蹴鞠百五十箇条

ページ名:蹴鞠百五十箇条

一、足つゝむべきやうの事付足包紙やれたる時の事

足つゝむ事。引合を四つにおりて。大ゆびよこにまくなり。先をうへゝ折返して。水こきしたる紙よりにて二卷まくべし。扨ゆびの外にてまむすびにする也。用心のためふたむすび三むすびもむすぶべし。又別のゆびもいたむ所あらば。つゝみてくるしからず。もし又足つゝみたる紙やれたらん時は。懸の外へ出て。いくたびもつゝみなをすべし。主上の御あししたむるやうは。いさゝか口傳多き事なり。

二、座につくべきやうの事

座につく時の事。左の手に扇を持て。柳に向ひてつくばひ。座上の方を手をつきて。貴人のかたへあふぎをむけぬやうになをるベし。左の足をうへにおくなり。扨貴人御立あらば座の上をおるべし。貴人の御立ところさだまらば。本の座になをるベし。他流には座につく時右の足をうへに置といふ。當流にはしらざる事なり。

三、懸へ入るやうの事

懸へ入時は。左の足あしより入なり。軒のかたより先へ足をふみ入ぬものなり。

四、木の本に立樣の事

木の本に立事。貴人より御立ありて。次第次第に立べし。しきたいなきものなり。座につく時。上首よりすゝむなれば。懸の本へより侍事もそれにしたがふべし。立所の事は。其身の心より便宜にしたがひてすゝむべし。松木のかたは貴人主人のかたなれば。さうなくよるべからず。それも貴人の命をうけ待らば。辭退すべきにあらず。凡立所におきて上下はなし。貴人の立所を上とすべし。中比の事やらん。或家門邊の說に。人数の立所とて一二三と次第して。八人の立所をさだめおかれ侍るとぞ。とかくはまり足の方によりてはからふべし。未練の人のそば。或は老者などのかたはらには。はやきあし。さほうの人を立べきなり。

五、懸に尊畏する事

懸に尊畏する事。木の方の手をつくなり。但貴人あひ懸に御立あらば。貴人のかたへ手をつくべし。

六、座にて刀をく事

座にて刀おく事。右の手にてはながみをとり出し。左の手にて刀をぬき。ひとつに持て。はながみを下に成やうにして。刀のさきを我座より下の座のかたへなし。柄をわが身のかたへなして置べし。刀のむねをわがかたへなるやうに置べし。

七、懸にて扇つかふやうの事

懸にて扇つかふやうの事。初參の人などは心にまかせて扇つかふべからず。一段の貴人などは御つかひあり。其次の人は二三間ひらきて。むねのあたりをそろ/\とつかふべし。初參の人も極ねつなどにつかはでなんぎの時は。左の手にて二三間ばかりひろげ。身に行そへつかふべきなり。

八、扇を座に置て立事付扇さす樣の事

扇を座に置て立事は。ちかき世よりおこれり。昔はかならず扇をさして立侍る也。今もさゝん事申におよばず。さしやうは。あふぎを左の手に持て座に付て。扨まりはじまる時座をうごきて。左の手にて刀さす處のはかまのおびをくつろげて。あふぎをさすなり。是を刀さしといふ也。又座をうごきて。ゑもんをひきくつろげて。左の手より右の手へ。すわうの袖の下より取わたして。やがて左の手にてはかまの帶をくつろげて。右の手にてさゝず。鞠さすやうにさすべし。これをやなぐひさしといなり。あふぎのねこまを身と帶とのかたへなるやうにさすベし。又しやくさしといふは。うしろのはかまの帶にすぐにさすなり。是は公家かたにのみ御さしある事なり。武家がたにはにやはぬことなり。又扇をさすとて懸の下へたちてさす事もあり。それは木の本一行間にさし合たるがよし。是は同輩の儀なり。貴人などの御かゝりにては。木の下に立かくるゝやうにして指べし。左のひざをつきて指て。木の下に立べし。刀さし。やなぐひさし。しやくさし。いづれも同事なり。

九、扇を持て木の本へ行樣の事

扇を持て木の下へ行時。すわうの袖の下にかくるゝやうにもつべし。

十、扇ぬくべき樣之事

扇を木の本にて指たらば。木のもとにてぬきてかへるべし。座にてさしたらば。座にかへりてぬくべし。

十一、鞠の人數たて入かへ蹴る時之事

まりの人數多く入かへてける時。座にかへりてやすむ時。重てけんとおりつゝ(もはゞ?)。あふぎばかりもちて。刀をもはな紙をも本のまゝ置べし。かさねてけまじきならば。刀をもさすべし。左樣なりとも貴人今一足と御所望あらば又けべし。

十二、貴人と鞠ける時座に着樣之事

貴人とまりける時。座につきやうの事。貴人はや御付ありて後は。次第/\に付也。若我より上に付べき人なくて。みな下でなりとも。何れにても座を一ッのきて付べし。是は若われより上たる人あらばとの氣遣なり。但しよく見合て付べし。

十三、貴人とまり蹴るとき座にて刀をく事

貴人とまりける時。座にて刀おく事。貴人左のかたに御座あらば。右のかたに刀おくべし。刀は少うしろよりにおくべし。あふぎより下になるやうにおきたるよし。あふぎと刀と別々におく時は。なかみはあふぎにそへておくなり。

十四、貴人と鞠ける時斟酌すベき立所の事

貴人とまりける時。斟酌すべき立所の事。貴人の御あひ手にまいる事。正分のつめのこと也。貴人とあひかゝりに立事。又木こしに立事。是三ッを斟酌すベし。其外はくるしからず。御あひかゝよりも椛木こしはしんしやくすべし。貴人の御身にちかきいわれ也。こゝろへべし。

十五、貴人とまりける時尊畏するやうの事

貴人とまりける時尊畏の事。木こしとあひかゝり。同程なる貴人御立あらば。あひかゝりのかたへ手をつくべし。

十六、軒をとをるべき樣之事付緣をとをる事

軒はとをらぬものなり。但貴人よのかたに御立ありて。軒かたあきたらばとほるべし。その謂は貴人の御うしろをとほる事はゞかりある故也。よく/\見合て軒をとをるべし。軒をとをりたくもなきときは。時宜を見合。緣のうへをとほる事もあり。くるしからず。

十七、懸の中をとをる時の事

凡かゝりの中をたゞの時もとほる事斟酌すべし。况や會の時貴人の御前御後。幷しかるべき人の前後をも。たやすく通るベからず。貴人の御まへとほらで叶ざる時は。いかにも遠くのきて。垣のきわ見物の人のそばなどへつめより。貴人の御かたを除てとほるべし。主上の御前後は申におよばず。家禮の人之前後にてそんこしてとほるべし。

十八、軒を賞翫するの事

軒もわが家にては賞翫すべからず。おかしき事なり。人の家にては賞翫するともあり。貴人の御にわなどにては。軒を賞翫仕るべし。其外はさのみせうぐわんすべからず。よく/\心得べし。

十九、帷子をきるべき事

まりける時は冬も帷子をきるベし。雪霜の中にもけるものなり。小袖または袷などきるとも。はだにはあせとりとて帷子をきるなり。

二十、葛袴きるべき事

葛はかまきる事。すわうをきずば葛袴をきベからず。

廿一、沓はきてけるときの事

沓をはきてける時も。すあしのときの如く。あしをつゝみてよし。沓をあまりにひきする事わろし。足ぶみしてあゆみたるよし。

廿ニ、あせぬぐふ樣之事

あせぬぐひをばおちぬやうに懷に入て持べし。あせかきてぬぐひたき時は。かゝりの木よりはるかにのきて。かしこまりてうつむき。手のうちにみえぬやうに。ちいさくしてぬぐふべし。

廿三、鞠を庭に置やうの事

まりを庭におく事。取皮を人さしゆびと大ゆびとふたつにてとり。のこり三ッのゆびにて。まりのましこひたひをかゝへて。左の手をそへて。我目のとをりにさしあげて持て。軒のむかひに置べし。

廿四、まりを庭に置てかへる樣之事

まりを懸におきては。左へまはりて歸るべし。たゞし貴人右に座時は。右へまはりて歸るべし。これは貴人へあとをむけまじきためなり。

廿五、鞠をつくる木の事

鞠を木の枝に付る事。櫻。柳。楓。松。いづれも付べし。さりながら松が本なり。よの木は枝のあふ樣になき間。まつをもとゝするなり。

廿六、木の朶に鞠付る樣之事

木の朶に付るやう。まりの取皮のくみめより。水こきしたるかみよりを引とをして。さひの下枝のかたをそぎてつけるなり。
【解説図】

廿七、木の枝に付たる鞠持て出るやうの事

木の朶に付たるまり持ていづる事。ひだりの手にてまりを付たる木のゑだのうらをかゝへて。右の手にて木のもとをとらへたるがよし。

廿八、木の枝に付たる鞠その日蹴べきを見しる事

鞠を木の枝に付て。いづくにもおけ。その日けべきまりをみる樣。まりをゆひつけたる紙よりのさきを一もんじにきりたらば。其日けまじきまりと思ふべし。又まりに付たるかみよりを。一方のかたながく切たらば。其日けんまりとこゝろ得べし。そのまりとく樣あり。のきの正めんにはおかぬものなり。

廿九、朶に付たるまりに短冊を付る事

枝につけたるまりに短冊を付る事。例式の短冊にてはなし。うすやうをたんざくより少しせばく切てこしらへ。先をひねりてむすび付るなり。鞠付たる枝に付るなり。亦短冊のごとく。先にあなをあけて。かみよりにて付る事もあり。いづれもうすやうはたゝみたるかさねの紙なり。たゞなるかみにてすべからず。紙よりもはくかみなり。

三十、太刀にまりを付る樣之事

太刀にまりを付る事。太刀のおびとりをむすびて。其あひへまりのこし皮を入。まわしてむすびて。花は何花にてもあれ。さしそへべし。人に出す時も。かやうにこしらへベし。

卅一、枯木に鞠つくる事

かれ木にまりを付る事謂あり。たゞの時は付べからず。

卅二、上鞠する樣之事

上まりするやうの事。下れる人。初參の人まりを懸におく時のごとくに持て。懸の本を立出。むねのほどにさし出し。少まへゝかたぶけてそとけべし。木などにあたらぬやうにするものなり。上まりの事。例式のふさほうのまりとて本にあたらず。本上まりとて一段の子細ある事也。口傳あり。

卅三、ふさほしの上鞠の事

ふさほうの上まりは。懸におきたる人やがてまりを取。二足三足歸りまたあゆみ出て。あひてにかけべし。

卅四、上まり仕そんじたる時の事

上まりしそんじたらば。まりをとり上げ。座にかへりて仕なをすべし。はしりけりなどしてはけぬものなり。

卅五、あげまり仕かけまじき人の事

上鞠を仕かけまじき人の事。あひかゝりに立たる人に。又木こしの人。此二人にせぬものなり。又貴人にせぬものなり。もしけかけまじき人にけかけたらば。ひざをつきてせきめんすべし。

卅六、上鞠する時目つかひの事

上まりするとき。あまりに目などを見合て。それといわぬばかりにはせぬものなり。其時は目など見合てけるときに。あげまりのよそへちる事あれば見にくきものなり。たゞ何となくしたるがよし。

卅七、貴人あげまり遊したる時の事

貴人もし上まりをあそばされ候とも。さのみしんしやくなくけべし。くるしからず。

卅八、他家と參會の時鞠ける事

他家と參會などのときまりあらば。御屋形樣などの賞翫の人には同座する人もあり。おふかたは同座すべからず。よく/\心得べし。

卅九、親などゝ鞠蹴る時之事

貴人なくて親などゝまりける事あらば。親にも同座すベし。くるしからず。

四十、兩分のつめといふ事

正分の詰といふ事。すみと/\あひ向ひたる人を。正分のつめといふ。角なくてむかひに立人を次分のつめといふ。正分のつめは親子のごとし。次のあいては兄弟ほどの事なり。正分のあひてにまりを七足けかけば。次のあひてには三足ばかりけかけべし。

四十一、詰ひらきの事

詰つめひらきの事。つめてはまりをけてもまたけずともすみやかにひらくベし。まりをふかくつめてけるとき。こつめうしろへつめかけて。ひらかぬ事あらば。木のそとをひらくものなり。木と人との間はとをらぬものなり。人と人との間をとをるベし。それもしげくはをらぬ事なり。

四十二、ひらきの事

ひらきの事。木をまはりて詰たらば。まはりて歸るべし。すぐにつめたらばすぐにかへるべし。大よそまりをつめよるとき。かへりの中半分にすぎ侍らば。木の外へいでゝめぐるべし。木の外へいづるとき。人と木の間を破るベからず。つゝしむべし。但その木のともに立たる人のいまだ立なをして。幸にあきたらんときは。木の本へひしとよりてとをるベし。又まり落て道ふさがらん時は。庭中をかへらんに子細もなき事なり。まり落たる時も。木のもとをめぐりてかへる事。いかめしくみにくき事あり。所詮は大かたの法をだにも心得ぬれば。ときにしたがひて見よきようにふるまうべし。

四十三、鞠ける樣之事

まりのけやうの事。其しなおゝしといへども。大ようあしのこうに一ぱいにあたるやうにけべし。つまさきにあたればとぶものなり。むねをほすべからず。折入るやうにすべし。子細ある事なり。ひざをそらして。きびすより足をふみ。よくまりを見おろしてけべし。まりによわ/\とあたるときは。わざとひざをかゞむることあり。

四十四、身なりの事

身なりの事。先くせなきをよきとす。いさゝか立おゝひて。かしらすゝみ足うしろへ成やうは立習べし。けはじめにひろきところ庭などにてけあげんと。おひありきてけならふべからず。のけばりて足たかくひざかゞまりくせ出來也。すみにてけならふベし。こしより上はたをやかにて。こしより下はすぐにつよくあるべし。まりの左右へきるゝ事。足のよはくて。あしくびの內外へふるゆへなり。さて身のかどにてまりをけるやうにけるはわろし。けはなちて身もちのろくになるやうにけつくべし。

四十五、立おほふ姿と云事

立おほふ姿の͡と。先段にもいへるがごとく。立おほふひて立べし。懸を栽にも。いぬいにたてよといへるなり。したがひて人の立たる姿もすこしおほひかゝりたるやうにあるべし。さればとてうつぶきこしかゞみて立べきにあらず。凡人の身はかうベにすぎておもき所なし。かうベのき足すゝぬみれば。いかにも思へども。次のあしかなはず。かうベすゝみあしにげぬれば。次の足はやきなり。走人もかしらをすゝめてならでははしられず。心得べし。

四十六、かほもちの事

かほもちの事。あをのかずうつぶかずかたぶかずして。まろくにあるべし。かうベもたげうちうなづきなどして。かろ/゛\しかるべからず。目おそろしくみなすべからず。目のみやうにて。くせなきかほもくせのあるやうにみなさるゝ事あり。

四十七、目つかひの事

目づかひの事。あがるまりをも目ばかりにて見あげ。落るまりをも目ばかりにてみ下すべし。かほにてみあげみおろす事あしくみゆるなり。たかきまりの色のかはるときなどは。かほをすこしかたぶけてみるベし。一心二眼とて。心持第一の事なり。次てはまなこをかんようとす。されども心と眼とふたつなるべからず。心とまなことは二にしてひとつなるものなり。よく/\たんれんすべし。

四十八、手持之事

手もちの事。何となくたへ/゛\としたるがよし。こわくすくまず。手さきひろげず。こぶしにぎりかためず。たをやかにしてみにくからず。ひきからずもつべし。鞠の足にあたるとき。すこし持あぐるやうにあるべし。凡身體よく立おほひて立人は。手持はたかく見ゆるなり。のけばりて立人は。手身にそひてものけなくみゆるなり。いかなるくせまりをけるときも。手持はゆる/\としてはたらかぬがよし。五尺のかつらに水をながすやうにあるべし。こぶしはもちてもたざれといふこゝろへべし。

四十九、足つかひの事

足づかひの事。いかにもひきくて失なかるべし。まりの失は只あしの高きよりおこれり。まりをけたるあしをば。もとの所にはをかず。やがてすゝめて置て。左をもなをすゝめまして立べし。右ばかりすゝめぬれば。まりにかたあひになりてあしゝ。足くびにはちからを入るべし。つまさきはひらかぬよし。

五十、あし出し樣の事

あしの出し樣の事。つちふまずをすりて。すくひあぐるやうにあるべし。まりの右へきるゝとてはあし。さきを內の方へいだし。左へ切とては外のかたへ出すこと。きはめてひがごとなり。いかにも/\まろゝに出すベし。まりの左へきるゝは。あしのそとがはのうくゆへなり。右へきるゝは內のうく故也。先へゆくはきびすのあがるゆへなり。うしろへゆくは。つまさきのうくゆへなり。左足はひざがしらよりいだすべし。口傳有。

五十一、左足之事

左足の事。よくふみちがへ/\して立たるがよし。ふみかへずしておけば。たち足とて高足がけられぬものなり。人のけるときも。わがこゝろの内にてふむがよし。あまりにこと/゛\しきはわろし。なをつまさきにちからを入べし。

五十二、左足にて鞠蹴まじき事

左のあしにてかりそめにもける事なかれ。精大明神のしんりよにもそむくと也。わすれてもけべからず。又ひだりにてまりをはねて右へうつせば。曲の內なり。かなはぬまりを左りにてすくひ。右にてけはなす。第一のめい足なり。一暮に一足とぞ。

五十三、鞠けるとき一だん三足の覺期と云事

まりをけるとき。三足つゞける覺期をもつべし。謂は一だん三足とて。受取鞠壹足。手分のまり一足。人のかたへわたすまり一足なればなり。けられずともそのこゝろ得もつベし。足づかひにもこゝろ持あるベし。受取まりはやはらかにしのぶべし。手分のまりはするどにつよくあるべし。わたすまりは足をひかへてよはらすべし。

五十四、序破急三段之事

まりをけるに序破急とて三ッの心づかひあるべし。まりはじまるときは。木のもとを立出ず。分にしたがひ。まりをたかくゆふ/\とけべし。こゝろにはゆだんあるべからず。これを序分といふなり。なかばにはちいさきまりと大なるまりとまぜて。三足ばかりつづけべし。これ破分のときなり。晚氣におよび。くれもおしきときは。木の本をたちいでゝ。まりのたけをひきくけて。數を持てあしぶみをしげくして。木にまりのあたらぬやうにけべし。これ急分なり。序破急三だんの心づかひといふ此事なり。

五十五、鞠あらくけまじき事

まりをあらく物にけつくる事仕まじきことなり。むやくのあしなり。たゞしあらくけかけて。そのまりのかへるところおもしろくければしかるべし。中/\あらくけてのちあしくければ比興なり。そのこゝろ得あるべし。またまりに氣をつけんとて。あらくけつくることあるべし。

五十六、初心の時はあらくけならへべき事

初心のおりははしりちりてあらくけならふべし。しづかにやはらかにけんとすれば。しづみすぎて。あしはたらかぬものなり。けそめしとき。ふつそうにけんは又わろし。時節によるべし。

五十七、うきあしといふ事

うきあしといふ事。水鳥のあしぶみのごとくすることなり。いさゝか子細あることなり。口傳をまつべし。大かた地にすはりつかぬやうにこゝろ得べし。

五十八、まり色の事

まりいろの事。いかにもけんそにつよくけて。まりはゆふ/\とあるやうにける事なり。

五十九、つまさきの事

つまさきはそらさへぬものなり。又かゞむ事もすベからず。ちからを入てけるべし。沓はきたるときとはだしと少しこゝろ得あるべし。

六十、こひ聲の事

まりのこい聲の事。ありやおう。かやうにこふなり。おうとこふ事は。初心のときはしんしやくすべし。口傳に在り。

六十一、ありやとこふまりの事

ありやとこふまりのこと。木のえだなどにあたりて。興ありておつるまりの事なり。

六十二、まりに手をつくまじき事

まりは何ときれてゆくとも。手にていろふべからず。おゝよそ手をまりにあつる事あしき事なり。もしまたびんぎよくおしなをしなんどし候はんは。しなによりてくるしからず。又あまりの手にかゝり候を。つけじとするもわろし。をのれ也とまりにしたがふべし。

六十三、まりける時心づかひの事

まりけるとき心づかひの事。かゝりにてけるに。外へ切て出るまりを。懸の內へけ入るゝやうにこゝろづかひあれば。まり落てころび入てもくるしからず。內より外へまり出たらば。段よきところにあたりても。きづかひおかしき事なるベし。

六十四、烏帽子着てまりけるときの事

まりを人のゑぼしなどにけあてぬやうにたしなむべし。又われも人にあてられぬやうにきづかひすべし。ゑぼしはのきすぎぬやうに。ふかくきなすべし。

六十五、懸の外へ出て落たるまりの事

かゝりの外へ出ておちたるまりの事。懸の內へ持て參。上まり仕りたるもよし。又まりをかゝりの外へなげ入たるもよし。禮などはなきものなり。もし又垣ごしになげ入る事もあり。これはまりをはやくけさせんとの儀なり。

六十六、まりかきの外へ出たる時け入るゝやうの事

まりかきの外へ出るとき。座に人あらばけ入るべし。そのときありとこふ事あるべからず。座に付とき。左の足をうへにをく謂は。まりの外へいでたるときは。內へけ入るゝためなり。

六十七、枝にとゞまりたる時まり棹にて落すやうの事

枝にまりのとゞまるを落す事。棹にてまりのたまりたる枝をわけて。まりに棹のあたらぬやうにおとすべし。つよき枝などにまりとまりて。枝のわけられぬときは。枝のあわひへ棹を入てかきおとすべし。つきおとすべからず。たとへひきゝ枝なりとも。木をゆふりて落す事不可有。手のおよぶところは手にてかきおとして。更にとりてあぐるなり。棹にておとしてはかしこまらず。禮などもなきもの也。

六十八、まり朶にたまりたる時の事

枝にたまりたるまりを。下にてまはる事。中/\おかしき事なり。

六十九、枝にまりあたりたる時の事

枝にあたりたるまりをば。かならずこふ事なり。但し木しげりてうちおほひ。枝ごとにまりしげく當て。落るまりをば度々にこふはわろし。

七十、貴人の御足よりまり落たるときの事

貴人の御あしよりおちたるまりをばこふもの也。そのいわれはおちたれどもおちぬとゆふこゝろづかひなり。

七十一、貴人の遠きまり遊しそんじたる時の事

貴人遠まりをのベあしなどにてあそばされ候時。そのまりおち。又かゝりの外へ出る事あらば。たとひけにくきまりとも。ありとこふてのベてみるべし。こゝろづかひなり。

七十二、貴人の遊しそんじたるまりけるやうの事

貴人とをき御まり又能御足をもあそばされ候とも。そのまりよくあがる事なくば。はしりよりてつきてける事あり。貴人とわれとの間ちかき事あらば。ひざをつきたるよし。立ながらはわろし。

七十三、貴人御身にあたりたるまりの事

貴人の御身にあたりたるまりける事あるべからず。但し御身にあたり候とも。御足あがりてあそばしそんじたらばけべし。御足あがらずばけまじきなり。又同はいの人の身にあたりたりとも。そうじてけまじきなり。

七十四、貴人御見物のときまりけるやうの事

貴人御見物もあれ。又座にもあれ。その御前ちかくゆくまりをばとをすべし。但し御座の間とをくばけべし。貴人の御座はたゝみ本也。また圓座もくるしからず。

七十五、會の時人數めしたてらるゝ時の事

まりの時御人數をめさるゝに。次第/\にまいるべし。暮などおしきとき。さのみしきたひしておそくまいる事わろし。第一くわんたいの事なり。

七十六、貴人のけまり見物するやうの事

貴人の御まりをみる事。ゑんの上よりみる事。所によりてくるしからぬ事なり。大かたは下にてみるなり。貴人の御まり。こゑをあげてほめぬ事なり。たゞかんじ入たる體にてみるべし。貴人のめい足をあそばしたらんときは。そのまりの內の宗匠たらん人。まりをとりていかにもかんじ申すベし。さあらば殘の人數も。そとしきたいあるベきなり。

七十七、花の下にてまりけるやうの事

花の下にてまりをけるとき。むげに花をちらすべからず。きよく足ならば華をいとふべからず。はなの枝又は花のふさなどおちたるをこしにはさみてける事あり。これもおもしきことなれどもむ用の事なり。

七十八、風ふく時けやうの事

風吹候ときは。まりだけひきゝて。たしかに人のもとへにわたすべし。沓さきまで見あはせて。ひざにちからを入てけべし。上手をば風したにおくことなり。

七十九、緣よりころびおつるまりけやうの事

椽よりころびおつるまりけまじきといふ事。さしてなけれども。貴人御見物あるとき。みすなどにあたりて。椽よりころびおつるをける事。あまりにぶこつなるにより。けまじきといふなり。たゞの時はくるしからず。

八十、ゑんのうへゝあがりたるまりの事

椽の上にあがりたるまり。まづ手にてかきおとしてのちに。取てあぐべし。

八十一、木にむかひてまり數けざる事

木に向ひてまりかずをけぬやうにすべし。これはわが立たる木の事也。懸のうちよりむかう事なり。

八十二、鞠すみへゆきたるときの事

まりのすみへゆきたらんとき。すみやかにいだすべし。人數をうしろにしてける事。一足はゆるすべし。二足とはすべからず。かなはざらん時ははねベし。

八十三、遠く落るまりけやうの事

とをくおつるまりは。かしらをさきだてゝとくよるべし。まりも身もちかくなる也。行懸て身にそふる事は一段わるき事なり。

八十四、袖こしのまりの事

袖こしとていむまりの事くるしからず。但し下品たるべし。

八十五、軒にあがりたるまりけやうの事

軒にあがりたるまりをける事。落るほどをはからひ軒へ立入て。かゝりにむきてけべし。のきにむきてけべからず。

八十六、高きまりやねへあがりたる時の事

軒にたちたるとき。高きまりの家のやねへあがりみへぬ時は。むかひの人のかほをみるべし。まりのあるかたへ目が行もの也。それを心がけてけべし。

八十七、いむまりの事

いむまりの事。あひおひ又は大なる木などのまたを。あひての人すぐに木のうしろへけ入るゝを。ひらきながら。あひてのかたへすぐにけ入を申也。心得あるべし。

八十八、露はらひの事

雨の後露はらふ事。さほにておとすべし。又御會には露はらひとて。御まりあるベき前には。人してまづける事有り。

八十九、ながしの事付左右左といふ事

まりの身にあたりたる時は。こしを折てしなひあふべし。若竹にすずめのとまるやうにあるべし。これをながしといふ。左りの手を身にそへてながし。又右のかたをながし。又左りへながすを左右左といふ。

九十、身にそふまりの事

身にそふまりといふも。むねよりあしの甲へそろりと落るまりをけあぐる事也。

九十一、うつぼながしといふ事

うつぼながしといふ事。身を直にいかにもけんそにおつるまりをいふ。

九十二、のべあしの事

のべあしとは。遠まりをけて。左のあしを折しき。すべるやうに行事なり。いかにも身をつよくもちて。こしをつきいだすべし。身をなぐるやうにすべからず。身のくゞまりたるはよし。むなそりたるはわろし。

九十三、のべあし仕ならふ樣之事

のべあしを仕ならふ事。つねにたふれならふべし。まりはあしにあらずとも。かへりみずしてのベならふべし。足ぶみひやうしだによければ。なりやすきものなり。

九十四、つらねのベといふ事

のべて落るまりを。たちあがらでそのまゝのぶる事を。つらねのベといふなり。

九十五、かさねのベといふ事

のべて遠ざかるまりを。たちあがりてのぶるを。かさねのベといふ。

九十六、つき延といふ事

つきのベといふ事。木の枝又は何にても。ものにあたりてきぶく遠くゆくまりを。のべてけるあしのこと也。

九十七、のべかへりと云事

のべかへりといふあしは。のべて行足にまりのあたりて。そのまゝかたへかゝりて。かへり足になることなり。

九十八、かへりのべと云事

歸りのべのあしの事。かへりあしをけて。其まゝ遠く行まりをのぶる事也。

九十九、歸りあしの事

かへりあしの事。左よりかたにかけてまはるをば左がへりと云。右よりかたにかけてまはるを右がえりといふ也。惣じてつねの人はけぬあし也。しんしやくすべし。

百、軒かへりと云事

軒がへりといふあしの事。軒よりおつる鞠を。のきの下へくゞり入て。身にもかけよ。亦身にかけずとも。懸のうちへけ入をいふなり。

百一、半のベといふ事

のべあしはのベたほるゝがあながち本意にあらず。もろあしをそろへてのベ。左足をしかずにけるを半のベと云。左のあしをしきてのぶる時は。左の沓さきの內のかたのするゝやうにけべし。沓あとのすぐなるをよしとす。

百二、むきなをりといふ事

かへりあしはいかほどもひきく。かたほどにけあげて。かへりあひてけべし。高きまり足ぶみをして。きびすをたてゝまはりてける事。むきなをりと云。

百三、かさねつめといふ事

かさねつめといふ事。ごづめの人の事也。

百四、きりこゑと云事

きぶくおつるまりをきりこゑとて。きぶくこふものなり。

百五、みをくりのあしといふ事

我分足をすぐにあげて。又も我分足なれども。けまし體をして見をくり。まりおつればつとよりてけるを。みをくりのあしと云。ひきよくなり。

百六、いぬはしりといふ事

ついじのきわ又ゑんの下なんどをはしりころぶまりをいぬばしりと云。いかにも沓さきにてそとはねべし。

百七、沓かへしといふ事

沓かへしといふあしはなき事也。但し他流にいふか。

百八、葉がゝりの鞠といふ事付いての鞠の事

懸の木しげりて。枝などもかさなり。まりのみへぬ様に落る事あり。それを葉がゝりのまりといふ。またいてのまり共いふ。

百九、いこくのまりといふ事

いごくのまりといふ事。夏山のかりば靑ばがちにて。鹿の出るをみわけにくきものなれば。木のはのゆるぐかたをみるなり。それにより茂りたる葉の內より出るまりをいごくのまりといふ。

百十、葉がゝりのまりいごくのまりけやうの事

はがゝりのまり。いごくのまりと同前に。木のはのゆるぐかたをいよ/\こゝろにかけてけべし。

百十一、からすおとりといふ足の事

からすおどりといふあしの事。さしてもなきあしなれども。まりによりて足をふみちがへて。おどりよりてける事あり。そのあしをいふなり。

百十二、びんずりといふ事

おひまり。びんずり。ひうちおりまりなどゝいふ事。ゆめ/\といふべからず。(?)ひまりと云事。他流に申よしなり。

百十三、雲入のあしの事

雲入りのあしとて。大きなるまりたけをける事暮にあり。たゞしむやくのあしなればけまじきなり。暮に一足のものなり。ことに初心の人はしんしやくすべし。

百十四、あちたるまりけあげよといふ事

おちたるまりをけあげよと云也。ほるといふ事。又すくふといふ事あるべからず。

百十五、まりをば一足二足といふ事

まりをば一丈貳丈又一ッ二ッといふ也。一足二足といふ事わろし。まりを一足二足といふは。けるときのまりをいふなり。

百十六、よきまりを逸物と云事

まりのよきをば逸物といふなり。生物ならねども。まりにかぎりていふ事也。いさゝか子細ある事なり。

百十七、タべのまり今宵のまりといわぬ事

人ごとに夕べのまり今宵のまりなど云事申まじきことなり。いわれぬことなり。昨日のまり。昨夕のまり。今夕の御まり。今日の御まりなどゝいふべし。

百十八、まりを人にいだすやうの事

まりを人にいだすやの事。取皮を上へなして。こし皮を左右へなるやうにして。兩方の手にのせて出すべし。

百十九、まりを受取樣之事

まりをうけとるやうの事。右の手にて取皮をとり。ひだりの手をまりの下にあてゝうけとるベし。

百二十、まりみやうの事

まり見やうの事。右の手にて取皮をとりて。左の手をそへて。こし皮をみまして。左の手のひらにのせて。ふくらをたゝきてみるものなり。

百廿一、まりのかた穴をぬふ數の事

まりのかた穴をぬふ事。七。九。十一。十三。十五。二十一。

百廿ニ、取皮付るやうの事

まりの取かわのつけやうの事。こし皮のかへり二ッ三ッめに付るなり。

百廿三、鞠のなどころの事

まりの名所の事。─ふくらといふ─ましこひたいといふ─かたあなといふ─とりかわといふ

百廿四、まりたけの事

まりたけの事。大槪一丈六尺のもの也。さればとてまりごとに此丈數ならではけぬ事にあらず。時によりて甲乙あるべし。木の下簷の下などにては、いかにもつめてひきくけべし。その外は長ののびたるよし。長のひきゝはかさもなくて。いやしくみゆるものなり。

百廿五、高きまり頭上に落る時けやうの事

たかきまりの頭上にある時は。むきなをりてけベし。まりのほどをみはからふて。ものさはがしからぬやうにめぐみあふベし。あまりのどかにまはれば。おそくてまりおつる也。右へむくにはきびすをたてゝまはるべし。ひだりにむくには。きびすたてられぬものなり。

百廿六、枝まりのけやうの事

かずまりのけやうは。つねより足をたかくあげて。數を本にけべし。

百廿七、まり數取事

まりの數とる事。五十までは口の內にてかぞへて。五十めにはじめてかぞふと云なり。かずの字をひきて。こゑをあぐるなり。御數とはいふべからず。其後は六十。七十。八十。九十。百。百十とあげべし。とをとはいわぬもの也。

百廿八、懸のうへやうの事

懸のうへやうの事。松はいぬゐ。楓はひつじさる。柳はたつみ。櫻はうしとらなり。たゞし軒のかたをば北にとる也。木のうへやう。すこし內へふすやうにすべし。其謂は木の本に立人も。其なりにそふて。立おほふやうにあらんためなり。これは普通のうへ木なり。まづ四本は四季ともに用ゆ。位ある人の庭なり。

百廿九、かゝりにうゆる木の事

かゝりの木の事大かた定れり。こと木などうへまじき事なり。人により梅椿などうゆる事あり。梅四本は上位の庭なり。柿の木紅葉おもしろきとてうゆる事あり。つねにはうへべからず。又さくらをかゝりの木の余に。なみ木などにうゆる事有。くるしからず。

百三十、懸の木ずへをきるまじき事付枝すかす事

木をばそのまゝをくものなり。末をきるべからず。あまりにながきは切こともあり。木のえだをすかす事。大事のものなり。すかさぬ枝あるによりての事也。れうじにすべからず。

百卅一、かゝりの木枝のなの事

かゝりの木の枝の事。さいの下枝はいづかたへも向ふべきなり。但うしろのさいの下枝成をばいむなり。枝の末のあがりさがりはくるしからず。身木よりさし出たるを本とす。さいの下の枝といふは。下より第一の枝の事なり。又身木よりなりとも。又枝よりなりとも。さかさまに地へさし出たる枝をばいむなり。此えだの名はさか枝といふなり。但柳はくるしからず。九枝十二枝とて謂有り。口傳おゝし。よのつねの人のさかひの枝といふは。うしとらのかたの木の枝のひつじさるのかたへさし出たるを申なり。

百卅二、あみの仕やうの事

あみのめの事。四寸五分也。又四寸ともいふ。目はむすびたるよし。ひきよせてゆひたるはわろし。まりがきのあみの高さ。土より一丈六尺。のたけのぬきとをしのひろさ四寸也。

百卅三、あみはしらの立やうの事

あみぐしとはいふべからず。柱といふべし。立るほどらひ壹間計おきて立るものなり。

百卅四、切たての事

切たての事。竹を末をきるもの也。

百卅五、まり竿のこしらへやうの事

まりざほのこしらへ樣の事。尺八竹ほどなる竹を長さ壹丈五尺にきりて。上下にふしを置て。ふしより三分ばかりおきて切て。竹をあふなり。ふしに數はさだまらぬものなり。おきどころは座のうしろにおくべし。

百卅六、庭はく事

庭のはゞきめの事。色々さほう有りといへども。定まらぬものなり。其にわのなりにより。いかやうにもはくべし。くるしからず。

百卅七、庭に水打事

水をうつ事。春夏は水うちてはき。又けしやう水を打なり。秋冬はけしやう水をうたず。

百卅八、まりの場に立てものいふまじき事

まりの場に出ては。こひごゑの外。うむの事いわぬものなり。

百卅九、膝にてまりとむる事

まりをひざにてとむる事あり。其時ひざをもちあげてあつべからず。こしをすへてうくべし。されど下品の事なり。かなはぬときはけべし。つねにはすべからず。

百四十、肩をまはすまりの事

肩をまはすまりの事。すこしそりめにして。しなよくすべし。あまりすぐに立て。まりばかりをまはしたるはみにくきもの也。

百四十一、曲足の時も懸にそむくまじき事

曲足のときも。かゝりにそむかぬやうにすベし。歸りあし。むきなをりなども。かゝりのかたへむき候はんと心がけべし。

百四十二、まりをけはづしたる時の事

まりをけはづしたるときは。しなによりたをるべし。たおるればのがるゝ也。

百四十三、のべたるまり膝の上へ落たる時之事

遠まりをのベたるとき。わきへゆかで。ひざの上に落るときは。左のひざにてまりをそとはねこぼし。さて右にてけあぐべし。

百四十四、ひざつきてけはづしたる時之事

ひざつきてけはづしたるまり。わきへゆかぬときは。まりの上よりあしをこして。きびすにてけあぐべし。他流にては飛うちがへしのすくひといふ秘曲のうちなり。

百四十五、かたに付はづしたる時の事

かたにつけはづすまりのそばへ落るとき。きびすにてけあげて扨けべし。そばあしといふ曲のうちなり。

百四十六、まりをみうしなひたるときの事

烏帽子のともうしろなど。思の外にかゝりて。見うしなひたるまりける事。いかにもこゝろをしづめてまつた(べ歟)し。ものさはがしくゆきあふべからず。

百四十七、葛袴鴨沓之事

くづばかまはくずぬのにてつくれるものなり。鴨沓は水鳥のはし(ら歟)ににたれば名とし侍り。かたぎぬのつゆ。沓のつゝ皮などは。ふすベ皮は用ゐぬものなり。その外は色/\そのしなおゝし。まり足の上下にしたがひてさだむベき事なり。

百四十八、庭の地こしらへやうの事

庭の地こしらふ樣の事。五尺ばかりほりて。庭二尺ほどは土尾にてつき。水のぬくるやうにすべし。扨かゝりをうへ。なかほどにかめをうつぶせて。三ッばかりふすべし。沓をとひゞきて興あらんためなり。その上はこまかき砂にやま土を三ッがひとつほどまぜてつくべし。まはりにいかにも/\まろくにして。中は少高めにすべし。中ひきければ水たまりてあしく。其上中はすなゝがれてひきくなりやすきものあ(な歟)り。そのこゝろ得有べし。

百四十九、兩分の圖

人の分のまりをあやまりてける事未練の義なり。これをばい足といふ。おほよそ自他分のさかへをしらざるゆへなり。圖をもちてよく/\わきまふべし。もし我分を人にとられんとせば。かさねごひとて。我分のよし聲をかさねてこひもどすベし。なをももちひずば。ちからなくうばわれてのくベし。あひかまへて他の分をとる事不可有。
〔図:兩分之圖〕

百五十、八陳の圖

夫まりと云事。もろこし黃ていといひしみかどの蚩尤といふ逆臣をたくろくといふ所にて退治し給ひし後。武をならはしめんがため造れり。まりのかたちはしゆうがかうべにかたどれりと也。しかるゆへに魔障をはらい逆賊をしりぞけ。四海をたいらげ一天を治る器とし侍るとぞ。さればまりの庭に八人立ならぶ事も八陣の圖におこれり。八陣の圖といふは。むかし孔明といゝしかしこき人のつくれる軍法なり。
此八陣の圖はすなはち黄帝の臣下風后といゝし人。握機の法といふをつくれ(り歟)しにもとづきてはじめしと也。八陣の圖をみて。つめひらきをよく/\しるべきこと也。これ第一のかんようなり。
〔図:八陣之圖〕
〔図:握機之圖〕
〔図:八境之圖〕
〔図:對縮之圖〕
〔図:傍縮之圖〕

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