登録日:2021/06/19 Sat 22:51:21
更新日:2024/05/27 Mon 13:49:05NEW!
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戦車 第二次世界大戦 太平洋戦争 中戦車 兵器 軍事 踏み台 ストップギャップ アメリカ合衆国 アメリカ軍 量産機 多砲塔戦車 北アフリカ戦線 イギリス ウサギさんチーム グラント リー 7人兄弟の棺桶 10人乗っても大丈夫!(タンクデサント的な意味で) ルルベル m3中戦車 つなぎ(注:アメリカ基準)
M3中戦車 リーとは、第二次大戦中にアメリカ合衆国が開発した戦車。
またイギリス仕様のバリエーションから、リーではなくグラントの名で呼ばれることもある。
もっともM4中戦車ことシャーマンもそうだが、このリーもアメリカ軍に与えられた呼称はあくまで「M3中戦車(Medium Tank, M3 )」で、リーにせよグラントにせよ、購入したイギリス側がつけた愛称である。
【どんな戦車?】
アメリカの戦争映画のイメージとか、某アニメの某長崎県の高校のイメージとか、パーシングの導入にまつわる豆知識とか、あるいは単純に知名度とかから「第二次大戦のアメリカ軍ってシャーマンばっかりだったのよね?」と思っている方もいるかもしれない。
しかしいかに大正義アメリカ軍とはいえ、シャーマンのような高性能傑作戦車を開戦と同時にPON!とお出しできたわけでは無論ない。
アメリカ軍がシャーマン天国へと至るまでにはそれなりの「過程」が挟まれており、そこで得られたデータとノウハウこそがシャーマンを作り上げたのだ。
このM3リーもそんなシャーマンツリーの1両で、型式番号からもわかる通りシャーマンの1つ前、直接的な前世代機にあたる存在。
というか駆動系全般、つまり車体の下半分はほぼそのままシャーマンに流用されたため、兄弟機と言っても差し支えないほど。
またシャーマンへの踏み台になっただけにとどまらず、さまざまな事情から「本命ができるまでの一時しのぎ」としてそこそこの数(注:アメリカ基準)が生産され、連合各国(主にイギリス)で実戦投入されてもいる。
【性能】
「走」
優等生ポイント。
パワーソースには出力400馬力を誇るカーチス・ライト製星型9気筒ガソリンエンジン「R975-EC2」を搭載。
本体の重量26tに対してこのエンジンなので、重量当たりのエンジン出力は同クラスの戦車の中でも高い方。いい音でしょう?馬力が違いますよ
そしてもともと航空機用に大量生産されたエンジンなので量産効果で単価も安く、信頼性も高い。
足回りはアメリカ戦車の伝統芸能である連成懸架式のVVSSサスペンションを採用。
これは今でも乗用車などで使われるコイルサスペンションの亜種で、なんというか非常に見た目からして「衝撃吸収装置」な雰囲気が出ている素敵な代物。
整備性と衝撃吸収力に優れ、乗り心地がよくて悪路にも強い反面、車高が少しかさみがちで重量限界もちょいと低め。
総じて機動性はかなりハイレベルと言えるが、履帯の設計がやや古臭く、幅が狭くて凹凸も平坦重点なのはちょっとマイナスポイント。
このせいで泥湿地や凍結した地面などにやや弱いのだが、パワフルなエンジンのおかげである程度はカバーできている。
またエンジンや足回りに限った話ではないが、工業大国アメリカ製なだけあって各部品の品質が凄まじく、しかも規格化が完璧で整備性にも充分に配慮されているため、兵器として重要な信頼性と耐久性が極めて高い。
「攻」
問題児ポイント。
M3リーの最大の特徴は、やはり「砲塔と車体の正面右側に1つづつ、合計2つの砲を搭載したスタイル」、いわゆる多砲塔式であることだろう*1。
主砲は車体右側ににょきっと生えている31口径75mm砲「M2」。
当時の75mm級戦車砲は、弾速が遅く榴弾をメイン武器とする短砲身砲が多かったが、この砲はそれよりも砲身が長くて弾速が速い、いわゆる中砲身砲。
榴弾を正確に射撃できるのはもちろん、徹甲弾を使えば600m/秒に迫る弾速を発揮し、距離1000mで約60mmの装甲を貫通できる強力な多用途砲だった。
これはだいたいT-34の主砲とほぼ同レベルであり、時代を考えると文句なしの最先端レベルと言える。
しかし半固定式なので射界(砲の向きを変えられる範囲)が左右に15度づつぐらいしかなく、実質的に車体ごと向き直らない限り撃てないという致命的な欠陥があった。
対戦車攻撃や陣地破壊に特化した駆逐戦車ならともかく、様々な任務に使われる中戦車としてはシャレにならんレベルで不便であり、使用した全て国の戦車兵から「めっちゃ使いにくいんだけどコレ!!!」とのお言葉をいただいているほど。
またこちらの主砲には車体が振動していても目標を狙える装置、いわゆる砲安定装置が試験的に搭載されていたのだが、これがまたあからさまに未完成で「砲が勝手に動いてあぶねーから外しとけ!」とすら言われるほどだった。というか殆どの車両で外されていたらしい。
そして動かない主砲の欠点をカバーするため、車体上にはきちんと回る副砲塔を……というコンセプトだったのだが、実はこちらにも問題があった。
副砲には53.5口径37mm対戦車砲「M5」が使われていたのだが、戦間期基準で作られた対戦車砲だったので貫通力が1000mで30mmにも届かず、ドイツ戦車に対してはあからさまに威力不足だったのである。
しかも砲が2つになったせいで車長の指揮が煩雑になって効率が低下した上、乗組員もかさむ(7人乗り!)など、ぶっちゃけ利点を探す方が難しい構造であり、本車があくまで「つなぎ」でしかなかった理由が察せられる。
ちなみに無駄に多いのは実は機関銃もで、普通の戦車がだいたい1~2挺程度なのに対し、キューポラ兼機銃搭に1、副砲の同軸に1、車体に2(連装タイプ)と合計4挺も搭載しており、やろうと思えば合計6基の火器によるド派手なフルバーストだって可能。意味?ないよ?
「守」
一般人ポイント。
前から見える主装甲部は最低でも50mm以上で、時代を考えると標準かやや上のレベルだが、接合方法はまだリベット式。
一部には傾斜装甲が採用され実効70mm近くになる部分もあり、傾斜で敵弾を弾く効果もかなり期待できる。
側面装甲も最低38mm以上とかなり厚く、小口径の対戦車砲程度ならなかなか通さない。
とまあ単純な装甲防御力に関して言えば充分良好と言えるのだが、それ以外の部分にちと問題が多い。
まず最大の弱点といえるのが、その異様なまでの車高の高さ。
うすらでかい車体+砲塔+砲塔の上のキューポラ兼機銃搭を全て含め3.11mにも達するのだが、これはなんとティーガーIIの車高を越えるほど。
これほどまでに背が高くなると、露呈面積が増えて被弾しやすくなるのは無論のこと、身を隠せる遮蔽物も減ってしまうし、そもそも被発見率が高くなって先制攻撃も受けやすくなってしまう。
さらに砲塔の位置が高い+小さいせいで、低い位置にいる敵を攻撃しにくく、横から歩兵などに近づかれるとかなり早い段階で防御手段が無くなってしまう。
おまけにガソリンエンジン故の引火性の高さに加え、アメリカ戦車に共通する弾薬庫配置の微妙さも合わさり、被弾時の爆発炎上率がかなり高い。
トドメに脱出ハッチがでかくて重くて即座に開閉しづらいので緊急脱出が困難……といった感じで、せっかくの装甲を台無しにするような欠点がいたるところに見られる。
【開発経緯】
時はナチスドイツの電撃戦でフランスがさっくり敗北した1940年。
それまで参戦拒否路線だったアメリカ世論も、この頃になると「嫌だけど参戦もしょうがないかな……マジ嫌だけど…」って方向に傾きつつあった。
しかし肝心のアメリカ軍、特に陸軍は東西の枢軸国と同時に戦うには質・量ともに不足極まりなく、当然ながらその拡大を、しかも急速に進める必要が出てきた。
そしてその一環として、当時のアメリカ陸軍最強の戦車であった「M2中戦車」の更新計画が始まる。
このM2中戦車は前年に配備が始まったばかりの最新鋭戦車だったのだが、
★・重量約19t
★・主砲は37mm対戦車砲
★・装甲は大部分が6~20mm、最大で実効45mm程度
★・エンジン出力340馬力、最大速度42km/h
とチハたんに毛が生えた程度の性能でしかなかった。まあ設計のベースが5年前に開発された11t級の「M2軽戦車」で、流用・共有している部品も多かったので……
とにかくこれではフランス戦で活躍したドイツのIII号・IV号戦車と殴りあうには明らかに性能不足!と判断されたのである。
そのため次期主力戦車は「全体的に性能を底上げしつつ、あと主砲は75mm中砲身砲で!」となったのだが、これには一つ大きな問題があった。
当時のアメリカ製戦車の主砲は大半が機関砲どまりで、最大のものでも↑の37mm砲でしかなかったのだ。
なので一気にその2倍になる75mmクラスとなると砲塔設計のノウハウが全くない状態であり、開発部にも「ちょっと時間かかるかもだぜ」と返答されてしまったのである。
しかし状況が切迫していたため、アメリカ陸軍は75mm砲塔の開発を進めつつ、同時にそれが完成するまでの「つなぎ」の配備をとりあえず模索することにした。
そして「今すぐ作れて」「できれば75mm砲を、どんな形でもいいから搭載できる」戦車を探してみたところ、幸運にもちょうどよさそうなものがあった。
M2中戦車……の試作機であった「T5試作中戦車」の実験バリエーションの1つ「T5E2」がそれである。
これは「車体に据え付ければ大口径砲でも簡単に搭載できるんじゃね?」というコンセプトの元に開発された試作機で、車体の右側正面に75mm短砲身榴弾砲を搭載したタイプだった。
もっともこのT5E2は試作機と言うかほぼ実験機レベルの代物であり、また75mmの主砲もM3ではより反動の大きい中砲身砲になったため、構造からかなりの部分を作り直さねばならなかった。
しかし原型が既にあったため開発は速く、わずか半年後の1941年3月には試作機が完成、翌月には「M3中戦車」として即生産体制に入ることができたほどだった。
【活躍】
とはいえアメリカ軍的にはM3リーはあくまで「急場しのぎの間に合わせ」でしかなく、そこまで大量に(注:アメリカ基準)生産する気はなかったのだが、2つのトラブルがその予定を狂わせることになった。
まず1つめは、1941年6月にイギリス軍から大量の注文が入ったこと。
バトル・オブ・ブリテンでなんとかドイツ軍を叩き返したイギリス軍は、いまだ激戦のさなかにあった北アフリカ戦線のため、陸上戦力の増強を開始していた。
しかし初戦の大敗で大量の兵器を失い、また航空機生産が最優先されていたこともあって、当時のイギリス本国にはとてもその余裕がなかった。
そのため「うちで作れないんならアメリカで作ってもらおう!」とアメリカに自国戦車(主にクルセーダーとマチルダII)のライセンス生産を依頼。
しかし「今更そんなガラクタ作ってられません製造ラインが非効率になるからダメです」と断られてしまったので、代わりに「すぐ作れる、一番強い戦車」であるM3リーを、一度に1650両も発注してきたのである。
そして2つ目は、同年12月の真珠湾攻撃だった。
先にも触れた通り、当時のアメリカ世論は自国の本格参戦については嫌がる向きも強かったのだが、この「卑劣な騙し討ち」には国民全員が激怒して世論が一変。
これによって急転直下で「アメリカ合衆国軍 総勢1600万名 参陣!」となったのだが、本命のシャーマンの生産・配備がまだだったので、当面の間M3リーでがんばることになってしまったのだ。
とまあそんなわけでがっつり実戦を経験することになったM3リーだが、その初陣となったのはやはりというか北アフリカ戦線、イギリス陸軍所属としての対ドイツ戦であった。
しかしアメリカ軍的には間に合わせに過ぎなかったM3リーだが、イギリス軍から見れば自国のポンコツ戦車群とはレベルが違う最強最新の戦車であり、いたるところで大活躍を見せた。
無論この時点で
★・固定主砲の使い勝手が悪すぎるんだけど!
★・副砲が威力ハンパすぎて使えねーんだけど!
★・背が高すぎてすぐ見つかるんだけど!
★・背の高さに比べて主砲の位置が低いから稜線射撃*2できねーんだけど!
★・スタビライザーがクソすぎるんだけど!
★・車内でお湯がわかせねーんだけど!
などと欠点もボロボロ上がってきていたのだが、それでもその走攻守をハイレベルに兼ね備えた性能、そして抜群の信頼性と整備性がそうした欠点を補ってあまりあった。
とりわけ現場で歓迎されたのは主砲の75mm砲で、この存在だけで他の欠点を全て無視できるほどに評価された。
なぜなら当時のイギリス戦車群の主砲であった40mm砲(2ポンド砲)は、対戦車用の徹甲弾だけしか用意されておらず、火力陣地を破壊するための榴弾(着弾と同時に爆発する砲弾)が撃てないという致命的な欠陥があったため*3。
なので北アフリカにおけるイギリス戦車は、かのアハト・アハトをはじめとする対戦車砲陣地にそりゃもうボッコボコにされていたのだが、榴弾を撃てるM3リーの75mm砲ならこれにばっちり対応できたのである。
さらにイギリスの主力であったクルセーダー巡航戦車がそのクソみてェな信頼性のために次々と稼働不能になっていったのに対し、M3リーはサハラ砂漠の過酷な環境にも充分に耐え、常に高い稼働率を維持できた。
結果として北アフリカ戦線は英米VS独伊の戦いにおける一大ターニングポイントになるが、この戦いにおけるM3リーの戦果は正直文句のつけようがないレベルであり、イギリス軍をして「エジプト最後の希望」とまで言わしめたほど。イギリスの自国戦車がカスすぎただけでは?とか言わないで
とまあそんな感じで「つなぎ」としての役割を充分に果たしたM3リーの総生産数は、改良を重ねた各バージョンを合計して約6500両に及んだ。つなぎとはいったい・・・うごごごご
一方の極東では、M3リーの現役時期と北アフリカ戦線の期間がかぶっていたのであまり活躍の機会がなく、戦争後半に対ドイツ戦で型落ちした車両がいくらか投入された程度だった。
とはいえ、M3リーより1ランク弱い「M3軽戦車 スチュアート」にすら苦戦していた日本軍からすればまさしく驚異そのものであり、1944年から始まったインドシナ方面の反攻作戦では大いに活躍。
その75mm砲で日本軍の火力陣地その他をぶっ飛ばしまくり、連合軍の勝利に大きく貢献した。
最もスチュアートの時点で既に正攻法での対処が難しくなっていた日本軍にしてみれば、「マトモに戦っても勝てないから、側面を奇襲するしかねぇ!」という点ではM3リーもスチュアートと大して変わりはなかった。
むしろその車高のせいで日本軍も先制発見しやすく、射角が狭いせいで懐にも入りやすかったため、ほぼ無敵に近かったマチルダIIなどと異なり近接攻撃で撃破された記録もけっこう残ってたりする。
さらに一部はレンドリースでソ連にも供給されたが、既に強力なT-34を持っていたソ連軍でも、その圧倒的な信頼性の高さが大いに評価された。
ただ戦闘性能自体についてはT-34基準だとやはり難点もあり、装甲の薄さやガソリンエンジンの炎上率の高さ、そして2種類の砲の使い勝手の悪さについてはかなり問題視され、「7人入れる共同墓地」などといったありがたくない異名も頂戴している。
【改良】
シャーマンまでのつなぎとはいえ相当な数が生産されたため、途中からの改良点も結構多い。
型式番号から違う別バージョン(車体の上半分を一体成型の鋳造装甲にしたA1型とか、装甲を溶接にしたA2、A3型とか、エンジンを別のにしたA4、A5型とか)もあるが、基本的には無印のM3が主に製造され続け、
★・主砲を長砲身化した41口径75mm砲「M3」に換装(シャーマンとお揃い)
★・車体側面ハッチの廃止、小型ハッチの追加
★・操縦士用のペリスコープ(潜望鏡)を追加
★・照準装置の改良
★・履帯を凹凸が増した改良型に換装
などといった改修が順次加えられていった。
【派生型】
「グラント」
最も有名な派生型。
イギリス軍の注文にあわせて各部をちょっとだけ手直ししたタイプで、主な改修点は砲塔に集中している。
具体的には
★・車高をムダに稼いでいた車長用キューポラを、機銃含めまるっと撤去
★・外形も饅頭みたいな丸っこいフォルムの鋳造式に
★・イギリス戦車の標準装備である2インチ擲弾発射機を前面に搭載
★・車内の通信手席を撤去し、通信機を砲塔に移動
などなど、ほぼ作り直す勢いで全面改修されている。
通信機が砲塔に移動したのは、イギリス軍が車長に通信手を兼任させたがったためで、これによって乗員が1人へって6人になった。
イギリス軍が購入したM3中戦車は全てこのグラント仕様……になるはずだったが供給が追いつかず、通常のM3リーもかなりの数が配備されていた。
ちなみにイギリス軍の上層部は素のM3中戦車を「リー」、こちらのタイプを「グラント」と呼び分けたが、現場ではどっちも「グラント」と呼んでいたらしい。
M3中戦車は半分近くがイギリス軍配備=グラント呼ばわりされていたことを考えると、本来ならこの項目の名前も「M3中戦車 グラント」の方が正しい気もするのだが、知名度的にはなぜかリーの方が圧倒的に高い。
「リー・グラント」
急造版グラント。
イギリス向けのグラント仕様の砲塔の製造が追いつかなかったため、リー用の砲塔を無理やりグラントのそれに近づけた(キューポラを撤去しただけ)タイプを搭載している。
ちなみに現場ではこれも特に区別されず「グラント」でひとくくりにされていたという。ややこしい!
「ラム巡航戦車」
カナダがM3リーを元に自国開発した戦車。
イギリス連邦の一員としてWWIIに参戦したカナダだったが、激戦の北アフリカ戦線を救援しようにも、肝心の戦車戦力を調達できないでいた。
必死こいてた当時のイギリスはもちろん、自国の部隊拡充+イギリス向けの兵器生産で大わらわだったアメリカにも戦車を回す余裕はなく、結局自国での生産を決断せざるを得なくなる。
幸いカナダにはMLW社という巨大な機関車製造会社があったので製造はなんとかなりそうだったが、どうせなら単なるライセンス生産じゃなくて新型を作ろうぜ!ということになった。
そこでM3リーの基礎構造を利用しつつ、よりイギリスの戦術に併せた巡航戦車として大改修されたのがこのラム巡航戦車である。
戦車開発経験がまったくなかったカナダにしてはかなり完成度が高い戦車だが、これはMLWの親会社であったアメリカの戦車製造大手であるアルコ社の全面支援があったため(というか実質的にはそちらが設計・開発を担当した)。
ビジュアル的にはM3リーの面影はほぼないが、それもそのはずで、車体中央から上がほぼ丸ごと作り直されている。
具体的には
★・車体側の固定砲廃止
★・砲塔は普通の戦車のように大型化して主砲を搭載
★・砲塔上の車長用キューポラ兼機銃搭を分離、車体正面左側に移動
といった感じで砲関係を全面的に再配置しており、それに合わせる形で車体上部も完全な新型が用意されたのである。
この新型車体は鋳造による一体成型で、正面76mm、側面68mmとM3リーより分厚くなっており、傾斜もより巧妙になっているため、総合的な防御力はM3リーより高い。
またM3リー最大の欠陥だった固定砲をやめて全周旋回砲塔にしたことで攻撃面でも……と言いたいところだが、ここに致命的な欠陥があった。
搭載を予定だったイギリスの新型57mm砲(6ポンド砲)が調達できず、やむを得ず時代遅れな40mm砲を搭載するしかなかったのである。
このため攻撃面ではイギリスの従来型の巡航戦車と同じ!クソ以下!ということになってしまい、また部品生産を一部委託していたアメリカがシャーマンの生産に集中したがったため、結局生産は途中で打ち切られ、実戦を経験することもなかった。
「M7自走砲 プリースト」
M3リーの車体を流用して作られた自走砲。
大戦中のアメリカ軍が機甲部隊の火力支援用に開発した自走砲で、主砲には最新型の105mm榴弾砲「M101」を搭載。
M3リーの車体下半分をほぼそのまま利用している上、車体上部も軽量化されているため非常に軽快な機動性を誇る。
車体がうすらでかいのもM3リーゆずりだが、そのおかげで弾薬搭載スペースが大きく、搭載数は10cm級自走榴弾砲としては破格の69発にも及ぶ。
反面、星型エンジンの背の高さのせいで砲の後ろの床が盛り上がっているので、仰角(上向きの角度)がやや不足気味だった。
火力・機動性・信頼性・整備性とあらゆる面で水準以上の性能を誇ったハイスペック自走砲で、大戦中期以降、イギリス・アメリカの主力自走榴弾砲として大いに活躍した。
ちなみにある時期から車体に初期型シャーマンを使用するようになったが、前述のとおり両者の車体下半分はほぼ共通(転輪やサスの一部がちょっと違うぐらい)なので、特に区別はされなかった。
「M31 戦車回収車」
シャーマンの主力化に併せて開発された戦車回収車。
コスト削減のため通常のM3リーをほぼそのまま流用しているが、流石に武装は撤去されている。
写真を見ると主砲がきっちり残っているように見えるが、これは単なる威嚇用のダミーの棒で、実はこの部分はドアに改造されている。カワイイ。
当時としては世界最高レベルの潤沢な回収装備を持ち、砲を撤去された砲塔に最大13t級の持ち上げ力を持つクレーン、車体後方に30tの重量をけん引できるウィンチを搭載し、様々な状況に対応できる。
そのパワーを活かして大砲などのけん引に使われることも多く、後にはその用途に特化したM33牽引車も開発されている。
後にはシャーマンをベースとするM32戦車回収車も配備されたが、乗り降りの簡単さやクレーンの使い勝手などから現場ではこちらの方が評価が高かった。
【フィクションでの活躍】
映画
- 『サハラ戦車隊』
戦時中の1943年にアメリカで公開された、ハンフリー・ボガード主演の戦争映画。
撮影に当たってはアメリカ軍のバックアップを全面的に受けており、もちろん主人公が乗るM3も本物である。
主人公はアメリカ兵なので、このM3もアメリカ軍のリー仕様。M3中戦車の愛称が「グラント」より「リー」の方が知名度が高いのは、おそらくこの映画がきっかけだと思われる。
戦時中に国民の戦意高揚を狙って作られた戦争映画、いわゆる「プロパガンダ映画」で、今見ると所々でプロパガンダ要素が鼻につくのは否めない。
しかしスタッフやキャストはきちんとしており、脚本もどちらかというと人間描写に重点を置いていて、そのへんの粗製乱造された戦意高揚映画とは一味違う丁寧な作りである。
エル・アラメインの前哨戦で部隊が敗北、愛車「ルルベル号」と2人の部下と共に撤退中だった主人公ガン軍曹+撤退中に拾われたイギリス(スーダン人含む)・フランス兵、あとおまけのイタリア兵捕虜が主役サイドの面子。
しかし何はともあれ生き延びるための水を求めて戦車でさすらうことになり、やっと発見したと思ったら今度は同じく水を求めるドイツ軍機械化部隊(戦車なし)との戦いになり……というのが大筋。
大筋からわかる通りメインテーマは戦車というより「砂漠」と「水」で*4、主人公が乗り込むM3リーも「主役兵器」というよりは「舞台」に近い感じ。
なので戦車の描写はかなり薄味で、M3リーの大活躍!米国無双!マニア大歓喜!みたいなのを期待すると若干拍子抜けかも。
- 『デザート・ストーム』
サハラ戦車隊のリメイク映画。1995年公開。
かなり原作に忠実なタイプのリメイク作品で、変更は露骨なプロパガンダ要素を削ったり、不自然な描写などをいくらか改め、あと尺の都合で多少足りたり引いたりしている程度。
ただし戦車ファン的な意味での最大の相違点は、ストーリーよりもルルベル号ことM3中戦車にある。
オリジナルではアメリカの純正「M3リー」だったのだが、こちらでは簡易型グラントこと「リー・グラント」が使用されているのだ。
リー・グラントはイギリス軍の車両なので、アメリカ兵である主人公が乗るのはありえないのだが……まあカラーでM3の活躍が見れるからね!細かいコトなんかいいよね!
- 「1941」
『ジョーズ』で一躍名声をあげ、『未知との遭遇』でそれを確かなものとしたスピルバーグが、一点それを崖下に蹴り落とすことになった迷映画。
日本軍の真珠湾攻撃により太平洋戦争が始まったばかりの1941年。
いまだ戦果の影もないカリフォルニアの海岸近くに、旭日旗を掲げた潜水艦が、ひっそりと海中から現れた。
一方そのころ、アメリカ西海岸各都市の住人は「もしかして次はここに日本軍がやってくるのでは…?」という恐怖に怯えていたが……
……と書くとなんだかマジメな戦争映画のようにも思えてくるが、その実は初手おっぱいポロリからのジョーズパロディという頭のう指数が下がるコンボから始まるドタバタ劇、いわゆるスラップスティックコメディである。
監督はスピルバーグ、脚本にBTFのロバート・ゼメキス、主演はダン・エイクロイドで、助演にジョン・ベルーシや某ベイダー役を断ったのを後悔してた三船敏郎など錚々たるメンツが揃った力作……のはずだったのだが、様々な事情*5から評価面ではイマイチな結果となった。
M3リーは(一応)主人公であるトリー軍曹の乗車「ルルベル号*6」として、(アメリカの)ペンキ工場を蹂躙したり、(アメリカの)乗用車を踏みつぶしたり、(アメリカの)兵士たちの頭上をM1917機関銃で掃射したりと活躍?する。
ちなみにこのM3リーは実車ではなく、シャーマンの車体上部をひっぺがしてM3リー風の外装をあつらえたものらしい……が、さすがはミリオタスピルバーグ、その完成度は文句なし。
アニメ
主人公サイドである大洗学園戦車道チーム、その中のUSA G.I さん……じゃなくてウサギさんチームの車両として登場。
ウサギさんチームは6人の1年生で構成された「下級生チーム」で、大洗における後輩枠&成長枠的存在。
最初は頼りない……どころか試合中に敵前逃亡という情けない初陣から始まるも、幾度もの試合を経て成長し、TVシリーズ最終戦となる黒森峰との戦いでははるか格上の重駆逐戦車に単騎で挑み、エレファント1輌撃破、ヤークトティーガー1輌と刺し違えるという大金星を挙げ大洗の勝利に大きく貢献するほどになった。
以降もこれに自信を付けた事で重戦車キラーを自称したり、調子に乗り過ぎて失敗したり、それを反省した末の奇天烈な作戦や堅実な支援攻撃で仲間の窮地を救ったりと、その賑やかさと目覚ましい成長具合で視聴者からも暖かく見守られている。
大洗唯一のアメリカ戦車の為かサンダース大付属の面々に可愛がられており、一時期大洗の戦車を預かった際特にM3リーは念入りにメンテされていた他、劇場版の共同戦線では彼女たちと小隊を組むことにもなった。
旧式戦車が多い大洗戦車道チームの中では性能的には結構上の車両だったりするのだが、前述のとおり乗員が未熟だったため最初は真価を発揮できておらず、M3ファンをやきもきさせたりしたとか。
また当初は乗員達の好みにより全身ショッキングピンクという凄まじい塗装だった事から戦車ファンを唖然とさせたが、この点も初戦を経て真面目に戦車に取り組む事を決意して以来元のグリーンカーキに塗装し直されている。
一応、ここまで濃くはないがピンク系統のカラーリングは「デザートピンク」と言って、実際の北アフリカ戦線でも使われたれっきとした砂漠迷彩ではある。
しかし当時の一年生チームには戦車や軍事の知識はほとんど無かったので、そこまで考えてピンクにしたとは考えにくい。また戦車道の試合は市街地か平原・森での戦いが主であり、砂漠地帯での試合は稀*7なので、どの道戦車道では大した迷彩効果は見込めないと考えられる。
乗員達が戦争映画を参考・研究材料にして作戦を立てていることもあって戦争映画のオマージュ・パロディに縁があり
- 重戦車を路地に誘いこんで後方から襲撃作戦→ 映画『戦略大作戦』の通称「戦略ティーガー」にペイント弾を撃っちゃうシーン
- エンストからのエンジンスタートスイッチ連打→ 映画『サハラ戦車隊』の冒頭シーン
- 砲撃による観覧車ンドラム、その名も「ミフネ作戦」→ 映画『1941』の日本潜水艦による砲撃シーン
などなど、戦争映画ファンならニヤリとしちゃうシーンが多々あったりする。
ちなみに本来7人乗りのところを6人で動かしているため、通信手の宇津木優季が主砲装填手を兼任している一人二役状態。
しかし通信手席は主砲装填手の席、というか立ち位置とは対角線上の真逆なので、結構不便そうな配置ではある。
とはいえ互いに入り乱れての機動戦が多い戦車道の試合では、足を止めて主砲を連射できる機会もそんなに多くはなさそう(実際に本編でもあんまりない)なので、そこまで気にならないのかも?
史実でもM3リーを6人運用することは結構あったらしいが、その場合副砲装填手が主砲を兼任するか、操縦手が通信手を兼ねることが多く、ウサギさんチームの配置はかなり独特である。まあメタ的なことを言えば、主砲装填手は一人ぽつんと離れた位置に立つので車内の集団キャラアップ時に困るからだと思われる。
ゲーム
戦車と犬のRPGことメタルマックスシリーズには、PS2時代にサクセスから出た砂塵の鎖、通称MS1に登場する。
シャシーの名前は「ルルベル」で、まあ元ネタは明らかに↑の映画。入手先は例の博士から。
重量的には中の上といった所なのだが、実車の配置を参考にしたのか大砲2門、機関銃2門、SE2門という重装備が可能で、これ以上の火力を持つのはマウスぐらいしかなく、実用性は意外に高い。
アメリカツリーのtier4戦車として登場。蔑称通称「リー先生」。
車両としての区分は「中戦車」で、これは状況に応じて偵察・戦線維持・迂回・包囲・浸透など様々な役割をスイッチしていく戦場の便利屋的な車種である。
にもかかわらずこのリー先生、(当然と言えば当然だが)主砲が固定式で回らないので、中戦車としてもっとも重要な「対応力」に致命的なまでに欠けている。
wotには固定式主砲の車両は数多いが、それらはほとんどの場合アタッカー職にあたる「駆逐戦車」で、砲塔が回らないというハンデを補うに充分な大火力を持っている。
ところがリー先生の火力は完全に中戦車レベルのそれなので、結果として「駆逐戦車と中戦車の悪いとこどり」とでも言うべきポンコツ戦車と化してしまったのだ。
そのくせ通常ツリー、つまりアメリカ戦車を進めるためには必須の位置にいたため、アメリカツリーを進めたい!という初心者がリー先生の激しい授業ならぬ苦行で挫折する光景はwotの風物詩だった。
……とまあそんなwotの名物先生だったのだが、なぜかサービス開始から10年も経った今頃になって「こんなポンコツに初心者を乗せるのってちょっとまずくない?」ということにようやく気づいたのか、通常ツリーを外されて「コレクション車両」なるオマケ的位置に隔離された。
ちなみにイギリス所属としてグラントも登場するが、こちらはリー先生よりさらに劣るマジモンの産廃として多くのイギリス戦車兵の心を砕いてきたが、こちらも同じ時期にコレクションに隔離されている。やったぜ。
※追記:修正はかわいいルルベル号に話しかけつつ、エンジンスタートスイッチをやさしく押し込みながらお願いします
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- WoTのLee先生のコレクション送りは寂しいけど、初心者が心折れて引退するようなケースが少なくなかったんだろうな…でも実車が作られていないM4の初期案なんて挟むくらいなら史実で一時の主力中戦車を務めたM3の方が史実体験としては絶対いいはずだし副砲システムで返り咲きを狙いたいぞ!(37mmだけど) -- 名無しさん (2021-06-19 23:15:54)
- コンバットチョロQではどちらも序盤の雑魚戦車だが、リーは装甲がペラッペラで、グラントは中堅戦車並みに装甲が厚い。何故だろう? -- 名無しさん (2021-06-20 04:25:47)
- リー先生コレクション行きしたのか。これじゃウォーサンダーなら主砲副砲機関銃全部使えるぞ!ウォーサンダーやろうって言えないじゃん -- 名無しさん (2021-06-20 17:00:45)
- ルルベルは後の『ニューフロンティア』では学校跡地から発掘されるがどういうわけかショッキングピンクに塗装されている -- 名無しさん (2021-06-20 17:49:35)
- 大砲が2つついてるぞ~って昔から好きだった戦車 -- 名無しさん (2021-06-20 21:36:40)
- お湯がないやん!問題は結局解決したんだろうか…? -- 名無しさん (2021-06-21 10:47:48)
- ↑の方 コンバットチョロQやWTやMSNFをプレイ済の方は是非追記してくだち!- 名無しさん (2021-06-22 22:13:21)
- ↑2 イギリス戦車兵が車内でお茶を飲めるようになったのは結局センチュリオンからで、それまでは車外に出て一斗缶の上を切り取って作った即席コンロ、通称「ベンガジバーナー」を使ってお湯を沸かしてた。その最中に襲撃されてえらいことになることが結構あったので、センチュリオンから湯沸し器が搭載された。 -- 名無しさん (2021-06-22 22:17:56)
- 1941のM3リーはM4シャーマン改造だけど、見分けるポイントは操縦手の窓の位置。本来のM3は操縦手席が中央なので窓も中央だけど、これはM4ベースなので窓が向かって右側にある。ちなみに車内のセットは普通のM3ベースで作られてるので操縦手席は中央のまま。整合性は気にするな。 -- 名無しさん (2021-07-30 00:12:03)
- 名前の由来のリーって首が赤焼けした叛徒どもの首魁のリー?「失われた大義」とかいう歴史修正の起源になったあの? -- 名無しさん (2022-01-09 20:25:38)
- そうだよ。ちなみに命名はイギリス紳士だよ。イギリス紳士は紳士だから人権のために戦った北軍の将軍の名前をイギリス向けのM3に、奴隷制維持のために戦った南軍の将軍の名前をアメリカのM3につけたよ。いい根性してるよね・・・・ -- 名無しさん (2022-01-09 20:49:00)
#comment(striction)
*2 丘や坂の頂点(稜線)から、砲塔だけを出して撃つこと
*3 厳密に言うと撃てるのは撃てるし実際に開発もされていたのだが、生産されていなかった
*4 そもそも原語のタイトルは「Sahara」で戦車要素はかけらもなかったりする
*5 太平洋戦争をコメディ的に描いたことで右系の大物業界人から目の敵にされてしまったとか、世界のミフネがコメディな雰囲気からどうも浮いてたりとか、あと単純に構成がとっちらかってるからとか
*6 無論「サハラ戦車隊」のオマージュ
*7 『最終章』で一瞬だけ描かれた程度。
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