小早川家の秋

ページ名:小早川家の秋

小早川家の秋

監督

脚本

野田高梧
小津安二郎

製作

藤本真澄
金子正且
寺本忠弘

出演者

中村鴈治郎(二代目)
原節子
司葉子

音楽

黛敏郎

撮影

中井朝一

編集

岩下広一

配給

公開

1961年10月29日 日本の旗

上映時間

103分

製作国

日本

言語

日本語

前作

秋日和

次作

秋刀魚の味


『小早川家の秋』(こはやがわけのあき)は、小津安二郎監督による1961年公開の日本映画である。松竹を拠点にしてきた小津が、東宝(製作は宝塚映画)で監督した唯一の作品。なお、表題の姓「小早川」は「こばやかわ」ではなく「こはやがわ」と読む。英語題名は『The End of Summer』。

目次

解説[]

兵庫県宝塚市に存在した東宝系の宝塚映画制作所(現・宝塚映像)の創立10周年記念作品として、巨匠・小津安二郎を招聘した作品である。脚本は、野田高梧と小津との共同執筆によるオリジナルであり、前作『秋日和』(1960年)完成直後より蓼科高原の野田の山荘で執筆された。

小津が東宝で映画を製作することとなったのは、表向きは『秋日和』で、当時、東宝専属だった原節子と司葉子が松竹映画に出演したことの見返りとなっているが、実際は小津の大ファンだった藤本真澄プロデューサーのかねてからの小津招聘作戦が功を奏したものだったという。『早春』(1956年)に東宝専属の池部良が出演した際には、藤本は池部に「何としても小津さんのご機嫌をとって、東宝に来てもらうように頼みなさい」という命令を下すほどの熱の入れようだった。小津は既に松竹以外の他社では、新東宝で『宗方姉妹』(1950年)を、大映で『浮草』(1959年)を撮っていたが、五社協定が厳しかった時代に、小津のような松竹を代表する巨匠が東宝で映画を撮ることは稀有なことであった。

藤本には、東宝の専属俳優達を強烈な個性を持つ小津映画に出演させて、今までとは異なるイメージを引き出したいという狙いもあった。そのため、本作品は新珠三千代、宝田明、小林桂樹、団令子、森繁久彌、白川由美、藤木悠ら東宝スター総出演となっている。また、小津も熟練の職人芸で毛色の異なる俳優たちを的確に演出している点も、この作品の見どころの一つとなっている。内容的にも結婚を巡るドラマのスケールを広げて、京都・伏見の造り酒屋の大家族を巡るホームドラマ大作となったが、小津の視点はあくまでも主人公である小早川万兵衛(中村鴈治郎)の老いらくの恋とその死に向けられ、この頃小津が自らを「道化」と称していた心境とも重なるものとなった。万兵衛の葬儀を描いたラストの葬送シーンは11分45秒にわたるこの映画のクライマックスだが、小津は火葬場の煙突から上る煙や墓石を強調し、それらの場面を黛敏郎作曲による『葬送シンフォニー』で盛り上げ、なおかつ笠智衆と望月優子の夫婦による宗教的な会話を挟むことによって、小津作品の中でも最も強烈に死生観を感じさせるものとなっている。

なお、本作は小津の遺作から一つ前の作品であると同時に、東宝専属となった原節子とのコンビ最終作ともなった。

あらすじ[]

京都・伏見の造り酒屋・小早川の長男は早くに死に、その未亡人の秋子に小早川所縁の北川が再婚話を持ってくる。相手の磯村は鉄工所の社長でちょっとお調子者だ。また、次女の紀子も婚期を迎えて縁談が持ち込まれるが、紀子は大学時代の友人・寺本に思いを寄せている。一方、小早川の当主・万兵衛は最近、行き先も告げずにこそこそと出かけることが目立つようになった。店員の丸山が後を尾けるが、したたかな万兵衛に見つかってしまい失敗。小早川の経営を取り仕切る入り婿の久夫と長女の文子夫婦が心配して行方を突き止めると、そこは祇園に住む万兵衛のかつての愛人・佐々木つねの家だった。さんざん母を泣かせた万兵衛の女好きがまた始まったと怒る文子。しかし、万兵衛はつねと、つねの娘百合子との三人の生活に、特別な安らぎを感じているようだった。そして…。

キャスト[]

  • 小早川万兵衛:中村鴈治郎(二代目)
  • 長男の嫁・秋子:原節子
  • 次女・紀子:司葉子
  • 長女・文子:新珠三千代
  • その夫・久夫:小林桂樹
  • 息子・正夫:島津雅彦
  • 磯村英一郎:森繁久弥
  • 佐々木つね:浪花千栄子
  • 娘・百合子:団令子
  • 寺本忠:宝田明
  • 北川弥之助:加東大介
  • 妻・照子:東郷晴子
  • 中西多佳子:白川由美
  • 加藤しげ:杉村春子
  • 店員・山口信吉:山茶花究
  • 店員・丸山六太郎:藤木悠
  • 農夫:笠智衆
  • その妻:望月優子
  • ホステス:環三千世
  • 万兵衛の弟:遠藤辰雄(現・遠藤太津朗)
  • 医者:内田朝雄

エピソード[]

  • この作品で初めて小津映画に出演した俳優のうち、小津の好みにかなったのは、小林桂樹、藤木悠、団令子などであった。特に小津が夢中になったのは新珠三千代であり、撮影の合間には「松竹で作る次回作に主演してくれ」と小津が新珠に懇願する場面もあった。反対に、小津にとって演出しづらかったのは、森繁久弥や山茶花究などアドリブ芝居を得意とする俳優だったという。特に森繁は、小津をへこましてやろうという闘争心剥き出しだったために、小津もその演出に苦労した。森繁が「小津に競輪なんか撮れっこない」と言ったエピソードなども知られている。小津は扱いづらい俳優と仕事をする際には、根気強く説得するのではなく、やや突き放して冷淡に接したといわれているが、当時性格俳優として人気のあった山茶花究などは、この小津の態度に戸惑い、失意さえ味わったという。
  • 小津は松竹からスタッフを1人も連れて行かずにこの作品を撮った。東宝は小津を招くということで、当時の東宝を代表する一流のスタッフを揃えた。撮影の中井朝一は黒澤明作品の常連であり、照明の石井長四郎は成瀬巳喜男作品を支えてきたスタッフである。そのため、小津の他の松竹作品とは違った独特の緊張感が漂っている。ただし、編集に関しては、自分の生理にあったフィルムの繋ぎにこだわるあまり1コマを半分に切ることまでする小津の要求に応えることは困難を極め、最終的には松竹から小津の長年のパートナーである浜村義康が急遽呼ばれることとなった。また、赤い色にこだわる小津は、この作品でも松竹作品と同じくアグファ社のフィルムを使用している。赤い色へのこだわりは、撮影のほか、衣装や小道具にも及び、赤い小道具を撮影する際には、スタッフ全員でスタジオ内を掃除し、異物が写り込まないように細心の注意を払った。
  • ラストシーンで、葬送の行列が川にかかった橋を渡る際に、カットによって川の流れの向きが逆になっている。このミスを指摘したのは試写を見た藤本真澄だったが、実際にはミスとはほとんど気づかないくらいの些細なものであるという。

参考文献[]

  • 金子正且、鈴村たけし・著『その場所に映画ありて プロデューサー金子正且の仕事』ワイズ出版 ISBN4-89830-178-9


fr:Dernier Caprice

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