狂歌百物語（累）

累

001．俤の 変はりて妻は 秋草を 刈りにし鎌も 仇となりけり（仙台松山 千澗亭）
002．恨みしと 百万遍も 手を合せ くどく累は 礼も言ひけん（東風の屋）
003．絹川に 沈む累は 浮かばんと さてこそ人に 取り憑きにけり（南寿園長年）
004．三日月の 鎌に柳の みだれ髪 水影凄く うつる絹川（萬町庵柏木）
005．うぬぼれの 鏡も見せず かゞみとも なるは累の 嫉妬なりけり（駿府 望月楼）
006．祐天の 功力くりきの数珠に 取り付きて 累も浮かび 上がる鬼怒川（花前亭）
007．振りみだす 岸の柳の みだれ髪 蛇籠に光る 夕月の鎌（素蝶）
008．打掛うちかけの 紅葉を肌に 重ね着の 千入ちしほに染みて 出づる絹川（宝市亭）
009．ほつと吐つく 累が息に 鏡をば 見ねど心は 曇りがちなり（静川亭雪橋）
010．念仏に 浮かむ瀬もある 絹川に 重ねて出ぬは 祐天の徳（玉よし）
011．愁念の 恨みも深き 鬼怒川に 浮かむ瀬もなく 迷ふ霊かも（匂々堂梅袖）
012．鏡見て 驚く顔と もろともに 変はる累の 心おそろし（秩父 千澄庵小松）
013．恨みをも 重箪笥かさねだんすの 袖扉 あはれ引き出す 紅くれなゐのきぬ（花前亭）
014．今ぞ知る 小夜の衣の 重ね褄 埴生はにふの村に 追はぬ絹川（館林 美通歌垣）
015．鬼怒川に 累が燃やす 炎さへ 示したまひし 上人の徳（青梅 六柿園衛門）
016．絹川に 深き妬みや 濡衣を 夫つまに累の 着するうたてさ（春日亭永居）
017．みにくくぞ なりて累の 恨みけり 水鏡にも 映る絹川（花前亭）
018．恨むらん 妻を重ねの 絹川か 其の身の淵瀬 変る相好さうがう（語住門広記）

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