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『マルサの女』(マルサのおんな)は、1987年度公開の日本映画。
監督と脚本は伊丹十三。マルサ(国税局査察部)に勤務する女性査察官と、脱税者との戦いをコミカルかつシニカルに描いたドラマ。伊丹の最高傑作と位置付ける意見は多い。
1988年(第11回)日本アカデミー賞・最優秀作品賞、最優秀主演男優賞(山崎努)、最優秀主演女優賞(宮本信子)、最優秀助演男優賞(津川雅彦)受賞と、当該年度のアカデミー賞をほぼ総なめにした。
また、作品の成功を受けてカプコンがファミリーコンピュータ向けにゲーム化、翌年には続編の『マルサの女2』が製作された。DVDビデオは2005年2月に限定版の「伊丹十三コレクション たたかうオンナBOX」に組み込まれてジェネオンエンタテインメントから発売、追って2005年8月にメイキングDVD「マルサの女をマルサする」(周防正行演出)と同時に単品でリリースされている。
テンプレート:ネタバレ
港町税務署のやり手の署員・板倉亮子は、管内のパチンコ屋の脱税、老夫婦の経営する食品店の売上計上漏れを指摘するなど、地味な仕事を続ける毎日。そんなある日、権藤英樹の経営するラブホテルに脱税のにおいを感じて聞き取り調査を行うが、強制調査権限のない税務署の限界もあり、巧妙に仕組まれた脱税を暴くことができない。
そんなある日、亮子は強制調査権限を持つ国税局査察官(通称「マルサ」)に抜擢され、異動となる。女性らしい視点から数々の功績をあげ、やがて仲間からの信頼も得るようになった亮子。ある日、権藤に捨てられた女からの密告がマルサに入る。税務署時代から目をつけていた権藤の捜査に気合いが入る亮子。そして権藤に対する本格的な調査が始まる事になった。暴力団、政治家、銀行、地上げ屋が一体となった巨悪との戦いが始まった……
その他キャスト
確定申告や脱税と無縁の一般社会においては、玄人筋や富豪層の間でしか語られる事のなかった国税局の査察部(マルサ)を世に知らしめた映画である。エンターテイメントの題材になりえなかった脱税が現実のバブル経済と符合した結果、複雑なカネの流れが見事にストーリーに組み込まれている。犯人の逮捕や事件の裁判ではなく、脱税の証拠を見つければ勝負が決まるとした設定が、脱税者とマルサの攻防にスピードとスリルを生んだ。伊丹本人は本作制作の動機について、『お葬式』などのヒットによる収益を税金でごっそり持って行かれたために、税金や脱税について興味が湧いたため、と語っている。
企画・脚本の段階で徹底して行われた取材によるリアリズムもこの映画の魅力である。当初制作側は内容が内容だけに当局の協力は期待していなかったが、実際は「どうせ作るなと言っても作ってしまうだろうから、それなら納税者に誤解を与えない様に正確な内容にして欲しい」と取材に協力的であったという。脱税者がハンコや通帳をどのように隠すのか、それをマルサ職員がどのように発見するのかという具体的な描写が、他の映画にない面白さを与えている。但し、他の伊丹映画(ミンボーの女など)も同様だが、捜査手法や脱法の手口は「確実に」1世代または2世代前の内容でシノプシスが作られている。この点は、伊丹本人も映画の内容が悪用されないようにしていると答えているが、その道に詳しい学生や業者などから「いかにしろ手口が古すぎる」「判例が出ているので決着が見えすぎ」とする声があるのも確かであった。またストーリーにおいて権藤が障害者という設定に対する批判も存在した(この設定は山崎が85年に上演した舞台の演技を伊丹が見て採用された)。
劇中での署長室のレイアウトは当時の麻布税務署(東京国税局管内)署長室をそっくりそのまま再現したものであると言われている。また、主人公がパチンコ店店主にかざす電卓も税務署に備品として配布されているものと同型であり、銀行調査の際に提示する「質問検査章」(国税犯則取締法に基づく身分証票)も本物と思うほど精巧である他、各種決算書類も、プロの税理士から「いちいちつじつまが合っている」と言われるほど細かく記載された物が作られた。また、ある国税庁高官が、査察制度の講習を依頼され、東南アジア某国に出張した際、まずは制度の理解のためにと、本作を英訳して上映したという。しかし、パチンコ屋の脱税を暴くシーンは映画向けであり、実際の手法とはかけ離れていたものが見受けられた。
この映画の後、テレビなどでマルサを舞台としたドラマが何度か作られたが、リアリズムの点でこの映画を超えるできばえであったものはない。また、この映画の公開時期が、ちょうど消費税導入の議論が行われていた時期であったこと、バブル経済のまっただなかで地上げや暴力団による民事介入が頻繁に起こっていたことも、話題を呼ぶタイミングとして最適であった。
本作の悪役大金持ちの権藤を演じた山崎努は、『天国と地獄』 (監督:黒澤明)において、権藤なる大金持ちに挑戦する貧乏学生を演じている。
『お葬式』『タンポポ』と続いた前二作品は、客観的に見るとほとんど悪人の出てこないいわゆる「ほのぼの」とした映画であった。前二作で高い評価を得た伊丹が満を持して世に送り出した今作は、前二作に出演した俳優が多く起用されているにも関わらず、全く趣の異なる「社会派コメディ」であり、その伊丹の引き出しの多さに多くの観客が驚かされた。緻密な取材に基づいた脚本、細部にまでこだわる演出、そして俳優達の鬼気迫る演技は高い評価を得、伊丹の映画監督としての地位を確立させた。そして「○○の女」と銘打った作品は後に四作作られる事になり、またそれとともに主演・宮本信子を日本を代表する演技派女優へと転進させた点で、今作は伊丹映画の路線を決定付ける記念すべき作品となった。前述のように、今作を伊丹映画の最高傑作と位置付ける者は多い。
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