不動明王

ページ名:不動明王

登録日:2011/05/09 Mon 07:34:02
更新日:2023/11/02 Thu 12:56:24NEW!
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【不動明王】

『不動明王』は大乗仏教(密教)の尊格。


我が国には弘法大師により、密教を守護する者としてもたらされた。
位置付け的には密教の最高尊格であり、大乗仏教の思想に於ける至上尊である法身大日如来(だいにちにょらい)の教令輪身きょうりょうりんじんで、明王部の首位。
「大日如来の忿怒相の化身」と云う呼び方が、二次創作でも良く使われる。
しかし、より正確な言い方をすれば「如何なる手段を以ても救われない人々を救うぞ」と云う如来(仏陀)の密かな決意(内証)が、不動尊と云う形を取って発現したと云う方が正しいかと思われる。
その梵名から釈尊が菩提樹の下で瞑想中に悟りを得るまでは如何なる事があっても此処から動かないと決意し、凡る魔をも退けた姿の内証を顕しているとも言われる。


アチャラナータとは梵名(サンスクリット語=古代インド語)“アチャラ動かざる” “ナータ聖者”的な意味を顕し、これが漢字圏に伝わり“不動使者” “無動行者”と訳され、我が国では不動尊、不動明王と訳された。
アチャラナータを音写(当て字)した“阿遮羅嚢他あしゃらのうた”と云う呼び名も伝わるが、一般的には余り知られていないと思われる。
日本に不動明王信仰を伝来させた弘法大師は梵名から一貫して不動尊の名称を用いており、梵名からも不動明王は誤訳で不動尊、無動尊と呼ぶのが正しいとの解説もある。



【概要】

アチャラナータとはインドのドラヴィタ族の地方神の名称であり、それがヒンドゥーの大神シヴァの異名として取り入れられた後、更にシヴァ神の“性格ごと”仏教に取り込まれたと考えられている*1
元々はそれ程重要な尊格では無かった様だが、8世紀頃に大日如来の功徳を説く『大日経』が編纂され、そこで現在に続く基本的な不動明王の性格=大日の教えを守護する忿怒相の化身と云うキャラクターが決定された。
しかし、チベットでこそ“だいぶ”姿は違うものの、大黒天と同様に仏法の守護者と云う地位で親しまれているが、インドと中国ではそれ程の信仰を集めておらず、寧ろ不動明王信仰が真に花拓いたのは日本においてである。
「目白」や「目黒」等の地名も元々は不動明王信仰に由来する。


尚、明王とは密教独自の尊格であり、明(真言=マントラ)を唱える者の王(代表)と云う意味合いである。
回りくどいが、真言を唱える事で得られる仏の奇跡の化身とでも言うべきか。
不動明王はその首位(第一位)にあり、不動明王を中心に五大明王、八大明王と云ったグループが作られている。
特に有名なのが真言系の五大明王で、これは大日如来を中心に金剛界曼荼羅の中心に描かれる五智如来の教令輪身(怒りの化身)である。
東方に降三世夜叉明王、南方に軍荼利夜叉明王
西方に大威徳夜叉明王、北方に金剛夜叉明王
そして中央に大日大聖不動明王だいにちたいしょうふどうみょうおうが配置される。
また、密教では猛烈な火を焚き、そこに願い事を書いた札等を投げ入れ仏に祈る護摩行(怨敵退散の願いもこれ)があるが、その代表的な尊格(良く祈る相手)として知られる。
不動明王が二次創作等で火炎属性を与えられるのはその為(火生三昧)。



【像形】

一面二臂・憤怒相の童子形に背に火炎(迦楼羅炎=かるらえん)を背負い、右手に降魔の剣(倶利迦羅の剣=くりからのつるぎ)、左手に羂索(縄)を持ち岩座に座す(立つ)姿で顕される。
岩座は磐石の座を意味しており、シヴァ神の聖山であるエベレスト(ヒマラヤ)を象徴化した物である。


明王は超自然性を顕す為に多面多臂で顕されるのが普通だが、不動明王は“逆説的に”普通の人間と同じ特徴を持たせる事で、その特異性を際立たせているとの説もある。
座像、立像共に数多く製作されており、不動明王単体で信仰される場合には、眷属の八大童子の内、衿迦羅(こんがら)、制多迦(せいたか)の二童子を脇持として配する事も多い。


また、10世紀頃には天台系から不動明王を正しくイメージする為の手引きとも呼ぶべき『不動十九観』なる物まで登場している。
不動十九観をもとにした不動明王像のほか、空海の前に現れた時の様子の不動明王を模した「弘法大師様(こうぼうだいしよう)」という形の不動明王像が真言宗系に伝わっている。
不動十九観verでは頭のてっぺんを花びらのように結った莎髻(しゃけい)という髪型で、弘法大師様では頭頂部に七つの花びらの蓮華を載せた頂蓮という形式になっている。



【位置付け】

身も蓋も無い言い方をすると密教(仏教)版の最強の守護神である。


明王の真の役目は如来や菩薩の言葉に耳を貸さない愚か者(人間に限らず天魔、悪竜、悪鬼にまで及ぶ)を力ずくで仏の道に帰依(改心)させる事なのだが、それが転じて仏法者全てを守る守護者と捉えられた様だ。


恐ろしげな姿からも解る様に、非常に厳格な尊格である一方で、清浄な心で祈れば現世利益の全てを与えてくれるとも言われている。
これが観音、地蔵と並ぶ民間での「お不動さん」信仰に繋がっている様だ(観音は様々に化身し人々を救い、地蔵は最も慈愛に満ちた尊格である)。
忿怒相の不動明王(祟りを成す恐ろしい尊格)が修行者の苦しみを肩代わりし血の涙を流したとする所謂「泣き不動」の伝説も、この民間での不動明王人気から生まれた説話である。


天台宗では阿弥陀如来との一体説が唱えられた。


日蓮の題目曼荼羅でも不動明王の梵字が記され、不動明王を祀った日蓮宗のお寺もある。



【種字・真言】

種字(尊格を一字で顕した物)はカン(カーン)、或いはカンマン(カンマーン)。
カンのみだと憤怒相。
マンは慈愛の心を顕す。


■カン
■カンマン


真言は、一般的には下記の三種類が知られる。


■ノウマク サンマンダ バサラ タン カン(心咒)
■ノウマク サンマンダ バサラ ダン センダマカロシャタヤ ソワタヤ ウン タラタ カンマン(慈救咒)
■ノウマク サラバ タタギャテイビャク サラバ ボッケイビャク サラバタタラタ センダマカロシャダ ケンギャキギャキ サラバビギナン ウン タラタ カンマン(火界咒)


※いずれも本来のサンスクリット語の音を“無理矢理”に写した物なので、別の表記が無数に存在する事に注意。


意味合い的には、大忿怒尊(不動明王)に目の前の障害を排除(粉砕)してくれと願う形になる。



【八大童子】

文殊菩薩と同じく八人の童子を従えている。


メンバーは慧光(えこう)童子、慧喜(えき)童子、阿耨達(あのくた)童子、指徳(しとく)童子、烏倶婆伽(うぐばが)童子、清浄比丘(しょうじょうびく)童子、
矜羯羅(こんがら)童子、制多迦(せいたか)童子である。
最後の二人の像は不動明王像の脇侍として左右に置かれることが多い。これを「不動三尊」という。



【色んな不動明王】

特に日本において様々な姿の不動明王像が生まれている。


●四臂不動
文字通り四本腕の不動明王。利剣と羂索を持つ一対と別の腕には何も持たず、頬の両側を外側に向けて引っ張るようなポージングをしている。
「十二天曼荼羅」の中心に座す尊格であり、天部の総主ともされる。


●浪切不動(波切不動)
空海が唐の国から帰国する際、船が高波に浚われ危機が迫った際に出現した時の不動明王を像にしたもの。
不動尊の加護により無事に日本に戻れた空海自身が彫り上げたのが最初の制作例だという。
上記のように「炎の仏」とも言える不動明王だが、波切不動では高波をカルラ炎のように背負ったり、手に持つ剣を水面に突き立てるようにして鎮めている形で造られる。


●厄神明王(両頭愛染明王)
不動明王と愛染明王が融合した尊格。胎蔵界の代表的な青い明王と金剛界の代表的な赤い明王が半身ずつ融合し、手の数と持ち物もそのままプラスされている。
嵯峨天皇の霊夢に現れた仏で、彼から祈祷を命じられた空海が最初の三つの厄神明王像を作成した。そのうち現存するのは門戸厄神東光寺に祀られたものだけである。


●黄不動
天台宗の高僧・円珍が感得した不動明王。その名のとおり、黄色もしくは金色の肌をしている。
円珍の前に黄色い不動明王が出現した光景をそのまま描いたという最も著名な黄不動の仏画は、日本の天台宗の、二つに分かれた宗派の片方である天台寺門宗の総本山・園城寺(滋賀県)に所蔵されており、国宝に認定されている。
古来より正確な模写が何度も行われており、それらは一般公開されているが(ネットでも見られる)、実物は秘仏であり、ごく限られた資格を持つ者しか見ることができない。
五色不動の一つである目黄不動は天台宗の山門派のほうの寺であり、不動明王像も黄色くない。


●鎧不動
武田信玄の弟武田信繁が作った不動明王像。和風の鎧を来た不動明王で、不動信仰に篤かった兄貴の姿を模してある。
像のサイズは30センチほどと小ぶりだが、鎧のディティールはかなり精巧に出来ている。
武田家の菩提寺である恵林寺で保存されており、「歴史博物館 信玄公宝物館」で一般公開されることもある。
恵林寺には信玄の姿がそのまま写されたという「武田不動尊」像もある。京都から招いた仏師に自分の姿を彫刻させたところ、自然と不動明王像の形になったという。


●将門山不動尊(伝三面不動尊立像)
東京都西多摩郡奥多摩町棚沢にある将門神社の北側の山の中に建てられたお堂に安置されている三面六臂の像。
右手側の腕は上から月、利剣、独鈷杵を、左手側の上では上から、太陽、麻紐の束、金剛輪を持つ。
麻紐の束はその色合いから新しいものと見られ、恐らく当初は通常の不動明王像のように羂索を持たされていたと思われる。





追記・修正は大日如来の功徳で一切不浄を灼き浄めてからお願いします。


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  • 大好きな神様。 -- 名無しさん (2013-08-10 16:39:56)
  • 京都の東寺講堂のが有名だけど、御影堂にもう一体あるらしい。 -- 名無しさん (2013-08-10 21:06:52)
  • 基本理念がウルトラマンコスモスのルーツっぽいw -- 名無しさん (2013-08-10 21:08:14)
  • 「地獄変」という小説の元ネタの絵仏師が描いていた絵だったっけ -- 名無しさん (2013-08-10 21:30:54)
  • そういえばゲッターロボアークの三号機はカーンだな -- 名無しさん (2013-10-25 08:52:37)
  • ゴッドマーズ… -- 名無しさん (2014-07-12 22:42:17)
  • 後光が炎の形なので、火災避けのご利益があるとも言われる。高尾山薬王院では、烏天狗が不動明王の立ち姿を模している絵がある。何故か不動明王を本尊にした寺の境内には、撫で仏がある率が高い。 -- 名無しさん (2014-07-13 01:03:36)
  • 御嶽山信仰系の教会や神社でも良く祭られてるね。あと、滝と良く結び付けられる。 -- 名無しさん (2014-09-13 18:44:19)
  • 十二神将曼荼羅には中央に据えられている -- 名無しさん (2014-09-13 18:48:45)
  • 福井県の不動滝のほとりにある不動明王立像の背中には「小六」と刻まれているらしい。ロリコンやショタコンがリビドー任せに刻んだ訳では無く、佐々木小次郎の幼名だと言う。 -- 名無しさん (2014-09-16 07:55:35)
  • 宇宙皇子を思い出す -- 名無しさん (2015-09-24 20:57:40)
  • 孔雀王では戦闘時に不動明王火炎呪がよく使われてたな -- 名無しさん (2015-09-24 21:09:27)
  • シヴァ神を調伏した話があるらしいが... -- 名無しさん (2015-10-01 06:11:00)
  • ↑それはたぶん降三世夜叉明王だな。『三界を収めたシヴァ神すら降す』という意味。ヒンドゥー教主導の世界では未来が無いから仏教に教化させねばならんと大日如来に派遣されたけどシヴァ夫妻がそれを聞き届けなかったのでまとめて踏み潰した。よその宗教の神様(しかも最高神)をかませ犬にしてボコるという大胆な真似をしてる異色の明王。 -- 名無しさん (2015-11-08 15:57:50)
  • しかし明王たちの大元はそのシヴァにたどり着く。意味の分からない話だ。でも明王もシヴァも大好き --   (2015-11-28 22:26:56)
  • ↑それが古代インド哲学だと既に時は巡回して、宇宙が終わってもまた世界が繰り返すと語られ、仏教に至っては過去生と現在、未来が同時に顕れ、多次元世界の仏も同時に出現したりするからあんまりおかしくも無い(錯乱)。 -- 名無しさん (2015-11-28 22:37:25)
  • 破邪ーーーーッ!! -- 名無しさん (2019-02-02 01:11:27)
  • 火界咒の真言は東京レイヴンズ読んでると、自然と覚えてしまうレベルで頻出する。 -- 名無しさん (2020-04-09 18:47:59)
  • 火界咒は喰霊でも出てたな。東レの火界咒は印象に残りやすいよなぁ。登場キャラのほとんどが使える便利技ってのもあるが、春虎覚醒時のかっこよさ宮地使用時の別次元っぷりとか、使い手や場面で個性が出る呪術だ -- 名無しさん (2020-04-09 21:50:44)

#comment

*1 シヴァ神自体も更に大自在天や大黒天マハーカーラ)として仏教に入っている

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