- 超急戦
今回は初手から▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲2五歩△5二飛▲5八金右△5五歩▲2四歩△同歩▲同飛△8八角成▲同銀△3三角▲2一飛成△8八角成▲5五桂△6二玉と続く、ゴキゲン中飛車に対する超急戦を指定局面として採用した。
この手順は藤井猛九段によって考案され、1999年の竜王戦で初登場した。その時の挑戦者だった鈴木大介九段が▲2四同飛に対し、△3二金と上がったため乱戦は避けられた。
この金上がりは超急戦回避として時たま指されるが、振り飛車側の戦績は11勝34敗2千日手と芳しくない(2016年当時。『決定版!ゴキゲン中飛車VS超急戦~将棋史上最も過激な殴り合い~』p114)。
飛車先交換を甘受したうえに、展開によっては囲いにくっつけたい左金を早々と3二に使うのはやはり悔しい。勢いからいっても△8八角成が最善手だろう。このように開始20手で中盤を飛び越え終盤戦に突入する超急戦は、タイトル戦でも何度も採用され、多くのドラマを生んできた。
このような激しい手順がプロ間でよく指された理由は、なんといっても結論が出ないところにある。開始数十手で決着がつく戦型というと横歩取り△4五角が思い浮かぶが、これについては先手が冷静に対処すれば十分勝ちきれるという結論が出ている。ゆえにプロはもはや指さない。しかし、超急戦は初めて指されてから20年の時がたったが、いまだにこうすればどちらかが勝つ、という結論には至っていない。お互いが研究に研究を重ねても、決定打となる手順が考案されていないのだ。
現在では星野良生四段が考案した「超速3七銀」が主流となったため、超急戦の研究は鈍化している。ゴキゲン中飛車の採用率も年々減っているため、もしかしたら超急戦が指されなくなる可能性もある。しかしながら一手間違えただけで形勢が一気に傾くという将棋は、その分だけ一手一手に掛ける思考の質が問われてくる。正解を指し続けても互角が保たれ続ける将棋も珍しくないので、他の戦型よりも我慢比べの様相を呈してくるだろう。こうした将棋を指すことで間違いなく対局者の地力は増していくと思ったので、今回はこの局面を指定することにした。
なお、今回は△8八角成とする前に△5七歩と利かしておく菅井竜也七段が指した新手は採用しなかった。
これを取ってしまうと△3五角があるので▲6八金寄とするが(人によっては△3五角と打たれても一局、という見解もあるにせよ)、5七に拠点が残るのは大きい。しかしこの瞬間歩切れになってしまうので損得は難しく、超急戦においてはどこかしらで▲5七歩を打つ局面が出てくるため、こんなに早々と歩を打ってしまうのは指しすぎになる恐れがある、という意見もある。
いずれにせよ一週間という短い準備期間を考慮すると、研究でカバーしきれない局面が出てくるおそれもあったため、今回は見送ることにした。
■▲Chryso_la―△hhesse戦(自戦記:hhesse)
- 用意の玉逃げ
指定局面からの指し手
▲1一龍△7二玉▲7五角△5一飛▲2二歩△8九馬
(1図)
超急戦の1号局は1999/11/12に行われたB級1組順位戦▲中村修―△森けい二戦である。△7二玉はそこで指された手。その後しばらく顧みられることはなかったが、2014年の棋王戦第二局で渡辺棋王が採用したことで話題になった。
この手の狙いは玉を遠くへ逃がしておくことだが、それ以上に研究を外せるのが大きい。例えば△9九馬だと▲3三香や▲3三角が有力な手となる。その両方を研究しておくのは大変なので、心理的に優位に立つにはこれしかないと思っていた。その意味で▲1一龍は予想が当たった形で、他に▲7五角とすぐ打ってしまう有力手もあった。
▲2二歩に対して△7四歩と角の行き場所を聞いておく手はあった。しかし、仮に▲8六角とされても△8七馬とはいきづらい。桂香が取りにくくなってしまう。▲6六角なら△8九馬でいいのだが、△7四歩がキズになる変化もあるかもしれないので、ここは見送ることにした。
- △7四歩は有効かどうか
1図からの指し手
▲2一歩成△4二銀▲2二と△9九馬
(2図)
△9九馬のところでもう一度△7四歩を入れておくかどうか長考してしまった。▲8六角の時に△8七馬はないが、代わりに△5七歩と叩いたときに金を上ずらせることができる。
一方で▲5七角なら角が戦場から離れるので戦いやすくなる。そこで△9九馬とじっくり戦えば△7二玉型が活きる展開だ。
問題は▲4二角成と切ってこられた時。△同金に▲5一龍△同金は二枚の金の壁ができるので後手が良いが、▲1二龍とかわされ次の▲3二とを見せられた時が自信がなかった。
△5七歩▲同金△4五桂▲5八金△5七銀と一直線で勝てるのならいいが、そこで▲3二と、と寄せられたらどうするか。
(参考1図)
飛車を取られたらどこかで2一飛と攻防に打たれそうだし、それでは寄せが面倒になりそう……そう思っていたのだが、ソフトに後で聞いたところ▲4二角成は疑問手と出てきた。考えてみれば△7四歩と開けているのだから玉は広い。余計なことに気が回りすぎて、無駄に時間を使ってしまった。
- 局面が動く
2図からの指し手
▲4一龍△同飛▲3二と△5七歩▲同角△5五馬△同歩▲5六香
(3図)
超急戦はすぐに終盤になるといっても、さすがに早々と決着がつくわけでなく、攻め駒を少しずつ増やしていく必要がある。いわば終盤の中に序盤があるようなものだ。
そして先手は準備が整ったとみたのか、いきなり飛車を切っていった。こうなってはこちらも遅れるわけにはいかないので、角で取られることを承知で歩を叩いていく。
一連の手順に変化の余地はないだろう。こうなってはどちらが速いかの勝負、のはずだったのだが……。
- 決め手を逃す
3図からの指し手
▲6六香△5七香成▲同金△4五桂▲6三香成△8二玉▲5八金△2七角
(4図)
最後の△2七角が疑問手。△5七銀ではたとえば▲4八金打と守り駒を足されても難しそうだし、手抜かれてもやや自信がなかった。
そのため安易に玉の逃げ場をなくせばいいだろう、と考えていたのだが、△5七桂打という決め手があった。詰めろなので放置はできないし、取るとこもできない。しかし、適切な受けも浮かびにくい手だ。
決め手を逃すと一気に局面が難しくなって良い手が指せなくなる、というのは自分でもわかっている悪癖なのだが、この後はそれが甚だしい形で現れることになる。
- 悪手のオンパレード
4図からの指し手
▲3八角△5七桂不成▲2七角△2一飛▲同と△6九桂成▲4九玉△3五桂▲7三成香△同玉▲6四角△同玉▲6三玉まで59手で先手の勝ち。
(5図)
後でソフトに聞いてみたところ、上記の後手の指し手はすべて悪手と判定された。時間に追われていたとはいえ、酷い指し手だ。
単純に実力が足りないから負けた、というほかない対局だった。
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