仁義なき戦い 代理戦争は1973年9月25日に東映で公開された日本映画。「仁義なき戦いシリーズ」の第三弾。
概要・エピソード[]
- 集団心理劇を描いた第一部から情念の物語である第二部を経て再び本作では集団心理劇が描かれ、その脚本の構成とダイナミックな演出は高い評価を得て1973年のキネマ旬報ベストテン第8位に選ばれた(ちなみに第一部は2位に選出されている)。
- 物語は第一部終了後の昭和35年~38年を描いているため、厳密に言えば第一部の続編は第二部でなく本作の第三部である。
- 脚本を担当した笠原和夫も本作を「日本でも一、二位を争う群像劇になったと思う」と語っている。
- 明石組・岩井信一を演じた梅宮辰夫は最初眉毛をなくす為、眉に肌色の蝋を塗るというメイクをしていたが、汗が出ると蝋が溶けてしまうため眉毛を剃り落とす事にしたが、家に帰ると当時産まれたばかりの長女・梅宮アンナがその形相に怯え泣き止まなかったという。
テンプレート:ネタバレ
ストーリー[]
- 昭和35年の広島市繁華街、白昼にやくざの杉原が殺される。所詮、ばくちのもつれによる殺しだが杉原は病気療養中の村岡組長の舎弟であり、彼の死で村岡組の跡目が空席となる。組の継承は組長から直盃(じかさかずき)を下ろされた者のみ資格があり順当にいけば村岡舎弟である打本昇[打本組]のはずだが、杉原の仇を討たないため周囲から推されずにいた。
- 隣接する呉市。山守義雄[山守組]は分派して組を構えた広能昌三を強引に傘下に戻す。この裏には村岡組の幹部連[松永弘、武田明、江田省一]、それに打本と親しい広能を利用して広島の情勢を見極めようとする魂胆があり山守とその側近である槇原政吉[槇原組]の腹黒さに広能はうんざりする。
- 一方の打本は、広能や村岡組幹部と同盟を結び[a:打本を兄、広能らを弟とする兄弟分の盃]を交わす。また、他国の神戸・明石組へも接近。神戸は打本の価値を判断し[b:明石組舎弟の相原と打本の五分兄弟盃]を交わす。広能は明石へ己を売り込もうとする打本に幻滅する。
- 打本の盃外交は村岡組長の心証を悪くさせ、その引退時に跡目は組内から立てず子分と縄張りを山守の預りとする。広能は内心不満だが村岡と山守の橋渡しをつとめている。盃を直した新生山守組は披露目の式を設け山口の豊田会、岩国で抗争中の小森組と浜崎組、明石組、打本組が顔を揃える。宴の席で怪気炎をあげる山守としらける広能。この席で打本は山守に侮辱され、広能とも決裂。火種は岩国へ飛び火する。
- 山守は浜崎組(槇原舎弟)を応援すると幹部たちに宣言。この真意は寄り合い所帯の山守組の統制を取るために小森(とその兄貴分の打本)を仮想敵として統一戦線をはる事にあった。これに対し仲裁人にたっている打本は[b:盃]で明石とつながり、浜崎には豊田会が背後に見える以上火中の栗を拾うのは得策でない。今は組の地盤を固めるべきと松永は正論を具申するが山守に押し切られる。
- 命令はされても[a:盃]を交わしている以上は広能たちも腰は上がらない。膠着状態に業を煮やした山守は敵陣営を弱体化させるために打本組幹部の早川の切り崩しにかかる。動揺する早川。山守組内部でも仁義に外れた組長の行動に呆れながらもその方針に従はざるを得ず[a:盃]を水にする。孤立し仲裁にも失敗した打本は山守へ指をつめ逃亡。
- 絵図に見事はまり高笑いする山守。打本を裏切った早川と打本組の跡目について話始める組長の能天気ぶりに広能は「こげなことが、神戸にしれたら」と田舎やくざに身内をコケにされた以上面子にかけても明石組はケジメを取りにくると忠告した瞬間、事務所の電話が鳴る…。
- 現実に明石組と対峙すると山守陣営は総崩れであり、本気で戦うつもりの広能はかえって周囲から浮き上がり組内部から粛清される可能性さえあったことを敵の相原に教えられる。(x-1)
組織の圧力の前に岩国も手打ちがされるが、裏切った筈の早川は再び打本に乗り換えて組の若頭に選ばれている。 - 明石組長の舎弟として広島のやくざ社会に復権した打本と結束が緩んだ山守組は完全に立場が逆転する。憂慮した山守は病気療養中の武田を若頭に指名。武田は[c:神戸の神和会と山守組の提携]を推進するために豊田会を取持人とする工作を広能に依頼。しかし広能自身も明石組の岩井から打本との[a:盃]を復活させるように頼まれていた。
- 打本との[a:盃]は間接的に広島が明石組からの干渉を認める結果となるため武田は猛反対するが、これに対し広能は組長の山守自身が早川を抱きこんだまま神和会と[c:盃]を交わすのはスジがバラバラであり、このままでは何時殺されるか判らない。敵味方の安全保障は必要と反論する(x-1)。松永や江田も己の保身が優先する中で沈黙のうちに周囲を見渡す山守と槇原。
- 親分同士の反目は末端に飛び火し山守陣営の混迷は更に深まる。孤立した広能は組内部の軋轢を抑えるため神和会との[c:盃]に協力すると武田に申し出る。式を終えると明石組との[a:盃]問題が残るが幹部会は拒絶と決定、明石組へ結論を伝えるため待合に向かった一同だが水面下で切り崩しの工作が進まれており再び打本との[a:盃]を呑まされてしまう。ここに至って広能が裏切っていた事に気づいた武田はその不実を詰るが、広能は全て山守体制崩壊のための芝居であったと告白する。
- 結果として袖にされた神和会は広島に詰問使を送り、今度は広能の絵図どおりに山守は窮地に追い詰められるが取持人の豊田会長を中心とした提携推進派は不協和音の原因は明石組シンパにありと裁定。事態の沈静化を図る。山守組長の権力奪取と保身策の果てに生まれた矛盾は解決されないまま、広能をひとりだけ破門する事で全ては糊塗された。
- 広能を見殺しにできない明石組は早川を破門する事で山守陣営と打本組を対峙させる。親子の盃を返しにきた広能を前にして武田は、盃という安全保障の前提には組の存在があり、組がなければヤクザは生きられないと説く。去っていく広能の前で鮮血にまみれる若い命。ここに広島代理戦争が勃発した。
キャスト[]
呉市[]
広能組(モデル・美能組)- 広能昌三(菅原文太)…このシリーズの主人公。山守組幹部。広能組組長。山守組から独立し組長となるが再び傘下となる。広島市だけでなく神戸明石組、下関豊田会とも交流があり世話になった打本を男にしたいと世話をするが裏目に出て恨みを買う。神戸の軋轢が広島に飛び火すると積極外交で鎮火させようとするが山守や打本の暴走により板挟みになる。
- 水上登(五十嵐義弘)…広能組若衆。
- 岩見益夫(野口貴史)…広能組若衆。
- 西条勝治(川谷拓三)…広能組若衆。女にテレビをねだられ、金をつくるため組が保管していたスクラップを無断で売却。広能から処罰のリンチを受けたあと、落とし前として自ら手首ごと切り落とす。倉元をそそのかして槇原を襲撃させるが失敗、その際自分の女を抱かせたが、その後倉元にその女を奪われる。敵の多い広能組の将来に不安を抱き東京逃亡を考える。東京行きの資金を槇原から渡され、受け取る。倉元が再び槇原襲撃に向かう日、そのことを槇原に伝え、倉元は返り討ちにあって死亡した。この役は当初、歌手の荒木一郎が演じることが決まっていたが、荒木が辞退したため急遽代役が必要となり、前作で捨て身の演技をして評価された大部屋俳優の川谷が大抜擢された。荒木は「広島(は 怖い場所なので ロケに行くのが)が怖い」と言って辞退したと、山城新伍が後に語っている。
- 倉元猛(渡瀬恒彦)…広能組若衆。正式な盃は受けていない。プロレスラーの若松とケンカしたことが縁となり広能組へ。槇原射殺を試み、一度目は失敗。再び試みたとき西条にチンコロされ、槇原組組員によって射殺される。演じた渡瀬は、第一部では山守組系新開組舎弟の有田役で出演しており、本作が二度目の出演。
山守組(モデル・山村組)- 山守義雄(金子信雄)…山守組の組長。広島市の村岡組長引退によりその勢力を継承して傘下二百余名、山陽道屈指の勢力を率いる。自分の子分だが広能を嫌う。広島市の打本昇を嫌いイジメぬくが明石組の実力を恐れ二元外交を展開。1作目より登場。
- 山守利香(木村俊恵)…山守義雄の妻。1作目より登場。
- 槙原政吉(田中邦衛)…山守組幹部。槇原組の組長。山守の腹心で広能が嫌い。舎弟である浜崎が打本舎弟の小森と岩国で喧嘩しており、村岡組と山守組の合併後はその解決に広島グループや広能を利用しようとするが失敗する。1作目より登場。
独立系・その他- 大久保憲一(内田朝雄)…呉市の大物。渡世とは一線を引いているが山守にも強い影響力を持つ存在。広能の後見人の立場にある。
- 弘美(堀越光恵=堀越陽子)…山守の女。
- 青木彦次郎(汐路章)…広能と倉元の中学時代の恩師。
- うめ(荒木雅子)…倉元の母。
- 富枝(池玲子)…西条の女。西条を捨て倉元の女に。
広島市[]
村岡組(モデルは岡組)- 村岡常夫(名和宏)…村岡組組長。広島最大の暴力団のドンだが病気がち。杉原の死によりその跡目問題が浮上したが、その引退時に縄張りと組員は全て山守に譲られる。
- 武田明(小林旭)…村岡組幹部。病身のため村岡組の継承を辞退した。山守組との合併後は広島に介入する神戸明石組の影響で揺れる組を若頭となり牽引する。よい意味でも悪い意味でも原理主義者。モデルは服部武。
- 松永弘(成田三樹夫)…村岡組幹部で若頭をつとめる。江田に遠慮して村岡組の継承を辞退した。合併後は神戸に対しては協力はしないが、排除もしない中立の立場にあると嘯く現実主義者。モデルは網野光三郎。
- 江田省一(山城新伍)…村岡組幹部。組の功労者だが放埓が祟り村岡組組長が跡目にしなかった。合併後は武田寄りの立場だが享楽主義の脳味噌に「跡目になれる」と吹き込まれたためと周囲に見られている。モデルは原田昭三。
- 杉原文雄(鈴木康弘)…村岡の舎弟。映画の冒頭にいきなり路上で狙撃され死亡。その死は村岡組の跡目争いの原因となる。
打本組(モデルは打越組)- 打本昇(加藤武)…村岡舎弟分。打本組(のち打本会)組長。タクシー会社を経営する事業家でもあるため周囲の世話を焼いて衆望を得たが明石組への接近が裏目に出て村岡に嫌われその跡目は継げず。山守組と村岡組の合併後は明石組組長の61番目の舎弟となり対抗するが、結果、広島がやくざ同士の喧嘩で戦場となる。
子分の早川に裏切られ、武田達にも神戸寄りと警戒される孤独な人物だが能天気のため苦にしていない。モデルは打越信夫。 - 早川英男(室田日出男)…打本組(打本会)幹部。早川組組長。表裏常ならざるオポチュニスト。やはり広島グループからは嫌われる人物だが苦にしていない。打本を破門され山守陣営へ。戦争突入になると積極攻撃で点数を稼ごうとする。モデルは山口英弘。室田は、第二部では村岡組に対抗する大友組の幹部、中原役で出演しており、本作が二度目の出演。
神戸市[]
明石組(モデルは山口組)- 明石辰男(丹波哲郎)…明石組組長。モデルは田岡一雄。
- 相原重雄(遠藤辰雄)…明石組舎弟頭。情味のある筋目にこだわる人物だが兄弟分となった打本の人間性については疑問視している。広能には胸襟を開くが広島側の明石組シンパとして利用している面もある。モデルは安原政雄。
- 宮地輝男(山本麟一)…明石組若頭。直截な言動を取るが周囲への目配りが行き届いた器量人。モデルは地道行雄。
- 岩井信一(梅宮辰夫)…明石組幹部。岩井組組長。明石組の切込隊長として山陽道にまで名前が響いている存在。原理主義者の実務家タイプ。広能とはウマが合うがヤクザの信念の問題として、仲間同士の流血沙汰を嫌う広能を批判し「山守造反」を勧告する。モデルは山本健一。
- 和田作次(木谷邦臣)…明石組若衆。岩井の舎弟。
神和会(モデルは本多会)- 神代巳之吉(和田真士)…山口組と拮抗する広域暴力団の神和会会長。下関豊田会長の取持で村岡組合併後の山守組と親戚の縁組を結ぶ。モデルは本多仁介。
- 伊丹義市(中村錦司)…神和会の副会長。モデルは平田勝市。
その他[]
- 若松三郎(演者・大前均)…プロレスラー。倉元に刺され片耳を失う。
- 江奈(演者・中村英子)…早川の妻。クラブを経営。演じた中村は、第一部で若杉の情婦として出演しており、本作が二度目の出演。
※ナレーター…酒井哲
スタッフ[]
- 企画…日下部五朗
- 原作…飯干晃一
- 脚本…笠原和夫
- 監督…深作欣二
- 撮影…吉田貞次
- 音楽…津島利章
- 録音…野津裕男
- 照明…中山治雄
- 美術…雨森義充
- 編集…堀池幸三
- 助監督…篠塚正秀
- スチル…藤本武
- 進行…伊藤彰将
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