天正
天正(てんしょう)とは、日本の安土桃山時代の1番目の元号である。天正の年表天正期は、元亀4年7月28日(西暦1573年8月25日)から、天正20年12月8日(西暦1592年12月31日)まで。年西暦出...
幽霊に時代世話を分かちたるは鶉衣の作者の恐しき働きにして、怨霊に男女の情体を仕分けたるは、戸板返しの俳優が骨折り、ぞつとする仕打になん。そも狂文は、一幕の戯場に等しければ、狂歌また万物の鸚鵡石なるべきか。此の頃、小槌座の太夫元、題摺の役割を出して、百物語の続き狂言を興行するに、売出しの達者たち、兼題の役不足をいはず、出精の新詠に妙案の工夫を凝らすこと、梅幸いまだ巧みを尽さず、南北かつて筆を立てざるのところ、実に作者の苦心凄いものと謂ひつべし。されば、打ち出し満尾のシヤギリまで、人魂の呼ぶ糸引きも切らす仕掛け、焰硝の立ち消えせず、ドロドロの大入疑ひなしと、まづ蓋あけた初日から、先を見越の入道に代つて、其の為口上述ぶる者は、何廼舎のあるじ香以山人。
竜斎道人書く
玉櫛笥、箱根向ふより仕入れ持参し、お化の荷物、蓋あけわたる天道星、てんとう任せの並べ店、船幽霊の竹柄杓、お菊が数へる皿せばち、轆轤首の衣紋竹、文福茶釜の茶ほうじまで、天明風と文政風俗、何でもかでも読取り見取り、三十一字の点の安売り、もゝんぢゞいの評判/\。
化物乱題
001.手向とも なるらん閼伽の 水を汲む 柄杓を乞へる 船の幽霊(仙台松山 千澗亭)
002.君が代を 千代と鳴きつゝ 台盤の 飯を荒らすや 実方すずめ(仝)
003.髪切りし 誓ひ背きし 執ねきや 其の毛を見せて 仇をなすらん(仝)
004.さめざめと 泣く幽霊の 船停むる 鰐に呑まれし 人の魂かも(仝 錦著翁)
005.秘蔵する 玉の横坐を 照らしつゝ きやなぐさむる 狐火の影(仝)
常磐津小文字太夫撰
001.丑三ツの 牛はものかは 大象も つなぐ黒髪 振り乱しつゝ(桃江園金実)
002.耳の穴 ふたつ掘りけり 丑の時 人を呪へる 咄聞く夜は(松の門鶴子)
003.銜へたる 小櫛の棟の みだれ髪 丑の夜詣り 取り上げよ神(歌評子頓々)
004.稲荷山 丑三つ詣 呪へども きかぬ豆腐に 釘打つが如(守文亭)
005.鉄槌の 鋼鳴らして 打ちつけの 恨みも聞けよ 恋の錆釘(弥生庵)
006.願ひから 恨みの釘も 人形の 鼻吊り通す 丑の夜参り(小文字太夫)
化物乱題
001.水屑とも なる怨念や 西の海 いまも恨みを 差し挟む蟹(佳美園君)
002.一門の なれる果さへ 飯炊ぎ 身には味噌持つ 蟹ぞあやしき(京 楳廼門花兄)
003.旗色の 赤きをしのぶ 平家蟹 しろ泡ふきて など飯や炊く(遠江見附 草廼屋)
004.有りし世を 忍ぶなるらん 平家蟹 身には刃物を 離さゞりけり(讃岐黒渕 玉露園秋光)
005.紅の 簇の流れの 蟹なれば 運ぶ歩みも 平らなりけり(花都堂吉雄)
006.横道を さへぎるまでの 武士の 蟹となりたる 果の歩みも(南新堀 芝人)
007.呉竹の 大内山に 一念を 千代とも籠むる 実方雀(佳美園君)
008.闇の夜に 出づる産女は 暗きより 暗きに帰る 子ゆゑなりけり(岩和田 芦の屋押照)
009.一筋に 迷ふ子ゆゑの 闇の夜の 産女も鳥の 雉子にや似し(吉雄)
010.油皿 舐めんと分くる 燈心の 火口にぞ見る 猫またの尾も(京 牡丹園獅々丸)
011.二またの 道を見せつゝ 迷はせて 人を取りては 喰ふ山猫(花兄)
012.亡骸を 鳥辺の野辺の 山猫は 烟と消ゆる 術や得にけん(讃岐黒渕 秋光)
013.土産にも 石を枕に たてぬらん 一つ家の名は 今に朽ちせぬ(岩和田 押照)
014.錐たてる 明地だになき 大江戸に 三ツ目小僧の 出るぞ怪しき(京 日枝のや照信)
015.山際の 三ツ目小僧の 化生をも 剣振り立て いざ顕さん(仝 獅々丸)
016.化小僧 咄しする夜は 三ツ目きり もゝにさらすも 寐られざりけり(仝)
017.紅葉ばの 色にも出でて 稲荷山 猶青かりし 狐火のかど(遠江 草廼屋)
018.大津絵の 姿引きかへ 裏かへに 鬼見る人や 念仏申さん(京 花兄)
019.燈火に 替へん貧女が 黒髪を 暗紛れにも 切るが哀れさ(仝 獅々丸)
020.ぬばたまの 闇の夜に出て 垂乳根の 撫でし黒髪 切られたりけり(仝 照信)
021.青柳の 削る辺りに ぞつとして 首筋もとの 髪切られけり(仝 花兄)
022.我知らず 切らるゝ髪は 思はざる 今道心の 高野剃刀(岩和田 押照)
023.橋姫の 恨みかけたし 夫なるか 扇の芝に 燃ゆる鬼火は(佳美園君)
草加 四角園大人撰
001.雨の夜は いとゞ哀れも 子守唄 あの山越えて 里の乳貰ひ(枇杷のや夏繁)
002.乳貰ひの 春の雨夜の 物がたり 品定めして まひや贈らん(守文亭)
003.傘の 口をすぼめて 叩く戸も 明け近き比ぞ 辛き乳貰ひ(冨茂登)
004.人の乳を 乞ふ子は何の 尨犬は 雨の夜ごとも 親と臥せるを(水遊園)
005.晴れ曇る 夜半の時雨も 乳貰ひに 山路行きかふ 我が心かな(四角園)
001.天井の 廻り縁から 棹縁の 細くて長き ろくろ首かな(雲井園)
002.時雨にも さす傘の ろくろ首 夜半に枕の 山廻るらん(京 日吉のや照信)
003.お菊伝 よむ夜は立てし 膝の皿 抱きて数ふる 九ツの鐘(越前敦賀 玉珠園瑞雲)
004.科なくて 殺されにきと 皿の数 不足言ひにや 出づる古井戸(京 牡丹園獅々丸)
005.番町を 行来の人も 呼井戸の 底気味わるき 夜半の泣声(雲井園)
006.四ツの鐘 算へて迷ひ 出でにけり 五つの障り ありし女は(獅々丸)
007.失せたりし 一枚よりぞ 化物の 数に入りたる 皿屋敷かな(楳廼門花兄)
008.小夜ふけて 九つころの 皿屋敷 聞くにつけても 凄き古ごと(遠江見附 草廼屋)
009.幾千度 日々並べ数ふ 皿の数 足らぬを聞くが 哀れなりけり(常陸北浦 哥根人)
010.須磨の浦 すぎし昔を 偲ぶかな 浪のうねうね 寄る平家蟹(遠江見附 釈雲洞)
011.うしろ髪 引かるばかりぞ 大口の 真神が原を 吹き送る風(京 獅々丸)
012.日影にも 姿あらはす 雪女 見る人やなそ 肝を消すらん(仝 照信)
013.嘘でなき 証拠を見よと 長き舌 出だす娘も 人だますらん(獅々丸)
014.己が名の 天狗は人の 世の中と 思ひ疎みて 山に入るらん(遠江見附 草廼屋)
駿府 望月楼大人判
001.尋ね侘ぶ 親の心や 狂ふらん 蝶よ花よと 愛し迷ひ子(南寿園長年)
002.迷ひ子の 行衛もどこか 白波の 阿波の鳴門の 生みの二親(松梅亭槙住)
003.まよひ子の 泣きて涙の ほろゝ落つ 焼野の雉子 有るか尋ねん(守文亭)
004.鷹狩の 野辺も尋ねん 迷ひ子の 腰の守りの 鈴を導に(仝)
005.歌巻の よしあしさへも 尋ね得ず 墨引き果つる 筆の迷ひ子(駿府 望月楼)
001.病にて 月の障りも 無きになど 影の煩ひ 妹はなすらん(京 日吉廼や照信)
002.身一つに 猶去りがたき 病さへ 姿二つに なるぞわびしき(遠江見附 松風琴妻女)
003.辛嶋や 怪しき月の 影法師 七つの鐘の 音凄く聞く(京 獅々丸)
004.我が顔を 知らぬが仏 見て鬼と なるは恨みの 猶増鏡(遠江見附 艸の門真門)
005.絹川の 堤に生ふる 花あざみ 誰が鎌入れて 根をや刈りけん(京 牡丹園獅々丸)
006.樽きれし 桶狭間には そこはかと 残りて哀れ 奥津城の跡(遠江見附 艸の舎)
007.人魂の さ青なる火もや みどりなす 苔の下より 燃え出でにけり(京 獅々丸)
008.我が首を 返せと首の なき人の 声須磨の浦 軍せし跡(与洲谷上 衆妙門又玄)
009.泡とのみ 消えても炎 燃やすらん 水に湯気たつ 春の絹川(見附 琴妻女)
010.いにしへを 偲ぶ螢の 戦ひに 色も青野が 原の草むら(下総恩名 檜暁園明信)
011.花咲きし 人の果かも 骸骨の 上を粧ふ 野辺のあさ霜(京 照信)
012.鏡見て びつくりしたる 面影に さてや恨みを 重ねたりけん(見附 艸の舎)
013.遠近の 里見下して 国府台 むかしを偲ぶ 松風の声(仝 真門)
014.思ひきや 城傾けし 花の影 散りて野末の 骨となるとは(与洲谷上 又玄)
上総大堀 花月楼大人判
001.捨子にも 添へておきたし 行末を 守り刀の 鞘町の軒(和木亭仲好)
002.子に憂き目 水屋の門に 捨てゝ行く 胸に針刺す 思ひなりけり(語龍軒足兼)
003.やがて来る 因果は廻る 車坂 回らぬゆゑか 子を捨つる身は(語左館蔵人)
004.取り上ぐる 人の来るまで 捨てし子の 辺り離れず 居る親しばし(花前亭)
005.町に子を 捨て行く親の 心根は 何と譬へも なき別れかな(善事楼喜久也)
おなじ心を
006.雪の中 竹町河岸に 捨てられし 子は珍しき 親に孝行(上総大堀 花月楼)
東海園大人判
001.哥枕 鶉衣ぞ 露けしと 深草野辺に 臥す行脚僧(和風亭国吉)
002.背に霜の おける夢野の 草枕 哀れ雄鹿を 臥しながら聞く(花前亭)
003.旅行脚 野に臥す日数 廿日草 牡丹がけなる 脚絆にぞ知る(守文亭)
004.山に臥し また野にも臥す 雲水の 高低もある 旅の古笠(弥生庵)
005.兵の むかしを偲ぶ 夏草の 夢野に暮れて 宿る旅僧(東海園)
001.火柱は 焰硝臭し 古寺の 椽の下なる 貂の業かも(京 牡丹園獅々丸)
002.証文や 焼き捨てにけん 火の燃えて 黄金の玉の 迷ひ出づるは(仝)
003.生ひ立ちの 昔思へば 鎌いたち 古き暦も 役に立ちけり(月豊堂水穂)
004.軽々と 起きあがり小法師 疱瘡神 守れば何の 一物もなし(文章亭柴人)
005.金岡が 絵にあらなくに 巨勢の山 椿の霊や 夜ごと出づらん(仝 日吉農照信)
006.疱瘡も 額の富士は 避けてけり 軽く駿河の 山あげて見ゆ(水穂)
007.□の 渡し初めたる 板橋の 縁きり榎 いかで繁れり(照信)
008.軽かれと 祈る疱瘡の 神棚に 供へ物して 重く祭らん(仝)
009.勇ましく 山を上げたる 童も 疱瘡の神の 力なるらん(水穂)
010.実のなき 噂にまこと 無き妹が 誠と祈る 縁きり榎(越前敦賀 邦人)
011.板摺りの くゞつも榎 祈るらん 銭の切れ目を 縁の切れ目に(京 獅々丸)
012.赤紙の 幣もて祓ひ なだめけり 疱瘡神の 五月蠅なすとも(仝)
013.鵺を射し 其の賜物の 菖蒲より 引きわづらひし 弓弦ねらふに(仝 照信)
014.吹き消ちて のばせし金の 迷ひけん 箔にも厭ふ 風に灯は(獅々丸)
015.伊右衛門が 殺せし岩が 思ひをば 背から負ひしや 身も動かざる(越前敦賀 玄黄舎邦人)
016.物言はぬ 地蔵を恃む 己が口 言ひし悪事の 壁に耳あり(上毛板鼻 六源園寿々雄)
銭の屋大人判
001.子を持てる 犬や吼ゆらん 門の戸の 乳かな物を 剝がす盗人(弥生庵)
002.盗人も 足や竦まん 犬吼えて とりまかれたる 蔵の腰巻(木黄山人)
003.錣蔵 切る盗人を 見て吼ゆる 犬や兜の 面かぶりなる(東海園)
004.盗人の 忍ぶを宮の 狛犬が 抜け出て吼ゆる 甚五郎が作(銭の屋)
宝遊子主人判
001.早飛脚 いそぐや足を 空にして 走る夜中の 明星が茶屋(和風亭)
002.帷子の 紺地の闇の 夏飛脚 寐る間かすりて 急ぐ越後路(弥生庵)
003.けゝら鳴く 眠る比にも 早飛脚 横ほり臥さず 越ゆる中山(東海園)
004.蠟燭の 鑓場にしばし 挑灯の 小田原宿に 休む夜飛脚(語吉窓喜樽)
004.定飛脚 問屋に貫目 あらためず 足を秤に かける夜半かな(守文亭)
005.草も木も 眠る比なる 小夜中に 文の林の 動く早状(宝遊子)
001.榎にて 手は合はすれど 心には 背中合はせを 祈る縁切(仙台松山 千澗亭)
002.三味線の 皮にはならぬ 怪しさよ 其の名はてんと 音に通へど(仝)
003.影うつる 池の玉藻は 白鳥の 鳥羽をおそれて 飛び去りにけり(京 牡丹園獅々丸)
004.中悪き 猿の多かる 四国には 犬神遣ひ 住み憂かるらん(仝 日枝のや照信)
005.夕日影 匂ふ天守の 白壁は 小坂部姫の 化粧なるらん(仝 獅々丸)
006.御灯も 椹も絶えし 古寺に 狐火のみぞ さ青に燃えける(仝 照信)
007.星ならぶ 雲井に光 放つ身も 落ちて那須野の 石となりけり(大坂 雲井楼鶴文)
008.時雨には つれなき松の 齢もて など山姥の 山めぐりする(京 照信)
009.うつくしき 玉藻の前は 雲の上に 光を放つ 眉墨の星(鎌倉雪の下 皆元廼寄友)
010.女夫中 縁切り榎 花咲かで いかで多くの 実は結ぶらし(仙台松山 千澗亭)
011.魂は 五分とは愚か 五尺ある 身もちゞまする 一寸法師(仝)
012.人住まで 幽霊のみの 行き交ひに 足跡つかる 雪の降る寺(仝)
013.模様なる 尾花に風も 吹かなくに 招く手を出す 小袖あやしも(大坂 鶴文)
014.鐘の音の ぼんと響きて さやけさに 月澄む秋の 石山の寺(鎌倉雪の下 寄友)
015.若草を 模様に縫ひし 小袖より 出だす手青き 早蕨の色(京 照信)
016.愛宕山 天狗笑ひの からからと 木の葉吹き散る 風はすさまじ(仙台松山 千澗亭)
017.土蜘の 千筋の糸は 末つひに 己が身責むる 縄となるらん(仝)
018.汝が名の 岩をも返す 執ねきや 雨の四谷に 消えぬ鬼火は(仝)
五葉園松蔭判
001.おどろ髪 乱れし旅の 親子連れ 苅萱堂に 明かす秋の夜(宝市亭)
002.善光寺 弥陀は弘誓の 舟後光 閼伽を汲みつゝ 通夜籠りせり(守文亭)
003.善光寺 夜籠りすれば 蓮葉の 露と消えにし 人に逢ひけり(花前亭)
004.善光寺 後の世たのむ 夜籠りは 弥陀の弘誓の 舟の乗り込み(宝遊子升友)
005.善光寺 夜籠る人の 浪間にて 渡す弘誓の 舟後光かな(花前亭)
006.法の声 善光寺に 籠る夜は 誓ひの舟に 乗る心地せり(松蔭)
語志庵跡頼判
001.安土から 掘り返したる 蘇鉄こそ 深き恨みの 根とはなりけり(吉野庵山住)
002.妙法の 寺の坊主も 八の巻 蘇鉄やらんと 怒る宗論(花前亭)
003.化物と 釘を刺されて 妙国寺 帰りて蘇鉄 肥やすなりけり(大内亭参台)
004.年積みし まで育みし 妙国寺 蘇鉄によほど 金を入れけれ(陽月舎網成)
005.蘇鉄葉の 怪の夢をや 三度見て ふたゝびひらく 妙国寺領(宝遊子升友)
006.ひかれたる 蘇鉄の魂は 題目の 髭法師出て 君を恨むる(跡頼)
001.大社 百度参りも 行合の 片削の間に 縁や結ばん(宝市亭)
002.水性と 木性の縁は 大社 結ぶ葉守や 綿津見の神(檜園)
003.出雲にて 家の子飼の 白鼠 娘の縁を 結ぶ大黒(花前亭)
004.よき縁に 猶輪をかけて 大社 外し給はぬ 多賀の明神(宝市亭)
005.出雲にて 鹿嶋の神は えにしをも 固く結びて おく常陸帯(花前亭)
006.いとこ同志 縁を結びし 大社 味をやられし 賀茂の明神(陽月舎網成)
001.大原女が 雑喉寐する夜は 妻定め 爪木を軒の 錦木にして(宝市亭)
002.ざこねする 夜の白みなば 帰るらん 妻木にあけび 添へし大原女(弥生庵)
003.恋られて ざこねする夜は 炭竈の すみつく袖も 敷くか大原女(宝遊子升友)
004.大原や 瀧の清水 おぼろげに 妻定むらん ざこねする夜は(宝市亭)
005.大原女は ざこねする夜の 仮枕 交はさんせとて 出だす横槌(和木亭仲好)
006.清和井なき 此の大原の 里人も 鶏の鳴くまで ざこねをやせん(牡丹園獅々丸)
百物語り八の巻まで全く揃ひしよろこばしさに
007.大鵬の 八の巻にて 化物も みなこの海の 果てとなりけり(天明老人)
ぬば玉の闇に百怪を語れば、その験有りとかや。爰に蜀山の門より出たる尽語老人、大入道と化して、そこに顕れ、何の集会にも洩るゝことあらざりけり。然るに文政の頃、箱根向うより野天化物来り八街に跨り、良もすれば高かりけん、□□□と叫ぶ其の声、□窩に等しく聞きわけ難きに似たり。是が為に滑稽暫く怠りたるを、飛騨の内匠工みをまうけ、天明の古つゞらを開き、題号となし、真生戯咲歌の集会を催せる、すみか営みしも、かのけものの八畳敷にたらぬ洞穴、あなをかし、あな面白と、恐い物見たしにはあらで、入道どもと力を合せ、終日夜すがら披口の声囂しく賑はふに、化物屋鋪の□□ばかり。されど狂哥の躰、復古一変せしのみならず、八編迄の連続、大切とやいはん、大鵬とやいはむ。天明老人ひとつ穴のむじな、狸の毛を持ちて誌す。
嘉永六とせの冬
武蔵野の奥草加の里に隠れ住む四角園草翁
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