007は二度死ぬ
You Only Live Twice
主題歌
ナンシー・シナトラ『You Only Live Twice』
公開
1967年6月12日
1967年6月13日 アメリカの旗
1967年6月17日
『007は二度死ぬ』(だぶるおーせぶんはにどしぬ[1]、You Only Live Twice)は、イアン・フレミングの長編小説007シリーズ第11作。また、1967年公開の007シリーズ映画第5作。ユナイテッド・アーティスツ提供。
小説[]
イアン・フレミングの小説007シリーズ長編第11作(単行本としては12冊め)。1964年にジョナサン・ケープ社より出版された。原題はフレミングが来日した際に「松尾芭蕉の俳句にならって[2]」詠んでみたという英文俳句[3]「人は二度しか生きることがない、この世に生を受けた時、そして死に臨む時」[4]に由来する。日本でも同年に『007号は二度死ぬ』のタイトルで早川書房から井上一夫訳によりハヤカワ・ポケット・ミステリで発売された。イアン・フレミングの生前に出版されたものとしては、最後の作品である。
あらすじ[]
結婚式の直後にブロフェルドによって妻テレサを殺されたジェームズ・ボンドは、ショックのため任務を立て続けに失敗した。上司Mは不可能に近い任務を与えて彼を立ち直らせるため、00課から外交官課に異動させて7777号とし、日本へ派遣した。ボンドに与えられた任務は、日本で開発された暗号解読器を、公安調査局長官のタイガー田中から入手することだった。田中は交換条件として、ボンドに「死の蒐集家」の暗殺を依頼してきた。
スイスから来たガントラム・シャターハント博士は、福岡に近い辺鄙な海岸の古城に庭園を作り、有毒植物を植え、蛇やサソリ・毒蜘蛛・ピラニアなどを放し飼いにしたため、全国から自殺志願者が殺到し、犠牲者が500人以上に上っていた。また、元黒龍会の会員を警備員に雇ってもいたが、違法行為は行っていないため警察当局は手出しできなかった。そこで、田中は部下を潜入させたが、その男も犠牲となってしまい、首相の許可を得てボンドに任せてみることにしたのだ。だが、博士の写真を見たボンドは、その正体がブロフェルドであることを知った。
ボンドは日本人炭鉱夫に変装し、土地の海女キッシー鈴木の助けを得て、忍者の装備を用いて城内に侵入した。ボンドは妻の仇を討つため、日本の甲冑をつけ刀を振るうブロフェルドと最後の対決をする。
出版[]
概要[]
原作と脚本[]1964年に発刊されたイギリス人作家イアン・フレミングの小説 You Only Live Twice をもとに、アルバート・ブロッコリとハリー・サルツマンの共同製作、ルイス・ギルバートの監督で、1967年に製作された。脚本はイギリス人作家のロアルド・ダール[5]。
日本が舞台[]本作は、オープニングのイギリスの植民地の香港のシーンと、米ソの軍関係者が非難の応酬をするレーダー基地のシーン(イギリス国内で撮影)を除き、舞台はすべて日本国内である[6]。そのため当時としては大掛りなロケ撮影が日本各地の観光名所で行われ、当時日本でも高まっていたボンド人気はさらに高まった。
東京オリンピック開催直後の高度経済成長期の東京を中心にロケが行われたため、地下鉄丸ノ内線やホテルニューオータニ、旧蔵前国技館、東京タワー、銀座4丁目交差点、駒沢通りなどの現在の東京でもおなじみの風景が随所に出てくる。
また、特殊部隊の訓練場を姫路城に設定しているほか、鹿児島県坊津の漁村や霧島山新燃岳などでもロケを行い、付近一帯ではボンドのオートジャイロ「リトル・ネリー」とスペクターのヘリコプター部隊の空中戦シーンの一部を空中撮影するなど大規模なロケを行った[7]。
多彩な登場人物[]丹波哲郎が日本の情報機関[8]のボスとしてほぼ全編にわたって登場するほか、初の日本人ボンドガールとして若林映子と浜美枝が登場し、日本人に化けたボンドが日本の公安エージェントと偽装結婚したり、第50代横綱佐田の山が本人役で登場したり[9]、丹波演じる日本の公安のトップの移動手段が丸ノ内線の専用車両だったり[10]、さらに公安所属の特殊部隊が忍者[11]だったりと、その現実性はさておき、日本人にとってはいろいろな意味で楽しめる作品である。
また、それまで顔が映ることのなかったスペクターの首領・ブロフェルドが、本作で初めてその姿を現す。
事故[]本作は歴代の007作品の中でも関係者の事故が多い作品である。映画の撮影中の1966年3月5日、英国海外航空のボーイング707型機が富士山山麓に墜落、乗員乗客124人全員が死亡したが、その中にはイギリスに帰国するスタッフが含まれていた(詳細は英国海外航空機空中分解事故を参照)。同機には監督のルイス・ギルバート、製作のハリー・サルツマンとアルバート・ブロッコリ、撮影のフレディ・ヤング、プロダクション デザインのケン・アダムも搭乗する予定だったが、出発の2時間前になってそれまで都合がつかなかった忍法指南による忍者術の披露が急遽行われることになり、この5名はフライトをキャンセルしている。数時間後、同機遭難の知らせをうけた一行は青ざめ、「これが二度目の命だ」と胸を撫で下ろしたという。
また「リトル・ネリー」とヘリコプター部隊の空中戦の撮影シーンでは、イギリス人カメラマンのジョニー・ジョーダンが片足を切断する事故に遭うなど、本作は航空事故との因縁が深い作品となった。
興行成績[]本作は1967年の映画の世界興行成績で、第2位であった(1位は『ジャングル・ブック』)。舞台となった日本では、1967年度の外国映画興行成績で第1位(日本映画を含めると『黒部の太陽』に次ぐ第2位)を記録した。
映画[]
ストーリー[]
謎の宇宙船[]アメリカとソ連の宇宙船が謎の飛行物体に捉えられるという事件が起こり、米ソ間が一触即発の状態になるものの、イギリスの情報機関である MI6 はその宇宙船が日本周辺から飛び立っているという情報をつかむ。その情報の真偽を確かめるために、ジェームズ・ボンドがMI6により日本に派遣されることになる。
「一度目の死」[]ボンドは敵の目を欺くため、イギリスの植民地の香港で、情報部により用意された現地の女性リンの手引きによって寝室になだれ込んだ殺し屋に銃撃され「死ぬ」。
その後ビクトリア・ハーバー内に停泊するイギリス海軍の巡洋艦上で水葬され、その「遺体」を回収したイギリス海軍の潜水艦で隠密裏に日本へ。日本上陸後は、横綱佐田の山の仲介により蔵前国技館で謎の女アキと会い、彼女を通じて日本の公安のトップ・タイガー田中に会うが、在日オーストラリア人の捜査協力者のヘンダーソンは直後に殺されてしまう。
その殺し屋は大里化学工業の本社から送られた者だと知ったボンドは、ビジネスマンを装って大里社長とその秘書ヘルガ・ブラントと接触する。テンプレート:ネタバレ終了
スタッフ[]
- 監督 - ルイス・ギルバート
- 製作 - ハリー・サルツマン、アルバート・ブロッコリ
- 脚本 - ロアルド・ダール
- 撮影 - フレディ・ヤング
- 編集 - ピーター・ハント
- 主題歌 - You Only Live Twice
- 歌 - ナンシー・シナトラ[12]
- プロダクション・デザイン - ケン・アダム
- 美術 - ハリー・ポットル
- 特殊効果 - ジョン・ステアズ
- メインタイトル・デザイン - モーリス・ビンダー
キャスト[]
ロケ地[]
都内[]- 旧蔵前国技館
- 銀座四丁目交差点(風景)
- ニューオータニ(大里化学本社)
- 営団地下鉄丸ノ内線(タイガー・田中の移動手段)
- 丸ノ内線中野新橋駅(タイガー・田中のオフィス)
- 駒沢オリンピック公園(カーチェイス)
- 代々木第一体育館付近(カーチェイス)
日本国内[]- 富士スピードウェイ(カーチェイス)
- 神戸港の新港第8突堤(浜の男たちとの乱闘)
- 姫路城(忍者訓練シーンでは極真会館のメンバーが撮影に協力した)
- 鹿児島県 坊津町 (現南さつま市)(漁村)
- 霧島山新燃岳(空撮)
- 朝日ヘリポート
- 熊野那智大社(キッシー鈴木との神前結婚式)
- 鹿児島 重富荘(タイガー田中の自宅)
日本国外[]- 香港、香港島、ビクトリア・ハーバー(オープニング水葬シーン)
登場アイテム[]
- トヨタ・クラウン(大里化学の殺し屋が使用)
- トヨタ・2000GT(ボンドカー)
- ミニ・モーク(プロフェルドの要塞の移動車)
- ランドローバー・シリーズI(香港警察のパトカー)
- ドン・ペリ二ヨン(1959年、大里化学で大里とともに飲む)
- サントリーオールド(タイガー田中の屋敷で飲む)
- ワルサーPPK
- ソニー・トランジスタテレビ(ボンドカー内蔵テレビ)
- 富士重工業FA-200(大里化学の所有機)
- バートルV-107
- ブラントリーB2[1](大里化学の所有機)
- 日本酒(華氏98.4度)
エピソード[]
配役[]- 脚本に起用されたロアルド・ダールは、プロデューサーのブロッコリとサルツマンから、「女性を3人出し、最初の女はボンドの味方で敵方に殺され、2番目の女は敵の手先でこれも殺され、3番目の女は殺されず映画の終わりにボンドがものにするように」と指示された。これにより原作に登場するキッシーに、スキとヘルガを加えた3人の登場が決まった。2人の準主役級ボンドガール(敵方のヘルガを除く)が登場するという、異例のキャスティングになったのはこのためである[13]。
- 当初は若林映子が海女のキッシー鈴木 (Kissy Suzuki)役で、浜美枝が公安エージェントのスキ (Suki)役の予定だった。撮影が始まる前、若林、浜、そしてタイガー・田中役の丹波哲郎の3人は英語特訓のため数週間ロンドンに留学するが、ギルバート監督は浜の英語力ではセリフが難しいスキ役は無理と判断して更迭を考え、丹波に浜の説得を依頼した。渋々承知した丹波に、翌日ギルバートが結果を尋ねると、「浜はホテルの窓から飛び降りると言っている」と聞かされた。そこでギルバートはブロッコリと相談の上、二人の役を入れ替え、キッシーのセリフを大幅に減らして、逆にスキの出番を増やすことにした[14][15][16]。この際、当初のスキという日本人には馴染まない名前が、若林映子の名前「あきこ」を取ってアキに変更されている。一方、キッシー鈴木という役名は原作通りだが、鈴木の姓は劇中では言及されていない。これはキッシーの出番を大幅にカットしたことから生じたミスで、仮編集の段階ではキッシーの名前さえ登場していなかった。これに気付いた監督が、慌てて1つだけ撮ってあったキッシーの名前が出るシーンを差し込んだのだという。
- 浜は東宝の演技課に言われるまま、何の予備知識もなしにホテルニューオータニへ行ったところ、ブロッコリらと面会し、本作での起用を告げられたという。ロンドン滞在中は、現地の女性スタッフと部屋を共同で借りていた。ある晩、突然の来訪者があり、誰かと思ったらショーン・コネリーだった。ペットの大型犬をその女性に預かってもらいに来たという。定時の撮影後は、スタッフらから酒宴の誘いが毎晩あり、浜はこれを敬遠していた。すると件の女性から「ニンニクを食べてたら寄りつかないわよ」と助言され、ニンニクをせっせと食べるようにしていたところ、ケン・アダムスから「ニンニクちゃん(ガーリック・ベビー)」というあだ名を付けられた。一度ダンスホールに誘われて踊っていたところ、ちょうどロンドンに滞在中だった三船敏郎が間に入って来て、刀を抜く真似をし、「日本人の誇りを忘れるな」と一喝されたという[17]。
- 若林や浜とは違って日常会話程度の英語は話せた丹波は、この後も何かにつけてプロデューサーや監督と日本人俳優やスタッフとの間に立って潤滑油としての役割を果たしたという。丹波は、早口で難しい言葉を連発するタイガーのセリフをすべて英語でこなしたが、彼の英語は発音が悪く「日本の公安のトップとしての説得力に欠けるものがあった」ため、本編ではイギリス人俳優が丹波のセリフを吹き替えている[18][19][20]。浜によると、日本人の奇天烈な描写に関しては、丹波と共に指摘を行い、かなり修正させたという。
- 大里化学の社長室で格闘する相手は日本人ではなく、アメリカ領サモア出身のプロレスラー、ピーター・メイビアである。また、ブロフェルドの手下で要塞エンジニアのスペクターNo.3役で登場するバート・クウォークは、『ゴールドフィンガー』でも同じようなゴールドフィンガーの手下でエンジニアの「リン氏」役で出演している。クォクは複数のボンド映画に出演した数少ない悪役の一人である。また、ピーター・セラーズ主演の『ピンクパンサー』シリーズでクルーゾー警部の助手(ケイトー)役を演じていた。
撮影[]- 本作には大相撲本場所の様子が登場したり、忍法や居合術を見せる場面があったり、日本式の結婚式の模様が詳しく紹介されているが、これらにはそれぞれ劇中の数分間を割いており、従来のボンド映画とは一線を画す演出となっている。これはイアン・フレミングの原作がやはりそのような書き方になっているため。後半が原作を大幅に脚色したスペクタクル巨編となっている一方で、全体としては日本文化に並々ならぬ興味を持っていたフレミングの精神を尊重するという、独特な作風が本作の大きな特徴である。
- ロケハンのために、監督を初めとするスタッフは全日空のヘリコプターを借りて日本全国を飛び回った。
- 大里化学本社の外観はホテルニューオータニを使って撮影した。ただし、映画の中でボンドはヒルトンホテルに宿泊しているといっている。これはショーン・コネリーが日本滞在中に東京ヒルトンに宿泊する際、このセリフを入れるかわりに宿泊費を大幅に割り引いてくれないかとプロデューサーが頼んだため[21]。
- コネリーらの一行は東京に到着するなりファンとマスコミに取り囲まれ、プロデューサーのブロッコリは宿泊先の東京ヒルトンで急きょ記者会見を設けた。疲労し苛立っていたコネリーは、会見に開襟シャツとスラックス姿でソックスを履かず、(当時から薄毛で撮影時は使用していた)かつらも付けずに現れ、無愛想に振舞った。この会見で、コネリーはボンド役を引退することも明らかにした[22]。
- ボンドカーとカーチェイスの末、富士スピードウェイ内の道路でボーイング・バートルV-107に吊るされ、そのまま東京湾に捨てられた大里化学から差し向けられた殺し屋のトヨタ・クラウンは、その後回収されないまま東京湾に沈んでいる。
- 神戸港の第8突堤で撮影されたスポットは、1995年1月の阪神大震災で倒壊してしまった。その神戸での格闘シーンでは、かつて笑点の座布団持ちで親しまれた松崎真が出演している。
- ブロフェルドの隠れ家は、原作では海岸沿いの古城ということになっている。しかし、プロダクション・デザイナーのケン・アダムは、日本で撮影に使用できるそのような城はありえないことを知り[23]、これが火山火口内の秘密基地というアイディアに繋がる。一方「画になる古城」の方は、姫路城がタイガーの忍者部隊の訓練施設として登場した。
- 姫路城の屋根で忍者部隊役で戦うシーンに極真会館所属の大沢昇と加藤重夫が出演した[24][25]。この撮影には各流派の空手家が集まっていたが、撮影の合間にも大沢と加藤は練習していた。その熱心さにショーン・コネリーが彼らを気に入り「あなた達の道場に行きたい」と言い、テンプレート:和暦9月3日にコネリーが極真会館本部道場に来訪して演武会が行われた。大沢、加藤の他に大山茂、郷田勇三、芦原英幸らが参加し、数々の試割りや演武を披露した。なお、コネリーには名誉参段が贈呈された[26]。
- 姫路城では現在映画の撮影を一切許可していないが、これはこの映画が原因である。特殊部隊訓練シーンの撮影の際、城壁に畳を掛け、そこに手裏剣を投げ込むシーンなどが撮られたが、外れた手裏剣が城壁に当たったり、振り回した長刀が当たったりして傷を刻んでしまったため。これに閉口した文化庁は、以後姫路城での映画撮影を原則的に禁止した。1995年に放送された『探偵!ナイトスクープ』には、ロケ当時の姫路城の館長が出演し、そのような行動に立腹し、映画会社に城壁を全部綺麗に修復させた、というエピソードを語っていた。
- 漁村のシーンが撮られた鹿児島県坊津は、「神戸と上海の間にある島」として登場する[27]。撮影はハリウッドらしく、町民の長年の陳情によって前年に作られたばかりのコンクリートで補強された桟橋が「映画の雰囲気に合わない」と一夜にして撤去、木製のものに作り替えられるなど、トラブルも多かったという[28]。一方毎日大勢のスタッフ等が大量のビールを消費するなどしたため、近所の商店で大儲けをしたところもあったという[29]。現在は町を見下ろす高台にショーン・コネリー、丹波哲郎らのサインの入った記念石碑が建てられ、観光スポットとなっている。
- 坊津で撮影が始まると、困ったのは肝心の海女が潜れないという、笑うに笑えない確認漏れだった。浜美枝は泳げるのがやっと、海女役の日本人エキストラたちも泳げるが潜水は自信がないということだった。「それなら私がやるわ」と名乗り出たのがショーン・コネリーに同伴していた妻のダイアン・シレントだった。シレントは子供の頃から泳ぎが得意で、潜水も長時間できた。映画の中でキッシーが潜っているシーンは全てこのシレントが演じている[14][15]。
- 海女の少女役で、松岡きっこがほんの数秒出演しているが(ボンドの操縦する小型のオートジャイロを見上げる役)、このわずか数秒の出演でさえ厳しいオーディションがあったと本人が語っている。
- 米ソのロケット打ち上げのシーンでは、実際のロケット打ち上げの映像が使用されている。アメリカの打ち上げシーンは、当時進行していたジェミニ計画のタイタンIIロケットの打ち上げをクルーがケネディ宇宙センターに赴いて撮影した。困ったのはソビエトの打ち上げシーンで、ボストーク計画は当時まだ最高機密に属していたため、R-7ロケットの形状や打ち上げの模様などを記録した画像は西側はおろかソ連国内でも公開されていなかった。そこで製作スタッフはジェミニの前のマーキュリー計画で使われたアトラスロケットの打ち上げを記録したストック映像を入手、これをボストークの打ち上げシーンに使用している。
- ブロフェルドの要塞が忍者隊の総攻撃を受けて爆発炎上するラストのシーンを撮影中に、爆発の轟音に驚いたブロフェルドのペルシャネコが膝の上から飛び跳ねて逃げ出し、行方をくらましてしまった。広いセットの中で怯えた猫一匹を探し出すのは至難の業で、セット用の木材の陰に潜んでいたのが発見されたのは何日も経ってからのことだった。ところが誰が何を思ったのか、この発見されたときの震えが止まない哀れな猫の姿をフィルムに収めていた者がいて、しかもそれが本編の中で使用されている。要塞総攻撃が始まり司令室の防御シャッターが鋭い金属音をたてて閉まると、これに驚いたペルシャネコがアップで映し出されるカットがそれである。
- 本作には、ロンドンのシーンがない。イギリス本土のシーンが1つもないボンド映画は、2011年現在のところ『007は二度死ぬ』1作のみである。
- 劇中、ボンドが棒術の稽古をするシーンでコネリーの指導をしたのは、日本武術研究者のドン・ドラエガー (Donn F. Draeger)であった。
- 地下基地の撮影セットのレーダーは英国ドラマ「謎の円盤UFO」で流用され、イギリスが舞台にもかかわらず日本列島が映っている。
ボンドカー[]- 本作ではトヨタ自動車が自動車のプロダクトプレイスメントの独占契約を結んでいたため、ボンドカーの2000GTを始め、二代目クラウンや三代目コロナなどが登場する。
- 2000GTは、人気投票では常に上位にランクされるシリーズの中でも代表的なボンドカーの1つ。
- 映画に使われたのはコンバーチブル仕様の特注車。2台製作された。2000GTは車高が非常に低く車内が狭いため、長身のショーン・コネリーが座ると肩をすくめて首を傾げても窮屈なほどだった[30]。そのような状態ではボンドの顔を満足に撮ることができないので、撮影開始の二週間前になって急遽これを屋根が着脱できるタルガトップ式に改装することになった。ところが出来上がった車にコネリーが乗ってみると、今度はコネリーの頭が開口部からひょこんと出てしまい、実に滑稽な有様になってしまった。そこで改めてこれを、フロントガラスのフレームだけを残しあとは全て取り払ったコンバーチブルに再改装したが、大至急の改造だったため幌屋根が付けられず、座席後方には幌カバーらしく作ったダミーを装着してごまかすことにした。こうして出来上がった車は、屋根がないのでさすがに「コンバーチブル」とは呼べず、そのため名称は「2000GT オープントップ」に落ち着いた。
- ところがいざ撮影が始まると、今度はアキ役の若林映子が車の運転ができないことが判明する。そもそも当初の脚本ではボンドがこの車を運転することになっていたが、ストーリーの展開上アキがこれを運転することに変更された。この後で若林と浜美枝の役柄が交換されたが、その際誰も若林に運転免許の有無を確認しなかったのである。このためクロースアップのシーンは停車している車をスクリーンプロセス撮影で撮り、遠景は日本人の男性ドライバーにかつらとスカーフを被せてこれを運転させた。
- この2台のボンド仕様車のうち、1台は現在トヨタ博物館に展示されている。もう1台は早くから行方が分からなくなっており、所在や所有者についての様々な憶測はあるものの、詳細は不明である。
- なおボンドは本作では車を全く運転しない。劇中ボンドが車を運転しないボンド映画は、2011年現在『007は二度死ぬ』一作のみである。
ボンド[]- ボンドがMやマニーペニーと会うのは香港のビクトリア・ハーバーの海底で待機していたイギリス海軍の原子力潜水艦の中という設定。ここでボンドとマニーペニーは007映画の中で初めて海軍制服を着た姿で登場する。またマニーペニーがボンドに「中佐 (Commander)」と呼びかけるのに対して、ボンドはマニーペニーのことを「中尉 (Sub-Lieutenant)」と呼んでおり、彼女の階級もここで初めて明らかにされている。
- ボンドの結婚は『女王陛下の007』でのテレサ(トレーシー)との一度きりだが、本作でのキッシー鈴木との偽装結婚もあわせて厳密には二度。なおジョン・ピアソンの仮想ボンド伝によれば、キッシーはボンドの子を身籠っており、秘かにこの子を出産、鈴木ジェームズ太郎 (James Taro Suzuki) と名付けたことになっている。「太郎」はボンドが本件の任務で使用した日本名でもある。
- 「世界一有名で変装はしないスパイ」といわれるボンドだが、本作では日本人になりすますために変装を用いている。そもそも当時の日本人とは体格からしてまるで違うボンドを、タイガー・田中配下の公安専属美人エステティシャンたちが肌を染めたり眉毛を切ったりして「ちょっと見た目には日本人と区別できない」ほどの出来にしてしまうというのは、ボンド映画ならではお愛嬌。胸毛を剃られようとするとボンドが勘弁してくれと懇願するくだりは、意図的に挿入された内輪ジョークである。当時ショーン・コネリーはセックスシンボルとして女性の間で人気が高く、その毛むくじゃらの広い胸板は彼の看板になっていた[31]。世間受けするセクシーな男性の胸は今でこそ剃毛したスムーズなものが主流となっているが、当時はその逆で、胸毛は男らしさの代名詞だったのである[32]。
- 映画の冒頭で、マニーペニーがボンドに渡す日本語の本は Instant Japanese: A Pocketful of Useful Phrases(インスタント・ジャパニーズ: ポケットいっぱいの役に立つフレーズ集)という本。Masahiro Watanabe、Kei Nagashima 共著の1964年に初版された実在する本である[33]。これをボンドは「ケンブリッジ大学では東洋言語を専攻して学位を得ている」と言ってマニーペニーに放り返すが[34]、劇中でボンドが使った日本語は「コンニチワ」などごくわずかで、真偽のほどは確かではない。
- なお本作でボンドは全編を通じて「覆面捜査」を行っているので、「Bond, James Bond」というシリーズお馴染みの決めセリフを使っていない。劇中ボンドが「Bond, James Bond」と言わないボンド映画は、本作と『007 慰めの報酬』の2本である。
- また、コネリー主演の一連の作品(『ネバーセイ・ネバーアゲイン』も含む)の中で唯一制服姿を披露し、タキシード姿にならない作品でもある。
主題歌[]
フランク・シナトラの愛娘、ナンシー・シナトラが歌っている。イギリスでは、カップリング曲だった“ジャクソン”と共に両面ヒットとなり、「ミュージック・ウィーク」誌では、最高位11位、アメリカでは、“ジャクソン”のB面としてリリースされ、「ビルボード」誌で、最高位44位だった。また、同サウンドトラック・アルバムは、「ビルボード」誌アルバム・チャートで、最高位27位を獲得している[35]。
日本語吹き替え[]
映画が公開されてから約10年後の1970年代にテレビ放映された際、丹波哲郎と浜美枝が自らのセリフの日本語吹き替えを行って話題になった。若林映子は当時、手の怪我のために吹き替えの収録に参加できなかった(雑誌『映画秘宝』のインタビューより)。
なお、月曜ロードショー版のガンバレル〜タイトルバックまではオリジナルとは前後異なる編集をされていた。これは本家イギリスでのテレビ放送でも同様の編集をされていた。一説には1970年代に日本でリバイバル上映された際、同様の編集をされていたという噂があり、その編集の真意は現在も不明である。
- テレビ版 - TBS『月曜ロードショー』1978年4月3日放映
プロデューサー - 熊谷国雄、台詞 - 木原たけし、演出 - 佐藤敏夫、日本語版制作 - 東北新社、TBS- DVD新録版 - 2006年11月22日発売 DVD アルティメット・コレクション
翻訳 - 平田勝茂- 2010年4月、WOWOWでハイビジョン画質にて完全放映された。
注釈・出典[]
- ↑ 公開時。その後「007」は日本でも原語とおなじように「ダブルオーセブン」と読むようになったが、当時は「ゼロゼロセブン」と読んでいた(シリーズ第7作『007 ダイヤモンドは永遠に』頃まで)。本作でも劇中でタイガーがボンドのことを「ゼロゼロ」と呼んでいる。
- ↑ “after Basho” – You Only Live Twice epigraph
- ↑Haiku in English
- ↑ 英語原文:“You only live twice: Once when you're born, And once when you look death in the face.” – You Only Live Twice epigraph
- ↑ ダールとフレミングは交友があり、ダールはほかにフレミング原作のミュージカル映画『チキ・チキ・バン・バン』の脚本も務めている。
- ↑ 全編の舞台が一つの国という007作品は本編と、ジャマイカが舞台の『ドクター・ノオ』だけである。
- ↑ ただし、国立公園内でそうした大規模な撮影の許可は下りなかったため、その大部分は地形が似たスペインのシェラ・ネバダ山地で行い、これらを合成で処理している。
- ↑ ハヤカワ版では公安調査局(実在の公安調査庁とは異なる訳語になっている)。
- ↑ その佐田の山と土俵場で相撲を取る相手は関脇時代の琴櫻である。
- ↑ 撮影に使用されたのは営団地下鉄丸ノ内線の中野新橋駅だが、原作では田中の事務所は横浜にある工事中の地下鉄の駅構内ということになっている。
- ↑ 忍者は映画ほど活躍しないが原作にも登場し、田中が訓練についていけない部下を見殺しにする厳しさを見せたり、ボンド自身が訓練を受けたりする描写がある。
- ↑ フランク・シナトラの娘。
- ↑ 『007の東洋の素敵な美女たち』常盤新平訳『EQ』昭和53年3月号 早川書房 掲載。『探偵たちよ スパイたちよ』丸谷才一編 集英社(文藝春秋 文春文庫 ISBN 978-4-16-713808-0) にも収録。オリジナルは、アメリカ雑誌PLAYBOYにおけるダールへのインタビュー。
- ↑ 14.014.1 メイキング・オブ・007は二度死ぬ(DVD特別編・アルティメット・エディション特典映像)
- ↑ 15.015.1 紀平照幸 編集・執筆『Junior SCREEN Vol.12 スクリーン特別版 SPY MOVIES特集 007のすべて』近代映画社 ISBN 978-4-7648-8173-0
- ↑ 本作で若林映子と浜美枝は同じシーンに登場しないが、この5年前に公開された東宝の『キングコング対ゴジラ』で両者は友人役として出演し競演していて、製作者側も『キングコング対ゴジラ』に出ていた若林と浜を」と彼女らを指名してきたそうである。
- ↑ 『ホラ吹き太閤記』DVDでの浜のコメンタリより
- ↑ タイガーの声はイギリス人俳優のロバート・リーティーが吹き替えている。リーティーは『サンダーボール作戦』でイタリア人俳優アドルフォ・チェリ扮する敵役のエミリオ・ラルゴの声を吹き替えているほか、『ドクター・ノオ』ではジャマイカ在住のイギリス人エージェントの声を、ユア・アイズ・オンリーではオープニングシーンで車いすに乗ったブロフェルドの声を吹き替えている。
- ↑ 丹波自身の声は、初登場シーンの笑い声と、部下に日本語で指示を出す短い一言、そしてタイガーとボンドが浴槽つきのマッサージルームでリラックスするシーンで、従業員に日本語で話しかける二言三言を聞くことができる。なおこの際丹波は、ボンドにのみサービスを行おうとする従業員に対して「主人を忘れちゃダメだよ主人を」とのセリフを入れているが、アドリブであるために翻訳されていなかった。また丹波は、1999年公開のアニメーション映画『クレヨンしんちゃん 爆発!温泉わくわく大決戦』に本人を模したキャラクター“温泉の精・丹波”の声で出演したが、この際の「俺はジェームズ・ボンドと一緒に風呂に入ったこともあるんだ」というセリフは、このシーンのことを指したものである。
- ↑ 丹波の著書(共著の聞き書き本)『大俳優 丹波哲郎』などによれば、彼独特の声質が英国人が抱いていた平均的日本人男性の甲高いイメージとはかけ離れ、下手をすれば主役のコネリーの存在感を食いかねないほどのトーンに仕上がったとの理由で吹き替えられたという後述談もある。実際生前の彼は低音で非常によく通る地声で知られるためにあながちありえない話でもない。
- ↑ なお原作でボンドが泊まるのはホテルオークラ。「帝国ホテルでアメリカ人旅行者が殺されたためそこを避けた」という設定になっている。
- ↑ ジョン・ハンター 『ショーン・コネリー』 池谷律代訳、キネマ旬報社、1995年、125-126頁。ISBN 978-4-87376-096-4
- ↑ 台風被害や攻城された時、追い込まれるのを防ぐため伝統的に日本の城は海岸部を避けて築城される。ただ絶対にない訳でもない。高松城(香川県)や今治城などは海岸線や海に繋がっている。
- ↑ 「特集●郷田勇三-空手行路四十年」『格闘Kマガジン』 ぴいぷる社、3月号、テンプレート:和暦、12頁。
- ↑ そのシーンは宣伝のスチール写真に使われたが、映画ではカットされている。
- ↑ 「国際空手道連盟極真会館-年度別昇段登録簿-国内」『極真カラテ総鑑』 株式会社I.K.O.出版事務局、テンプレート:和暦、62頁。
- ↑ 確かに坊津は「神戸と上海の間」ではあるが、弧島ではなく九州本島と陸続きである。
- ↑ 『探偵!ナイトスクープ』による。ただし、撮影終了後は全て元通りに直したという。
- ↑ 『探偵!ナイトスクープ』
- ↑ 2000GTの車内の狭さは伝説的で、くつろいで座れるのはせいぜい身長173cm前後までだという。当時コネリーの身長は188cmだった。
- ↑You Only Live Twice のポスター
- ↑ このコネリー版ボンドのイメージを踏襲して、以降の歴代のボンドも一様に胸毛を露出していた。ロジャー・ムーアは胸毛がないと不評をかこうとこれを生やし、彼には似合わないと不評をかこうとこれをまた剃ったりしている。しかし、時代の流れには逆らえず、胸毛は作を追うごとに薄くなり、6代目のダニエル・クレイグからはついに胸毛なしのボンドにイメージチェンジしている。
- ↑ 1996年に洋版出版から改訂版が出ている。ISBN 978-4-89684-725-3
- ↑ ボンドが話すことのできる言語はイアン・フレミングの原作と映画とでは異なっており、またボンド映画シリーズの中でも矛盾があるが、共通しているのは英語、フランス語、ドイツ語、ロシア語、そして日本語で、これらはいずれもペラペラということになっている。
- ↑ 契約の関係上、ユナイテッド・アーティスツ・レコード原盤のサウンドトラック・アルバムに収録された音源はナンシー・シナトラが契約していたリプリーズ・レコードからのシングル発売が出来なかったため、シングル盤にはリー・ヘイズルウッドのプロデュースによる別録音音源が使用されていた。
関連項目[]
外部リンク[]
- Toyota 2000GT Open-top(豊富な画像と逸話を載せる)
- 予告編(アメリカ劇場公開のもの)
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