狂歌百物語（古戦場）

古戦場

001．いにしへを 偲ぶや閼伽あかの 桶狭間 手向けの水は 絶えぬ奥津城おくつき（江戸崎 緑樹園）
002．塗る壁の 小手指原こてさしはらに 人ごころ 荒すさみ荒まず 陣とりし跡（幸有門）
003．筆の跡 嗚呼ああ忠臣を 湊川 流れての世も 朽ちぬ石文いしぶみ（上総大堀 花月楼）
004．風そよぐ 粟津が原の 草枕 散れる松葉は 襟に流れ矢（周防 蒸露園）
005．武士もののふの 小手に霰の 降る事を 聞いても寒き 那須の篠原（足兼）
006．偲ぶかな 矢嶋の浦に よせて来る 浪の鼓つづみに はたそふと蟹（語勇軒珍調）
007．いにしへを しのびの緒かけし 轡くつわてふ 虫の音ね須磨に 寄する浦浪（栃木 通児楼諭）
008．魚鱗ぎよりんにも 備へを立てし 其の跡や 血生臭くも 風の吹くらん（八王子 檜旭園）
009．秋草の 花に七つの 影を見つ 滅ぶ相馬の 新内裏跡（仙台松山 千澗亭）
010．湊川 石になるてふ 楠が 朽ちたる名こそ 世に流れけり（草加 四豊園稲丸）
011．功しの 名をば残せし 湊川 流れての世も 薫る菊水（泰山堂静居）
012．いにしへの 鑓長刀やりなぎなたを 掘り出して 手どりぶんどり 戦ひし跡（伊勢大淀浦 春の門松也）
013．夕立の 雨の矢さけび 雲の楯 音高松の 松の夜あらし（鶴子）
014．湖を よくも越えしと 礑はたと手を 打出の浜の 昔偲びて（槙住）
015．ばらばらに 崩れしと聞く 桶狭間 誰たが手弛ゆるみて かくなりし跡（仝）
016．水鳥も 川中嶋に 廻れるは 車がかりの 昔偲びつ（甘喜）
017．崩れしを 誰たが笑ふべき おつぱめて 尻から打ちし 桶狭間そも（館林 美通歌垣）
018．いにしへの 釣のかけ場の 風あれて 白泡見する 宇治の川岸（宝珠亭舟唄）
019．須磨の浦 むかしを偲ぶ 一の谷 坂落しにぞ おとす鵯ひよどり（石公舎古龍）
020．雨の夜は 轡の音も 鳴海潟なるみがた むかしを偲ぶ 今川の墓（玉よし）
021．関が原 かゝる野分のわきの 激しさに 行く手の真葛 裏返りけり（下毛戸奈良 行潦亭水彦）
022．草枕 底気味悪き 桶狭間 二夜ふたよとは寐る 者はあらじな（家内喜）
023．謀られて 謀りしことも 水責めや 兵粮責めに 遇ひし城跡（青梅 槙住園千本）
024．兼平の 昔を偲ぶ くはへたる けんと鳴くなり 粟津の雉子きぎす（仙台松山 錦著翁）
025．戦ひの 昔を偲ぶ 桶狭間 誰が刀かは 土に埋れて（駿府 望月楼）
026．宇治川に 人の頭を 飛び越えて 修羅の火燃ゆる 螢合戦（海樹園）
027．赤白の 砂もわかれて 治まりし 御代は盆絵と 見る壇ノ浦（団子）
028．ほころびし 昔をしのぶ 衣川 野風に原を 乱す穂薄（頓々）
029．白旗に 亡びし須磨の 恨みかも 立ち登る火の 赤く見ゆるは（下毛葉鹿 花好）

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