小説家になろう(ジン編)

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小説家になろう(ジン編)

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ゾット帝国親衛隊ジンがゆく!~苦悩の剣の運命と真実の扉~

全25話(未完)→http://ncode.syosetu.com/n7406co/(アーカイブ)
変更前のタイトルは「ユニフォン転生!苦悩の剣の物語 ~闇の勾玉~」「異世界転生!苦悩の剣の物語 ~闇の勾玉~」「ゾット帝国親衛隊がゆく!苦悩の剣の物語 ~運命と真実の扉~」
※オリジナルの章立てはズレがあるようなので、内容に基づき修正して表記します
設定集

+ 主な登場人物-

主な登場人物
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※現時点での登場人物。

~アルガスタでの登場人物~

名前:ジン 性別:男 歳:16 一人称:僕 
恰好:
武器:
キャラ紹介:リアンの息子
本が好きで、いつか世界を冒険したいと思っている。正義感が強い。

名前:麻里亜 性別:女 歳:17 一人称:ワタシ
恰好:薄青いロングストレートヘア。紅い眼。
黒いワンピースに黒いニーソックス、黒いショートブーツ。
武器:剣・銃など
キャラ紹介:ジンの用心棒
ジンの家の使用人。無表情で感情表現が苦手。戦闘は一流で、ジンを守ることに命を懸けている。
「ジン様。ワタシはジン様を守るためなら命を懸けます」

名前:ジョー 性別:男 歳:不明 一人称:オレ
恰好:肩にかかるエメラルドグリーンヘアで、顔が白く塗ってあり、目許が黒く塗ってある。
口許を覆う様に不気味な金色の歯型マスクを装着し、鼻まで銀色のマスクが覆っている。
マスクの両端から銀色のホースが伸び、背中の機械に繋がっている。
緑のシャツを着て、黒いネクタイを締め、紫のコートを羽織り、両手に黒い革手袋を嵌めている。
紫のストライプのスーツズボンを穿き、黒いブーツを履いている。
武器:指先から放つレーザー その他銃器
キャラ紹介:西のアルガスタの支配者
「オレは西のアルガスタの支配者だ。誰にもオレに逆らえん」

名前:ルビナ 性別:女 歳:16 一人称:私
恰好:コルセットドレス
武器:太腿に巻いたホスルターに挿したオートマチック銃 太腿にベルトを巻いて挿した小さな棒(状況に応じて様々な武器に姿を変えることができる)
キャラ紹介:王都ガランの王女。パーティーの最中に拉致される。監禁室でジンに説教され、自分が王女だと自覚し、自分を変えてゆく。
「私は王都ガランの王女、ルビナ姫よ。私がこの国を変えてみせるわ」

名前:ジン 性別:男 歳:21 一人称:わたし 第一話で登場
恰好:アルガスタ親衛隊の鎧を装備している。
武器:煉獄・オートマチック銃
キャラ紹介:アルガスタ親衛隊の隊長。本が好きで、よく鍛錬をサボっている。
王女ルビナ姫に密かに想いを寄せ、ルビナ姫の護衛任務中にルビナ姫に告白し、めでたくルビナ姫と結ばれた。
「ルビナ姫。わたしは死を覚悟しても、お前を愛している」

名前:ルビナ 性別:女 歳:20 一人称:私 第一話で登場
恰好:王冠を被り、ドレスを着ている。足はガラスの靴。
キャラ説明:アルガスタ王女。
ルエラの姉で、次期アルガスタ王女であることに責任を感じている。
ジンの隊長昇格祝いに、煉獄をプレゼントする。
妹のルエラ以外、病を患っていることを内緒にしている。
「ジン。私、病を患っているの。それでも、私を愛してくれるかしら?」

~魔王教団~

名前:ジード 性別:男 歳:不明 一人称:ワタシ 第一話で登場
恰好:顔は黒豹で髪を三つ編みにしている。両耳に銀のピアス。身体は鎧を身に付け、手足に鋭い爪が生え、金の腕輪と金の足輪を嵌めている。
尻尾はくるんと曲がっているか垂れている。
武器:パワーとスピードを活かした体術
キャラ説明:魔王教団の一員。姿は獣だが、スピードとパワーを活かした戦闘が得意。集団行動を好まず、単独行動を好む。一人の時間が好き。
「今宵、アルガスタは紅月に染まる。我々の戦いが来たのだ」

名前:アリス 性別:女 歳:16 一人称:アリス 第二話で登場
恰好:黒いとんがり帽子を被り、帽子の先がくるんと曲がっている。髪は淡いピンクのストレートヘア。髪の先っちょを紅く染めている。
前髪にハートのヘアピンを留め、左の瞳が澄んだ蒼色で、右の瞳がエメラルドグリーン。耳にはハートのピアスをつけ、首にはハートのネックレス。
黒いワンピースを着て、胸に小さな紅いリボンをつけ、右手首にブレスレットを嵌めている。
お尻の辺りに大きな紅いリボンを付けて、縞のニーソックスを穿き、紅いリボンパンプス。
武器:魔法・ぬいぐるみのミントくん
キャラ説明:一人称が名前のぶりっこ娘。とにかく可愛く見られたい。しかし、魔力が高く、実力は本物。ぬいぐるみを武器に戦う。
「アリスは魔王教団の一員なのでありますっ。戦うのめんどくさ~い」

名前:ミントくん 性別:不明 歳:不明 一人称:オデ 第二話で登場
恰好:尖った耳、眼は左眼が三角の形、右眼がバツ印の眼。鼻はピエロの様な真っ赤な鼻。口には鋭い牙が何本も生えている。
手足にも鋭い爪が生え、背中に悪魔の様な翼が生え、お尻には悪魔の様な尻尾。
武器:鋭い爪・レーザービーム・ミサイル等
キャラ説明:普段は小さなくまのぬいぐるみ。しかし、アリスの魔力で凶暴な魔物に変身する。
「オデ全部喰う。アリス、オデに力をくれ。もっと暴れたい」

ルビナ姫との出会い

+ 監禁室からの脱出-

監禁室からの脱出
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 銃声と悲鳴が遠くで聞こえる。まるで悪夢だ。
僕は怖くて布団の中に潜り、暗闇の中で身体を丸め、両手で両耳を塞ぐ。
現実から逃げる様に身体が震え出し、必死に首を横に振る。

何が起きてるんだ。
僕は殺されるのか?
嫌だ。死にたくない。

拉致された時の記憶が過り、激しい頭痛がして呻る。
学校の帰宅途中、突然背後から何者かに薬で眠らされ、気付いたら監禁室に閉じ込められていた。
ロクな物を食べておらず、何日も風呂に入らず、着替えもしていない。
僕の身体は細くなり、すっかり痩せ細った。鏡がないのでわからないけど、鏡で今の僕を見たら別人に見えるだろう。
髪はボサボサで艶がない。髪が痒くて、髪を触っただけでフケがつき、髪が何本も抜ける。
枕には僕の毛髪が何本も抜け落ちている。布団や布団のシーツにも。
服は皺だらけで汗で黄ばみ、服から変な匂いがする。僕が拉致されたままの格好だ。
下着も着替えてないので気持ち悪い。歯磨きもしてないので、口の中が変で臭い。
僕は精神的にも体力的にも限界だった。
このまま助からなければ、僕は栄養失調で死ぬかもしれない。
僕は何のために拉致されたんだろう。
僕を拉致した奴らは何者なんだ?

今日で拉致されて何日が経ったのだろう。
早く家に帰りたい。
家に帰って風呂に入りたい。新しい服に着替えて、美味しい物を食べて、歯磨きして、ベッドで眠りたい。
……父上、助けてください。
麻里亜、どうしているのかな
麻里亜は、僕が幼い頃に病で死んだ母親代わりの使用人である。

僕は布団のシーツを握り締め、布団の中で泣いていた。
その時、僕が閉じ込められている監禁室の鉄扉が嫌な音を立てて内側に開く音が聞こえた。
まるで悪夢から解放されるかのように。
父上?
僕はまさかと思い、布団のシーツから顔を出し、開いた鉄扉を窺う。
でも、監禁室の鉄扉の前には誰もいない。
虚しく布団の埃が舞っているだけだった。

誰もいない?
さっきの銃声と悲鳴、あれは夢だったのだろうか。
そんな錯覚さえある。
きっと食事の時間なんだろう。僕は変に納得させる。
僕は布団から身体を出して、ベッドに座り、食事が運ばれて来るのを待つ。
素足が冷たいコンクリートの床に触れて、僕は身震いする。

その時、開いた監禁室の鉄扉の前で見張りの男が呻り倒れた。
監禁室の鉄扉越しにうつ伏せに倒れた男の上半身。
男はウェーブがかった長髪で、左耳にピアス。
男の恰好は汚れた白いシャツを着て、男の太い腕には不気味な髑髏の入れ墨が彫られている。
男はこちらに顔を向け、充血した眼を見開き、口から血を吐いて、喉元にはナイフが突き刺さっている。

「ひっ」
僕は思わず声を漏らし、瞼を閉じる。冷たい床に触れないように両足を上げて。
やっぱり、夢じゃない。僕は両耳に両手を当てて首を横に振る。
両耳に当てた両手をそっと離す、それにしても静かだ。
なんか変だ。助かったの、か?
寒くて身体を両手で擦る。そうだ、逃げないと……逃げて、誰かに助けを求めないと。
僕はベットからおもむろに立ち上がり、監禁室の鉄扉に向かって歩く。
でも、僕の身体は衰弱しきっており、足がもつれて倒れてしまう。

情けない。こんなんじゃ逃げられるわけないだろ。
僕は悔しくて拳を握り締め、顔を上げると、目の前に倒れた男の手に握られたオートマチック銃。
この男が、いつも僕の食事を運んで来た。その度に、この男は僕に暴力を振るった。
自分の瞼が腫れているのがわかる。こいつのせいで。

「許さないっ、許さない……」 
僕は吐き捨てる様に呟く。歯を食いしばって。
武器がいる。お前の武器がいるんだ。僕は死にたくない。
床を必死に這い、男の手に握られたオートマチック銃を奪い、片足を突いて立ち上がる。
オートマチック銃を握り締め、男の死体の脇腹に精一杯一蹴り入れてやった。
男の死体に唾を吐くか、銃弾をぶち込もうと思ったが、馬鹿らしくなって止めた。
気が済んだ僕は、男の死体を遠慮なく跨る。
久しぶりに足に力を入れたので爪先が痺れた。
僕はよろけながらも監禁室を出る。
冷たいコンクリートの壁伝いに、ゆっくりと掌を当てながら進んでゆく。
裸足でコンクリートの床を歩く。足の裏が冷たかった。
手に力が入らず、オートマチック銃を握る手が震えている。
そういえば、監禁室を出たのは何日ぶりだろう。僕が拉致されて以来か。

僕は静まり返った地下の薄暗い廊下を、コンクリートの壁伝いにオートマチック銃を構えて進む。
生きる希望を捨てずに、一歩ずつ歩を進める。
空気が澱み変な匂いがする。それとも、僕のパジャマの匂いだろうか。
蛍光灯が切れかかっているのが気になり、僕は見上げる。
眼がちかちかして、蛍光灯の光を顔の前で手で遮り、薄暗い廊下に顔を戻し、両手でオートマチック銃を握り締める。
監禁室は他にも何室かあり、監禁室の鉄扉を横切る。
どうやら、地下の警備は手薄で、あの倒れた男しかいないようだ。
数メートル先に階段が見える。出口かな。
出口を見て、緊張感が和らぐ。手に汗を掻いている。

「武器を捨ててください」
その時、背後で冷たい女の声がした。

僕は驚いて心臓が口から飛び出しそうだった。
しまった、仲間がいたか。気配を消していたのか?
ここで逆らえば、僕は殺されるかもしれない。
下手すれば、また監禁室に閉じ込められる。
僕は屈み込んで、女に従い床にオートマチック銃を置いて立ち上がる。
僕の鼓動が一気に高まる。

「銃を蹴ってください」
僕の背後の女が、冷たい声で促す。

僕は生唾を飲み込み、喉を鳴らす。
言われた通り、手を上げながらオートマチック銃を向こうに蹴った。
もうダメだ。僕は手を上げたまま絶望に駆られ、諦めて瞼を閉じる。

ジンくんの新エピソード始まります。時系列としては、ジンくんの過去のお話になります。これからの展開にご期待ください。よろしくお願いします。

+ 女の正体-

女の正体
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~前回のあらすじ~

ジンが何者かに拉致され、監禁室に閉じ込められて何日か経ったある日。
銃声や悲鳴が聞こえ、何故か監禁室の扉が開き、ジンは意を決して脱出を試みる。
出口の階段が近づく中、ジンの背後で女の声がした。

~女の正体~

「銃を蹴ってください」
僕の背後の女が、冷たい声で促す。

僕は緊張で生唾を飲み込み、喉を鳴らす。
女に言われた通り、手を上げながらオートマチック銃を向こうに蹴った。
蹴ったオートマチック銃はコンクリートの床を滑り、やがて壁に当たって止まる。
もうダメだ。僕は手を上げたまま絶望に駆られ、諦めて瞼を閉じる。
頭の中で一六年という短い人生の出来事が走馬灯の様に流れる。
悔しくて涙が滲んだ。溢れた涙が頬を伝う。

「ジン様、安心してください。麻里亜が助けに来ました」
僕の背後で女の冷たい声が背中に突き刺さる。

僕はその声で我に返り、瞼を開け、思わず背後の女に振り返る。
麻里亜だ。麻里亜が僕を助けに来てくれたんだ!
僕は麻里亜の顔を見上げる。
麻里亜は薄青いストレートヘア、眼が紅く、黒いワンピースを着て、黒いニーソックス、黒いブーツを履いている。
麻里亜は全身黒ずくめで、冷たい眼で僕を見下ろす。

僕と麻里亜の視線が合う。
「麻里亜ぁ……怖かった。怖かったよぉ」
僕は子供の様に嗚咽し、滲んだ涙を手の甲で拭う。
僕は堪らなく麻里亜に抱き付き、麻里亜のワンピースのスカートを握り締めた。

「どうかしましたか? ジン様」
麻里亜の声が降って、僕は麻里亜を見上げる。
麻里亜は無表情で不思議そうに首を傾げ、子供をあやすように僕の頭を撫でてくれた。
数秒後、麻里亜は屈み込んで、僕を優しく抱き締めて僕の頭を何度も撫でる。

麻里亜は僕からそっと離れ、僕の両肩に手を置き、僕の顔を見る。
「ジン様、ご心配お掛けしました。ジン様は酷く衰弱しきっています。さぁ、ここから逃げましょう」
麻里亜が安心させるように僕の頭を撫でる。

麻里亜は、僕の母さんなんだ。
麻里亜は、病気で死んだ母さんの代わりなんだ。
麻里亜は不器用だけど、一生懸命に僕の母さんになろうとしてくれてる。
僕も麻里亜に応えないと。

「うん」
僕は泣きながら頷いた。

麻里亜は僕の肩から手を離し、麻里亜はくるっと背中を向ける。
「ジン様、ワタシの背中に乗ってください」

僕は黙って麻里亜の背中に身体を預ける。
「ごめん、麻里亜……」
僕は泣きながら麻里亜の背中に顔を埋めて呟いた。

「何故、謝るのですか?」
麻里亜の不思議そうな声が降る。

「だって、父上や麻里亜に迷惑掛けてしまったから。その、ごめん……」
僕は麻里亜の背中に顔を埋めたまま。

「気にしないでください。ジン様のためなら、ワタシは命を懸けてジン様を守ります」
麻里亜がおもむろに立ち上がる。

僕はしっかりと麻里亜の背中に身体を預ける。
「僕が大きくなったら、麻里亜を守るから。父上も守る」
僕は意を決して、麻里亜の背中に顔を埋めたまま拳を握り締める。

麻里亜が踵を返して、階段に向かう。
麻里亜のブーツの靴音がリズミカルに硬い音を響かせる。
僕は麻里亜の背中ですっかり安心してうとうと眠ろうとしていた。
僕が眠い目を擦った時、階段手前の鉄扉の向こうから、重い物が落ちた様な大きな音がした。

その音に反応する様に麻里亜の動きが止まり、僕は思いっきり額を麻里亜の背中にぶつけて目が覚めた。
「どうしたの? 麻里亜」
僕は欠伸が出て、眠そうに目を擦る。眼を擦ったら瞼が痒くなった。

麻里亜は音がした鉄扉を、紅い眼で冷たくじっと見ている。
「なんでもありません。失礼しました」
麻里亜は首を横に振って、前を向いて歩き出した。

麻里亜は音がした鉄扉の横を通り過ぎる。
僕は音がした鉄扉に振り向き、僕の頭に疑問が浮かぶ。
「ねぇ、麻里亜。もしかして、僕の他に閉じ込められている人がいた? 何で助けないで無視したの?」
僕は麻里亜に訊いた。拳を握り締めて、語尾が強くなった。

麻里亜が僕の質問に答える様に立ち止る。
「ワタシの任務は、ジン様の救出です。それ以外の命令は受けません」

僕は麻里亜の背中を拳で小さく叩いた。
「何で? 父上は? どうして、父上は僕を助けに来ないんだ!?」
僕は大声を出したせいで息が乱れた。

いつもそうだ。
父上は仕事で忙しく、いつも家にいない。
たまに父上が家に帰ったと思ったら、すぐに仕事で家を出る。
麻里亜が僕の面倒を見てくれていた。
麻里亜に父上の仕事を訊いても答えてくれなかった。
父上に会いたい。
僕は動揺して目がさざ波の様に揺れている。

麻里亜は僕を背負い直した。
「リアン様は、他の任務に就いております。ここに閉じ込められている人たちは、リアン様が救出します。安心してください」
麻里亜は何事も無かったように歩き出す。

僕は麻里亜に呆れてため息を零す。
「麻里亜なら、僕をわかってくれると思ってた。もういいよ。僕一人で閉じ込められてる子を助ける。僕を下ろしてよ」
僕は必死に両手でぽかぽかと麻里亜の背中を叩いた。

その時、階段から手りゅう弾がゴロゴロと転がり落ちてきた。
麻里亜は咄嗟にすぐ側の階段手前の音がした鉄扉を蹴破り、中に駆け込んだ。
次の瞬間、手りゅう弾が爆発。僕たちが逃げ込んだ監禁室に爆風が舞い込む。
麻里亜の身体が爆風で浮き上がり、麻里亜の身体が反って爆風で吹っ飛ぶ。
僕は怖くなって、思わず目を瞑る。
爆風で振り落とされないように、僕は両手で麻里亜の背中を握り締める。

旧キャラ、麻里亜の登場です。麻里亜は個人的にお気に入りのキャラです。これから、麻里亜を登場させたいですね。

+ 支配者-

支配者
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~前回のあらすじ~

監禁室を脱出したジンだったが、出口の階段を前にジンの背後で女の声がした。
女の正体が使用人の麻里亜だとわかり、ジンと麻里亜は脱出を試みるが……
他の監禁室から音がするものの、麻里亜は無視してジンを助けようとする。
ジンはそんな麻里亜に納得がいかず、ジンは他に閉じ込められた人を助けようと麻里亜に訴える。
そして、出口の階段から手りゅう弾が転がり、麻里亜は手りゅう弾を避けるために音がした監禁室へ飛び込む。

~支配者~

その時、階段から手りゅう弾がゴロゴロと転がり落ちてきた。
麻里亜は咄嗟にすぐ側の階段手前の音がした鉄扉を蹴破り、中に駆け込んだ。
次の瞬間、手りゅう弾が爆発。僕たちが逃げ込んだ監禁室に爆風が舞い込む。
麻里亜の身体が爆風で浮き上がり、麻里亜の身体が反って爆風で吹っ飛ぶ。
僕は怖くなって、思わず目を瞑る。
爆風で振り落とされないように、僕は両手で麻里亜の背中を握り締める。

僕の鼓動が高まり、緊張で息が荒くなる。
僕はそっと眼を開け、部屋をゆっくりと見回す。
部屋は壁際にベッドが置いてあるだけの殺風景な部屋だった。
確かにこの部屋から音がしたんだけど、何故か誰もいない。
変だな。僕は不思議に思い首を傾げる。
でも、今は麻里亜が心配だ。

麻里亜の左肩越しを覗くと、麻里亜の左手が伸び、麻里亜は壁に左手の掌を突いていた。
麻里亜の掌の周りに、蜘蛛の巣の様に罅割れている。爆風の凄まじさを物語る。
僕は恐る恐る麻里亜の横顔を覗くと、麻里亜は無表情で紅い眼を見開いている。

僕は麻里亜が心配で生唾を飲み込み喉を鳴らす。
「麻里亜、大丈夫?」
僕は麻里亜の無表情の横顔に声を掛けてみた。

麻里亜が無表情で僕に振り向く。
「ワタシは大丈夫です。ジン様、大丈夫ですか?」
麻里亜が壁から左手を離す。

僕は生きている実感が湧き、力強く頷く。
「僕は大丈夫。それより、閉じ込められてる人はどこ?」
僕は狭い部屋を見回す。

麻里亜は傍のベッドに顔を向けた。
「彼女は爆風に巻き込まれ、ベッドの下にいる模様」
麻里亜はベッドの下を透視する様にベッドを見つめている。

その時、ベッドの下から口元を白い布で縛られ、身体をロープで縛られた少女が床をもぞもぞと這って出てきた。
少女は肩までの金髪ミディアムヘアでカールを巻き、豪華なコルセットドレスを着て、黒いブーティを履いている。
格好からして、どこかの貴族だろうか。
髪と肌に艶があるから、まだ彼女は拉致されて間もないんだろう。
女の子にとって不潔は辛いだろうな。僕は彼女を見下ろして、そう思った。

麻里亜は黙って僕を下ろし、屈み込んだままワンピースのポケットからナイフを取り出す。
麻里亜は立ち上がって彼女の元に歩み寄り、少女を縛っているロープを切って、頭の後ろで結ばれた白い布を解いてあげた。

僕は麻里亜の行動に呆気に取られ、壁に凭れて呆然と立ち尽くす。
驚きで僕は目を瞬く。

束縛から解放された少女が咳き込みながら、顔を上げて必死に口許を動かして何か言おうとしている。 
「た、助け、て……わ、私は、る、ルビナ姫……」
少女が麻里亜にしがみつくように、麻里亜の胸で気絶する。
何かの薬が効いたのだろうか。当分、少女は目を覚まさないだろう。

ルビナ姫?
どこかの王女かな?
いや、それより、何で麻里亜は彼女を助けたんだ?
僕は壁に凭れ、腕を組んで首を傾げて考えていた。

僕は黙って麻里亜の行動を見守っていたが、やがて僕は不思議に思い麻里亜に訊いた。
「麻里亜、何で助けたの?」
僕は屈み込んで、少女の顔を覗き込む。綺麗な顔だ。
あっ、僕不潔だから、あんまり近づいたら、彼女に悪いよね。
僕は少女に遠慮しておもむろに立ち上がり、彼女から離れて壁に凭れた。
屈んで、何故かため息を零す。
少女を見ていると何故か胸がドキドキして、僕は顔が火照って胸を手でぐっと押さえる。

麻里亜は少女を支えながら、くるりと少女に背中を向けた。
「ワタシが彼女を助けた理由。リアン様は、彼女の存在に気付いてなかったようです。これより、ワタシは彼女を助け、新たな任務を遂行します。ジン様、歩けますか?」
数秒遅れて、麻里亜が僕の質問に答えた。
麻里亜が少女を背負っておもむろに立ち上がる。

僕は壁から離れて姿勢を正し、胸の前で必死に両手を振った。
「あっ、僕は大丈夫。男の子だし、平気だよ。歩けるから」
麻里亜が背負う少女の顔を見ていると、何故かまた恥ずかしくなり、僕の顔が火照る。
僕は少女から顔を背ける。何故か鼓動が高まる。

僕は瞼を閉じて、気持ちを落ち着かせるため、胸を手でぐっと押さえる。
深呼吸して手を下ろし、ゆっくりと目を開ける。なんか僕、変だな。どうしたんだろ。

「よぉ、姉ちゃん。強いじゃねぇか、手りゅう弾でも死なねぇとはな。気に入ったぜ。よく見りゃ、姉ちゃんいい女じゃねぇか。ちょうどいい、店の女に飽きてたとこだ。俺の相手してくれねぇか? 高い金払うぜ? どうだ?」
その時、麻里亜が蹴破った鉄扉の所にいつの間にかマシンガンを片手に持ち、壁に凭れる男が立っていた。
男は短髪で黒いシャツを着て革ジャケットを羽織り、ジーンズに黒いブーツを履いている。
男は額から血を流し、煙草を吹かしながら、麻里亜を厭らしい目つきで舐める様に見ている。
男は不気味な笑みを浮かべた。

僕は恐怖で棒立ちになり、瞼を閉じて瞼に力を入れる。
両手の拳を握り締めた。麻里亜、助けて。
ダメだ。僕は首を横に振る。
麻里亜は僕が守るんだ。
僕は意を決して瞼を開ける。

麻里亜が微かに動いて、男は驚いて身構え、マシンガンを構えて銃口を麻里亜に向ける。
麻里亜は両手が塞がって思った以上に動けないらしく、男は安心したようにライフルを下ろした。

僕は両手の拳を握り締めたまま、生唾を飲み込み喉を鳴らす。
動かなきゃ。僕が動かなきゃ。
僕は咄嗟に麻里亜の腰のホルスターからオートマチック銃を抜き、男にオートマチック銃の銃口を男に向ける。
麻里亜は動けない。僕が麻里亜を守らないと。

男はふざけて自分を片手で指さす。
「俺を撃つのか?」
男は肩を竦め、可笑しいように腹を抱えて笑っている。

初めて人を撃つ。僕の手が恐怖で震えている。
寒気がして、オートマチック銃を落としそうになる。

「ジン様、お止めください。ワタシに任せてください」
隣に立つ麻里亜の感情のない声が振ってくる。

麻里亜の声が遠くに聞こえる。
やっぱり駄目だ、撃てない。僕は怖くなって瞼を閉じる。
落ち着け。震える手で、ゆっくりと引き金を引いてゆく。
ごめん、麻里亜。やがて一発の銃声が響く。

男に銃弾が命中したのか、男が呻いてマシンガンを床に落とす音が聞こえた。
僕は男を撃った罪悪感で瞼を開け、鼓動が高まり息が荒くなる。
オートマチック銃が手の汗で、僕の手から滑り落ちる。

「こいつやりやがったな!」
男の怒声が聞こえたかと思うと、男がオートマチック銃を構えるのが見える。
その後、一発の銃声が響く。

「うっ」
僕の脇腹に激痛が走り、僕は声を漏らしコンクリートの冷たい床に跪く。

男の高笑いが聞こえる。
僕は脇腹を手で押さえ止血する。
脇腹を見ると血が噴いていた。

「くそっ」
僕は呻き声を漏らして、よろめいて床に倒れ込んだ。
僕の意識が遠のく。
僕は悔しくて、歯を食いしばって男を睨む。
その時、男の背後から革の手袋を嵌めてナイフを握った手が伸び、男の首筋にナイフが刺さった。

「がふっ」
男が口から血を吐き、喉を片手で押さえる様に男が横に倒れるのが見える。

男の背後から、大男が現れた。
大男は肩にかかるエメラルドグリーンヘアで、顔が白く塗ってあり、目許が黒く塗ってある。
口許を覆う様に不気味な金色の歯型マスクを装着し、鼻まで銀色のマスクが覆っている。
マスクの両端から銀色のホースが伸び、背中の機械に繋がっている。
緑のシャツを着て、黒いネクタイを締め、紫のコートを羽織り、両手に黒い革手袋を嵌めている。
紫のストライプのスーツズボンを穿き、黒いブーツを履いている。
大男のマスクから不気味な呼吸音が聞こえる。

「!?」 
僕は驚いて目を見開く。
この人、誰だろう。

大男は壁に掌を突いて、僕たちを見て笑った。
「オレが留守の間に大事な人質が逃げようとしている! 部下どもは役立たずばかりだ! 取引が台無しだ!」
大男が悪魔の様な声で、怒りを露わに壁を拳で叩く。
拳で叩かれた壁が砕けて、瓦礫が床に落ちる。

大男は倒れた男の死体から乱暴にマシンガンを奪い取って、麻里亜に銃口を向けて構える。
「彼女を下ろしてもらおう。抵抗するなら、お前を撃つ」
大男が勝ち誇った様に笑い、荒い呼吸音が聞こえる。

僕は麻里亜を心配して、麻里亜を見上げる。
麻里亜は僕に答える様に、僕に振り向いた。

麻里亜は大男に顔を戻して否定する様に首を横に振る。
「出来ません。ワタシは任務を遂行します」
麻里亜は無表情で大男を見つめている。

僕は脇腹を手で押さえながら、何も出来ない自分が悔しくて拳を握り締める。
「くそっ」と呟いて、僕は大男を睨み据える。

大男は麻里亜の答えを気に入ったかの様に掌を壁に突き、マシンガンを肩に担ぐ。
「フハハハハッ、頑固な女だ。いいだろう。お前を殺してでも、彼女を取り戻すぞ!」
大男は不気味に笑いながらマシンガンをぶっ放す。

僕はべっとりと身体に汗を掻いていた。
もうダメだ。僕は瞼を閉じる。
僕は何も出来ないんだ……
麻里亜、死なないで。お願いだ。

最後に謎の新キャラ登場です。彼が、今後どう物語に関わってくるのでしょう。それは、作者にもわかりません……今回も麻里亜が活躍してます?

  • ジョーが登場。映画マッドマックス 怒りのデス・ロードの影響を受けている。
+ 麻里亜の力-

麻里亜の力
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~前回のあらすじ~

出口の階段から手りゅう弾が転がり、麻里亜は咄嗟に音がした監禁室に飛び込む。
そこで、どこかの貴族の少女がロープで縛られていた。彼女の名はルビナ姫。
麻里亜はルビナ姫を助け、脱出を試みるが、謎の大男に邪魔されてしまう。

~麻里亜の力~

大男は麻里亜の答えを気に入ったかの様に掌を壁に突き、マシンガンを肩に担ぐ。
「フハハハハッ、頑固な女だ。いいだろう。お前を殺してでも、彼女を取り戻すぞ!」
大男は不気味に笑いながらマシンガンをぶっ放す。

僕はべっとりと身体に汗を掻いていた。手にも汗を掻いている。
もうダメだ。僕は脇腹を手で押さえ、拳を握り締めたまま、瞼を閉じて首を横に振る。
瞼に力を入れて、歯を食いしばる。僕は何も出来ないんだ……
麻里亜、死なないでくれ。お願いだ。
大男が不気味に笑いながらマシンガンをぶっ放す音が耳に痛かった。

その時、麻里亜の方から静電気で痺れた様なバチバチという電気的な音が聞こえた。
「ジン様。ワタシのダメージが大きいため、これよりシールド展開します」
麻里亜の冷たい声が聞こえる。

僕はそっと片目を開けて、両目を開けた。
「麻里亜……?」
僕は麻里亜に振り向いて、小さく呟いた。

麻里亜の身体を青白い障壁が包み込んでいる。
麻里亜の頬にマシンガンの弾が掠ったのか、血の筋がいくつか走っていた。
血の筋から血が頬を伝い顎から血が滴る。
麻里亜の足元には、マシンガンの薬莢が幾つも落ちている。
麻里亜の黒いワンピースに血が滲み、凄惨を物語る。

大男のマシンガンが弾切れになり、大男が可笑しいように不気味に笑っている。
「フハハハハッ。なるほど、オレの部下が役立たずな訳だ。面白い、気に入ったぞ。お前、人間じゃないな? アンドロイドか? オレも人間じゃない。お前もオレも化け物よ。フハハハハッ」
大男は麻里亜と自分を指さした後、不気味に笑いながらマシンガンを乱暴に投げ捨てた。

アンドロイド?
意味深な大男の台詞で、僕は大男をまじまじと見る。
この男、人間じゃないのか?
麻里亜は人間じゃない?
僕は改めて麻里亜を見る。

麻里亜は片腕を真っ直ぐ伸ばし、掌を大男に向ける。
「これより、攻撃展開します。先ほどのお返しです」
麻里亜の薄青い長い髪に青白い電気がバチバチと走りながら、麻里亜の薄青い長い髪がぶわっと逆立つ。
機械的な高い音が鳴り、麻里亜の身体を包んだ青白い障壁が掌に急速に縮小され、やがて青白い電気の球となり、大男に向けて青白い電気の球が勢いよく放たれ、辺りに耳をつんざく轟音が響く。

麻里亜?
僕は声にもならず、ただ麻里亜を見ている。脇腹の痛みさえ忘れて。
麻里亜の薄青い長い髪が垂れる。見たこともない麻里亜の姿。
僕は麻里亜の攻撃を目で追っていた。

「馬鹿なッ!」
大男が目を見開き、信じられないという様な悲鳴を上げる。
大男は麻里亜の青白い電気の球に押され、大男の身体がくの字に派手に吹っ飛ぶ。
麻里亜の攻撃で壁に穴が開き、大男は穴の奥の闇に消えている。

僕は壁に空いた闇を見つめて、生唾を飲み込み喉を鳴らした
「す、すごい……」
動揺で僕の眼がさざ波の様に揺れている。
僕は脇腹を手で押さえ、顔をしかめて突っ立っていた。

「ジン様。今のうちに脱出しましょう」

麻里亜の声が降り、僕は我に返った。
「!? そ、そうだね」
僕は麻里亜を横目に、ゆっくりと歩き出す。
麻里亜が数歩歩いたところで、麻里亜が片膝を床に突いた。
麻里亜の身体から火花が散っている。明らかに麻里亜の身体が異常だった。

「ま、麻里亜!? ど、どうしたの!?」
僕は麻里亜の隣で屈み込んで、麻里亜の肩に手を載せて、麻里亜の顔を覗き込む。
脇腹を手で押さえたまま。

麻里亜が無表情の顔を僕に向ける。
「ジン様。先ほどの攻撃により、ワタシのエネルギーを予想以上に消費しました」
麻里亜が冷たく言い放つ。顔を戻し、瞼を閉じて首を横に振る。

さっきの攻撃といい、やっぱり麻里亜は人間じゃないのか?
僕は麻里亜の正体を訊いてみようと思い、緊張で生唾を飲み込んで喉を鳴らす。
口まで出かかっているが、踏みとどまる。僕は瞼を閉じて首を横に振った。
たとえ、麻里亜がアンドロイドでも、麻里亜は麻里亜だ。

「ジン様。どうかしましたか?」
麻里亜の声が降ってくる。

僕は瞼を開けて、麻里亜に微笑む。
「なんでもない。麻里亜、本当に大丈夫? 少し休んだ方が……」
僕が言いかけて、麻里亜がおもむろに立ち上がる。
麻里亜は背負っているルビナ姫を背負い直し、僕はふらつく麻里亜を見上げ思わず手を伸ばす。

「休んでいるわけにはいきません。ここにいては危険です。ジン様、先を急ぎましょう」
麻里亜はふらつきながらも、歩を進める。身体から火花を散らしながら。

僕は伸ばした掌を握り締め、そっと腕を下ろす。
「う、うん……」
僕は麻里亜の背中を見つめ、おもむろに立ち上がる。
脇腹の痛みに顔をしかめて。

麻里亜が蹴飛ばした鉄扉の傍の壁に掌を突いた。
麻里亜が肩で息をしている。相当、エネルギーを消費しているらしい。
その時、壁に空いた穴からミサイルの様な飛来音が聞こえ、僕は壁に空いた穴を睨む。
壁に開いた穴からミサイルが飛び出して、ミサイルが曲がって出口の階段の方に飛んでゆく。
続いて爆発音が聞こえ、壁が崩れる様な嫌な音が聞こえた。
まさか、あの男、生きていたのか?
あの男、何をしたんだ?
嫌な予感がした。

今回、麻里亜が活躍します。ジンくんと麻里亜の絆を感じました。
これからも、麻里亜を活躍させたいと思います。

+ デスゲーム-

デスゲーム
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☆前回のあらすじ☆

麻里亜の攻撃で吹っ飛んだ謎の大男。しかし、謎の大男は生きていた。
謎の大男が吹っ飛んで開いた穴からミサイルが飛んできて、ミサイルは出口の階段の方へ飛んだ。

☆デスゲーム☆

麻里亜が蹴飛ばした鉄扉の傍の壁に、麻里亜は掌を突いた。
麻里亜が肩で息をしている。相当、エネルギーを消費しているらしい。
その時、壁に空いた穴からミサイルの様な飛来音が聞こえ、僕は壁に空いた穴を睨む。
壁に開いた穴からミサイルが飛び出し、ミサイルが曲がって出口の階段の方に飛んでゆく。
続いて爆発音が聞こえ、壁が崩れる様な嫌な音が聞こえた。
まさか、あの男、生きていたのか?
あの男、何をしたんだ?
僕は嫌な予感がした。

その時、爆風が部屋に押し寄せるのが僕の視界に映る。
「ジン様!」
初めて麻里亜の悲しみを剥き出した声が聞こえた。
「うわっ」
爆風で僕は吹っ飛び、僕の背中が壁に激突して背骨が軋む。
僕は口から血を吐き、床に両膝を突きうつ伏せに倒れた。
痛みで顔をしかめ、拳を握り締め、意識が朦朧とする。
僕は肩膝を床に突いて、身体をゆっくりと起こす。
血が混じった唾を吐き、口許を手で拭うと視界に麻里亜が映る。

麻里亜は片手で僕を支えてくれて、僕は身体を捻じって背中を麻里亜に預ける。
だいぶ楽になり、僕は麻里亜に大丈夫だと言わんばかりに、麻里亜に微笑む。
その時、麻里亜の両眼から赤いレーザーが伸びて機械的な音を鳴らし、僕の身体を上半身から下半身へとスキャンしてゆく。
「スキャン完了。ジン様の人体損傷七〇パーセント。脇腹の傷及び、壁に激突した衝撃で左腕の骨が折れています」
映像が切れた様な機械的な音を鳴らし、麻里亜の両眼から赤いレーザーが消えた。

僕は脇腹を手で押さえ、腕の痛みで顔をしかめる。
「そっか。どうりで、腕の感覚がないわけだ。やっぱり、麻里亜は人間じゃないんだ……」
僕は麻里亜が人間じゃないという現実を受け止められず、悲しみで麻里亜の胸で俯く。

「ワタシはリアン様の研究で生み出されたアンドロイドです。ワタシは試作機で様々なデータを採り、今後の研究に役立て、未来のアンドロイドを創るためにワタシは役立っています」
麻里亜の冷たい声が聞こえる。

僕は瞼を閉じて首を横に振る。
「そっか……父上が麻里亜を造ったんだ。麻里亜がアンドロイドでも、麻里亜は麻里亜だよ。これからもよろしく、麻里亜。僕は麻里亜を知って嬉しいよ」
僕は瞼を開けて顔を上げ、麻里亜に微笑んだ。滲んだ嬉し涙を拭って。

麻里亜の頬が火照る。
「ワタシの正体を隠して、申し訳ありません。いつかワタシの事をジン様に話そうと思っていました。ジン様、大丈夫ですか? 先ほどの爆発で出口の天井が崩れ、閉じ込められた模様」
麻里亜が真紅の冷たい眼で僕を見下ろす。

麻里亜の最期?
どういうこと?
それよりも、閉じ込められたことが悔しくて、僕は拳を握り締めた
「くそっ」
やっぱり、さっきの爆発は僕たちを閉じ込めるためにやったんだ。
あいつは死んでなかったんだ。あの男、何者なんだ。
悔しくて歯を食いしばり、涙が滲む。
どうすればいいんだ。何か脱出する方法はないのか?

その時、大きな銀色の筒状の物が回転しながら部屋に転がってくる。
筒には小さな穴がいくつも空いており、穴から緑のガスが噴出された。

「ジン様、毒ガスです! 息を止めてください! シールドを張ります!」
麻里亜が声を上げ、僕を片手で支えたまま、麻里亜の両眼から青白いレーザが飛び出す。
麻里亜は緑の毒ガスを噴出している銀色の筒状の物を睨み据える。

「!? わ、わかった!」
僕は脱出方法を考えるのをやめて、慌てて口許を両手で覆う。
手が臭いけど我慢した。
脇腹や腕が痛むのも我慢だ。僕は生きる。これくらいなんともない。

僕は麻里亜の横顔を見る。さっきの攻撃で、麻里亜はエネルギー消費している。
麻里亜の眼から発せられる青白いレーザーが球形を形作る。
僕と麻里亜の身体を、青白い障壁が展開してゆく。
僕はその間に息を止めた。そんなに長く息を止められない。
一分くらい息を止めると、慣れない息止めに急に息苦しくなった。
思わず口許から両手を離し、息を吸おうとした時、麻里亜の唇が僕の唇に重なった。
麻里亜がゆっくりと瞼を閉じる。

「!?」
僕は驚いて、眼がさざ波の様に揺れている。
ま、麻里亜?
僕は恥ずかしくなり、慌てて麻里亜の唇から離れようとする。
麻里亜が僕を支える手と唇に力を入れる。
麻里亜の口から新鮮な空気が送られ、僕の傷が癒える感じがして、脇腹の痛みが和らぐ。
折れた腕も再生する感じがした。僕は心地良くなり、ゆっくりと瞼を閉じる。
温かい。麻里亜の温もりを感じる。
これが、麻里亜の力なんだ。

麻里亜の唇が、僕の唇からゆっくりと離れる。
「ジン様。ワタシのエネルギーを消費して、ジン様を治療しました。シールド展開完了」
麻里亜の冷たい声が聞こえる。

僕はゆっくりと瞼を開けた。
「ありがとう、麻里亜……少し楽になったよ」
僕は麻里亜の顔を見て微笑む。

麻里亜の頬が火照る。
「ジン様。ワタシのエネルギーをチャージします。少し休ませてください」
麻里亜が片膝を床に突いたまま俯いて瞼を閉じる。

僕は麻里亜の肩に手を載せた。
「ゆっくり休んでいいから」
麻里亜の横顔を覗き込んで、僕は麻里亜に微笑んだ。

その時、麻里亜の背中から咳払いが聞こえた。
「私の前でキスしないでくれるかしら? 邪魔しちゃ悪いと思って邪魔しなかったけど」
ルビナ姫が麻里亜の背中から降りて、顔をしかめて両手に腰を当てる。
ルビナ姫を支えていた麻里亜の腕が垂れ下がる。

僕は驚き、恥ずかしくなって麻里亜の腕から慌てて離れる。
「お、起きてたんだ。ご、ごめん。気付かなくて」
気まずくなってルビナ姫に背中を向けて胡坐をかき、頭の後ろを掻いて僕の顔が火照る。
まともにルビナ姫と顔を合わせられない。
僕はルビナ姫が気になって、ルビナ姫に振り向いて横目でルビナ姫を一瞥する。
胸の前で腕を組んだルビナ姫と目が合い、恥ずかしくなって、僕は慌てて顔を戻す。
麻里亜とのキス、ルビナ姫に見られちゃったな。
胡坐をかいたまま頭の後ろを掻きながら、僕はルビナ姫を横目で見る。

ルビナ姫は不機嫌そうに胸の前で腕を組んだまま僕を睨んで肩を竦める
「起きてたら悪いのかしら? それともあのまま気絶してろと? それより、この臭いなに? あなたから臭ってくるみたいだけど。この臭い、なんとかしてよ」
ルビナ姫は顔をしかめ、両手で鼻を摘まんで首を横に振る。

僕はルビナ姫の傲慢な態度にやるせなくなり俯く。
「ご、ごめん……僕、拉致されてから、その、風呂とか入ってなくて……」
ルビナ姫に嫌われちゃったな。僕の第一印象最悪だ。
せっかく仲良くなれると思ったのに。

ルビナ姫が壁を叩く様な音が聞こえる。
「ちょっと、出られないじゃないの! 出しなさいよ! 城に帰らないと。みんな心配してるわ……」
ルビナ姫が諦めて床に両膝を突いたのか、コルセットドレスの擦れる音が聞こえた。

僕は瞼を閉じて首を横に振る。
「僕たちは閉じ込められたんだ。ここから出れば、毒ガスを吸って死ぬ。どうしようもできない。麻里亜が目覚めるまで待つしかない」
何も出来ない自分が悔しくて歯を食いしばり、両手の拳を握り締める。
僕は顔を上げて身体を捻じり、心配になって麻里亜に振り向く。
麻里亜は静かに眠っていた。気のせいか麻里亜が優しい顔をしている。

ルビナ姫が立ち上がって、今にも泣きそうな顔で麻里亜の傍に屈み込んで、麻里亜の身体を必死に両手で揺すっている。
「ちょっとどういうこと!? あなたが麻里亜? 起きてなんとかしてよ! 私を助けたんでしょ!?」
ルビナ姫は起きる気配のない麻里亜を揺するのを諦め、立ち上がって青白いシールド内を必死に拳で叩いている。
「ここから出してよ!」と、ルビナ姫は誰かに訴えている。僕は黙ってルビナ姫を見ていた。
ルビナ姫に呆れて、僕は俯いて瞼を閉じ、額に手を当てて首を横に振る。
やがて叩くのを諦めたのか、ルビナ姫は腕を組んだり腰に手を当てたりして、青白いシールド内を行ったり来たりしている。
とうとうルビナ姫は両膝を床に突き、俯いて両手で顔を覆い泣き始めた。
子供の様に泣き声を漏らし、涙を指で拭う。

僕はそんなルビナ姫を見ていると何故か苛立ち、拳が怒りで震え、やがて拳で思いっきり床を叩いた
「黙って見てりゃなんだよ! いい加減にしろ! キミは自分のことばかり、王族はみんなそうなのか!? 麻里亜はキミを見捨てるつもりだったんだ。だけど、麻里亜はキミを助けた。少しは感謝したらどうだ!? 甘えるな! キミを見ているとイライラする。今までちやほやされて育ったんだろ? 少しは我慢しろ」
僕はくるりとルビナ姫に背を向け、麻里亜の隣で胡坐をかいて頬杖を突き、片方の掌を太ももの上に載せた。
ルビナ姫が気になって尻目で見る。

ルビナ姫が両手の掌を床に突き、拳で床を叩く。意表を突かれて泣きじゃくっている。
「な、なによ。なんなのよ! ご、ごめんなさい。ごめんなさい……私は自分のことばかり。王女だからって、みんなからちやほやされて、甘えていたんだわ。私、もう十六なのにね。あなたに言われて、私は初めて気付いた……ありがとう、少し楽になったわ」
ルビナ姫は俯いて、泣きながら悔しくて床を何度も叩き、洟をすすり嗚咽し、涙を両手で拭う。

僕は何も言わなかった。
キミは自分で気付けたんだ。それでいいんだ。
僕はルビナ姫の背中に微笑んだ。

「フハハハハッ。さっきのは痛かったぞ! オレを怒らせたのはお前が初めてだ! 気に入ったぞ!」
その時、麻里亜が鉄扉を蹴飛ばした方から大男の悪魔の様な声が降って来た。 

ルビナ姫の泣き声が止んだ。「今の声、なに?」とルビナ姫が僕に振り向いて訊いてくる。
僕は寒気がして両腕を両手で擦る。
あの男、まだ生きてたのか。僕は歯を食いしばって毒ガスの向こうを睨む。
毒ガスが充満する中で大男の影が揺らぎ、大男が僕たちの前に姿を現す。
大男の背中の機械から火花が散っている。
どうやら、麻里亜の攻撃は効いたみたいだ。

「なんてことなの。あ、悪夢だわ……」
ルビナ姫は大男を見て口許を手で覆い気絶してうつ伏せに倒れた。
僕は気絶したルビナ姫を見る。キミは気絶してた方が都合いい。
それにしても、キミはあの男を知ってるのか?

大男はルビナ姫が気絶したのを見て不気味に笑った。
大男は首を傾げ、人たち指を突き立てて左右に小さく振り挑発する。そして、両手を大きく横に広げる。
「ショータイムはこれからだ! 今からデスゲームを始める。オレが屋敷に仕掛けた爆弾の爆破スイッチを押す。制限時間は三分だ。その間に逃げれば、お前たちの勝ちだ。出口はオレが塞いだ。この絶望を味わうがいい! フハハハハッ」
大男は両手の手首をクロスさせ爆破のジェスチャーをした。
大男は不気味に笑いながら後退して、空間が揺らいで大男は毒ガスの中に消えた。

爆破だって?
なんて残酷なんだ。
僕は床を拳で叩き、大男が消えた方を睨んだ。
背中には嫌な汗をべっとりと掻いている。
麻里亜の治療で少し楽になったが、絶望感で今にも意識が吹っ飛びそうだ。
僕は麻里亜を見る。麻里亜は僕の期待に応える様にゆっくりと瞼を開けた。

「チャージ完了。ジン様。三分後にワタシのシールドは強制解除され、ワタシのエネルギーが限界に近づきます。どうしますか?」
麻里亜が片膝を突いたまま、僕に振り向いて冷たく言い放つ。 

僕は床に手を突いて、麻里亜の傍に寄る。
「麻里亜、無茶させてごめん。僕がしっかりしていれば、こんなことにはならなかったのに……」
僕は麻里亜の傍で片膝を床に突き、麻里亜の肩にそっと手を載せる。
麻里亜と顔を合わせられず、僕は俯き瞼を閉じて首を横に振る。

「警告。爆破まで三分です。組員は速やかに退避してください。繰り返します……」
その時、感情のない女性の機械音声が監禁室のスピーカーから聞こえる。

僕は絶望に駆られ、両手の掌を床に突き、拳で思いっきり床を叩く。
くそっ。どうすればいいんだ。
考えろ、なにか策があるはずだ。
嫌な汗が頬を伝い顎から滴る。

今回、ジンくんと麻里亜の淡いシーンがありました。人間的なアンドロイドである麻里亜を書きたかったんです。ジンの幼い頃から麻里亜はジンの面倒を見てきました。ジンに好意を抱いてもおかしくはないなと。作者は思いました。結果的に、いい話が書けたと思います。

+ 空間移動-

空間移動
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☆前回のあらすじ☆

麻里亜との口づけでジンは治療され、気絶していたルビナ姫が目覚める。ルビナ姫とは、ちょっとした悶着があった。
そして、生きていた大男は部屋に毒ガスを撒き、爆破スイッチを押して三分間のデスゲームが始まる。

☆空間移動☆

「警告。爆破まで三分です。組員は速やかに退避してください。繰り返します……」
その時、サイレンとともに感情のない女性の機械音声が監禁室のスピーカーから聞こえる。

僕は絶望に駆られ、両手の掌を床に突き、拳で思いっきり床を叩く。
くそっ。どうすればいいんだ。悔しくて歯を食いしばる。
考えろ、なにか策があるはずだ。床に突いた掌を握り締める。
宙を見つめ、嫌な汗が頬を伝い顎から滴る。

その時、青白い障壁内に暗闇に浮かぶ大男の上半身のアップ映像が映る。
映像が乱れ、大男の不気味な呼吸音が響く。
「諸君、御機嫌よう。寛いでいるかね?」
ノイズの混じった大男の声は勝ち誇ったように不気味に笑っている。

この声は……あいつだ。
「!?」
僕は顔を上げて、大男を睨み据える。
僕は怒りに狂って立ち上がり、青白い障壁内を叫びながら拳で何度も叩く。

大男は挑発するように不気味に笑いながら人差指を突き出して小さく左右に振る。
「死ぬ前にお前たちを拉致した理由を教えてやる。兵器だよ、わかるか? 生体実験のためにお前たちを拉致した。生体兵器開発のために人間を攫い、極秘の研究施設で生体研究を行う。軍事兵器を創るのだ。フハハハハッ。ちょうどいい、完成したばかりの生体兵器シェリアの性能テストをしよう」
大男は椅子から立ち上がり、カメラ目線で奥へと腕を伸ばす。
奥には燃えるような紅く長い髪とオレンジ色の瞳で戦闘スーツに身を包んだ少女が無表情で椅子に座っている。
少女は瞬きもせずに太腿の上で拳を握り締めている。
椅子の後ろで手枷を嵌められ、足には足枷を嵌められている。口にはさるぐつわ。
大男が少女の頭に布を被せ、腰のホルスターからオートマチック銃を抜き、少女のこめかみに銃口を突きつける。
少女は無抵抗で無言のまま。

僕は悲しくなり、涙が滲む。
「やめろ……やめてくれ……」
僕は映像に釘付けになり、両膝を床に突き、俯いて拳で青白い障壁内を叩く。

「オレの名前はジョー。西のアルガスタ、闇の支配者だ。時は来たり、時代は暗黒を迎える!」
大男は引き金を引いて一発の銃声が響く。

「!?」
僕は銃声に驚いて顔を上げる。
許さない。僕は、お前を許さない。
僕は歯を食いしばって大男を睨み据える。

少女はぐったりと俯いている。
大男が両手を広げて高笑い、映像はそこでブラックアウトした。

僕は動揺して眼がさざ波の様に揺れ、しばらく青白い障壁内の一点を見つめていた。
悔しくて涙が滲み、手の甲で涙を拭う。
僕はやるせなくなり、拳を握り締めて俯く。
脱出してやる。絶対、脱出してやる。
平気で人を殺す人間を野放しにはできない。
でも、どうすれば。考えるんだ。
ふと頭の中で大男が消える瞬間が過る。
そういえば、あの男はどうやって脱出したんだ?
あの男が消える時、空間が揺らいだ様に見えたけど。
そうだ。あの男が脱出に使った技術を使えれば、ここから脱出できるかもしれない。
でも、僕じゃ無理だ。やっぱり、麻里亜が頼りだ。諦めちゃいけない。
僕は瞼を閉じて首を横に振る。
顔を上げて、僕は希望を胸に麻里亜を見る。

麻里亜は僕に背を向けて両手を横に広げ、両手の掌が青白く光っている。
麻里亜の周りに球形の青白い障壁が形成され、青白い障壁の周りに青白い電気がバチバチと走っている。
麻里亜が無表情で僕に振り向く。
「ジン様。私のコアを犠牲に、これより空間移動を展開します。最善の脱出法を検索した結果です。パワーチャージに時間を要します」
麻里亜の眼が寂しそうに顔を戻した。

麻里亜、何をしようとしてるんだ?
嫌な予感がして僕の鼓動が高まり、僕はぐっと胸を押さえる。
「空間移動? 麻里亜、どういうこと? 麻里亜は死んじゃうの!?」
僕は泣きながら麻里亜の首に両手を回して、麻里亜の背中に抱き付く。

麻里亜は僕の手を優しく握った。
「短い間でしたがお世話になりました。ジン様と口づけをした時、ワタシは胸の鼓動が高まりました。これが恋という感情なんでしょうか? ワタシは泣くことができません」
麻里亜はそっと僕の手から自分の手を離し、また腕を広げて掌を広げる。

僕は悔しくて麻里亜の肩を拳で叩く。
「別の脱出法を探せばいいじゃないか! まだ時間はあるだろ!? 麻里亜が死ぬなんて、僕は嫌だからな!」
僕は麻里亜の背中に抱き付いたまま嗚咽する。
こんなの嫌だ。

「時間がありません。ジン様、ワタシはジン様の母親になれましたか?」
麻里亜の冷たい声が棘の様に降ってくる。

僕は溢れる涙を手で拭う。
「……もちろんだよ。麻里亜、僕のこと好きだったんだね。初めて知ったよ、ありがとう。最期に麻里亜とキスできて嬉しかった。麻里亜のことは絶対忘れない」
僕は洟をすする。垂れた鼻水が麻里亜の背中に張り付く。
僕は麻里亜の服に垂れた自分の鼻水を拳でごしごしと擦る。なんだか可笑しい。
夢だと思って、頬を強く摘まむ。痛い、夢じゃない。
麻里亜は僕を死ぬ気で守ろうとしている。
麻里亜が本気なんだと理解した。麻里亜との思い出が頭に過る。
麻里亜がメガネを掛けて家庭教師をしてくれたり、麻里亜が色んなことを知っていたり。
麻里亜と一緒に街に出掛けたこと。麻里亜と一緒に遊んだこと。
僕は涙を手で拭う。僕たちを守るために、麻里亜は命を犠牲にする。
だったら、麻里亜を止めちゃいけない。
僕は溢れる気持ちを抑えるように、拳を握り締めた。
僕は片膝を床に突いて立ち上がり、麻里亜の肩にそっと手を載せる。

「ジン様との思い出を共有できてワタシは光栄です。ワタシはジン様とお付き合いしたかったです」
麻里亜が残念そうに俯く。
僕は照れて頭の後ろを掻く。
「そ、そうだね……キ、キスくらいなら、できるんだけどねっ。な、なに言ってるんだろ、僕ってば。アハハハハッ」
僕の頬が恥ずかしさで火照り、頭の後ろを掻きながら、気を紛らわすように愛想笑いする。
そういえば、麻里亜は女の子っぽくなった気がする。僕は麻里亜の背中を見つめる。
あれ? 麻里亜って何歳なんだろ? 見た目は僕より年上な気がするけど。
麻里亜が顔を上げて、僕に振り向く。
「ジン様。私の最期の我が儘です。ワタシはジン様が好きです。もう一度、ワタシと口づけしてくれますか?」
麻里亜の年齢を聞こうとした矢先に、麻里亜の淡い願いが込められた冷たい声が降ってくる。

僕は思わず麻里亜の肩から手を離して後退り、間抜けに飛び上がる。
「え、ええー!? や、やだよっ。恥ずかしいよ……そ、その、心の準備が……」
麻里亜から顔を背け、僕の顔が火照り、気まずそうに人差指で頬を掻く。
もじもじと指を絡めながら僕の視線が、何故か気絶しているルビナ姫にいってしまう。
今のルビナ姫に聞かれてないよね? うわー、恥ずかしくなってきた。

「ワタシは最期までジン様を守ります。ワタシの想いを無駄にするつもりですか? 後悔しないでください」
麻里亜の熱の入った言葉が聞こえる。

僕は俯いて拳を握り締める。
「!? そ、そうだね……」
僕は生唾を飲み込み喉を鳴らし、麻里亜の横顔を一瞥して麻里亜の脇を回り、胸を手で押さえて麻里亜と向き合う。
僕は恥ずかしさで麻里亜の顔をまともに見ていられず、麻里亜から顔を背け瞬きしながら麻里亜を横目で見る。

スピーカーから警告音のサイレンが鳴り響く。
「爆破まで残り一分です。組員は速やかに退避してください。繰り返します……」
その時、感情のない女性の機械音声が監禁室のスピーカーから聞こえる。

僕は緊張で生唾を飲み込んで喉を鳴らし、両手の拳を握り締める。
意を決して瞼を閉じ、瞼に力を入れてゆっくりと麻里亜と口づけした。
僕の鼓動が高まる。

『ありがとうございます。ジン様、ワタシはこれでプログラムを消去できます。思い残すことはありません』
麻里亜の優しい声が頭に響く。
麻里亜のテレパシーだろうか。
とても心地がいい。

「!?」
僕は麻里亜と口づけしたまま、驚いて眼を見開く。
麻里亜も瞼を開く、麻里亜は両手を広げたまま、優しい眼がさざ波の様に揺れ、麻里亜が僕に微笑む。
球形の青白い障壁の青白い電気がバチバチと音を立てて一層激しくなる。

僕は安心してゆっくりと瞼を閉じる。
ありがとう、麻里亜。さよなら……僕は麻里亜にテレパシーを送る。
僕は麻里亜の頬に両手を当てて、麻里亜と濃厚に口づけする。
僕の鼓動のリズムが落ち着いてゆく。

『さよなら、ジン様……』
麻里亜の声が耳に残る。
麻里亜のメッセージの様に耳鳴りがする。

警告サイレンが鳴る中、激しい揺れとともに、向こうで天井が崩れる音が聞こえる
「爆破まで30秒前。カウントダウン開始します。これより臨界点突破。繰り返します……」
感情のない女性の機械音声が監禁室のスピーカーから聞こえる。

その時、雷が落ちた様な衝撃と轟音が響き、次の瞬間に物凄い重力が僕にのしかかり、僕は押し潰されそうになり苦しくて声を漏らす。
息苦しくて息が荒くなる。ゆっくりと瞼を開けると、麻里亜が僕の唇から離れてゆっくりと瞼を開ける。
麻里亜は僕に微笑む。写真で見た母さんの笑顔がそこにあった。
麻里亜の身体から無数の光の玉が溢れ天に昇ってゆく。
麻里亜は魂が抜かれた様に静かに瞼を閉じて僕に寄り掛かった。
僕は麻里亜を抱き締め、天に昇ってゆく麻里亜の光の魂を仰ぐ。
周囲の景色が物凄い勢いで変わってゆく。映像の巻き戻しのように廊下を抜け、玄関を抜けていく。
次の瞬間には、大きな噴水の傍に空間移動していた。
正面には大きな屋敷が建っている。
ゆっくりと球形の青白い障壁が、青白い電気を激しく走らせながら、火花を散らして消えてゆく。
次の瞬間、屋敷が大爆発して、爆風で僕は麻里亜の身体から離れ、麻里亜に手を伸ばすが爆風で吹っ飛ばされる。
僕の身体がくの字に吹っ飛び、僕は車のドアに激突して、僕は痛みで顔をしかめながらゆっくりと顔を上げる。
車のドアは爆風の衝撃で凹んでいた。誰かが近づいてくる影が見える。
僕はそこで気絶した。

今回、麻里亜が自らの命を犠牲にして、ジンたちを助けます。麻里亜の告白、恋という感情。人間らしいアンドロイドが書けたと思います。

+ ジョーと麻里亜-

ジョーと麻里亜
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☆前回のあらすじ☆

麻里亜は自らの命を犠牲に空間移動を展開させ、麻里亜は最期にジンとの淡い思い出を作る。
そして、麻里亜の空間移動により、なんとかジンたちは屋敷の外に脱出し、屋敷は大爆発を起こす。
爆風でジンは吹っ飛んで車のドアに激突し、ジンに近づく影。ジンはそこで気絶する。

☆ジョーと麻里亜☆

次の瞬間、屋敷が大爆発を起こす。
爆発の熱気が僕を襲い、爆発の熱気が僕の髪を撫でる。
ガラスの破片、壁の破片が僕の腕を掠め、僕は麻里の胸に顔を埋めて痛みで顔をしかめる。
爆風の強い力に押されて僕は麻里亜の身体から離れ、麻里亜に手を伸ばすが僕は爆風で吹っ飛ばされる。
僕の身体がくの字に吹っ飛び、僕は噴水の傍に停めてあった白いバンのサイドドアに激突。
僕は痛みで顔をしかめながらゆっくりと顔を上げる。
振り向くとバンのサイドドアは爆風の衝撃で凹んでいた。
顔を戻すと、誰かが僕に近づいてくる揺らいだ影が見える。
僕はそこで気絶した。

『ジン様。起きてください。危険が迫っています』
暗闇の中で、僕の頭に麻里亜の声が響く。

麻里亜? どこなの?
僕は暗闇の中で辺りを見回す。

『あの男が来ます。ワタシはジン様の心で生きています』
麻里亜の声が聞こえなくなると、光が射した様に僕の視界が明るくなり、僕は顔の前を手で遮る。

「!? ぐっ」
次の瞬間、急に誰かに首を絞められて息苦しくなり、僕は瞼を開ける。
あの男がバンの傍で僕の首を絞め上げ、僕は大男の腕を拳で何度も叩く。
大男の腕を爪先で蹴って必死に抵抗する。
苦しくて言葉が喉に引っかかって出せない。

大男は僕を睨み、不気味に喉の奥で笑っている。
「外の空気はどうだ? やはり、あの女の力か。あの女を甘く見ていた。言え、あの女は何者だ!?」
大男は噴水の傍の石畳に横になって倒れている麻里亜を力強く指さす。

僕は歯を食いしばって大男の手首を両手で押さえ、首を横に振る。
麻里亜のことは何も知らない。父上なら、麻里亜のことを知っているはずだ。

大男はつまらなそうに鼻で笑う。
「まあいい。オレの邪魔をする奴は容赦せん」
大男は僕の首から手を放し、麻里亜に振り向いてバンのトランクに向かう。

大男が自分の首から手を離した時に、僕はお尻を地面に打ち付けた。
お尻を優しく擦り、首を押さえて咳き込む。
あいつ、麻里亜になにする気だ。
やめろ。麻里亜は僕が守る。
僕はゆっくりと立ち上がり、よろけながらバンのサイドドアに凭れて咳き込む。
大男の背中を睨み据え、バンのサイドドアに凭れながら、僕はバンのトランクに移動する。
大男は鼻歌を歌いながらバンのトランク開け、トランクの中からポンプアクションショットガンを取り出す。
ポンプアクションショットガンの銃身を見つめ、片目を瞑ってポンプアクションショットガンを構える。
大男は麻里亜に振り向き、ポンプアクションショットガンに弾を装填してゆく。

僕はバンのトランクに凭れて咳き込む。
「やめろ。麻里亜に手を出すな……」
僕はポンプアクションショットガンに手を伸ばして、ポンプアクションショットガンの銃身を掴む。

大男は僕の手を払いのけ、片手でポンプアクションショットガンの銃口を僕の顔に向ける。
「邪魔をするなら撃つぞ。顔に風穴を開けたいか?」

僕は黙り込んで、大男から顔を背ける。
大男は勝ち誇った様に喉の奥で笑い、ポンプアクションショットガンを肩に担いで麻里亜の元へと向かう。

僕はバンのトランクに凭れて、大男の背中を睨み据える。
あの男を止めないと。
僕はバンのトランクを離れて、よろけながら大男の元へと向かう。

大男は麻里亜の元に寄ると麻里亜の肩を片足の爪先で乱暴に蹴り、麻里亜をうつ伏せにさせる。
大男は不気味に笑って麻里亜の肩を踏んづけ、ポンプアクションショットガンを肩に担いだまま、呻りながら麻里亜の顔を覗き込む。

大男は訝しげに顎に手を当てて顎を擦る。
「まだこの女のコアは生きてるな。この女が動いたら厄介だ。オレがこの女のコアを破壊する。おっと、邪魔はするなよ?」
大男はポンプアクションショットガンの銃口を麻里亜の胸に向けて僕に振り向き、人差指を僕に突き出して小さく左右に振る。

「くっ。やめろ……やめてくれ……」
僕はやるせなくなり、地面に両膝を突いて俯く。

「それ以上近づくとこの女を撃つぞ。この女のコアを破壊してもいいのか?」
大男の冷たい声が聞こえる。

麻里亜を助けたい気持ちと僕の命が天秤に掛けられた気分だ。
気持ちは僕の命にぐらつく。

僕は生唾を飲み込み喉を鳴らす。
「わ、わかった。これ以上近づかない……」
僕は俯いたまま、拳を握り締める。
なんとなく顔を上げて、麻里亜の様子を見る。

大男は顔を戻し、ショットガンを肩に担いで、麻里亜を見下ろして残念そうに首を横に振る。
「残念だよ。お前みたいな優秀な戦士が、うちの部下に欲しかった」
大男は麻里亜の胸にポンプアクションショットガンの銃口を向け、引き金を引こうとしている。

僕は悔しくて歯を食いしばって地面を拳で叩き、麻里亜に手を伸ばして叫ぶ。
「よせ! 話が違うだろ! 麻里亜ぁぁぁぁぁ!」

その時、大男の背後に向かって剣を横に構えて靴音を響かせ、大男の背中に剣を振り上げるルビナ姫。
「ジョー! あなたの好きにはさせない!」

次の瞬間、硬い金属音が鳴って火花が散り、ジョーが振り向きもせずにルビナ姫の剣を受け止め刀身を握り潰す。
ルビナ姫の剣の刀身がガラスの様に砕け散った。
ルビナ姫がジョーの背中で肩で息をしながら砕けた刀身を握った腕を垂らし、驚愕の表情を浮かべて後退る。

「ル、ルビナ姫!?」
僕は驚いて腰が抜けて盛大に尻餅をつく。
な、なにやってんだよ。キミは大人しくしてればよかったんだ。余計なことを。
あの男を倒すのは、麻利亜しか無理だ。
でも、どうすれば、麻里亜は目覚めるんだ。
くそっ。僕たちじゃ敵わない。毒には毒を。
僕はジョーを睨み据えて、歯を食いしばって拳を握りしめる。

ジョーがルビナ姫に振り返って、ポンプアクションショットガンを肩に担ぎ、ルビナ姫に振り向いて掌を向けて喉の奥で笑う。
「余計な真似をしてくれる。姫にはしばらく眠ってもらおう」
ルビナ姫に向けられたジョーの掌が紅く光り、ルビナ姫はジョーの掌から放たれた衝撃波で吹っ飛んだ。
ルビナ姫は顔の前で腕をクロスさせてくの字に吹っ飛び、噴水に背中が激突して気絶した。
ルビナ姫が握っていた剣がするりと落ちる。

僕はルビナ姫を助けようと立ち上がり、よろけながらルビナ姫の元に向かう。
ルビナ姫。キミの勇敢な行為は称賛に値するよ。僕がその目撃者だ。
麻里亜、ごめん。後で助けるから待っててくれ。
僕は麻利亜に振り向く。

大男が麻利亜に振り返り、ショットガンの銃口を麻利亜の胸に向ける。
えっ? 僕は嫌な予感がして鼓動が高まり、胸を手で押さえる。
落ち着け。麻里亜は大丈夫だと言い聞かせて深呼吸する。

大男の呼吸音が響き、不気味に笑う。
「手間取らせやがる。フハハハハッ。さらば、同胞よ!」
一発の重たい銃声が響き、麻利亜の身体から衝撃波が放たれ、麻利亜の身体から火花が散る。

僕はやるせなくなり、その場で両膝を床に突き俯く。
「そ、そんな……麻利亜……」
両手の掌を地面に突き、俯いて拳で地面を何度も叩く。
麻里亜を助けていれば、こんなことにはならなかったかもしれないのに。
なんで僕はルビナ姫を助けようとしたんだよ。くそっ。
僕は悔しくて涙が滲んで、手の甲で涙を拭う。

その時、門から車やバイクのエンジン音が近づき、やがて僕たちの前で急停止する。
僕は驚いて顔を上げる。なんだ?
パトロール隊のレスキュー車だ。エアバイクまである。
エアバイクはタイヤがなくて、エンジンが掛かると宙に浮くバイク。水上も走れるから便利だ。
でもエアバイクはパトロール隊の乗り物なんだよね。カッコイイけど。
パトロール隊が来たってことは、僕たちは助かったのか?
僕は緊張で生唾を飲み込み喉を鳴らし、固唾を呑んで見守る。

今回、麻里亜が……な展開になりました。麻里亜ごめんよ。

+ ジョーの計画-

ジョーの計画
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☆前回のあらすじ☆

麻里亜の空間移動でなんとかジンたちは監禁室から脱出することができた。
ジョーが麻里亜のコアを破壊しようとするが、ルビナ姫が剣で立ち向かうが返り討ちにされる。
そして、ジョーはポンプアクションショットガンで麻里亜のコアを破壊。
ジンは麻里亜を失い絶望に駆られる中、何故かパトロール隊がやってくる。

☆ジョーの計画☆

その時、正門をぶち破って車やバイクのエンジン音が近づき、やがて僕たちの前で急停止する。
僕は驚いて顔を上げる。なんだ?
パトロール隊のレスキュー車のバンだ。エアバイクまである。
エアバイクはタイヤがなくて、エンジンが掛かると宙に浮く近未来バイク。水上も走れるから便利だ。
でもエアバイクはパトロール隊の乗り物なんだよね。カッコイイけど。
パトロール隊が来たってことは、僕たちは助かったのか?
僕は緊張で生唾を飲み込み喉を鳴らし、固唾を呑んで見守る。

エアバイクに跨って黒い制服を着た隊員が次々にエアバイクから降りて、ヘルメットを脱ぎヘルメットをシートの上に置く。
隊員はジョーの元へと駆け寄り、ジョーを取り囲む。
隊員は一斉に腰のホルスターからオートマチック銃を抜いて、オートマチック銃をジョーに構える。

その時、レスキュー車の運転席のドアからヘルメットを被ったオレンジ色の制服を着た隊員が下りてくる。
ヘルメットを弄りながら、レスキュー隊員が僕に駆け寄ってくる。
レスキュー車の車内で無線が入り、男性の声で何か喋っている。

「ルビナ姫から緊急発信があった。お前はジョーだな。ここで何している!?」
一人の隊員が声を張り上げ、ジョーに訊く。隊長だろうか。

ジョーは不気味に喉の奥で笑い、ポンプアクションショットガンを肩に担いで隊長を睨む。
「姫がパトロール隊を呼んだか。オレの計画が狂ったな、まあいい」
ジョーは左右に首を振り、隊員たちを見回す。

計画? なんのことだ?
僕が物思いに耽っていると足音が近づいてきた。

レスキュー隊員が僕の両肩に手を置いて身体を軽く揺らす。
「君、大丈夫か?」
レスキュー隊員は僕の顔を覗き込む。

僕は声を掛けたレスキュー隊員の顔を見て頷く。
「は、はいっ」
僕はジョーが気になって、ジョーに視線を戻す。

レスキュー隊員が僕に微笑んで、僕の肩に手を回す。
「もう大丈夫だ。歩けるかい?」
レスキュー隊員が立ち上がって歩き始める。

僕は数歩歩いてルビナ姫に振り向いて俯く。 
「あ、あの……僕はまだここにいます。ルビナ姫が心配で、僕にも責任があるんです……」

レスキュー隊員は「そうか」と言って、それ以上何も言わなかった。
レスキュー隊員は噴水で気絶しているルビナ姫の元に僕を連れて行ってくれた。
「キミはここで休んでなさい。私は救急箱を取ってくる。傷の手当てをしよう」
レスキュー隊員が噴水で気絶しているルビナ姫の隣に僕を座らせて、レスキュー隊員はレスキュー車に向かって走った。

僕は隣のルビナ姫に振り向いて微笑む。助けに来たよ。
僕は噴水に凭れて、ジョーをぼんやりと眺める。

ジョーはポンプアクションショットガンを肩に担いだまま、挑発するように片手で肩を竦めて首を傾げて隊長に近づく。
ジョーが隊長の傍に来ると、ジョーは隊長の頭を掌で子犬のようにくちゃくしゃに撫で回した。
「どうした? オレを逮捕しないのか? それとも、令状がないのかな? 上に許可取ってこい。その間にオレは逃げるぞ?」
ジョーは調子に乗って頭を撫で回した隊長の顎にポンプアクションショットガンの銃口を突きつける。
そのまま隊長の顎をくいっと上げて、隊長の顔の前で指を鳴らして挑発する。

「隊長、今がチャンスです。ジョーを逮捕しましょう。このまま見逃すんですか?」
隊長の隣に立っていた隊員がジョーにオートマチック銃を構えたまま、隊長の顔を覗き込む。
ジョーは首を傾げて、ポンプアクションショットガンを隊長の隣の部下に銃口を向ける。
部下の顔が引きつって小さい悲鳴を上げ、ジョーから顔を逸らす。ジョーにオートマチック銃を構えたまま。

隊長は瞼を閉じて首を横に振る。
「できない……上の命令が出ないんだ。上の連中は裏でジョーと繋がってる。私にはどうすることもできない……」
そして、隊長は悔しそうに俯き、震える手でオートマチック銃を下ろす。

部下が隊長に振り向く。
「で、ですが……」
部下の震えた小さな声が聞こえる。

隊長は隣の部下にオートマチック銃の銃口を顔に向ける。
「私は上に脅されているんだ! これも家族を守るためだ。お前にも大事な人がいるだろ!? お前たち銃を下ろせ!」
隊長は隊員たちの顔を見回しながらオートマチック銃の銃口を隊員たちの顔に向けてゆく。

隊員たちは顔を見合わせながら、オートマチック銃を下ろす。

ジョーは高見の見物が終わって不気味に喉の奥で笑う。ポンプアクションショットガンを肩に担ぎ、僕に背を向けて隊長の肩に肘を置く。
隊長は魂の抜けた人形の様に俯いている。隊員たちは心配そうに隊長を見ている。
ジョー隊員たちを見回して、ポンプアクションショットガンの銃口を隊員たちに向けてゆく。
「お前たちの正義はちっぽけなもんだ。逆らうこともできず、従順で犬のように尻尾を振っていればいい。お小遣いを減らされたくなければ、オレに逆らわないことだ。法など、偽りに過ぎん。そうだろ? 闇も光なのだ」
ジョーは親指で自分を差して、「西のアルガスタを支配しているのはオレだ」、言葉を吐いて隊員たちに言い聞かせる。
そして、ポンプアクションショットガンを肩に担ぎ、隊長の肩に手を回して空を仰いで不気味に喉の奥で笑う。

僕はジョーの背中を睨み据え、歯を食いしばり、拳を握り締める。
僕は黙って見ているのか? 僕じゃ何も出来ない。
ジョーに逆らえず、ただ支配される。そんなの国じゃない。
どうすることもできないのか?

ジョーは一人の隊員を指さして首を傾げる。
「お前、似ているな。オレが嫌いだった親父に」
ジョーが隊長の肩から離れて、指を差した隊員の元に向かい、ポンプアクションショットガンの銃口を隊員の顎に突きつける。
そのまま隊員の顎をくいっと上げる。
隊員の顔が引きつり、小さく悲鳴を上げて気まずそうに視線をジョーから逸らす。

ジョーは隊員の顔を覗き込んで、不気味に喉の奥で笑う。
「オレの親父は、生体兵器のために実の息子であるオレを実験台にしたのだ。その結果、オレは化け物になった。オレは親父を憎み、この手で親父を殺した。オレの中で殺意が芽生え、母親も兄も殺した。オレは化け物になったのだ。フハハハハッ。お前を見ていると思い出す。親父をな」
隊員がジョーから顔を背けたので、ジョーは口許を押さえて、自分に顔を向けさせる。
隊員の顔が引きつり、「こ、殺さないでくれ」と、生唾を飲み込み喉仏が動く。
ジョーは隊長に顎をしゃくり、喉の奥で楽しそうに笑う。
「お前が殺せ。自分の部下を殺すか、それともお前が死ぬか」
ジョーはポンプアクションショットガンを肩に担ぎ、肩を竦めて首を傾げて後退った。
ポンプアクションショットガンを肩に担いだまま、腰に手を当てて、楽しそうに二人の高見の見物をしている。 

隊長はジョーが指さした部下にオートマチック銃の銃口を静かに構え、震える手で部下にオートマチック銃の銃口を向ける。
「……できない。自分の部下を殺すなんて、私にはできない。職を辞めた方がマシだ……」
隊長は泣きながらオートマチック銃を下ろし、俯いて胸のバッチを取って地面に落とす。
部下も静かに俯き、拳を握り締める。
「隊長……僕も職を汚すなら、ここでバッチを捨てます」
部下は胸のバッチを取って地面に放り投げ、オートマチック銃も放り投げる。

ジョーは瞼を閉じて片手で肩を竦め、残念そうに首を横に振る。
「ショーを見れなくて残念だよ。お前たちの敬意を込めて、オレがお前たちの正義を散らしてやる」
ジョーはポンプアクションショットガンを構えて、隊長と自分の父親似だと指さした隊員を撃つ。
二人は抵抗することなく、ジョーに撃たれて仰向けに倒れた。

そ、そんな。
僕は目の前で起きたことを、黙って見ているしかなかった。
僕が無力だから? 僕は瞼を閉じて首を横に振る。違う、そうじゃない。
僕が立ち上がろうとしたら、横からルビナ姫の手が伸びてきて僕を制する。

ジョーは喉の奥で不気味に笑いながら、ポンプアクションショットガンを下げて倒れた隊長の元に向かう。
隊長の傍でポンプアクションショットガンを肩に担いで、片膝を地面に突いて膝の上に腕を載せて屈み込み、ジョーは隊長の顔を覗き込む。
隊長の開いた瞼をジョーは片手で閉じ、ジョーは瞼を閉じて胸の前で静かに十字を切る。
「戦士よ、安らかに眠りたまえ」
ジョーが立ち上がり、何故かポンプアクションショットガンを投げ捨てる。
「降参だ。好きにするがいい」
ジョーは隊員を見回しながら、その場でゆっくりと両膝を地面に突き、両手を高く上げた。

どういうことだ?
意図的に降参したのか?
ルビナ姫に手で制されたまま、僕の眼が動揺でさざ波の様に揺れている。
その時、ルビナ姫がおもむろに起き上がり、よろけながらジョーの元に向かう。

僕はルビナ姫を眼で追う。
「お、おい」
僕はルビナ姫の背中に手を伸ばす。
キミが行ったところで、どうなるっていうんだ。
僕はどうなっても知らないぞ。
僕はルビナ姫の背中に手を伸ばしたまま、ルビナ姫を静かに見守る。

ルビナ姫が鬱陶しそうに髪を掻き上げる。
「あなたたち、何してるの? 突っ立ってないで、さっさとジョーを拘束しなさい。それでも国を守る人間なの? ジョーを逃がすつもりかしら? 答えは目の前に出ているでしょ?」
ルビナ姫が隊員の間を割って入り、ジョーの前まで歩み寄る。
ルビナ姫はスカートを捲って太ももに巻き付けて装着したホルスターからオートマチック銃を抜いて、ジョーにオートマチック銃を構える。

隊員の一人がルビナ姫に驚いて振り向き、死人でも見るようにまじまじとルビナ姫の顔を見る。
「ひ、姫様……気絶してたんじゃ……」
隊員たちが顔を見合わせている。

ルビナ姫はオートマチック銃をジョーに構えたまま、ジョーを睨み据える。
「目の前で人が死んだのよ!? 私は暢気に寝てられない。もう甘えてる私じゃないの。ジョー、動かないで。あなたの身柄を拘束し、ゾット刑務所に連行します。そこで罪を償いなさい。時間が罪深さを教えてくれるわ。少しでも動いたら撃つわよ?」
ルビナ姫がよろけて、傍の隊員が慌ててルビナ姫の肩を両手で支える。

ジョーはルビナ姫に振り向いて、ルビナ姫を睨んで不気味に喉の奥で笑う。
「まだ立てるか、姫よ。オレを逮捕するのか? 面白い。お前になにができる?」
ジョーが喉の奥で笑い、挑発するようにルビナ姫を指さし、人差指を突き出して人差指を小さく左右に振る。
ジョーは人差指をルビナ姫に向けて、人差指の指先から赤いレーザーを放つ。
赤いレーザーはルビナ姫の肩を貫く。

「うっ」
ルビナ姫は顔をしかめてオートマチック銃を地面に落とし、怪我を負った肩を押さえる、

ほらみろ。足手まといになっただけじゃないか。
僕は拳を握り締める。
王女のくせに、自分で何も出来ないのに無茶して。
僕は歯を食いしばる。もう我慢できない、黙って見ているのは嫌だ。ルビナ姫を助けないと。
僕は噴水から立ち上がって、よろけながらルビナ姫の元へと向かう。

ジョーは両膝を地面に突いたまま緑のシャツの袖を捲って、デジタル腕時計を見て空を仰ぐ。
「時間だ。オレはこれからズール砂漠に新型ミサイルのテストに向かう。ミサイル一つで街が吹っ飛ぶ。会場には悪どもが集まっているのでな。さて、幾らでミサイルが売れるかな?」
ジョーは挑発する様に人差指を突き出し小さく左右に振り、両手首をクロスさせて爆発のジェスチャーをして、不気味に喉の奥で笑う。
ジョーが立ち上がろうとすると、ルビナ姫が地面に落としたオートマチック銃を素早く拾い上げて、片手でジョーを撃った。
ジョーはそのままの態勢で首を傾げ、不気味に喉の奥で笑う。不気味な呼吸音が響く。

街が吹っ飛ぶ新型ミサイル?
そんなことさせない。
僕は拳を握り締める。

ルビナ姫が自分を支えてくれている隊員の脇腹を乱暴に肘で小突く。
「なにしてるの!? さっさとジョーを拘束しなさい!」
ルビナが顔をしかめて両膝を地面に突き、怪我をした肩を手で押さえたままジョーに顎をしゃくり大声で叫ぶ。

隊員たちが驚いて顔を見合わす。
「は、はっ!」
隊員がジョーの元に駆け寄り、制服のポケットから銀色の輪っかを取り出し、ジョーの両手首に銀色の輪っかをかける。
すると、銀色の輪っかはぴっと機械的な音が鳴ってジョーの両手首に締まる。
ジョーが隊員に連行されてゆく。
ジョーが連行されてパトロール隊のバンに乗り込もうとしたとき、ジョーが空を仰ぎ人差指で空を指さす。

その時、噴水の傍の石畳に影が現れ、少しずつ影が大きくなる。
隊員たちが不思議そうに空を見上げる。
ルビナ姫が額に手を当てて空を見上げ、僕も空を見上げる。
空から四つのパラシュートをつけたジープの装甲車が風に揺られながらゆっくりと落ちてくる。
ジープの屋根にはミサイルが二発積まれて固定されてある。
ジープの装甲車が地面に近づく時、運転席の窓から銀色の筒が落ちてきた。
地面に落下した銀色の筒は転がりながら、筒の穴から白いガスが噴出された。

今回は複雑な心理描写が書けたかな?下手ですが・・・

+ ジンの決意-

ジンの決意
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☆前回のあらすじ☆ ナレーション:ジン

ルビナ姫の緊急発信でパトロール隊がジョーの屋敷の入り口にやってきて、ジョーを取り囲む。
しかし、ジョーの権力で何もできないパトロール隊。ジョーは見せしめに隊長と部下を殺した。
そして、ジョーは恐ろしい計画を企てていた。その全貌は新型ミサイルのテストで街を滅ぼす計画だった。
そんな時、何故かジョーが降伏した。パトロール隊のバンにジョーが連行される時だった。
上空からパラシュートを付けたジープの装甲車が現れた。

☆ジンの決意☆

その時、噴水の傍の石畳に影が現れ、少しずつ影が大きくなる。

「なんだあれは?」
隊員たちが不思議そうに空を見上げる。
隊員たちの顔が影で翳る。

ルビナ姫が額に手を当てて空を見上げ、僕もルビナ姫を見習って空を見上げる。
空から四つの黒いパラシュートを付けたジープの装甲車が風に揺られながらゆっくりと落ちてくる。
ジープの屋根にはミサイルが二発積まれ、しっかりとベルトで固定されてある。
ジープの装甲車が地面に近づく時、運転席の窓から銀色の筒が落ちてきた。
地面に落下した銀色の筒は転がりながら、筒の穴から白いガスが噴出された。

数秒後に隊員の悲鳴が聞こえる。
「ぐあああああ!」
次々に隊員が地面に倒れる重い音が聞こえる。

僕はパニックに陥り、なんとなくルビナ姫を見る。
ルビナ姫が慌てて口元を手で覆いながら、スカートのポケットから二枚のハンカチを取り出す。
ハンカチで口元を覆い咳き込みながら、ハンカチを手に持ってスカートの裾を持ち、慌てて僕の元へ駆け寄る。

僕はルビナ姫を見習い、慌てて袖で口許を押さえる。
白いガスに目を凝らす。また毒ガスなのか? それとも、ジョーの新しい兵器か?
こんなの惨すぎる。罪のない人を殺すなんて。
許せない。僕は片手で拳を握り締める。
ルビナ姫が僕の傍に来ると、僕はルビナ姫からハンカチを受け取り、口元をハンカチで覆った。
ルビナ姫は僕と手を繋ぎ、パトロール隊のバンに顎をしゃくって駆け出す。
ルビナ姫の足元がおぼつかずこけそうになり、慌てて僕がルビナ姫を抱いて支える。
ルビナ姫が僕から離れて頷き、僕たちはパトロール隊のバンに向かって再び駆け出す。
ガスが生き物のように辺りに満ちてゆく。
ガスが僕たちを死の世界に誘うために白い手を伸ばす。

ガスから逃げるため、僕たちがパトロール隊のバンに向かう途中。
近くでジョーの不気味な呼吸音が聞こえる。
「シェリア、遅かったな。五分遅れだ。輸送機の離陸が遅れたか?」
不気味に喉の奥で笑う声が聞こえる。

僕の横を一人の少女が通り過ぎる。僕は驚いて少女に振り向く。
ルビナ姫は少女を無視している。そんな状況じゃないんだろうな。
少女は紅く長い髪と目許を覆う黒いバイザーを装着し、戦闘スーツを身に包んでいた。オレンジ色の瞳が黒いバイザー越しに鋭く光る。

僕は思わず立ち止まって少女の背中を見送る。
やがて少女の影がガスの中に吸い込まれるように消えた。
ルビナ姫が僕の手を引っ張って僕は我に返る。
僕はルビナ姫に振り向くと、ルビナ姫はハンカチを口許で押さえたまま首を横に振る。
ルビナ姫の意思が伝わり、僕は頷く。
僕たちは手を繋いだまま、パトロール隊のバンに向かって駆け出した。
僕は走りながら首を傾げる。
あの子、どこかで見た様な……紅い髪、オレンジ色の瞳。どれも特徴的だ。
そうだ。麻利亜の空間移動の時に、映像に映ってた女の子だ。
あの子、麻里亜と似てたから印象に残ってる。
名前はシェリアだったかな。でも、あの子はジョーに撃たれて死んだはずじゃ……
僕は否定するように瞼を閉じて首を横に振る。まさかね。
ガスの中でオートマチック銃の銃声が聞こえる。僕は動揺して振り向く。
数秒後にドアが閉まる音が聞こえて、エンジン音が遠ざかる。

くそっ。何が起こってるんだ。僕は動悸で息が荒くなる。
ガスが晴れないと見えない。麻里亜を助けないと。
でも、今はガスを吸うと危険だ。ガスが晴れるまでバンの中で待たないと。
ルビナ姫がパトロール隊のバンのスライドドアを開けて、僕を片足で蹴って乱暴に中に押し込む。
ルビナ姫が乱暴にスライドドアを閉め、僕はドアを閉める音に驚いて両耳を両手で塞ぎ、片目を瞑る。
ルビナ姫が運転席のドアを開け、運転席に座り、運転席のドアを勢いよく閉める。

僕はハンカチを乱暴にシートに投げつけ、シートから身を乗り出す。
「何する気だよ! ガスが晴れるまで待つんだ、麻里亜を助けないと」
車内の上にはショットガンやマシンガン、さらには弾や手りゅう弾が金属ベルトで固定されている。
ルビナ姫は僕を無視して、ハンドルの傍のエンジンスタートボタンを押す。
ぴっと機械的な音が鳴ってエンジンが掛り、警告音が車内に響く。
運転席のモニターが赤く点滅している。
「警告。車内に異常な神経ガスの侵入を察知しました。これより空調システムを起動します」
感情のない女性の機械音声が車内に響く。
運転席のクーラーやエアコンの通風口から、掃除機の様な音とともに車内に漂うガスが吸い取られてゆく。

ルビナ姫が運転席から振り向く。
「ガスが晴れるまで待ちましょう。ガスが晴れたら飛ばすわよ!」

僕は窓の向こうの濃いガスの中、目を凝らして運転席の背もたれを拳で叩く。
「ふざけるな! 麻里亜を置いていけない! 麻里亜を助けないと……」
僕はスライドドアを開けて、今すぐにでも麻里亜を助けに行こうとする。

ルビナ姫がドアをロックしたのか、ぴっと機械的な音が鳴る。
スライドドアを開けようとしても開かない。ドアにロック解除も見当たらない。
「警告。外は神経ガスが満ちているため、外に出るのは危険です。死亡率100%」
感情のない女性の機械音声が車内に響く。

僕はシートから身を乗り出して、歯を食いしばってルビナ姫の襟首を掴む。
「ここから出せ! なにしてるんだ!」
狂ったようにルビナ姫の横顔を睨み据える。

ルビナ姫が僕の手を払いのけ、僕に振り向いて僕の肩を掴んで必死に揺らす。
「あなた、どうしちゃったのよ!? まだ彼女に執着してるの!? 彼女はもう戻らないのよ!? 今やるべきことがあるでしょ!? 彼女なら隊員が弔いしてくれるわよ……他の隊員は恐らくガスにやられたでしょうね……」
ルビナ姫が僕の肩から手を離し、俯いて首を横に振る。

僕は怒りが込み上げ、またルビナ姫の襟首を掴む。
「そんなことはどうだっていいんだ! 父上の研究所で麻里亜を修理してもらえば、なんとかなるかもしれないだろ!」
僕は歯を食いしばってルビナ姫を睨み、片手の拳を握り締める。

ルビナ姫がまた僕の手を払いのけて、僕の頬を平手で思いっきりぶつ。
肌と肌が触れる鈍い音が響く。
「甘えてるんじゃないわよ!? 逝ってしまった人は戻らないの。たとえ彼女がアンドロイドでも。目を覚ましなさい! これで、あたなに説教された借りは返したわよ? おあいこよ」
ルビナ姫はそっぽを向いて腕を組み、窓の外を寂しそうに見つめている。
運転席の窓にルビナ姫の悲しい顔が映る。

僕の眼が動揺でさざ波の様に揺れて、ルビナ姫にぶたれた頬を指先で擦る。
やがてやるせなくなり、シートにゆっくりと腰を下ろして俯く。
「な、なにするんだよ……あ、ありがとう、ルビナ姫。おかげで目が覚めたよ、僕が間違ってた。もう麻里亜は戻らない。僕たちができることを、今やろう……」
僕は滲んだ涙を手の甲で拭い、洟をすすった。

その時、窓を叩く音がして、僕は顔を上げて窓に振り向いた。
「た、助けてくれ……」
手や顔の皮膚が溶けて焼けただれ、変わり果てた隊員の姿。
やがて隊員が苦しそうに眼を剥いて喉元を掻き毟って、その場に血を吐きながら倒れた。

これは現実だ。ジョーが描いたシナリオなんだ。
僕は気分が悪くなって吐きそうになり、慌てて口許を押さえて窓から顔を背ける。
ルビナ姫が気分を紛らわすために小さい音量で音楽を掛けてくれる。
「これがジョーのやり方よ。ジョーを倒さない限り、深い闇は晴れない。こうしている間にも、西のアルガスタに危機が迫ってるわ。なんとしても、私たちでジョーを止めるわよ」
ルビナ姫が振り向いて、僕に拳を突き出す。

僕はルビナ姫の拳に自分の拳を重ねる。小さな涙を拭って。
「ジョーはズール砂漠に向かったはずだ。ガスが晴れてからジョーを追いかけよう」
ルビナ姫から拳を離し、車内に二人きりという状況に僕は急に恥ずかしくなって顔が火照る。
慌てて両手を振りルビナ姫から顔を背ける。
気を紛らわすために人差指で頬を掻き、ルビナ姫を横目で瞬きしながら見る。

ルビナ姫が額に手を当てて瞼を閉じて首を横に振る。
「私、ちゃんと運転できるかしら。一応、訓練で運転はしたことあるけど。操作を覚えてないのよねぇ」
ルビナ姫が腕を組んで顎に人差指を当てて天井を仰ぎ、心配そうに首を傾げながら唸る。

僕はわざとらしく咳払いする。
「あ、あのさ。僕はあなたじゃないから。ジンって名前があるんだ。今度から名前で呼んでよ……」
僕は後頭部を掻きながら、恥ずかしそうにルビナ姫を上目遣いで見る。

ルビナ姫の顔が狐に頬を摘まれたような顔をしてきょとんと瞬きしている。
「えっ? あっ、ああ、そうね。でも、ジンこそ王女である私を気安くルビナ姫って呼んでるじゃない? ま、まあ、しょうがないわね。特別に私のことをルビナ姫って呼んでいいわよ」
ルビナ姫は顔が火照って、慌てて運転席に向き直る。
運転席に向き直る際にハンドルに肘をぶつけたらしく、ルビナ姫は痺れた肘を手で擦っている。

しばらく気まずい二人の沈黙が続く中、ガスが少しずつ晴れてきた。
僕はゆっくりと後部座席から身を乗り出して、ルビナ姫に振り向く。
「あのさ、本当に運転できるんだろうね? なんか心配なんだけど?」
ルビナ姫の胸を見て、僕は唾を飲み込んで喉を鳴らす。
ルビナ姫が僕に振り向いて手刀打ちで僕の頭を軽く叩く。
「そんなに心配? じゃ下りる? ジンは大人しく後部座席で座ってればいいのよ。助手席に座ったら邪魔になるだけ。いい? 私が運転するわ」
ルビナ姫が呆れたように額に手を当てて瞼を閉じ、首を横に振ってため息を零す。

僕はルビナ姫から目を逸らし、不安でため息が零れた。
ルビナ姫の胸を見て、僕の鼓動が高まって胸を手で押さえる。
「わかったよ。僕は後部座席で大人しく座ってる」
僕は口を尖らせて訝しげにルビナ姫を見ながら、後部座席に腰を下ろして後頭部で手を組む。
ルビナ姫が窓を一瞥して、瞼を閉じて肩を竦めてため息を零した。
「ガスが晴れてきたわね。これでも非常時に運転できる免許を持ってるのよ? まあ、免許は私の部屋にあるけど。これでも色んな訓練を受けたんだから」
ルビナ姫は瞼を閉じたまま額に手を当て、首を横に振っている。
僕はルビナ姫の肩に手を置いた。
「早くしないとジョーに追いつかなくなる。運転頼んだよ」
ルビナ姫は僕に振り向いて僕の肩に手を置き、僕に優しく微笑む。
「ええ。ジンの力が必要だわ。ご協力感謝します」

その時、運転席のモニターから映像と音が流れた。
「緊急速報。街中をジープの装甲車が暴走中。現在、ヘリで追跡中です。ナビゲーションしますか?」
感情のない女性の機械音声が車内に響く。
遠くでヘリコプターの飛ぶ音が聞こえる。

ルビナ姫は慌てて運転席のモニターに振り向いた。
「了解。ナビゲーション開始」
ルビナ姫が両手でハンドルを握り、気合充分に手を動かしている。
僕は後部座席に腰を下ろし、シートベルトを締めて天井の手摺を掴み、生唾を飲み込んで喉を鳴らした。

運転席のモニターの映像と音が消えて真っ暗になる。
「登録外のため、あなたは運転できません。スロットにIDカードを通してください」
感情のない女性の機械音声が響き、警告音が車内に鳴り響く。

ルビナ姫が両手でハンドルを叩く。
「どうなってんのよ! IDカードなんて持ってないわよ!」
ルビナ姫はやるせなくなり、ハンドルに頬をくっつけてぶつぶつと文句を言っている。

どうするんだよ。
このままじゃ、ジョーに追いつかなくなる。
僕は腕を組んで唸った。

☆続く☆ ジンの決意終了後の雑談 ゲスト:ジン

作者:ジンくん、お疲れ様でした。ちょっとナレーション硬くない?
ジン:そ、そうですかね? 僕は普通にナレーションしたつもりだったんですが・・・
作者:次回はもうちょっとくだけた感じでお願いするよ。せっかく、ジンくんにナレーションをオファーしたんだから。
ジン:は、はい。わかりました。
作者:で、ジンくんはルビナ姫のこと好きなの?
ジン:えっ? ええっー? い、いきなりですか? ま、まあ、そうなんですけど・・・
作者:私がルビナ姫とうまくいくように展開を考えるよ。フフフフフ。
ジン:お、お願いします! ☆END☆

ジンくんの物語も、ナレーションと雑談を作ってみました。

激動のカーチェイス

+ ルビナ姫の運転-

ルビナ姫の運転
アーカイブ

☆前回のあらすじ☆ ナレーション:ジン

ガスの魔の手から逃れるため、僕とルビナ姫はパトロール隊のバンに逃げ込んだ。
僕は麻里亜が心配で麻里亜を助けようとするが、ルビナ姫に説得され止められる。
ガスが晴れるのを待っていると、ガスにやられた隊員がバンの窓を叩く。
ガスにやられ、変わり果てた隊員。僕はジョーの非情なやり方を許せなかった。
ガスが晴れ、ルビナ姫がバンを運転しようとしたが、登録外のため運転できなかった。

☆ルビナ姫の運転☆

運転席のモニターの映像と音が消えて真っ暗になる。
「登録外のため、あなたは運転できません。スロットにIDカードを通してください」
感情のない女性の機械音声が響き、警告音が車内に鳴り響く。

ルビナ姫が両手でハンドルを叩く。
「どうなってんのよ! IDカードなんて持ってないわよ!」
ルビナ姫はやるせなくなり、ハンドルに頬をくっつけてぶつぶつと文句を言っている。

どうするんだよ。
このままじゃ、ジョーに追いつかなくなる。
僕は腕を組んで俯き、口を結んで唸った。

ルビナ姫が気合を入れて頬を両手で二度叩いた。
「しっかりしなさい、ルビナ姫。私は王女でしょ。諦めないわよ。ジン、IDカードを探してちょうだい。車内にあるはずよ」
ルビナ姫が運転席から身を乗り出して、助手席のダッシュボードを開けて書類を手探りしている。
書類をダッシュボードに入れ過ぎたのか、ダッシュボードから書類が雪崩の様に落ちる。
ルビナ姫が「ああもう」と文句を垂らし、頭を掻きながら座席の下に落ちた書類を拾い上げてゆく。

僕は書類を拾い上げるルビナ姫を見て頷き、シートベルトをゆっくりと外した。
「僕もIDカード探すの手伝うよ」
僕は後ろに振り向き、後部座席の上に雑に置いてあった黒いジャケットを手に取る。
胸にパトロール隊のロゴがある。ジャケットの両ポケットを手探りしてみるけど、IDカードはない。
あるのは丸めたレシートだけだった。
黒いジャケットを丁寧に畳んで、後部座席の上に置く。

ルビナ姫が乱暴にダッシュボードを閉める音が聞こえ、僕はルビナ姫に振り向く。
「もぉ、IDカードないじゃない! どこにあるのよ!」
ルビナ姫が頭を掻きながらの文句が聞こえる。
僕は運転席で茶封筒の中身の書類を取り出したり、茶封筒の中を見たり、IDカードを必死に探しているルビナ姫を見る。
僕はルビナ姫を見て微笑む。ふと運転席にかけてある黒いジャケットに目がいき、僕は腕を組んで首を傾げた。
意外とポケットにIDカードがありそうだな。運転席にジャケットがかけてあるし。
僕は身を乗り出して、運転席にかけてある黒いジャケットの胸ポケットを手で探ってみる。
何か写真の様な手触りがして、僕はジャケットからそれを抜き取った。
それは、隊員の家の庭でバーベキューをした時の家族写真だった。
息子と娘が笑顔で紙の小皿に盛られた肉を美味しそうにフォークでほおばっている。
二人とも頬に小さなバーベキューソースが付き、息子はカメラから顔を背けている。
娘は愛犬シェパードと頬擦りしてピースを決めている。
夫が妻の背中に手を回して、二人ともカメラ目線で笑顔だ。
写真を撮ったのは誰だろ? 家族の誰かだろうか?
写真の裏には撮影日が手書きで書かれ、『これが僕たちの家族だ』と、メッセが添えられている。
男性の顔を見つめる。彼はジョーの父親に似ているという理由で、ジョーに殺された。
隊員の家族写真を見ているうちに、ジョーの非情なやり方に心がいたたまれなくなった。
僕は拳を握り締め、瞼を閉じて首を横に振る。がくっと肩を落とし、瞼を閉じたまま俯く。
この家族写真を見て、彼は仕事していたのだろうか。 
僕はそっと胸ポケットに写真を戻そうとしたら、ルビナ姫の手が写真に伸びた。

ルビナ姫の指先が震えている。
「その写真……」
ルビナ姫が写真を手に取り、隊員の家族写真を見つめる。
数秒後にルビナ姫は洟をすすり、口許を手で押さえて嗚咽する。
ルビナ姫が無言で瞼を閉じて首を横に振り、口許を手で押さえたまま嗚咽して、写真から顔を逸らして僕に写真を返す。
僕は写真をジャケットの胸ポケットにそっと入れる。
泣いているルビナ姫を放っておき、僕は運転席にかけてあるジャケットの右ポケットを手探りする。
IDカードはなく小銭と飴玉が幾らか入っていて、僕は俯いてポケットに小銭と飴玉を戻す。
今度はジャケットの左ポケットを探る。頭の中でさっきの家族写真の映像が流れる。
何かカード状の手触りがして僕は顔を上げてそれをゆっくりと抜き取る。
それはIDカードではなく、隊員の免許書だった。エドワードアーヴィング巡査35歳。
彼がジャケットのポケットに免許書を入れて、そのまま忘れたのだろうか。
これが彼の最期の任務になるとは知らずに……僕は瞼を閉じて首を横に振る。

僕は免許書に写った彼の笑顔を見て俯き、泣いているルビナ姫に免許書を差し出す。
「ねぇ……IDカードはなかったけど、隊員の免許書がジャケットのポケットに入ってた……」
僕はゆっくりと顔を上げて、ルビナ姫を静かに見つめる。

ルビナ姫が涙を指で拭い、僕から免許書を受け取って免許書に目を落とす。
数秒後に口許を押さえて嗚咽した。
「……彼は、ジョーの父親に似ているだけで、ジョーに殺された……なんてジョーは非情なのかしら……残酷で、冷酷な男。それがジョーよ……残された家族のためにも、私は彼の家族に会うわ……そうね。運転できるかどうかわからないけど、スロットに彼の免許書を通してみましょう」
ルビナ姫が滲んだ涙を指で拭い、僕から免許書を受け取り頷く。
ルビナ姫は運転席のモニターのカードスロットに免許書を通してみる。

僕たちの祈りが通じたのか、機械的な音が鳴った。
「登録者確認、エドワードアーヴィング巡査。彼は現在IDカード更新手続き中のため、免許書での運転を許可します」
感情のない女性の機械音声が車内に響く。

僕たちは顔を見合わせて片手で叩き合う。
僕は胸を撫で下ろす。なんだか複雑な気持ちだ。

「本人確認のため、声紋と指紋を確認します。ハンドルに手を掛け喋ってください」
感情のない女性の機械音声が響き、ルビナ姫をテストするみたいだ。

ルビナ姫が運転席のモニターに振り向く。
僕は運転席に肘をかけて頬杖を突く。
ここまでシステムが厳しいのに、西のアルガスタは無法地帯だからな。
こんなシステム、ジョーが居る限り無意味だ。

ルビナ姫がハンドルを両手で乱暴に叩く。
「なんでよ! 私は王都ガランの王女、ルビナ姫よ! 犯罪者じゃないんだから! 非常時なのに! 頑固な機械ね! 少しはお利口になりなさいよ!」
先ほどの哀愁が吹っ飛んで、怒りで運転席のモニターを睨んで舌を出している。

「……声紋と指紋を確認した結果、エドワードアーヴィング本人ではありませんでした。ですが、先ほどの声紋と指紋を検索した結果、王都ガラン王女ルビナ姫と一致したため、特別に運転を許可します。データを本部に送信します」
感情のない女性の機械音声が響き、静かにエンジンが掛かる。

「や、やったっ! やったわよ! ジン!」
ルビナ姫が顔を輝かせて僕に振り向く。
僕たちは互いに手を取り合って、踊って喜び合い、両手を高く叩き合わせる。
お互いに抱き付き、お互い身体から離れると顔が近くにあったので互いに顔が火照り慌てて二人は顔を背ける。
僕は気まずくなり人差指で頬を掻いている。

「視界、良好。天気、良好。交通状況、一台の暴走車在り。警告、ルビナ姫の運転歴が短いです。安全ドライブのため、ワタシがアシストします。ブレーキペダルを踏んだままハンドブレーキを下げ、シフトをドライブにシフトチェンジしてください」

僕はハンドブレーキとシフトを指さしてルビナ姫に教えた。
これくらい本で読んだことあるから知ってる。

ルビナ姫が袖を捲って首を傾げながら、ハンドブレーキを下げたり、シフトをチェンジしたりしている。
すると、急なアクセル音とともに、バンが後ろに急発進し始めた。

ルビナ姫がパニックになりクラクションを鳴らす。
「な、なんでぇぇぇぇぇ!」
ルビナ姫が絶叫して慌ててハンドルを切る。
車が左へ右へと後進暴走が続く。
バンは停めてあったエアバイクに接触したり、レスキュー車に接触したりしていた。

「警告。現在、車が暴走中……ルビナ姫の運転適性率20%。事故率100%。そのため、緊急停止します」
感情のない女性の機械音声が響き、警告音が車内に鳴り、急ブレーキが掛かって噴水に激突する。
僕は座席から飛び出して、後ろに引っ張られて背中をシートに打ち付ける。
後ろを振り向くと、麻里亜が倒れていた所に何故か麻里亜の姿が消えていた。
顔を戻して、僕は瞼を閉じて首を横に振る。
そうだよ。もう麻里亜は逝ったんだ。僕は前を見て歩くんだ。

ルビナ姫が両手の拳でぽかぽかと頭を叩いている。
「私の運転がそんなに信じられないの! もう、どうなってんのよ!」
ルビナ姫が両手で頭を掻きむしっている。

「後部に破損確認。ルビナ姫のドライブは危険です。これよりオートドライブに切り替えます。ルビナ姫は後部座席に移動してください。命令は受けつけます」
勝手にシフトがドライブにチェンジされて、アクセル音とともにバンがゆっくりと動き出す。
僕は後ろを振り向く。
ルビナ姫が遺体を踏まなくて良かった。僕は胸の前で十字を切ってため息を零す。

バンが突き破った門を踏んだのか、がくんと小さく跳ねる。
フロントガラスから眺める海沿いの街並みが宝石の様に綺麗だ。
向こうに青い海が広がっている。
ジョーの屋敷は丘の上に建っていた。
バンが左にハンドルを切って、エンジンブレーキを効かせながらゆっくりと丘を下る。

☆続く☆ ルビナ姫の運転終了後の雑談 ゲスト:ジョー

作者:ジョーさんは少女趣味ですか?
ジョー:いきなりだな。何故だ?
作者:だって、シェリアさんって少女じゃないですか。
ジョー:可愛い女の子は正義だろ?
作者:それ、ジョーさんが言う台詞じゃないっす。僕の中のジョーさんのイメージがどんどん下がってる。
ジョー:可愛い女の子のフィギアとか集めてるぞ。エロゲーとか集めてるな。
作者:っちょ。それ、思いっきりヲタク趣味じゃねぇかー!? ジョーといえば悪だろー!?
ジョー:……後でオレの部屋に来い。いい物を見せてやろう。レアなメイドのフィギアだ。
作者:てっきり殺されるかと思ったわー! って、あの姿で買ったのか? ガクブル・・・ ☆END☆

ジョーのイメージがぁ・・・なんてこったい。

+ 港町キリカ-

港町キリカ
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☆前回のあらすじ☆ ナレーション:ジン

ルビナ姫がバンを運転しようとするが、IDカードが見つからずにバンを運転できなかった。
僕たちはバンの車内でIDカードを探したけど、IDカードは見つからなかった。
ひょんなことから僕は隊員の家族写真を見つけてしまい、哀愁に浸る。隊員のジャケットから免許書が見つかった。
免許書でバンを運転できたが、ルビナ姫の運転は荒く、バンのオートドライブに切り替わった。

☆港町キリカ☆

バンが突き破った玄関門を踏んだのか、がくんとバンが小さく跳ね、正門まで続くレンガ道を下る。
レンガ道の周りは広大な敷地が広がっており、草地でスプリンクラーが回っている。
フロントガラスから眺める海沿いの街並みが宝石の様に綺麗だ。天気もいい。
背の高いビルやオレンジ色の屋根、高架や鉄橋、港に停まった船やヨットハーバーが見える。
高架上では小さい車が縫い目の様に走り、鉄橋上で貨物列車が走っている。
街の向こうには青い海が広がり、陽光でキラキラと海が光り、大きな貨物船や小さな船やヨットが見える。
港町キリカ。前に父上と麻里亜と僕の三人で旅行で訪れたっけ。
どうりで見覚えがある景色なわけだ。
キリカは景色はいいし、魚介類が新鮮で美味しい。遊ぶ所もある。
けど、お金持ちしか住めないんだろうな。キリカを旅行して思った。
ジョーの屋敷は丘の上に建っていた。
ジョーの屋敷に振り向くと、まだ屋敷の残骸が燃えて白煙が上っていた。
バンが自動で両開きした正門を抜けて左ハンドルを切り、エンジンブレーキを効かせながらゆっくりと丘を下る。

僕はシートベルトのベルトに手を伸ばし、ベルトを両手で引っ張って伸ばす。
「後ろに来ないの?」
シートベルトを締め、シートベルトから顔を上げてルビナ姫に訊く。

ルビナ姫が運転席から顔を出して、口を結んで首を横に振る。
「ジンの隣に座るなんて御免だわ。はしたない、不潔よ」
ルビナ姫が肩を竦め、両手で身体を擦って身震いした。

僕はため息を零して、窓の外を見る。
「そう。運転下手って言われたくせに、なんだよ」
僕はふてくされて愛想笑いして、窓の縁に頬杖を突く。海沿いの街の景色をぼんやりと眺める。
横目でルビナ姫を見て、鼻と喉を鳴らして不敵に笑う。

ルビナ姫が運転席から身を乗り出して拳を振り上げる。
「なによ! ちょっと運転にブランクがあっただけじゃないの!」
悔しそうに助手席のシートを両手の拳で叩いている。
僕を悔しそうに指さし、「ジン、覚えてなさい!」と捨て台詞を吐く。
鼻と喉を鳴らし、運転席に腕を組んで凭れて右手の人差指が落ち着きなく上下に動いている。

ジョーの屋敷に続く丘を下り、一般道と合流して信号待ちで、横断歩道前でバンが止まる。
横断歩道をサングラスを掛けた女性がベビーカーを引いて歩いている。
黒縁メガネを掛けてスーツを着て鞄を下げて歩くビジネスマン。携帯電話を耳に当てて手さげバックを腕に掛けた若い女性。
子供と手を繋いで歩く母親。丸帽子を被り杖を突いて歩くおじいさん。
目の前に駅のロータリーが見え、タクシーが何台も客待ちして、車が停まり、バスや車がロータリーを回っている。
液の周りにコンビニや銀行、スーパーがあって、様々なお客さんが出入りしている。

その時、運転席のモニターからノイズ混じりの無線が入る。
「こちらA班! 現在ジョーを追跡中! 至急応援を頼む! ジョーの追手に追われてる!」
モニターが車内映像に切り替わり、運転席に乗った黒い帽子を被り黒い制服を着た男性が映る。
車内に一気に緊張が走る。
僕はシートから身を乗り出し、運転席のシートに手を突き、運転席のモニターを凝視する。
ルビナ姫も運転席から身を乗り出し、モニターに手を突き、モニターを凝視している。
モニター越しにハンドルを握り、運転席の窓から後ろを振り向く男性。
男性が前を向いて叫び、クラクションを何度も鳴らしている。

映像がかくかくして乱れる。
あれ、音声を拾わなくなったのかな? 声が聞こえない。
僕はモニターを凝視したままシートに凭れ、屋根の手摺を掴む。
緊張して生唾を飲み込み喉を鳴らす。

ルビナ姫が運転席のモニターの縁を手で叩く。
「変ね、壊れたのかしら。ルビナ姫よ! ジョーはどこ走ってるの! 状況を教えてちょうだい!」
ルビナ姫が運転席のモニターを叩いて怒鳴る。

運転席のモニターから、さっきより酷いノイズ混じりの無線が入る。
「ル、ルビナ姫ですか!? ジョーの屋敷の地下牢に閉じ込められてたんじゃ……」
カメラ目線で明らかに戸惑い瞬きする男性の姿が運転席のモニターに映る。

ルビナ姫が運転席のモニターに手を突いたまま、顔を上げてフロントガラスを見たりしている。
「話は後よ! 私もジョーを追いかけてるの! あなたはジョーの屋敷に行ってちょうだい! 殉職した隊員がいるわ……」
ルビナ姫が拳を握り締めた腕を下げ、俯いてモニターに突いた手の甲に額をつける。

ノイズが直ったのか、さっきよりもクリアに無線が聞こえる。
ルビナ姫が顔を上げてモニターを見る。
「了解です。自分はジョーの屋敷に回ります。ルビナ姫、気を付けてください」
隊員がモニター越しに敬礼して、サイレンを鳴らしてハンドルを右に切ろうとした時だった。
助手席の窓に、黒いバイクに跨り、黒いヘルメットを被って黒いライダースーツを着た男がマシンガンを撃ってきた。
隊員のこめかみに銃弾が貫通し、運転席にべっとりと隊員の血がつく。
黒いバイクは加速してモニターから消える。
隊員の額がハンドルに伏せ、車がバランスを失ってふらふら運転になり、数秒後に車が爆発してそこでモニターが消えた。

信号が青になったのかバンが左に曲がって走り出す。
ルビナ姫が口許を両手で覆って絶句している。
「なんてこと……」
ルビナ姫は滲んだ涙を手で拭い嗚咽する。

僕はシートから身を乗り出して、ルビナ姫の肩に手を置く。
「……僕たちで仇を討とう。全て終わらせるんだ」
僕はルビナ姫に微笑んで、フロントガラスを見た。

ルビナ姫は洟をすすり、涙を手で拭う。
「ええ……もっとスピードは出ないの? これじゃジョーに追いつけないじゃないの……」
ルビナ姫が顔を上げて、洟をすすり涙を指で拭う。

バンのスピードが上がる。
僕はスピードメーターを覗き込みと、ぐんぐんと速度が上がっている。
「安全運転では目標に追いつけないと判断しました。今から危険な運転を行いますので真似しないでください。間もなく脇道に逸れます」
感情のない女性の機械音声が車内に響く。

バンが急に右ハンドルを切って、雑草が生えた茶色い土をタイヤが踏んで下ってゆく。
がたがたとバンが大きく揺れ、ルビナ姫が慌ててシートベルトを締めて運転席の手摺に掴まる。
土の道を下り、下の道路と合流した。

下の道路は高級住宅街だった。
道の両端に豪邸が建ち並び、軽装でウォーキングやジョギングをしている人たちがいる。
サングラスを掛けた女性が荷物を掲げて道を横断しようとしていたので、バンのクラクションが鳴る。
道の脇にはスポーツカーや高級車が何台も停めてある。
キリカは裕福な街だ。ジョーによって苦しんでいる人たちには目もくれないだろう。
僕は窓の外の高級住宅街を見て思った。
その時、曲がり角から黒いジープの装甲車が飛び出し、屋根からガトリング砲が現れてガトリングを撃ってくる。

バンの車内に警告音が響き、モニターに上から見たバンの映像が映り、バン全体が赤く点滅している。
「車体の損傷を確認。ダメージ回避のため、路地裏に逸れます」
感情のない女性の機械音声が車内に響き、急ハンドルで左に切り車体が大きく右に揺れる。
僕は屋根の手摺に掴まるが、遠心力で窓に押し付けられ頬が窓に張り付いた。
ルビナ姫は遠心力で窓に思いっきり頭をぶつける音が聞こえた。
バンは車一台が通れるくらいの狭い路地裏を猛スピードで走ってゆく。
小さなバーの裏口にゴミ箱が置いてある。空を仰ぐと洗濯物が干してあり、洗濯物が風で靡いていた。

僕はシートに手を突いて後ろを振り返る。
「撒いた感じ?」
僕は運転席のルビナ姫に振り返る。

ルビナ姫は運転席から僕に振り向いて肩を竦める。
「さあ。待ち伏せしてるかも? 諦めるとは思えないけど?」
ルビナ姫は額に手を当てて後ろに目を凝らす。

その時、数メートル先に曲がり角から出てきた、乳母車を引いたお婆さんが歩いていたので僕は慌ててルビナ姫の肩を叩いて前を指さす。
「あ、危ない!?」
僕はシートから身を乗り出して運転席に手を突き、鼓動が高まり乳母車を引いたお婆さんから目を離せずにいる。

ルビナ姫が慌てて前に振り向く。
「お願いだから事故は避けてよね!」
ルビナ姫が悲鳴を上げて瞼を閉じ、顔の前を腕で遮る。

僕も顔の前を手で遮り、ぎゅっと瞼を閉じる。
バンのクラクションが鳴り、お婆さんの乳母車を撥ねた音が聞こえた。
僕はそっと瞼を開け、何事も無かったことに安心してシートに凭れ瞼を閉じて胸を撫で下ろす。
額の汗を手の甲で拭い息を吐いて振り向く。
お婆さんは驚いて背筋が真っ直ぐ伸びて曲がり角の傍の壁に張り付いていた。
乳母車が横に倒れ、乳母車の中身が散らかり、野菜や果物が地面に転がっていた。
お婆さんが腰を曲げて、地面に転がった野菜や果物を拾っている。
顔を戻すと、ルビナ姫が後ろに振り向いていた。

ルビナ姫が後ろに振り向いたまま、手を合わせて舌を出す。
「お婆さん、ごめんね。私たち急いでるの。それにしても、危機一髪だったわね」
ルビナ姫が額の汗を手の甲で拭い息を吐く。

僕はもう一度お婆さんに振り向く。
「今のは僕もひやっとしたよ」
顔を戻して、僕とルビナ姫は顔を見合わせ、可笑しくて笑い合った。

僕とルビナ姫はシートに凭れた。僕は後頭部で手を組む。
それにしても、長い路地裏だな。
その時、前から二台の黒いバイクが猛スピードで、僕たちのバンに近づいてくる。
黒いバイクに跨った奴は黒いヘルメットを被り、黒いライダースーツを着て黒の革手袋を嵌めて黒いブーツを履いている。
後ろからもバイクのエンジン音が近づき、僕は後ろを振り向く。
後ろからも二台の黒いバイクが猛スピードで、僕たちのバンに近づいてくる。
後ろの黒いバイクに跨った奴も、やっぱり黒いヘルメットを被り、黒いライダースーツを着て黒の革手袋を嵌めて黒いブーツを履いている。
一台のバイクが前輪を浮かせてウイリー走行でパフォーマンスをして僕たちを威嚇した。
こいつら、隊員を殺した奴らだ。
このままじゃ挟み撃ちだ、どうすればいい。

☆続く☆ 港町キリカ終了後のおまけ 出演:ジン・ルビナ姫

とある日の休日。
僕は近所のゲームセンターに一人で遊びに来ていた。
最新のリズムゲームをプレイしていたら、目の前のレースゲームコーナーに現れた一人の不審人物。
サングラスを掛けてマスクをし、ワンピースを着たいかにも怪しい女の子。
彼女はレースゲームが始まるなり、いきなり発狂していた。
「私の運転が下手だからって、なんで機械に怒られなきゃいけないのよ!」
「ジンと車内で二人っきりなんて、空気が持たないわよ!」
「私は王女よ! なんでジンなんかにドキッとするわけよ!」
「あの狭い車内でいつジンに襲われるか、わかったもんじゃないわよ!」
「やってらんないわよ! 今日は遊びまくるわよ!」
僕は確信した。ルビナ姫だ。まだ根に持ってたのか。周りのお客さんに見られているし。
ルビナ姫に見惚れていると、僕のゲームがゲームオーバーで終わった。
ルビナ姫はレースゲームが終わると、大股で不気味に笑いながら僕の後ろを通り過ぎパンチングマシンに向かった。
僕はルビナ姫を眼で追う。
ぶつぶつ文句を言いながら、ルビナ姫は渾身のパンチをパンチングマシンに食らわす。
派手にファンファーレが鳴り、スコアランキング1位になりはしゃぐルビナ姫。
大喜びしたあと、ルビナ姫はスキップしながらプリクラコーナーに向かった。
何が楽しいんだか。って僕もか。一人でプリクラ撮るのかな?
僕はルビナ姫の背中を見て思う。黒いルビナ姫を見た気がした。王女も大変なんだな。☆END☆

今回のおまけは短編仕立てにしてみました。

+ ジョーの暴走-

ジョーの暴走
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☆前回のあらすじ☆ ナレーション:ジン

ジョーを追うため、僕たちは港町キリカをバンで走っていた。
無線で隊員から連絡が入るが、隊員は僕たちの前でジョーの手下に殺された。
安全運転で追いつけないと判断したバンはスピードを上げてジョーを追う。
まるで僕たちを嘲笑うかのように黒いジープの装甲車が現れ、僕たちの行く手を阻む。
バンは黒いジープの装甲車を避けるため路地裏に入るが、ジョーの手下に挟み撃ちにされてしまった。

☆ジョーの暴走☆

僕とルビナ姫はシートに凭れた。僕は後頭部で手を組む。
それにしても、長い路地裏だな。
その時、前から二台の黒いバイクが猛スピードで僕たちのバンに近づいてくる。
黒いバイクに跨った奴は黒いヘルメットを被り、黒いライダースーツを着て黒い革手袋を嵌めて黒いブーツを履いている。
後ろからもバイクのエンジン音が近づき、僕は後ろを振り向く。
後ろからも二台の黒いバイクが猛スピードで僕たちのバンに近づいてくる。
後ろの黒いバイクに跨った奴も、やっぱり黒いヘルメットを被り、黒いライダースーツを着て黒い革手袋を嵌めて黒いブーツを履いている。
一台のバイクが前輪を浮かせてウイリー走行でパフォーマンスをして僕たちを威嚇した。
こいつら、隊員を殺した奴らだ。
このままじゃ挟み撃ちだ、どうすればいい。

僕は前と後ろを振り向く。
屋根を仰ぐと、金属ベルトで固定されたサブマシンガンが目に入る。
僕は緊張で生唾を飲み込んで喉を鳴らし、動悸が激しくなる。銃でなんとかしないと。
僕は金属ベルトに固定されたサブマシンガンを取ろうと金属ベルトのロック解除するスイッチを探す。
金属ベルトを両手で触るがロック解除するスイッチが見当たらない。
無理やりサブマシンガンを取ろうとサブマシンガンを両手で引っ張る。
「警告。悪用防止のため、現在銃器類はロックしています」
感情のない女性の機械音声が車内に響き、僕は金属ベルトを拳で叩く。

僕は運転席のモニターを睨む。
「そんな場合じゃないだろ!」
運転席から身を乗り出して僕に振り向くルビナ姫は首を傾げて肩を竦めた。
「大人しくしてれば? スパイ映画みたいに車に搭載武器があるのかもよ? 少しは信じなさいよ」
ルビナ姫は運転席に振り向いて暢気に運転席のモニターを弄って音楽を掛けた。

車内にノリノリの音楽が流れ、ルビナ姫が踊っている。
なんでそんな冷静でいられるんだよ。僕は運転席で踊っているルビナ姫を睨む。
僕はそっぽを向いて、大人しくシートに凭れ腕を組んだ。
落ち着かなくて、左足と腕を組んだ右手の人差指が小さく上下に動いている。

窓の外を見るのをやめて横目で運転席のモニターを覗いた。
運転席のモニターの映像が切り替わり、フロントの屋根から映した鮮明な映像に切り替わる。
バンに接近する黒いバイクに跨ったライダーが映る。一台のバイクがウイリー走行した。
もう一台のバイクが太腿に挿したマシンガンを片手で構えて撃ってくる。
後ろを振り向くと、二人のライダーが片手でマシンガンを構えて撃ってくる。
「車体損傷率30パーセント。前後に障害物接近中。これよりウェポンによる障害物除去を行います」
感情のない女性の機械音声が車内に響き、バンのフロントとバンパーの下から機械的な音が鳴る。
僕は思わず下を見る。次の瞬間、ひゅっと何かが放たれる音がした。

顔を上げると、前方の二台の黒いバイクが同時に爆発してバイクの後輪が跳ね上がり空中回転している。
黒いバイクが後ろに飛んでゆき、僕たちのバンが空中回転するバイクの下を通る。
ライダーがバンの屋根に落ちて振り落された。
後ろを振り向くともう一人のライダーはバイクから落とされまいと、グリップに必死に掴まりぶら下がっているのが間抜けだった。
後ろの二台のバイクは地面に倒れて滑り、二人のライダーが地面を回転しながら転がっている。

僕は深く息を吐いて胸を撫で下ろす。
ルビナ姫が運転席から身を乗り出して、満足そうに口を結んで首を横に振って肩を竦める。
「言ったでしょ? 一生体験できないわよ。カメラ持って来ればよかったかしら」
ルビナ姫は残念そうに瞼を閉じて額に手を当てて首を横に振り、大人しく運転席に戻る。
僕は屋根の手摺を掴みながら、鼻と喉を鳴らして笑った。
「特番に映像を売ろうとかそんなんだろ? そのお金でお洒落するんだろ?」
僕は不敵に笑って肩を竦めた。
ルビナ姫が顔を僕に向けて、瞼を閉じで舌を出す。図星だったみたいだ。

その時、後ろからエンジン音が聞こえ、僕は思わず後ろを振り向く。
レンガの壁を突き破って黒いジープの装甲車が飛び出してきた。
レンガの壁に大穴が開き、レンガの瓦礫が積もっている。
黒いジープの装甲車は左に右に車体を擦りながら火花を散らし、猛スピードバンを追いかける。
黒いジープの装甲車がバンに思いっきり衝突して、バンが大きく前に揺れる。

僕はシートから飛び出してお腹がシートベルトに締め付けられ、お腹が苦して顔をしかめる。
「ちょっと! もっとスピード出ないの!?」
ルビナ姫が黒いジープの装甲車に振り向きながら、助手席のシートを叩いて怒鳴る。
もう一度黒いジープの装甲車が思いっきりバンに衝突して、またバンが大きく前に揺れる。
僕とルビナ姫が固唾を飲んで、運転席のモニターを見守る。

「車体損傷率50パーセント。周囲の安全確認完了。ナイトラスオキサイドシステムを使用し一気に加速します。シートベルトを着用してください」
感情のない女性の機械音声が車内に響き、僕とルビナ姫は顔を見合わせて慌ててシートに凭れた。
数秒後にバンが機械的な音を鳴らし、マフラーから火を噴出した様な音が聞こえた。 
バンは一気に加速して、僕はシートに引っ張られた。景色が高速で駆け抜けてゆく。
前にキリカの遊園地で乗ったジェットコースターよりも迫力があった。
とにかく身体に掛かる重力が凄まじい。
パトロール隊のバンって、ジョー好みに改造されたのかも。
ナイトラスオキサイドシステムなんて必要あるのか?
路地裏に落ちている新聞紙や空き缶や段ボール箱を蹴散らしながら、路地裏を一気に抜けた。

ジェットコースターが戻って来て急に停まるように、がくっと前に引っ張られた。
お腹がシートベルトに締め付けられて気分が悪くなり、思わず吐きそうになり口許を両手で押さえる。
「ナイトラスオキサイドシステムの燃料切れのため、通常スピードに戻ります」
感情のない女性の機械音声が車内に響き、一気にスピードが落ちる。
路地裏を抜けた先は大通りだった。
お腹を擦りながら後ろを振り向くと、黒いジープの装甲車が曲がり角を左に曲がった。
また突っ込んでくるかもしれないな。そう思いながら、僕は顔を戻した。
目に映るのは何台もの車がひっくり返って燃えていたり、車が正面衝突していたり、店に車が突っ込んだり、車が前の車に衝突していたり、大通りは大参事だった。
吸い寄せられるように窓の外を見た。ルビナ姫が音楽を切る。
この大通りをジョーの車が通ったに違いない。
担架でレスキュー車に運ばれてゆく頭に包帯を巻いた男性の怪我人。
すがる様に担架に寄り添い、泣き叫ぶ女性。彼の母親だろうか。
人が何人も血だらけであちこちに倒れ、火だるまの男が叫びながら走っている。
衝突で車内に閉じ込められ、窓を叩く子供が泣き叫ぶ悲鳴が聞こえる。
ひっくり返った車が爆発し、車の窓ガラスが飛び散った。
サイレンが鳴り響き、何台ものパトロール車やレスキュー車がバンの横を通り過ぎる。

ルビナ姫の泣き声が聞こえる。
「見るの止めなさい。見世物じゃないのよ……」
洟をすすり嗚咽するルビナ姫。

僕は悔しくて歯を食いしばり拳を握り締める。
「ご、ごめん……」
僕は胸の前で十字を切り俯いて手を組んだ。

警告音のような機械的な音が鳴る。
「この先、通行止めになっています。別ルート検索中……」
場を和ます様に感情のない女性の機械音声が車内に響く。

僕は顔を上げると数メートル先にバリケードが設置され、消防車やレスキュー車で道路が通せんぼにされていた。バリケードの前で、オレン色の制服を着たレスキュー隊員が向こうを指さして怒鳴り、黒い制服を着たパトロール隊員が両手を腰に当てて何やら話し込んでいる。
消防車やレスキュー車の向こうで大きなビルの火災が見える。
十字道路の真ん中でバンが静かに停まった。
警告音のような機械的な音が鳴る。
「別ルート検索時間を要します。しばらくお待ちください」
感情のない女性の機械音声が車内に響く。

その時、レスキュー隊員と話し込んでいたパトロール隊員がバンに振り向き、パトロール隊員が黒い帽子を被り直して黒い制服を着た小太りの中年男がズボンを持ち上げてバンに近づいてきた。
小太りの中年男が咳払いしてバンの運転席の窓を拳で叩き、運転席のウィンドウが下がる。
「巡回か? ここは通行止めだ。迂回してくれ。あんた、顔が真っ赤だぞ。大丈夫か? どっかで見たことあるな……」
小太りの中年男が運転席を覗き込んで肘を突いて手をひらひらさせ、首を傾げ目を細めた。

ルビナ姫が洟をすすって運転席の窓から顔を出す。
「私はルビナ姫よ。何があったの?」
ルビナ姫は涙を手で拭って運転席の窓の縁に手を突き、額に手を当てる。

小太りの中年男は帽子を脱いで敬礼した。
「こ、これは、ルビナ姫でしたか! 失礼しました! 私にも何が起こったのかわかりません。ただ、突然ビルが爆発したという通報がありまして……中に人が閉じ込められてて、救助活動が困難な状態なんです」
帽子を被って肩を竦め、心配そうに燃えているビルを見つめる。

ルビナ姫って顔が広いな。
僕はシートから身を乗り出して助手席に手を突き、横目でルビナ姫の後頭部を見て思う。
ルビナ姫が顎に手を当てて口を結び、腕を組んで呻り考え込んでいる。
もしかして、これはジョーの陽動作戦かもしれない。僕はシートに凭れ腕を組んで考え込んでいた。

「ねぇ。これって、ジョーの陽動作戦じゃないかしら。ここに人を集めて、ズール砂漠に行くには絶好のチャンスだわ」
ルビナ姫が顔を上げて、閃いたように掌で拳を叩いて小太りの中年男を見る。

僕はシートから身を乗り出して、運転席に手を突く。
「僕もそう思う。今、ジョーの追手は手薄といってもいい。キリカを出るにはもってこいだ」
僕とルビナ姫が顔を見合わせて頷く。

小太りの中年男の腰に下げた無線に無線が入るが雑音で聞こえない。
小太りの中年男は無線を無視して、顎に手を当てて腕を組んで口をへの字に曲げて呻る。
「そうかもしれませんね。何台かジョーの追手に回してみます。ジョーを止めないと。私は現場で手一杯なんです。それじゃ、これで失礼します。朗報待ってますよ、ルビナ姫」
小太りの中年男は腰に下げた無線を取って踵を返し、無線で連絡しながら振り向いて帽子を取って被る。
僕たちは顔を見合わせ、互いに肩を竦めた。

その時、左の曲がり角からさっきの黒いジープの装甲車が猛スピードで飛び出し、僕たちのバンに衝突してバンが勢いよく横に回転してひっくり返った。

僕は窓ガラスに頭を強く打ち、頭を押さえて顔をしかめる。頭が痛い。
焦げたような臭いと煙臭い。ガソリンが漏れてるんだ。早く出ないと。
運転席のモニターの液晶画面に罅が入り、ばちばちと火花が散っている。

☆続く☆ ジョーの暴走終了後のおまけ ゲスト:ジンと?

ジン:えー、それじゃ、ゲストを紹介したいと思います。ってこれ、作者の仕事でしょ? なんで僕が?
スタッフ:作者様は一週間ほど海外旅行に出掛けられてますので。置き手紙に探さないでとありました。
ジン:それって仕事で?
スタッフ:いえ、プライベートです。現実逃避なんですかねぇ。最近、色々悩んでたみたいですし。
ジン:なんだよ、それ。僕に仕事を押し付ける気なのかなぁ。まあいいけど。
ゲスト(黒いヘルメットを被り黒いライダースーツを着て黒い革手袋に黒いブーツ):……
ジン:(なんかやりにくいなぁ。この人、誰なんだろ。挨拶の時も無言だったし)
スタップ:じゃ、ジンさん。お願いしますね!(カンペを持ってそそくさと退散。ドラクエ風)
ゲスト:……
ジン:えっ、えーと、好きな人いますか?(って、なに訊いてるんだ僕は!)
ゲスト:(腕をクロスさせる)
ジン:(クイズ番組みたいになってる。なんで喋らないんだろ。誰か気になってきた)
ゲスト:(いきなり席を立ち上がり、僕の頭を平手で思いっきりチョップする)
ジン:痛いじゃないか! なにするんだ!
ゲスト:(黒いヘルメットを取って頭を振って髪を掻き上げる)私よ! 気付きなさいよ! ほんと鈍いんだから! もぉ、信じられないわよ!
ジン:ルビナ姫!? 気付くわけないだろ!(なんだ、この夫婦漫才は。って、なに考えてるんだ)
☆END☆

今回のおまけはニヤニヤの回です。

+ 異能者-

異能者
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☆前回のあらすじ☆ ナレーション:ジン

僕たちはジョーの手下の襲撃を掻い潜るが、ジョーはビルを爆破して火災を起こし、陽動作戦を実行した。
ジョーの暴走で街は大惨事になり、街の大惨事を目にした僕たちは全てを終わらせる決意をする。
ビル火災でバンが足止めを食らい、別ルートを検索中に黒いジープの装甲車がバンに突っ込んで来た。

☆異能者☆

その時、左の曲がり角からさっきの黒いジープの装甲車がエンジン音を響かせて猛スピードで飛び出し、僕たちのバンに衝突した。
バンはアクション映画のように勢いよく横に激しく回転してひっくり返った。

僕は窓ガラスに頭を強打し、頭を押さえて顔をしかめる。頭が痛い。
焦げたような臭いと煙臭い。ガソリンが漏れてるんだ。鼻を手で押さえる。早く出ないと。
運転席のモニターの液晶画面に罅が入り、ばちばちと火花が散っている。

僕はシートベルトを外して、どさっと車の天井に落ちる。
「ルビナ姫、大丈夫?」
僕は身体を起こして屈み込み、額を手で押さえて顔をしかめ、運転席のシートに手を突いてルビナ姫に呼びかける。
ルビナ姫を覗き込むと、ルビナ姫はぐったりと気絶していた。
僕は口許を手で覆いながら片手でルビナ姫の身体を必死に擦るが、ルビナ姫は目を覚まさない。

運転席のモニターから火花が散っている。
モニターから散った火花が僕の手に触れる。僕は熱くて思わず手を引っ込める。
数秒後に運転席のモニターに火花が散って火が点き、小さく燃え始める。
僕は一瞬、身体が固まる。こういうシーンを本で読んだことがあるけど、まさか実体験するとは。

その時、駆けてくる靴音が近づいてくる。
「ルビナ姫! 大丈夫ですか!? 大変だ、応援を呼ばないと……」
さっきの小太り中年男の声が聞こえる。
罅割れたフロントガラスの向こうに黒いジープの装甲車が停まった。
黒いジープの装甲車の運転席ドアが開閉し、一人の男が下りてきた。
男は頭が禿げて黒いサングラスを掛け、黒いコートを羽織り、黒いスーツを着て黒い革手袋を嵌めて黒いブーツを履いている。がっちり引き締まった身体で額に不気味な十字架の入れ墨が彫ってあり、右の頬に斜めの刀傷がある。
「き、貴様はレオン! ゾット教の異能者め!」
罅割れたフロントガラス越しに小太り中年男が腰のホルスターから素早くオートマチック銃を抜いて、黒ずくめの男を撃つ。
急に小太り中年男の動きが急激に遅くなる。まるでスローモーションのように。
銃弾までもはっきり肉眼で見える。小太り中年男以外は時が正常に流れている。
そういえば、運転席のモニターが燃えていたのに、何故か炎が止まっている。全然熱くない。
ルビナ姫も人形の様に完全に動きが止まっている。
ルビナ姫の腕を触ってみると、石のように硬かった。
僕だけが動けるみたいだ。確認するように掌を返して見たり、足を動かしてみる。
あの男の力なのか? 僕はフロントガラス越しに黒ずくめの男を見る。
急に胸が締め付けられるように動悸が激しくなり、顔をしかめて胸を手で押さえる。

レオンは黒いコートのポケットに両手を突っ込んで不気味に笑っていた。
「異能者はアルガスタの民に忌み嫌われる。だが、俺はお前らより優れていることを忘れてないか?」
レオンが口をへの字に曲げて首を傾げて肩を竦める。
レオンが人差指を突き出して小さく左右に振りながら、小太り中年男に歩み寄る。
小太り中年男の傍に寄ると、レオンは小太り中年男が握っているオートマチック銃を奪い取る。
レオンがオートマチック銃をまじまじと見て、首を傾げて口をへの字に曲げて何度も頷く。
「最近のデカはまともな銃を持ってるんだな。だが、俺にはこんなのガラクタに過ぎん」
レオンが小太り中年男の胸に銃口を向けて、オートマチック銃を撃つ。
一発の銃声の後、魔法が解けたように、フロントガラス越しに小太り中年男が道路に倒れる。
レオンは小太り中年男の背中にオートマチック銃を放り投げ、黒いコートのポケットからシルバーの十字架のネックレスを取り出してキスし、小太り中年男の背中に放り投げる。
レオンは黒いコートの襟を整えてコートを着直し、僕を見て不気味に笑う。
小太り中年男の顔が僕に向いてて、眼が見開いている。
僕の胸苦しさが直り、僕は瞼を閉じて首を横に振る。なんて惨いんだ。
僕はレオンが許せず、瞼を開けて歯を食いしばってレオンを睨む。
その時、レオンの黒いコートから携帯の着信音が鳴り、レオンは黒いジープの装甲車の運転席ドアに凭れて黒いコートのポケットから携帯を取り出し、片手を黒いコートのポケットに突っ込み、誰かと電話で話し始めた。

ルビナ姫が激しく咳き込んで僕は我に返ってレオンから目を逸らし、慌ててルビナ姫を見る。
「ちょ、ちょっと!? 燃えてるじゃない! ガソリン臭いし、早く出ないと爆発するわよ!?」
ルビナ姫が慌ててシートベルトを外し、屋根に頭をぶつけて身体を起こして口許を手で押さえながら足で必死に罅割れた窓を蹴り始める。
僕はルビナ姫に呆れて瞼を閉じて首を横に振る。
そういえば、隊員が倒れてから僕の胸苦しさが直って、正常に時が流れてる。
どうなってるんだ。まあいいか。そんなことより、早く脱出しないと。
「あのさ。足で蹴って割れるような窓じゃないだろ。ちょっと待ってて」
僕は後部座席に振り返って口許を手で押さえ、天井の金属ベルトに目を落とすがロックは解除されていなかった。
銃で窓ガラスを割って外に出るのは無理そうだな。
危機的状況に生唾を飲み込み喉を鳴らした。
「ジン! 銃はどう!?」
背後でルビナ姫の怒鳴り声が聞こえる。まだ足で窓を蹴っている音が聞こえる。
僕は瞼を閉じて首を横に振って、ルビナ姫に呆れて嘆息を零す。
「ダメだ。ロックされてる……」
拳で金属ベルトを叩いてみるが、ちっとも反応しない。
僕は諦めてルビナ姫に振り返り、運転席に手を突いてルビナ姫に手を伸ばす。
「そこは危険だ。トランクに移動しよう」
ルビナ姫は口許を手で押さえながら、片手で肩を竦める。
ルビナ姫は僕と手を繋いで何故か顔が火照り、慌てて僕から手を離すが、僕の人差指を掴んだ。
僕は不思議に思って眉根を寄せて首を傾げる。
「どうしたの?」
僕はなんでルビナ姫が自分の人差指を掴んだのか不思議に思いルビナ姫に訊く。
ルビナ姫が僕の人差指を掴んだまま慌てて顔を背ける。
「な、なんでもないわよ」
ルビナ姫の顔が赤く、額に冷や汗が滲み、僕の人差指を掴んでいる手に汗を掻いている。
「あっそっ」と僕は呟き、瞼を閉じて嘆息を零す。
僕はルビナ姫と手を繋いだまま顔を戻し、トランクに向かって歩き出す。
「それにしても緊急時に銃がロック解除されないなんて、ポンコツなのかしら。このバン旧式なんじゃない?」
ルビナ姫の嘆息が聞こえた後、スカートの裾に火が点き、ルビナ姫は叫びながらスカートを叩いて、スカートの裾に点いた火を慌てて消す。
僕はそんなルビナ姫に呆れて額に手を当て、瞼を閉じて首を横に振る。
ルビナ姫を無視してルビナ姫の手を乱暴に取って、僕はルビナ姫と手を繋ぐ。

僕はルビナ姫に振り向くと、ルビナ姫が片手でスカートの裾を持っている。
「ねぇ、ジン。敵さんが開けてくれないかしら。そしたら楽なのに」
顔を戻すと背後でルビナ姫の嘆息が聞こえる。
僕はルビナ姫に呆れて、ルビナ姫に振り向く。
「敵に捕まった元も子もないだろ。トランクを爆弾で開けるしかないんじゃない?」
顔を戻し、結局敵に捕まるしか手はないと思い、僕は苦笑いする。
バンの屋根を踏む度に乾いた靴音が響く。
僕たちは屈んでバンのトランクに移動し、僕の隣にルビナ姫がいる。
トランクのドアノブを弄るが、ドアはロックされていて開かない。
「なんで開かないのよ!?」 
隣でルビナ姫がトランクのドアに体当たりしてトランクのドアを拳で何度も叩いている。

その時、バイクのエンジン音が近づき、後部座席の窓ガラスに一台の黒いバイクが停まる。
停まったバイクの横に一台、また一台停まり、バイクからライダーが下りた。
ライダーは黒いライダースーツを着て黒いブーツを履いている。
くそっ、ジョーの手下か。どうして僕たちを狙うんだ?
僕は慌ててルビナ姫を抱き寄せ、ルビナ姫の口許を慌てて手で押さえる。
ルビナ姫が何かもごもごと喋るが、何を言っているのかわからず、ルビナ姫が僕の腕を拳で叩く。
僕は口許に人差指を突き立て、ルビナ姫は黙って頷き大人しくなった。
僕とルビナ姫が至近距離で見つめ合い、お互い顔が火照る。
ルビナ姫の眼がさざ波の様に揺れている。
ルビナ姫の息が僕の耳に振り掛かり、僕は変な気分になり、思わず生唾を飲み込み喉を鳴らした。

ブーツの乾いた靴音が響く。
「中を調べろ! ガキを殺すなよ?」
リーダー格っぽい男の声が聞こえた。
ライダーたちが駆けてトランクに回り込み、トランクに何か付ける重い音が聞こえ、高い機械音が鳴る。
「爆発するぞ! 離れろ!」
男の怒鳴り声を聞いて、僕は慌ててルビナ姫を抱き寄せたまま伏せる。
ルビナ姫の真っ赤な顔が心配そうに僕を見つめ、僕はルビナ姫を安心させるように頷いた。
数秒後にトランクのドアが爆発して、僕は瞼を閉じた。
爆風で吹っ飛んだトランクの重いドアが僕たちの上に被さる。
ライダーがトランクのドアを取って投げ捨て、銃を構える乾いた音が聞こえた。
僕は瞼を開け、顔を上げて奴らに振り向く。
やっぱり奴らは黒いヘルメットを被り、黒いライダースーツを着て黒い革手袋を嵌めて黒いブーツを履いた二人のライダーが、マシンガンを構えてトランクのドアの前で立っていた。
ルビナ姫は怖いのか瞼に力を入れて、瞼を閉じている。
「奴ら生きてるぞ! 出るんだ!」
左の男が怒鳴ってトランクの縁を叩き、マシンガンを構えたまま僕たちを乱暴に手招きする。

横から現れたレオンは、後ろ手を組んだ左手を左の男の肩にそっと手を置く。
「こいつらはジョー様のお気に入りだからな。身体能力が高く、異能者としての素質がある。異能者の研究所に連れて行く、生け捕りにしろ。手荒い歓迎だが、悪く思うなよ?」
レオンは口をへの字に曲げて肩を竦めた。
レオンは左の男の肩を軽く叩いて不気味に笑って踵を返し、ポケットから携帯を取り出してどこかに電話を掛けた。
僕は左の男に腕を乱暴に掴まれて無理やり外に引っ張り出された。
「放せ!」
必死に掴まれた腕を振ったり抵抗するも、男の方が力が強く無駄だった。
右の男がルビナ姫の腕を乱暴に掴んで無理やり引っ張り出す。
「放しなさいよ!」
ルビナ姫は必死に足で蹴ったり手足を動かして暴れているが、男の方が力が強く抵抗するも無駄だった。
「手を上げろ! 車まで歩け!」
背後の男にマシンガンの銃口で背中を押され、僕たちは手を上げたまま、黒いジープの装甲車に連行される。
ルビナ姫が左に見えるひっくり返ったバンに目配せして、背後でマシンガンを構えた男に顎をしゃくる。
バンが爆発した隙に武器を奪えって? 僕は無茶ぶりな作戦に首を横に振った。
ルビナ姫が諦めてがっくりと俯く。
数秒後にバンが爆発して熱気が飛んで来て僕は顔の前を手で遮る。
連中に隙ができるほど大した爆発じゃなく、僕たちはそのまま黒いジープの装甲車に連行された。

その時、後ろから砲弾の様な物が飛んで来て、目の前にある黒いジープの装甲車のフロントバンパーに当たって爆発が起きた。

☆続く☆ 異能者終了後のおまけ ゲスト:ジン・カイト

カイト:それじゃ、今回もゲストを紹介するぜ!(クラッカーを鳴らす)
ジン:待ってくれよ。スタジオが違うだろ? 君は向こうのスタジオだろ?
カイト:細かいことはいいんだよ。お前はこの前、向こうのスタジオに間違えて来ただろ?
ジン:あれは僕がスタジオを間違えただけだろ? なにしに来たんだよ?
カイト:まあまあ、落ち着けって。お前にファンレターが届いているぞ?(ファンレターを見せびらかす)
ジン:ほ、ほんと!? よ、読んでくれよ。
カイト:お前って、ほんと単純だよな。まあいいか。ええと、ラジオネーム:キララさんから。キララさん、ありがとうな! ええっと、なになに? ジンさん、いつも楽しく物語を読んでいます。特におまけコーナーが毎回楽しみにしています。もう夏も終わりですね。ジンさんは、今年の夏はどこかに行きましたか? だってよ。(なんか、こいつにファンがいると思うと、腹が立ってきたぞ。つうか、これって作者に送るべきだろ・・・)
ジン:今年の夏は、どこにも行ってないね。そういえば、麻里亜と街に出掛けたくらいかな? プールとか、映画館とか、ショッピングとか。
カイト:普通に行ってるじゃねぇか。つうか、麻里亜とデートして楽しいのか?
ジン:で、デートじゃないよ。本当は、ルビナ姫とデートしたいけど・・・
カイト:じゃ、ルビナ姫とデートすりゃいいじゃないか。麻里亜に悪いってか?
ジン:そ、それもあるけど。ルビナ姫をデートに誘いにくいっていうか。
カイト:おいおい、そんなんじゃ。いつまでたっても、ルビナ姫とデートできないぞ?
ジン:君には関係ないだろ!? 次のファンレター読んでくれよ。
カイト:ったく。じゃ、次のファンレターな。ええっと、ラジオネーム:メロンパンさんから。メロンパンさん、ありがとうな! ええっと、なになに? ジンサンは、いつルビナ姫に告白するんですか? いつもドキドキしながら、ジンさんとルビナ姫のやり取りを読んでいます。だってよ。ほらみろ、読者からも言われてるぞ? お前は男らしくないからだろうが。
ジン:なんだよ!? じゃ、今度ルビナ姫をデートに誘えばいいんだろ!? プリクラ撮ってきてやるよ!
カイト:お、おう。なにムキになってんだよ。つうか、連絡先交換したのか?
ジン:い、いや、まだなんだ・・・なかなか言い出せなくて。
カイト:まずは、そこからだな。ったく、情けねぇな。
ジン:それより、君はどうなんだよ? 好きな人はいるのかよ?
カイト:オレか? いないねぇ。(ミサは可愛いけど、あいつは幼馴染だしな。って、なに考えんだ)
ジン:スタッフに聞いた話じゃ、幼馴染のミサに恋してるんじゃないかって聞いたけど?
カイト:ち、ちげぇよ。あいつは、ただの幼馴染だ!
ジン:ふーん。そうなんだ。怪しいもんだね。
カイト:(くそっ、立場が逆転しちまったな)
ジン:今度、君の幼馴染のミサって子に訊いてみようかな。君のこと好きかどうか。
カイト:や、やめてくれ、それだけは。なっ?
ジン:どうしようかな。僕の恋に協力してくれたら、考えるよ。どうだい?
カイト:協力すりゃいいんだろ。ったく。(なんか、うまく乗せられたな)
プロデューサー:はい、カットー。いやー、今回はよかったよ。まあ、ファンレターは俺が書いたんだけどね。
ジン・カイト:お前かよ! というか、プロデューサーって禿げ頭がジェイソンステイサムだろ!
プロデューサー:ジェイソンステイサムじゃねぇよ! オリジナルの禿げだよ!
作者:ダメだこりゃ・・・ ☆END☆

今回はけっこう展開に悩みました。レオンの存在、ジンとルビナ姫が攫われた理由。
ジンとルビナ姫のニヤニヤ展開。おまけコーナーはすんなりと書けました。カーチェイス編、正直不安だったのでプロット作ったのですが、かなりいいお話がかけそうです。作者自身も、これからの展開が楽しみになってきました。

異世界アルガスタ~異世界ユニフォンへ

+ 第一話:ルビナ姫の病-

第一話:ルビナ姫の病
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 真夜中。
わたしは城の見回り任務に就いていた。
わたしは王女の親衛隊の隊長を務める。

紅い絨毯が敷かれた薄暗い廊下を静かに歩く。
天井には豪華なシャンデリアが吊ってあり、窓ガラスから月光が漏れている。
辺りは静まり返り、廊下を歩くたびに床が軋み、鎧が軽い音を立てる。

姫(王女)はわたしの恋人であり、姫とは密会している。
禁断の恋というやつだ。
きっかけは、姫の護衛任務中の馬車だった。
馬車の中で、姫と二人きりの時に、姫から想いを告げられた。
わたしも姫に密かに想いを寄せていたので、姫に想いを告げた。

わたしと姫は、決して結ばれることはないだろう。
わたしと姫は身分が違う。隊長と王女の禁断の恋だ。
王族に見つかれば、わたしは殺されるかもしれない。
兵士や町人に、わたしと姫の関係が噂されているが構わない。
わたしと姫の関係の理解者は、姫の妹、ルエラだった。
ルエラもボディガードのカイトに想いを寄せているらしいが、わたしと姫の関係に比べたら皮肉なもんだ。
わたしにできることは、少しでも姫の傍にいること。
今日も、城の見回りを口実に姫と密会の約束をしている。
わたしは隊長なので、部下にも姫との密会の言い訳が効いた。
いつものことだった。

その時、雲の間から顔を出した月が紅く変色し、窓ガラスに紅い月光が照らす。
廊下の柱時計が、午前0時を知らせる鐘が鳴る。

「な、なんだ、これは……」
わたしは紅い月に吸い寄せられるように窓ガラスに歩み寄り、紅い月を見上げて呟く。

不吉だ、紅い月なんて。こんな月、見たことがない。
嫌な予感がする。今日で、魔王が封印されて百年だったな。
昼間に城下町で魔王封印百年祭をしたからな。わたしは酒は飲まなかったが。
毎年、城下町で魔王封印祭をする。忘れるわけがない。

その時、わたしの背後に殺気を感じた。
窓ガラスを見ると、紅い絨毯に背後の影が伸びている。
わたしは殺気で動くことができず、はっきり姿が見えないのに恐怖を覚える。
背後の身体からは紅いオーラが揺らいでいるのが、窓ガラスに映る。

「ジン殿。これから、ルビナ姫と密会かな?」

よく通る低い男の声だった。
男はわたしの背後で不気味に笑っている。

わたそは腰に下げた鞘の刀の柄に手をかける。

「貴様、何者だ?」
わたしは背後の者に訊く。

この男、気配すら感じなかった。
わたしの頬に冷や汗が伝う。

わたしの背後の男は鼻を鳴らした。

「魔王教団、ジードと申す。アルガスタは豊かで平和な国だ。しかし、それが故に脆い」
「魔王教団だと? 魔王は百年前に討伐隊によって、アルガスタの果ての地下深くに封印されたはずだろう!?」
わたしは素早く腰に下げた鞘から剣を抜き、振り返えると同時に剣を横に振る。

剣は虚しく空振りし、太刀風が虚しく風を切る。

「我々、魔王教団はアルガスタの人間に化け、今日まで魔王復活に貢献してきた。ここまで虫のいい話だが、我々が王族に化けようとすれば特別な力が働き、拒絶反応が起きるのが難癖だがな。だが、それも今日で終わりだ。今宵、我々はアルガスタの王族を攫い、一週間後に民衆の前で晒し首にする。王族の血で魔王は復活するのだ」

わたしの背後で、ジードのよく通る声が聞こえた。

「くっ」 
わたしはジードに振り向いた。

月光が漏れる窓ガラスに、ジードは腕を組んで凭れて、わたしを見ていた。
ジードの顔は黒豹で瞳が澄んだエメラルドグリーン、頭の後ろで長い髪を三つ編みにしている。
尖った耳には銀色のピアスを付けている。
身体は鎧に包まれ、手足は獣の様な手足で爪に鋭い爪が生えている。
手には金の腕輪が嵌められ、足にも金の足輪が嵌められている。
お尻には黒い尻尾が生え、尻尾がくるんと曲がっている。

「何故、今日なんだ? 王族を攫うのなら、もっと早く実行できたはずだろ?」
わたしはジードに振り向いたまま、ジードに訊く。

「今宵は百年に一度、月が紅く染まる日。紅月あかつき。紅月は我々に力を与え、我々魔族は不死身になる。城を攻め落とすのにちょうどいい日だ。まあ明け方には、不死身の力は消えるがな。百年前の紅月に、国王は自らの欲望を魔王に変身させた。魔王の目的は、もう一つの世界、ユニフォンへの侵入。紅月の力でユニフォンへのゲートを完成させようとするが、あと一歩のところで失敗した。力を失った魔王は、討伐隊によって処刑されるはずだった。だが、討伐隊に裏切り者がいたのだ。そいつが魔王を手引きして、魔王をアルガスタの地下深くに封印したのだよ。そいつは今、ユニフォンで魔王とともに行動している。アルガスタのもっと古い歴史によれば、悪しき者が紅月を造ったそうだ。我々は千年生きるからな。千年も生きれば、面白いことが一つや二つ起きるものだ」
ジードは窓ガラスに腕を組んで凭れたまま、紅月に振り向いてまくしたてた。
ジードの眼は、どこが寂しげだった。

「ユニフォンだと? ユニフォンは伝承にすぎん。確か、アルガスタ十四代国王は年老いた爺さんだったな。年老いた爺さんが紅月の力で魔王に変身したところで力不足だったわけだ。それに討伐隊の裏切り者だと? 魔王がユニフォンにいるだと? 今頃、魔王も力不足で苦労しているんじゃないか? いずれにせよ、わたしには関係のない話だな。そうか、紅月の力は明け方までか。ならば、明け方まで姫を守ればいい」
わたしはジードに振り返り、刀を腰に下げた鞘に納める。

「ふん、面白い。魔王は生きているぞ。ユニフォンに転生してな。信じないのか? 百年前、ユニフォンへのゲートは完成しなかったが、地下深くの牢獄の中で、魔王は僅かに残った力でユニフォンへと転生したようだ。魔王とはテレパシーで連絡を取り合っている。魔王の目的は、アルガスタとユニフォンを一つの世界にすることだ。ジン、ルビナ姫を守ってみせろ。果たしてできるかな?」
ジードはわたしに振り向いて、腕を組んで窓ガラスに凭れたまま鼻で笑っている。

「そんな話は信じない。わたしの剣はただの剣ではない。姫から隊長昇格祝いに頂いた剣、煉獄だ」
わたしは腰に下げた鞘から煉獄を抜き、ジードに刃先を向ける。
煉獄の刀身が、紅月を浴びて、妖しく紅く映る。

「煉獄、か。いい剣じゃないか。その剣で、せいぜい抗うがいい」
ジードは顎に手を添えて、興味深そうに煉獄をまじまじと見ている。

「姫は、お前たちに渡さない。わたしは姫を守る」
わたしは煉獄の柄を握り締め、中段の構えをした。

「ワタシはプリンセスの血を受け取りにきたのだ。プリンセスの身体には、他の王族にはない僅かに魔王の血が流れ、紅月を浴びたプリンセスの血は特別な血となる。プリンセスは病を患っていてね、プリンセスの命は今夜限りなのだ。新鮮な血よりも、血の味が濃いのだよ。その血を研究して、ワタシは特別な力を手に入れる。ワタシは魔王復活になど興味がないのでね」
ジードは肩を竦めて、腕を組んだ。

嫌な予感がした。
わたしは唾を飲み込んで、喉を鳴らす。

「ジード。魔王教団を裏切るのか? 答えろ、病を患っているプリンセスは誰なんだ? わたしがとめてみせる」
わたしはジードに煉獄の刃先を突きつける。

「それは言わないでおこう。お前の眼で確かめるがいい……」
ジードはそう言って、突然わたしに襲い掛かる。

わたしは咄嗟に煉獄を振り上げた。
次の瞬間、金属音が鳴り、火花が散った。

ジードが右腕で、わたしの煉獄を受け止めていた。
ジードの鎧にひびが入り、鎧が砕けた。
ジードの右腕の切り傷が露わになり、傷口から血が滲んでいる。
ジードは傷口を見て鼻で笑い、右腕を下ろす。

「お喋りはここまでだ。次に会うときは、お前と闘う時。それまで腕を磨いておけ」
ジードは駆け出し、顔の前で両手を覆い、窓ガラスを突き破った。
ジードの姿は闇に姿を消した。

ジード、か。只者ではない。
いつの間に移動したんだ。
あまりの速さに背筋が凍る。
紅い絨毯に目を落とすと、爪で引っ掻いたような跡があった。
わたしは不思議に思いながら、煉獄を鞘に納める。

わたしは恐怖感から解放され、安堵感から両膝を床に付ける。
悔しさから紅い絨毯を握り締め、片手で床を叩く。

わたしも鍛錬不足か。歯を食いしばった。本ばかり読むからだ。
ジードがわたしの背後に立った時、直感でジードに敵わないと思った。
平和ボケだな。明日から、厳しく鍛錬せねば。
わたしは拳を振り上げた。さらば、わたしの読書タイム。
読書タイムが減ることに気持ちが沈み、わたしはため息を零して俯いた。

その時、爆発音が響いた。

「な、なんだ?」
わたしは顔を上げる。

続いて轟音が響き、わたしは頭を押さえて床に伏せた。

轟音が止むとわたしは立ち上がり、ジードが突き破った窓ガラスから城門を見下ろす。夜風がわたしの身体を撫でた。
城門は破壊され、爆風で見張り兵士が数人仰向けに倒れている。
城門に大穴が開き、大穴から黒煙が昇っている。

大砲で攻めて来たのか?
城門に空いた大穴を見て、わたしは思った。

大穴から城内に魔物が次々と攻め込み、兵士たちが城門付近で魔物と攻防を繰り広げている。
魔物が火矢を放ち、城内のあちこちで火事が起こっている。
城門に開いた大穴越しから、城下町のほうも火事が起こり、建物から火柱が見える。

剣で斬られた魔物が紅月の力で蘇り、次々に兵士が声を上げて絶命してゆく。
わたしは目の前の光景に口許を手で覆い、床に崩れ落ち嗚咽する。

アルガスタの強力な結界が破れたというのか。
この百年、結界が破れることはなかった。
これが紅月の力なのか。百年の平和が終わりを告げるのか?
それより、ルビナ姫の身が危ない。急がねば。
お前たちの命、決して無駄にはしない。
わたしは立ち上がって、窓ガラス越しに絶命した兵士に敬礼し、薄暗い廊下を駆け出した。

廊下の曲がり角で、ルビナ姫にばったり出くわした。

「ジン、何事です? 先ほど大きな音が聞こえましたけど。それより、来るの遅かったじゃないですか。今日は遅刻ですよ?」
ルビナ姫は寝間着姿で眠そうに目を擦っている。

ルビナ姫は、肩までのミディアムヘアで金髪カール。
頭には黒いカチューシャをつけている。
黒いカチューシャは、わたしがルビナ姫の誕生日プレゼントにあげたやつだ。
わたしに向かってルビナ姫が歩くたびに、ルビナ姫の金髪カールが寂しそうに揺れている。
ルビナ姫は頬を膨らませて、わたしの肩を人差指で小突く。

わたしはルビナ姫の身体を揺する。

「ルビナ姫、ご無事でしたか。お休みのところ申し訳ありません。たった今、魔王軍が城に攻めて来ました」
恥ずかしそうにルビナ姫から手を離して、わたしは胸に拳を置きルビナ姫に頭を下げた。

「ま、魔王軍ですって!? 百年アルガスタは平和だったのですよ? 何故今になって!? ちょ、ちょっと。し、城が……」
ルビナ姫の眠気が一気に飛んだらしく、窓ガラスの向こうに広がる光景に吸い寄せられ、口許を両手で覆っていた。
やがて、信じられないという様に泣き崩れた。

「今宵は紅月。魔族が不死身になる日です。しかし、魔族が不死身になるのは明け方まで。魔族の目的は、アルガスタの王族を攫い、一週間後に民衆の前で晒し首にし、王族の血は魔王復活に捧げるそうです」
わたしはルビナ姫に歩み寄り、ルビナ姫の肩にそっと手を置く。

「そんな話、信じられるわけないでしょ!? 夢であって欲しいけど、夢じゃないんでしょ!? 私はどうすればいいの? そうだわ。妹のルエラを助けないと。あの子、ボディガードのカイトくんと一緒だけど、大丈夫かしら? お父様は? お母様は? ねぇ、答えてよ!?」
ルビナ姫は私の脚に抱き付き、心配そうに顔を上げた。
語尾が強くなり、わたしの脚を揺する。

「ルエラ姫は、カイトと一緒なら大丈夫でしょう。お父様とお母様の安否は……わたしにもわかりません。ですが、ここにいては危険です。わたしと一緒に来てください。いいですね?」
わたしは屈み込んで、ルビナ姫の肩に手を置いてルビナ姫の瞳を見つめる。

「……ええ、そうね。行きましょう。ごめんなさい。私王族の人間なのに、ジンに弱いところを見せちゃったわね」
ルビナ姫が手で涙を拭って、ゆっくりと立ち上がった。

その時、見張り兵士が反対の曲がり角から現れた。
兵士は右手をだらんと垂れ下げ、右手から血が滴っている。
左手で右肩を押さえ、左肩には弓矢が一本突き刺さっている。
兵士は肩で息をしながら、震える右手でわたしたちに敬礼をした。

「た、隊長。ご、ご無事でしたか……我々親衛隊は、魔王軍の攻撃によりほぼ全滅です。どうか、ルビナ様を……ルビナ様とお幸せになってください。私は陰ながら、お二人の仲を応援していました。アルガスタは永遠に不滅です! せめて、隊長とルビナ様の子供を見たかった……」
見張り兵士は、わたしたちに敬礼したままうつ伏せに倒れた。
見張り兵士の背中に一本の剣が突き刺さっていた。

わたしは見張り兵士に駆け寄り、見張り兵士を抱き起した。

「おい! フジ、大丈夫か!?」
わたしは見張り兵士の手をしっかりと握る。

「隊長……隊長は強くて優しくて、私の憧れでした……どうか、ルビナ様と生き延びてください」
見張り兵士はわたしの腕の中で絶命した。

わたしはルビナ姫を見て、首を横に振った。

「フジ……ジン、弟の様に可愛がっていたのに。人間の命は儚いものね。私も死期が近いのかもしれない。ジンには黙ってたけど……私、病を患っているの。私が病を患っていること、妹のルエラ以外には内緒にしてたわ。だって、みんなには迷惑掛けたくないもの」
ルビナ姫が突然、口から血を吐いて咳き込み、床にうつ伏せに倒れた。

ま、まさか。
ジードが言っていたのは、ルビナ姫のことだったのか?
わたしはそっとフジを床に寝かせると、胸の前で十字を切った。

「何で黙ってた! ルビナ姫、大丈夫か!?」
ルビナ姫の傍に駆け寄り、ルビナ姫を仰向けに抱き起した。

「ジン、心配ないわ。薬、部屋に置いてきたの。二人で取りに行きましょ?」
ルビナ姫が苦しそうに顔を上げて、わたしの手の甲にそっと手を重ねる。
ルビナ姫は微笑み、わたしの頬に手を添えた。

「ああ、そうだな。ルビナ、立てるか? 薬、何で持ってこなかったんだ?」
わたしはルビナ姫を支えながら、ゆっくりとルビナ姫を抱き起す。

ルビナ姫の額には汗を掻いている。

「いつもは持ってるんだけど。寝ぼけてて、持ってくるの忘れたみたい。少し目眩がするわ。ジン、私をおぶってくれるかしら?」
ルビナ姫は手の甲で額の汗を拭う。
目眩がするのか、手の甲で額を押さえている。

「甘えてるのか? 仕方がない、わたしの背中に乗れ」
わたしはルビナ姫を支えながら、ルビナ姫に背中を向ける。

「鎧で乗り心地悪そうね。レディに失礼だわ」
ルビナ姫はしぶしぶ文句を言いながら、わたしの背中に乗る。

「それだけ文句言えるのなら安心だ。ゆっくり歩きながら行こう」
わたしはゆっくりと立ち上がり、薄暗い廊下を歩き出した。

廊下の曲がり角を曲がると、またルビナ姫が咳き込んで口から血を吐いた。

「大丈夫か?」
わたしはルビナ姫に訊いた。

「ええ。平気よ」
ルビナ姫は咳き込みながら、言葉は弱かった。

しかし、何故ジードは襲ってこない?
ルビナ姫はここにいるのに。
ジード、何を狙っているんだ?

その時、わたしの前に黒い魔法陣が現れた。
魔法陣が紅く光り、中ならドーベルマンの様な魔物が現れた。
ドーベルマンの様な魔物は、口許に鋭い牙を覗かせ、涎を垂らし、眼が紅く光っている。
ドーベルマンの様な魔物は、わたしを威嚇するように低く唸っている。
背後にも魔物の気配を感じ、低い獣の唸り声が聞こえる。
恐らく、わたしの前にいる魔物と同じだろう。

ここにきて、低級魔物が現れたか。
ルビナ姫の血の匂いを嗅ぎつけたのか?
それにだ。魔王教団はルビナ姫を攫おうと思えば、もっと早く攫えたはず。
なのに何故、今となって低級魔物が現れた?

わたしは、てっきりジードがルビナ姫を攫ったかと思ったが、それは違った。
ルビナ姫を背負っている今、剣の戦闘は不利だ。
ならば、銃が早いか。

わたしの前にいるドーベルマンの様な魔物が、突進して飛びかかって来た。

「ルビナ姫、目を閉じてください!」
わたしは背中のルビナ姫に怒鳴った。

わたしはホルスターに下げたオートマチック銃を抜いて、ドーベルマンの様な魔物を撃った。

「きゃっ」
ルビナ姫は背中で小さく声を漏らした。

ドーベルマンの様な魔物は声を上げて、紅い絨毯の上に横倒れになった。
同時に素早く背後に振り返って、背後の魔物を撃った。
背後の魔物も声を上げて紅い絨毯の上に横倒れになった。

やはり、背後の魔物も、わたしを襲った魔物と同じだったか。
ルビナ姫はわたしの背中で唸った。

「さすが、ジンね。ねぇ、ジン。私、考えたんだけど。私ってほら、病気を患っているから、攫われなかったのかも。攫うのなら、ジンに会う前に攫われたはずよ? だって、病人の血は新鮮でないもの。きっと、魔王もお気に召さないわよ。こんな病人の血なんて」 
ルビナ姫は咳き込みながら、苦しそうに冗談を言った。

なるほど。
ルビナ姫の考えは正しいのかもしれない。
だったら、低級魔物が血の匂いでやってきたのも頷ける。
ルビナ姫を狙っているのはジードだけか。
ジードがいつ襲って来てもおかしくない。油断は禁物だ。

窓ガラス越しに、紅月が魔物の死体を照らしている。
魔物の傷はみるみる快復し、傷は何事もなかったかのように塞がった。
わたしは素早くオートマチック銃を投げ捨て、煉獄を鞘から抜く。
幸い床に落ちたオートマチック銃は暴発仕様なので暴発はしなかった。

「ルビナ姫、隊長昇格祝いで頂いた剣、血で汚します! 御免!」
わたしは再び襲いかかってくる魔物を煉獄で斬った。

煉獄に斬られた魔物は骨になり、やがて灰になって床にさらさらと落ちた。
背後から飛びかかってくる魔物を素早く振り返って、横に斬った。
背後の魔物も煉獄に斬られ、骨になって、やがて灰になって床にさらさらと落ちた。

てっきり、紅月で復活するものと思っていたが。
紅月を浴びて、煉獄は紅月の力を得たというのか?
わたしは、紅月を浴びた刀身をまじまじと見つめる。
それにしても、初めて煉獄で魔物を斬ったな。
今日まで、アルガスタに魔物が襲ってくることはなかったからな。
わたしは煉獄を一振りする。

「さすが、煉獄ね。低級魔物なら一斬り。きっと、紅月の力を断ち切ったのよ。ジンにぴったりの剣じゃない。平和ボケで、鍛錬をサボってたみたいだけど。ジン、銃を貸して、背後の敵は私が撃つから。ジンは、前の敵を煉獄で斬ってちょうだい」
ルビナ姫は褒めたが、最後には皮肉を言ってのけた。
ルビナ姫は即席の作戦を練り、ルビナ姫はジンが床に投げ落としたオートマチック銃を指さした。

「出鱈目でたらめな作戦だな。ルビナ姫、銃は撃てるのか? 女性には重いぞ?」
わたしは床の投げ落としたオートマチック銃を拾い上げ、ルビナ姫の手にしっかりと握らせた。

「引き金を引くだけでしょ? 簡単よ。さっ、私の血の匂いで低級魔物がやってくるわ。わたしの部屋に急ぎましょ」
ルビナ姫が身体を捻って背後に向き、オートマチック銃を握り締め、背後の様子を窺っている。

わたしはルビナ姫に呆れてため息を零した。

「ルビナ姫、本当に病人なのか? 血が騒いでいる様に見えるが」
わたしはルビナ姫をおぶり直して、煉獄を一振りし、薄暗い廊下を歩き出す。

ルビナ姫は遠足気分の様に鼻歌を歌っている。
わたしは、そんなルビナ姫にまたため息を零した。
身の危険があるというのに、少しは緊張感を持ってくれ。

「ルビナ姫、ちょっと太ったんじゃないか?」
わたしはルビナ姫をおぶり直した。
さすがに腕が痺れてきた。

ルビナ姫が意味深に鼻を鳴らした。

「あら、鍛錬になって、ちょうどいいじゃない」
ルビナ姫が皮肉たっぷりに言いのける。

わたしは、またため息を零した。
それにしても、さっきからやけに静かだな。
兵はもう全滅したのか?
そういえば、ジードはアルガスタの人間に化け、魔王復活の貢献をしてきたと言っていたな。
ということは、魔王教団が兵に化け、奇襲を仕掛けたのかもしれん。
いずれにせよ、王族はルビナ姫以外攫われた可能性が高い。
後に残った低級魔物が城を攻め落とすくらいか。
とにかく、今はルビナ姫の薬だ。

その時、わたしの前に黒い魔法陣が現れた。
魔法陣が紅く光り、中から野犬の様な魔物が現れた。

来たか。
アルガスタは永久に不滅だ。

「後ろにも低級魔物が来たわ、ジン」
ルビナ姫の声は落ち着いていた。

「ルエラ、なるべく引き付けて撃ってくれ。いいな?」
わたしは緊張で生唾を飲み込み、喉を鳴らした。
わたしは煉獄の柄を握り締める。

「ええ。引き付けて、撃つ。任せて」
ルビナ姫は、「引き受けて撃つ」と呪文のように唱え、自分に言い聞かせた。

くそっ。
ルビナ姫の部屋まであと少しのところで。
まさか、こいつら待ち伏せしてたのか?
いや、そんなことはどうでもいい。

ここは邪魔な低級魔物を煉獄で斬りつつ、一気に走り抜ける。
もしかしたら、低級魔物は紅月の力を借りなければ、ただの魔物かもしれない。
つまり、紅月を魔物に浴びさせなければいい。
だが、紅月が出ている以上、その保証はどこにもない。
くそっ、夜明けまで持ちそうにないな。
わたしは思わず弱音を吐いた。

低級魔物が低い唸り声を上げて、襲い掛かってくる。
次々とわたしは煉獄で襲い掛かる魔物を斬り、ルビナ姫は魔物を引きつけ、正確に魔物を撃っていく。

「死にたくない……死にたくない……」
その時、背後で声がした。

わたしの手が思わず止まる。 

「ジン、危ない!」
ルビナ姫が、ジンに飛びかかろうとしていた低級魔物を、わたしの肩越しにオートマチック銃を撃った。

わたしはルエラ姫に振り向いた。

「ルエラ姫、すまない。助かった」
わたしは口から小さく息を吐いて、気持ちを落ち着かせた。

「ジン。しっかりしてちょうだい」
ルエラ姫はわたしを励ますと、わたしの肩を叩いた。

魔物は一通り片付いた。
紅月の力で、背後の魔物の傷が治り、復活する前に逃げるのが得策だ。

「走るぞ、ルエラ姫」
わたしは呟いた。

「ええ」
ルエラ姫は強く答えた。

わたしはルビナ姫の部屋に向かって駆け出した。

さっきのは、どういうことだ?
一瞬、魔物が絶命する前に、人間の声が聞こえたが。
あれはわたしの空耳か?

「ねぇ、ジン。魔物が絶命する時、人間の声が聞こえなかった? 私の空耳かしら?」
ルビナ姫は、わたしが思ったことを口にした。

「ああ、聞こえた。もしかしたら、彼らは生体実験で魔物にされたのかもしれない。目的はわからないが」
わたしは思ったこと口にしていた。
我ながら恐ろしい。
魔王教団は、アルガスタ征服のために人間を魔物にしたというのか。

「私も、ジンと同じこと考えてたわ……それに比べて、私の病気なんてちっぽけなものね。アルガスタの民が、私の知らないところで悲鳴を上げていたなんて……私、王族のくせに無知だった。罰なのかもしれないわね、私が病で死ぬのは……」
ルビナ姫の語気が弱くなり、ルビナ姫の顔がわたしの鎧に埋まる。

「そんなこと言うな! 生きるんだ、強く。わたしがルビナ姫を死なせない。この手でルビナ姫を守る」
わたしはルビナ姫に怒鳴った。

「……ありがとう、ジン。私、弱気になってた。ごめんっ」
ルビナ姫が小さく呟く。

その後、二人の会話は途切れた。
そして、わたしはルビナ姫の寝室に飛び込んだ。

もしよろしければ、感想・評価・ブクマ、よろしくお願いします。
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カイト編と同じく突然ストーリーが飛んでいるが、激動のカーチェイス編を「ジンの過去エピソード」と言っていたためここまで繋げる予定だったらしい。

+ 第二話:ルビナ姫の最期-

第二話:ルビナ姫の最期
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 ルビナ姫の寝室に飛び込むなり、わたしは扉を閉めて背を向けたまま手を後ろに回して鍵を掛けた。

ルビナ姫の寝室は、右側の奥に大理石の洗面所があり、洗面所の奥にバスルームとトイレがある。
扉の傍に、キャスター付きの棚が置いてある。
左の壁沿いに書棚机、窓際に鏡台。奥に大きな窓ガラスがあり、窓ガラスの向こうがバルコニーになっている。
手前には大きな洋風ベッドがあり、ベッドの傍には箪笥たんすがある。

わたしは一安心して扉に凭れて、深く息を鼻で吸って口で吐いた。

ルビナ姫がわたしの肩に頬をちょこんとくっつける。

「もう着いたの? 今夜は忘れない夜になったわね。ねぇ、ジン。もう一度してみない?」
ルビナ姫がふざけて、わたしの頬にオートマチック銃の銃口をくっつけてぐりぐりしている。 

わたしはルビナ姫に呆れて、ルビナ姫の手をそっと払いため息を零す。

「正気か? こんな夜は二度と御免だ。ルビナ姫、少し休め」
わたしはルビナ姫に振り向く。わたしは顔を戻して扉から離れ、ルビナ姫をおぶり直す。
ベッドの傍に煉獄を立て掛け、ルビナ姫をそっとベッドに寝かせた。

わたしは、ルビナ姫の寝室の扉付近の棚に向かう。

「ねぇ。ジンの武勇伝聞かせて? なにかない?」
子供の様なルビナ姫の声が聞こえる。

わたしはルビナ姫に振り向く。

「急にどうしたんだ? ……そうだな。ルビナ姫の護衛任務中に、わたしがルビナ姫に想いを告げたくらいだろう?」
わたしはルビナ姫の寝室の扉付近にある、キャスター付きの棚を扉の前まで移動させる。
わたしはキャスターの便利さを改めて痛感した。

「うーん……確かに、その武勇伝はロマンチックだったわね。どうせなら、プロポーズがよかったかしら」
ルビナ姫の我が儘が聞こえる。

プロポーズ、か。するつもりだったさ。今日は満月だったからな。
だが、こんなことになってしまった以上、どうすることもできないだろ。
わたしは悔しくて、棚を押す手に力を入れる。

わたしは棚をルビナ姫の寝室の扉前まで移動させると、棚の上に両腕を載せた。
これで、夜明けまで持つといいが。この棚だけじゃ、心許ないかもな。
他の棚を移動させるか?
わたしは首を横に振る。ルビナ姫に手伝わせるわけにはいかない。
手ごろな棚が、近くにあって助かった。
わたしは振り向いて、他にキャスター付きの棚がないか、ルビナ姫の寝室を見回した。
結局、キャスター付きの棚はこれだけだった。

それにしても、いささか紅月の力を甘く見ていた。
斬られた魔物が紅月の力で復活するまで時間があるとはいえ、数でこられたら終わりだ。
煉獄がなければ、ルビナ姫の寝室に来れなかったかもしれない。
読書に明け暮れ、鍛錬をサボっていたとはいえ、煉獄が役に立つ時がくるとはな。
ルビナ姫、感謝する。わたしはルビナを守ったぞ。

だが、この胸騒ぎはなんだ?
わたしは妙に静かなのに不安を覚え、棚に埋めた顔を上げた。
可笑しいやけに静かだ。あれだけ、ここまで来るのに低級魔物に襲われたというのに。
何が起こってるというんだ?
わたしはルビナ姫に振り返り、棚に凭れて、腕を組んでルビナ姫を見つめた。

ルビナ姫はわたしに背を向けて、窓ガラス越しに紅月を見ていた。
ルビナ姫はわたしの視線に気づいたのか、寝返りを打つ。

「ジン……いつまで突っ立っている気? 私を殺す気なの? 薬取りに来たんでしょ? ぼうっとしちゃって、らしくないわよ?」
ルビナ姫がオートマチック銃の銃口をわたしに向けて、片目を瞑りわたしに狙いを定める。
ため息を零して、不機嫌そうに口を尖らせる。

わたしは慌てて、胸の前で必死に両手を振る。

「う、撃つなよ? すまない。考え事をしていたんだ。すぐに薬を取る」
わたしは頭の後ろを掻いて棚から離れ、ルビナ姫が寝ているベッド傍にある箪笥の一番上の引き出しを引いた。
それより、ルビナ姫の薬だ。わたしとしたことが、病のルビナ姫を放っておくとは。情けない。

「よろしい。さて、薬はどこにあるでしょう?」
ルビナ姫がわたしに顔を向けたまま頷く。
わざとらしく咳払いして、わたしの脇腹にオートマチック銃の銃口をくっつけて、意味ありげに不敵に笑った。

わたしは呆れて、肩を落としてため息を零す。

「遊んでいる場合じゃないだろ……わたしの言うことじゃないか。ルビナ姫、薬はどこにある?」
わたしはベッドの傍にある箪笥の引き出しの中を探りながら、ルビナ姫に振り向いて訊く。

ルビナ姫は身を乗り出して、わたしの頬にオートマチック銃の銃口をくっつける。

「やーい、引っかかった……私、子供みたい。次期王妃になろう私が何やってるのかしらね。これじゃ、統治できないわねぇ」
ルビナ姫がつまらなそうに、わたしの頬にオートマチック銃の銃口をくっつけてぐりぐり押している。

わたしは呆れて、箪笥の引き出しに顔を戻す。

「こんな時に、なにやってるんだ。また縁談が来たのか?」
引き出しの中の豪華なドレスを広げて見る。
引き出しの中はドレスや洋服が丁寧に畳んであり、いい匂いがする。

わたしは気まずくなり、ルビナ姫を一瞥する。
軽く咳払いして、豪華なドレスを畳んで、引き出しにしまう。
引き出しを閉めて、一段下の引き出しを開けようと手を伸ばす。

「ねぇ、ジン。もしかして私の下着探してる? ぷっ、くくくっ。冗談よ。ジンは誠実だもの。薬なら、鏡台の上にあるわ」
ルビナ姫の不機嫌な声が飛んでくる。ルビナ姫の下着を探すわたしを想像して可笑しかったのか、ルビナ姫はお腹を抱えて笑った。
すぐに馬鹿らしくなったのか、ルビナ姫はわたしにオートマチック銃の銃口を向け、不機嫌そうに口を尖らせる。
ため息を零して、ルビナ姫はつまらなそうに鏡台を指さした。

「そ、そんなわけないだろ。こないだの下着泥棒はわたしじゃないぞ? 薬は鏡台の上か」
わたしは間を置いて頬が火照り、慌てて箪笥の引き出しを閉めて、鏡台につかつかと歩いてゆく。

「ジンったら、照れっちゃって、可愛いんだから」
ルビナ姫が優しく笑う声が、わたしの背中を撫でる。

わたしはの顔が真っ赤になり、危うくこけそうになる。
わたしの間抜けな姿がばっちり鏡台の鏡に映ってしまう。
ますますわたしは動揺して、鏡台の鏡から顔を背け、鏡台の上に置いたあった粒状の薬が入った容器を手に取る。
緊張しているのか、容器を持つわたしの手が震えている。
わたしは鏡に映っている、ルビナ姫を一瞥する。

わたしがルビナ姫を一瞥した時、ルビナ姫は手を振って微笑んだ。
またルビナ姫を一瞥した時、ルビナ姫は寝返って、窓ガラス越しに紅月を見ていた。

「ねぇ、ジン。私の命、0時までだったのよ。でも、まだ生きてる。不思議よね。きっと、神さまはわたしの我が儘を聞いてくれたのよ。ここで死にたかった。だから、ジンと一緒に居れて幸せ。少しでも、長く生きたいの。死ぬのは怖いけど、ジンと一緒なら怖くないわ」
ルビナ姫がわたしの背中越しで静かに語る。

わたしはルビナ姫に振り返る。

「!? 嘘だ、嘘だと言ってくれ! ルビナ。頼む、薬を飲んでくれ……わたしを置いていくことは許さないからな。約束しただろ、駆け落ちしようと。ルビナ姫を他の王族と結婚はさせない。わたしは決めたんだ」
わたしは薬の入った容器を握り締め、ルビナ姫の元に駆け寄り、ルビナ姫が寝ている傍らに屈み込む。
わたしはベッドの傍にある棚の上に容器を置き、わたしはルビナ姫の髪を優しく掻き上げて手をそっと握る。

ルビナ姫が寝返りを打つ。
ルビナ姫がもう片方の手で、わたしの手の甲に掌を重ねる。

「もういいの。最初だけよ、薬の効果があったのは……百年に一度の紅月を最期に見れて良かったわ、なんて綺麗なのかしら」
ルビナ姫がオートマチック銃を傍に置き、顔を窓に向け、紅月を感嘆する寂しい声が聞こえる。

わたしはルビナ姫の手に指を絡めて握り締め、自分の額にルビナ姫と絡めた手を当てて、わたしは嗚咽する。
わたしは顔を上げる。ルビナ姫の寂しそうな顔を見ていると涙が溢れ、わたしは涙を手で拭う。
ルビナ姫と手を絡めたままおもむろに立ち上がり、ルビナ姫の髪を優しく撫でて、わたしはルビナ姫の唇にキスをする。
わたしはルビナ姫と口づけした後、両膝を床につけ、ルビナ姫と両手を絡めたまま窓ガラスの向こうの紅月を見上げた。

わたしとルビナ姫は黙ったまま、窓ガラスの向こうの紅月を見上げている。どれくらい経っただろう。
その時、バルコニーに一羽の大鷲が舞い降り、バルコニーの手摺にとまる。
大鷲の大きな羽がバルコニーに舞い落ちる。

ルビナ姫がベッドから顔を上げる。
わたしはルビナ姫から手を離し、腰に巻いたホルスターに挿したオートマチック銃に手をかける。

「くえっ、くえっ~。仲良く心中ってか? お熱いねぇ。お楽しみのとこ悪いが、姫様ならアスカが攫ってったぜ? ついでに、姫様のボディガードくんは断崖絶壁に身を投げておっ死んだけどな。おっと、正確にはアスカがボディガードくんを殺っちまった。くえっ、くえっ~」
人語を喋り出した大鷲は、バルコニーの手摺の上でお腹を抱えて笑っている。

ルエラ姫が驚いて、ベッドから上半身を起こす。

アスカだと?
まさか、魔王教団か?
こいつ、どこから飛んで来た?
腰に巻いたホルスターに挿したオートマチック銃に手をかけた掌に汗を掻く。

「な、なんですって!? 妹のルエラが攫われた? あなた何者なの? 答えないと撃つわよ?」
ルビナ姫は傍に置いたオートマチック銃を手に取り、オートマチック銃を握り締めた。
人語を喋る大鷲にオートマチック銃の銃口を向けて訊く。ルビナ姫の手が震えている。

「貴様、どういうことだ?」
わたしはホルスターから素早くオートマチック銃を抜くと、人語を喋る大鷲にオートマチック銃の銃口を向けた。
わたしも手が震えていた。

「オレはジェイ。魔王教団の一員だ。ボディーガードくんがおっ死んで、姫様はガキみてぇに泣いてたぜ。姫様も晒し首でおっ死んで、あの世でボディガードくんに会えるといいけどな。まあ、プリンセスは病を患っているからな。生贄として価値はねぇ。だからよ、プリンセスに相応しい死に場所を用意してやったぜ。そうとは知らず、隊長さんが張り切ってプリンセスをおぶって、この死に舞台にやって来やがった。こいつは傑作だぜ。くえっ、くえっ~」
人語を喋る大鷲はまくしたてた後、手摺からバルコニーに舞い降りて、バルコニーで可笑しいという様に笑い転げた。

なるほど。低級魔物が襲ってこない理由がわかった。
わたしは自ら罠に飛び込んだのか。

「ジェイ。私は、ジェイを撃つために生きている。そう信じてる。ルエラは、返してもらうわよ! ルエラを晒し首になんかさせない! 私の夢は、まだ終わらせない!」
ルビナ姫が強い言葉で、バルコニーで笑い転げているジェイを撃つ。

窓ガラスが派手に音を立てて割れる。
ルエラ姫はガラスの破片が飛び散らないように、布団のシーツを被った。
わたしもガラスの破片が飛び散らないように、ベッドの傍の床に伏せて顔を床に埋めた。
布団のシーツから伸びたルエラ姫の手と、わたしはルエラ姫と手を繋いでいる。
ルビナ姫は布団のシーツの中で泣いて洟をすする。
わたしは怒りが込み上がり、顔を上げてバルコニーを見た。

「プリンセス、頭に血が上っちまったか? ありがとよ、結界を解いてくれて。アルガスタの人間は平和ボケしているくせに、妙に用心ぶけぇ。王室には強力な結界が張っててな、誰が結界を張ったか知らねぇが。結界が強力でよ、王族を攫うのに一苦労だぜ。おかげで攫い損ねた王族もいるしよ。結界があるとは予想外だったぜ。魔王教団も舐められたもんだ。まあいい。つうわけでよ、隊長さんとプリンセスの最期の祭りといこうじゃねぇか!」
ジェイは割れた窓ガラスから侵入して、まくしたてながら飛び回り、やがて寝室扉の前に移動させた棚の上にとまった。
ジェイは暢気にくちばしで毛づくろいしている。

「貴様、よく喋る鳥だな。羽を切り落として、ルエラ姫の元に案内してもらおうか」
わたしはルビナ姫から手を離し、オートマチック銃をベッドの上に置く。
ベッドに立て掛けた煉獄に手を伸ばし、おもむろに立ち上がり、ジェイに中段の構えをする。
わたしはジェイを睨み据える。

「おいおい、そんな物騒なもん向けるんじゃねぇよ。ところでいいのか? ジードはプリンセスにテレパシーを送って、プリンセスを操ったみたいだぜ? テレパシーの内容か? 隊長さんを撃てだ。果たして、プリンセスにできるかな? 愛する男を撃てるかな? くえっ、くえっ~」
ジェイは人差指を立てて、小さく振った。
ジェイは勝ち誇ったように腕を組んで首を傾げた。

なんだと。
ジードが、ルビナ姫を操ったというのか?
わたしの眼がさざ波の様に揺れ、頬に冷や汗が伝う。

「くっ。ルビナ姫、わたしを撃つな!」
わたしはルビナ姫に振り返った。ルビナ姫は布団のシーツから顔を出して、紅い眼でわたしを見つめていた。
ルビナ姫に振り返った途端に、ルビナ姫から邪悪な波動が発せられ、わたしの身体が重くなり、煉獄が手から滑り落ちる。

くそ、ジードのテレパシーか。思う様に身体が動かん。
それにしても、何故今頃になってテレパシーが?
まさか、結果が解けたことによって、ルビナ姫とわたしにジードのテレパシーが届いたというのか?
ジード。これが、お前のシナリオだというのか?

ルビナ姫は布団のシーツからおもむろに上半身を起こして、わたしにオートマチック銃の銃口を向ける。
ルビナ姫の眼は紅月の様に紅くなり、恐怖で手が震えている。

ルビ姫、ジードに操られていないんだな?
わたしはどうすればいい?

「ジン、さよなら」
ルビナ姫は、オートマチック銃の銃口をわたしに向けたまま、冷たく言い放つとオートマチック銃の引き金を引いた。
銃口から火を噴き、薬莢がベッドに落ちた。ルビナ姫の眼には涙が滲んで、頬を涙が伝う。
ルビナ姫の顎から落ちた涙が、布団のシーツに雪が解ける様に染みた。

わたしは脇腹を撃たれ、撃たれた自分の脇腹を見る。
僅かに弾道が逸れたか。ルビナ姫の意思は強いな。
わたしの脇腹から血が噴き出ている。
わたしは痛みで唸り、両膝を床につき、脇腹を手で押さえる。
わたしは顔を上げて、歯を食いしばってルビナ姫を見る。額には汗を掻いている。

ルビナ姫は泣きながら何かを呟き、自分のこめかみにオートマチック銃の銃口をゆっくりと向けた。

「よせ。やめろ、ルビナ姫!」
わたしはルビナ姫に手を伸ばした。

ルビナ姫は引き金を引いたが、弾は放たれず弾切れだった。
それを合図にジードのテレパシーが切れたのか、ルビナ姫がベッドの上に倒れた。

わたしのテレパシーも切れて、身体が楽になる。
この隙に、ジェイを斬る。
わたしは素早く屈み込んで、床に落ちた煉獄を手に取り、振り返り際にジェイを袈裟斬りする。
煉獄がジェイの肉を斬る重い音を立て、太刀風が舞い、わたしの前髪が太刀風で舞う。
これで終わりだ。わたしは煉獄を振り下ろしたまま、ジェイを睨み据える。

「っち、なんだよ。運が良かったな、隊長さん。最期にドカンと花火を上げようぜ……」
ジェイの身体が袈裟に斬られ、ジェイの身体が二つに別れる。ジェイの別れた二つの身体は床に落ちた。
同時にジェイの手から小さな銀色の球体が落ちて、小さな銀色の球体が床に転がり落ちてベッドの下に消えた。

斜めに切られた棚が、斜めにずり落ちた。

「ちくしょう、やりやがったな! まあいい。そいつは爆弾だ。せいぜい、プリンセスと最期の時間を楽しめ。もうすぐ、城は火の海になる。プリンセスとどこまで逃げられるかな? オレとしたことが油断ちしまったぜ……」
ジェイは口から血を吐いて死んだ。
ジェイの大きな羽が床に舞い落ちる。

ベッドの下に転がった爆弾が高い機械音を上げ、また一音機械音が高くなる。
カウントダウンか。ルビナ姫が危ない。
わたしは振り返って、ルビナ姫の元に駆け寄った。煉獄をベッドに立て掛ける。

「ルビナ姫、しかっりしろ!」
わたしはルビナ姫の身体を抱き寄せ、ベッドに腰掛けてルビナ姫を背負った。
わたしは爆風から身を守るため、布団のシーツを引きはがし頭から被った。

その瞬間、爆弾が爆発し、わたしたちは爆風で吹っ飛んだ。
爆風で壁に激突するが、布団のおかげで衝撃が和らいだ。
わたしは布団のシーツを捲り取って、ベッドに振り向くとベッドは粉々に壊れていた。
顔を戻すと、爆発の衝撃で目の前の壁が壊れて穴が開き、廊下の火が侵入してきた。
傍には、ジェイの身体が横たわっている。
ルビナ姫は目を覚ました。
ルビナ姫は白目を剥いたジェイの死骸を見て、思わず顔を背ける。

「……私、ジンを撃ったのね。ごめんなさい……ジンを撃ったとき、意識があったの。私、怖かった。まだ覚えてる……」
ルビナ姫が震える手で髪を掻き上げ、わたしの胸に顔を埋める。

「気にするな。ルビナ姫に撃たれて、わたしも怖かったさ」
わたしはルビナ姫の頭を優しく撫でた。

ルビナ姫は、傍に横たわっているジェイの死骸を見つめた。

「ジン。ジェイを倒したのね、ありがとう。こんなことしている場合じゃないわね。脱出しましょう。ジン、書棚の本を紫、緑、青、黄、赤の順で上から押して、それでベッドごと地下まで行けるわ。地下から城下町に抜けられる。王族に代々伝わる、秘密の抜け道よ」
ルビナ姫は侵入してきた煙で咳き込みながら、寝間着の上着ポケットからハンカチ取り出して口許に当てた。
震える手で書棚を指さす。

わたしはルビナ姫が指さす書棚を見て、意を決して頷く。

「わかった。ルビナ姫。その間に、薬を飲むんだ。いいな? 煙はできるだけ吸うな」
わたしは煙で咳き込みながら脇腹を押さえ、口許を手で覆いながら、ルビナ姫が指さした書棚に向かう。

「しょうがないわねぇ、ジンに負けたわ。一粒薬飲むわね。お水取ってくるわ」

ルビナ姫は咳き込みながら、洗面所に向かう暢気な声が聞こえる。
わたしは書棚机の前に来ると、試しに紫の書物を人差指で取ろうとした。しかし、紫の書物は固定されていて動かない。
なるほど。暗号が解らなければ仕掛けが作動しないということか。
まさか、書棚にこんな仕掛けがあるとはな。今まで気付かなかった。

わたしは書棚机の本を慎重に、紫の書物、緑の書物、青の書物、黄の書物、赤の書物の順に上から押した。
最後の赤の書物を押し終わった時には、手に汗を掻き、額に汗を掻いていた。
その時、機械的な音を立てて仕掛けが作動し、ベッドがゆっくりと下がり始めた。

わたしは振り返って、ゆっくりと下がるベッドを見つめる。
額の汗を拭い、一安心して深く息を吐く。
このタイミングで使うとは皮肉なものだ。

「あら、できたのね。さすがジン。押す順番を間違えたら、罠で死んでたかもねぇ」
ルビナ姫が洗面所から出てくるなり、物騒そうなことを言ってのけた。
ルビナ姫は口許にハンカチを当てたまま、ゆっくり下がり始めたベッドの残骸に横たわった。

その時、床に黒い魔法陣が現れ、魔法陣が紅く光る。
魔法陣の中から、低級魔物が現れた。
蝙蝠こうもりの様な魔物、野犬の様な魔物、烏からすの様な魔物、鬼の様な魔物、大鎌を持った死神の様な魔物。

くそっ。脱出の時に。
こいつら、血の匂いを嗅いだか?
わたしは急いで、爆風で吹っ飛んで床に落ちている煉獄を拾う。
そして、爆風で吹っ飛び弾の入ったオートマチック銃を拾って、腰に巻いたホルスターにオートマチック銃を挿した。

「ルビナ姫! 脱出するぞ」
わたしはルビナ姫に声を掛ける。
ゆっくり下がり始めたベッドの残骸。わたしはルエラ姫の隣で胡坐をかいた。
わたしとルビナ姫は手を繋ぐ。煉獄を傍の床に置いた。

「ねぇ、ジン。膝枕して?」
ルビナ姫が甘えた声を出してわたしに寄り添い、わたしの胸に顔を預けて訊いた。

「あ、ああ」
わたしは恥ずかしくて顔が火照り、人差指で頬を掻いて、ルビナ姫から顔を背けた。
わたしの鼓動が高まる。

ルビナ姫がわたしの膝を枕にして、わたしの膝に、ルビナ姫は首を静かに預けた。
その時、扉を突き破って、腕の様なものが伸びてきて、腕が魔物を捕まえて腕が引っ込む。

わたしは顔を上げる。
さっきから、なんなんだ?
もっと下がるスピードは上がらないのか?

ルビナ姫はわたしの膝から頭を上げる。

「ジン、今度はなにかしら?」
ルビナ姫の心配そうな声が聞こえる。

わたしはルビナ姫を安心させるために、ルビナ姫の髪を優しく撫でた。

「さあな。ルビナ姫はわたしが守る。安心しろ」
わたしはルビナ姫の顔を覗き込む。

わたしは上が気になって仰ぐと、天井が両開きに閉まってゆく。
壁には行燈が埋め込まれており、行燈の蝋燭が灯って意外と明るかった。
しばらくして、天井に穴が開いて、天井が崩れてきた。

わたしは音に気付いて顔を上げる。
今度はなんだ?
上でなんかあったのか?

ルビナ姫が咄嗟に掌を広げて翳した。
青白い光の壁が現れ、破片が青白い光の壁に吸収される。
わたしは驚いて、ルビナ姫の顔を覗き込む。

「私だって、王族なのよ? 魔法くらい使えるわよ。ジンに任せてられないわ。残念だけど、私って治癒術は会得してないのよねぇ。ルエラなら、治癒術得意なんだけど。でもね、治癒術でも私の病は治らなかった……それくらい、私の身体を蝕んでるのよ。あ~あ、治癒術があれば、ジンの傷を癒してあげれるのになぁ。もういいわね。もう充分、楽しい夢を見させてもらったわ。そろそろ……」
ルビナ姫が悲しそうにまくしたてると、ルビナ姫は手を下ろす。そして、自分の胸の前でわたしと手を重ねると、青白い光の壁が消えた。
ルビナ姫は咳き込み、ルビナ姫は口から血を吐く。

わたしとルビナ姫が、ルビナ姫の胸の前で繋いでいる手に、ルビナ姫の血がつく。
床にも、ルビナ姫が吐いた血がついている。
わたしの眼は動揺でさざ波の様に揺らぎ、わたしはルビナ姫の身体を揺すった。

「大丈夫か、ルビナ姫!」
わたしはルビナ姫の顔を覗き込む。
涙が滲んで、ルビナ姫の頬に涙の粒が落ちる。

ルビナ姫はわたしから手を離し、震える手でわたしの頬に掌を添えた。
ルビナ姫が優しく微笑むと、ルビナ姫の手が床に静かに落ちた。
ルビナ姫の顔は安らかに眠っている。 

わたしは、ルビナ姫の死を否定して首を横に振る。

「嘘だ。ルビナ姫、わたしを置いていくな。頼む、嘘だと言ってくれ……」
わたしは、床に落ちたルビナ姫の手を握る。わたしの額に、ルビナ姫の握った手の甲をくっつけた。
わたしは嗚咽しながらズボンのポケットから、小さな箱を取り出す。
わたしは小さな箱の中から結婚指輪を取ると、ルビナ姫の左手薬指に結婚指輪を嵌めて、ルビナ姫の左手薬指にキスした。

わたしは、ルビナ姫の髪を優しく掻き上げる。
わたしは泣きながら、ルビナ姫の額に自分の額をくっつける。
いつ、結婚指輪を渡そうか迷っていた。
ようやく、ルビナ姫に結婚指輪を渡せた。
こんな形になってしまったが。許してくれ。

「ルビナ姫、結婚しよう。わたしもすぐ後を追いかける」
わたしは、腰に巻いたホスルターからオートマチック銃を抜き、こめかみに銃口を向けた。

わたしはルビナ姫と手を繋いで、目を瞑って引き金を引こうとした、その時。
天井に空いた穴から、箒に跨った女の子が下りてきた。

箒に跨った女の子は、黒いとんがり帽子を被り、帽子の先がくるんと曲がっている。
髪は淡いピンクのストレートヘア。髪の先っちょを紅く染めている。
前髪にハートのヘアピンを留め、左の瞳が澄んだ蒼色で、右の瞳がエメラルドグリーン。
耳にはハートのピアスをつけ、首にはハートのネックレス。
黒いワンピースを着て、胸に小さな紅いリボンをつけ、右手首にブレスレットを嵌めている。
お尻の辺りに大きな紅いリボンを付けて、縞のニーソックスを穿き、紅いリボンパンプス。
箒の先端の小さな穴に、ハートのキーホルダーが付けてあり、背中に小さなくまのぬいぐるみを背負っている。

「へぇ。こんなところに隠し部屋があったんだぁ? 地下に続いてるのかなぁ? 攫い損ねた王族もいるのかなぁ? アリス、驚き~」
女の子は、わたしたちの頭上を箒で旋回している。

わたしはオートマチック銃を下ろし、わたしの頭上を箒で旋回する少女を見上げた。
少女はゆっくりとわたしの目の前に下りてきて、箒を手に持ち片手を腰に当てて仁王立ちした。

少女はルビナ姫に顔を向けると、不思議そうに首を傾げた。

「あれ、プリンセス死んじゃったんだ? ジェイを殺したのはあんたね? アリスちゃん可哀想に。ジードは役立たずだしぃ」
少女はわたしを指差して、顎に人差指を当てて首を傾げ、わたしを睨んで不敵に笑った。

「貴様、魔王教団か?」
わたしはオートマチック銃の銃口を少女に向ける。

少女は可愛く敬礼した。

「そそ。アリスは魔王教団の一員なのでありますっ。さてとっ、地下を調査しなきゃ。ミントくんお願い、床に穴を開けてちょうだい」
アリスは背負っていた小さなくまのぬいぐるみに振り向くと、背負っていた小さなくまのぬいぐるみを取る。
アリスはぬいぐるみを床にちょこんと座らせた。

すると、床に座った小さなくまのぬいぐるみがみるみる巨大化した。
小さな耳が尖った耳に変わり、つぶらな瞳から、眼は左眼が三角の形に変わり、右眼がバツ印の眼に変わる。
可愛い鼻はピエロの様な真っ赤な鼻に変わった。口には鋭い牙が何本も生えている。
手足にも鋭い爪が生え、背中に悪魔の様な翼が生え、お尻には悪魔の様な尻尾が生えた。

もはや、可愛いくまのぬいぐるみではない。
まさか、あの少女の魔力でぬいぐるみが姿を変えたのか?

ぬいぐるみの右眼のバツ印が交差したところから紅いレーザーが伸び、右眼が動きながら床を焼いている。
紅いレーザーが一周して、紅いレーザ―が消える。
ぬいぐるみが、レーザーが一周したところを足踏みする。
すると、丸い床が落ちて、穴が開いた。

アリスはぬいぐるみに向かって、可愛く敬礼した。

「そんじゃ、ミントくん任せたからね。アリスは、地下に行ってきまーす」
アリスはVサインを額に当てて、ぬいぐるみにウィンクした。
わたしに向かって投げキスを飛ばし、アリスは床に開いた穴に飛び込んだ。

わたしは死を覚悟して、オートマチック銃を投げ捨てた。
同時に煉獄を拾い上げて、得体の知れないぬいぐるみに中段の構えをする。

ぬいぐるみがわたしに顔を向けてニヤリと笑い、口を大きく開け、口の中からミサイルを発射した。
わたしは顔の前で腕を交差させ、わたしの身体が爆風で吹っ飛んだ。
わたしはルビナ姫に手を伸ばす。わたしの視界が真っ白になる。

↑ここまでがジン編で、以下は転生モノに変更する前に書かれた「信二」が主人公のストーリー。タイトル変遷は「わたしとオレの修羅への道」→「信二と仁の修羅への道」→「仁の、人を殺す剣の物語 ~闇の欠片~」→「仁の、人を殺す剣の物語 ~闇の勾玉~」。(※カイト編と同様にこちらも単なる没原稿ではなく、のちのち修正して過去編から繋がる一つのストーリーにする構想だった可能性が高い。)


小説家になろう(ジン編外伝)

容量が大きすぎるので分割→小説家になろう(ジン編外伝)

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