名前: ジャンガリアンハムスター(アグーチカラー)
愛称: ヒーリィ
所属: カントーエリア
管理権限: 1
アニマルガール概要
-性格について
落ち着き払った年長者のような振る舞いよくしますが、その実は懐疑的で警戒心が強く、臆病な性格をしています。また何事にも無頓着なように見えて大の遊び好きで、自身の欲望には常に正直です。しかし多くの場合、他人の目の前で実行に移す事はせず、人目が減った時に初めて行動に移します。(すぐに行動に移さなければ機会が失われる場合は、その限りではありません)
気分が乗らない時に他者に干渉される事を蛇蝎の如く嫌いますが、何かして欲しい事がある時などは露骨に対象に接近する、音を立てるなどでアピールを行います。
人間には比較的慣れているようで、最初こそ警戒して距離を取ろうとするものの、気に入った玩具などを目の前に出されると、自身の欲望に負けて物に釣られてしまう事がままあります。
-愛称について
ヒーリィという名前は、英語のhealing(癒し)からとられているようです。アニマルガール(以下AG)化する以前は誰かに飼育されていた老齢のハムスターであったようで、その際に名付けられたという事が本人へのインタビューにより判明しています。
-外見について
一般的なジャンガリアンハムスターのアグーチカラーの特徴と言える茶色掛かった髪色をしており、真ん中に黒のラインが入っているのが特徴です。
服装も同じくアグーチカラーのコートを着用しており、毛量の多さが身体のラインを分からなくしています。冬には更に厚着の白のコートを羽織る事があり、冬毛を表していると思われます。
-生活について
基本的にカントーエリアに存在する試験解放区で木製玩具屋として生計を立てています(学院卒業資格有)。しかし月に何度かは他エリアに足を運んでおり、何の前触れもなく当日に定休日としてしまう事もままあるようです。
-身体能力について
一般的な齧歯類系のAGと同程度です。強いて挙げるとすれば、ペットとして飼育されていた為か人間を恐れません。また運動不足気味である事を医師に指摘された事で、回し車型ルームランナーでの毎日決まった時間の運動を日課としています。
-本人インタビュー
Q: まずはお名前を教えてください。
A: …。
Q: あの…、お名前を…。
A: …ジャンガリアンハムスターだ。
Q: えと、そうではなくてですね…。
A: どうせ知っているのだろう?…ヒーリィだ。綴りは知らん。
Q: す、素敵なお名前ですね。ところでヒーリィさんは、カントーエリアでおもちゃ屋さんを経営しているとお聞きしましたが。
A: …なぜ知っている。いや、そうか…。ああ、その通りだとも。売っているよ。木のおもちゃを作ってな…。
Q: この木の機関車のおもちゃも、ヒーリィさんが作られたんですか?[木製の機関車の玩具を取り出す]
A: …ああ。私の作品だ。
Q: スゴい品質の高いおもちゃですよね。きちんとカドも取ってあって、綺麗にヤスリがけとニス加工もされてます。
A: 子供が遊ぶからな…、その辺りは一番気をつけろと、学校でしつこく言われたさ。
Q: 子供たちの事を考えて作られてるんですね。
A: 客商売だからな…。
Q: 次に、大切にしているものはありますか?
A: …それを聞いてどうする。私からそれを奪おうというのか?
Q: そんな事しませんよ!
A: どうだかな…。たが到底奪えるものではない。"健康"だ。毎日の決まった運動と食事で、それを維持する。
Q: しっかりしているんですね…。私も健康には気を遣おうと思いました。
A: ああ…。全く管理されない健康維持のなんと煩わしいことか。
Q: そうですね。ところで、飴をあげるのでちょっと付いてきてくれませんか?
A: …。
[数秒間の沈黙の間、ヒーリィがインタビュアーの手元の飴をチラチラと確認している]
Q: あの…飴…。
A: …お前が私を害さぬという、その保証は?
Q: 何もしませんよ~。
A: どうすれば、そんな話を信用できる?
Q: も~…。そんなに信用できないなら、飴だけここに置いていきますからね。ヒーリィさんの好物だって聞いてたブドウ味なんですけど…。今日はご協力いただき、ありがとうございました。
A: …。
[インタビュアーが退室したと見せかけてモニター室に移動し、その後のヒーリィの様子をカメラで確認する。数分ほどかけて部屋の中を確認し、隠しカメラの存在には気がつかないまま、慎重に飴に手を付ける。それと同時に、インタビュアーが何食わぬ顔で部屋に戻る]
Q: 忘れものしちゃ…
A: っ![驚いて入り口の反対側の部屋の隅まで駆け下がる]
Q: あ、飴ちゃん食べてくれたんですね。
A: …。
Q: ね?何も無かったですよね?
A: …。
Q: やっぱり我慢できませんでした?
A: …そのような行いは無意味だ。
Q: 今度から信用してくれますか?
A: …いいだろう。施しにも感謝する。だが今日は帰る。
[後日行ったこのインタビューに対するインタビューで、この飴の一件について彼女は、「なんとも甘い匂いのする話だった。もちろん初めから胡散臭い事は分かっていたさ。それでも、興味に抗う事はできなかったがな」と語っています]
-野性解放能力
彼女の野性解放能力については、未だ十分な情報が集まっていません。
動物情報
動物名: ジャンガリアンハムスター(Djungarian Hamster)
学名: Phodopus sungorus
分布: 原産地はカザフスタン共和国、シベリアから中国北部
IUCNによる保全状況: 軽度懸念(LC)
動物概要: ジャンガリアンハムスターは、ドワーフハムスターと呼ばれる小型のハムスターの中では、日本でペットとして最もポピュラーなハムスターです。中でもアグーチカラーは白毛等よりも数が多く、ペットショップや餌のパッケージなどで、その姿を見る事ができます。中国のジュンガル盆地に生息している事が名前の由来ですが、多くはシベリアに分布しています。
体長は7cm~13cm、体重は約30g~40gで、一般的にはメスよりもオスの方が身体が大きいものの、性格はメスよりもオスの方が温厚な場合が多いとされます。目が悪いため、聴覚と嗅覚で周囲の状況を把握し、外敵が少ない夜間に餌となる昆虫などを探しに出かけ、一方で昼間は巣穴で断続的に睡眠をとっている事がほとんどです。また野生では1日3km以上の距離を移動するため、飼育の際は運動不足解消の為の回し車は必須となります。
名前: ジェイデン・"ゴールドスミス"・ミラー
性別: 男性
国籍: アメリカ
所在地: 日本 東京都██区
人物: ミラー氏は一般的な60代のアメリカ人男性来園者です。肥満体型、黒の眼鏡と装飾が彫られた金のベルト、そして大きな四角い茶色のリュックサックを背負っているなどの特徴があります。
ミラー氏は渾名の通り近所の地域では有名な彫金師であり、職人としての技術力と、本人の人懐こい性格で親しまれているようです。また、日本滞在の時間が長いためか日本語は堪能です。
ジャパリパークへの来園はずっと楽しみにしていたと職員たちに熱く語る様子が見られ、また職員や来園者に薔薇の花が刻印された手作りのコインを無差別にプレゼントしているところを、不審者として通報され、一度職員により注意がなされています。
氏は深く反省した様子で謝罪し、現在は職員との相談の末に看板などを用いた積極的な配布活動は控えること、また本人の合意の上でパークセントラルの装飾品店にて彼の作品を展示することで解決しています。
作品の展示自体は彼の希望ではなく、ミラー氏の作品に感銘を受けた職員の希望によるものです。氏は多くの人にとってジャパリパークが特別な思い出になるようにという想いを込めて、自作のメダルを無償で配布していたと語っています。
職員や他の来園者との関係は良好であり、個人への贈り物の範囲内で、自作のコインを友人となった者へのプレゼントしているようです。
自作のコインはミラー氏曰く、"気持ちはこもってるけど大量生産品"とのことですが、店舗に売り出される品物にも全く見劣りしない精巧な作りとなっています。ミラー氏の大きなリュックサックには島外で制作した大量のコインがケースに収められており、以前中身を確認させるように要請したところ、二つ返事で快諾し、その中身を見せてくれました。
20██年12月██日に██県██市で発生した、暴走車がショッピングモールに突入し、複数人の買い物客を撥ねた事件について、死亡した被害者がミラー氏の妻であるアリス・ミラー氏であった事が確認されています。当時の報道によると、黒いワゴン車が時速50kmでショッピングモールに突入し、買い物客を次々と撥ねたとのことです。10名が軽傷を負い、3名が重症、うち1名がその後病院で亡くなりました。
事件後の取り調べで車を運転していた容疑者は新興宗教いのちのみほしの信徒であることが判明しています。
彼は妻のアリス氏の遺品を大事にしており、彼には一見して似つかわしくない牛の装飾が彫られた金色のバックルも、アリス氏の遺作であると思われます。彼はこれを片時も肌身から離さず身に着けています。
20██年4月12日現在、ミラー氏はジャパリグループが指定する要監視対象の一つであるカルト教団「いのちのみほし」への関与が疑われています。幾つもの分派が存在する同教団の中の一つである「リベラ」と呼ばれる分派に所属していると考えられていますが、ここまでの調査では、いのちのみほしに私怨があると考えられるミラー氏が、何故いのちのみほしの分派に所属しているのかなどの詳しい情報分かっていません。
追記: その後の調査で、ジャパリパーク内に存在する犯罪者を選別し抹殺するというリベラの特性が判明し、その事からミラー氏は妻の復讐の為にリベラに所属していると思われます。彼は妻から彫金技術を学ぶ前は、アメリカで銃職人として生計を立てていました。しかし日本に渡る際、銃職人としてはなく、彫金師としての妻の助手となったのだそうです。銃職人としての腕前は並ですが、その技術を用いてリベラの銃火器事情に深く関わっていると思われます。
-20██/06/22ミラー氏に対するインタビュー記録
「アンケートに答えて、キーホルダーを貰おう!」キャンペーンの当選者という欺瞞情報をもとに、対象に簡単なインタビューを行いました。ほとんどの回答は当たり障りなく、普遍的な内容であったため割愛します。
インタビュアー: では始めさせていただきます。 ミラー氏: うん。よろしくお願いします。 インタビュアー: よろしくお願いします。さっそくですが、ジャパリパークはどうですか? ミラー氏: うん、楽しい!わくわくするよ。 インタビュアー: 楽しんでいただけているようで何よりです! ミラー氏: うん、うん。 インタビュアー: では、特に楽しかったと感じた施設はどこでしょうか? ミラー氏: あぁ!えっとね…、うん…。うーん…、ごめんねぇ…。最近物忘れがひどくて…。 インタビュアー: 大丈夫ですよ…!タズミとか…観光されましたか? ミラー氏: んん!タズミっ!タズミね…。んー…、そう!タズミっ!…クジラの子に道案内をしてもらってね…嬉しかったなー…。 インタビュアー: そんなことが!素敵ですね! ミラー氏: うん!ありがとうね。 [中略] インタビュアー: アンケート内容は以上です!ありがとうございました! ミラー氏: うん、ありがとう!お疲れ様でした。 インタビュアー: こちらがプレゼントのキーホルダーになります。どうぞ! ミラー氏: おぉ!ありがとうね。大事にするよ!…じゃあ、代わりに僕のコインを貰ってくれるかな? インタビュアー: わぁ!ありがとうございます!
補遺: その後ミラー氏はスタッフ達全員にもコインをプレゼントし、時間の許す限り談笑を楽しんだのち、笑顔でその場を立ち去って行きました。以上の記録を見ても分かる通り、インタビューから彼女の不審な点を観測する事はできませんでした。 |
[ゴコクエリア・ナリモン水族館にほど近い広場のベンチ] PM8:23 その日、ここでは様々な事が起きすぎた。 それはこの広場の抉られた土と両断されたベンチが物語っている。 その当事者であるヘリコプリオンは、反省とも自虐とも違う苦い表情で、自身が破壊したベンチに腰掛けていた。
+「…」-(何を拘っているんだ、僕は)
誰もいない広場で夜風に当たりながら、誰を待つでもなく、だが帰るわけでもない
+独りきりの広場で、物思いに耽る彼女に声を掛けようとする者はいない。-独りきりの広場で、物思いに耽る彼女に何者かが声を掛ける。
「あれ、リオン?」
それは彼女の友人の、ウバザメのバスクだった。
+やめてくれ-「やあ。今あがりかい?」
「ああ、そうだけど…」
バスクは真っ二つのベンチと、そこに座り込むリオンを交互に見る。
「なにか…あったのか?」
+放っておいてくれ-「いやあ…、あはは。座ったら…壊れちゃってさ…」
リオンが、明らかに人工的に切断された面をさする。 それを見たバスクは、おもむろにリオンの横に座り込む。
「いつも思うけど、リオンは嘘が下手だな」
+僕に構うな-「そうかな…?」
「ああ。むしろ普段の方が何考えてるか分からないぞ?」
+バスクにもわからないなら、誰にも分からないんだろうなぁ…-「…バスクにもわからないなら、誰にも分からないんだろうなぁ…」
深く溜息を吐くように、言葉を口にする。
「ぼくも、ぼくのことはよく分からないから」
「この姿になる前のことか…」
「…うん。でもね、それはもうどうでもいいんだ」
+「あの子が…、僕を懐かしい名で呼んだんだ」-「あの子が…、僕をリコって呼んだんだ」
「…」 バスクは、リオンがその愛称で呼ばれることを嫌う理由を知らない。 しかし彼女が時折する、彼女がなによりも大切にしている化石の話。
そのときは、どうしてもその話が頭から離れなかった。 今の彼女が、その話をしている時と同じ目をしているから。
+まるで 楽しかった夢の話をする子供のような。-まるで 楽しかった夢の話をする子供のような。
「正直、さ。久々にそう呼ばれて嬉しかった自分がいたんだ。嬉しいはずなのに、苦しい」
そう言うと、リオンが懐から化石を取り出す。 「"この子"はもう、いないんだなって。思い出しちゃうからさ」
「お前がそれを大切にしていた理由は…そうか…。」
リオンが再び化石を懐にしまい、哀しい目でバスクに微笑む。 「センチだなとは、思う。でも忘れる事なんてできないと。親友だから」
「親友か…」 バスクが呟き、話を続ける。 「リオン、忘れる必要なんてないさ。私たちはこの姿になった瞬間から、それがいつか終わるという事をいつか知るんだ」 「いつかは全て消えて、無くなってしまう…」 +「大事なのは、消えるまでに何を為したかだ」-「大事なのは、消えるまでに何を為したか。か、バスクはあの子と同じことを言うんだね」
「それでこそ僕の親友だ」
「リオン…」
「まったくその通りだ」 「化石になってから、"あの時やっておけばよかった"なんて後悔したくないよな」 そう言って振り向いたリオンの表情は、いつも通りの飄々とした笑顔だった。 それを見たバスクの表情も晴れ晴れとしたものになる。 「ああ、例え私が全てを忘れても、みんなが私を憶えていてくれるように…今を生きるんだ」 +「リオンも、私と一緒に付いてきてくれるか?」-「リオンも、私と一緒に付いてきてくれるか?」
「当然じゃないか。君が可愛く笑えるようになるまでは少なくとも見届けなきゃね」 突然何かに吹っ切れたようにリオンが立ち上がる。 「あーあ。そろそろお尻も痛いし、帰ろっか!職員も心配しそうだしね」 「そうだな。…なあ、リオン」 +「なんだい?」-「なんだい?」
…! リオンが振り向くと、バスクが愛愛しい笑顔を向けていた。そこには、表情の恐ろしさで悩む彼女は消え去っているように思えた。
… 「…かわいらしく笑うじゃないか」
その言葉を聞いてバスクがいつもの表情に戻る。 「ん?私は今笑っていたのか…?」 「さてね。よろしくな相棒。あと、僕からもいいかい?」 「なんだ?」 一呼吸置き、再びリオンが話し始める。 「…バスクが本当に僕の助けが必要なときには、"リコ"と呼んでくれよ。どれだけ遠くても…、"火星"の裏側からでも"加勢"に行くからさ」 バスクがその言葉に目を輝かせる。 「…!ああ、そうさせてもらうよ」 リオンが嬉しさと納得のいかなさが混じったような複雑な表情をする。 「…今のは笑うところだよ…」 そのまま2人は、取り留めのない雑談を交わしながらナリモンへの帰路につく。 |
かつてはパーク中を飛び回り
いろんな子たちにお話をしてあげたものだよ。
みんないなくなってしまったよ。
私は、みんなの事を、忘れない。
ある晴れた日の昼下がり、ワタリガラスのレイは暇を持て余していた。
(オキは友達と出掛けてるし、ノスリもどっか行ってるし、だからって夕方まで昼寝ってのも違うな)
いかにも迷っているふうだが、だいたいこうなった時の彼女の腹の中は決まっている。ザクにちょっかいを掛けに…、もとい作業を気紛れに手伝うために彼のプレハブに押し掛けるのだ。
悩んでから数十分後には、決まってザクのプレハブの扉をノックしている。
ノックとは名ばかりで、実際には返事をする前に開けてしまうのだが。
音を文字にするならば"コンコンガチャッ"といった具合だろうか。
「手伝いに来てやったぜー!少佐っ」
ザクは見慣れた光景だとばかりに書籍からちらとレイを一瞥し、口を開く。
「オキちゃんがレイを"お姉ちゃん"と慕うのが時々不思議に思う時があるよ」
レイがザクの机の前の椅子にぼすんと座る。
「あんたの前だけだよ。普段はソフィー・ハッターもびっくりな良き姉でいるのさ。2人でいる時くらい気ぃ抜かせてくれよ。頼むぜ相棒」
そうか。とザクが笑う。
「それよりさ、書類にハンコ押すの手伝わせてくれよ。アート・ブレイキーばりの名調子で片付けてやるからさ」 レイがジャズドラマーの真似をする。
「残念だが、今日の書類仕事はおしまいだ」
「ゔぇ…、なーんだ。つまんねぇ」
レイがキャスター付きの椅子でクルクル回る。
「今日はのんびりと読書をすると決めたんだ。読んでない本も溜まってきてるからな」
「なに読んでんのさ」
「哲学書の文庫だよ」
レイがザクの椅子の後ろに回り込み、彼の背中にもたれかかって本の内容を見る。
「ほう、あんた漢字読めたのかい。大したもんだ。もしかして3文字までイケるのか?」
そうだな、とレイの絡みを適当にあしらうと、ザクがページをめくる。
「んだよー、つれねえなー。ちょっとくらい構ってくれてもいいだろ」 「
ところで上巻はもう読んだのか?だったら私も読みたい」
「上巻はカントー駐屯地のスクライブ大尉に貸しているんだが、もう数年は返ってきてないな」
ははーん、とレイが顎を撫でる。
「借りパクされてるてかい」
「表現にはこだわらないが、いずれにせよ読みたいのであれば彼女から返却してもらうか、買うなり借りるなりするしかないな」
「買うほどでもないね。私は哲学者を目指すわけじゃねえ、コロコロ変わる気分が今日は"哲学者気取り"なだけさ」
「つまりカントーまで行って、返却してもらってくるのか?」
そうなるね、とレイが扉に向かう。
「恐らく彼女ならば、"私と少佐との契約だ"と突っぱねると思うがな」
「そんときゃそん時さ。"わたし"は霜の巨人から蜜酒を盗んだ男に仕えてんだぜ?」
「どうなっても知らんぞ」
「同じ事二度も言わせんなよ、相棒」
嵐のように現れたレイが、嵐のように去って行く。再び1人になったザクは、一度深い溜め息を吐くと、受話器を取る。
「スクライブ大尉か?…あぁ、そうだ。大した用事ではないんだが、あとでレイがそっちに本を取りに行くと思う。だから…、ああそうだ。私が数年前に貸した哲学書だ。…ああ、上巻だ。よろしく頼む」
受話器を置き、再びため息を吐く。
「まったく世話が焼ける。まるで…」
"父親のようじゃないか" そう口に出そうになった自分が、なぜかどこまでも可笑しく、そんな自分を自嘲気味に鼻で笑い、再び手元の本に視線を落とすのだった。
1人のアニマルガールが、パークセントラルで取り調べを受けている。
その結果、分かった事といえば気づいた時にはベッドの上だった事だけだった。
つまり彼女は直近にアニマルガール化したことになる。
彼女はひどく反抗的だった。初期に担当した職員の態度が悪辣だったこともあるかもしれない。
7日間の取り調べののち、彼女がAG化し墜落した際に警備会社の社長に衝突した事も話した。
"会って話したい"
双方がそのような意見を述べた事が面会の発端だ。
いずれにせよ彼女はアニマルガールだ。これ以上拘束しておくわけにもいかない。
いずれにしろ、これ以上の拘束は無理があったのだ。
「君は面会ののち、"彼"の指示に従ってもらう」
ワタリガラスは、目の前で説明してる職員に対し、ニィっと口角を上げる。
「寂しくなるぜ、マサト。お前の憎たらしい顔を "しばらく"見れねえなんてよ」
今度はPCを操作している職員を見やる。
「おいツカサ!お前の家の場所は知ってるぜ!奥さんに宜しく伝えておいてくれ!」
ワタリガラスが下品な笑い声を上げながら、職員に連れられて建物の外へ誘導されてゆく。
そうして彼女が連れていかれた先には、黒い軍服にベレー帽という出で立ちの男と、その仲間と思しき数人が立っていた。 ワタリガラスがベレー帽の男に近づくと、見える顔だけでも無数のタトゥーが刻まれているのがわかった。
「へぇ…、こりゃまた随分と豪勢なお出迎えだこと。"キャンパス顔"ってのはあんたかい?そこの職員が噂してたよ」
自分を連れてきた職員を親指で指す。当の職員は明らかに青い顔で脂汗をかいていた。
「Amigos de la bestia最高責任者のザクだ」
ベレー帽の男ははっきりとした口調で答えた。
「ふぅ、ん。"ピエロ"の仮装なんぞして、今日は私の新人歓迎会でもするの?」
「するか」
「は?」
「すぐに手配しよう」
「おい」
「話を聞いていた限りでは、そういった類のレクリエーションは嫌いかと思っていたよ」
「おーい」
「職員から聞いていないのか?」
「なんの話だ」
ザクが一呼吸置き、ワタリガラスに話し出す。
「ワタリガラス。君は今日から我々の仲間だ。今日からはレイヴン…、"レイ"と名乗れ」
ワタリガラスは一瞬唖然とした様子だったが、すぐに今日一番の不敵な笑みを浮かべた。
「あんたが私のボスか?」
「ザクでいい」
「オーケーボス。これからよろしくな」
いずれにせよ、とりあえず釈放だ。この男の器はこれから見極めればいい。いざとなったら逃げればいい。ワタリガラスのレイは、心の中で邪悪な笑みを浮かべながら考えを巡らせていた。
その後レイが結局どうしているかは、皆さんがよく知っている通りである
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