに停止させた。
しかし、タイタン程の耐久力であれば、暫くしてまた起き上がるだろう。
レナ「時間勝負なのは…分かってるよッ!」
電撃で全身を麻痺させよろめく一基をよそに、
もう片方の足元に大量のグレネードを放り込んだ。
足元の激しい爆発に足を取られ、敵機は背中のコアを天に向けてうつ伏せになっていた。
レナ「後ろがガラ空きだよっ!」
彼女は躊躇なく両手を突っ込んで重いコアをすっぽ抜くと、速やかにその場を離れた。
ドォォォォォォォォォォン
抜け殻の大爆発を見届けると、再度動き出した敵機の誘導ミサイルが顔面に放り込まれているのが見える。
レナ「うわっ!」
ドドドドドドドドドドドドドッ
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォン
レナ「危なっ…死ぬかと思った…」
レナ「ちょっとドロシー!私を殺すつもり!?」
ドロシー「体術習ってるんでしょ?ならこれくらいは躱せないと」
レナ「はぁ全く…一等様は容赦ないなぁ…」
ガブリエル「けど、実際まだまだやれるよな?」
レナ「勿論です!最後まで見てて下さい!」
彼女は元気そうにこちらに笑いかけ、誘導ミサイルの正確な誘導を逆に利用した。
ドォォォォォォォォォォォォォォン
ミサイルの強烈な爆風は背中に派手にブチ当たり、コアもろとも大爆発した後に動かなくなった。
レナ「どうです?今の完璧な誘導!ボルトの弾がもう無くなったから、作戦を変えたんです!」
ガブリエル「いい判断だった。歩兵としての試験は合格と見なしていいだろう」
その結果をさも当然かのように振る舞う彼女を横目に、司令に一つお願いをした。
ドロシー「(…司令、少しお願いが)」
…
ガブリエル「(…分かった。レナにはBTを貸せばいいか?)」
ドロシー「(はい。その分、本気で行って下さい。彼女が格上相手にどう立ち回るか見てみたいです)」
ガブリエル「(なるほど、了解)」
「「これより最終試験を行います」」
「「各自位置に着いてください」」
BT「初めまして、レナ。私はBT。今回は私がサポートします」
レナ「えーっ、一等様のタイタンだよね!?いいの、私が乗って?」
BT「私には大量の戦闘データがあり、そこからあなたの適性度合いを適切に演算することが可能です」
レナ「なるほどね…で、お相手のことなんだけど」
ガブリエル「最終試験は私が担当する。ボディも新調したことだし、丁度いい相手になるといいんだが」
レナ「司令、あなたが相手なんですか?」
ガブリエル「何も殺しはしないさ」
レナ「いや、そういうことじゃなくて!」
「「最終試験、始め」」
レナ「(…BT、ドロシーにいろいろ教えて貰ったから、基本的な操作方法は知ってるよ)」
BT「(了解です。ガブリエル司令は冷気の魔法を織り交ぜた連続攻撃が特徴です。適切に対処して下さい)」
レナ「(魔法…一等様と同じね…)」
ガブリエル「いけるよな、相棒?」
フロスト「いつでも行けます、マスター」
レナ「BT、電磁なんたらシールドとミサイルを装填!」
BT「…電磁シールドです」
レナ「あっ、それそれ!で、ミサイルで魔法を吹き飛ばして!」
司令は何かを速やかに詠唱すると、タイタンからは勢いのある水流が、上空からは氷の弾丸のようなものが上空から放たれる。
レナ「ちょっと司令、BT相手に水鉄砲なんてやめてくださいよー」
BTはその堅牢なシールドで水流と弾丸をまとめて受け止め、氷弾は爆発するように足元に散らばってゆく。
BT「レナ、足元に気をつけて下さい」
レナ「ん?」
BT「…足を取られて動けません」
先程の氷弾は床に撒き散らされた水分と結合し、辺り一面に強烈なアイスバーンを形成していた。
BTの足元には堅牢な氷の膜がピッチリと張り付いており、試合開始から僅か数秒で両足の自由を奪われていた。
レナ「え、ちょ...いきなりそんなのってアリなの?」
タイタンの足元を固めるほどの強固な凍結を前に、彼女はどうすればいいか分からないといった様子だ。
レナ「...BT、パンチかミサイルで氷を剥がして!」
BT「了解です。ですが、司令は既に魔法の詠唱に入っています」
レナ「...え?」
「「滄溟たる冥海よ」」
「「其の波濤の限りを尽くせ」」
「「メイルストーム」」
BT「...また新しい魔法を習得しましたね、司令」
BT「感服で...す...」
巨大な激流を真正面から浴びたBTとそのパイロットは床に倒れ伏し、凍り付いて既に動けない状態になっていた。
レナ「これ...が...魔法...」
程なくして、彼らは医療班に運ばれる事となり、病院送りとなった。
私はあえて司令を対戦相手に指名し、レナのパイロットとしての可能性を潰した。
しかし、実際の戦場ではこれ以上に大規模で凄惨な魔法を立て続けに浴び続ける事となる。
貴重な戦力を失うくらいなら、これで良かったんだ...と自分に言い聞かせ、彼女の見舞いに向かった。
.....
「あ...ドロシー。ごめんね、こんな無様な...ハハ....」
ベッドに横たわる可愛らしい女性は、普段の彼女からは想像もできないような繊細な雰囲気を醸していた。
レナ「...ねぇ、ドロシー。司令の魔法、凄かったんだよ...まるで、邪悪なものを打ち砕くというか」
ドロシー「...神々しいって言いたいの?」
レナ「あ、うん...なんというか、私にはあんな魔法使えそうにないし、実際はこんな風に耐えられないだろうなって」
彼女はエリートでありながら、生身の人間に過ぎない。体が丈夫で荒事に慣れていて、
パイロットとしての技量に長けるというだけでは、IMCのあの神々の如き化物達と渡り合うことは出来ない。
強大な魔法を使えるということは、それだけ戦術の幅も大いに広がり、到底覆せない大きな差を生み出すということ。
魔法使いを相手に魔法も無しに挑むのは、銃を持った相手に丸腰で突っ込む様なモノだからだ。
レナ「私もパイロットになれるって思ってた。けど、全く実はそんなことなかったりして、ね」
レナ「...ねぇ、ミリシアのパイロットって、みんな人間じゃないんでしょ。ガブリエルさんも、メティスの人達も、貴女も」
レナ「みんながみんな特別で、まるで戦いの為に生まれてきたような...そんな才能を持ち合わせていて」
「そんなことないよ、あなたもきっと一流のパイロットになれるよ」
...軽率にそう言えるほど、私は無責任ではない。レナがパイロットを志す限り、私は彼女の上官であり、
上官は部下を導いて面倒を見る責務がある。
ドロシー「...そうね。ミリシアのパイロット5人は、私を含めて全員「特別な存在」と言っていい」
ドロシー「ガブリエル司令とメティスの人達は、アンドロイドでほぼ全身が機械。そして、私は神の子孫にあたる」
レナ「...神...」
その瞬間、彼女の顔から血の気が引き、顔が青ざめていくのが分かる。
レナ「...ハハ...やっぱり...私なんかじゃ肩を並べて戦うなんて...できっこないよね...」
レナ「ごめんなさい、パイロットになりたいとか...軽率な事言って」
...人から疎まれるのは慣れているつもりだったが、この落胆と失意が入り乱れたような表情はどうにも慣れない。
けど、彼女を無責任に戦場に放り出して無駄死にさせるよりかは、きっとずっとマシなハズだ...。
レナ「...ねぇ、もうすぐ治療が終わるんだけど」
レナ「今日はミアスのところに帰りたくない」
ドロシー「どうしたの、急に?」
レナ「2人はね、私がパイロットになるつもりでいると思う。けど...こんな調子じゃ顔なんて合わせらんない」
ドロシー「...分かった分かった。じゃあ、私の部屋を貸すから。よかったら来て」
レナ「...いいの!?」
ドロシー「別にあなたのことは嫌いな訳じゃないし、構わないよ。けど、これだけは覚えておいて」
レナ「はい、はい。なんなりと。なんなりと...仰ってくださいまし」
彼女は気分が上がるといつもこうなのだろう。調子のイイ奴は気に入らないが、なんだかいつも楽しそうで、
不思議と嫌いにはなれない。羨ましいとすら思う。
ドロシー「あなたはパイロットを誇り高き存在だと思ってるけど、それは違う」
レナ「...うん」
ドロシー「パイロットは、決して選ばれし者の為の晴れ舞台なんかじゃない」
ドロシー「パイロットはね、選ばれし者たちの死に場所なの」
レナ「死に場所、か....」
.....

アンティークで古めかしくも上品なアイテムが揃っており、彼女の趣味が伺える部屋だった。
壁に掛かってある古時計は既に壊れているのか、時折過去を遡るように針が逆方向に動いていて正確な時刻が分からない。
部屋の隅にあるオルゴールからは、まるで病院で流れているかのような優しい音楽が流れていたが、なんという曲だろう。
レナ「これ、なんて曲?」
ドロシー「あ、これはね...シューベルトの「子守唄」って曲。それのリメイク版なの」
シューベルト。音楽の教科書でしか見たことがない、もう1世紀以上も前の人物。
レナ「それ、大分昔の人の作品じゃない?渋いねぇ~...」
ドロシー「うん、私のパパが大好きな曲だったから。ちょっと旧いんだけどね」
レナ「へぇ、ドロシーのパパか...」
普段パイロットとして戦績を挙げ続ける彼女からは、全く想像もできない作りの部屋だった。
窓から差し込む月明りを見て、夜がこんなにも更けていたことに気が付いた。もうそんな時間になったらしい。
.....
「「眠れ 眠れ 愛しい我が子 母の手で揺られながら 優しき眠りへ 穏やかなまどろみへ
母の揺り籠の中で」」
「「眠れ 眠れ 心地よい墓の中で....」」
「「えーと...心地よい墓の中で....何だっけ....」」
「パパ、どうしたの?」
「「思い出せないんだ...子守唄の...2番以降が....」」
「ねぇ、その曲ってほんとうに2番以降もあるのー?」
「「あるはずなんだ...間違いなく...」」
「ふーん」
...パパ....
...会いたいな...
ドロシーのすすり泣く声が耳に入り、目が覚める。よく聞こえなかったけど。今、パパと言ったのかな?
彼女のその特異的な強さや、癖のある出自や経歴には驚かされてばかりだったから、惑わされていたのかもしれない。
彼女は本当は、ごく普通の女の子なんじゃないかって...
私はその時、ふとそんな気がした。

「「1人の英雄の為に、99人の有象無象がいる」」
...IMCではお決まりのポリシーであり、戦果の殆どは一部のエリート達によってのみもたらされるという、
指揮官様が信条としている考え方である。
指揮官様は暗黙の了解をあえて言い放った後に、言葉を続けた。
「私の講演まで来て頂いたことに感謝申し上げる、同志よ」
「我々IMCは、一つの実験の完遂によって大きな一歩を踏み出すことに成功した」
「シミュラクラム実験。諸君らも耳にしたことがあるだろう、人間の脳を機体に移植する実験だ」
「かつて人類は、神である古龍ラグナロクと激しく争い、互いに深く傷つけあったことは知っているかな」
「...血の完全適合者、マリア。彼女はその戦争の生き残りだよ」
「IMCは彼女の脳を別の機体に移し、その魂と記憶を継承することに成功した」
「ここで重要なのが、マリアの血によってインヘルトは更なる力を得たということ...。」
「我々の目的は、フロンティアとアウトランズを完全に支配することである....が」
「ここで一つ問いたい。他者や他国を支配し、掌握するには何が必要だと思う?」
「...その通り、圧倒的な力だ。」
「人々は神々と争った後に、生存圏をここフロンティアに移行して尚、人類同士で果てしない争いを続けている」
「故に、それらを全て抑えつけ、支配し、我々が繁栄するには圧倒的な力で黙らせるのが最も手っ取り早い」
「そしてその手段が揃った今、IMCの目的は完遂されようとしている」
「...IMCに携わる全ての同志に告ぐ」
「想像を絶する力を以て、秩序を取り戻せ」
「手段は問わない」
「IMCに、幸あらんことを」
........
...

「全ての尽力は、大いなる栄光の為に」
「ミリシアに属する全ての人々に、勝利の女神の微笑みを」
ミリシアに属する全ての人々の弛まぬ努力によって、良き運命は訪れる...という、このスローガン。
今日はミリシアの創立記念日。総司令と司令2人が前に座り、大規模な公演を開いていた。
「...来てくれて感謝するわ、ミリシアの皆さん」
「私たちは、ここに来るまでにとても大きな代償を払い続けてきた」
「それと同時に、大いなる未来への...可能性を手にしようとしている」
「我々はベクタでの戦いで、パイロットの候補生を数多く編入することに成功したわ」
「これは、バルカン帝国とミリシアが互いに歩み寄り、結託した全ての人々の努力あってのものよ」
「ありがとう」
「そして我々も、尽力の果てにIMCの支配下にあった惑星を次々と奪還することに成功したわ」
「私たちの長かった冬は明け、IMCからの支配から脱却する日々が見えてきたということ...」
「ミリシアに与する全ての人々に心より感謝を」
「ミリシアに大いなる幸あらんことを」
「ガブリエル、ゼーレ。二人とも、何か言いたいことはある?」
「特に無いよ、総司令。素晴らしいスピーチだったからね」
「では、私から一つだけ」
マイクはガブリエル司令に渡り、彼はゆっくりと口を開いた。
「長くなるのもアレなので、一つだけお話させて頂く。内容は、私の夢について...だ。」
「私の祖父母を含めた多くの人々は、ラグナロクとの戦いで命を落としたと聞いた」
「私はそれから神を恐れ、魔法を覚えることに専念した。神に抗う術を身につけたかったからだ」
「だが叶わなかった。人々はここフロンティアで大規模な戦争を起こし、それどころではなくなったからだ」
「しかし、それは全く悪いことではなかったんだ」
「フロンティア戦争を続ける内に我々は敗北と勝利を繰り返し、いつしか転機が訪れた」
「そう、新型アンドロイドであるメティスの開発と、新パイロットであるドロシーの参入だ」
「特に、一等パイロットであるドロシー...彼女が神の血統であることはみんな知っているかな?」
その時、周辺がざわつき始めたのが聞こえた。私が神であるという事実は、上層部以外にはあまり知られていない。
「彼女はラグナロクの子孫でありながら、自身の目的の為に我々人類と手を組むことを選んだ」
「神と人間 私たちは結託しているようで、共通の目的で繋がっているに過ぎないのかもしれない」
「だが我々は今、共通の目的を持ち共に戦う仲間として、対等な状態にある。少なくとも、今はそれだけで十分だ」
「...いつか、人と龍が互いに歩み寄り...心から分かり合える日々が来るのなら...」
「多大なる犠牲が、無駄ではなかったと言える日々が訪れるのなら...」
「輝かしい未来を見届けるまで、この地獄を突き進み続ける」
「我々の存在は、意味があるものだと証明する為に」
彼は私を一瞥すると、こちらにふっと微笑みを見せた。
「神に向かって、そう誓うよ」
「聞いてくれてありがとう、みんな。今此処にいる者達に、大いなる幸あらんことを」
.......
IMCとミリシアの、存続を賭けた争いは...
いつしか終わりを告げる日々が、来るのだろうか。
人々はこの争いの中で何の為に生き延びて、何の為に戦うのか。
ある者はこう答える。人と龍が手を取り合い、共に生きる日が来るのをその目で見てみたい、と。
またある者はこう答える。これも生きる為だ、と。あるいは、金の為、復讐の為、故郷へ帰る費用の為。
人によって実に様々だが、私の場合は....
あの後レナの試験は見送りとなり、ひとまずはパイロットの初歩的な訓練だけ軽く済ませて休憩を取ることにした。
殺伐とした戦闘とは程遠い、長閑な雰囲気だった。こんな日、何時ぶりだろうか。
BT「1枚の写真を受信しました」
レナから送られてきたその写真は、雄大な大空を見事に映し出していた。
ドロシー「わぁ…」
BT「悪くない1枚です」
ドロシー「空がこんなに綺麗だってこと、いつも死ぬ気で戦ってたから気づかなかったなぁ」
BT「私には似たような写真が何枚か保存されています。データベースから検索できます」
BTは、こんな光景見飽きたとばかりに画像フォルダを開き始めた。
そこにはガブリエル司令とのツーショットや空の景色、夜空から見える星々の写真が何枚か映し出されていて、
彼との思い出が伺える。
ドロシー「ねえ、司令とはもう長いの?」
BT「はい。750日ほど前にリンクしました。彼は今でも素晴らしいパイロットで、良き友です」
およそ2年近い付き合い。タイタンにここまで豊かな感情が備わっているのはBTくらいだが、
2年も相棒と共にいると心持ちも変わる…ものなのだろうか。
レナ「おーいドロシー、またまた小難しそうな顔しててどうしたの?」
レナ「ちょっと付き合ってよ。見たいものがあるから」
ミリシアの本部、アークの近くにある大通り。様々な店が並んでおり、故にいつも人が多い。
「おっ、ありゃウワサのドロシー様じゃねえか?」
「見て、ドロシー様よ...。勝利の女神と謳われた、あのドロシー様」
「知ってる?ドロシーさんってあのラグナロクの子どもなんでしょ?どうしてミリシアに就いたんだかねぇ」
「ガブリエル様の公演を聞いたか?彼女とミリシアは協力関係にあるんだとよ」
「神様が我々と手を組んで一体何のつもりなんだ...?まぁ、今は敵対してないだけ、マシか...」
...そして、私の苦手な場所だ。人間らは私を好き勝手に恐れ、崇め、変なイメージを作り上げる。
「誰かから称賛を受けるだけじゃない 人の上に立つということは また別の誰かから罵倒を受ける矢面に立っている」
ラプラス先輩の言葉を思い出す。メティスの看板である彼女も、こういう気持ちを背負って戦場に赴いているのだろうか?
レナ「...ドロシー、こっちの道から行こっか」
彼女は何かを察したのか、人通りの少ない道を選んでくれた。
ドロシー「…なにこれ?」
レナ「魔法のピアスだよ、知らないの?」
彼女が目を輝かせて選んだそれは、一見何の変哲もないピアス。
小さい宝石のような装飾が施された美しいピアスだが、それだけ。
ドロシー「…これのどこに魔法の要素があるの?」
レナ「え、だって普通のピアスとは全然質感が違うでしょ?魔法みたいに綺麗だと思わない?」
レナ「それにね、これには魔力を多く含んだ石が使われてて、ここを媒介に魔法を使う事もできるの」
多くの人は自身の血や肉体に含まれた魔力を媒介にその力を行使するものだが、
これはどうやら外付けの魔力媒介器官、の要素を兼ねたアクセサリーであるらしい。
ドロシー「一つ4000クレジット…か」
私には必要ないものだからか妙に高く感じる。けど、彼女にとっては相応に価値があるものなのだろうか?
ドロシー「あ、戻ってきたね。私は特に欲しいものないけど、もうちょい見てく?」
レナ「うん、最後にちょっと選んでほしいんだよね」
彼女がいくつかのピアスを私に見せる。私はなんとなく、赤色のものに指を指した。
会計を済ませ包装から中身を取り出した彼女は、ピアスを一瞥した後にまじまじと私を見つめだした。
ドロシー「...ねぇ、あの、なに?」
レナ「うーん、ちょっとこのピアスつけてみてくれない?」
彼女の腕に引っ張られ、私は鏡に映る自分の姿を見た。自分で言うのも何だが、ピンクの髪に赤いピアスが
よく似合ってるな...と思った。
レナ「お、私より似合ってんじゃん、どう?気に入りそう?」
ドロシー「...うん、凄く」
レナ「あ、すみません。もう一個ください、自分用のです」
....
レナ「こういうのペアルックっていうんだけど。悪い気はしないでしょ?」
ドロシー「...なんか、こういうのっていいね」
レナ「ん?」
ドロシー「なんか、誰かとこういう事とか、今までしたことなかったから」
ドロシー「その、いいなって」
レナ「...人間嫌いのあんたから、まさかそんな言葉が出てくるとはね」
ドロシー「何よ、からかってるつもり?」
レナ「いや、意外だなって。...いい意味でね」
レナ「...さて、訓練の再開前にご飯でも食べていくかな。今日はマックの気分かも」
ドロシー「...あの、さっきのピアスの4000クレジットなんだけど。後で渡すね」
レナ「ん?あー、4000クレジットなんて気にしなくていいから全然大丈夫!その代わり、貸し1ね!」
ドロシー「ちょ、貸し1ってなに!」
レナ「私にハンバーガーセット奢りの刑!」
ドロシー「いや4000クレジットだよ?ハンバーガー程度じゃ悪いって!」
レナ「あー、じゃあ今度服でも身に行こうよ!私の好きなブランド品があるんだけど」
ドロシー「いくら?」
レナ「10000行くか行かないかぐらい!」
ドロシー「桁増えてるし...」
レナ「ま、細かいことは置いといて。お腹すいてきたし、早く行こ!」
....
BT「あなたが誰かとツーショットを撮るだなんて珍しいですね、パイロット」
BT「一応、私のクラウド上にも保存しておきます」
BT「パイロット候補生、レナ。あなたにとっての初めての友達___と記憶しておきます」
私には多くの戦友がいる。しかし、戦場という枠組みを超えた友達は、今の今まで一人も居なかった。
このよく分からない、形容しがたく...されど暖かい、心の奥底で芽生えるこの気持ち。
私を対等な友達として見てくれて、好いてくれる人がいるのなら。例えそれが、私の憎んだ人間だとしても。
少なくとも彼女は、私にとって大切な人だ。
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