現代のドットで描かれた放浪と探索の物語
このゲームの主人公は、古代の文化、歴史を探求する「ドリフター」と呼ばれる者の一人。
その身に呪いを受け、生命を蝕まれている彼は、解呪の鍵を求めて舞台となる地を彷徨うことになる。
本作でまず興味を惹くのはなんといってもドットで表現された世界だ。
往年のレトロゲーからのインスパイアとそれらへのオマージュに満ちたグラフィックは、ドットアート、ピクセルアート嗜好のユーザーに十分なアプローチをもたらし、また現世代のユーザーにも新たな視覚的バリエーションを与えてくれるだろう。
しかしながら、旧来の表現方法を選択しているとはいえ、すべてが懐古のみで構成されているわけではない。
表現方法としてドットを選択する作品は昨今増加傾向にあるが、だいたいにおいてそれは懐古主義を表明するために用いられたのであって、本来のドットがもたらす効用と、ドットで描画しなくては実現し得ないという必然性を含んでいるかと言われると、疑わしいレベルに留まっているものも少なくない。
そのような意味合いにおいて本作は、かつて性能の制約により実現し得なかった表現を、ドットの中に落とし込み、新しいビジュアルを生み出している。
例えばそれは、ドットは基本的に、1つのドット単位に対しては1つの色彩しか割り当てることができなかったが、Hyper Light Drifterでは全編にわたってグラデーションが多用されており、複雑な色彩変化や、光彩表現が豊かにあしらわれている。
また、フィールドをなめらかに舞う雪や塵、画面全体をおおうような大量の敵はかつての技術では難しいものだった。
音楽に関しても、ドット=チップチューンという枠にとらわれず、チップチューンを散りばめつつシーンに相応しい方法が採択されており、演出の掘り下げに寄与している。
システム
ゲームの基本は、行く手に現れる様々な敵を剣と銃を駆使して退け、フィールドに散りばめられたアイテムやオブジェクトを発見し、世界の謎に迫っていく…と極めてシンプル。
アクションも探索も、複雑さとは無縁の単純なつくりとなっており、旧来のゲームに親しんだプレイヤーなら直感的にキャラクターを操作できるはずだ。
プレイヤーは、ゲームスタート時、4つのエリアに囲まれた中心に位置する街におり、そこから好きなエリアを選び探索していくことになる。
エリアの最深部にはボスが配置されており、当面の目的はそのボスへ到達するための探索となる。
その道中、様々な敵と数多くの戦闘を経験することになるが、プレイヤー自体がそれほど強力でない為、毎回毎回に敵の動きを読み、周囲の地形を把握して最適な回避と攻撃を行わなければ、雑魚敵にも苦戦することだろう。
拠点となる街では、スキルの習得や銃の拡張などを行うことができ、キャラクターのビルドアップも用意されている。
しかしながら、それによって大幅に攻略が楽になるということではなく、あくまで選択肢の一つという範囲に抑えられているため、戦闘で生き延びる為には基本的にプレイ技術を磨くことが一番の強化となるだろう。
また特徴の一つとして、言語はメニュー以外には使用されていない。
NPCとの会話やストーリーの進行も、ピクセルアートで表現されるに過ぎず、プレイヤーの想像力が必要となる。
シンプル故に作品全体を通して大きな転換や盛り上がりはないが、やり込むことでの操作の上達や、フィールドに巧みに隠されたオブジェクトの発見など、能動的なプレイングが本作のゲーム体験を形作っていく。
アクション
プレイヤーが繰り出せる攻撃は剣撃と銃撃の二種類のみ。
攻撃のメインである剣は、近距離専用の武器で、最後までそれ自体の攻撃力や攻撃範囲を強化することはできない。
スキルを習得することによって溜め斬りや敵の銃撃を跳ね返すことができるようになるが、使用時に大きくスタミナを消費するため、発動のタイミングが重要となる。
銃は、はじめは一つしか持っていないが、全部で性能の異なる6種類が用意されている。それぞれに長所と短所が設定されており、そのうち2種類を装備してリアルタイムに切り替えて使用していく。
銃も強化することが可能だが、攻撃力や攻撃範囲ではなく、装弾数が一段階だけ増加するのみ。弾は敵やフィールドに配置された破壊可能なオブジェクトを剣によって攻撃することでのみ溜まっていき、リロードの概念はない。
それによって遠距離からの一方的な攻撃は出来なくなっており、否が応でも近距離での戦いを強いられることになり、アグレッシブさや大胆さが求められる。
攻撃の他にこのゲームを特徴づける重要なアクションがダッシュだ。
ダッシュは短距離を瞬時に移動できるもので、これによって敵の攻撃をかわしたり、離れた地形を移動することができる。
またスキルの取得によって「チェーンダッシュ」という、連続でダッシュを繋げられる技がある。チェーンダッシュはそれだけで強力なスキルで、使いこなせればノーダメージで敵を攻略することも可能になる。
しかし強力な分、発動のためのボタン入力のタイミングがシビアで、なかなか思うようつなぐことが出来ない仕様となっている。スタミナも少量だが消費してしまうので、乱戦やボス戦では、攻撃とのスタミナ配分が勝敗の分かれ目となってくる。ただ扱いが難しい分、思い描いたような動きがでたときの爽快感は大きい。
探索
このゲームのもう一つのメイン要素は探索だ。
探索する世界は大まかに東西南北の4つのエリアに別れており、それぞれの最深部にはボスが鎮座している。
そのボスへ到達するにはいくつかのオブジェクトを発見し、特殊な扉を開放する必要があるのだが、それらを見つけるのにはある程度の時間と、根気強さが必要となってくる。
各地に散りばめられているアイテムやオブジェクトは、目につく場所に配置されていてすぐに発見できるものもあるが、多くは巧妙に隠されている。
ドットでの見下ろし視点ということを上手く利用して、フィールドの端ギリギリのところや、壁の一部が通り抜けられるようになっていたりと一見するだけでは気が付かないような隠され方をしているのだ。
ただ、よく注意していれば気がつくといったレベルのものなので、理不尽さは感じられず、むしろ見つけた時の達成感は大きく、自分の力で発見した実感が得られるだろう。
この探索は本作のやり込み要素ともなっているので、全てを完全に発見するまでにはプレイ時間は相当なものとなっているに違いない。
世界観
本作において、その世界観はプレイングの重要な一端を担う役割の一つだ。
ゲーム全編において、主人公、その他キャラクターの出自や、世界についての具体的な説明は一切されることはない。
オープニングムービーや、挿入されるNPCの会話でプレイヤーが各々想像するしかないが、能動的に理解しようとしなければ自分が何をしようとしているのかも見失ってしまうだろう。
世界は全体的に朽ち、廃墟化が進んでいる。建物は崩壊し、機械は植物に覆われている。
街では住人が集まり、遺構のなかで小さな暮らしを営んでいる。 登場するキャラクター、敵も動物擬人化したようなものや機械たちばかりで、人間らしき姿は見当たらない(白骨化したものは時々散見できる)。ここが独自の世界なのか、理由あって人間がいなくなったのかもはっきりしない。
ところどころで見られる巨人の亡骸は物語を深化させ、プレイヤーの想像を掻き立てる。
それぞれのエリアは特色がはっきりと別れており、湖に沈んだ遺跡や、峻厳な雪山に放置された祭壇、結晶に覆われた森、広い荒野とバリエーション豊かだ。
穏やかな陽光を受ける場所もあれば、雨による湿度を感じる台地もあり、少ない手段ながらもその場の雰囲気がよく表れており、より放浪の旅への感情を高揚させてくれる。
また地下には地上と同規模かそれ以上の広大な施設、ダンジョンが拡がっており、危険な仕掛け、敵が潜みプレイヤーの行く手を阻む。
そこは地上世界とは打って変わって、閉塞感に満ちた、照明による薄暗い機械世界を潜行しなければならない。
多くの意味深な装置や、残されたクリーチャーは地上のものよりも活動的で、未だに旧時代を反映し続けているかにも見える。
それらは過去の文明や、世界が崩壊する要因を物語る重要な手がかりとなるかもしれない。
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