「……というわけさ。巡り合いというのはわからないものだねえ」
「とか言って。どうせ後ろで手を回してたんですよね」
「当たり。鋭いね」
「ゾーヤさんじゃないですけど、そこそこ付き合いあるんですから流石にわかりますよ。……ところで」
「うん?」
「後悔はしてるんですか?」
「僕が?どうしてそう思ったんだい?……冗談。今はちょっとしてるかな」
「ちょっとだけですか」
「あぁ」
「……」
「……君には長生きしてほしいから、キャラじゃないけどたまには説教をしようか」
「数か月前だったかな。ある夢現災害で何人かの夢の使者と、僕の同僚が帰らない日があった。死に損ねた宿主の置き土産の悪夢がとんでもない爆弾で、あとから聞くにはその場の殆ど全員が一瞬で食い殺されたってね」
「生き残りが言うにそれは、手負いの者からでもなく、仇でもなく、間近にいたわけでもない者から捕食した。自分はその食卓にたまたま外れて、それでたまたま救助も間に合ったんだってさ。そこには、何も足掻ける余地はなかったと」
「こないだもエリア4で新人が死んだね。彼は優秀で、不知火も金と手間暇を惜しまずに育成してたんだ。でも死んだ」
「食堂で誰も食わない丼の話は聞いたかな。……で、だ」
「……はい」
「その頃僕は何をしてたと思う?」
「……ええっと……」
「数か月前はゾーヤとデートだったかな。生まれて初めて食べたマカロンは、見た目はいいけどあんまり美味しくなかったかな。こないだは一日中寝てた、清掃業が忙しくてやっと休みを取れたところだったからね。君は何してた?」
「私は……はっきりとは覚えていませんが、いつも通りだったと思います」
「そんなもんだよね。ダイバーやってたら人死にだって起こる。……ダイバーじゃなくたってちょっと頻度がマシな程度だろう。発展途上国なら今も地球の裏側で誰かが餓死してるんじゃないかな」
「僕らの世界は小さいよ。この目に映るものしか知れないし、すくえるのはこの腕が届く範囲の、掌からこぼれない一掬いの水くらいなものだ。その外で何が起ころうとも僕らは知ることができないし、何もできやしない。精々が、後で顛末を知るくらいだろう」
「だから、外に手を伸ばそうと考えるのは辞めておきなさい。救えなかった水を吸った服は重すぎて、自重で潰れてしまうよ。もうすぐ君は、僕の手の届かないところに行くのだし」
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