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『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(うるせいやつらつー びゅーてぃふる・どりーまー)は、高橋留美子の漫画及びテレビアニメシリーズ『うる星やつら』の劇場版オリジナル長編アニメーションの第2作。1984年2月11日公開。同時上映は『すかんぴんウォーク』(大森一樹監督、吉川晃司主演)。
『うる星やつら』の劇場映画第2作で、第1作『うる星やつら オンリー・ユー』の監督とテレビシリーズのチーフ・ディレクターを務めていた押井守が制作を指揮した。押井守の原点であり出世作となった作品である。興行収入は前作を下回った。アニメ雑誌では公開後高く評価された。本作は当時の「キネマ旬報」において、読者選出ベスト・テンで第7位(邦画)と評価された。同年の第1位は『風の谷のナウシカ』である。
周辺が荒廃している友引高校。ラムたちは、ウォーターバイクで水遊びに興じ、面堂終太郎はレオパルド1戦車で荒廃した友引町を探索をしている。そして諸星あたるは、池となり沈み、荒廃した友引高校の周辺でほうけていた。友引高校に何が起きたのか。
テンプレート:ネタバレ
学園祭(文化祭)を明日に控えた友引高校。生徒たちが連日泊り込みで準備を行っていた。そんな中、あたるの担任教師の温泉マークは生徒指導に疲れノイローゼを罹い、保健医のサクラの助言を受けて学校から離れ、自宅のアパートへ帰った。
サクラが温泉マークの自宅を訪ねると、彼の部屋はカビやキノコが繁殖し、酷い有様になっていた。温泉マークは時間の感覚がおかしくなっていることを指摘し、まるで自分が浦島太郎の様だと言う。そして繰り返される「学園祭の前日」という異常な事態。サクラは温泉マークの話を信じられなかったが、その直感に次第に共感し、彼と共に解決の糸口を探し求めようとする。二人はまず、現状に何らかの変化を与えるために学園祭前夜を繰り返す友引高校を一旦閉鎖し、泊り込みの生徒たちを追い出す。
学校を追い出された面堂やしのぶ、メガネらは各々帰宅しようとするが、交通機関の不思議なループ現象で家に帰ることが出来ず、全員が友引高校へと戻っていた。友引高校に戻るためにタクシーを拾ったサクラは、運転手から浦島太郎の話を聞く。妖気を感じたサクラは祓い棒を振るって危機を逃れる。このループ現象と昨夜のサクラの話を受けた面堂は「原因は友引高校にあり」とし、あたる達を連れて校舎の捜索を始めた。だが、一行は、不条理な作りの校舎に翻弄され、ほうほうの体で逃げ出す事になる。面堂は立ち食いソバ屋に隠していたハリアー戦闘機で脱出を試みる。上空からみると友引町は大きな亀の石像の背中に載っていた。また、亀の石像の下には、姿を消した錯乱坊と温泉マークの大きな石像もみられた。
その次の日から友引町は荒廃し始め、廃墟と化す。また、諸星家のみには光熱・水道とメディアは供給され続け、商品の絶えないコンビニエンスストアも残された。いまや友引町は、彼らの都合の良いように衣食住は保障されている幻想的な世界である。その生活に順応したラムやあたる達は楽しく遊んで暮らすようになる。
面堂とサクラは「亀」を突き止めようと探索を続け、策を講じた。そして正体を暴かれたのが、あたるに化けていた人の心に住み悪夢を見せると言われる妖怪夢邪鬼であった。人類の長い歴史の中で多くの人に夢を見せてきたという彼は、夢作りに疲れてしまい、引退しようと考えていたが、そんなとき、水族館に一人で佇むラムと出会う。そして、そこで彼女の一点の穢れもない夢を聞く。その完成を最後の大仕事として実現させようと決めた。それが夢邪鬼の告白だった。
面堂とサクラは事態を解決できると思ったが、次の瞬間に夢邪鬼によって封じ込められ、ラムの夢から退場させられてしまった。安堵する夢邪鬼だが、話を聞いていたあたるが夢邪鬼との駆け引きに出て、自分の夢であるハーレムを作らせる。しかし、そこにラムがいない事に不満をぶつけたあたるに、ラムからいつも逃げ回っている姿しか知らない夢邪鬼は、あたるがラムにも惚れている、という事を気付かされてしまった。あたるの身勝手さに激怒した夢邪鬼は、悪夢を食う伝説の動物獏を呼ぶためのラッパをうっかり投げ飛ばしてしまう。それを手にし、その役目を理解したあたるは、ラッパを吹き鳴らした。するとテンが変なオッサン(=夢邪鬼)からもらったという風変わりなブタ、すなわち獏が空に飛び立ち、巨大化する。そして獏は巨大な口で夢を吸い込み、呑み込んでゆく。
愛しいラムのために一生懸命作った夢を壊されてしまった夢邪鬼は、あたるを追い詰めるように次々と悪夢を見せる。最後には、「夢だから何度でもやり直しが利く」「自分の作り出す現実と何の違いもない楽しい夢の世界で思いどおりに暮らすほうがよい」とあたるを誘惑する。だが、あたるは現実の世界へ戻ることを望み、白い服の少女に教えられたままに、現実への大ジャンプを敢行するのだった。
あたるは、学園祭の準備で泊り込んでいた友引高校で目を覚ます。隣りに寝ていたラムも目覚め、終太郎やメガネ達と、ずっと一緒に楽しく過ごす夢を見ていたと語る。テンプレート:ネタバレ終了
日本のアニメは過酷なスケジュール等の影響で、アフレコの段階ではまだ映像が完成していないという事が多く、そういった場合は絵コンテや原画などを撮影したラッシュフィルムを使用して音声を収録している。しかし本作ではアフレコ時にはフィルムがほぼ完成しており、『メガネ』役の千葉繁曰く「友引前史」序説の朗読など、いつにも増して演技にも力が入ったという。これは押井の「完璧な作画を犠牲にしてでも、音響や声優に良い仕事をして欲しい」という気持ちと、音響や声優の力が作品をより良くするという信念からであった。
夢邪鬼やサクラといった登場人物に託された長いセリフが強調された演出となっている。
原作のテーマであるラブコメディは、本作ではラムの想いに託されている。
本作での友引町の舞台は、当時の押井の住んでいた、また本作を制作するために借り上げられた一軒家のある西武新宿線沿線をモデルとしている。[1]メガネとパーマの帰宅シーンに出てくる下友引、上友引は下井草駅、上井草駅のもじりで、看板下の広告の「ラブナード」は「サブナード」の言葉遊びである。
作曲家・星勝のBGMが、作品世界をより引き立たせている。主題歌がエンディングで流れるのも特徴である。押井は、本作における音楽の力が大きいことを認めている。[1]
本作は、夢オチをモチーフとした構成となっているが、夢オチではない。ラストを夢オチと誤解するファンからは批判された。テンプレート:ネタバレ劇中「3階建ての校舎が4階建てになっている。」という旨のセリフがあるが、画面では屋根にかかる窓を含むと5階建てになっている上、エンディングでは2階になっている。これは異変に気づいた者もまた異変の中にいるというメタ虚構の世界を表現している。これはテレビ版で設定では3階と決まっているのに作画演出上2階や4階にしている場合がある事を逆手に取った「校舎がセットである」という暗示をさせる演出だった、と語られている。[2]
エンディングにおいてもあたる達は夢の中にいて、学園祭前日は永遠に繰り返される、という解釈を許容する演出となっている。
作中でテンが無邪鬼から貰った変なブタ、すなわち獏のマルC(©)マークは、著作権の意匠である。あたるが獏を呼ぶラッパを吹き、このマークが消失し獏が夢を食い荒らす、というのは著作権の暴走を象徴している、とのこと。テンプレート:ネタバレ終了
本作は、監督の嗜好・思想が随所に散りばめられた内容となっている。構図や構成、テーマをいくつかの作品を模倣している。これらは、DVDに収録されたオーディオコメンタリーにより解説されている。
本作は「生きることの全ては夢の世界のできごと」というテーマをモチーフにしている。これは「荘子」の「胡蝶の夢」からの影響である。喫茶店のシーンで蝶が出て来るのはこれを示唆しているとのこと。作中の夢邪鬼のセリフには、この説話が挿入されている。[1]
フェデリコ・フェリーニや、ジャン=リュック・ゴダールなどの映画作品、マウリッツ・エッシャーの作品「3つの世界」を取り入れている。エッシャーからは、構図と作品構造を取り入れている。[1]
「ありおり侍りいまそがり」の台詞は、小松左京の小説「明日泥棒」の登場人物「ゴエモン」の口癖から引用している。[1]
夢邪鬼がヒトラーやシーザーの人生に関与したとするシーンの描写は、宮崎駿の『ルパン三世 カリオストロの城』でのゴート札を説明するシーンを取り入れている。[1]
夢邪鬼があたるに見せた悪夢の一つで、テレビシリーズ第1話でのラムとの鬼ごっこのシーンが再び描かれた。ここでは最後のあたるがラムの角を掴もうとした後を除き、全て同じシチュエーションでリメイクされている。
本作は、押井作品及び劇場版うる星やつらの傑作とみなされることが多く、当時の幅広い分野のクリエイター達に影響を与えた。本作品は、いくつかの作品にて模倣されている。
本作の作画監督であるやまざきかずおが本作の2年後に監督した『うる星やつら4 ラム・ザ・フォーエバー』は本作同様、夢をテーマとした作品で、難解な内容となっている。
本作にてメガネが世界の全てを語るシーンは『怪奇大家族』の第9怪「脱出せよ! 忌野家呪いの迷路」にて模倣されている。
押井は本作にてテレビ版の主要スタッフを採用し、本作の制作に注力した。本作の制作の前に、押井は宮崎駿と対談している。対談では、宮崎より「クソッという形で開花することもあるから、次は(前作の成功をもとに)スタッフやスケジュールもぎ取って、死屍累々でもいいから…」と励まされている。押井は「前作では興行的に成功したが、自分のやりたいことをやれず不満だった。本作は、一本目を作る気持ちで、リターンマッチをやらずにはいられない」と強い意志を示していた。
プロデューサーの落合茂一と押井によると、劇場版第2作の脚本は当初原作者である高橋留美子に依頼し、ストーリーが提出されたものの、脚本を起こすまでには至らなかった。次に首藤剛志が執筆することになったが、押井は首藤のシナリオに難色を示し、結局首藤は降板した。代わって当時テレビシリーズの構成を担当していた伊藤和典が登板したものの、落合がプロット段階で劇場版にはそぐわないと判断し、キャンセルとなった。脚本段階で二転三転するうちに製作時間が足りなくなり、進退窮まった所に押井が提示したのが本作の原案(ただし落合によれば実際の映画とは全く異なる内容だったという)であった。これは、前作を経験した押井が、自分の企画を通すための工夫であるといわれている。
本作の制作に入ると、押井は自室にて絵コンテ切りや制作指示に没頭した(絵コンテから開始されたため、本作には脚本準備稿が存在しない)。並行して放映中だったテレビシリーズは、自室にて資料をチェックし、現場にはほとんど顔を出さなかったといわれる。落合は上がってきたコンテが当初の説明と全く異なる点に驚愕し、修正指示を掛けたが、時間的に間に合わず、映画は完成に至った。落合は「コンテが完成した時点でそれを抱えてキティを辞めたくなった(笑)」と、当時置かれていた立場と心境を著書に記している。
名曲喫茶にてサクラと温泉マークが語るシーン(テーブルを中心にカメラが回るパンシーン)では、2人が画面から消えた状態でのセリフが多く、また徐々にカメラの動きが速くなりながら時折2人が映るという演出だったため、声を当てるのが困難なシーンだったとコメントしている。また、このシーンはリテイクがなされたため、当初予定していたタイミングに若干のずれが生じたという。[2]
終盤の白い帽子とワンピースを着た少女の声は、当初ラムの声優である平野文が演じていた。しかしネタばれしてしまうので、最後の一言を除き島本須美の声に替えられた。島本がノークレジットなのはクレジット入れに間に合わなかったためである。
キャラクターデザイン・作画監督のやまざきかずおは、押井が絵コンテで書き下ろした夢邪鬼を採用した。そのため原作やテレビシリーズ「目覚めれば悪夢」に登場する夢邪鬼とは、異なる外見となっている。
夢邪鬼を関西弁で演じたのは俳優の藤岡琢也(兵庫県姫路市出身で関西訛には堪能)である。夢邪鬼とラムが水族館で初めて出会い、夢邪鬼から名刺を貰ったラムが「夢邪鬼さん? うちラムだっちゃ」と答えた際、それを聞いた夢邪鬼が「らむだっちゃさん? ああ! ラムさんか」と答える台詞は、夢邪鬼の声を演じた藤岡琢也のアドリブだという。
荒廃後の町をメンバーが楽しむシーンは「ぎゃろっぷの巨匠」が描いたと語られている。[1]これは、ぎゃろっぷ所属でスタッフロールにも名前を列ねている丹内司の事と思われる。事実、ぎゃろっぷは本作の制作協力をしており、丹内はぎゃろっぷで作画をしていた。
しのぶが登校途中、無数の風鈴に囲まれるシーンで、しのぶをアパートの窓から見下ろす男は、「あれは『しのぶという『観客』を見ている押井守』という感じで描いた」とコメントし、また、「押井監督からは『しのぶをアパートから見下ろす男がいて、キャラクター設定は無い』と伝えられた」とコメントした。[2]
物語中半からフィルム・音声とも完成したが、没となったシーンがある。テンプレート:ネタバレ
押井は「長過ぎるから」という理由でこれらのシーンをカットしている。テンプレート:ネタバレ終了
押井は本作を完成した後、『うる星やつら』テレビシリーズのチーフディレクターを降板、スタジオぴえろを退社した。後任のチーフディレクターはやまざきかずおに、制作スタジオはそれまでテレビシリーズのグロス請けをしていたスタジオディーンに託された。押井は当時のアニメ誌などのインタビューで「体力的・精神的な限界」と語った。
テレビアニメのシリーズ途中でのメインスタッフの交替は異例であった。
主題歌を歌った松谷祐子は、この映画の公開中にテレビの歌謡番組に出演し、『愛はブーメラン』を歌った。彼女が歌謡番組に出演することは珍しかった。同時期に、安田成美も『ザ・ベストテン』の「今週のスポットライト」コーナーにおいてイメージソング『風の谷のナウシカ』を歌っており、レコード会社がアニメ映画の主題歌やイメージソングをこうした形でプロモーションしようとしていた事がうかがえる。
本作は、劇場公開日にVHSおよびベータのビデオソフトがリリースされた。レーザーディスクは1985年6月、東宝レーザーディスクの第1弾として『ゴジラ』(1954年版)、『細雪』、『家族ゲーム』と共に発売された。
本作のレーザーディスクの音声には、劇場公開時にはなかったノイズや歪みがある。これは仕様であり不良品ではない旨の断り書きが外包装に貼付されていた。後に音声の改善されたレーザーディスクが再リリースされた。DVDの音声では、フィルムの光学音声、マスターテープ、5.1chサラウンドとオーディオコメンタリーが同時収録された。
本作は4:3 (1.33:1) のスタンダードサイズで撮影がなされ、劇場では上下の映像を断ち切った形(貧乏ビスタ)で公開された。ビデオとレーザーディスクでは、撮影時と同じ4:3での収録であったが、DVD版では劇場公開時と同じ16:9 (1.78:1) でのアスペクト比で収録された。
原作者の高橋留美子は、押井含むスタッフ曰く、絶賛していた前作とは対照的に否定的な評価を下しているという。
高橋は、平井和正のエッセイ『高橋留美子の優しい世界』での平井との対談で「(『ビューティフル・ドリーマー』は)押井さんのうる星やつらです」と語っている。高橋は「押井さんは天才」、「2は押井さんの傑作で、お客さんとして非常に楽しめました」と語っている。[3]高橋は、押井時代のテレビシリーズについて「やってはならないことをしていた」と語っている。
押井は、高橋による評価について「2本目は凄かった。「人間性の違いです」ってその一言言って帰っちゃった。これは自分の作品じゃないと言いたかったんですね」[4]、「原作者は『オンリーユー』は好きだが『2』は今でも一番嫌い」、「「原作者の逆鱗」に触れた[1]」と語っている。
本作で演出を担当した西村純二は、NHKのアニメギガ出演にて「原作者から「こういう『うる星』もありなんじゃないですか」と聞いてます」と語っている。
鈴木敏夫は、高橋は試写を観た後、押井に対して「要するに感性が異なるんですね」と語り、立ち去ったと、語っている。
2006年1月に、じんのひろあきが率いる「劇団10×50Kingdom」が本作を原典とする戯曲「ビューティフルドリーマー」を上演した。原作として押井の名前がクレジットされている。キャラクターや設定は『うる星やつら』とは関係のないオリジナルなものとなっており、プロットを使う形で戯曲化された。
it:Lamù: Beautiful dreamer
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