・四間飛車の岐路を分ける24手目
指定局面までの指し手
▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△3二銀▲2五歩△3三角▲6八玉△4二飛▲5六歩△7二銀▲7八玉△6二玉▲5八金右△7一玉▲3六歩△5二金左▲6八銀△8二玉▲5七銀左△9四歩▲9六歩
今回は四間飛車に対する居飛車急戦を指定局面に採用した。四間飛車に対する居飛車の手段は多い。現在は居飛車穴熊が主流になっているが、その他にも持久戦ならミレニアム囲いや銀冠穴熊などがある。
さらに最近では急戦のバリエーションとして金無双やelmo囲いなど、従来の舟囲いの難点を補う囲いも現れた。そんな中であえて居飛車急戦を指定局面にした理由はどこにあるのか。
まずこの局面において四間飛車には指し手の候補が多い。手待ちをして様子を見つつ駒組も進めようという△5四歩や△6四歩、急戦をあえて受け止めていく△4三銀、そしてそれらすべての難点を補う、四間飛車最強の一手とされる△1二香。居飛車側はこれらの手に対して柔軟に作戦を選ばなければいけない。
△5四歩や△6四歩には山田定跡で行くのか、それとも鷺宮定跡で行くのか、はたまた端角作戦か。△1二香には急戦でいいのか、5筋位取りを採用してみてはどうか。そして△4三銀にはどの急戦で臨むか――このように事前の研究を踏まえつつも、相手の出方を見ながら指し手を慎重に選択しなくてはいけないのだ。
本来急戦というと居飛車が攻め、振り飛車が受けるという展開になりがちだが、実のところは居飛車が相手の出方を見る側で、四間飛車が作戦を限定させる側に立っているといっていい。こうした虚々実々のやり取りを重ねていくことで、各々の棋力が高まっていくのではないか、ということで今回の指定局面戦を採用した。
■▲Chryso_la―△ntkwmk戦(観戦記:hhesse)
- 棒銀と玉頭銀
指定局面からの指し手
△4三銀▲6八金直△6四歩▲3七銀△5四銀▲3五歩
(1図)
△4三銀は急戦を迎え撃つ一手。それに対しすぐに銀を繰り出すなどの手段はあるが、金を上がっておいて振り飛車に余計な一手を指させるのが常套手段となる。
△6四歩によって6四角の含みがなくなったため銀を繰り出していく。ここから△5四歩▲2六銀と続いていけば棒銀の定跡になっていくが、本譜は△5四銀と玉頭銀をチラつかせてきた。
これに対しては角頭が薄くなったのを咎めるため、いきなり△3五歩と仕掛けていく。
- 重かったかもしれない桂跳ね
1図からの指し手
△4三銀▲3六銀△3二飛▲3四歩△同銀▲3五歩△4三銀▲4六歩△7四歩▲2四歩△同歩▲3七桂
(2図)
▲3五歩まではほぼ一直線の進行。角頭を攻めつつ、4五歩の筋も見せていって居飛車が順調に指せているように思える。
2筋の突き捨てを入れてから▲3七桂と跳ねていった。戦力を補強して調子が良いようだが、後々の展開を踏まえると重かったかもしれない、と感想戦では話題に上がった。
- 豪快な桂捨て
2図からの指し手
△2二飛▲4五歩△同歩▲5五歩△5四歩▲4五桂△4四角▲4六銀△6三金▲5三桂成
(3図)
▲4五歩と突き捨ててから5五の位を取って角道を止め、桂を跳ねやすくするのは急戦でよくみられる手筋だ。
その後左銀も繰り出し重厚な攻撃態勢が実現できた。ただ、振り飛車戦の場合は戦場と囲いが離れているので、ここに手を掛けすぎると寄せ合いになった時、守りが心もとなくなる危険性もある。
▲5三桂成で豪快に敵陣を切り裂いていく。
- 後手のカウンター
3図からの指し手
△同金▲4五銀右△8四桂▲4四銀△同銀▲5四歩△同金▲4五歩△7六桂▲7七角△6八桂成▲同金
(4図)
△同金では△同角が勝ったようだ。角で飛車を睨まれているので怖いところではあるが、▲5四歩には△4四角とぶつけていく。銀二枚が上ずって陣形に隙が多いため先手から角交換はできない。そのため▲5五銀とするしかないが、そこで△6二角と引けば7四歩の一手が活きてくる展開で、桂捨てが指しすぎになるところだった。
本譜は角を諦めて△8四桂と打っていった。舟囲いの天敵ともいえる控えの桂だ。玉形に差があるため、こうして小駒で守り駒をはがされていくと居飛車は辛い。
- 玉頭戦
4図からの指し手
△7六銀▲8八角△6五歩▲4四歩△6六歩▲同角△6五金▲5五角打△7三桂▲8六桂
(5図)
後手は角頭を狙って銀を打ち付け、さらに6筋の歩を突き捨て角を誘い出しつつ手順に金を戦場に近づけていく。先手も角と桂で玉の小鬢を一息に崩していくつもりだ。戦場は玉頭に移った。
近年は手損を受け入れる角交換系の振り飛車が増えているので、居飛車党は手得を活かして玉頭戦を仕掛けるノウハウを蓄えなくてはならない。しかし、このようにノーマル振り飛車の急戦で玉頭戦が展開されるのは珍しい。両者の飛車が2筋で釘付けになってしまっている。
- 攻め駒を一掃
5図らの指し手
△7五金▲同角△同金▲6四銀△8六金▲同歩△5六桂▲7七金△同銀▲同桂
(6図)
勢力争いが依然として続く。▲6四銀と両睨みに打った手が良い味のようだが、これには8六の桂を取ってしまって攻め駒を少なくしてしまったほうがわかりやすい。
そして取った桂を5六に打ち付けるカウンターが鋭い……かに見えたが、▲7七金とぶつけるのがそれ以上に味の良い一手。これで玉頭に不安がなくなった上に、左桂の活用の見込みが立った。
- 桂馬の三段活用
6図からの指し手
△5二飛▲7三銀△同玉▲同角成△同玉▲6五桂△6二玉▲7三銀△5一玉▲4三桂△4二玉▲3一銀△4一玉▲5三桂不成まで97手で先手の勝ち。
(7図)
清算し▲6五桂とさっき跳ねたばかりの桂を使っていく。そして▲5三桂不成がこれ以上ないほどピッタリな手だ。観戦に訪れた部員からは「気持ちよかろう」と声が上がった。
こんな手を指されたからには投了するほかない。急戦から玉頭戦に移るという複雑な将棋になったが、居飛車が見事な詰み筋を読み切って勝利した。
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