日の出前、外はまだ暗く人気がない静かな時間帯。とある二人のフレンズはこの静寂の中で、自分たちのすみかに別れを告げるのだった。
「…いってきます。」
当然、家主である彼女ら二人が出ていくのだから返事はない。片方はそっと扉を閉じ、一緒に住んでいた相棒…ケサランパサランのフレンズと共に歩き始めたのだった。
もうひとりはニホントカゲのアオイ。彼女は旅好きで、今まで色々なところに旅をしてきた…が、こんな形で家を出るのは初めてだった。最近はどうもセルリアンが多くなってきている。彼女らの住んでいた地域もハンターたちではどうにもならなくなってきたようで、先日ここから逃げるように言われた。そんなことを急に言われても、行くアテはない。
「…ねぇ、私達ってこれからどうなるのかな。」
ケサランが不安そうな表情でつぶやく。
「んー…」
アオイは少し唸ってから、まぁ、楽しい旅になるんじゃない?と返した。ケサランには気楽でいいわね。と返された。彼女は行くアテはなかったが、行ってみたいところはあった。アオイは以前、セルリリアンに襲われたことがある。そのとき助けてくれたフレンズが住んでいるというホートクエリアに行ってみたいと前々から思っていた。
「で、あなたがししょーと呼んでるフレンズは、ホートクエリアにいるんだっけ?」
「そう、そこにはいろんなフレンズが住んでるロッジもあるみたいだし、ちょうどいいかなって!」
途端にケサランの表情が固くなった。直後、彼女はアオイの手を引いて路肩の森のなかに入っていく。
「どうしたの?」
「静かに。セルリアンがくるわ。」
「え?」
言われて、あたりを見回してみる。すると、私達が先程までいた道路の上空に、不思議なフレンズがいた。大きな耳を持った、緑色のセルリアンが、大きな鳥のようなセルリアンに乗っている。
「え!?どういうこと!?」
アオイはその光景にあっけを取られる。フレンズがセルリアンの背中に乗って空を飛んでるように見えたのだ。
「私にもわからないわよ!早くここから離れましょ!」
アオイはケサランに手を引っ張られ、そのまま森のなかを進んでいく。朝方であるから、やや足元の草が露で濡れていて駆け抜けると飛沫が心地よかった。
森を抜けた先は、バス乗り場があった。幸いここはまだヒトによって可動されているようだ。
バスに乗り、しばらく移動した後、ケサランが何かを思い出したかのように話し始める。
「もしかして、あれが例のセルリアンなのかしら?」
「例の…って?」
「ほら、前にサーバル達が来て、フレンズの姿をしてるセルリアンを探してたじゃない。」
「言われてみれば…サーバルに似てた…かも……」
そしてバスの室内掲示板が、"つぎはホートクエリア"と表示されたことをケサランが教えてくれた。アオイは字が読めないが、ケサランは"ひらがな"と"カタカナ"なら読む事ができる。なんでも、生まれたときにヒトに教えてもらったらしい。
「てことは、ここからもうホートクか!楽しみだなぁ!」
「みて、あそこにカフェがあるわよ。少し休憩していきましょ。」
彼女らはバスを降り、まっすぐカフェに向かうと、経営しているヒトはいないものの、そこそこの数のフレンズで賑わっているようだった。
「ホートクエリアって、意外と近かったのね。バスで30分くらいかしら?」
「そーだねー!」
「あれ?その声はアオイじゃないか?」
ふいに背後から自分を呼ぶ声が聞こえる。振り向いてみると、アオイの恩人のフレンズが奥の席に座っていた。
「あ!ししょー!!こんなに早く出会えるなんて!」
アオイは立ち上がってししょーである河童のフレンズ、リーナの元に向かう。隣には、鳥のフレンズと、兎のフレンズが座っていた。
「あら、リーナの知り合い?」
兎のフレンズが尋ねてきたので、アオイはリーナとの関係を説明した。
「へぇ、リーナが師匠に…ねぇ。」
「昔の話だよ!」
それよりも、兎のフレンズはケサランのほうが気になるようで、当の本人もそれに気づいたらしく、ケサランはニコッと笑って挨拶をする。
「久しぶりね。ルナ。あの時以来かしら?」
「えぇ、久しぶり…」
「ケーちゃん、知り合いだったの?」
先程の兎のフレンズと同じ反応をするアオイ。ケサランは笑顔のまま答える。
「そうね、ルナと私は同じ研究所だったから…」
ケサランが話している途中で、外から大きな轟音が響く。外を見ると、やや大きめのセルリアンが暴れていた。
「あぁ、自己紹介する暇もなさそうだねぇ〜」
と、鳥のフレンズがうー、と唸りながら言った。
「さて、誰が行く?」
兎のフレンズが、鳥のフレンズとリーナの二人と目を合わせる。
「もちろん。じゃんけんだろ!」
「え、セルリアンが暴れてるんですよ!逃げなくて良いんですか?!」
アオイはやや慌ててそう訴えかける。彼女は旅先でセルリアンと遭遇したことは何度かあったが、いずれも逃げるという選択肢をとっていた。それは、彼女に戦闘能力がないのもあるが、一度セルリアンに食べかけられた経験がある身としては、親友のケサランを巻き込みたくなかったからでもある。
「ま、あなた達二人はここで待ってなさい。私達がなんとかするからさ。」
ルナはそう言って、リーナともう一人のフレンズとじゃんけんを初めてしまう。…どうやら、リーナが勝ったようだ。
「ま、不安なのはわかるけどさ。私に任せなって!」
リーナは上着を取って颯爽とカフェから出ていってしまった。先程の轟音と、ちらりと見えた大きな体を持っていることから、普通のセルリアンではないことがわかる。最近はどうも、セルリアン同士が連携したり、戦いの最中に進化したりと、イレギュラーな個体が多く発見されている。アオイとケサランは不安そうな表情で外を見ていた。ルナと鳥のフレンズは、特に気にかける様子もなく紅茶を飲んでいた。
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