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ハナ肇とクレージーキャッツの映画(-くれーじーきゃっつ-えいが)とは東宝及び渡辺プロダクションが1962年から71年暮れにかけて製作した、植木等や谷啓などのクレージーキャッツのメンバーが主演した喜劇映画の総称である。さらに無責任シリーズ、日本一の男シリーズ、クレージーシリーズ、時代劇作品に分類される。全作品カラー、シネマスコープである。
クレージーキャッツは1955年に結成後、メンバーの植木等がボーカルを務める『スーダラ節』や『こりゃシャクだった』が大ヒットを飛ばし、戦後復興期のサラリーマン群像を歌い上げるスターとして注目されており、コントにも歌にも絶妙の才能を発揮する彼らを映画に起用することは当時のメジャー5社(大映、東宝、松竹、東映、日活)にとっても最重要課題だった。結局、大映と東宝が最後まで残り、クレージーキャッツは大映を選んで弓削太郎監督による『スーダラ節 わかっちゃいるけどやめられねぇ』と枝川弘監督による『サラリーマンどんと節 気楽な稼業ときたもんだ』に出演したものの、軽快な歌に反してサラリーマン生活の悲哀をストレートに表現する二本の映画は大ヒットには結びつかなかった。
また、この二本の映画でクレージーキャッツの歌って踊れて演技もできるという魅力を存分に引き出せないことにジレンマを感じていた所属プロ・渡辺プロダクションの渡辺晋社長は、当時サラリーマン喜劇や歌謡映画でヒットを飛ばしていた東宝に話を持ちかけ、メンバーの中で一番のヒットメーカーである植木等を主演に据えた『ニッポン無責任時代』の製作にこぎつける。なぜ東宝でのクレージー映画第一作が『無責任』になったのかは諸説あるが、当時東宝企画部社員でシナリオを書いていた田波靖男本人の証言によると、クレージーものとは全然別にフランキー堺主演を想定して、サラリーマンとしてがんじがらめになっている現状を打破するキャラクターを描いた『無責任社員』というシナリオを会社に提出したが、企画が通らずに眠っていたところを、クレージーキャッツ主演の企画を探していた東宝のプロデューサー・安達英三朗の目に留まり、植木等主演でこれをやろうと決まったという。なお、映画クレジットでは松木ひろしとの共同作品になっているが、松木は最後に少し直しを入れた程度で、実質的には田波単独によるオリジナルシナリオである。
監督には、戦時中パレンバン上陸作戦で落下傘部隊として一番乗りした武勇談を持ち、戦後東宝に入社後も反骨精神で独自の世界を築き上げていた古澤憲吾が抜擢される。古澤は同じ撮影所で黒澤明の仕事を横目で見ながら「向うがクロサワなら俺はフルサワ」と豪語して、新人監督ながら妥協しない制作姿勢を貫く監督として知られていた。古澤はまだ新人ライターだった田波のシナリオを元に、旧来の道徳観念を笑い飛ばし、持ち前の調子の良さと明るさで戦後の世相をポジティブに乗り切っていくヒーロー・平均(たいらひとし)を作り上げていった。
主役を演じる植木等は、元々僧侶の家庭に育ち、主人公の無責任男とは正反対の人柄であり、当初この役に反発して、古澤宅に押しかけ降板を申し出ようとしたが、古澤のキャラクターにかける意気込みと、古澤が植木のまだ隠れている才能を見抜いていることに感服し、古澤に全てを任せようと決意したという。
『ニッポン無責任時代』は1962年7月29日に封切られ(併映作品は『喜劇 駅前温泉』)、ミュージカルありコメディありの作品はこの年の夏の興行収入トップに躍り出る大ヒット作となった。なお、完成作品を見た東宝の重役でプロデューサーの藤本真澄は、社長シリーズをはじめとするそれまでの東宝サラリーマン喜劇の登場人物とは正反対のキャラクターがのし上がるストーリーに激怒したが、ヒットしたため続編製作を決定したという。
1962年10月には人気テレビ番組の映画化『若い季節』が、古澤監督、植木出演で封切られ、こちらも当時の人気歌手を散りばめて「東宝ミュージカル」とでも呼ぶべき洗練された世界を描いた。この二本の作品により、植木等、クレージーキャッツ、古澤憲吾の名前は、従来あり得なかったお洒落でポップなタッチで現実を切り取る表現するスターとして認知されるようになり、日本一の男シリーズ、クレージーシリーズと映画の醍醐味を追求するシリーズ映画へと発展していくことになった。
無責任シリーズは植木等演じる正体不明の男が会社に入って出世する物語である。
公開年 | タイトル | 監督 | 主人公 | 会社・組織名 | マドンナ | 主題歌 |
---|---|---|---|---|---|---|
1962 | ニッポン無責任時代 | 古澤憲吾 | 平均 | 太平洋酒 | 佐野愛子 (重山規子) | 無責任一代男 |
1962 | ニッポン無責任野郎 | 古澤憲吾 | 源等 | 明音楽器 | 丸山英子 (団令子) | 無責任一代男 |
日本一の男シリーズはクレージーキャッツというよりむしろ植木等の映画であり、植木以外のメンバーはあまり出演していない。植木のキャラクターは無責任からモーレツ社員へと変化している。
公開年 | タイトル | 監督 | 主人公 | 会社・組織名 | マドンナ | 主題歌 |
---|---|---|---|---|---|---|
1963 | 日本一の色男 | 古澤憲吾 | 光等 | ローズ化粧品 | 金山丸子 (団令子) | どうしてこんなにもてるんだろう |
1964 | 日本一のホラ吹き男 | 古澤憲吾 | 初等 | 増益電器 | 南部可那子 (浜美枝) | ホラ吹き節 |
1965 | 日本一のゴマすり男 | 古澤憲吾 | 中等 | 後藤又自動車 | 細川眉子 (浜美枝) | ゴマスリ行進曲 |
1966 | 日本一のゴリガン男 | 古澤憲吾 | 日本等 | 統南商事 | 左右山百合子 (浜美枝) | 何が何だかわからないのよ |
1967 | 日本一の男の中の男 | 古澤憲吾 | 小野子等 | 丸菱造船・世界ストッキング | 牧野未知子 (浅丘ルリ子) | そうだそうですその通り |
1968 | 日本一の裏切り男 | 須川栄三 | 日の本太郎 | オールセールス社 | 日見子 (浜美枝) | こりゃまた結構 |
1969 | 日本一の断絶男 | 須川栄三 | 日本一郎 | 八百広告・北斗組 | ミミ子 (緑魔子) | 静かな午后のひととき |
1970 | 日本一のヤクザ男 | 古澤憲吾 | 日本一郎 | 根本組 | 前野登志子 (司葉子) | 今日が命日この俺の |
1970 | 日本一のワルノリ男 | 坪島孝 | 日本兵助 | 世界陶器 | 高野友紀子 (浜美枝) | ワルノリソング |
1971 | 日本一のショック男 | 坪島孝 | 日本一作 | 金丸化学 | 山上春子 (酒井和歌子) | パイノパイノ日本 |
作戦シリーズは7人のメンバー全員が協力する話である。谷啓主演作で他のメンバーが友情出演する『クレージーだよ奇想天外』もこのシリーズに含まれる。このシリーズは坪島孝がメイン監督を務めた。
公開年 | タイトル | 監督 | 主人公 | 会社・組織名 | マドンナ | 主題歌 |
---|---|---|---|---|---|---|
1963 | クレージー作戦 先手必勝 | 久松静児 | 上田ヒトシ | よろずまとめや | お静 (池内淳子) | クレージー作戦のテーマ |
1963 | クレージー作戦 くたばれ!無責任 | 坪島孝 | 田中太郎 | 鶴亀製菓 | 前川恵子 (浜美枝) | くたばれ!無責任 |
1963 | 香港クレージー作戦 | 杉江敏男 | 植田等 | 第百商事・菊花亭 | 浜野ミエ (浜美枝) | どうせやるなら |
1964 | 無責任遊侠伝 | 杉江敏男 | 上田ヒトシ | 阿波商事 | 泉カネ子 (浜美枝) | バクチは死んでもやめられない |
1965 | 大冒険 | 古澤憲吾 | 植松唯人 | 週刊トップ | 谷井悦子 (団令子) | 大冒険マーチ |
1966 | クレージーだよ奇想天外 | 坪島孝 | M7・鈴木太郎 | 大聖化学 | 城山和子 (星由里子) | 虹を渡って来た男 |
1966 | クレージー大作戦 | 古澤憲吾 | 石川五郎 | 砂走刑務所バンド | 高山姫子 (野川由美子) | 大作戦マーチ |
1967 | クレージーだよ天下無敵 | 坪島孝 | 猿飛三郎・犬丸丸夫 | トヨトミ電気・徳川ムセン | 石川和子 (野川由美子)・松野みどり (高橋紀子) | それはないでショ |
1967 | クレージー黄金作戦 | 坪島孝 | 町田心乱 | 金友商事 | 海野月子 (浜美枝) | ハローラスベガス―金だ金だよ |
1967 | クレージーの怪盗ジバコ | 坪島孝 | 怪盗ジバコ | W.C.W.C. | 姫野ナナ (浜美枝) | 余裕がありゃこそ |
1968 | クレージーメキシコ大作戦 | 坪島孝 | 酒森進 | ドン・コステロ一味 | 村山絵美 (浜美枝) | ハイウェイギンギラマーチ |
1969 | クレージーのぶちゃむくれ大発見 | 古澤憲吾 | 植村浩 | 東西電気 | 天野好子 (中山麻里) | 笑って笑って幸せに |
1969 | クレージーの大爆発 | 古澤憲吾 | 大木健太郎 | GIB | 毛利エリ子 (松岡きっこ) | キンキラキン |
1971 | だまされて貰います | 坪島孝 | 伊賀良太郎 | エンパイア・アマルガム・テクニクス社 | 早川光子 (野川由美子) | カモン!ニューヨーク |
公開年 | タイトル | 監督 | 主人公 | 会社・組織名 | マドンナ | 主題歌 |
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1964 | ホラ吹き太閤記 | 古澤憲吾 | 木下藤吉郎 | 織田家 | 寧子 (浜美枝) | だまって俺について来い |
1964 | 花のお江戸の無責任 | 山本嘉次郎 | 古谷助六 | 播随院長兵衛一家 | 揚巻太夫 (団令子) | 無責任数え歌 |
1966 | クレージーの無責任清水港 | 坪島孝 | 追分三五郎 | 次郎長一家 | お雪 (浜美枝) | たそがれ忠治―義理と人情 |
1970 | クレージーの殴り込み清水港 | 坪島孝 | 追分三五郎 | 次郎長一家 | お雪 (星由里子) | 旅の空 |
上記30作以外のクレージーキャッツ主演作品。
公開年 | タイトル | 監督 | 主人公 | 会社・組織名 | マドンナ | 主題歌 |
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1968 | 空想天国 | 松森健 | 田丸圭太郎 | 山水建設 | 山村宏子 (酒井和歌子) | 夢が夢がこぼれる |
1969 | 奇々怪々 俺は誰だ?! | 坪島孝 | 鈴木太郎 | 牛印乳業 | 種村百合子 (吉田日出子) | 吹けば飛ぶよな平社員 |
1970 | 喜劇 負けてたまるか! | 坪島孝 | 寺川友三 | 放送企画研究所 | 寺川良子 (浜美枝) | 水虫魂 |
1972 | 喜劇・泥棒大家族 天下を盗る | 坪島孝 | 猪狩時之助 | 筑豊炭田泥棒一家 | 猪狩アケミ (八並映子) | ― |
初期の代表的なマドンナは団令子である。最も多くの作品に出演したマドンナは浜美枝である。野川由美子も出演が多い。また、五社協定がゆるんだ結果として『日本一の男の中の男』では日活の浅丘ルリ子が出演している。
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