天正
天正(てんしょう)とは、日本の安土桃山時代の1番目の元号である。天正の年表天正期は、元亀4年7月28日(西暦1573年8月25日)から、天正20年12月8日(西暦1592年12月31日)まで。年西暦出...
001.懸の上下の事
002.八境之圖事
003.兩分圖の事
004.對縮圖
一、懸の上下の事
〔図:懸の上下の事〕
但貴人によりて一の向詰二になる事も有。口傳有之。
一、八境圖の事
〔図:八境圖の事〕
我人の境の鞠はけかたへ任すべし。他分たらば袖を引てしりぞけ。自分たらば聲を出てすゝめ。きほひの鞠とて。身をはなれずば。四方へもけて行也。猶口傳有之。
一、兩分圖の事
〔図:兩分圖の事〕
一、對縮圖
〔図:對縮圖〕
右令相傳候之處。不可有他言外見者也。賀茂流秘傳奧書。各別之卷在之。
右本書梭合仕候。少茂相違無御座候。以上。
寛永八年九月廿九日
松下掃部助
敎久
判
005.きほひ鞠ひらき詰の事
006.橫詰の事
007.棹を庭に置事
008.足を包事
009.沓をはく事
010.扇を持事
011.圓座を敷事
012.着座する事
013.庭に鞠を置事
014.扇帖紙置事
015.懸に立事
016.上鞠之事幷請取事
017.棹にて鞠落事
一、きほひの鞠ひらき詰事
〔図:きほひの鞠ひらき詰事〕
かやうに身はなれずば。いづかたへもけて行時。一所に數をけはこび取べし。あゆむ間はいかほどもひらくべき也。猶口傳有之。
一、横詰の事
〔図:横詰の事〕
かやうに各足をけ出候時。向つめ堪能にあらざる人と相かゝりにたゝむ時。向詰をさし置て。よこつめして鞠をこひ取てける也。然共まりも不堪にて。此詰事有まじき也。其人數の內にて上手自然とつむる事あるべし。但上手といふとも。細々はつむる事なかれ。なを口傳有之。
一、棹を庭に置事
塀中門の方へよせ。上座へ末をなしておくべし。なを口傳有之。
一、足をつゝむ事
杉原を一枚よこに折て。それを三分の一ほどたつに折て。大指を三まきしておりかへし。かみよりを二まとひして。小指の方へよせむすびて切べし。是に眞行草あり。結目に猶口傳有之。
一、沓をはく事
右之足よりはきて。左のあしよりぬぐべし。緖のとめやうに口傳有之。とめ樣第三巻ニあり。
一、扇をもつ事
左の手にふか/\と持べし。口傳有。
一、圓座を敷事
〔図:圓座を敷事〕
如此軒の左右に貴人の座をしく。平の座は貴人の座より一間半二間ほど置。それより次は圓座一ほど間を置敷べし。又軒の向の上座には。貴人より少さがりたる一簾ある仁體を置樣に敷也。圓座のとめばをうしろへなして敷べし。口傳。
一、着座する事
庭へ出時。衣裳を刷て。塀中門の外にて貴人をうかゞひ。貴人着座あらば。塀中門をいらんと思ふ時。各へ目禮なして塀中門を入。貴人の方へ手をつき禮をして。我つくべき所へ行。圓座をいさゝか引さぐる樣にして着座して。右の足を上に組也。軒の向を往還る人は。簾中の禮有べし。軒下又懸の內をとをるべからず。かよふの人も同前也。但主人は通りてもくるしからざる也。是も貴人軒下に御座あらば用捨有べし。猶口傳有之。
一、庭に鞠を置事
つま戸のきはに有鞠を。右の手にて大指と人さしゆびにて取革をとり。左の手を扇のとをりにそへて。軒に向たるかゝりのまん中のとをりにて。軒を見る樣にして。左足よりふみ出て持て入。かゝりのまん中にて左のひざをつき。同手をつき。腰皮を軒に向。鳥の子を左右になして。とり皮を上になして可置。さて歸る時は左足より三足しりぞき。さてこして貴人の御座を前になして左右に向事。貴人の圓座により奉り。但む(す脱歟)はぬやうに歸也。是落役のそなへなり。猶々口傳有之。
一、扇たゝふがみ置事
各々目禮有て。紙を取出して。扇の下へ取そへて。左の圓座の下へ半分計入置也。貴人の左の御座あらば。右の方に可置也。口傳。
一、懸に立事
扇を置ていしやうかひつくろひ。懸へよりて袖の木にさはらぬほど。左のひざをつき。少貴人の方の手をつくべし。猶口傳。
貴人懸へよらせ給ふ時。平人は各圓座をはづす也。木の本に立給はゞ。やがて本座すべし。口傳有之。
一、上鞠之事幷請取事
八人立終て。若輩の人鞠を取木の本へ歸り。向詰を見左右を見廻候時。請取人立あがり候也。左右の人も其時見合て立候也。又上鞠の人三足ふみ出す時。請取人すゝみより。一間半ほど置てうけとるべし。殘の人も三足すゝみ出鞠かまへすべし。今一の上まりの樣如前。八人立終て。上鞠の役人まりを取。そんこ(踞?)ながら向詰を見て。三足しりぞきて一足ふみ出し渡す也。請取人はしりぞくを見て。即立より請取べし。殘の人もすゝみ。まりかまへすべし。猶口傳有之。
一、棹にて鞠落事
竿を右の手に持て行落す時。左の手にて棹の本をにぎり。右の手を上に成て。まりをはね落す也。さて三足しりぞき禮有て。棹の本を前になして。左の手にさげて歸。本のごとくになして可置也。口傳有之。
右賀茂流如斯。奧書別卷有之。
右本書梭合仕候。少も相違無御座候。以上。
寛永八年
九月廿九日
松下掃部助
018.鞠長の事
019.鞠棹の事
020.分足と云事
021.鞠を云事
022.暮の事・庭の事
023.主人に沓を着せ奉事
024.足を包事・沓をはく事
025.沓を人に出し參する事
026.襪の事
027.沓の事
028.鞠蹴時實禮の事
029.懸に立替る事
030.懸に立人數配の事
031.鞠を落し候時禮義事
032.緣に上りて落ㇽ鞠事
033.簾に當鞠事
034.軒より落る鞠の事
035.貴人へ上鞠すべからざる事
036.上鞠請取時曲蹴ㇲ事
037.鞠をほす事
038.鞠を庭に置に四季事
一、鞠長の事
一丈五尺也。これより高く不可蹴。
一、鞠棹の事
竹の二三寸よきほどなるをためて。一丈五尺に可切。すゑの節ぎはより三分計をき(り脱歟)て。笛がしらの樣にかどをおろし拵也。さて本をば節ぎはより一文字に切也。又末の節一そろゆる事も有之。又他説二節そへ切る事有。但そろへぬる能也。なを口傳有之。
一、分足と云事
三足けて渡すを云也。若四足けば。第四足目の時。必やの聲にて請かへすべし。
一、鞠を云事
鞠を腰はさみにかけておきたるを。一二とも一九とも一果共云也。一足二足とは云べからず。蹴時は一足二足と云べし。
一、暮の事・庭の事
一暮とは其夕べを云。七日を云といふ事にあらず。
鞠一庭とは。七日の稽古の內を云也。
一、主人に沓をはかせまいらする事
先筒を引立て。右の沓をまいらせ。さて左の沓をまいらすべし。緖のとめ所は外の方なるべし。左は上より下へはさむ也。右は下より上へはさむべし。
一、足を包事・沓をはく事
一、沓を人に出し參らする事
襪子は內へをし入て。緖をもわけて內へ入。左右の沓をそろへ。右の手にもちて參るとき。左の手にのせて渡す也。きびすのかたを人の前になして渡す也。下にも置也。請取人一足そろへたる中を右の手にて取べし。猶口傳有之。
一、襪の事
襪子の事。賀茂沓に襪子をしつけて。是をつゝとも。たてあけ共。ひつたて共言也。根本は襪子と云也。
一、沓の事
沓のつゝの高サの事四寸也。襪子の色々は紫皮也。ふすべ皮の無紋は主上の御襪子也。錦革紫の有紋は親王家樣の御襪子也。黄皮。白皮。藍革。五めん皮。平人のしたふず也。さる故に紫。ふすべ皮。常の人着する事あるべからず。沓の緖の長さ三尺五寸也。但常には三尺よし。
一、鞠蹴時實禮の事
鞠ける時實の禮儀の事。鞠を踏ひら(?)むる事。貴人の顏へけつくる事。此二ヶ條のけがは其目斟酌すべし。座へ歸り扇と疊帋を納べし。然ば其日の蹴まじき禮也。余人つよくあそばせなどゝ會釋有べからず。但人によりて善惡あそばせとて。又庭にたつる事も有べし。又貴人の身にあつる時。すいかんの紐のとくる事。袴の緖の解る事。指つゝみたる紙のぬくる事。すだれにけあつる事。木をける事。延ずしてころぶ事。鞠がきをけこす(?)。火を打事。あせぬぐい落事。加樣のけが出來あらば。圓座へかへり。扇ばかりを取。余の人を立てけさするもの也。また人たちかはらば。其時やがて出て可蹴也。
一、懸に立易(カワル)事
上八人より立蹴て。其內のひき(非器)なる人より氣遣有て座にかへり。餘の人を可立也。たゞし上手といふとも。失あらば座へかへるべし。また人數の多時。長立有べからず。其以後は次第/\に立易也。また二八ともあらば。上八人立て後一段蹴て。其次の八人を一度立易べし。一人宛易時は。鞠外へ落たる時のくべし。鞠の數ある時に立易事なかれ。口傳有之。
一、懸へ立人數配の事
主人または家の先達の人のはからひたるべし。
一、着座の人數定や否の事。
十人も廿人とけての有次第に着座する者也。人數不定。但勝負の鞠の時は。兼て人數を定て置。着座可有之。
一、鞠を蹴落し候時禮義之事
我けをとしたる鞠を人取時に。二三足あゆみより。蹲踞して禮有べし。また取人も其禮を見て。鞠を地に付禮をかへす。鞠を落したる人の禮を見ずば。禮やあるらんと思て。木の本にて鞠をおき。前に立よりて上鞠すべし。また鞠落したる人の禮なくば。まりを地につくべからず。
一、緣にあがりて落る鞠の事
つくばひて可蹴。緣に留ば取て地に付て上鞠にすべし。またはかきをこして鞠を取上べし。
一、簾に當鞠の事
かまへてけべからず。其故は高座の簾の内に。必貴人御座有べき氣色(這歟)也。我け當てば膝を着捨る也。自然とつよく當て。遠くさりかへらば。請おひてければ無上の秘曲也。覺悟してはたしなむべし。五間も三間もすだれのかゝりて。下つかたのみすなどにあたり來ば。けてもくるしからず。但用捨肝要なり。
一、軒より落る鞠の事
軒へふかく鞠のあがり。軒下よりみえぬ鞠をば。他眼をかり其下にて侍べし。さて廻てかはりの方へなをりてけ入なり。軒ひきくばつくばひてけべし。はやく落ば。身に引請て。懸に向て一足にて蹴入べし。ふぜいなくてはけぬ物也。猶口傳有之。
一、貴人へ上鞠すべからざる事
貴人へ上鞠をすべからず。其故は御顏身にもけあててはとおもふ用捨也。
一、上鞠たらずして我前に落共けべからず。中にて取べからず。落して上なをすべし。
一、上鞠請取時曲蹴ㇲ事
上鞠請取とき。たらざるまりをのべ足にけべからず。身に當らでながしける事なし。後へこしたるとて。まはしてけまじき也。是は㝡初より曲にけぬものなれば。曲になさじとをもふ氣遣也。
一、鞠をほす事
春夏は軒かゝり迯にかけべし。秋冬軒にかけよ。空くもらねども時雨る事有。ぬらさじため也。軒にかくる事。時を不嫌。懸にかくる事なかれ。
一、鞠を庭に置に四季の置樣
〔図〕
加樣に置事一段の秘事也。猶口傳有之。聊爾々不可置者也。
右賀茂流如斯。奥書爾別之卷有之。
右本能梭合仕候。少茂相違無御座候。以上。
寛永八年
九月廿九日
松下掃部助敎久判
進上イ
休齋樣イ
039.鞠を人に見する時渡事
040.枝に鞠を付る事
041.ふすべ鞠の事
042.枝の鞠渡請取披露する事
043.枝の鞠を軒に置事
044.枝の鞠庭にて解事
045.軒の向木の間にて枝の鞠とく事
046.曲足名の事
一、鞠を人に見する時渡事
箱に入たりとも。腰はさみに有鞠なり共。まり計取出して。右の手にてとり皮を持。左の手をいさゝかそへて。さて渡す時。左の手にすへ。右の手を鳥の子にそへ。取皮を上になして渡す也。請取人は左の手よりさし出て。鞠の下をかゝへ。右の手にて取皮を取べし。さて見る時はましこの體を見て。しやうぞくを見。又皮の善惡を見しりてほむる也。また貴人にとりてきづかひある時。御前に置かへる也。口傳有。
一、枝に鞠を付る事
枝四重有べし。一の枝より下三六寸也。一の枝に向て本を一刀にそぐ。わな二ふせ也。引かた三ふせ。長きかた四ふせなり。
〔図〕
かに結びといふ。是をとく節共とく日の節共云也。またはとんぼうむすびといふはとかぬ節也。近日括ざる鞠を枝に付て他所へ贈る時。とんぼう結びに可付。是かれざる鞠と心得させんため也。かまへて/\けべからざる者也。又花の時は櫻。夏は柳。秋は紅葉可付。但松と竹は四季にわたりて可然也。櫻柳紅葉はまりをのする枝より上には。枝二重も三重もあるべし。不論之。松竹には一付二付によりて枝の重定也。櫻柳紅葉は本の長一尺五寸計也。そぎ目は壹寸五分計也。また壹尺二寸たらば。そぎ目も一寸二分計也。まつの枝㝡下のより上のふしに四方に枝さすべし。一付は枝數以上十三也。二付は枝數十四也。竹のうらは節より一寸置て。枝の向をそぐべし。枝數は一付は以上七なり。二付はえだ數八也。二付如此。繪圖あかす也。上はとんぼう結び也。下はかに結び也。
〔図〕
一、ふすべ鞠の事
昔は日本に鞠大切也。さる故春のふるき鞠を送るかたを打なをして。四月初のころふすべ出して。五月中旬まで用。又秋は紅葉の時分。冬は雪のあした。春は花のころ賞翫して蹴也。但內々稽古の時之ふすべまりけるに。何時も不苦。此二段の折節時分はづれては努々不可蹴。白鞠とふすべ鞠と枝に二付は。花の比夏は四月一日より五月中旬まで。秋は紅葉の比。冬は雪の朝の鞠に。ふすべ鞠を下に付也。正月一日人の本へつかふ時。八朔の時は白鞠下に付ㇽ。五節の時は白鞠下に鞠賞翫也。あたらしき鞠をふすべたれども。他所へ送る時は。ふるき鞠の心得也。また白鞠を二付時も有。口傳在之。
一、枝の鞠を請取披露する事
ゑだの鞠を人に渡には。枝の末を右の方へなし。本を左へなして。右の手にて鞠をかゝへ。左の手をそぎ目のきはにふせて。左の膝をつき。鞠上に成て渡也。また請取人によりて手の禮可有之。次の枝の鞠を請取人は膝をつき。左の手にて枝の本を取。右の手を上になして。えだの末を右になす樣に請取て。貴人の御前に持て參。披露する時に。貴人の右にまりのあるやうに。我左の手に取なをして。右の手をつき御目にかけ。押板角によせかけて置也。但花など有て押板さし合ば。便宜にしたがひ可置也。
一、枝の鞠を軒に置事
まづ塀中門より侍枝の鞠持て庭へ出蹲踞。然所に着座の內。若役とて出て枝を請取て。緣の上に屏風をかまへて置。それへもよせかけて置。本座へ歸る也。又緣にもよせかけて置也。つま戸の方に可置也。枝の持やうは。右の手にて枝ごしに鞠を抱るやうにて。左の手にてそぎ目の上を手をふせて持て行。置時蹲踞してかゝりを前に成て歸べし。貴人の方を後にすべからず。猶口傳有。
一、枝のまりを庭にて解事
緣にあるを蹲踞して右にあるごとくに持て。軒の本にて蹲踞して。枝より鞠の落ざる樣にしなをあらせ。枝の末を右の方へなし。紙よりの結ひ目を上に成て。左のひざにておさへ。右の手にて紙よりを引。左の手を副解て懷中して。さて鞠を右の方へなし置。次に枝にかかりによせかけ。また鞠を取て。庭のまん中に如常置て。歸さまにたちながら枝を取。塀中門のきはにて㝡前枝を持て出たる人に渡也。また軒の向木の間にてとく事も有之。筒を五六寸にして土へ打入。枝をさしてとくも有。木間又木の本に筒をさすなり。口傳。
本の本に有筒は如此そぐなり。
〔図〕
木の間に立筒は。如此すぐに切て。土より少も出ざるやうに打入て置べし。
〔図〕
一、軒の向木の間にて枝の鞠解事
かねて筒をさし置たらば。軒に可置枝をすぐに軒の向へ持て行。其筒にさして置歸べし。さて解人其枝を取て。末を右へ本を左へなしてふせ。膝にておさへて。右の手かたかたにて。紙よりのみじかき方を引。左の手をよせ解て。帋よりを懷中して。鞠を右の方へなをし置て。枝を左の手にて左のかたの後へ其まゝ引なをして。また鞠を取。左足よりふみ出して。眞中につねのごとく置て。左足より三足ふみのきて蹲踞して。歸さまに右の手にて枝を立ながら取。枝の本を前になしてかけて。其まゝ指出て。㝡前塀中の外より出たる人に渡す也。其枝を三足ほどまで。右の手にて聊はさむやうにて持て。塀中門を出。家內入。人の見ぬ所に枝を置べし。筒立ざる時も如此能也。猶口傳有之。
一、曲足の名の事
歸足過去。身別〔副歟〕足現在。延足未來。是三曲足と云也。大籠足。向直も足。左右のながし鞠。左右のかたをこして廻す。あかし櫻かさねとも云也。くゝり歸り。沓かへし。鴨の入くび。うつぼながし。延歸。新歸。かたの鞠たひ歸し。うけ歸。おひおもひ歸。衣紋流。迯籠。追籠。半廻籠可負。何の曲足の時も。左足の聲なくば。まり身にそはぬ者也。能々口傳有之。
右賀茂流如斯。奧書別之巻ニ在之。
右本書梭合仕候。少茂相違無御座候。以上。
寛永八年
九月廿九日
松下掃部助敎久判
047.懸を拵事
048.四本懸を植る方角の事幷圖
049.木を植始納の事
050.木の間廣狹事
051.軒と木の間の事
052.鞠垣の高サの事
053.網の目大小の事
054.拔とをしの廣サの事
055.軒に網を張事
056.竹切立の事
057.庭に水を打事
058.一本懸の事
059.二本懸の事
060.三本懸の事
061.六本懸の事
062.龜の甲の六本懸の事
063.八本懸の事
064.十二本懸の事
065.序破急三段蹴所の事
066.四本懸本尊の事
067.鞠の本尊の事
068.懸木の枝名の事
069.枝をすかす事
070.庭を拵事
071.雨降しめり取事
一、南向にして七間々半四方なるが本なり。但一方へ長く共不苦。又軒も所によりていづかたへも向ふべし。猶口傳有之。
一、四本懸を植る方角の事
〔図〕
一、北向の掛の事
〔図〕
一、西向の掛の圖
〔図〕
一、東向の掛の圖
〔図〕
何も塀中門の向軒の方上座也。軒はいづかたに有とも。かやうに方角を本に植也。猶口傳在之。
一、木を植始納方の事
艮より植初て。巽の木を植。坤の木を植。乾の木にて植納之。木をすかすも同前なり。猶口傳有之。
一、木の間廣狹の事
掛の間二丈二尺本也。但庭せばくば二丈一尺。二丈。一尺〔丈歟〕九尺。一丈八尺。又は一丈五尺までも。一尺づゝひかへて。三合て植る也。猶口傳有之。
一、軒と木の間の事
一方の面屋の柱を請て木を植也。雨露〔落イ〕より一丈五尺本也。但庭によりて一丈三尺。又縁のつか柱よりも一丈三尺。猶せばきはたゞ八尺までもつゞめて可用也。猶口傳有之。
一、鞠垣の高さの事
一丈四尺。一丈五尺。兩説。何も可用。
一、あみの目の大小之事
糸網のめ四寸にすきて。あひにてそむる也。又繩網の目は五寸に編用也。網をはる柱は竹も木も可用。口傳有之。
一、ぬきとをしのひろさの事
一間ヅゝに柱をたて。一二寸の竹をよくためて。橫にぬきとをす。其間四寸に可用。地ぎわより四五尺斗は竹の五六寸なるを。四寸間を置。竪にひしととをして可用之。猶口傳有之。
一、軒に網をはる事
正面の縁にあみをはるには。折くぎをひしと打て。いさゝかそらしてはる也。
一、竹切立の事
高さ壹丈五尺。すゑの節ぎわより一寸計置て直に切也。㝡下の枝へゑぼしのさはらぬほどに置て。けかたへなすべし。あひをひに立時。お竹め竹と立也。㝡下枝一め竹と云ふ也。一本づゝ四本立る時も。男竹女竹と陰陽を心得て可立也。枝數は九曜七曜を表する也。但數さだまらず共くるしからず。
一、庭に水をうつ事
夏の庭に晴の鞠の時は。砂を中へはきよせて中高にする也。鞠あらん時は。砂をはきちらして。高ひきもなきやうに用意すべし。はうきめは軒を橫に後へしりぞきながら。これ〔足歟〕あとのなきやうにはく也。掛の內は半にはくべし。何もさゞ波のよするごとくにはくべき也。
一、一本懸の事
〔図〕
家の右に植也。立樣は如此。九人も十人も十一人も。人數さだまらずける也。
一、二本かゝりの事
〔図〕
家の右一本角違がへて。一本立やう四本懸のごとし。
〔図〕
六人詰の時立樣如此。八人の時は四本懸のごとく立也。
四人詰の時は。兩人は木を後になしてたつ也。
一、三本懸の事
〔図〕
立樣六人詰なるべし。
〔図〕
如此九人立也。木を後にして立人を野伏と云也。
一、六本懸の事
〔図〕
立樣常の四本かゝりのごとし。又にげ木のかたにてける時は。松楓二本をのぞき置也。
一、龜のかうの六本かゝりの事
五本かゝりのごとく寸を取植也。
〔図〕
か樣に拾二人立也。又十人立時は。野伏に立ごとく。木を後になして立べし。殘りは常の立やう也。
一、八本懸の圖は苦煩惱也。
〔図〕
序の時は中間。破の時家の左方。急の時は家の右にてける也。
一、十二本懸の圖者十二神。十二月。十二因縁也。
一、序破急三段蹴所の事
〔図〕
〔図〕
序の鞠は圓座を敷たる方にてける也。破のまりをば鞠を置たる懸にてける也。急のまりは松二本有懸歟。柳三本有かゝり。此兩所何のかたなりとも。其時にしたがひ用ける也。軒の方の懸も序分たるべし。此十二本の植やうは。まづおくの家本やゝに用之。軒のかたに四季の木を植て。さて前後をかくる木をば。柳をもつてへだつべし。椋は櫻の代なり。榎は柳の代也。柿は楓の代也。檜は松の代なり。此心をたがへずしてうへる也。
一、四本掛本尊の事
〔図〕
然則鞠の行者をば即身を不動明王と觀ずる心有。又云。艮櫻は藥師。東方春にかたどる也。巽柳は觀音。南方夏にかた取。坤の楓は阿彌陀。西のかた秋にかたどる。乾の松は釋迦。北方冬にかたどる。是則生老病死也。春の梢の綠に立花のさく所を生に取也。夏の梢の茂り合たる所を老にとる也。秋は梢の一葉宛紅葉して。物あはれなるけしきの見ゆる所を病に取也。冬は梢の葉こと/\く落葉して。物すさまじき所を死と取。然ば世間に無定相。以不定爲定といへり。されば乾松を用植事。霜雪にも色不變所を金剛正體に用。無量壽佛祝言に用仰所なり。蓋さとりを可得者也。
一、鞠の本尊の事
南無普賢菩薩也。口傳云。鞠の上は一切衆生の生也。下るは一切衆生の死也。中間は人間也。鞠の體は六道輪廻也。腰皮は命根也。生死病死の四節也。甚深可思者也。
一、懸の木の枝の名の事
〔図〕
一、枝をすかす事
櫻は下枝鞠の留べき枝をすかし。梢はすかさず。花賞翫のため也。柳は空へのぼる枝を切。下へたるゝ枝を用。これも鞠留ざるやうにすかす也。楓は本木にそひたる小枝切。ふとき枝を貽し。鞠留ぬやうに透。餘にさびしくはせず。秋の紅葉を賞翫する也。松は上中下よくすかし。古葉を取也。但軒へさしたる枝の內に。小枝一ッふる葉をとらず。やうがうの枝に殘す。何の木もしんをさす枝地をさす枝を嫌也。松は切たき枝あれども。一方かれなんとすれば。木のすがたあしかるべきと。松もはゝもぢり枝なりとも置物也。たゞすがたのよきやうに。かゝりはすかすべし。後枝は㝡下の枝より上にあるべし。但同じとをりにても苦しからず。松は六月に古葉を取すかすべし。
一、庭を拵事
まず懸をうへて後。三尺ほど堀て石を取のけ。土に砂を合て鹽俵をうづみ。四方には坪を埋み置也。但中につぼ壹つうづみてもよし。さて土をよく/\ならして砂をまく也。また高ひくきをなをす事は。雨降天潦のたまりたる所にしるしをさし置て。水のひきたる以後。土を置ふみ付て。かゞみの面のごとくに。すぐになをす也。砂を用意して緣の下に置。細々まくべし。雨降てながれうするもの也。
一、雨降て庭のしめりすぎたる時は。大鋸くづを用意して置。庭にまき。しめりを取。はき取べし。
右條々一段爲秘密間。聊爾不可有他人相傳者也。
右本書梭合仕候。少茂相違無御座候。以上。
寛永八年
九月廿九日
松下掃部助敎久判
072.鞠かまへの事
073.かたびやうしの事
074.三拍子の事
075.待拍子の事
076.千鳥足の事
077.はり引足の事
078.腰と膝との間鞠の事
079.拔あしの事
080.鞠の目つきの事
081.鞠を落し立事
082.鞠蹴所の事
083.鞠をひつ付蹴事
084.(耳家歟)足の事
085.腰をすへてすへざる事
086.手持の事
087.あふひの日に向事
088.水鳥の浮事
089.左足の拍子事
090.鞠の三聲の事
091.序破急三段の事同鞠數の事
092.鞠を取事
093.鞠蹴納る事
094.鞠數とる事
一、鞠かまへの事
左の足をさきにふみて。右の足を跡にひかへて。少前へかゝりて鞠にあふべし。かりそめにものけける事なかれ。左はつまさき。右はきびすふす心にて。姿は直になるもの也。猶口傳有之。
一、かたびやうしの事
鞠かまへにして。右のつまさきをそらして鞠をけて。また左足をすゝめて。道をあゆむがごとし。
一、三拍子の事
鞠かまへにして。右の足をふみ出し。左の足をふみ出し。次に右にて鞠をける也。大皷がしらの拍子たるべし。高き鞠の時の拍子也。猶口傳有之。
一、待拍子の事
一段と高き鞠の時と。又懸の枝にまり留り。ひや〔う脱歟〕しをくれにならんとおもふ時に。三拍子に又三拍子をふみそへ。七足めに鞠をけべし。但口傳有べし。
一、千鳥足の事
鞠には拍子のあまりたるがよき也。いかにもこまかにはやくふむ足也。延足籠足の拍子口傳有之。
一、はり引足の事
鞠の上よりうるはしく下るには。胸出してむねを出さず。あたるを引。あたらぬを出す。こしよりむねの間の鞠の心得なるべし。曲足のごときも。此心得なくては。まりは身にそはぬ物也。猶口傳在之。
一、腰と膝との間の鞠の事
こしとひざとの間へあたる鞠をば。いかほども心をしづめて請て。つよくあたらば。はづみさる所をけべき覺悟かんよう也。又よは/\來あたらば。ながしかけてはねべし。木にそひ落る鞠もはね足成べし。猶口傳有之。
一、ぬき足の事
ひざより下。すねうつ鞠來る時。左の足を後へはね。右の足を後へぬきながら鞠を蹴也。又ひざのとをりへ向よりつよく來らば。飛あがり左の膝をつきける也。何も口傳有べし。
一、鞠の目つきの事
掛の枝をぬけて上たる鞠を。おつる時に枝にとまるが。ぬけて來ると思ふとき。其あやしき枝の下五六寸を心にかけ守べし。大かたの人は枝より上鞠ばかりを心にかくるによりて。ぬくるまりをけはづすなり。軒をすりて落る鞠。同心得なるべし。かやうの分別肝要秘事也。猶口傳有之。
一、鞠を落し立事
たかき鞠を見あぐるこゝろは。さきへのく歟。よきほどに來る歟。後へこすか。此三を心にかけてよく見て。その色にしたがひて拍子をふみそへ。さて鞠のおちかゝるとき。かほのとをりより鞠を大事にかけて。足のつまさきまで見くだすを落し立といふ也。顏より上のまりを目にかけながら。足をあぐるによりて。いそがわしく足たかく成て鞠きれのく也。但鞠あたりは足のたかきによらず。ひきゝによらず。足にまりのあたるしな。稽古の人に器用不器用ほど拍子の功夫有もの也。
一、鞠を蹴所事
枝のひきゝ所。又は軒下懸の外也。行鞠。垣ぎはのまり。何も蹴取べし。是をひきゝ数まりの心持にける事をいふ也。かん(肝歟)所を得ずして。がひ(我意歟)に任せてければ。ふかく有もの。口傳在之。
一、鞠をひつ付て蹴事
大略の人は大またげにして。およびこしに足をさし出して。のけそりてけるにより。鞠身にとをくして數けられず。見苦き也。所詮まりにつきより。其所(下イ)に足をたて。つまさきの當る所。膝に力を入て。つまさきよりあぐれば。鞠身にそふ也。まりのきさらば。ひつ付て足をあぐる事肝心也。鞠におくるゝ事なかれ。をくるゝといふは。鞠をけ上て。其足を其儘置て。まりの落下までさらぬ體にて。扨ける時についそぎゆく也。さあるによりて進退ふためきて。足當相違する者也。能く可心得也。
一、(耳家歟)足の事
鞠枝にかゝり。軒よりくだるまり。拍子ちがひ。大事の鞠出來の時に。膝を少くつろぐる也。枝のひきくして蹴にくき時此心得有べし。又體をつゝむる共さがるとも云也。是大事の秘足也。口傳有之。
一、腰をすへてすゑざる事
腰をすゆるとは。むねを引入。ほかみをはる。まりたけたかく。まむきにくるまりをば。腰をすゑて鞠に逢べし。身にそふ足同前。聊心得有也。すゑざると云は。まり橫にきれ。急におふ時。千鳥足の時。又曲足の時。すゑずしてさしかゝりてける也。腰をすゆる鞠。すゑざるまりの色をよく見分蹴をもつて。堪能の足とは云也。腰をくづす事耳家あしなり。此兩條秘事也。口傳在之。
一、手持の事
大指と人さし指をにぎりて。残りの指はからしを持ほどにかけて。握らではなへず。又すくまず。たゞ何となくさげて持べし。もちてもたざれと云事口傳。
一、あふひの日に向事
葵といふ物は日につきてまはるといへり。其ごとくに鞠に身をそむく事なかれ。
一、水鳥の浮事
水鳥の水にうかぶるは。誠にゆふにみえ侍れども。足にて水をかく事はひまもなしといへり。其ごとく鞠に向て足をうごかすべし。立足して不可有油斷。
一、左足の拍子の聲の事
まりの遠はゑいと云。進(近歟)鞠はやつと請。何も曲足のときは。此聲なくてはまり身にそはぬ物也。口傳有之。
一、鞠の三聲の事
やの聲は請取聲也。うかゞひ聲と云。ありの聲は自分の聲也。定聲。人に競望なさせじとて請聲也。應の聲は渡す聲也。名殘の聲といふ。うれひのこゝろあるによりて。祝言の庭にては。細々おう聲呼べからず。當世の人此聲をさるゆへに。となへうしなひて不知事也。猶口傳有之。
一、序破急三段の事同鞠數の事
序の鞠の時は。いかにも進退をたしなみ。まりを高足に蹴上。請聲はありの利の字をはりながく引。あの字をば口の中にてけして請てける也。きれ行鞠をしたひけべからず。たゞすぐなる鞠ばかりをけちがへぬやうに心にかくべし。分足をたがへずける也。是一段也。破の時に木にも軒にも鞠をけかけ。聊荒くけなし。切るまりを追延。姿惡共まりを落さじと馳走して曲をつくし。男足女足にはまりの色をもしろく聲をそふといへり。互に人に(を歟)見じと心に懸。油斷有べからず。是二段也。急の時は鞠をひきくつめて。分足をひかへ。二足にて他分にわたし。一足をひかへ。一足にてゆづり。八人おなじ心に有之。數を上みちて。興ありて鞠を納べし。又序破急の段を分ずしてけつくる時は。段のうつり聲有べし。序より破のうつりはやおふと請也。破より急になさんと思ふうつりには。ありをふと請也。かようの聲をきゝしりて。三段の心を分別してけるべき也。此聲のしなをば。一葉を三に時分よく見はからひて。先達の人か主人かこふ聲也。秘事也。口傳有之。
一、時を三に分。序分に三百六十蹴候。取て圓座に歸り。又まりを置かへて。さて儀式有之。破の分に三百六十上みちて。又取て圓座に歸り。鞠をかへて置べし。急の時も三百六十あげて納る也。
一、鞠を取る事
主人振舞をいたすべきとおもふ時に。序分のまりをとり圓座に歸れば。各も心得て可然也。堪能先達貴人を任て可取。
一、鞠を蹴納ㇽ事
惣別始て鞠を庭に出したる人。後にも取可入事本儀也。されどもをさむべき時に立あはせずば主人納べし。又堪能先達の人。貴人より來るまりを。左の袖を右の手にてひろげて請取納ㇽ本式也。但其まゝ手にても取べし。祝言の庭城寺などにて落してをさめぬ也。歸足おひ鞠にて可納。又只の時は天然余へ落たるまりを其儘おさむるもよし。又可置と思時。鞠をけあげて身ま近く落るを。足を引しりぞきて。まりをおとして。其儘おさむるもよし。木に留まりを其まゝおさむる事もあり。軒にとまりたる鞠を其まゝおさむべかず。とりて上みちておさむべし。口傳有之。
一、鞠の數とる事
廿より初め又五十より初候事も在之。先廿迄は口の內にてよみて。廿に成たる時。御數とあげ。いく度も小數をば口の內にて讀て。卅卌五十と讀て。六十をいくたびも口の內にて可讀。七十。八十。九十。百共讀也。又五十より以後百までを口の內にて讀也。百とあぐる也。百十をも口の內にて讀て。百二十とあぐる也。百の文字をばなさで。三百六十迄を右のごとく讀也。三百六十の時聲を高ㇰ上。十の字を引あぐる也。是を一足と云也。千も二千も如此よむべし。又實のよみとて。九八七までを十によみなす事有。大數を讀入事。百より後又は名足などあらん時に。九十。八十。七十をも貳百とよむべし。一段としたる名足ならば半足に入なり。三曲はさだまるあいだ。五十の內をよみ入也。猶口傳有之。
右賀茂流如斯。奧書等別之巻有之。
寛永八年
九月廿九日
松下掃部助敎久在判
進上
休齋樣ィ
095.鞠之起事天竺大唐日本
096.懸始る事
097.根本鞠足次第事
098.鞠の精與成通問答の事
一、天竺に大曇王といふ惡王有之。さるほどに臣下大臣是をなげきかなしむ時。或人云。よきはかせの奇特なる事をうらなふ者有。かれをめして占はせ給へと申れければ。各同心ありて彼博士を召て。大曇王のほろび給はん事を問たまふ。彼相人占ていふ。鞠と云事を拵て。大曇のかふべと名づけて。足にて蹴て調伏あらば。ほどなくほろびうせ給はんと云。各ふしぎなるうらなひとて鞠を拵へ給ふ。又彼相人に問給ふ樣は。鞠をけんにはいか樣にあらんと尋させ給へば。庭を南向に七間々半に四天四本懸を植て。持國天王。増長天王。廣目天王。多門天王。此大四天王を本尊にして。不動明王の八代童子と形取て。是を蹴させ給ひ候て。御望はかなひ候べしと申。各可然とて。はかせ申ごとく鞠を賞翫し給ふ。さる故大曇王ほどなくほろび給ひて。國土安穩にして世を治天佛法繁昌也。彼曇王は善事をそねみ惡事を祝。佛法をさまたげ國土をなやまし。萬事に惡事を好み給ふ惡王也。彼王ほろび給ふ事も。國家を治佛法をそだてんが爲の事なれば。鞠は佛法より出たりともいふ事有。
一、大唐にて鞠の初。黃帝の御歒蚩尤が頭也。其故は惡魔の大將災難の家[宗歟]主也。上天の爲に敵國をまて。人民の命を失。其身鐵にして却て矢太刀たゝず。思ひのまゝふるまふ。黃帝對治の術を失ひ給て。天に祈給ひしかば。無双の相人出來てうらなひて云。蚩尤が頭とかたどり。鞠をあそばし給へと。大曇王のほろび給ふ樣をこと/"\く申上間。彼博士申ごとくに鞠を拵て翫給ふ。ほどなくたくろくの野にて蚩尤と合戰有しかば。天のせめを蒙て。鐡の身皆とけて。調伏のゆへにそこにてうたれほろびうせ畢。蚩尤は東より出て東へにげうたれぬる間。東の方に四本の外に植る木をばにげ木とも云。又草を分たる故にわけ木ともいふ也。黃帝は西の方より出給ひて待せ給ふ間。西の方の木を待懸と云。又西より追たるによりて追懸共おひ木とも云。鞠の三拍子は天地人の三才也。蚩尤が頭を鞠にして黃帝蹴給ひ。眼を的に立て射給ひて。國を治給事也。
一、日本にて鞠の始は。皇極天皇の天下を治め給ひし時。甲申の歲申日。大唐より始て渡り侍る。然共女帝にて御座有間。天智天皇いまだ皇子におはしゝ時。大職冠と相共に興福寺の砌にして始て蹴鞠御會執行なはるゝなり。甲申の日渡故に。甲申の日申の時あそばし始る也。然者歲の始のまりあそびに。必申の日申の刻を可用也。然間天智天皇より以來文武淸和相續し。延喜天曆の帝此極を中興し給ふ。そのゝち朱雀一條代に是を續。代々是を翫給ふ。順德院は此藝を達し。人數八人にて御遊ありて。襪子の色を八品にさだめらるゝ。せい魂を三けの井にとゞめ。松本の明神とあらはれ。當道の好士を守らんと誓ひまします也。依之日本にて鞠を翫ぶ心は。國を治るはかりごとなれば。めでたきものとて翫たまふ。また懸に立て鞠より外他念もなき故に。祈禱とも後世の緣とも成と云也。
一、懸を植。蹴鞠の道を定ておかるゝ事は。後鳥羽院の御宇に不殘定置給ふ也。天狗楓とて賀茂松下庭にいまだ有也。此懸は後鳥羽院始て植給ひしかゝり也。
一、根本の鞠の足の次第の事
賀茂成平。其弟子成通卿、其弟子賴輔。その弟子宗長雅經此人也。宗長は飛鳥井の雅經は弟也。自是難波流飛鳥井流と道をたてられけり。賴輔までは賀茂流也。〔御子左の流足も後鳥羽院の御說をあづかり給ふゆへに賀茂流と同意也〕成通卿始て成平に鞠相傳有とき尋被申ける樣は。成平はいかほど稽古ありて。かやうには上手と成給ひしぞとありければ。成平こたへていふ。されば常の稽古の事は不及申。日をかゝさず。百日稽古申て上候之由物語有しかば。成通卿我は一千日稽古有べきとて。三年日をかゝさず稽古ありて。天下無双の鞠足と成給ふ也。或時に大内の御鞠ありしに。成通遲出仕有之。主上御氣色あしかりけり。鞠はじまりて出仕有ければ。其儘かゝりの本へ立たまふ時に。いかなる事ぞや。まりきれて七足のベたまひ。他へ入鞠をけかへし。わが身も後へ飛。まり懸へまりを蹴入ぬる。かゝる奇特なる事ぞと。主上もおぼしめして。御氣色よくなをらせたまひて。是をばとんぼうがへりと名付給ひ畢。關白を始め奉りて。かやうの名足は末代のためしにとて。名書留てをかれ侍と云々。種々の不思儀共有之。鞠の明神となり給ふもの也。
一、鞠精與成通問答の事
成通卿まりを好みけらるゝ事。いく千万と云事をしらず。其中に日をかゝずけらるゝ事一千日。滿する日の鞠の時。賀茂の成平。小野忠資。次有。源九。この上手を集めて。殊更引相て鞠あり。三百六十上て。自鞠を取。各執事にて棚を二ッまふけて。一にはまりを置。一には樣々の供具を備て。一交の御弊を奉りけり。其弊を取て棚の鞠を拜す。種々にたなこゝろを合。觀念をこ〔ら脱歟〕して。其後各皆着座す。鞠の人數皆喰をすへて。三献して後各身の能を奉。五献之事訖て。鞠の人數に祿をあたへたまふ。さて各皆退出す。夜に入て。其日の鞠事。又一千日の間奇特共を一々に書付んとおもひて。燈臺を近くよせて。墨をすり筆を執處に。棚に置たる鞠其前にまろび來有樣。あやしく思ひながら。是を見られけるほどに。顏は人にて手足身は猿に似たり。三四歲計の者の勢にてかぶろなるが一人。此鞠の括目にいだき付て。おしてきたる四人あり。成通卿不思儀にあさましく思て。あらたに何者ぞと問給へば。我は是此程翫給ひし鞠の精也。昔より鞠好み給ふ人はおほくましませども。かやうに御心に入て程に。誠をいたさせ給ふ人未御座。千日の終に種々の供具を贈給を。いかで悅申侍らざらん。御悅の余に參り候。且は又我身のありさまをも申さん爲に今參りたりと申。さて在所を問給へば。我等は鞠を家とし。四本の懸を一人ヅヽ主付て住也。我等が名を御覽候へと。まゆにかゝりたる髮をかきあぐれば。一人の額には春陽花と云金色の文字有。一人には夏案林といふ文字あり。一人には秋色園と有。一人には冬庭殘と云文字あり。皆金色也。驚ながら又精に其故を尋給へば。重て申。我は是昔唐朝の黃帝に被退治たてまつりし蚩尤が頭也。天下を擁護したてまつる也。鞠好せおはします世は國さかへ。好人は司を執。來たる災難をはらふ病なし。福をあたへまつりて。命長く後世までもよかるべきといひければ。又云。余の事はさもあらん。後世までもといふは如何。又申曰く。誠にさも思召べき事なれ共。人の身に一日の中にいくらともしらず懷念のみあり。それに鞠を好せ給ふ人は。懸の本に立たまふより。鞠の事より外に他念なし。謹而人を惡かれと思はぬ故に。自然に後世の緣と成候也。
又鞠のおこり因緣も能御了簡候へ。鞠の時は我名を次第によばせたまへ。木傳來て宮仕すべきと申。今より後はかゝるものありと御心にかけさせ給候て。鞠もあがり守りともなり侍べき也とて。形も見へず失にけり。又成通卿靜に此事を案ずるに。陽花と云聲。案林と云聲。皆鞠の精の名也。額にありつる文字也。尤故あり。成通卿旣にかゝる覺を得たり。すべて鞠を好み懸を植。家中に鞠を置は。鞠の精の其家を守護して。病患止。橫死の難をはらふのみにあらず。三界天人。四海の興通。一切諸神。皆其人其家其國其里を守護したまふて。息災延命。增長福壽。滅罪生善の理たる者也。或經云。蹴鞠者是福德自在。現世安穩。當來作佛。好蹴鞠者此經文を讀誦すれば。諸佛照鑑。故拂災難者也。如此の文を見る時は。現世たのもしく後世も疑ふべからず。
凡蹴鞠の德不可勝計之。誠に不遑注納。好まんと思はん人は。能達者子相傳爲肝要有也。右簡要有增記之訖。抑世俗犯〔狂歟〕言綺語何事歟。不歸第一茂成。况蹴鞠之業和漢世之根源在之者歟。今所令遊興面白云々。有爲轉變眼前之道理也。見物貴賤。共無他念。眞神明佛陀歸依。淸以悉皆爲讃佛乘緣者也。可秘云々。
右本書校合仕候。少茂相違無御座候。以上。
寬永八年九月廿九日
松下掃部助
敎久在判
此書卷物七軸也。縮今一冊ニ書冩功終。
一、八境は八人の領分なり。他分をば斟酌あるべし。但人油居のときは可請取。雖爲自分。人請ばゆづるべし。互に鞠を請あらそふときは。後の聲に可任なり。
一、正分次分は。正は本向詰。次は橫詰也。ときによりて橫詰してけるなり。
一、上鞠は貴人へと又木こしと。あひかゝりの人にはわたすべからず。悉貴人のときは。其內にて末の人にけ可渡なり。
一、懸より外へいづる鞠の事。一足にて內へ後さまにけいることは。マトイ足とてけぬもの也。けとりてかゝりへ向てけ入也。但落し候はんよりは。一足にてもはね入べし。とりてをとさぬやうにけべし。
一、鞠を陰陽にかた取事。ふすベ鞠陰。白鞠陽。春夏も陽。秋冬は陰。
一、鞠取は右の手大指人さし指にて取皮をとり。殘りはかたのうへに置て。ひだりの手をもかたにそへ。鳥の子を些上になして持者也。
一、鞠の庭にて。かりそめにも右の膝を付べからず。
一、のきの下をとをらぬ事は。家を賞翫の義也。主は通りても不苦。またみすの內に貴人御見物あるかとおもふ用捨も有。貴人無御座としりたらば。自然通事も有べし。
一、懸にて手を付事。貴人のかた付也。膝は貴人のうやまひなし。
一、ゆびつゝむ紙やぶれたらば。何度もかへてくるしからず。
一、座につくとき。貴人のかたを後になすベからず。
一、上鞠は可然人するなり。常の上鞠は末の人なり。
一、あせぬぐひはふところに持也。あせぬぐはゞ。かゝりにかへりて。かゝりをうしろになしてぬぐふ也。
一、まりをわたすとき。あらくはなす事惡。うつくしくにじのたちたるやうにけ渡す也。たとひ余所へ行落候共。あらく渡人の落しに成候也。
一、上鞠をけ渡は如常。鞠を持左の手をはなして。右の手より落かけ。うけ足にてつまさきをさげ。ちとはぬるやうに。一足にてけ渡なり。
一、上鞠請とりにこうべからず。
一、座の事。疊は大もん小紋赤へりの圓座しく也。大紋は大臣。小紋は大中納言公卿。赤へりは殿上人。圓座は地下又すへ/"\の者もくるしらず。自然ふとの御會のときは。疊しき皮などをもしかれ候。圓座は大臣も御着候。又下﨟も座候而。上下候はで可然候。
一、人數かわりて座にやすむとき。あふぎばかりをとりひだりに持べし。まり過ば扇疊紙を納て。末座よりしだい/\に一人づゝ退出。自然鞠半に用事ありて歸共如斯。
一、鞠けるとき見る事。たけ高時は右のましりにて見るベし。但惡心得ばくびゆがむベし。ひきゝ時はまむかふに見るベし。頻にうなづくもあしゝ。緣の上より落るまりは。必綠をそばさまに左の膝を付ける者なり。又は緣に向ても。けるまりきうに落るときは。立ながらもけて。後に膝付かしこまるもくるしからず。緣に留たる鞠を。手にてかき落しけまじき也。かき落して取上まりになすべし。緣に留たるをとり地に付上べし。
一、人の身に當たる鞠は。我みにまたうけて蹴也。しからずば地に落して取てけべし。
一、貴人のあそばし落したる鞠。木こしあひかゝりの人機遣ありて。ありとこうてすくひたすくべし。等輩のひと成とも。鞠數あがり候とき。油斷なくすくふべし。わがけ落したるは。我とはすくふべからず。但時によるべし。勝負の鞠のとき。心にかけすくひあぐる也。但聲なくばせんなし。
一、正分の人まりけるに詰よりて候時。他分て渡り候て。まりのかたへ身遣なして。二足三足橫さまになりて歸り。扨鞠來ば可蹴也。まり不來ば身をなをしすぐに歸る也。又詰よりたるに。向詰よそへ落たびは。後さまに三足のきて。由ありてすぐに歸る也。道ふさがらば。かゝりをまはりて歸るべし。木と人とのあひを通るベし。人と人との間を通ベからず。
一、貴人の木こし〔越歟〕あひかゝりには。初心のものは斟酌あるべし。
一、冬なりといふとも。若輩はかたびら着すベし。老者あはせを可着也。
一、鞠の當所は爪前。足のこう。三手所をかけてけべし。つまさきばかりに當れば。鞠色ふりて惡し。向へ行也。但暮のまり爪先にかけてふりめかしく蹴がよしとす。
一、鞠きうにてあしがなびかぬは。向にあたる物あらば。け付ても他分に渡事心づかひ肝要也。たゞし所により酙酌あるべし。
一、小袴にくゝり入る事。自然俄に鞠ありて。まり道不及ときは。くゝりを入る事くるしからず。
一、露はらひと云事。鞠にかぎりたる事也。大內の御まりのとき。加茂より鞠足をそくりて鞠を初る也。鞠を少あらくけて。えだにけ付て。色/\まりのゆくふぜひを御覽ぜさせて。其御心へなさしめんやうにける物也。
一、きう成まりをけ出事。心にも覺えず覺悟なきは。常にけいこのこうなき故也。心懸常にけいこすべし。
一、鞠數之事。三百六十に定といへども。けいこのとき百六十足。また百廿。二百八十。五百とも。數を定てける事あり。數取ひとは鞠の人數のうちにても取。またよみて一人さだめて圓座に着しよむ也。
一、歸りあし鞠のかゝりを背とき立廻なり。ひだりのかたへかけては歸り。右のかたにかけて左に歸也。膝を忖歸る事もあり。
一、軒歸り。軒よりころび落を。軒に向待て。落時むきなをりてかゝりの內へけ入也。
一、身にそふまり。腰をすへて鞠をまちて。身にまりの添とき。腰をくつろげ。爪さきをそらし。きびすにて地をふみ。哥云。ければとぶけねばあがらぬまりなれば踏て心のつよきをぞしる。大事の鞠也。猶口傳在之。
一、まりふむとき進退の事。若ふみては必ころぶべし。膝を付て鞠のつぶれたるをなをして。かゝりの內へころばし入て。足をくじかしたる樣にて座へ歸るべし。
一、一段三足のこと。まり數一段三足づゝ也。請とり一足。自分に一足。人にわたす一足是也。されども思ふやうにならねば別なり。また態一足にて人にわたす事もあり。三足より多ける事は。木のしたまたはかん所にて。鞠をけなをして人にわたさんと也。三足以後のまり。人のこひけんとするをしたひて蹴ことひがごと也。
一、木の外のまりかゝりより出てのかたき鞠。えだにつきて出るは木の隙より入べし。鞠をさき立て身を後にする也。但身をさき立て心を殘す事。上手のわざ也。
一、鞠を請聲のしな。自分にこふ聲。たかくあがり。ゆるく落ときは。聲を引長くこふ。ひきく付て俄に來には。きり聲にてこふ也。人とあらそふとき。人も我ももろごゑに請時は重請。有興に乘じてつらねこひあり。梢に留る鞠をあふぎてこひ。むなしく地に落るまりをおしみて猶こふ事あり。人により樣によるべし。
一、數鞠の事。勝負にもたゞもける事あり。其け樣鞠たけをつめて引ぐすべし。足數をそんじ樹えだにかけざる樣にける也。足をば少高くすべし。鞠よはくせん爲也。
一、鞠をやなひ箱又物のふたなどにすへて人渡事もあり。其ときは常の物を請とるやうに取也。物のふた共に受取べし。
一、やなひ箱は柳の木を三角にけづり。紙よりにて十文字にあしに組付て用。ながさ一尺二寸なり。また六寸にも用也。廣さはすへ物の大小によりて也。木の數は五ッ七ッ九ッ十一半に用る。鞠にかぎらず用也。
一、まりのとき。ゑぼしかけをつよくすベし。むらさきのかけは。ゆるしなきにはかけず。位有常は白かけ也。武士のゑぼしかけはかはる事なし。葛ばかま着せぬ人は。すほうの下着し。もゝたちとる時。內より紙を丸めても。石をはさみてもよし。
一、かゝりへ鞠打入る事常の事也。或は簾の中よりも。或は緣よりも。軒の向ひ木の間よりも。人數座に着せざる以前。庭のまん中にて。とり皮の上になる樣に打入也。まとをく鞠落。暮になせたるに持て行ば。遲しとおもふときに。上鞠すベき人のかたへ打入也。貴人のそばへおとしたるを。貴人とりて上鞠にせよとて。ころばし入らるゝ事もあり。
一、寺などにてかゝりなき庭にてまりあらば。かゝりのあるときのごとくたつ也。
一、常に延はつゞけて延をいふ也。
一、鞠にまいりあふ事。鞠に目をはなさず。まりの落左ま井りあひ候と同程にあるベし。まり色によりゆうにもきうにもまいる也。
一、鞠右のかたへゆくとき左へまいり。左の方へ行ば右の方へまはりてけるを。鞠にもむきて逢といへり。鞠の行ごとくに向候へば。大木なみ木にへだてられ候によりて。そむきて逢と也。
一、しりおとりといふ足は。木の根高所。或は石さしの上など落時は。まりを地に落しつけ。一ッおどらかしてける也。
一、木をふむ足といふは。鞠木をすりて落るとき。そのしたに足を木にすけてはねべし。
一、うつぼながし。鞠のまへいかにもすぐにけ上て。むねよりけるなり。おのづから來るまりけてよし。
一、とんぼうがへりと云足。堀などの上へまり行とき。中にて其まゝ後さまに歸るあし也。成通卿より外ける人なし。
一、座に着たるとき來るまりをば必けべし。但聲をばかけまじき也。一足にてけ出べし。それも心にまかせずば。二三足にてもかゝりの內へけ入なり。扇持ながら也。
一、貴人の御休のときも。御立のときも。鞠をけずして御けしきをみて可然也。
一、簾中に貴人又は女房など御座のとき。みすに鞠あたるを。内よりみすを扇などにてうたるゝ事有之。けよとのことなり。けしくベし。
一、貴人にけ渡。また請取時は。いく度もけしくべし。但こゝろにまかせざれば。けしかぬもちからに不及候也。
一、座して居前へころび來る鞠をば。持たる扇にておし出すべし。けよとの心也。されどもけまじき也。人によるべし。手にてはいろふまじき也。
一、扇をひらきつかふべからず。但人數によりつかひてもくるしからず。三間ほどひらきて。前にて少つかふべし。
一、軒まりを初てけるをば沓おりと云。沓おろしなり。
一、鞠の時庭にて茶まいるとき。貴人の座に御座候はゞ。それへ持てまいる也。かゝりに立て御座のとき。御圓座のきはまでもちて參て可待也。平人は茶どものむ事あるまじき也。ほしきときは立て門外にて含〔呑歟〕べし。また持て參るをも。塀中門の內のきわにて畏待べし。のむ人はそこまでゆきて含〔呑歟〕べし。何も趣によるべし。
一、あひをひと又二本立の木の事。あひをひはねより二本立るを云也。二本たちとは地上にて二本立をいふ也。
一、一足をけるとは。常に曲あしと云を申也。初心の人はけまじき也。
一、かゝりうへ樣の事。木は安宅ののき。かゝりは鎭宅の方也。南向の庭を專とす。しかれども東西北のかゝりまた常の事也。また南向のごとくに。軒の左に櫻。右に松を植。南向の分に用事他流に有之。當流は只方角を本に可用也。
一、懸の木之事。式々のかゝりとは櫻柳楓松なり。式木不足して同木二本植て不苦。又雜木をうへまずる事先例是あり。雜木には椋榎柳檜也。代の植樣定なり。
一、木の高さは一丈六尺ばかり。但不定。木年/\大になるもの也。切立は松三本。柳一本。または柳三本。松一本。何も可然。ニづゝも子細なし。雜木を栗の花時分に立なり。本をそぎ合。かすがひにて付る也。一所にあひをひのごとくに立也。竹をも可立也。高さ木も竹も一丈五尺也。竹の末をきりて立事本なり。自然またきらで立事も有之。
一、えだにかゝりたるまり。我領分へ枝を分て來らば。必聲にてける也。またけはなすまり。えだにあたりてもどるは我鞠也。
一、壘敷たるとき扇疊紙置事。たゝみの上の後の方に可置也。
蹴鞠之終五十七ヶ條。
一、蹴鞠の簡要といつは是にすぐベからず。定足は初心にかへるべし。たけ候心もち候て。よろしき事不可有候。心付にしたがつて大せつと可心得。たやすく思ひなし。案のうちに心得候へば。鞠必あまるべし。定足のたしなみ朝夕無油斷。鞠を忘て稽古をおもふべし。足踏なども領人目にたち。かど/\敷はよろしからず。唯何となくゆたかなるよしとせり。
一、初心の心得。定足とはうら白と可心得。蹴鞠の御人數。蹴て[]ても候へ。人を目の下にみて。心をゆるやかに持て庭に立べし。あひて其外をかうちやうに思ひなし候はゞ。肖徒まり他立ゆるやか成べからず。心をば廣持。庭をばせばしと心得べし。定足も初心も庭をば此兩條を以可明。
一、立やうの事。前よりみればけ〔そ歟〕りたるやうに。後よりみればたをやか成事本とせり。そりけるは鞠にあふ事とをしとて嫌候。またうつむきたるは。まり當り候へ共。ゆゝしからず候とて嫌候。唯すなほにちと腰すへて立べし。背をいだす事つよく〔空白〕よはくつよく可心得。只一すじにあてがひ候はゞ。まりにつまるべき也。ゆるやかなる事肝要なり。
一、鞠をみる事。あをのかずうつむかず。ゆるまずおどろかず。かほにて見べからず。目にてみるべし。第一木の下軒のしたにてふりあほのきてみる事不可叶。木葉また〔空白〕のほとりなど目に入べし。其日のしつ也。またあをのきてみるまりは。みをとさずしてかなはねば。かほもちゆるやかならずして。身なり立やうまでのさはり也。定足初心にも朝夕可心懸也。
一、は地のかた地といふ事。右とは曲也。地とは地たちの事也。地鞠思はしく候とても。曲たひがひ成を。右のけてといつるなり。地を蹴てと云事。地鞠大槪無相違候得ども。曲にうときけてを地のけていへる也。地鞠も曲も無相違事を天地和合といへる事。鞠筋をみて沓なをす事。是沓は目にあると也。また目は沓に有といふ事。是は沓の上より目付所をしる也。是目は沓にありと。兩條不安候間。委敷事は口傳。目をば天といひ。沓をば地といへり。沓かうとしといへども。めをそふして不叶。鞠にはやく見つき候はゞ。沓の上たど/\しくて不叶候。目と沓と相應なる事。天地和合是なり。初心は是のみ專とすべし。
一、鏡のまりといふ事。鏡に向て顏をみるごとく也。鞠に向て形をみべし。鞠向へきれ候は立やうそりたりと心得。やがて立やうかへ。こしをすへ立べし。
一、鞠或むね或かほなどにあたり候はゞ。立やううつむつむきたりと可心得。腰おれたりと心へ。立やうをかへ。手持に心有て。ちとそる心にたつべし。
一、鞠左へきれ候はゞ。下足のつまさき左へ向と可心得。また沓のうちかどにあたると心得べし。右へきれば。下足の爪さき必右へむくと心得べし。さなくしてきれ候はゞ。沓の外かどへあたりたると心得べし。左右へきれ候はゞ。鞠此兩條に不可過候。
一、身にちかくすなをに鞠あがり候はゞ。立やうを忘る事不可有之候。萬惡き事をのけ。よき事をもとむる事。初心も定足も朝夕心得。けいこといつは是に過べからず。たゞかひ/"\しく嗜なくして蹴候はん事。以後のけいこのさはり也。稽古なしとも。かたきなどみる事第一也。
一、三段のゆひめといへる事。うへのゆひめかみをゆふ事也。中のゆひめ帶上下きる事。下のゆひめくゝりいふ事。是三段也。かみつめてゆふ事。必かほにくせ可有之候。惣而鞠をける事。ゑぼしをきてまりをける事本也。かみをゝりてゆふ事ゑぼし體也。去間鞠けるとき。けりにて蹴ベからず。もとゆひをゆる/\とかけ。おりかへしてゆふべき也。かみをつめて結べからず。
一、上下をきる事。先下衣をに〔い歟〕かにもゆる/\と同前。後をもうしろこしにてちとしめべし。帶をつめてゆひ候へば。必すこしおれうつむく也。常に鞠かほにあたるべし。上下の大事是也。
一、したの結めくゝりゆふ事也。つめて結候得ば。まり左右へきれ候。とくる事なきやうに候はゞ。いかやうにもゆる/\とゆふ也。三段共につまり候得ば必くせあるベし。何もゆるやかに三段和合にいふべし。
一、つはさみと云事初心の專也。はかまなく候はゞ。足たゞしからず。切々つまづくべし。紙をまろめて。ゆひめのしたよりはかまを引あげて。上下の帶の間に入べし。さなくしてつはさみと云事不可有之。いかにもはかまながくとも。もゝたち其外取事嫌候て。もちを本と心へ候へばとて。はかまとる事有まじく候。
一、十心といふ事。庭につき候より。まづかこひの樣體を見合。鞠蹴べきやうをよく/\見べし。是かこひの心持をしる也。また立べき木のえだ葉さし出。こはきえだなどあるべき皮えだにあたり候鞠をば。いかやうにあてがひ候はんと。木の心をしる事是也。また鞠心智〔知歟〕事。また七人のあひて。序のときは心しられず候とも。破のときはいづれのまりはいづかたへきれ候とも。七人のかたき心をしる事是十心也。かれらをよくあきらめ候へば。一入まりのくつろぎ也。よく/\可心得。
一、四節によって庭に可立。春秋は北南可立。夏冬は西東に可立。是かぜを靜るなり。たとへ目にみゑず候とも。春は東風。秋は西風と吹也。去ほどに春秋は西東に不可立。夏は南。冬は北風に向て不可立。鞠多くそんずべし。其をいとひてかぜ上に立事不可有。もつぱらまりにあふことまれなるベし。常鞠は西東に立事。かぜをそばめる心也。常に沓をかぜにむかはせでをく心にけべし。足かぜをもらさゞる心もち也。庭につき候とき。此心もち第一とすべし。
一、風上に立候心持。何よりも心をすへ。いかにもまりつまさきをそひしてけるふる心に蹴ベし。まり身にちかくあがり。かぜにさそはれて。あひてのかたへよきほどに出べし。このこゝろもちにてかぜのおもてに立べし。
一、風下に立候事。惣てそりて立候事嫌候得ども。風下に立ときはそりて立べし。鞠常に向へ〔空白〕出べし。かぜに出合によつて。其まりあひてのかたへよきほどに出べし。又かぜ下へすゝませて。風にむかはせる心にもけべし。是はよく/\口傳可有之。
一、日にむかひ候事。是も風下同意也。目をそばめ沓を日にむかはせ。鞠をせく心に蹴べし。沓の上を本とすベし。鞠ばかりはやくみてそばたつべし。日にむかひ候て。必其まり何ときも右へも左へも沓をせく事第一也。
一、網ぎはかこひにたかくつれてあがり候。鞠不安ふりもなく立て落し候事。鞠ことの外かひなく見候べし。よく/\見合て。立のくやうに見しりぞきて。むきなをりてあふべし。あまり候者。曲のうへにて落したるはくるしからず。初しんも定足も此心もち朝夕に候者。かこひぎはあまるべからず候。
一、そりてける大にきらひ候。左者折節によるベし。あひてのこを詰。かぜにむかふとき。ちとそりてけ候へば。必鞠とをく出るべし。此外そりて遣候事このむべからず。
一、ひく沓に大に嫌候。左さかこひぎはうらゐる鞠にけこめば。こひあし定て是より外へけべからず。
一、いそぐべしいそぐべからずといふ事。心をいそぎ身を急ぐべからず。人のけ候ときは。沓の上より鞠にみつき候事。朝夕にかけ候者。是にすぐべからず。
一、鞠すじを知事。正分次分をよく/\心得べし。木をもつて分すくなし。木なくて分おほしといへる事口傳。
一、たかくばかろく。ひきゝはおもくといへる事。鞠たけたかく候はゞ。さのみ沓下あらくふまぬ事也。つまさきをたてゝ待べし。
一、ひきゝはまりには下足おもかるべし。和合のくつの心にけ候者。地たちつよかるべし。ひきく候鞠につまらぬ也。心がくべし。
一、和合の沓といへる事。まりをけすてたるしたあしをつまさきにかゝり。左の沓をうけてまつべし。鞠またるとき沓をふみ候へば。鞠にあふべし。是和合の沓といふ。
一、左足つめといへる事。鞠をけ捨候下足のつまさきにかけ。前へ左の沓をすゝまする也。鞠いかやうにきたり候とも。少も驚くべからず。まりを忘〔志歟〕て稽古を思へといへる事。此しめしを以てあきらむベし。朝夕心がけ候はゞ。第一まりゆゝしかるべし。初心も定足も不可過之候。
一、地分の沓自分の沓といへる事。庭へつき候者。自分の時は鞠をけかふる心もち是也。他分のときは沓をふりつめにけわたす也。是をいへり。此心もちを以鞠すじ知也。
一、ちかくは遠く。とほくはちかくといへる事。かこひぎはの大事也。鞠かこひにちかく候者けつけ候ことを。ちかくはとをくといへり。遠くはちかくといふ事。かこひに遠く候はゞ。沓のうへをたしかに身をそへてけ渡して有之候。遠くはちかく。ちかくは遠くとしめす也。
一、三段のつめひらきといへる事。立樣身なりの大事。序の時は開の身とて。常よりもそる心にて。ありのまゝにあてがふべし。破のときはちと腰をすへ身をつむゑにてあてがふべし。詰のつめとて。いかにも腰〔空白〕蹴候へば。たとへ身に付候まりなりとも。すへ沓をすゝませけわたす事。つめのつめとへり。秘事也。
一、つめの詰。ひらきの開と云事。詰開の大事也。詰にあらず開にあらずといへり。秘事也。
一、すつべしすつベからずといふこと。よろしきまりなどをけ候得者。たとひ身に付るまりなりとも。惣じてあしきまりなどるける折ふしは。まり色をけなをし渡すべし。
一、鞠をけ候とき。留メたき客人候はゞ。渡候とき人の方をみ合て。歸あしをけて。其儘庭分石の上に置。我木に歸一禮して罷可出也。其ときよろこび候やうを顯し。其日は留り候はで叶まじく候。
一、忘ても庭分いしを踏ぬ事也。若ふみ候へばとなふる文あり。鞠の大事にしるす也。さなき人は沓ちがひの座替といふ曲あり。庭分石を延を〔越歟〕候へば。鞠にとりあひ候はゞ。合てまた延べし。たがひに手をとりちがへて立所を替也。不安曲也。口傅。
一、初心のほど沓身なりたしなむべからず。あたるを本とすべし。鞠たんれんによつて。上手か蹴手歟相手たるべし。めづらしからぬ詞ながら。たんれんの二字おもつてとすべし。
一、百度のけいこをたんといひ。千度の學をれんと云々。
蹴鞠之終三十五ケ條。
一、網ノ事。天下治國をしづむる事にかたどる子細有之。尤目出〔度脱歟〕義也。板屋には軒の上にもはる。辻〔築地歟〕の上。塀上。軒下。何かたにもはる。糸藍染なり。目は四寸。繩ならば五寸にすく也。
一、蹴足高かるべからず。沓下の拍子を本に心がけぬれば。おのづから足のひきくなる也。寸法不及定。
一、足をあぐるは。爪先よりあげて力を入。又□□をおし入てよし。
一、鞠をける/\後へしざり。また人けかくるに。後へしざりてける。殊更惡き也。身にかゝらば奧あしのまうけたるべき也。又後へこさば籠てけべき理なり。
一、沓をまさごにさらり/\と音のたかく引する事あしき也。只足をかろく。沓下をきびすよりふみ落してよし。
一、鞠たとひきるゝとも。手にてさへかくしてけべからず也。
一、垣をこしたる鞠をば。外よりなげこす事はひきゝ垣の事也。本式の鞠垣を自然けこさば。もちてゆきころばし入也。またはしたにすき間あらば打入べき也。
一、籠足の事。右のうしろに落ば左へかへり。左の後に落ば右に歸りてけべき也。おのづから前にをつるを。かへりてける事。其謂なき事也。
一、鞠の扇の事。當流は八ほねなり。ねこまも惣のほねも常の扇より大也。くろ染にぬる也。繪は家の紋をかく也。
一、樹を植歌
うづみおく土は草木のいのちにてうごかすかぜや心なるらん
此歌をかきてえだにゆひ付おく也。
一、野伏之事。立人のぶしといふは。五本かゝりにして。まちかゝりとて植。其木を後になして立。色け曲足をつくしてける也。八人は伏ふしにけ渡しける也。野伏よりは鞠くばりを專とする也。こひ聲なし。いかにも/\堪能達者の所作也。また立木野伏といふは。立所は或は年禮いひさして木の大に成。いかにもけにくきなどには。其木の外五尺計後に立也。また其領にも立木のせいにも可隨也。或は幼年の足本不定〔足歟〕に。其後に立事。是も五尺ばかり也。とかくかゝりの外のかたに可立也。野ぶしの人木より內にいらず。殊上鞠せず。外へきるゝ鞠を內へけ入て。たすけん爲ばかりの人の數なれば。尤堪能の衆の態也。必貴人も人の催促に可隨也。
一、神祇の鞠の事
上鞠のあし。踏出す五足。あとへ三足。扨まり構にして掌を合。觀念をなして。一丈五尺に鞠長をけ上て。未落間に我木の本へうしろさまにはやく歸り。扨便宜の人鞠を取人にけわたすなり。神前へ向て足を不上。いさゝかふみちがへける也。上まりの人兩膝を付也。三曲の外さのみくるひ鞠などはけべからず。請聲なし。又社のかゝりなりとも。法樂ならずば請聲もあり。上鞠も不定。猶口傳有之。
一、私宅にて神祇の鞠をける事。塀中門にしめをはり。のきに棚を二重まうけてしめを引。上の棚には五色の幣帛を立。供具を備。下の棚には鞠を置て。扨ける人數は三日以前より精進をすべし。鞠あしの人塀中門をいるときに。祓の役人有之。一尺二寸の幣にて祓也。蹴ての人數は塀中門を入時に此哥を唱也。
ちはやふる神のいかきは我なれや出入いきは外宮內宮
夫より圓座に着す。人數悉如斯有之。上座より次第に。棚に有幣を取。二度拜す。扨此哥を唱。
般若經吾ガ心ヨリ成業ヲ何神力カ餘所ニ見ルベキ。
二返よみて二度拜して圓座へ歸る。けやうは右の注するごとく也。鞠蹴みちて圓座に歸り。また神をくわんぢやう申。棚に向て幣を取。如前に拜して着座して退出す。
一、拂前のまりの事
上鞠兩狹をつきて鞠を取。左の手をいさゝかそへて諸手にて持。後へ三歩しりぞき。扨鞠かまへに左足をなをし。無念無相にして諸手にて落かけて。三足け上て。落ぬさきに後さまに本の立どへかへりて。鞠落ば八人ながら袖をかき合てちと禮あるベし。其後たれなりとも。深足の人鞠をとり。常の上鞠にしてをの/\けべし。
一、七夕の鞠の事。鞠を付えだは梶也。七度の上鞠のときは。上座よりしだいに手向也。とをくまり落行ば。上鞠したる人の本の所へ打入也。上鞠一人のときは。七足け上て落て。其以後常のごとく各けべし。獨の上鞠のときは。八人かゝりにたち終ての事也。
一、座さまさきの鞠の事
三八の人數にて。上衆よりしだいに立かわり/\日暮までける事也。
一、三時の鞠の事。朝は辰のとき序の鞠也。ひるは午剋破のまり也。夕は申剋急の鞠也。かうはん置て時を可知也。休間哥また色/\のあそび可有。
一、老若の鞠。卅より上は老たると定。そめ〔れ歟〕より下を若に定。二八にて老若あらそひてける也。
一、勝負の鞠の事
上鞠五度とも十度とも兼契約して數を付る也。二八の人數たらば二度。三八の人數たらば三度に分べし。鬮にても分べし。又其中にけてある人々を。或は左右。或は初中後。或は一二三に分て定る事もあり。紙を橫に折て。勝負數まりの事とかきて。またちと引さげて一共左共初共。扨あげまり十度共十五度共。如契約に㝡初の上まりより付もて行て。其期に終上鞠のとき。此度に及と人數のまゝやうに書て付る也。鞠終て日記の以上をかぞへ合て。過上たるを勝とする也。此鞠には土に落たるをけず。軒木などにかゝりたるをばけるべきと。兼て人數の中に申定ては可蹴也。土に落たるまりの事は。いさゝかもけベからず。但土に落たるをけかへすやうあり。よくければ數にも入也。落と同じ。ありとこひて則あがれば數とす。すくひあしくば上鞠になるべし。土に落す事堅制之。さる故此まりけいこの㝡上也。尤細々可有興行事也。みすに當まりのときはけべし。貴人御ざあるともくるしからず。
一、扇鬮の鞠の事
上より次第に八人の扇を物のふたにうけて。軒の向ひのかゝりの間にて畏三度。扇をまぜて木の本に歸りて置。次第繪に有之。
【図】
貴人よりかゝりへたちて扇をさす。口傳しやう/\。さしかたな。さしやなぐひ。法中は懷中する也。かゝりの上下なしに。我扇ある所へ行可立也。
一、軍陣の鞠の事
座に花敷を敷事如常。緖のかたを後へなして。も〔毛歟〕のかたを地へなし。後を少上へ折返して敷也。皮ならば毛のかたを上へなす也。白も座下のかなへ可成也。かゝりによりてひざを不付。酌とりも同前也。盃一あらば取渡し/\呑也。東のかたに一本かゝりを切立にして取まはし。數人不足にける也。鞠のときにかぎりて。東のかたは〔空白〕る方に用也。子細有之。
一、ちうゐんの鞠の事
鞠の人數みな色をきてける。まりの取皮なし。たゞのときかりそめにも取皮なき鞠けぬ事也。かた穴はふすべ皮またくろ皮にてぬふべし。上鞠は佛前の如し。聲をばおうのこゑよりこひはじむる也。
一、鞠の庭へ破子出事
人數の前に悉出てすゆる也。扇のなり又はすはまかたなどに。だいを色/\にして。足を高く付。いろ/\に繪かき色どり。中には種々の物をつみ。きんとんなどをつみ。餝花結び松などのもとには青のりをちらし。はくにて露をおき。座敷へ出に替事なし。また足付にあふぎの破籠をのせても出す。はしは足付に置也。ちやうしをばひざをくみながらはしを取。きんとんを一いろくひ。軈而はしを置也。盃を人の前に引也。扨さけをのむとき。右の手かた/\にて盃をとり吞也。三ばいより外は不可吞。目禮一禮也。座しきのやうに禮をふかくあるべからず。庭の置物には折にかうたてをして。まんぢうをつみ出。又魚類にて六角につみて。まんぢうにつかはせて上座に置也。酌はひざを不可着。くわへは貴人の御前にてくわへベし。末座は酒のつくるとき計くわへて。木ちかくかへらぬ事也。酒は三返なり。ときによりてたゞ一返よし。鞠一だんすぎて出なり。かよふの人破籠可上。
大かた如此。いづれも肴は時の珍物を調出べき也。必晴のには出る者也。はしは足付に置也。
【図】
一、鞠の庭にて酒あるとき。さかなに雪を硯のふたに入て。春物なんどには取出す事もあり。
一、鞠場へ可出物之事。あまのり。たゝみ。つばゐもち。是は椿の葉につくりてのするもち也。をもゆつけかわらけに入て出す也。常のゆつけもよし。其後は何かと出しても不苦。
一、鞠の庭へ柿ひたしを取出す事
春夏の鞠の時に。へひしに柿ひたしを入て。口をつゝみて出す事秘事也/\。其つゝみやうは。へいしに柿ひたしを入て。紙のはし兩方を下へなす。酒をへいしに入て出時は。包み帋の兩方のはしを上へそらする也。男てう女てうにかたどる也。是秘事也。また柿ひたしと酒とをへいしに入。かた/\づゝ出事もあり。つゝみやうにて柿ひたしと酒とを心へ分べし。柿ひたし。酒さかな。盃をからびつのふたに入て。塀重門の內へかき出す也。それより盃を壹ッづゝ人前に引。扨柿を一盃に入て引。其後へいしの柿ひたしをてうしに入て出す。次に梅ぼうし黑鹽を入。さんばうにつみて出して。其後色々のさかなを出すべき也。
一、柿ひたしを鞠の庭にて吞事
右の手かた/\にて盃をとりて。左の手をばいさゝかもそへずして。貴人の御下ため吞ごとくに。右の手かた/\成べし。一はい呑人はうけたる柿ひたしばかりを吞て。盃に有柿をばとりてかげへすつる。二盃のむ人は。二はいの後にすつ。三ばいのむ人は其後すつ。三ばいより外は不可吞候。昔爲雅卿の時。人數八人にてまりの會有しとき。柿ひたしを吞に。彼道をしりたる人三人あり。殘りはのむ道をしらで失面目也。柿ひたしと酒と出す時は。柿ひたしよりすゝめて。酒は後に吞也。大成秘事也/\。他人に不可有相傳者也。
一、柿ひたし拵事
串柿をきざみ摺て水を入て。布にてこして。すみたる酒を水と等分に入て用也。古酒ならば水を三分一可入也。
一、柿ひたしからびつのふたにすへていだす事
【図】
梅ぼしくろ鹽かはらけに入。ふたをして。角ちがへておく也。盃をあまた重ておく也。
一、柿ひたし飛鳥井流には絕也。柿ひたしをかもにはしるべきとて。有とき飛鳥井中納言雅安卿貞久に尋參らるゝといへども不申。よく/\心得て可置也。晴の鞠のとき可出なり。
〔頭書〕宗直考ニ。貞久社務森神主。正四位上益久男。文明十五年十二月十日叙正四位上。長享二年三月朔日叙從三位。
極意集終九拾五ケ條。
右依御所望相傳仕候訖。永爾不可有御他見者也。
【図】
一、因三觀果三身ト尺シテ。凡衆生ハ一心ニ空假中三觀明了ナルコトヲ不知述之故ニ。三界流轉シ苦城沉輪ス。然今此見鞠。中ノ虛ナレバ虛空佛性トテ。我等ガ一心本源也。心本源ナレバ无色无形。非長非短。如虛空同法界正ク。如シ鞠中又如此空ナル物ト言トスレバ。而一切萬法周備。森羅萬像歷々タル假體ナリ。𡖋有リ卜言トスレバ。万法悉ク皈空ニ无一物。所詮空モ假ニ中道實相眞如ナリ。サレバ佛身法身猶如虛空ノ眠ヲ打開レバ。空觀果德顯報身佛。假觀用ハ顯應神佛。中道果德ハ成法身如來ト。猶是權門ノ心。似タリ圓頓實敎ノ心。三諦一體。非三非ナレバ一。三身即一佛性。一鞠ノ上見顯タル。柳ハ綠花紅ニシテ。已々分々。一トシテ。无シ爲タル漏レ法性物。是即鞠ノ當位即妙ノ心歟。猶更ニ可問之。
一、鞠ノ庭寸法七間餘ノ表德之事。佛家ニ付テハ號過去七佛道場ト。神國ニ付テハ天神七代ノ形取ル守護。或鞠ニ付テハ猿ノ日ノ會日トシテ翫之。故ニ猿ハ即一乘鎭護。山王七社ノ爲法體間。七社表寳前七間タルコト。代々口决タリ。七間餘ニ成ルコトハ世間ニ无定相。以不定爲定ト云ル深意有之故歟。勝云々。
一、八本懸事。蜜敎心ヲ以號八大童子ト。八大童子ト者矜伽維。二制多伽。三倶利伽羅。四ニ大龍童子。是ニ四天ヲ加テ八大童子ト云々。然則鞠ノ行者ヲバ即身ヲ不動明王ト觀ズル心有之。不動明王无有所居。但住衆生一念心中矣。思可之。一代聖敎ノ心ニ付テ八本懸リヲ即八境界トス。敎ニ約束スル時ハ號八敎。八敎トハ如次手。三藏敎。阿含。通敎。方等。別敎。花嚴。般若。圓敎。法花。涅盤。頓敎。花嚴。漸敎。阿含。方等。般若。不定敎。約衆生機。秘密敎。是亦約衆生機。已上八敎。是ヲ庭上ニ莊嚴シテ鞠ノ行者ノ一身即三身之佛陀ナリ。衆生爲メニ利益流布ス。之言觀念有之云々。深旨有口决。更問之。
一、三足事過現未之三也〔世歟〕。本法流轉還□□三ッ𡖋三身ノ表德。三寳ノ表示。轉シテ三毒顯三身。甚深沙汰有之云々。
一、一切ノ諸道具。其外序破急表示。皆以非凡慮遊戯。月氏且我朝。其元由神明佛陀ノ内證ヨリ事起。故四智。五智。六佛。七佛。三身。三千三觀。八敎。此等之深旨ヲ含メリ。懸聲ノ三聲。阿梨ヤ應ノ口傳。サル事アリト可得意。故ニ上始一人ノ天帝ヲ。下至萬人地民。翫之賞之。廻佛神ハ守護。惡魔ハ退ク遠方。最此謂歟。般若經吾ガ心ヨリ成ス業ヲ何レノ神カ余所ニ見ルベキ。
大日經云。
我本无有言。但爲利益說矣。
拜上
私云。
天竺靈山ニテハ金毘羅神トテ猿ノ形ニテ佛ノ說會ヲ守護シ。大唐ニテハ天台山ノ麓號神僧。智者大師法花經會座シテ守護。於我朝者比叡山麓ニ號山王。一乘御法ヲ守護シ玉フ。三國共ニ佛法ノ流布ハ猿ノ形ニシテ守護シ玉フト見タリ。殊更日本神國申日ヲ會日ト定而鞠ヲ用事。最神慮之内證ニモ相叶者歟。申ヲ示ノ神トスト言ル意。尤其由在ル者歟。
夫蹴鞠は皇帝蚩尤が亂を平げ。天竺大唐我朝三國之翫好家の式也。先第一天下を治。國をしづめ。神慮に叶子細あり。又皇帝此道を作りて武を陳ず。天地人をかたどり。則鞠は日月を表す子細あり。我朝翫事天智天皇の御時也。さて後鳥羽院の御とき。雅經卿撰之直之。子細有之。其時分迄は家々兄弟難波兩流なりしが。得勅意道をきはむる事也。しかれば八境兩分定し口舌相乘之事專一也。また君臣合體之道といへり。君も人も袖をふるゝ也。第一敵を平げまた身を安くす。葵藿の日にむかふが如し。精大明神と申也。長久の術。又鴨之水の上にうかぶがごとくといへり。かつをむしの水の上に往返するが如しといへり。猶口傳かんようたりといへり。
一、庭作の事
鞠庭の事。ひろさ家により所に隨ベし。先高下なく平地なるベし。かたき惡し。石なきをよしとす。もとの土わろくば取のけ。能つちを砂にまぜて置べし。惣別土をふるふこと可然。砂一度ふかく置ぬれば沓入てわろし。すくなくなる時。置そへたるが可然也。庭を作りおほせて樹をうふれば庭そんずる也。まづ樹をうへてしかるべし。また口傳あり。
一、懸の樹の事
式の樹といふは。櫻。柳。蛙手。松也。又雜木をも植ことあり。榎。椋。柿。常の事也。賞翫の木には梅也。
一、懸の植やうの事
木は安宅術。懸は鎭屋の方也。南向の庭をもてもつぱらとす。しかれども東西北等のかゝりに。軒の左に櫻。右に松を植ることあり。當家の秘說なり。師匠の許なき人不可植。常の木は南角を本に植べき也。
【図】
軒と木との間一丈四尺三寸ばかり。母屋の柱よりの事也。ひさしあらば。緣よりひろさをくはゑて丈數をうつべし。
木と木との間は二丈ばかりしかるベし。猶ひろく植たからむには。二丈一尺二尺にも植べし。又にはせばからん所には。一丈六尺七尺八尺九尺にも植べし。又口傳あり。
一、切立の事
御厨子所預
享保十六年九月晦日
釆女正紀宗直
宗直云。
難波宗建卿ニ相尋之處。松下掃部助敎久作云々。寬永八年九月作之云々。
右宗直朝臣本令借得書寫訖。
安永三年二月
大和守大伴積興
〔右蹴鞠九十九ケ條以野宮家本(外題松下十卷抄)校合〕
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