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しんぴごろし
己ら『の』非現実なぞ知るか。
神秘に対する絶対的な敵対者。天然、且つ純粋培養の退魔師――無明の死刑執行人。
神秘を「分からない」まま殺すことを許された、極限の全能をも致死ならしめる不可知論の殺戮者。
秘転と同様に人の胎から生まれ、人として育つ。神秘の先天者という点では秘転と共通しつつ、神秘戮しは秘転と比較にならない神秘を以て生まれる。
それが、説明がつかず、理由を持たない、分からないものを滅ぼすことを可能とする力で、当人らをして「都合がよすぎる、辻褄が合っていない」とも云われた、神秘に対する絶滅装置じみた眉唾である。
彼らは人から出でながら不老の存在であり、個体差があるものの、その不老を示すのは20代前半から30代半ばまでのいずれか。肉体成長の停止による違和感は時間の経過に伴って顕在化し、露見した時点で多くはネガティブな反応を招くことになる。その後は、環境に殺されるか、人目を忍ぶ隠者になるか、未回圈を渡って他の区界へ旅立たざるを得ないか。いずれにせよ、常人としての生を失う。
苦難はこれに収まらず、神秘戮しは秘転と異なり、その力を行使するまで自らの正体を知ることは不可能。つまり、神秘に居合わせ・かつ滅ぼす理由があり・それが滅ぼせるものでもない限りは、決して出自を知ることが出来ない。
ただでさえ神秘、無明の領域は極少に収まるのが常。神秘戮しが自らの真実を知るためには、運を求められる。これらの事情から、自らを超常であると知った上で生き延びる者、真に「神秘戮し」と呼べるものは、概算100年の中で1人居るかどうか。
ましてや、対応策を越えて「理由のない」ものと対峙し、生存を掴み取ることは困難である。いくら絶滅の権利を有していようと「分からない」ものは分からないのだから、その領分を越えることは出来ず、身を滅ぼすことに繋がる。ゆえに神秘戮しとして大成し、不老の中で生きる者はさらに一握り。
その中で、現在古参と呼べる者は『魔術師』ウルクォ、『竜追い』アスバル、この両名のみ。
共通項として「常に区界・大圏界を渡り歩いて」おり、ひとつの場に留まっていない。前者はその生で絶えず神秘を無へ至らしめ続ける天与と生粋の『神秘戮し』であり、後者は竜を追い続けた果てに生まれた寓話の原点。どちらも伝説と謂うべく存在で、後者に至っては西界の誰もが知る昔話である。*1
……以上に見られる超常的先天と共に生を受けるが、人の胎から生まれ、人の身体を持つことから、言わずもがな規格は人のそれに過ぎない。
加えて、『霊感』を獲得する条件*4を有しながらも、いかなる理由か-LOGYおよび-ASSEeYEを決して発さない。これが秘転との大きな相違点であり、要するに、神秘戮しは(不老を除き)常人としての土俵で戦わなければならない。
だからこその『概算100年の中で1人居るかどうか』で、これが生存の困難に拍車を掛けている。
魔法使いに勝るとも劣らぬ神秘にありながら末席著しい秘転とすら比べようのない非力は、神秘戮しという無明を人たらしめる……人由来の無力感を招き、神秘への敵愾心を効率的に誘発させる……ための設計だと神秘戮しに通ずる学者は語るが、「説明がつかない」以上は推測にすら満たず、反作用、調停者、スタビライザー、そのいずれにも当て嵌められない。
魔法使いのように意義を持たず、神秘のように理由のない、同じくして「どうでもいいもの」であり、それらの絶対的な敵対者とする大枠は無明領域の「余剰」を思わせるが、総じて愚問。
単に、神秘を殺すものである。そうでなければ、神秘を戮せるはずがないからだ。
種としての寿命は存在しないが、多くの神秘戮しが環境と、乗り越えた先の「分からない」で命を落とすことによる事実上の『平均寿命』は存在する。世界自体の環境の劣悪さや、区界を渡る難度を考慮した上で弾き出される数字は悲惨なものであり、その長命にも関わらず60にも満たない。
そうなれば、100を超えて生き延びる者は自ずと「生き残り」となり、天賦の才か、あるいは環境自体を持って生まれたかのどちらか。
そこまでは運次第で生き延びることの出来る年月だが、それ以上……200年前後を閾値とし、ここから先は運と漠然だけで生きることの叶う領域になく、逆説的に、この閾値を超えた神秘戮しにとってもはや歳月は意味を成さないものとなる。
| 現存する神秘戮し | |||||
| 『号』 | 氏名 | 覚醒年 | 活動期間 | 実年齢 | |
| 『魔術師』 | ウルクォ | 33-4歳 | 4-550年前後 | 同左 | |
| 『竜追い』 | アスバル〔ト〕 | ? | 200年未満 | 600歳超 | |
| 無自覚者 | |||||
| --- | ジャシ | 未 | なし | 19歳 | |
| --- | バイサーン | 未 | なし | 158歳 | |
他、非ネームド・未来においても幾人かの神秘戮しが存在するが、いずれも若い個体である。
出てくるだけで数字の桁が狂う、秘転以上の世界観荒らし。
項目の長大さに反し、秘転と同様に本筋では一切関わりがなく、あってエピローグのみ。
終始仰々しく描写されるが、大して強力な存在でもなく、本筋では何の役にも立たない眉唾。
場合によっては「神秘戮し」という名称すら分からないままで終わる、正真正銘の非現実サイド。
神秘戮しが出張るということは『独法師、遺論を称えよ』が趣旨とする「主人公不在期間」の終了を意味し、中心が誰にせよ、「主人公」を孕んだ外伝が開始するだろう。
実際に「別の物語であれば主人公になれたかもしれない」人物は神秘戮しの中に存在し、パラレルワールド扱いの外伝では中心人物として立ち回り、結末を見届けることになる。
散々戮せると言われても、実体・態に欠けた神秘にはそもそも攻撃が通らないので無力であるし、肝心の……個々人の地力については、ごく一部の神秘戮しを除けば、未覚醒の者たちを含めた上で秘転どころか開闢の徒に劣る。人の世は厳しく、哀れ。
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