兵庫県立高校いじめ自殺

ページ名:兵庫県立高校いじめ自殺

兵庫県立高校いじめ自殺(ひょうごけんりつこうこういじめじさつ)は、2012年(平成24年)9月2日に兵庫県川西市で発生したいじめ自殺事件。

「虫」「菌」と呼ばれるいじめ

 2012年(平成24年)9月2日夜、兵庫県川西市の県立高校2年の男子生徒(当時17歳)が自宅で首吊り自殺。この日は2学期の始業式前日だった。遺書はなかったが、4日の葬儀で、同級生らが男子生徒のひつぎに入れるために書いた手紙にいじめを示唆する内容があり、両親が学校に調査を求めた。
 また、自殺翌日の3日に、高校の校長が自宅を訪れ、「不慮の事故」との表現で公表することを打診していた。両親は「自殺であることを明らかにしてほしい」として拒み、学年集会では自殺と説明された*1
 教員は生徒の友人や同級生から聞き取り調査を始め、6日から2年生全員を対象にアンケートを取り、いじめの実態を把握。14日夜、「精神的な苦痛があった」と事実を認めて両親に謝罪したが、自殺との因果関係については「分からない」とした。
 校長は15日に読売新聞などの取材に応じ、「いじめに気づけなかったのは非常に残念。男子生徒の両親には謝罪した」と話した。校長らによると、男子生徒は今春以降、複数の生徒から教室の椅子に蛾の死骸を置かれるほか、「ムシ」「菌」と呼ばれたり、体が触れそうになった際に「ばい菌が付く」と言われたりしていたという。これらの行為について、校長は「いじめと判断した」と説明。暴力や金銭の要求などはなかったとし、「いじめと自殺との関連はわからない」と述べた。また、担任教諭らはいじめを全く認識しておらず、校長は「生徒に目が行き届かないこともある」と釈明した*2
 いじめをした同級生3人は15~17日、生徒の自宅を訪ねて「申し訳ありませんでした」と謝罪。3人が男子生徒から「無視された」と感じた場面があったことを契機に、男子生徒のことを「無視」と同音の「虫」と呼ぶようになった経緯や、消しゴムを投げつけたり、筆箱を取り上げるといったいじめをしたことを話した。3人とも頭を下げたが、両親は「反省の気持ちは感じられなかった」という*3
 17日に校長は記者会見し、いじめに関わっていたのは生徒3人だったと明らかにした。いじめと自殺との関連については、「生徒が自ら命を絶っているので、全く関連性がなかったとも言い切れない」と話した。また、自殺の翌日に「不慮の事故」として説明することを打診したことについては、「心に影響を受けやすい年ごろなので、自殺というインパクトのある言葉ではなく、穏やかな表現にしたかった。今も不慮の事故という言葉を使うべきだったと思っている」と強調した。
 18日朝には、高校で臨時の生徒集会が非公開で開かれ、全校生徒約800人が参加。校長は「調査の結果、いじめがあった。『いじり』もいじめになることがあるのでよく考えてほしい。自殺との関連性は判断できない」と語ったという。また、生徒の自殺後、「亡くなったことを考えるとつらい」などの理由で数人が休みがちになっているという。
 10月15日、高校は2年生275人に実施したアンケートなどの結果をまとめた文書計68枚分を両親に開示した。アンケートには「見たこと」として「『虫をたべろや』といわれたのを授業中に見た」「毎日のように『ムシ』といわれる」といった記述があり、「聞いたこと」として「虫を食べさせられそうになった」「弁当にだれかが虫を入れたので、残して帰った」と回答した生徒もいた。自殺後に実施したアンケートや聞き取り調査では、半数の生徒がいじめがあったと答え、いじめは2年生から始まったという回答が多かった。
 また、同級生10人は聞き取り調査に「授業で男子生徒が集中的に指名される嫌がらせがあった」と回答した。高校によると、現代国語の授業で、教諭が最初に指名した生徒が回答した後、その生徒が次に回答する生徒を出席番号で指名する形式をとっていた。一部の生徒によると「当てっこゲーム」と呼ばれ、男子生徒は1回の授業中に集中的に指名されることがあった。高校は「特別多いわけではなかった」と反論した*4
 両親は「(アンケートは)打ち直されているので、本当は原本を見せてほしかった。学校は『これですべてを開示した』としてほしくない」と話した*5*6

同級生女子の訴えも届かず

 兵庫県教育委員の第三者委員会の報告書や訴状によると、2012年(平成24年)4月以降、男子生徒は同級生3人に「ムシ」と呼ばれる、椅子の上に死んだ蛾を置かれる、筆箱を取られたり、消しゴムのカスを投げつけられる、などの行為を受けていた。
 また、2012年(平成24年)6月に同級生の女子生徒が「男子生徒の机が違う場所にわざと動かされている」と担任教師に訴えていたが、男子生徒に事実関係を確認していなかったことが明らかになった。高校によると、女子生徒も机を動かされるいたずらを受けて担任教師に相談し、自殺した男子生徒も同じいたずらを受けていると伝えた。担任はいたずらをした生徒を呼び出して指導し、女子生徒へのいたずらはなくなったが、男子生徒については「本人からの訴えがなかった」として聞き取りはしなかった。高校は「こちらから確認すると本人を傷つけることになりかねないと判断した」と説明した*7

夏から情緒不安定に

 高校によると、男子生徒は2012年(平成24年)5月から7月にかけて計3日、学校を休んでいた。5月は両親に「学校に行く」と言いながら無断欠席し、6月は腹痛を訴えて欠席した。この際に担任が男子生徒に話を聞き、「頑張って学校に行くので大丈夫」と話したため、問題は解決したと判断したという。
 両親の話で、男子生徒は夏ごろから情緒不安定になり、夜中に「虫がおる」と泣き出したり、登校を渋ったりしていたことも明らかになった。8月中旬、夜中に寝ていた男子生徒が突然目を覚まし、布団をめくり、懐中電灯を持ち出して「ここにムカデみたいな虫がおる」と泣き出したという。実際には虫はいなかった。梅雨時には、部屋に飛び込んできたカメムシを「はよ殺して」と叫んだ。高校に入るまで虫を怖がる様子はなかったため、母親は驚いたという。生徒は同級生から「虫」と呼ばれ、椅子に蛾を置かれるなどのいじめを受けていたことから、母親は「今考えると、いじめで追い詰められていたのでは」と話した。また、6月に高校がいじめを窺わせる情報を得ながら対応していなかったことについて、「情報を教えてくれれば学校に行かせなかった」と悔やんだ*8
 また、夏休み前には弁当をほとんど食べずに帰った日もあった。男子生徒は昼食時、別の教室に行って友人と一緒に弁当を食べており、母親が理由を尋ねると「今のクラスになじめない」と答えたという。母親は「学校に行くように厳しく言ってしまった。今思えば学校をやめさせればよかった」と後悔の念を述べた。
 8月に男子生徒は、スマートフォンで自殺の方法などを20回以上検索していた*9

提訴

 2013年(平成25年)12月4日、両親は当時の担任教諭や校長、同級生ら6人と県に総額約8860万円の損害賠償を求めて提訴した。また、12月中旬、神戸地裁は同級生3人の保護観察処分を決定した。
 2015年(平成27年)8月28日、当時の担任や校長への本人尋問が神戸地裁で開かれ、当時担任の男性は同級生の行為について「いじめではないと認識していた」と述べた。1学期に同級生の女子生徒からの相談で、男子生徒の椅子が入れ替えられていることを把握しながら生徒や両親に伝えなかったことについては、「本人が気付いていない可能性が高く、精神的な苦痛は感じていないと思った」と説明。
 当時の生徒指導部長の男性は、生徒の自殺後、授業中に「遺族は理解してくれない。このままでは学校がつぶれる」などと発言したことについて「学校への非難の電話やマスコミ対応に追われていた。遺族を非難するつもりはなかった」と釈明した。
 元校長の男性は、遺族に「不慮の事故という表現を用いたい」と打診した理由を「県教委とも相談し、後追い自殺を防ぎたかった」などと述べた。また、学年集会前に遺族宅を訪問したと主張したが、原告側は否定し、食い違いが目立った。閉廷後、両親は「担任が息子への嫌がらせを把握した時点で情報をくれていれば、自殺は防げたはずだ」と声を絞り出した*10*11
 2016年(平成28年)3月30日、神戸地裁で判決が下された。判決ではいじめと自殺の関連を認めたが、自殺の予見は難しかったとし、賠償責任は生徒が受けた精神的苦痛に留まるなどとして、同級生3人と県に計210万円の支払いを命じた。
 同級生3人は男子生徒を「ムシ」と呼び、椅子の上に虫を置いたことなどについて「からかいのつもりだった」としたが、「人格を深く傷付け、大きな精神的苦痛を生じさせた」としていじめと断定。「いじめではないと認識していた」とした担任教諭の主張に対しては、いじめが大勢の生徒の前で展開されたことなどから「漫然と発見する措置を講じなかった」と指摘した。校長も「教諭を指導、助言した形跡がない」として、2人の安全配慮義務違反を認めた。
 一連のいじめと自殺の関連については「合理的な疑いを挟む余地はない」とする一方、極端な暴行が伴ういじめではなかったとして、自殺の予見は困難だったと判断。但し、いじめは執拗で生徒への慰謝料が認められるとした。
 また生徒の自殺後、指導部長が在校生に対して「遺族は全然理解してくれない」と発言したことも不適切だったと指摘。担任教諭らのいじめの対応を含めて、賠償責任は学校設置主の県にあるとした。
 両親は判決後の会見で「少しは息子の思いが伝わったが、満足できない」と語り、県教委は「判決内容を検討し、今後の対応を考えたい」とコメントした*12

*1 「兵庫・高2自殺:「不慮の事故に」校長が打診、両親は拒否」(毎日新聞、2012年9月17日、インターネットアーカイブ)https://web.archive.org/web/20120920000550/http://mainichi.jp/select/news/20120918k0000m040062000c.html
*2 「川西・高2自殺 校長「いじめに気づけず残念」」(讀賣新聞、2012年9月16日、インターネットアーカイブ)https://web.archive.org/web/20120918085800/http://osaka.yomiuri.co.jp/e-news/20120916-OYO1T00223.htm
*3 「川西いじめ自殺:生徒の両親 高校の対応に怒り」(毎日新聞、2012年9月18日、インターネットアーカイブ)https://web.archive.org/web/20120920181608/http://mainichi.jp/select/news/20120918k0000e040183000c.html
*4 「「授業中に嫌がらせ」と回答 高2自殺の調査に同級生10人」(京都新聞、2012年9月21日、インターネットアーカイブ)https://web.archive.org/web/20120921062748/http://kyoto-np.co.jp/country/article/20120921000052
*5 「「弁当に虫を入れられた」 生徒アンケートを両親に開示」(産経新聞、2012年10月16日、インターネットアーカイブ)https://web.archive.org/web/20121127190751/http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/121016/crm12101611330008-n1.htm
*6 「複数生徒から「虫」「菌」といじめ 兵庫・川西の高2自殺」(日本経済新聞、2012年9月15日)https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1502X_V10C12A9CC1000/
*7 「兵庫いじめ自殺:同級生の訴え、事実確認せず」(毎日新聞、2012年9月16日、インターネットアーカイブ)https://web.archive.org/web/20120920234949/http://mainichi.jp/select/news/20120917k0000m040087000c.html
*8 「兵庫いじめ自殺:「虫がおる」と泣き出す 夏に情緒不安定」(毎日新聞、2012年9月19日、インターネットアーカイブ)https://web.archive.org/web/20121014141617/http://mainichi.jp/select/news/20120919k0000m040154000c.html
*9 「「自殺」関連サイトを21回検索 男子生徒のスマホ」(産経新聞、2012年11月16日、インターネットアーカイブ)https://web.archive.org/web/20121116135428/http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/121116/crm12111614150013-n1.htm
*10 「川西・高2自殺訴訟 元担任「いじめではないと認識」」(神戸新聞、2015年8月28日、インターネットアーカイブ)https://web.archive.org/web/20160515065506/http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201508/0008345555.shtml
*11 「高2生いじめ自殺訴訟 30日判決、両親思い語る」(神戸新聞、2016年3月28日、インターネットアーカイブ)https://web.archive.org/web/20160402091356/http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201603/0008936570.shtml
*12 「川西高2いじめ訴訟判決 自殺との関連認める」(神戸新聞、2016年3月30日、インターネットアーカイブ)https://web.archive.org/web/20160417102356/http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201603/0008942040.shtml

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